笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
前回からもまたお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!もうすぐ寿命50年伸びます!!!(まだ言ってる)
最初は誰か1人でも見てくだされば嬉しいやって思って始めた投稿なので、こんなにも沢山の方が私の作品を見てくださっていると思うと泣けます。滝涙です。まだまだ頑張りますよ!!
今回は遂にアニメ二期最終話前編となります。アニメ本編は次回が最後となります…長かった…いや長かったのかな…?
まあ当然のように劇場版も書きますのでまだまだ終わりませんけどね!!
というわけで、どうぞご覧ください。
「流石に今日はいらっしゃるんですね」
「もちろん。愛する娘の卒業式だもの」
「さすがですねぇ。ところでにこちゃんまだー?」
「もうちょっと待って!今日は一番ビシッと決めるんだから!!」
「まあお母さんいらっしゃるもんね」
日は流れて、卒業式当日。
にこちゃんを迎えに来たら、矢澤家一同がにこちゃんを待っていた。お忙しいにこちゃんママが来るとは珍しい。まあ卒業式だしね。
あとにこちゃんはにこちゃんママ大好きだから気合い入ってるね。
「さすがに卒業したら正式にお付き合いするのかしら?」
「そのつもりではいますけど、既にほとんど恋人レベルの生活してるんですよね」
「でも性活はしてないでしょ?」
「なんか悪意を感じる言い方だったんですが」
僕が思ってる言葉と漢字が違った気がしますけど。
「できた!お待たせ!」
「おお、今日は一段とかわいいね」
「さすがにこちゃんね!」
たっぷり30分くらいかけて出てきたにこちゃん。いつにも増して完璧なツインテだ。いやツインテだけじゃないけどさ。可愛いね。可愛いよにこちゃん。
「さ、ママ!早く行こ!見せたいものがあるの!!」
「あらあらそんなに慌てなくていいのよ?」
「あーこれ僕が置いていかれるパターン」
「大丈夫です!私たちと一緒に行きましょう!」
「行くー」
「君らも行くんだね」
母親の手を引いてさっさと走って行ってしまうにこちゃん。僕を前にして走るとは何ということだ。しかし僕にはこころちゃんとここあちゃんと虎太朗君がついている。もう何も怖くない。いやこれ何かあったら僕が真っ先に死ななきゃいけない組合わせじゃん。いやん。
「じゃあ、行ってくるぞ」
「行ってらっしゃい、兄さん。夕飯は用意しておくから心配しないで」
「わかった、頼んだ。…が、お前も早く行けよ?中学の卒業式も次期生徒会長挨拶とかあるだろ」
「大丈夫。まだ時間あるし」
「ならいい。お前らは…もう卒業式終わったんだったな。昼飯は冷蔵庫に入れてある。腹が減ったら食え」
「「「はーい」!!」」
「迅三郎、留守番組の最年長はお前だ。頼んだぞ」
「はーい」
今日は音ノ木坂の卒業式だ。
なんだかここまであっという間だったような気がする。ラブライブが終わってから学年末テストなんかもあったはずなんだが、成績は茜のおかげでむしろ上がっていたからまったく気にならなかったしな。
弟達も随分しっかりしてきて、安心して留守を守ってもらえる。
「で、わざわざ俺の家の前まで来たのかお前ら」
「えへへー」
「えへへ…」
「わ、私は別に
「そうか、わかった」
「まだ何も言ってないじゃない!!」
家から出たら、玄関前で凛と花陽と真姫が待機していた。一緒に行こうということだろう。さすがにそれくらいわかる。真姫の照れ隠しを聞くまでもない。
「…じゃあ行くか」
「うん!」
のんびりしている場合でもないし、すぐに出発する。
凛が騒いで、花陽が笑って、真姫が呆れて、俺がツッコむ。そんないつも通りの通学路だった。
卒業式ではあるが、しんみりする必要もない。このくらい普段通りに過ごす方が、送り出される側も安心するんじゃねぇかな。
そんなことを思いつついつもの通学路を歩き、いつも通り学校までたどり着く。校門には穂乃果と、にことその兄妹達がそろっていた。なんだ、卒業式って家族同伴でよかったのかよ。
「あっ!おーい!」
「穂乃果ちゃんおはよう!」
「おはよう!みんなは?」
「私たちも今来たところよ」
「あっちににこもいるしな」
視線を向けると、兄妹達はこちらに気づいたようで挨拶してくれた。
「あ、穂乃果さん!」
「久しぶり!」
「みゅーずー」
「みんな久しぶり!」
「そういえば何ヶ月か会ってなかったな。おうチビ元気か」
「げんきー」
「何してんのよ創一郎は」
ぼけーっとしている虎太朗の頭をわしわし撫でてやったが、リアクションは薄い。迅三郎の緩さと同じものを感じる。
「にこちゃんおはよ!」
そして、穂乃果がにこに声をかけると。
「あら」
「…ん?」
「にこちゃん…じゃないにゃー!!」
振り返った人物は、にこではなかった。非常によく似ているがにこではない。確実にもう少し人生経験を積んだ誰かだ。
いや、「誰か」ではないな。これだけよく似た歳上の女性となれば、ほぼ間違いなく。
「はじめまして!」
「………まさか」
「私たちのこと知ってるんですか?」
「もちろん!にっこにっこにー!…の、母ですから」
「「「「ええぇぇええええっ?!?!」」」」
「やっぱそうでしたか…」
やはりにこの母親だった。
そもそも背が高いし制服じゃなくてスーツだし、茜が一緒にいないし。何故気付かなかった俺達。
しかし親もにっこにっこにーするんだな。あなたは名前「にこ」じゃないだろう。
「本当によく似てらっしゃいますね…」
「でしょー?茜くんにもよく言われるのよー」
「当然のように茜くんが出てきたにゃー」
「あら、当然よ?昔からずーっと仲良くしてるもの。結婚式が待ち遠しい…」
「付き合ってすらいねぇはずなんですが」
「いいのよいいのよ。どうせ付き合って結婚するのは目に見えてるんだから!」
「まあそう言われればそうなんですけど」
今更あいつらがそれぞれ恋人を作ったとか言われたら意味わかんねぇしな。
と、そんな話をしている時だ。
「ママー!」
「あら」
「何してるのよー、早く来てよー!見せたいものがあるんだからー!ねぇママ早くー!!」
「待ってにこちゃん色々待って。第一に僕を置いていかないで。第二にもうちょっと周り見てうぇぶ」
「に、にこちゃん…?」
「おぅ?!」
「茜は勝手に転けてんな」
「う、うぶぶ…だから周りを見てって…いや僕は足元見ろって話だけど」
「いやお前今何もないところで転んだぞ」
「しんどい」
今度こそ本物のにこが来た。来たはいいんだが、なんだ、その、悪いもんを見てしまったかもしれない。もう母親にべったべたに甘えていた。茜にさえ拳で語るにこが母親には甘々とは、なんか意外だ。
ちなみに茜はやはりにこについて行っていたらしく、にこの後ろから歩いて追いかけてきていた。走らないあたりが茜らしい。そして何もないところで転んだところも茜らしい。
「…こほん、おはよう」
「にこちゃん、今更取り繕ってもふぐっ」
「余計なこと言うな!!」
「痛い痛い腰が腰が」
「…母親的にはあれいいんですか」
「母親的にはOKよ!」
「いいんですね…」
茜は相変わらず踏みつけられていたが、茜がボコられるのは母親公認らしい。強く生きろ。
「じゃあいくわよ!」
「いくでござるよ」
「茜は一体何者の設定なのよ」
「従者?」
「疑問形なのかよ」
部室に着くと、真っ先ににこちゃんが部室に突入していった。僕も追いかけてお披露目の準備だ。
何のお披露目かって?
そんなん決まってるじゃん。
「じゃーん!!見て!!これが!!!」
「第2回ラブライブ優勝旗でございまーす」
「私たちの優勝の証よ!!」
「「「おおー!」」」
見ての通り。
みんなで掴んだ夢の証だ。
「すごいです!」
「綺麗!」
「うぃなー」
「おいこいつ今英語喋ったぞ」
「僕が教えたんだよ」
こころちゃんもここあちゃんも虎太朗君もいいリアクションをしてくれた。虎太朗君に限らずにこちゃん一家の教育は僕がしてるからね。大事なことから余計なことまで。すけべなことは教えてません。ほんとだよ?
「私たち…勝ったんだよね…!」
「優勝にゃー!」
「もう、まだ言ってるの?」
「いいじゃねぇか。それだけの偉業なんだ」
結果としては日本一。日本最強である。しばらく喜んでても文句は言えないね。しかし同じことでいつまでも喜べるのも羨ましい。嬉しいは嬉しいんだけどね。
「ね、本当だったでしょ!!」
「…おめでとう!」
「えへへ」
「あー心が浄化される」
「穢れてる自覚はあったのか」
「生きてると穢れるんだよ」
にこちゃんの全開の笑顔と、にこちゃんママの微笑みを見てとても幸せな気分になれた。今なら奇跡起こせる。
実際相当な偉業ではあるんだし、喜んで然るべきとは思うけどね。まあそれでもやっぱり愛する人の笑顔は最強だよね。いやん愛する人とか恥ずかしい。
「でも…」
「?」
「………これ、全部あなたの私物?」
「……………………え、いや、その………」
「立つ鳥跡を濁さず。皆さんのためにも、ちゃんと片付けていきなさい」
「はい…」
「皆さんのためにもっていうことなら十分役立つと思いますけどね」
「それでも部室は私物の倉庫じゃありません。それより茜くんも早く手伝ってあげなさい」
「何で僕まで」
「手伝いなさいよ!」
「おぐっ今投げたやつは投げていいやつだったの」
「いいのよお菓子の缶だから!」
「殺意感じちゃう」
にこちゃんママの指摘通り、部室にはにこちゃんのスクールアイドル関連の私物が満載だった。そりゃね、一年の時から入り浸ってたんだからね。そうなるよね。ならない?ならないかぁ。
あとお菓子の缶は普通に痛いやつだからね。硬いし。
っていうか、にこちゃんに気を取られてたけど大事なこと聞くの忘れてた。
「そうだ、穂乃果ちゃん」
「なに?」
「行かなくていいの」
「え?」
「生徒会室。生徒会役員は卒業式の2時間前に生徒会室に集合って海未ちゃん言ってたじゃん」
「……あああああ!!!忘れてた!!!」
そう。1週間前くらいからかなり念入りに言われてた。しかも当の穂乃果ちゃんは「大丈夫だよおー」とか言ってた。大丈夫じゃなかったね。知ってた。
穂乃果ちゃんは叫んだ勢いのまま全速力で部室を去っていった。廊下は走っちゃいけないんだってば。出会った頃からそこは成長しないな。
「こんな日まで相変わらずだな、穂乃果は」
「いつも通りでいいんじゃない?」
「そだねえ」
ま、見送られる側もしんみりしなくていいからその方がいいか。
「僕はにこちゃんのお手伝いしてるから、君らは色々しておいで。準備とかあるでしょ」
「まあな。お前らも式に遅刻すんなよ」
「善処するよ」
にこちゃんの私物多いからやばいかもしれないね。にこちゃんママの車に乗せて持って帰るとしても、これ全部乗るのかなぁ。
「先輩方、照明の調整はどうですか」
「あ、創ちゃんも来た!」
「穂乃果か。何かあったのか?」
「照明がなんかどうもうまくいかないくてねー。だから生徒会室に去年の資料がないか探してもらおうって」
「そういうことか」
体育館での卒業式の準備。当然各自に仕事が割り振られているのだが、俺は少し特殊な役回りをさせてもらうことになった。
卒業式の照明操作だ。
茜に設備の使い方は叩き込まれたから、学校程度の照明なら難なく操作できる…と言ったら照明操作を押し付けられた。
そこは力仕事やらせろよ。
「それなら俺も同行しよう。前年度の照明担当は確実に茜だろうし、それなら俺が一番見慣れている」
「うん、お願い!」
まぁ、力仕事が回ってこないのはそもそも力仕事なんて無いからなんだろうが。そういうことなら俺にやれることをやるまでだ。
というわけで体育館を穂乃果と一緒に出ると、花壇の前に希がいた。希なんだが、髪型がいつもと違う。いつもの二つ結びじゃない。何か…確かおさげとかいう髪型。あれを前に垂らした感じだ。伝わるか?
「あ、希ちゃん!」
「穂乃果ちゃんに創ちゃん」
「よう。なんか珍しい髪型してんな」
「ふふ、どう?」
「すっごい似合う!」
「ああ、いいんじゃねぇのか」
「希ちゃん髪綺麗だよねぇー」
「そんなに言われたら照れるやん…」
「そんなんだからlily whiteのメンバーになったって自覚はあんのか?」
いつも黒幕みたいな顔してる癖に褒めると本気で照れやがってこいつ。
「でも本当にそう思うよ!」
「ふふ、ありがと」
「じゃ、また後でな。用があるんだ」
「あ、えりち知らない?」
「え?知らないよ?」
「てっきり穂乃果ちゃんたちと一緒だと思ってたんやけど…」
「悪い、俺たちは見ていないな。見つけたら希が探していたと伝えておこう」
「うん、お願いね」
会ってすぐではあるが、希とは絵里のことだけ請け負って別れた。卒業式の準備も進めなければならないからな、そこは仕方ない。話をするなら式の後でもいいわけだしな。
「…まあ、絵里は案外生徒会室にいたりしそうだがな」
「絵里ちゃんって今でも生徒会長ってイメージあるもんねー」
「穂乃果が生徒会長って感じがしねぇんだよ」
「そんなことないよ!」
絵里の雰囲気がどうしても生徒会長というか、まとめ役って感じがするからな。
そんなことを話しながら生徒会室に入ると。
「あ、絵里ちゃん」
「まさかマジでいるとはな…」
「穂乃果、創一郎…」
本当に絵里がいた。
地縛霊かお前は。
「どうしたの?希ちゃんが探してたよ」
「別に用があったわけじゃないんだけど…何となく足が向いて」
「相当思い入れがあるんだな」
「もちろん。私の学校生活の一部みたいなものだから」
まあ1年間の任期は高校生活の1/3でもあるわけだし、多少思い入れがあるのはわからんでもないか。
「式の準備は万全?」
「うーん…万全ってほどじゃないけど、大丈夫!素敵な式にするから!」
「念のために言っておくが、今は万全にするための詰めの段階だ。心配するな」
「…ありがとう」
式の様子を気にする絵里の表情は明るいとは言えなかった。この期に及んで寂しがってんのか?
「…心配事?」
「ううん、ただ、ちょっとだけ…昨日アルバムを整理してたら生徒会長だった頃を思い出してね。私、あの頃は何かに追われてるような感じで全然余裕がなくて、意地ばかりはって…振り返ってみると私、みんなに助けられてばっかりだったなって」
そうだっただろうか。
俺はμ'sが9人揃う前の絵里については詳しくないが、絵里は生徒会長もやりながらμ'sのまとめ役もしてくれていたと思う。
助けられたのはこっちも同じだったはずだ。
穂乃果も同じことを思ったのか、不意に絵里に抱きついた。
「ほ、穂乃果?」
「…絵里ちゃん、私達がラブライブに間に合わないかもしれない時、こうやって受け止めてくれたよね。私達も同じだよ。生徒会長になって、ここにいて、絵里ちゃんが残していったものをたくさん見た。絵里ちゃんがこの学校を愛しているということ、そしてみんなを大事に思っているということ。絵里ちゃんの思いはこの部屋にたくさん詰まっていたから、私は生徒会長を続けてこられたんだと思う」
絵里が生徒会長だった時は音ノ木坂は廃校の危機にあった。それを、μ'sの成果が出るまで抵抗し続けていたのは紛れもなく絵里達の功績だろう。
俺たちは決定打を掴んだだけ。
だから。
「本当に、ありがとう」
礼を告げるのは、こっちの方だろう。
「……もう、式の前に泣かさないでよ…」
「えへへ…じゃあ、行くね!」
「おい穂乃果、目的忘れんな。…あったあった、この資料だな」
「あら、資料を探しに来てたの?」
「あっそうだった」
「もう…」
感動的なシーンになるのはいいんだが、本来の目的をスルーして戻ったって二度手間になるだけだぞ。
資料を持って生徒会室を出ようとすると、不意に希が入ってきた。
「やっぱりここやったんやね」
「わかってたのかよ」
「ううん、何となく居そうだなって思っただけ」
「本当かよ?まあいいか、俺たちは準備があるからもう行くぞ」
「じゃあまた後でね!」
そう告げて、生徒会室を後にする。
「創ちゃん」
「ん?」
「絶対、最高の式にしようね」
「当たり前だろ」
せっかく絵里達が繋いでくれた歴史だ。
当然、最高の形で送り出すさ。
「………大きくなったわね」
「…そうやね」
「おー、やっぱここにいた」
「あー疲れた…」
「あら、どうしたの?茜とにこが生徒会室に来るなんて」
「君らがいそうだと思ったからね」
「何か疲れてるみたいやけど、どうかしたん?」
「さっきまで部室片付けてたのよ。私物は持って帰らなきゃいけないから」
「おかげさまでほぼ空っぽになったよ」
部室の片付けが終わって卒業式までどうしようって思ってた時に、絵里ちゃんと希ちゃんは生徒会室あたりにいそうだなって思ったからにこちゃんと生徒会室に来たら案の定2人ともいた。2人ともこの部屋大好きだねぇ。
「…もうすぐね」
「そうだねぇ。お二人は国立大学行くんだっけ」
「うん。ちゃんと試験も受かってたから」
「ラブライブもあったのによく受かったね」
「学力トップ3は譲らなかったもの。当然勉強も頑張ってたわ」
「そんなにこちゃんは推薦で私大に行くんだけどね」
「悪かったわね勉強できなくて!!」
「おっふ」
僕らの進路は今言った通り。にこちゃんは音大とかでもスクールアイドルの功績を考えたら行けたと思うんだけど、そこまで本気で音楽する気は無いみたい。アイドルって歌って踊るイメージなんだけどな。
ちなみに私大の入学費とかは僕が出した。私大高いもんね。でもいいんだよ、にこちゃんはにこちゃんで勉強も頑張ってたんだから。悪いとは言ってないんだから拳はノーセンキュー。
「茜は独立するんですって?」
「うん。僕も桜もA-Phyを抜けて、それぞれ別で活動することにしたんだ」
「天童さんはどうするのかしら」
「A-Phyって名前だけ残して、一つの企業としてやっていくんだってさ。まあ僕も桜も似たようなものだけどさ」
そんで僕は身につけた技術や知識や人脈を使って独立することにした。
天童さんもそうするつもりで運営してたみたいだし、それなら独立する方がうまくいくんだろう。「まぁどうせこれからも色々依頼するんだけどなー!」とか言ってたから多分大してやることは変わらないんだろうな。
3人がそれぞれ人を集めてそれぞれの方針でやっていくだけだね。
「それって起業するってこと?」
「そうなるね。まあ僕ら名前が売れてるからお仕事が無いってことにはならないと思うけど、運営しなきゃいけないのは大変だねぇ」
「そこは大丈夫よ。だって、私たちが苦労しないように面倒な手続きはやってくれてたんでしょう?企業としてもやることは同じじゃないかしら」
「なんだ、知ってたんだね」
「えりちは自分がやる気満々だったもんね」
「そ、そんなことないわよ…?」
「そういう役回り大好きちゃんかよ」
絵里ちゃんは裏方作業が好きなのかな。
でも、僕の働きに気付いてる人がいたとは思わなかった。気づかれないように予算管理だったり諸々の申請だったりをしてきたつもりだったんだけどね。
「みんな気付いてたわよ」
「にこちゃん」
「気付いてたけど、わざわざこっそりやってることを労うのはやめておこうってことになってたのよ」
「要するに結構バレバレだったのか」
「そんなことないわよ?たまたま早起きしたから、ちょっと忘れ物したから、何となく部室に足が向いたから。そんな理由で誰もいないはずの部室に行ったら、茜が事務作業をしてた。みんな、そんな偶然がなければ気付かなかったわ」
「凛ちゃんに限ってはずっと気付かなかったみたいやしね」
マネージャーなんだから影の功労者みたいに人知れず頑張っていたかったんだけどなぁ。
まあ、みんな知っててくれたっていうのも、悪い気分はしないか。
「…不思議なもんだね」
「え?」
「僕、こんなことするために音ノ木坂に来たわけじゃなかったのにさ」
窓の外を見る。
よく晴れた日だ。多少雲はあるけど、むしろ雲一つない快晴よりもいいと思う。
「僕はにこちゃんを追いかけてきただけなのにね」
「…そうだったわね」
「にこちゃんがスクールアイドルやるって言うから手伝って、他の子たちが辞めちゃって、2人になっちゃって」
3年間も過ごした学校だから相当見慣れているのに、今はなんだかいつもと違う雰囲気な気がする。
「にこちゃんの夢が叶うようにってそれだけ考えてたのにね」
「随分変わっちゃったわね」
「最初の2年で全然変わらなかった私たちも、この1年だけで大きく変わったわ」
「全部μ'sのおかげやね」
音ノ木坂の生徒として過ごす最後の日になると思うと、懐かしさで景色も違って見えるんだね。覚えておこう。
「まぁ、μ'sという団体としてもそうなんだけどさ」
「?」
「君たち個人にも、感謝してるんだよ」
「え?」
「みんなの思いを感じた。みんなの心を聞いた。みんなの在り方が今の僕を作ってくれたんだ。以前の僕じゃ誰も幸せになれなかったけど、今の僕なら誰かを幸せにするくらいならできそうだ」
部屋の中に向き直る。
絵里ちゃん、希ちゃん、そしてにこちゃん。
みんな笑顔だった。
僕は、こんな笑顔をずっと見たかった。
「だから、ありがとう。みんなに会えてよかった」
僕も笑顔で答えた。
誰も泣かなかった。そりゃそうだ。だって悲しくないんだから。今生の別れってわけでもないし、住む場所も変わらない。
また会えるんだから、悲しくない。
「ええ、こちらこそ。ありがとう、茜」
「うちらを支えてくれてありがとう、茜くん」
「……ありがと、茜」
「どういたしまして」
にこちゃんだけ照れが入ってるのが可愛いね。さすがにこちゃん可愛い。
「さ、そろそろ教室に戻ろうか。さすがにもうすぐ始まるだろうし」
「そうね。行きましょうか」
いい感じに時間も過ぎたので、教室に戻ることにする。さすがにもう準備できてるだろうしね。
あとは後輩たちのセンスに期待しようかな。
卒業式が、始まった。
クラス単位で体育館に入場する僕ら3年生。よくよく考えたらにこちゃんだけクラス違うから入場するグループが違う。後ろで若干不機嫌になってるにこちゃんがいそうだけど、さすがに振り向いて確認するわけにもいかないな。卒業式だし。
3クラスの全員が入場し、着席してからが本番。開会の挨拶やらなんやらを正しい姿勢で聞き流して、お次は理事長挨拶。
「音ノ木坂学院は、皆さんのおかげで来年度も新入生を迎えることができます。心よりお礼と感謝を述べると共に、卒業生の皆さんが輝かしい未来に向けて羽ばたくことを祝福し、挨拶とさせていただきます。おめでとう」
(短くてうれしい)
正直偉い人の長い話なんてほぼ聞く気が起きないから、理事長さんの簡潔な挨拶はとてもありがたい。日本中の偉い人は見習ってほしい。
まあそんなことは置いといて。
「続きまして、送辞。在校生代表、高坂穂乃果」
「はい!」
ここが一番の楽しみどころで心配どころだ。そもそも穂乃果ちゃんってシリアスな挨拶するのに向いてないと思うし。今の返事も超元気だったし。
まあでも今は生徒会長なんだし、さすがに大丈夫かな。
心配しないで落ち着いて聞いていようか。
「送辞。在校生代表、高坂穂乃果」
こうやって見ると生徒会長って感じがするね。
「先輩方、ご卒業おめでとうございます。…実は、つい一週間前までここで何を話そうかずっと悩んでいました。どうしても今思っている気持ちや、届けたい感謝の気持ちが言葉にならなくて、何度書き直してもうまく書けなくて…それで、気付きました!」
(流れ変わったね)
「私、そういうの苦手だったんだって!」
「ほ、穂乃果?」
「ちょっと?」
心配しとけばよかった。
100%完全な不意打ちだった。見事なバックスタブ。やっぱり穂乃果ちゃんにシリアスは向いてないらしい。そんな気はしてた。知ってた。知ってたけど油断した。
っていうかそういうの苦手なのは確定的に明らかじゃん。わかった上で海未ちゃんとかに頼んで考えてもらったものだと思ってたよ。
「子供の頃から言葉より先に行動しちゃう方で、時々周りに迷惑かけたりもして。自分を上手く表現することが本当に苦手で、不器用で…」
(これほんとに送辞なの)
何故か自己紹介まで始まる始末。これ海未ちゃんとかことりちゃんはちゃんと見たんだろうか。その上でOK出しちゃったんだろうか。
まあぶっちゃけ面白いからよし。
愉悦部万歳。
「でもそんなとき、私は歌と出会いました。歌は気持ちを素直に伝えられます。歌うことでみんなと同じ気持ちになれます。歌うことで心が通じ会えます。…私はそんな歌が好きです。歌うことが大好きです!先輩、皆様方への感謝とこれからのご活躍を心から御祈りし、これを送ります」
言い終わると同時に、ピアノにスポットライトが当たった。ピアノには真姫ちゃんがステンバーイ。なかなかいい照明の動きしてるね。創一郎かな?
そして、真姫ちゃんがピアノを弾き始める。
…ああ、この曲か。もちろん知ってる。知らないわけがない。
だってさ。
「愛してる、ばんざーい」
「ここでよかったー」
『愛してるばんざーい!』。
μ'sの曲だもんね。
なかなかセンスのいい選曲をしたもんだね。
気がついたら全校生徒が歌っていた。みんなで練習したのか、元々みんな歌えたのか。両方かもね。
しかし、まったく、愛してるばんざーいなんて言っちゃって。
言われなくてもそんなことわかってるよ。
僕だって愛してるんだから。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
主人公たる波浜君が3年生なので、卒業する三年生の心境を頑張って少し書いてみました。卒業する側の視点はそんなにがっつり描かれてなかったと思うので。
そして波浜君はちゃんとにこちゃんとお付き合いできるのか!!次回お楽しみに!!