笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
前回からまたお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!もう沢山の方々お気に入りしてくださって、そろそろ寿命がオーバーフローして逆に死ぬかもしれません…ええ、そうです!最近言ってませんでしたが!!毎回嬉しくて寿命が延びる想いです!!!(うるさい)
さて、アニメ二期も終盤です。色んな最後を噛み締めて行きましょう!!
というわけで、どうぞご覧ください。
また長いです。
ラブライブ本戦直前のこと。
にこちゃんは部室でご満悦だった。
「ふふーん!!」
「流石にこちゃん」
「にこちゃんすごいにゃー!」
「当たり前でしょ!私を誰だと思ってるの?大銀河宇宙ナンバーワンアイドル…にこにーにこちゃんよ!!」
「どんどんスケールが大きくなってるよにこちゃん」
「…はぁっ、緊張した…」
そもそも何の話かってね。
ラブライブ本戦のくじ引きがあったんだよ。そこでにこちゃんの出番。いつぞやの講堂使用権を外した腹いせとばかりににこちゃんはトリをひっつかんできたのだった。まさかにこちゃんに天運が巡ってくるなんて。
てかいつの間にか宇宙ナンバーワンアイドルから大銀河宇宙ナンバーワンアイドルまで格上げされてる。
「でも一番最後…それはそれでプレッシャーね」
「そこは開き直るしかないでしょ」
「でも私はこれでよかったと思う!念願のラブライブに出場できて、しかもその最後に歌えるんだよ!!」
「そうやね。そのパワーをμ'sが持ってたんやと思うよ」
「それにトリは一番映える場面で、何より最後まで楽しめる。俺たちにはぴったりだろ」
「豆腐メンタルが何言ってんだか。出番まで心臓保たなくて倒れましたとかやめてよ?」
「茜てめぇ最近俺をバカにしてないか」
「前からバカにしてるのに気付きなよ豆腐メンタル」
「豆腐メンタル…」
「そういうとこだよ」
この短時間で心折れないでよ。
「ちょっと!引いたのは私なんだけど!」
「はいはいそうね」
「偉いにゃ偉いにゃ」
「雑っ!」
「にこちゃん頑張ったね」
「…この流れで普通に褒められても…」
「照れちゃう?」
「照れない!!」
「はぶっ」
にこちゃんがふてくされてた(&流された)ので褒めてあげたら蹴りが飛んできた。何でさ。
「ほら茜、変なことしてないで。みんな練習行くわよ」
「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」
「えっ今の僕が悪いの」
「お前が余計なこと言うからだろ」
「n理ある」
「何だn理あるって」
「『一理ある』の進化系」
「意味がわからん」
言わない?n理あるって。言わないか。
「…でもやっぱ、にこちゃん頑張ってくれたよね」
「…ああ。あの会場であのプレッシャーの中くじを引くってだけで相当な重圧だしな」
「うんまあそれもあるけど」
「あ?」
まあ確かにくじ引きも頑張ってくれたよ?いつもの不運を跳ね返してくれたし。
でもそうじゃなくてね。
「ここまで諦めずに頑張ってくれたなぁって」
一年生から始めて、ほとんど潰れかけた夢を諦めなかったからこそ今がある。
本当によく頑張ったよ、にこちゃん。
「後で本人に言ってやれ」
「本人に言うのは全部終わってからだよ」
まだ終わってない、むしろ本番はこれから。始まってすらいない。
だから僕らも、気を抜かないでサポートしなきゃね。
「1,2,3,4,1,2,3,4…じゃじゃーん!」
「おー、みんなのダンスも凛ちゃんの先導もほんとに良くなったね」
「えへへー」
というわけでいつもの屋上。実はこれが最後の練習なんだけど、後輩組は気づいてなさそうだから言わないでおこう。またセンチメンタルが止まらなくなるし。ロマンチックではなく。
「よし、一旦休憩だ。水分補給してろ。あと最近暖かいし、できるだけ日陰にいること」
「創一郎のスケジュール管理も上手くなったね」
「運動の一環と思えば容易いな」
「さすが筋肉お化け」
「せめて筋肉兵器と言え」
「むしろ君はそれでいいのか」
ついでに、僕がやっていたスケジュール管理や予算管理なんかも創一郎にやらせるようにしていた。僕が卒業した後のための準備としてね。振り付けを考えるのはやらせないけど。彼のセンスには任せられない。
まあとにかく休憩なのでにこちゃんのところに行こう。
「ほら角度が甘いわよ!にっこにっこにー!」
「「にっこにっこにー」」
「一応聞くけど何してんの」
「茜のくせに見てわかんないの?にっこにっこにーを伝授してんのよ」
「そこを聞きたいんじゃないんだよ」
なぜか三年生みんなでにっこにっこにーしてた。いやいいんだよそれは。可愛いから。そうじゃなくて何故今。
「もう教える機会も無くなるじゃない。今のうちにね」
「あー、やっぱり君らはわかってたか」
「もちろん。卒業する身だもの」
「だから最後ににっこにっこにーを覚えておきたいなーってにこっちに言ってたんよ」
「君らが言い出したんかい」
てっきりにこちゃんが押し付けたのかと。
「ま、私たちは随分吹っ切れたけど…あの子たちはそうでもなさそうだから、言わないけどね」
「うん、そうだね。それがいいと思う」
周りを見渡すと、ぎゅーぎゅーハグしてる後輩達がいた。楽しそうでなによりだ。一年生組は創一郎を巻き込んで(物理的に)振り回されてるけど。怪我させないでよ?
「まあ吹っ切れたといいつつみんながセンチメンタルしたらぶり返すんだろうけどね」
「そんなことないわよ!!」
「ぶぎゃ」
「いつも思ってたけど、茜それだけ殴られてよく無事よね…」
「何でだろうね」
「ピンピンしてるやん」
絶対ぶり返すでしょ。殴らないの。
あとにこちゃんパンチは10年くらい食らってるからそりゃ慣れるよ。
「オラァてめぇら練習始めんぞちくしょうがあああああ!!!」
「なんか創一郎が暴徒化してる」
「暴徒どころか怪物よあんなの」
「顔真っ赤やしね」
「ハラショー…」
そして創一郎の恥ずかしさが限界に達したらしい。随分女の子に慣れたと思ってたけど、ダメなものはダメか。
「あーあ、もう練習終わりかぁ」
「本番に疲れを残すわけにはいかないしね」
「そうだよね」
「じゃあ明日、みんな時間間違えないようにね。各自、朝連絡を取り合いましょう」
「はい。穂乃果のところには私が連絡しますね」
「遅刻なんてしないよ!」
「じゃあ僕はにこちゃん」
「私も遅刻しないわよ!」
「ふぐっ。じゃあ連絡しなくていいの」
「しなさいよ!!」
「理不尽っ」
練習も終わって帰り道、昇降口を出たところで念のための朝連絡をすることを決めた。それにしてもにこちゃん、僕はどうすりゃいいの。
「つーかグループラインでどうにかならねえのか?起床報告するみてぇにさ」
「バカね、穂乃果とか凛はそんなんじゃ起きないわよ」
「「起きるよ!!」」
「何故だか説得力が無いんだよね」
「なんでー?!」
「そんなに寝坊してないにゃ!」
「『そんなに』って時点で主張の強さが微妙なんだよ」
ラインの通知程度で起きないでしょ。絶対ぐっすり寝てて気づかない。
そんな話をしながら、信号を渡ろうとした時だった。
「あっ…」
「どうしたの?」
花陽ちゃんが、足を止めた。
「………もしかして、みんなで練習するのってこれが最後なんじゃ…」
ああ、気付いたか。
「…そうやね」
「って気付いてたのに言わなかったんでしょ、絵里は」
「っていうか僕ら三年生はみんな気付いてたけどね。でも言ったら寂しくなっちゃうし」
「そっか、ごめんなさい…」
「ううん、私もちょっとは考えちゃってたから」
「そもそも言っちゃったものは仕方ないね」
案の定ちょっと寂しい感じの空気になった。みんなで振り向いて、音ノ木坂の校舎を見る。
僕らがお世話になった校舎。夕陽に照らされると結構綺麗なんだなって、今初めて思った。
「ダメよ。ラブライブに集中」
「にこちゃん」
「…わかってるわ」
「じゃあ、行くわよ」
にこちゃんだけはちゃんと前を向いていた。やっぱりにこちゃん覚悟が違う。
にこちゃんと僕は歩き始めたけど、振り向いたら他のみんなはその場にストップしていた。
「…何いつまでも立ち止まってるのよ」
「………にこちゃん」
にこちゃんも呆れた顔で振り向いていた。まあ大体わかる。にこちゃんもみんなと別れたくないんだろう。そうでもなければ振り向かないタイプだし。
だから。
「そう簡単に『最後』を吹っ切れるもんじゃないよ。にこちゃんはずっとやってきたから我慢できるかもしれないけど、みんなはそうじゃない」
「…」
僕はにこちゃんの強がりを解いてみせよう。ずっとスクールアイドルになるって夢を押さえつけてきたにこちゃんは、後ろめたいことに背を向けて進むことには慣れているからね。大体の人はそこまでメンタル強くない。
「だからさ。ちょっと寄り道しようか、みんなで」
「…どこ行くのよ」
「みんな大好きなお世話になった場所だよ」
というわけで、もう少しみんなでいようか。
「神田明神にはご挨拶に行かなきゃね」
「これでもうやり残したことはないわね」
「まあ本来はこれもやり残したわけじゃないんだけどね」
「余計なこと言うんじゃないわよ」
「……………あれっパンチが飛んでこない」
「何よ殴られたいの?」
「いや殴られなくてとても嬉しいけど」
11人並んで神田明神に参拝。流石に一気にやらなくてもよかったんじゃないの。
あと神様の前だからか、にこちゃんパンチが飛んでこなかった。なんというレアケース。
「こんないっぺんにお願いして大丈夫だったかな?」
「平気だよ!だってお願いしてることはひとつだけでしょ?」
「え?」
「言葉は違ったかもしれないけど、みんなのお願いって一つだった気がするよ!」
「なんだ穂乃果ちゃんエスパーだったの」
「そうだと思ったのー!」
「冗談だよ」
そんな他のメンバーの思考を読むなんてなんという達人技。
…いや、そういうわけじゃないか。
だってきっと。
「…うん。僕もそう思うよ」
「茜くん…」
「ふふ、茜くんも素直になったね」
「元々僕は素直だよ」
「えー…」
「何さ」
僕は素直でしょ。素直ににこちゃん大好きだよ。いつも言ってるじゃん。
…まあ、他のみんなのことは?あんまり言ってないかもしれないけど?μ'sのみんなも大好きだよ?
「じゃあ、もう一回」
「「「「「「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」」」」」」
希ちゃんの掛け声で、全員揃ってもう一度礼をした。これならきっと伝わると思う。神頼みなんて普段しないけど、神様もこういう時に心を合わせたときくらいはちょっとは協力してほしいね。
「さ、今度こそ帰りましょ」
「うん、明日!」
「そうね」
「じゃねー」
「…」
「…花陽」
「もう、キリがないでしょ?」
「そうよ、帰るわよ!」
そして今度こそ解散だ。学年ごとにバラバラに帰路につく。これたまたまなんだよね。家の方角が学年でそれぞれ固まってんの。
花陽ちゃんは相変わらず寂しそうな顔してたけど大丈夫かな。負の感情には正直だよなぁあの子。
そんなことを思ってやたら長い階段を降りたところで、希ちゃんが立ち止まった。
「何よ、希も?これじゃいつまで経っても帰れないじゃない」
「………うん、わかってる…わかってるけど…」
「希…」
二年生は先行っちゃって、一年生はまだ来ない。ここで立ち止まったところでただ切なくなるだけなんだけどな。
まあでも希ちゃんも寂しがりタイプだし、ちょっと足が止まるのは気持ちとしてはわからなくもないかな。
「わかってるけど…少しだけ、もう少しだけここに居させて」
「………はぁ、ちょっとだけよ?」
「甘いねえにこちゃん」
「嫌なら帰っていいのよ」
「やだよ」
そういうこと言わないのにこちゃん。凹んじゃうから。
だいたいにこちゃんも名残惜しいんじゃないの。そうじゃなかったら先帰っちゃうでしょにこちゃん。
「ちゃんと僕もここにいるよ」
「…ありがとう。えりち、にこっち、茜くん」
「どうでもいいけど、僕は茜っちには昇格しないのね」
「別にランク分けしてるわけじゃないんよ?」
「なんだそうなの」
「…」
「痛い痛いにこちゃん耳引っ張らないで」
「うーなんか腹立つわね」
「嫉妬してるわね」
「嫉妬やなぁ」
「嫉妬じゃない!」
「なになににこちゃんジェラシーが降り注いでるの」
「うるさい!」
「あぼん」
希ちゃんって仲良いひとに「〜ち」ってあだ名つけるのかと思ってたけど関係ないのね。そこ疑問に思っただけだから他意はないよにこちゃん。嫉妬してくれるのは嬉しいけど。蹴りは嬉しくないけど。
まあでも、こういうやりとり、好きだったよ。
「っていうか希ちゃんが残るって言うとみんな戻ってきそうだから怖いんだよね」
「茜、そういうこと言うと…」
「フラグ立っちゃう?」
はっはっは、まさかね。
「あっ…」
「…何でまだいるのよ?」
「見事にフラグ回収しちゃった」
はっはっは。
希ちゃんこわ。
いや希ちゃんのせいじゃないか。それに一年生はまだ帰ってなかったし、後から追いつくのは十分あり得る。うん。あり得る。つまりフラグなんて無かった。いいね?
「あれ?みんな?」
「穂乃果ちゃん、どうしたの?」
「おうふ」
「あはは…なんか、まだみんな残ってるかなって…」
「だよね!」
「だよねじゃないよ」
正当化してたら二年生も戻ってきた。やっぱり見事にフラグ回収してた。やっぱりフラグには勝てなかったよ。
「どうするの?このままだといつまで経っても帰れないわよ」
「誰のせいだと」
「私のせいじゃないわよ!」
「真姫ちゃんパンチはまだ甘いよ」
「腹立つ!!」
まあぬるい真姫ちゃんパンチは置いといて、実際こんなことやってたら永遠に帰れない。
「朝までここにいる?」
「バカか。せめて寝る努力をしろ。徹夜明けでライブ本番とか正気の沙汰じゃねぇ、そのつもりなら無理やり寝させる」
「枕投げを思い出す所業だね」
「枕投げ…?」
「そうだった創一郎覚えてないんだった」
あの時の創一郎は寝ぼけてたから枕で総員ノックアウトしたことを覚えてないんだったね。でもそういうことができるっていう実績はある。朝まで待機なんてしようものなら眠らされる。拳で。
「あ、じゃあさ!こうしない?」
「どうすんの。僕にはもうこれ以上みんなと一緒にいる時間を作れないよ。それこそ学校に泊まるくらいしないと」
「そう!それ!!」
「要するにほぼ不可能…ん?何だって?」
穂乃果ちゃんが何か言い出したぞ。
「…一応確認するけどね穂乃果ちゃん。まあ確かに学校に宿泊できる規則はあったと思うよ。でも絶対申請必要でしょ。直前に申告とか絶対間に合わないし。あと布団無いし。寝間着も無いし。ご飯も無いし。お風呂も無いし。色々無理だよ。無理だから僕言わなかったんだけど」
「申請については家に帰ったらお母さんに聞いてみるよ!」
「それで通っちゃったらそれはそれで困るんだけど」
「じゃあ一旦みんな帰って、お風呂入って、パジャマ持って学校に集合!」
「ちょい待ち」
「ご飯は私たちが買ってくるよ!」
「創ちゃん連れて行けば荷物も大丈夫にゃ!」
「は?おい、本気で泊まる気か?つーか俺も泊まるのか?」
「え?」
「え?じゃねーよ。何で当然みたいな顔してんだよ」
「調理は家庭科室の道具を使わせてもらいましょう。あまり大掛かりな料理は作れないけど」
「何で元生徒会長がノリノリなの」
「じゃあそういうことで!!」
「「待てや」」
おかしい。
散々学校お泊り会の不可能性を述べたのに全部ひっくり返そうとしてくる。っていうか申請通るの前提で動かないでよ。
「ちょっと絵里ちゃん。学校の設備使用の申請って原則いつまでに出すものなの」
「2週間前までに提出することになってるわ。でもまあ…ことりが頼んだら大目に見てくれるんじゃないかしら」
「だからそれはそれで困るってば」
通ったら通ったで理事長さんそれでいいのかってなっちゃうよ。
「だいたい俺たちまで泊まることになってんのはどういうことだ。身の危険を感じろ」
「創ちゃんなら大丈夫にゃ」
「何が大丈夫なんだ」
「凛ちゃんは創ちゃんになら襲われてもいいって言ってるんよ」
「「に゛ゃっ」」
「ちょっと今変な音したんだけど」
「ごめん、創ちゃんと凛ちゃんがフリーズした音や」
「希ちゃん何やらかしたの」
後ろの方で創一郎も別件で抗議してたのに、気づいたら顔真っ赤にしてフリーズしてた。凛ちゃんと。何があったの。もしかして君らそういう関係なの。何か思い当たる節が無くもない。でもまあ付き合ってはないなら僕とにこちゃんみたいなもんだからいいか。
見てて面白いし。
ってそうじゃないわ。
「創一郎も言ってたけど、僕ら男性陣と一緒に寝るのはいい加減やめようよ。合宿のこともあって今更感すごいけど、もう少し警戒心というものをだね」
「何、茜は私以外の子を襲う気なの」
「にこちゃんなら襲っていいみたいな゛ッ」
「茜くーん?!」
「今ゴキッて言いませんでしたか?!」
「だ、大丈夫?!」
仕方ないから僕が説得を試みたら、にこちゃんから今までで一番威力の高い拳が側頭部にヒットした。死んだと思った。
そして起きたらお泊り会が決定してた。
「でーきたー!」
「泊まれるのは知ってたけど、布団完備だったんだね」
「ちゃんと洗濯してあるわよ」
「割と使われるのかな」
なんだかんだ言及されてなかった布団は普通に学校にあった。まあ泊まれる以上それなりのものはあるんだろうなとは思ったけど。
「てゆーか創一郎は良かったの来ちゃって」
「来ないわけにもいかねえだろ。精神統一は済ませてきたし」
「精神統一」
多分創一郎のことだから賢者モード的な意味じゃなくて本当に瞑想してきたんだろうね。色々バカだよね。まあμ'sの子らに危害を加えないならそれでいいけど。
「みんなも学校でお泊り…テンション上がるにゃー!」
「君はいつもテンション高いじゃん」
「ドキドキするね」
「そうかなぁ」
「しなさいよ」
「パジャマにドキドキって意味ならにこちゃんは見慣れちゃってるしなあ。可愛いけど」
「じゃあうちらは?ほらこんな服やで今」
「僕芸術家だからおっぱい如きで欲情しな痛い痛い痛い皆様痛い」
「せめてもうちょっと」
「間接的な」
「言い方をしないと」
「セクハラで」
「訴えるわよ!!」
「あだだだだわかったわかった」
希ちゃんがセクシーポーズをとってきたから正直な感想を言ったら皆様にボコられた。痛いよ。しょうがないじゃん、裸婦像とか見慣れてるんだし。女性の裸体程度で今更興奮するもんか。にこちゃんは別。にこちゃんの裸は鼻血吹き出す。
創一郎は超スピードで退散してた。
「まったく、にこちゃんアタック並みに痛かったんだけど」
「………ちょっとにこ、あなた普段どれだけ力込めて殴ってるの」
「そりゃもう全力で」
「慈悲のカケラもないじゃない」
何故かみんなにこちゃんにドン引きしてた。まあわかるよ。全員でボコってやっとにこちゃんと同等だもんね。みんなの攻撃には優しさがあった。にこちゃんには優しさが無い代わりに愛が詰まってるから痛い。愛詰まってるって信じてる。
「でも、本当にいいんですか?」
「うん。お母さんには本当は2週間前までに提出しなきゃだめって言われたんだけど…」
「よくないじゃん」
「でも見落としてたことにしてくれたよ!」
「それはそれでよくないじゃん」
ちょっと理事長さん、娘さんに甘すぎやしませんか。
「まあいいじゃないの。それよりそろそろできるわよ茜」
「まあよくないけどね」
誰一人気にしてないみたいだし、もう僕も気にするのバカらしくなってきたからにこちゃんと一緒に家庭科室に戻る。料理しっぱなしだからね。危ないと言えば危ない。いや普通に危ないね。
「お皿持ってくよ」
「持てるの?」
「紙皿だから平気だよ」
「そ。私はこれ持ってくから扉閉めないでよ?」
「中華鍋ごと持ってくのね」
何を作っていたかと言われたら、麻婆豆腐だよ。僕とにこちゃんによる力作だ。力作っていうか普通に麻婆豆腐作っただけだけどさ。
「はいおまたせ!家庭科室のコンロ火力弱いんじゃないの?」
「本日は麻婆豆腐でーす」
「わあ!いい匂い!」
「花陽ー、ごはんはー?」
「炊けたよー!」
「別枠でご飯持ってきてたんだね」
「ええやん!」
「そして凛はラーメンも!」
「別枠でラーメン持ってきてたんだね」
「俺もプロテインの準備を…」
「別枠でプロテイン持ってきてたんだね」
食欲がすごいな君たち。
というわけで完食。いつも通り美味しかった。いや、みんなといるぶん、いつもより美味しかったかも。
「なんか合宿の時みたいやね」
「合宿よりも楽しいよ!だって学校だよ学校!!」
「最高にゃー!!」
「君ら学校大好きかよ」
「非現実性を感じてるんだろ」
「わかった上で言ってるんだよ」
「性格悪いかよ」
失礼な。僕のどこが性格悪いと言うの。悪いね。うん。
「あ、ねえねえ、今って夜だよね?」
「そりゃそこの窓を見て今昼ですって言い出したらまっきーに突き出すくらい夜だけど」
「わー!!」
「びゃあ」
突然穂乃果ちゃんが窓を全開にし始めた。何してんの。まだお外寒いよ。ひぃ寒い。丸まるしかない。
「穂乃果ちゃん?!」
「何してんのよ!寒いじゃない!!ほら茜を見なさいよ、ダンゴムシみたいになってるじゃない!!」
「ダンゴムシ」
「もっとマシな表現はなかったのかよ」
ダンゴムシですかこの体勢。いや寒いから戻らないけど。
「夜の学校ってさ、何かわくわくしない?いつもと違う雰囲気で新鮮!」
「そ、そう…?」
「そりゃ夜の学校とかお化けとかの話よく出るしね」
「おばっ…?!」
「後で肝試しするにゃー!」
「えぇっ?!」
「何でもいいけど窓閉めて寒い」
丸まりながら穂乃果ちゃんをチラ見すると超笑顔だったけど、絵里ちゃんの声は非常にビビりモードだった。だから余計に不安を煽ってみた。絵里ちゃん暗いの苦手だもんね。怖いのも。うっふふふ愉しい。
でも寒い。
「いいねえ、特にえりちは大好きだもんね?」
「の、希!」
「絵里ちゃんそうなの?」
「い、いや、それは…」
「そういうことなら僕本気出そう」
「えぇっ?!いや、ちょっと…」
「とうっ」
バリバリにビビってる絵里ちゃんのために、寒い中起き上がって電気のスイッチをオフにしてあげた。
「ひぁあああああ?!?!」
「痛いっ!絵里ちゃん痛いよ…」
「なんかごめんことりちゃん」
そしたら絵里ちゃんは漫画の如き絶叫を上げてことりちゃんに飛びついた。飛びつくどころかタックル並みの勢いだったけどね。ごめんことりちゃん。え?絵里ちゃんにも謝るべき?聞こえなーい。
「離さないで離さないで!お願いぃ!!」
「離さないでっつーか絵里が一方的に抱きついてんじゃねぇか」
「もしかして絵里…」
「暗いのが怖いとか…?」
「ふふ、新たな発見やろ?」
「希!真姫、早く電気つけてぇ!!」
「はいはい」
というかみんな気づいてなかったんだね。
「待って!!」
「??」
「どしたの、穂乃果ちゃんも愉悦部に目覚めた?」
「違うよ?!そうじゃなくて、星が綺麗だよ!」
「そっか、学校の周りは灯りが少ないから」
「それより窓を閉めようよ」
星が綺麗なのはわかるけど寒いんだって。あと絵里ちゃんのために電気つけてあげようよ。まあ消したの僕だけどね。
「ねぇ、屋上行ってみない?」
「更に寒いとこ行くの」
「茜に拒否権はないでしょ」
「知ってた。しかし僕はここで丸くなるのだ」
「創一郎」
「おう」
「うわっ」
僅かな抵抗をしたら余裕で創一郎に持ち上げられた。むしろ持ちやすそう。知ってた。
「大丈夫か、花陽」
「うぅっ…ありがとう、創ちゃん」
「ねぇ創一郎、そういう優しさがあるなら僕を放り投げるとかしなくて良かったんじゃないの」
「お前は色々反省しろ」
「くそう心当たりがありすぎて」
「あんのかよ」
屋上の中でも一番高い、階段の上のところにハシゴを使って登っていた。僕と創一郎以外。僕は創一郎に投げられた。創一郎はジャンプして飛び乗って僕をキャッチした。うーん色々おかしい。
「わぁ…!」
「凄いね…!」
「光の海みたい…」
「ふむ、流石東京だねぇ」
「自然な流れで一眼を出すな」
「だって撮らなきゃもったいないじゃん」
直上には星空が、眼下には夜景が広がっていた。東京みたいな都市ならではの光景だね。加えて比較的光量が少ない区域だからこそ星空もよく見える。いい立地だよね。いや立地がいいのは知ってたけど、夜に学校にいることって今まで一度もなかったからね。
月は見えてないけど、そのうち出てきそうだね。
「…この一つ一つが、みんな誰かの光なんですよね」
「その光の中でみんな生活してて、喜んだり、悲しんだり」
「この中にはきっと、私たちと話したことも会ったこともない…触れ合うきっかけもなかった人達がたくさんいるんだよね」
「でも繋がった。スクールアイドルを通じて」
「うん。偶然流れてきた私たちの歌を聴いて、何かを考えたり、ちょっぴり楽しくなったり、ちょっぴり元気になったり、ちょっぴり笑顔になってるかもしれない。素敵だね」
みんななかなか素敵な考え方するもんだね。
まあ、賛成だけど。
だってさ。
「…だから、アイドルは最高なのよ」
「うん。ぼくはそんなアイドルの、笑顔の魔法が大好きだ」
ずっと、にこちゃんはそんなアイドルを目指してきたんだもんね。僕が賛成しないわけがない。
空を見上げていたら、やっと月が顔を出してきた。綺麗な満月だ。月齢見てなかったから今日満月だって知らなかったわ。
「私!スクールアイドルやってよかったー!!」
「うわ耳が」
「どうしたの?!」
「だってそんな気分なんだもん!!」
「どんな気分だよ」
周りに人気は無いにしても、夜なんだから静かにね。
「みんなに伝えたい気分!今のこの気持ちを!!」
「一応言っておくけど、夜だから自重してね」
「うん!みんなー!!明日精一杯歌うから聞いてねー!!!」
「今『うん』って言ったよね」
「言ったわね」
「まあ穂乃果だからな」
絶対聞いてないもんね。反射で「うん」って言っただけだもんね。超困る。
で、なんでみんなちょっと大きく息を吸ってんのかな。にこちゃんまで。
「「「「「「「「みんなー!聞いてねー!!」」」」」」」」
「ちょっと君ら」
「やめとけ。野暮ってやつだ」
「物分かり良すぎない?」
近所迷惑が発生した場合に真っ先に怒られるの僕なんだよね。なぜか。そこは穂乃果ちゃんを怒ってよ。監督責任を全部僕に押し付けられてる気がする。ぶっちゃけ間違ってない気がしないでもない。困る。
まあ、こういう決意表明を聴いてくれる人がいたらそれはそれでいいんだけどさ。
ご覧いただきありがとうございます。
デレる波浜君の登場です。需要はあるんでしょうか!!
とにかくみんなちょっと成長したような雰囲気が出せたらいいなーと思っています。もうすぐ終幕ですからねぇ。まあ滞嶺君の豆腐メンタルは治ってないんですがね!!
絵里ちゃんを怖がらせるところで、絵里ちゃんのお相手を音ノ木坂の生徒にしなかったのをすんごい悔やみました。