Linkage   作:enz

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敵にまわったセカイ

 5月最初の日曜日、東京にある雨岡新技術研究所、通称ANTの本社で、いつものように、人間派を名乗る組織によるデモが行われている。しかし、この日のデモは、いつもと雰囲気が違った。

 東京のとある港に、唯一、雨島諸島へ行くことが出来るフェリーが停泊している。研究者は、雨島に住んでいるものが多い為、普段、あまり使われていない。けれど、大型連休中、雨島学園が休校となっており、教師陣が島外へ出ることを推奨した為、多くの生徒が利用している。

 利用者が多いからこそ、この日、人間派によるデモが行われている。

 

 

 

 

 病院の個室には、入院中のほのかと、お見舞いの、天野司がいる。

「ほのか、さっき黒月生徒会長が教えてくれたんだけどな、ユニオンの治せる人が、明日戻ってくるらしい」

「じゃあ、やっと退院出来る訳ですな。もう、智花にまで尋問されて、大変だったよー」

 ネクストに関する情報に、曖昧な点が多かった為、痺れを切らした日向智花が、自ら乗り込んできていた。

 退屈しきったほのかを慰めながら、ゆったりとした時間をすごしている。

「特訓も、まだ終わってないんだけどな。目星はついたきがするよ」

「でもね、八神さんが言ってた様に、何かあるんだと思うから、しっかりと考えてね。司は、まだ踏み止まれるんだから」

 ほのかは、八神刹那達が、何故ネクストになる前に考えろと言っていたのか、その理由を知らない。けれど、何かしらの不利益があると、考えていた。

「俺に、踏み止まる理由はないよ。それじゃあ、特訓に戻るから、おとなしくしてろよ」

 そう言い、司は病室から出て行く。

 

 

 

 

 その日のお昼頃、ANT本社と、フェリー乗り場で行われているデモの人が減り始め、何人かが昼食を取っている。人は減っているが、車が増えていた。

 お昼過ぎには、航行時間の関係上、最も雨島へ戻る生徒の数が多くなる。多くの生徒を乗せたフェリーが出航する。その時、デモ隊の車から、武装した集団が降り、出航直前のフェリーへ雪崩れ込む。警備員は、最低限しかおらず、武装集団をとめるとこは出来ない。

 フェリーに乗っている生徒は、全員が喪失者(ロスト)だが、ギアを所持しておらず、効果的な抵抗が一切できず、完全に制圧された。

 武装集団の命令により、フェリーはまっすぐ雨島へ向けて、出航を開始する。

 フェリー内で、生徒とフェリーの職員が、ラウンジに集められている。その中には、息抜きに外出していたPaladinもいた。

「これで全部か?」

 隊長格の男が、部下に確認をとる。

「各班からの報告よれば、これで全部です」

「ブリッジには、船の運航に必要な最低限の人数だけ残してあります」

 そう報告すると、部下達は、生徒の監視に戻る。フェリーの職員は、普通の人間のみである為、監視も、少人数だ。けれど、生徒の監視は違った。全員が喪失者(ロスト)である、雨島外の人間では、生徒の力量などの情報が無い為、男達が取り囲み、全ての行動を監視していた。

「誠、どうする」

「どうするも何も、俺達だけじゃ、どうしようもない」

 円藤緑と最上誠が、小声で相談するが、有効な手立てが無かった。

「誠君、貯蓄型(チャージタイプ)の私なら、ある程度の抵抗は出来るよ」

「一人だと、周りを危険に晒すだけだ。今は、おとなしくするしかない」

 チームメンバーの北上きずなが加わるが、名案は見つからない。

「なら、電気属性の私も、生体電流とか、いろいろ引っ張れるよ」

「美月、その使い方は、体力の消耗が激しいだけだろ」

 根津(ねづ)美月(みつき)が行動を起こすことに賛成するが、デメリットが多い為、チームメンバーの水無瀬(みなせ)(まもる)に止められてしまう。Padadinは、人質となっているチームでは、一番の実力を持つチームである為、作戦を考えるが、突破口を見つけることが出来ない。それどころか、不幸を引き寄せてしまう。

「お前ら、こそこそと何を話している」

「すみません。仲間が、脅えてたので、励ましてました」

 男達に気付かれてしまい、あわてて言い訳を口にする。納得はしなかったものの、下手に刺激し、異能により抵抗されるのを恐れた男達は、「黙ってろ」そう言い、持ち場に戻る。

 これ以上の会話は危険と判断し、Padadinは、一度会話を止める。

 

 

 

 

 フェリー乗り場の襲撃直後に、雨島学園へシージャックの連絡が入る。

 すぐさま、教師全員で、PDAを使った緊急会議が開かれ、生徒会長である、黒月紫苑へ連絡が入れられた。職員室にいた秋萌夕と冬凪朝の二人も、会議に参加する

「フェリーが、シージャックだなんて……」

「兎に角、要求がないと、動きようがないですね」

「生徒の無事を祈るばかりです」

 教師陣では、何も打つ手が無く、要求があった際の対応を考えるほかない。けれど、紫苑は、違った。PDAを使い、ユニオン全員と連絡をとる。

「今わかっている範囲のことは、データで送りました。バーストの対応をしてるとは思いますが、確認はしておいてください」

「シージャックか、こっちは、ちょっと時間かかるから、戻れないぞ」

「次の予定地までの時間を考えると、俺も、戻れそうにない」

「俺達、七星も、今から地上にあがるには、かなり時間かかるぞ」

 全員が、過密スケジュールで動いている為、そうそう戻って来れそうになかった。

 どうにか調整をしようとするが、手をつける方法がない。

 対策を考えていると、職員室から連絡が入り、シージャック犯が、フェリーの回線を使い、紫苑に対し、直接伝えたいと、要求してきた。

「お前が、生徒会長か。我々は、お前達が、人間派と呼んでいる集団の一つだ」

「私が、生徒会長の黒月紫苑です。生徒や、フェリーの職員は、無事なんですね」

 隊長格の男が、直接連絡をしてきた。けれど、紫苑の話は聞かず、一方的に話を続ける。

「我々は、お前達化物共と、お前達に協力する売国奴共に、制裁を加える為、立ち上がった。要求は簡単だ。雨島諸島にいる、全ての化物を港に集めろ。我々の手で、徹底的に排除する。要求に従わなければ、船にいる化物を排除し、船の職員には、尊い犠牲となってもらう」

 紫苑は、その要求に従う訳には行かなかった。要求に従ったとしても、フェリーの職員も、制裁の対象になっている可能性が高いからだ。

 紫苑は、自身の異能を使い、気付かれないようにPDAのチャット機能を操作し、ユニオンメンバーに情報を送り続ける。

「要求の話の前に、一つ言っておくことがあります。通常の航路に戻しなさい。その海域は危険です」

「時間稼ぎか?無駄だ。化物の言葉に耳を傾ける気はない」

 隊長格の男は、紫苑の言葉を聞かず、話を続ける。

「迷っているようだな。我々は、お前達に協力をしているANTも取り囲んでいる。この意味がわかるな」

 男達は、手札を一つ切る。だが、これは、紫苑に対して、いや、ユニオン全員にたいして、絶対に切ってはいけない手だ。

 紫苑は、ユニオンメンバーに、ANTが危険なこと。そして、全員にとって、親と呼んでもおかしくない存在である天岡新十郎に、危険が迫っていることを伝える。

「俺、15分で戻る」

「私、20分で戻ってみせる」

「僕なら、30分あれば戻れる」

「私も、絶対に戻る」

「俺も、戻ってみせる」

「僕も、戻るよ」

 バースト対抗中にもかかわらず、戻れそうなメンバーが、確実に戻ることを伝えてきた。さらに。

「絶対に後悔させる」

「いや、後悔で済ませるわけないよ」

 全員に、火をつけてしまう。

 

 

 

 

 武装集団の隊長格の男は、マスコミにも、情報を流しており、何台かのヘリが、フェリーを追いかけていた。

 教師陣は、フェリーとマスコミのヘリに対し、現在の航路の危険性を伝える為、通信を試みるが、フェリー側は通信を受け付けず、ヘリに対しては、通信回線に割り込み、一方的に話しかけるしかない。

 男達も、マスコミも紫苑の言葉の意味を知らなかった。なぜフェリーが、普段は蛇行するように進むのかを。

 

 

 

 

 隊長格の男が、雨島学園へ連絡をしている中、監視をしている男達は、勝手な動きをしていた。

「班長、人質の化物は、こんなに必要ですか?」

「どのみち、皆殺しにするのですから、早いか遅いかの違いだと思います」

 喪失者(ロスト)に対して、恐怖しか感じない男達は、これだけの数を相手にして、自分達の持つ武器だけで、対処できるのか、心配だった。

「馬鹿者、下手に攻撃し、化物に、力を使う機会を与えてどうする。それに、一体でも減れば、要求を突っぱねる可能性がある」

「しかし……」

「下手な攻撃や、殺すのはダメだ。でもな、一応は人間と同じ姿形だ。好きにしろ」

 班長の言葉に、男達は、生徒を見る目を変える。

 生徒にも、その言葉が聞こえており、男子生徒は、自分達のチームの女子生徒を守るように、座る位置を変えた。

「は!いっちょまえな事しやがって」

「男に用はない。俺達の邪魔をすれば、殺すぞ」

「そういえば、そこの女、さっき喋ってたよな」

「俺は、そっちのちっこい方がいいな」

 男達は、きずなに狙いを定めるが、一部は美月を狙っていた。きずな達を連れ出そうとするが、誠が邪魔をする。

「させない。やれるものなら、やってみろ」

「なら、お望み通り、殺してやるよ」

 そう言いながら、男が引き金を引く。

 けれど、銃口から、銃弾が発射されることは無かった。

「どうした。できないのか?」

 誠が、言い放つ。男達は、何故銃弾が発射されないのか、理解することができなかった。しかし、誠は、その理由を知っていた。いや、誠が原因だった。

 綱渡りの制御だった。引き金を引き、撃鉄が降り、発火した瞬間、その火を制御し、火薬が燃えるのをふせいだ。しかし、火のそのものが無くなった訳ではない。つまり、制御を手放した瞬間、弾が発射される。

 男達も、銃を扱う訓練をしているだけあり、銃口を自分自身へ向けるようなことはしなかった。

「ああ、もういい、お前の相手をする必要は、ないからな」

「いいのか?お前は、俺の異能を知らないだろ。背中を見せたとたん、何をするかわからないぞ」

 精一杯の抵抗だった。誠は、チームメンバーを傷つけることは許さない。

 そんな誠の態度を見て、他の生徒も、毅然とした対応をする。

 男は、ナイフをチラつかせる。

「別に、お前を殺す方法は、銃だけじゃないんだぜ」

 誠に狙いを定め、ナイフを振り下ろす。誠の心臓を捕らえ、突き刺さる。はずだった。きずなが自身の異能(磁力)を使い、ナイフを壁に貼り付ける。

 男は、ナイフが勝手に動いたと錯覚し、異能の力に恐怖する。

「化物め、妙な真似しやがって」

 そう言うと、背中に回していたマシンガンに手をかける。

 誠は、同じように発火を制御しようと集中するが、その様子をみて、男達が誠に対し、暴行を加える。

「さっき弾が出なかったのは、お前の力か」

「この化物め」

 なすすべなく、誠は耐えるが、痛みに意識を奪われ、異能の制御に集中することができない。

 誠は、微かな意識の中、チームメンバーとした約束が守れなくなることに、心の中で謝る。けれど、誠を囲む暴力の嵐が、雷によって払われる。

 美月が、生体電流など、集められる範囲から、電気をかき集め、放出した。雷撃により、床に敷かれている絨毯から、火が出る。

「それ使って」

 その台詞を皮切りに、Paladinが反抗を開始する。

 男達も、銃の引き金を引くが、銃弾が詰まり、弾が出てこない。

「くそ、ジャムったか」

「何、全員だと」

 きずなが、時間をかけ、磁力により銃の構造にダメージを与えていた。

「火の制御、といていいよ」

 その言葉に反応し、制御を解くと、いくつかの銃が勝手に詰まる。

「火、ありがとう」

 誠が、絨毯を燃やしている火を制御し、自らのものとする。

 その様子を見て、緑も、ラウンジにおいてある植物に、制御を伸ばす。

「捕まえるなら、俺の力が向いてるよな。守、お前は、ここじゃ向いてない、臨機応変に対応してくれ」

 男達は、銃を封じられ、刃物を奪われ、身体能力では、喪失者(ロスト)に敵わない。形勢が逆転する。

「どうする。これ以上の抵抗は、無意味だ」

 誠は、そう宣言するが、隊長格の男が残っていた。

 紫苑との通信を打ち切り、誠達に、一つのスイッチを見せる。

「化物が調子に乗るな。この船には、爆弾を仕掛けてある。この意味がわかるな」

「く……」

 単体であれば制圧できるが、フェリー自体に何かをされていると、誠達は、何も出来なくなる。

「まったく、お前らも、余計なことをしようとするからだ。そこの電気を操るやつ、何かをするそぶりを見せれば、スイッチを入れるからな」

 美月であれば、電気を操り、スイッチを掌握することも可能だが、その言葉で、動きを封じられる。

「隊長、すみません。」

「好き勝手しやがって、こいつら、許さねぇ」

 男達が、鬱憤を晴らそうとする。けれど、隊長格の男が、それを止める。

「お前達も、勝手なことをするな。そのせいで、この化物共を付け上がらせたんだろ。だがな、お前には、落とし前を付けさせる必要があるな」

 隊長格の男が、ナイフを引き抜き、誠に近寄る。きずなが磁力を放出しようとするが、スイッチを見せ、それを制する。

 ナイフを誠に向かって振り下ろそうとする。しかし、壁の向こうから、黒い物体が、出現する。

 

 

 

 

 フェリーを外から撮っていたヘリは、黒い物体が、高速で移動しているのを目撃する。それと同時に、何度目かの、雨島からの退去勧告が届く。

「これが、最後通告です。これ以上その空域を飛行するのであれば、私達は、一切の救助をいたしません」

 ヘリの乗組員は、この意味を理解できなかった。

 高速で移動した黒い物体は、その禍々しい翼を、フェリーへと突き刺した。

 

 

 

 

 誠に振り下ろされるナイフが、禍々しい黒い翼によって遮られる。さらに、壁を切り崩し、漆黒の髪の少年が現れる。

「Padadinの最上誠だな。やるなーお前」

 突然の乱入者は、のんきな会話を始めた。しかし、武装集団は、その会話を許さなかった。

「化物め。お前達、何をのんきに寝ている。誰でもいい、殺せ」

 隊長格の男は、部下に発破をかけるが、その異様な雰囲気にのまれ、うまく体を動かすことが出来ない。

「さて、おっさん、投降する気はないのか?」

 いきなりの投降勧告に、憤りを感じ、爆弾のスイッチにかける指に力が入る。

「化物め、何者だ」

「答えてやるよ。ゴールドエンブレム・チームLostWingリーダー、八神刹那だ。ついでに、サービスだ。俺は、不明型(アンノウレッジ)の一人だ。ああ、それと、そのスイッチ、壊したぞ」

 答えたところで、男達には、意味がわからない。

「いつの間に……」

 スイッチを押すが、爆弾は、爆発しなかった。

「化物ねぇ……化物か。おっさん達、雨島宣言は知ってるよな。なら、お前らに対し、化物らしく振舞ってやるよ」

 八神刹那は、その翼を使い、フェリーに切り込みを入れる。

 縦横無尽、無差別に攻撃をしているように見える。だが、その先には、フェリー内に分散している武装した男達がいた。

 血に染まった翼を自らの下へ戻す。そして、その翼を見て、男達は、事態を直感的に理解した。

「お前……俺達の仲間を……許るさねぇ」

「何いってんだ?お前達がしようとしたことを、お前達にしただけだろ」

 刹那は、男達に軽く言い放つ。その言葉に、隊長格の男は、精一杯の抵抗をする。

「お前ら化物共と、我々人間を一緒にするな。我々人間が、如何に尊い存在か、理解できていないようだな」

 化物、その言葉に刹那は、うっすらと凶悪な笑みを浮かべる。

 刹那は、自らの異様な能力を振るい、自らを化物と呼んだ人間達を、踏み潰すことを決めた。

「尊い?何が尊いんだ?70億もいるのに、自分と違うってだけで、蔑み、迫害し、犠牲にする。そんなやつの何処が尊いって言うんだ?あぁ」

 そう言うと、一番近くにいる男の目の前に現れ、男の顔を掴む。

「ぐ……」

 その圧倒的な握力を使い、握りつぶす。骨にひびをいれ、指がめり込む。

 その様子を見て、まわりの男達が、恐怖する。

「その程度で、驚いてるの?」

 刹那から離れていた男の胸から、血に染まった白い翼が生えた。

 白く、機械のようで、輝く翼が血に染まり、突き刺した男を投げ飛ばす。

「なんで、この人達(虫けら)は、自分達がやろうとしてることをされた時の想像が、できないんだろうね」

 空宮あやめは、一瞬で近くにいた男達を切り刻む。返り血が、あやめを汚すが、付いた瞬間から、返り血が消えていく。

 刹那も、男の顔を握りつぶし、返り血を消し去る。

 その常軌を逸した光景を、男達は理解できなかった。

「所詮は、その程度のやつだってことだ」

 極度の緊張状態から、我を忘れ、刹那に切りかかる男もいるが、そのナイフが刹那を傷つけることは無く、ナイフを握る手を掴まれ、その上から握りつぶされる。

 男は悲鳴を上げるが、刹那は、それをうるさいと感じ、あいている手で喉を握りつぶす。男は、そのショックで、一瞬体を跳ねさせるが、そのまま絶命する。

「さて、この海域に、長時間いるわけにもいかないんだよな」

「もう、ほとんど終わってるのか。じゃあ、僕は、ブリッジにいってくるよ」

 風花凛が突如現れるが、フェリーの航路を修正させる為に、ブリッジへ赴く。

 新に、高位の喪失者(ロスト)が現れた事実に、男達は、驚愕の表情を見せる。

「三人も、なんでここにいるんだ。バースト対策の予定は調べてるんだぞ」

「そうか、バーストの予測地を見捨てたんだな」

 バースト対策は、出現する喪失獣(ロストビースト)を全滅させる必要がある。その為、普段であれば、一時間前後はかかるはずだった。

「ああ?お前馬鹿だろ。普段、俺達が本気でやってると思ってんのか?」

 ユニオンは、バースト対策で、力を読まれないように、手を抜き、時間を掛けていた。しかし、天岡が危険に晒されているという理由で、普段は隠している実力の一端を見せていた。

 刹那は、恐怖から倒れ、後ろへ這って逃げる男へ、ゆっくりと歩み寄る。

「や……やめてくれ。俺達が悪かった。まだ、何もしてないんだ。な、た……頼む」

 しかし、刹那は、話を聞き流し、顔を踏み、ゆっくりと踏み潰した。

 あやめも、残った男達を片付けにかかる。

 大した時間もかからず、残っているのは、刹那達二人と、人質となっていた生徒と、フェリーの職員、そして、武装集団の隊長格の男だけになった。

 隊長格の男は、二人の行動に、呆然とするしかなかった。

「さて、後は、あんただけだね」

 あやめの台詞に、我に返る。

「いいのか、ANTの本社も取り囲んでいるんだぞ!」

 隊長格の男は、またしても、最悪の手札を切る。

「もう、そっちは終わってるよ」

 ANT本社には、ほむらを筆頭に、ElementalKnightsのメンバーが向かい、既に制圧が完了していた。

「お前ら……いったいなんなんだ!」

 用意していた最大の切り札を破壊され、三人に対する手立てがなくなる。

「あなたが言ったんですよね。化物って。だから、私達は、その様に振舞ってるんですよ」

 自業自得。そう言いたげな表情だった。

「ふざけるな。俺が化物と言う前から、お前達は化物だった!お前達化物のせいで、俺の家族は死んだんだぞ」

 男は、ロストアイランドが出現し、喪失者(ロスト)が現れ始めた混乱期の犠牲者だった。異能に目覚め、その力を使い、好き勝手していた人間がいる。その事実が、今、喪失者(ロスト)を化物と呼び、差別する理由となっている。

「ハァ、ならお前は、人間のせいで、家族を失ったやつが、関係のない人間を殺してもいいって言うのか?」

 異能に目覚め、力におぼれ、暴れるものもいる。けれど、異能に目覚めたことを理由に、周りから迫害をうけるものもいる。本来は、人間のせいで、喪失者(ロスト)のせいで、ではなく、誰のせいで、と考えるべきだった。しかし、この男には、それが出来ない理由があった。

「そんなこと……そんなことわかっている。でもな、その時の犯人は、その場で殺されているんだ。だったら、誰に復習しろと言うんだ」

 混乱期に作られた対ロスト対策室は、当時、喪失者(ロスト)が引き起こす事件に出動し、収拾という名目で、喪失者(ロスト)を殺していた。

「知るかよ。何か具体的に言って欲しいんなら、諦めろ。って言ってやるよ。別に憎しみの連鎖が、なんて綺麗事を言うつもりもない。自分で決めて、やり遂げろ。だけどな、俺達の邪魔をするなら、容赦なく叩き潰す。」

「それに、私達(あまじま)に対して、憎しみを剥き出しに、牙をむいてくるなら、容赦なく叩き潰しますよ。だから、私達を憎むなとは言いません」

 二人は、憎しみを向けられたとしても、それを受け入れ、叩き潰すという決意をしていた。

「ははは……俺は、何もできないのか。だったら、今ここで、家族の下へ」

 そう言い、袖口に隠していた小型の銃を取り出し、自らへ引き金を引こうとするが、脳からの命令が、指を動かす前に、腕が肩から切断された。

「ちゃんと斬った瞬間に、焼いてやったんだ。感謝しろよ」

 刹那は、自身の異能で、腕を切り落とし、断面を焼いていた。

「甘いよね。あなたは、天岡さんを危険にさらした。その罪が、死んで解放されると思ってるの?」

 天岡を危険にさらした。それは、ユニオンにとって、絶対に許してはいけないことだ。

「さて、話はここまでだ。まずは後悔させて、その後、絶望させるか」

 隊長格の男は、言葉を交わすことで、少し分かり合えた気になっていた。だが、それはただの勘違いだった。ユニオンにとって、この男は、毛ほども気にかける必要の無い人間だった。

 二人が、ユニオンを代表し、男を私刑に処しようとする。

 しかし、誠が、二人に割ってはいる。

「二人とも、そいつだけでも、ちゃんと法で裁かれるべきだ」

 その言葉に、二人は不思議そうな顔をする。

「ああ、怪我治してやるよ。」

 そう言い、指を鳴らすと、反応する暇も無く、誠達の怪我が消える。

「最上君、こいつはね、天岡さんを危険にさらしたんだよ。それの罪が、法で裁かれて、償えば許されると思ってるの?」

 そもそも、ユニオンの考えや、天岡に対する感情は、他の生徒にも、理解できない。

「俺達は、あんた達に助けられた。でも、俺達が人間だからこそ、見過ごすわけには行かない」

「人間だからこそね……こいつは、俺達やお前達を、人間とは、認めてないぞ。それでもか?」

「いろんな人がいるのは、わかってる。それに、こいつは、こいつなりに行動を起こす理由があったんだ。その理由を認める気はないけど、それでも、こいつは法で裁かれるべきだ」

 真っ直ぐに刹那の目をみる誠に、本気を感じ取るが、元々、今、殺す気はなかった為、予定通りの行動を開始する。

「私刑は実行するぜ。その後で、法で裁かせるんだからな。そんじゃ、両手両足切り落として、自殺できないように、歯も粉々にしておくか」

「そだねー、必要になったら直せばいいんだし」

 そう言い、二人は、もっとも痛くなるように、実行に移す。二人にとって、この男は、モノも同然の扱いだった。

 その光景に、誠達は、口を出せずにいた。

「これが、化物として振舞うってことなのか……」

 

 

 

 

 フェリーへ向かった三人は、それぞれ次の現場へ向かい、雨島へ戻らなかった。

 雨島港では、紫苑がフェリーの到着を待っていた。そして、到着と同時に乗り込む。

「皆さん、無事ですか?」

「生徒会長、あの人達は、一体……」

 誠は、フェリーでの出来事を伝えるが、手ごたえを感じなかった。

 男達の死体は、研究所の警備員が撤去し、隊長格の男だけが残される。刹那達が去り際に、必要だからと、全てを治し、拘束していった。

「貴様も、なんなんだ……」

 紫苑は、何をする訳でもなく、ただ見下していた。

「一つだけ。喪失者(ロスト)があなたの敵になったのかもしれません。けれど雨島を敵にしたのは、あなたです。今後、生き残ってしまったことを後悔させてあげます」

 そう言うと、紫苑は、生徒を引き連れフェリーを降りる。




こんばんは

章の名称を変更いたしました。

今回は、今まで以上に、何故か苦労しました。

このあたりで章がかわるのですが、ちょうどいい区切りがどこになることやら。

ちなみに、登場人物の台詞で、人に対し、「直す」の方を使っていますが、誤字ではなく、意図的です。理由を読み取れるように書けていればいいのですが。

今回も、お付き合いくださり、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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