笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

最近遅れぎみでごめんなさい…。なかなか執筆タイムが取れなくて。頑張って定時に上げられるように頑張ります…!

今回は穂乃果ちゃん迷子編です。水橋君も交えてどんな展開になるのか…面白くなるのかならないのか、いい雰囲気になるのかならないのか!!


というわけで、どうぞご覧ください。




ひとつだけ学んだ。充電ちゃんとしよ。

 

 

 

 

 

「事故起きたって」

「ええっ?!」

「そんな…それじゃあ穂乃果は?!」

「桜が地上経由で連れてきてくれるのを祈るしかないね」

 

 

ホテル前の駅で降りたら、後続の列車が来なかったのが気になってそこらへんの人に何かあったのか聞いてみた。そしたら事故って電車が止まったって。タイミング悪い。

 

 

「そんな他人事みたいに…!」

「やめなさいよ海未。茜はこういう時表情に出ないのよ、内心すごく心配してるんだからそんなこと言わないで」

「…はい、すみません」

「桜さんから連絡はないの?」

「今全力で連絡してるんだけどリアクションが無い」

 

 

大量にメール送ったし何度も電話したんだけど出てくれない。穂乃果ちゃんも。いや穂乃果ちゃんは電話すると電源切れてるって言われたから多分充電が切れてる。あのバカ子ちゃんめ。

 

 

「何かあったのかな…」

「電車止まったんだから何かはあっただろ。穂乃果たちに何か起きたわけじゃねぇと思うが…」

「もう、こういうときに天童さんの出番なんじゃないの?!」

「真姫ちゃん、天童さんならこれも必要経費とか言って見逃してるんやないかな」

「人情ってもんが無いのかあの人は…」

「無いかもしれないから困るよね」

 

 

たしかに天童さん、最終結果はハッピーエンドにしてくれるけど、途中どうなるかわからないからすっごい怖い。多分あの人シナリオの間当事者が何を思ってるかあんまり考えてないんだ。勘弁してほしい。

 

 

「結局桜頼みってことだね。困る」

「だからって私たちがうろちょろするわけにもいかないでしょ。信じて待つしかないわよ」

「うー」

 

 

心臓に悪いからほんとに勘弁してほしい。

 

 

とりあえず桜なんかリアクションして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん、大丈夫だ。ここなら何度も歩いた道だ、極力安全に、急いで帰るぞ」

「う、うん…」

「テンション下げてる場合か。さっさと戻って仲間たちを安心させろ」

 

 

地上に出て周りを見渡すと、割と良く見た光景だった。正直、駅自体を頻繁に使ったわけではないから駅名に聞き覚えはなかったが、この辺り一帯を歩いた記憶は割とある。具体的な道はわからずとも、少なくとも方角はわかるからホテルまで迷わないだろう。

 

 

「…ふふ」

「なんだ急に笑いやがって。さっきまで意気消沈してたくせに」

「ううん、何だかんだ言って桜さん優しいなーって」

「優しくねーよ」

「照れてる?」

「殴るぞ」

「ひどい!」

 

 

バカ言ってないで歩け。

 

 

「っていうか桜さん…あの、いつまで手をつないで…」

「はあ?ホテルに着くまでに決まってんだろ。また迷子になる気かお前は。何度もはぐれたお前を探すなんて御免被るわ」

「ふぇ…」

「なんなんだお前は気持ち悪い」

「気持ち悪くない!!」

 

 

さっきからこいつのテンションは高いのか低いのかどっちなんだ。

 

 

リアクションするのも面倒になったから、穂乃果の手を引いて人混みを縫っていく。夜だというのに、大都市というものは人が減らないらしい。東京もそうだったがこの国はさらにその上をいく人の多さだ。気が滅入る。

 

 

というわけで、少し大通りから離れることにした。単純に近道ということもあったし、人混みから逃れるためでもある。人気が無いほどの裏路地じゃないからそれなりに安全でもあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして無言かつ早歩きでアメリカの街を横断している最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何だ?」

「えっ、ど、どうしたの」

 

 

不意に、何かが聴こえた。喧騒の中から歌声を拾った。

 

 

何故だか足が自然とそちらを向いて、戸惑う穂乃果の手を引いて音源に向かっていく。

 

 

そして。

 

 

「わぁ…」

「………」

 

 

ひとりの女性が路傍で歌っていた。

 

 

もう少し人の多い大通りで歌えばいいだろうとか思うが、とりあえずそれは保留。

 

 

歌が俺を唸らせるほど上手いわけでもない。

 

 

それでも、何故か聴き入る魅力があった。

 

 

穂乃果の歌のような雰囲気だ。穂乃果より上手いが。

 

 

思わず立ち止まって聴いていると、ちょうど終わり際だったようですぐに歌い終わってしまった。多くない観客のまばらな拍手に合わせて俺も軽く手を叩く。穂乃果は隣で猛烈に拍手していた。うるせえ。

 

 

穂乃果がそんなやかましい拍手をしたからだろうか、歌っていた女性がこちらを向いた。

 

 

こちらを向くどころか、散りゆく人々の間を縫ってこっち来た。

 

 

「見てくれてありがとう。あなたたち、もしかして日本人?」

「そっ、そうです!…って日本語?!」

「日本人ですか。まあ珍しくもないか」

「珍しくないの?!」

「日本に来る留学生みたいなもんだろ。そんなにレアなもんじゃない」

「ふふっ。最近はそうかもね」

 

 

わざわざ話しかけてきた。同じ日本人だから親近感でも湧いたのだろうか。勘弁してくれ、初対面の人と話すのは苦手なんだ。

 

 

「君たち、高校生くらいかな?夜遅くにこんなところでどうしたの?夜遊び?」

「ちっ違いますよ?!」

「なんてこと言うんですあんた」

 

 

アメリカまで来て夜遊びなんかするか。いや日本でもやらねーよ。

 

 

「でもカップルで夜の街をうろついてたらそう思っちゃわない?」

「かっかかかかかカップル?!」

「ではないですからね」

「あらそうなの?それはごめんなさいね」

「でっ、でも桜さん、側から見たらカッ

「見えねーよ」

「まだ全部言ってないのに!!」

「言わんでもわかるわ」

「以心伝心ってやつかしら」

「違います」

 

 

煽りスキルの高いお姉さんだ。

 

 

「まあいっか。実際どうしたの?迷子?」

「このアホが迷子になったんで連れて帰ってるところです」

「アホじゃないもん!」

「うるせーアホ」

「なるほど。どこに行くの?」

「ホテルに。方角はわかってるので問題ないです。具体的な道までは流石にわかりませんが」

「ふうん、ちなみにどんなホテルなの?」

「えっと、大きな駅のある、大きなホテルです!」

「雑すぎだろ」

「あっ、大きなシャンデリアもありました!」

「情報量無さすぎるだろ」

「なるほど、じゃああそこね」

「わかるんすか」

 

 

今の情報量でよくわかったな。

 

 

というか、なんというかこの人、落ち着いている方ではあるんだが…ところどころ穂乃果と同類の雰囲気を感じるな。

 

 

「もちろん!結構この辺りのこと詳しくなったんだから!」

「そっすか」

「桜さんそんなそっけない返事しちゃダメだよ!」

「お母さんかお前は」

「おかっ」

「ふふふ、青春ね」

「なんか言いました?」

「いえなーんにもー?」

 

 

変…というか、不思議な人だ。

 

 

「じゃ、道案内してあげるから、一緒に行きましょうか!」

「いや別に

「ありがとうございます!!」

「…はぁ、すんません。お願いします」

 

 

正直他人と関わり合いになるのは御免被るんだが、穂乃果が勢いよく承諾しやがった手前「やっぱいいです」とは言いにくい。仕方ないから最短ルートで帰らせていただこう。

 

 

「ってそういえばマイク忘れてた!」

「しまっておきましたが」

「おお!ありがとう!…ちゃんと仕舞えてる?」

「俺の…あー、いや。見たことあるやつだったんで」

 

 

放ったらかしにしてあったマイクは話しながらケースにしまっておいた。たまたま俺もよく使うマイクと同じだったから片付けは慣れたものだ。

 

 

まあ、音楽家の水橋桜としては顔出ししていないから、俺がマイク持ってるとはバレないようにしたいというわけで誤魔化したが。

 

 

「あーそっか…そりゃそうだよねぇ」

「ん?何がっすか」

「あーいや何でもない!さあ行こうか!」

 

 

よくわからん返事をされたが、まあ長居している場合でもないからいいか。さっさと行こう。

 

 

「お姉さんはこっちでずっと歌ってるんですか?」

「まあね。これでも昔は仲間と一緒に歌ってたのよ?日本で。」

「そうなんですか?」

「うん。でも色々あってね、結局グループは終わりになって」

 

 

…昔は仲間とグループを組んでいた?

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

これでも音楽界に生きる身で、かなり広範囲にわたって情報を拾っている。だが、こんな人がどこかのグループに所属していたという記憶はない。

 

 

ただ見落としただけなのか?

 

 

「当時はどうしたらいいかわからなかったし、次のステップに進めるいい機会かなーとか思ったりもしたわね」

「…」

 

 

なんだろうな。

 

 

流れが、今のμ'sに似ている気がする。

 

 

μ'sの状況とか、これでもう終わらせることとかは穂乃果や茜から聞いている。その流れが、この女性が語る過去に似ている。

 

 

同じことを思ったのか、不意に穂乃果が足を止めた。

 

 

「ん、どうしたの?」

「それで…それで、どうなったんですか?」

 

 

辿った道が近いなら。

 

 

その結論も、参考になるかもしれない。

 

 

俺も足を止めて黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「簡単だったよ」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

「とっても簡単だった」

「…答えになってませんよ」

「そう?じゃあこう言おうかな。今まで自分たちが何故歌ってきたのか。どうありたくて、何が好きだったのか。それを考えたら、答えはとても簡単だったよ」

「そんな回答で理解できるやつじゃないんですよね」

「ふふっ。それでいいの」

「は?」

「わからなくていいの」

「はあ」

 

 

いいこと言うかと思ったらはぐらかされた。

 

 

「すぐにわかるから」

「…そうですか」

 

 

だが、適当なことを言っているわけじゃないことは、真面目な表情からすぐにわかった。なぜそんな、先が見えているかのような物言いをするのか疑問には思ったが、なんとなく聞かないでおいた。

 

 

というか、聞く暇は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くから、園田の声が聞こえたからだ。いつのまにか着いていたのか。

 

 

声を聞いて、穂乃果は不意に走り出してしまう。まあやっと帰ってこれて嬉しいのだろう、放っておこう。

 

 

「…お礼くらい言っていけよ」

「いいのよ。それよりも、ちゃんと見ててあげてね」

「何で俺が」

「じゃ、私はあっちで旦那が待ってるから」

「おいこら」

 

 

見知らぬ女性の方は言いたいことを言うだけ言って離れていく。マイクも預かりっぱなしだし、追いかけようかとも思ったが…

 

 

「何やっていたのですか!!!!」

 

 

園田の恐ろしい怒声が聞こえてそっちに気を取られているうちに、女性は居なくなってしまった。いくら人通りが多いとは言え、この一瞬で姿をくらますとかなんなんだあの人。

 

 

まあ居なくなったものは仕方ないからこっちの心配だ。

 

 

「海未ちゃん…」

「どれだけ心配したと思ってるんですか…!」

「ほんとだよ全く。あとモバイルバッテリー買っておきなさい明日中に」

「珍しく茜がキレてるからマジで反省しなさいよあんた」

「ご、ごめんなさい…。あ、そうだ!実はここまでね…あれ?途中で会った人とここまで…」

「どっか行っちまったぞあの人」

 

 

園田には抱きつかれ、茜には文句を言われる穂乃果が振り向いた先にはもうあの女性は居ない。俺も見失ったからどうしようもない。

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………人?」

「誰も居なかったにゃ」

「居なかったよね。創一郎誰か見えた?」

「いや、この2人しか居なかったはずだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

()()()()()()ならともかく、()()()()()とはどういうことだ?

 

 

創一郎ならどう考えても見えるはずだ。並んで歩いていたし、あの女性だけ人波に紛れたなんてことは…あり得るか?

 

 

「桜さん居たよね?!女の人!!」

「お、おう…女性のアーティストが…」

「創一郎に見えてないのに近くにいた君らだけが見えていたって、どんだけステルス性能高いのさ」

「ま、まぁ…そうだな…」

 

 

いやそんなまさか。創一郎が見落としただけだろ…そうだよな?

 

 

「まあいいわ。早く部屋に戻って明日に備えましょ」

「あ、穂乃果ちゃん帰ってきた!」

「よかったぁー」

「おっ無事帰ってきたなぁ!!俺ちゃんのシナリオはアメリカでも絶好ちょおおおお?!?!」

「俺たちにこれだけ心配させておいてなーにが絶好調なんですかァ??」

「そ、創一郎クン…なんかやべーやつのオーラ出てる…ベクトル変換とかしちゃいそうな雰囲気出てる…ごめんて…マジごめんて…さっきまで希ちゃんにも説教されたんやて…」

 

 

他のメンバー&天童さんも出てきた。いや天童さんは何してんだ。

 

 

「…ねえ、みんな!」

「どうしたの?」

「ごめんなさい…私リーダーなのに、みんなに心配かけちゃった」

「もういいわよ」

「その代わり、明日はあなたが引っ張って最高のパフォーマンスにしてね?」

「私たちの最後のステージなんだから」

「ちょっとでも手を抜いたら承知しないよ!」

「…うん!」

 

 

まあ、綺麗に纏まったようでなによりだ。俺もさっさと戻ってシャワー浴びて寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと桜」

「うっ…な、何だよ茜」

 

 

 

 

 

 

 

と思ったら、珍しくドスの効いた声で茜が話しかけてきた。何だおいこえーな。

 

 

「一回ぐらい電話出てくれても良かったんじゃない?」

「あ?…………あ、電話か…おう、そういえば、そうだな…」

 

 

焦っていて全く確認していなかった携帯には、凄まじい量のメールやら不在着信やらが届いていた。狂気すら感じる。

 

 

「めっっっっっちゃ心配したんだぞ」

「俺の心配なんかs

「穂乃果ちゃんの心配に決まってんだろ誰が君の心配なんかするか」

「ぉ、ぉぅ…すまん」

 

 

やべぇ、茜がマジでキレてるの初めて見た。結構怖いぞこいつ。

 

 

「結局1時間も待ってないとはいえ、10人みんな心配してたんだぞ。一回くらいリアクションくれても良かったじゃんね」

「ああ、そうだな…すまん」

「まあまあ茜クンよ、桜も穂乃果ちゃんも無事戻ってきt

「戦犯は黙っててください」

「ほんとっすよ、あんたのシナリオのせいで本気で怒られてんですから」

「いやマジすまんて」

「道端で土下座しようとしないでください」

 

 

天童さんはマジで反省しろ。

 

 

「見知らぬ女性シンガーのマイクも穂乃果が預かってるままだし…」

「…ん?見知らぬ女性シンガー??」

「そうっすよ。ちゃんとマイク返す算段も考えてあるんでしょうね??」

 

 

 

 

 

「なんのことだそれは?」

 

 

 

 

 

「はあ?」

 

 

素でリアクションしてしまった。

 

 

なんだ、あの人は天童さんのシナリオにも出てこない人だったのか?

 

 

「…あの道のりで人と会うなんてあり得るか?」

「不穏なこと言わないでくれます?」

「ま、なんとかなるさ!とりあえず戻ってポーカーやろうぜ」

「「嫌です」」

「わー辛辣ぅー」

 

 

…まあ、気にするほどのことでもない…のか?どうにかしてマイクを返さないといけないんだが。

 

 

とりあえず、それは明日以降考えよう。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

さあ出てきました女性シンガー。原作よりテンション高めです(多分)。波浜君や滞嶺君どころか天童さんのシナリオさえもすり抜けた女性シンガーさん…一体何者なんだ…笑
あとさりげなく女性シンガーさんを既婚者にしました。
久しぶりに出てきた天童さんは見えないところで希ちゃんに説教され、滞嶺君に脅され、波浜と水橋君に怒られるというかわいそうな役回りしてます。だいたいいつもかわいそうな天童さん…笑

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