笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
前回からまたお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!ありがとうございます!新年度も始まりましたし、もっと頑張ります!
今回は少し短めです。なぜなら私も今年度から社会人だからです!新生活なんです!忙しいんです!!そして書きだめも無くなったんです!!!
でもむしろ大学生活より時間あるので普通に毎週いけると思います。令和に変わってからも、よろしくお願いします。まだですけど。
というわけで、どうぞご覧ください。
新年早々の練習だよ。
まあ三が日くらいは休んだけどね。僕は沢山寝ようとしてたよ。寝ようとしてたのにそういう時に限って筆が捗るんだよ。30枚くらい油画書いたよ。今日うちに迎えにきたにこちゃんがむせてた。油画の絵の具って独特の匂いするからね。ごめんね。
まあそんなわけでストレッチ中。
「自由?選曲も?」
「はい。歌だけじゃありません。衣装も曲も踊りの長さも基本的に自由です」
「流石にあんまり極端なのはダメだろうがな」
何の話かって、ラブライブ決勝のお話。最後は何でもアリらしい。まあ、変に制限つけちゃうと本気出せなくなるかもしれないもんね。
「とにかく全代表が歌いきって…」
「会場とネット投票で優勝を決める、実にシンプルな方法です」
「いいんじゃないの?わかりやすくて」
「それで、出場グループのあいだではいかに大会までに印象付けておけるかが重要だと言われてるらしくて」
「印象付ける?」
「全部で50近くのグループが一曲ずつ歌うのよ?当然見ている人が全ての曲を覚えているとは限らない」
「特に問題なのはネット投票の方だ。全部を見る必要がないから、お目当てのスクールアイドルのライブ以外は見ないという人も多いだろう。紅白みたいなもんだ」
「A-RISEに勝ったからって、ライブまで見てくれるとは限らないもんね。他のグループは何かしら行動してくるだろうし、僕らも無言でいる場合じゃないよ」
内容自体は至極シンプルだけど、その本質はそうでもない。会場投票はともかく、ネット投票では「ネットでライブを見たくなる」ように誘導しなきゃいけない。
見えない誰かを誘導するのは難しいんだよなぁ。天童さんなら余裕なんだろうけど、僕にはそんな超能力は無い。プロフィール画面を華やかにするくらいだ。
「でも、事前に印象付けておく方法なんてあるの?」
「はい、それで大切だと言われているのが…」
「…キャッチフレーズだ」
「キャッチフレーズ?」
ライブやるとかではないんだね。まあこのタイミングでライブとか正気ではないしね。本番の曲に全霊を傾ける場面だし。
しかし、キャッチフレーズかあ。
キャッチフレーズの文字をデザインするなら得意なんだけどね。
内容考えるのはぶっちゃけ苦手なんだよなぁ。絵描いてる時は思いつくのに。
というわけでレッツゴートゥー部室。正確には部室に置いてあるパソコンの前。
「出場チームはこのチーム紹介ページにキャッチフレーズをつけられるんです」
「恋の小悪魔、はんなりアイドル、With 優…。なるほど、色々あるもんだな」
「当然、うちらもつけといた方がええってことやね」
「はい。私たちμ'sを一言で表すような…」
「しかし文字がかっこよくないなあ」
「そこに文句言うの茜くらいよ」
名は体を表す的なフレーズもあれば、色々狙いすぎて何言ってんだかわかんなくなってるのもある。よく思いつくもんだね。でも字がダサい。全員固定フォントみたいだから仕方ないけど。
「μ'sを一言でかあ…」
「うーん…」
「9人組…」
「創一郎はちょっと黙ってて」
「違う、11人組か」
「ちょっと黙ってて」
まあ字体に文句言っても仕方ないので考えるけど、流石にそんなポンと出てくるもんじゃないね。あと創一郎はね、あれだよ、センスに期待できないから。
そして案の定期待できないキャッチフレーズを捻り出した創一郎。黙っててって言ったらしゅんとしちゃった。豆腐メンタルめ。
「ちょっとー!茜くん!創ちゃんが凹んじゃったにゃ!!」
「そう言われましても」
「…ハッ!ナインライブズはどうだ?!」
「まさかの射殺す百頭」
このリアルバーサーカーめ。
「文句言うならお前が案出せよ」
「そうにゃそうにゃ!」
「何で君ら結託してんの」
「やめときなさい。茜のネーミングセンスって、悪いとは言わないけどなんか大袈裟だから」
「ひどい言われよう」
「事実じゃないの。あんたの絵の題名カッコつけすぎなのよ」
「そうかなぁ」
そんなつもりは無いんだけど。ただの絵の印象だもの。
「じゃあ何かキャッチフレーズ考えてみなさいよ」
「うーん、そう言われても…ぬぬぬ、『イレブンナイン』とか…」
「何よそれ」
「半導体かよ」
「創ちゃんといい勝負にゃ」
「…………今のといい勝負なのか…」
「流石に今のは冗談だよ」
「冗談といい勝負なのか…」
「わぁめんどくさ」
凹みすぎでしょ。いい加減豆腐メンタル治しなさいよ。
「真面目に考えるとしたら『九重の神唱舞踏』とか」
「やっぱり大仰じゃないの」
「うそん」
「中二かよ」
「創一郎黙って」
創一郎よりはマシでしょ。ダサくはないでしょ。
結局、誰からもいい案は出なくてこのまま今日は解散になった。かっこいいと思ったのになあ、九重の神唱舞踏。「舞踏」より「舞踊」の方がよかったかな?
というわけで、今日は自宅に向かってる。毎日にこちゃんの家に行ってるわけじゃないからね。お仕事もしなきゃいけないし。
今度の個展にはどれを出すか考えておかなきゃなーって思ってるときだった。
「…お久しぶりかな?白鳥君」
「ああ。まあそこまで久しぶりでもないけどな」
僕の行く先に、白鳥渡君がいた。A-RISEのマネージャーさん。なんか用かな。浮かない顔してるけどどうしたのかな。
「…少しだけ話がしたい。いいか?」
「いいよー」
「即答かよ…むしろちょっとくらい悩もうぜ」
「どうせ暇だからね。うち来る?」
「数回しか会ってない人を自宅に上げるとか正気か…?ってかもう夜だぞ、ご家族に迷惑じゃないのかよ」
「僕にはご家族はいないから大丈夫だよ」
「素のテンションで言うことじゃ無かったぞ今の」
どうやらお話があるらしい。いいよ。気になるし。でも寒いし家の中でね。何なら一枚くらい絵持ってってもいいよ。いっぱいあるし。
少し歩いて自宅に案内する。あーしまった、そういえば調子に乗って油画描きまくった後だった。これは油画初心者にはよろしくない。
「お、お邪魔しまー…っ、うぇっ!な、何だこの…何だ?!」
「油画の匂いだよ」
「あ、油画?!なるほど揮発性の油の匂いか!いや臭いとは言わないがキツイな?!」
「おや、臭いって言わないの?珍しい」
「えっ臭いのが正解なのか?!」
「だってよく言われるから…」
「切ないな!それでいいのか君!!」
家に入った瞬間からしかめっ面をされた。まあそうなるよね。慣れないとね、この匂いはね。ごめんね。
「まあ匂い自体は我慢するにしても、この匂いの中で料理する気が全く起きないな…香りが移りそうだ」
「死にはしないから大丈夫だよ」
「大丈夫の判定が緩すぎねえか?」
僕は毎日ここでご飯食べてるんだから大丈夫だよ。いやたまににこちゃん家で食べるか。まあでもたまにだし。2日に1回くらいの頻度だし。
「まあいいじゃんそんなこと。それより何の用だっけ。要件の前にご飯食べる?」
「今俺料理する気にならないって言いませんでしたっけ?」
「僕が作るからいいじゃん」
「料理に臭いが移りそうって言ってんだからだれが作るとかの問題じゃないんだよ!」
「とりあえずカレーでいい?」
「話を聞けッ!!!」
やっばい白鳥君イジりとても楽しい。
まあそれだけじゃなくて、ちゃんと元気になったみたいだし結果オーライだ。そう、まさに予想通り、狙い通り。狙ってやったんだよ。面白いからイジってたんじゃないよ。ほんとだよ?ごめん嘘面白かっただけ。
「まあ冗談は置いといて」
「本当に冗談だったか??」
「何で僕こんなに信用無いのかな」
「君は自分の行動を省みるとかしないのか…?」
なんか前に絵里ちゃんにも似たようなリアクションされた気がする。
「で、要件はなんなのかな」
「散々好き勝手言っておいてすんなり本題に入るのかよ」
「いいじゃん。さあ本題プリーズ」
「はぁ…」
あれっまた元気無くなっちゃった。
「A-RISE…ツバサたちはさ。ラブライブっていう目標を失ってもまだスクールアイドルを続けている。やっぱり好きなんだろうな。あいつらも俺ももうすぐ卒業だけど、それまで精一杯やりきろうって決めたんだ」
「それはよかった。僕らは優勝するぞってのに、君らが意気消沈してたら創一郎あたりがキレそうだし」
「キレるの君じゃないんかい」
「僕は温厚だから」
「温厚っつーか…掴み所がないの間違いじゃ…」
失礼な。天童さんみたいに言わないでよ。
「…まあ、それはいいんだけどさ」
「うん」
「…俺たち、何で負けたんだろうってさ。どうしても、引っかかるんだ」
ちょっと沈黙した。
何を言おうか迷ったから、絵筆とパレットナイフを持って白紙のキャンバスの前に立った。
「…僕らはね。楽しかったんだ」
「…何の話だよ」
「スクールアイドル。ただ楽しかっただけなんだ。やりたかっただけなんだ」
床に置いてあったパレットを拾って、一気にキャンバスに色を重ねていく。僕と創一郎を含めたμ'sのみんなを中心に、たくさんの観客を描いていく。
「楽しかった。本当に。こんなに楽しいんだから、みんなに知って欲しかった。最初は廃校を防ぐために始めたくせに、自分たちが楽しくて仕方なかったから、みんなに楽しいって思ってほしくて仕方なかったから、こんな大舞台まで来ちゃった」
キャンバスを埋め尽くすほど観客を描いてから、絵筆は放り投げた。そして次はドライヤーで無理やり乾かして油絵の具を乾かしていく。
「そして思い出が欲しかった。勝っても負けてもいい、大事な人の心に残るライブがしたかった。楽しい思い出を残したかった。出来るだけみんなの記憶に焼き付けたかった」
油画特有のにおいが広がったけど、おかげで絵の具は乾いた。
「
絵を描くと、僕は心が整理できる。
「自分だけじゃできないことも知っていた」
僕もみんなもキャッチフレーズに困ってたみたいだけど。
こうして絵を描くと、インスピレーションは無限に湧いてくる。
「きっと
「…何だよそれ。結局なんで俺たちは負けたんだ」
「A-RISEって、すごく勝利にこだわってたよね」
「そりゃな。前回もそうだったし、むしろ前回王者ってことでさらに気合い入ってたな」
白鳥君は「何言ってんだこいつ」って顔してる。失礼な。芸術センスを鍛えなさい。
「勝つって大変だよ。他の全てを乗り越えなきゃいけない」
「ああ、大変だった。ダンスも歌も、どこよりも誰よりも必死に全力で練習した。…勝てなかったけどな」
「うん、経験や練習量で言ったら、きっと僕らは叶わない。だってそもそもA-RISEは歴史がμ'sより長いもんね」
そう。経年の功は馬鹿にできない。A-RISEはメンバーが一年生の時からやっていたはずだから、単純にμ'sより歴史が2年長い。2年の経歴を埋めるのは並大抵のことじゃなくて、どれだけ効率よく練習してもひっくり返せはしなかったと思う。
なら、何故勝てたのか。
「やっぱり、誰かのためにって、強いんだ」
「…」
「これがμ'sの絵」
「…この短時間で気持ち悪いクオリティの絵を描けることにはツッコまないでおく」
「そうして。まあ、正確にはμ'sが見えている世界の絵、かな」
「まあそんな感じかもな」
僕は右手に持ったパレットナイフを構えた。
油画に詳しくない人にはパレットナイフの用途ってわかんないよね。
これ、塗って乾いた絵の具を削ぎ落とす道具なんだ。
「そして、A-RISEは…こうだったんじゃないかな?」
パレットナイフを振り抜く。
何度もキャンバスの表面を削り、観客を消していく。
「勝つっていうのは、きっとこういう景色を見ることなんだ」
「………………」
「これで、観客を魅了できたと本当に思う?」
ちょっと絵の具を足して、μ'sをA-RISEに変える。キャンバスに残ったのは、A-RISEの3人と、削られた跡が残る白いキャンバスだけだった。
「見えてた?」
「…何がだよ」
「共感する観客が。感動する聴衆が。
「…ふん」
白鳥君は目を伏せて鼻で笑ってきた。鼻で笑うのはまっきーみたいで良くないよ。腹立ちぬ。
「見えるわけないだろ…。そんなこと、求めてなかったんだから」
「…」
「負けたくなかった。勝ちたかった。それしかなかった…。そう、そうだよな。
白鳥君の声はちょっと震えていたけど、なんだか納得したような言い方だった。よかった、反論されたら困るところだった。
「3年目にして忘れてしまったな…。聴いてくれる人がいたからここまで来れたのに」
「いいんじゃない、卒業する前に取り戻せたんだし」
「いいものかよ。もう終わっちまう」
「え、終わるの?」
「はあ?卒業するんだぞ俺たち」
なんかエンディングみたいな口ぶりしてる。
「え?
「………………………………………………………………………………」
「どうしたの」
「そ、その手があった!!!!!」
「えっ思いつかなかった感じ?」
「やっぱり君に聞いて正解だった!!すまん、今すぐ考えをまとめたいから帰る!!聞いてくれてありがとう、じゃっ!!」
「えっちょ」
雷でも食らったみたいな顔して稲妻みたいなスピードで出てった。何なのさ。ご飯も作ってくれなかったし。しょぼんぬ。今度奢ってもらおう。
まあでも、いいキャッチフレーズも思いついたし、白鳥君も元気になったし、よかったよかった。
と思ってたらメールが来た。穂乃果ちゃんからだ。嫌な予感しかしない。
『明日、お昼に私の家に来て!お餅つきするから!!』
だからさ。
僕に肉体労働させるなってば。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
白鳥君が名案を閃いた模様です。頑張れ白鳥さん。松下さんとか藤牧君より出番多そうな白鳥さん。
何気に波浜君が「μ's」を「ぼくら」と呼ばせたのが気に入ってます。