6月に入り、梅雨の季節だけあって、雨が降り続けている。
雨という気象条件での封鎖領域の探索は、危険極まりない為、通常の授業を延長したり、下級生の制御訓練の付き添いがメインとなる。
その中でも、ネクストになった三チームには、付き添いの依頼が殺到する。しかし、その中でも、Laboだけは、依頼を受けず、与えられている研究室に篭りきっていた。
「舞、準備はいいな」
リーダーである日向智花は、実験を始める為の確認をとる。
「大丈夫です。この子も、万全ですから」
矢吹舞が、ユニオンによってもたらされたデータを元に、作り上げたギアを手にし、答える。
一見、ただの小さな棒だが、ユニオンとANTの研究者が作り上げたギアのデータを元に、Laboが作り上げた、単可変型単属性ギアである。四人の中で、一番、オリジンの精密な操作を行えるのが、舞である為、風属性の
「なら、舞のタイミングで始めてくれ」
そう言いながら、鈴木五十鈴と松下紳に、記録を取るよう指示する。
その言葉を聞き、意識をギアに集中させる。
「Realization」
その言葉と共に、ギアにオリジンを流し込み、形を変化させる。
自身のオリジンを、予め決めた波長に調節し、流し込み続ける。変化が完了したとしても、流し込むのをやめると、途端に元の形に戻ってしまう。その為、極度の集中状態を維持する必要がある。
「データ上の物を再現しただけですからねー、まぁ、出来て当たり前ですねー」
五十鈴が、いつもの様に、日によって違う口調で言い放つ。
ユニオンからの依頼では、複可変型複合ギアの強化だが、そこに至るまでの過程は、データでしか知らない為、順々にそこまでの工程をなぞる必要があった。
「舞、そこまででいい。再現は、出来た」
「とりあえず、可変機構に関しては、大丈夫ですね。それにしても、この子を使ってると、消耗が激しいですね」
「これを、いとも簡単に扱う、ユニオンってどれだけのオリジンを持ってるんでしょうね」
紳は、データを見て、ユニオンの異常さの一端を知る。
「とりあえず、再現したが、
「まぁ、単属性だからねー。複合属性なら、また違うのかもなー」
智花達は、複合ギアを作った経験はあるが、完全にノウハウとして持っている訳ではない。さらに、その経験でも、手探りで作った為、何をどうすれば、効率的に使えるかということも、知らなかった。
今回のギアも、データがあり、そこからの復元にも関わらず、かなりの時間がかかっている。
「それに、依頼のギアは、複可変型ですから」
そう、智花達が復元したのは、単可変型単属性ギアである。単一属性の
「まったく、こういうのを、オーバースペックとか、オーパーツとか言うんだろうな」
智花も、自分達の知っている領域を、明らかに超えていることは自覚していた。だが、不敵に笑いながら、続ける。
「それだからこそ、挑みがいがある。行き詰っての依頼なのか、実力を試しているのかは、知らんが、ユニオンからの挑戦だ、度肝を抜いてやるぞ」
リーダーである智花が、今までに無いほど燃えている。智花の飽くなき向上心に引き寄せられ、その実力を認めているからこそ着いて来た三人は、どんなに小さなことでも見逃さないように、データを整理してく。
「まったく、Laboに機密情報を公開するなんて……」
「LostWingってチームは、そもそも、自由気ままなもんだろ」
生徒会室で、黒月紫苑と双月氷華が雑談をしていた。しかし、お互いが相手を見ず、雑務に追われているのは、いつもと変わらなかった。
「二人からの釈明では、ネクストになったチームに、可変型ギアを持たせた方がいいって言ってましたね」
「確かに、ネクストになった以上、ギアから力を引き出す必要は無いからな。ギアには、媒体としての機能と、力を強化する機能があるが、二つ目の機能を理解している一般生徒はいないからな」
「機能というより、
ギアを媒体として使うと、使用者の制御能力に応じて、消耗が変わるが、力を載せ、強化する場合、その消耗は、微々たる物になる。
「まぁ、三チームに、可変型ギアが行き渡るのであれば、よしとしてやろうじゃないか」
LostWingに関する話し合いが終わり、雑務に没頭する。人間派による襲撃移行、その火消しなどに追われ、雑務が増えていた。
暫く無言が続き、氷華が思い出したように、口を開く。
「喪失者保護連盟からの申請、また来てるな。理事会で否決されたのが、納得できないんだろうな」
喪失者保護連盟は、融資をする代わりに、ANTと手を切り、自分達だけと組むよう再三要請がきていた。雨島学園は、法律の枠組みの中で作られたというより、雨島学園の為に、特例法の枠が作られている為、理事長以外の理事は、非公開とされている。それ以外にも、不透明な部分が多すぎる為、何度断っても、申請を続けてきていた。
氷華は、はき捨てるように続ける
「そもそも、連盟の議長が、
「加盟企業は、第二喪失実験の事を知るはずがありませんから」
「まぁ、そうだな。私達が脱出する時に、あそこの傘下の研究所は、文字通り、塵になってるからな。残ってるのは、私達が持ち出したデータだけだし」
「あのデータが、
「まったくだ」
二人は、昔を懐かしんでいるが、楽しい思い出を、思い出している訳ではなかった。
「そういえば、紫苑、ANTの社長から頼まれてる件って解決したのか?」
「いいえ、介入中だと報告は受けていますが、まだだそうです」
「そうか、ANTの方と連盟の方、やばい問題が多いな」
「そうですね。それに、彼らが、何もしなければいいのですが」
その呟きを最後に、会話が途切れる。
「うがーーーー」
高等部用の食堂で、Linkageリーダー、夜星ほのかが、連日の雨に、イラついていた。
五人は、下級生の手伝いの課題や依頼をこなしていたが、水輪島での探索に、日数を掛けられていなかった。
「ほのかは、荒れてるわね」
「司、ちゃんと、慰める、べき」
皐月詩歌と四葉空が弄り始めた為、細川匠が、いつものように気配を消す。
天野司は、そんな様子を恨めしそうに見ながら、うなだれるほのかの頭を、そっと撫でる。
「人に教えるのも、自分の成長に繋がるって言うだろ。そんなんだから、いつも、意気揚々と封鎖領域にいって、大暴れする、暴風隊長なんて呼ばれるんだろ」
「ふっふっふ、つーかーさー。私の前で、その名前を出すとは……、覚悟は出来ているのかなー」
かつて、雨島学園において、唯一の部活型と呼ばれるチーム・新聞部、そのWEBページに、トップを競う三チームのメンバーに異名をつけようという企画があった。その際に、多くの目撃証言などから、暴風隊長という異名が付けられていた。
「はぁ、司君はだめだね」
「バカ」
「残念王子の異名は伊達じゃないな」
6月の晴れの日、久しぶりの快晴ということで、多くのチームが封鎖領域に向かっている。水輪島への立ち入りが許可されている、Linkage・Paladin・Laboも例外ではなかった。
「松下君の運転って丁寧だよね」
「紳は、Labo内で、機械操作において、一番の適任者だからな」
「日向、お前らのチームは、最近研究室に篭りきってるらしいが、何やってるんだ?」
何気ない雑談のつもりだったが、最上誠は、無意識のうちに、とてつもない地雷を踏んでしまった。疑問を口にしきった瞬間、誠も、己の失態を悟る。
「最上誠、きさ……」
「大丈夫、大丈夫だから、最上君も、聞くつもりは無かったし、ちょっとした雑談で口をついただけだから」
「そうそう、守秘義務とかそういうのわかってるから、答えなくていいから。な、な。な!」
誠は、慌てて智花の口を塞ぎ、そこから出るであろう罵倒の数々を塞き止める。智花が首を縦に振り、理解を示したところで、口を塞いだ手を離し、一安心するが、それは早計だった。
「最上誠、お前は、女子生徒の口を無理やり塞ぐのか。そして、強引に同意を取るとは、言い逃れの出来ない変態だな」
「うわ、最上君、サイテー」
智花のしてやったりという目に合わせ、ほのかも棒読みで、追い込む。そのやり取りを受け、誠は、ぐったりとうな垂れ、この二人には勝てないと、悟った。
そんな会話をしていると、ようやく、3の島である、水輪島へと辿り着く。
「それじゃあ、戻るまで自由時間だね」
「ああ、そうだな」
「夜星ほのか、最上誠、へまはするなよ」
そういい、三つのチームは、それぞれ出発する。
Linkageは、山の上へ行く為、登れる場所を探して、山の周りを回ることにした。
山とは言っているが、崖にといっても可笑しくないレベルで、そり立っているため、雨島レポートで確認したところ、上へ行く為の洞窟があると、記載されている。けれど、その位置までは、記載されていないので、自分達で探す必要があった。
水輪島では、中型
「いっけー」
ほのかが、掛け声とともに、風を纏ったギアを振り下ろす。自身の力を直接、風に変換し、ギアに纏わせる。風が、ギアから力を吸い上げ、さらに力強く、吹き荒れる。その一撃は、周囲を巻き込み、複数の中型
暴風の中に、数多の風の刃が紛れ込む。それは、中にいる中型
「前は、中型っていえば、かなりの強敵だったのに、ネクストになっただけで、こんなに変わるのか」
「ギアの消費が、ものすごく減ったのが、ありがたいわよね」
戦闘時間の短縮と、ギアの消費が減ったという二つの事柄が、島の探索に、優位に働いている。
時間を掛けず、奥へと進むことが出来、この日、とうとう上へと登る為の洞窟を発見する。
「暗い、狭い、細い」
空は、感じたことを、そのまま口にする。
「お化けでもいるんじゃねーの?」
匠は、ちょっとした軽口だったが、空が本気で襲い掛かってきた為、心の中で後悔した。
「二人とも、じゃれてないで、行くよ」
二人の様子をみて、声を掛け、洞窟を進む。
司が、火を生み出し、明かりを確保すると、薄暗い洞窟の状態が、見て取れるようになるが、明るさに引かれ、多くの
詩歌は、PDAを使い、洞窟内のMAPを作る。後々の為に、分岐点の記載も忘れない。
「ここが、上に繋がってるって雨島レポートに載ってるってことはさ、ユニオンの人達が、既に調査したってことだよね」
「ああ、きっとそうだよな。でも、地図までは載せなかったと」
雨島・双子島・水輪島、現在わかっているだけでも、この三つの島は、ほのか達が足を踏み入れる前から、ある程度の設備が作られていた。よく考えれば、自分達がトップチームの一つと呼ばれていても、生徒会長や、風紀委員長のような雲の上の存在もいた。だとしたら、この先の他の島にも、ユニオンの手が加えられている事は、容易に想像が付く。
「今は、レールが敷いてあるかもしれないけど、雨島学園を卒業した先は、自分達で切り開かないといけないんだから、兎に角、自分達の出来ることを、一つ一つ積み重ねて行こう」
奥へ奥へ進むと、水の匂いが漂ってくる。
開けた空間に出ると、そこには大きな湖があった。
「地底湖っていうのかな?」
「周り、壁、天井、光ってる」
そこは、山の中にある、大きな空洞だった。地下水が溜まり、湖となっていた。
そこで、休憩を取ろうとするが、一つ、大きな問題があった。
「さてさて、地底湖の主ってとこかな」
「いや、こんだけいっぱいいるんだから、主とか、関係ないだろ」
「司君、ノリわるいわね」
「空、電撃は気をつけろよ。水が多すぎる」
「言われ、なくても、わかって、る」
ここに住み着いているのか、多くの水生生物の形をした中型
ほのか達にとって、この数も、中型
「ゆっくり、下がるよ。一本道なら、対処も楽だから」
ほのかの指示に従い、元来た道を引き返す。水生型
「ほのか、どうする?少しずつおびき寄せるか?」
司の提案に、ほのかは、首を横に振る。
「数が多いし、下手に手を出して刺激するのもよくない。今日は、ゆっくり進んだから、時間もかかったし、休める場所もないから、戻ろうか」
ほのかの提案にも、一理ある為、今日は切り上げて、戻ることになった。
船まで戻ると、既にPaladinが戻っていた。
「夜星、思いのほか早かったな」
「まぁね、でも、それなりの成果はあったよ。そっちはどうなの?」
「ふっ、こっちも、かなりの成果があったぞ」
お互い、意地をはり、対抗心を燃やしていた。お互いが、お互いをライバルとして認め、お互いのチームをライバルとして認識しているからこその関係だった。
お互いの成果を確認し、情報交換をしていると、Laboが戻ってきた。しかし、その手には、見慣れぬギアを持っていた。
「お帰りー」
「夜星ほのか、最上誠、早いな」
「なぁ、日向、今回は、そのギアのテストだったのか?」
その疑問に対して、智花の目が細くなったのを感じ取り、誠は、己の失態を理解した。
「最上誠、貴様は馬鹿か。研究に関係している以上、何も話すわけがないだろう」
そう言いながら、誠にギアを突きつけ、続けた。
「本来なら、そう言うんだが、今の段階までなら、公開の許可がでている」
そう言いながら、船の準備をする。
「皆さん、帰りながら、話しましょ」
智花たちが、船の準備をしながら、説明の準備をしている為、ほのか達と、誠達は、慌てて乗り込むことになった。
「さて、今回のギアだが、依頼主は、LostWingだ。全ては明かせないが、現段階では、この単可変型ギアだな。単属性と複合の両方を持ってきているがな」
智花は、自身の持つ赤いギアを棒状に戻し、説明を開始する。
「この状態が、待機形態だ。そして、オリジンを特定の波長にして、流し込むと、設計した武器形態に変化させる事が出来る。ユニオンが、常用しているらしいぞ」
その言葉を聞き、八神刹那から、特訓を受けたとき、最後に使おうとしていたものを思い出す。
あの時は、黒い棒状の物体だった。おそらく、可変型複合ギアだったのだろうと推測する。
「特訓の時、見せようとしてたやつだね」
「八神刹那という人物は、色々と勝手をする人物のようだな。可変型のメリットは、持ち運びが楽ということだな。手ぶらを装えるし」
ほのか達と誠達は、智花から、現在公開が許されている範囲のデータを貰い、その代わりに、強化に使えるアイディアがあれば、連絡するよう言われた。
「智花、後で、可変型ギアの作成見積もり貰える?」
「夜星ほのか、その要望は、予想済みだ。
ほのか自身、この答えは予想していた。けれど、誠は予想外だったようで、驚きのあまり、間抜け面を見せている。
「流石は、研究者だね」
智花は、照れくさそうにしながら、見積もりのデータを送り、今日は解散となった。
こんばんは
今回、妙なシーンを書いていたので、書き直していました。
次回は、今まで以上に、妙な話ですが、間違いなく続き?なのでご心配なく。
それでは、今回もお付き合いいただきありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。