Linkage   作:enz

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遠く離れたセカイ

 5月の中頃、都内にある私立高校に、一人の転校生がやってくる。

 耳の早い生徒がいるクラスでは、朝からその話で賑わっている。

「女の子らしいよ」

「めっちゃ美人って噂だぜ」

「誰か見て来いよ」

 男子生徒は、その話に賑わい、女子生徒は、そんな男子を冷ややかな目で見ていた。

 予鈴が鳴り、暫くして、担任の先生が入ってくる。

「おーし、お前ら、席に着けー。どうせ知ってるだろうが、少し時期がずれてるけど、転校生だ」

 全員が席に着き、静まったのを確認すると、「入れ」と短く言う。

「失礼します」

 戸を開け、一人の女子生徒が入ってくる。

「じゃあ、黒板に名前を書いて、自己紹介を頼む」

 そう言われ、女子生徒は、自身の名を書き、自己紹介をする。

三笠(みがさ)(りく)です。この辺りには、来た事がないので、色々ご迷惑をお掛けするとは思いますが、よろしくお願いします」

 そういいながら、にこやかに笑い、お辞儀をすると、割れんばかりの歓声が聞こえる。

 担任が、静かにするよう伝えるが、中々静まらない。

 陸も、次の指示が無い為、迂闊に動けずにいた。

 暫く時間が経ち、静まったところで、担任が指示をだす。

「お前ら、質問攻めにして、困らせるなよ。それじゃあ三笠、真ん中付近の席でいいか?」

 教室の真ん中付近には、不自然にも、一つの席が空いていた。転校生の為に用意したとしても、他の生徒を退かす訳が無い。つまり、もともと誰かが座っていたはずだ。それに気付き、陸は、確認をした。

「先生、あの席、不自然に空いているんですが、本来は、使っている生徒がいるのではないですか?」

「いや……えっと、そのな、今、不登校になっててな」

 担任は、言い辛そうに事情を話す。

 陸が、不登校の生徒の席を使ってしまうと、その生徒が戻ってきた時に困ってしまう。そう考え、自信の考えを伝える。

「先生、転校生というのは、窓際の一番後ろと決まっているものです。ですから、机と椅子を用意して頂いてもいいでしょうか?」

「あ……ああ、そうだな、今日は、休みの連絡を貰っているから、その席を使ってくれ。午後までには、用意しておく」

 そういわれ、陸は、真ん中付近の席へ行く。席へ行く途中、教室の奥から視線を感じたが、余計なトラブルを避ける為、気付かないフリをした。

 そのまま授業が始まり、近くの生徒と、簡単な話はするが、授業の合間しかない為、そうそう囲まれることもなかった。

 昼休みが始まる頃、担任が机と椅子を運んできた為、移動するが、付近の生徒が、悔しそうな顔をしている。

「三笠さん、こっちにいればいいのに」

「ほんとだよ、もったいない」

 そんな声を、笑顔で返しながら、新しい席に着く。一人だけ飛び出る形になるが、気にせず、前方の二人に声をかけようと思うが、昼休みと同時に教室から出て行っていた為、話すことができなかった。結局、はじめに使った席で、昼食をとることになり、他愛の無い会話をしていた。

「そうだ、三笠さん、校舎を案内してあげるよ」

「そんな、悪いですよ。それに、転校生の案内は、雑用係の異名を持つ学級委員がやるという都市伝説が……」

 陸の発言に笑いが起こるが、本人は、何がおかしいのかわからなかった。

「三笠さん、さっきから転校生のイメージがおかしいよ」

「そうかしら?なにぶん、転校は初めてだから」

 結局、話は有耶無耶になり、午後の授業が始まる。陸の前方の二人は、ギリギリまで戻ってこなかった為、簡単な挨拶しか出来なかった。

「ああ、三笠さん、移ってこれたんだ。私は、学級委員の弥生(やよい)(いずみ)よ。よろしく。隣のは、山田(やまだ)(さとる)、見ての通りの問題児だから、気をつけてね」

「ええ、よろしくおねがいします。そうそう、弥生さん、私の勝手なイメージですけど、転校生は、学級委員に校舎の案内をしてもらうってのがあるの。ですから、都合のいい時でいいので、お願いできるかしら?」

 そのイメージに驚きながらも、快諾する。隣にいる赤い髪の問題児は、何を言うでもなく寝始めていた。

 そのまま授業が始まり、転校生ということで、先生からよく指名されるが、出される問題をことごとく、解いていく。何度か、ムキになった先生が、授業内容を遥かに越えた問題を出すが、陸は、戸惑うことなく、答えていく。

 転校初日にして、才色兼備なところを発揮し、クラス中の話題をさらうことになった。

「三笠さん、それじゃあ約束通り、校舎を案内してあげる。着いてきて」

「ええ、よろしくお願いします」

 校舎内を二人で歩くが、行く先々で、生徒に囲まれてしまう。

「転校生が珍しいのね」

「イヤイヤ、頭脳明晰、容姿端麗、体育はまだだから、スポーツ万能かはわからないけどね。そんな優等生だったら、噂になるって」

「そうすると、能力面と見た目だけですから、ものすごい性悪女かもしれませんよ」

 少し笑いながら、にこやかに話す。その仕草を見て、泉は、ため息混じりに言う。

「ハァ、それで性悪だったら、ものすごい演技派よ。一生猫かぶってなさい。見た目は、人の好みもあるけど、ダークブラウンのロングヘアーも、かなり似合ってるし、スレンダーだし」

 最後の一言を聞き、陸は、目以外でにこやかに笑い始めた。

「ふふ、それは、貧乳といいたいんですね。その喧嘩、買えばいいのですね」

「い……いや、そんなつもりは無いよ。私だって、胸ある方じゃないし」

 一瞬般若を見た気がしたので、直ぐにフォローし、案内を続ける。

 先ほどのは、冗談だったのか、背筋が凍る思いもせず、案内を終えることが出来た。

 案内の後、家が近いということもあり、二人で帰ることになった。

「三笠さんの家って、あの新しいマンションなんだ」

「ええ、私達、家自体は近いんですね」

「そうだ、せっかくだから、泉でいいわよ。その代わり、陸って呼ぶからね」

 そう言い、強引に呼び方を返させるが、陸は、泉さんと呼ぶことを、頑なに譲らなかった。

「泉さん、お昼休みに、山田君と一緒に教室から出て行きましたけど、一緒にお昼をとっていらしたんですか?」

「え……えっとー、まぁ、家が近くてね、色々、世話を頼まれてるのよ」

 陸は、言い難そうな雰囲気を感じ取り、これ以上の追求をしなかった。

 

 

 

 

 次の日の朝は、担任がくるまで、陸への質問会が開かれ、活気に溢れていた。泉が仕切っていたこともあり、言いにくそうなことに関しては、うまくかわすことが出来た。

 中には、質問会に参加せず、遠くで話している集団もいる。

「まったく、転校生で、ちょっと人気があるからって、舞い上がっちゃってさ」

「ほんとだよねー。男子もバッカみたい」

 女子の世界というのは、とても怖いところであった。

 その日は、体育があったため、陸の、スポーツ万能が発覚し、一騒ぎあったが、本人は、一過性のものだと思い、あまり気にしていなかったが、一部の女子生徒からは、更なる反感を買う結果となった。

 数日経つと、その反感は、劣等感と混じり、さらにどす黒く変化する。それは、いつ噴火してもおかしくない状態だった。

「あー、あの女むかつく」

「頭よくて、見た目よくて、スポーツできて、性格いいからって、ちやほやされやがって」

「ああゆう完璧なのって、ほんとむかつく」

「もうさー、まじでやっちゃおうよ」

「いいねーそれ、先輩とかに頼めば、簡単っしょ」

「ほら、あの不登校も、簡単だったしね」

「あいつは、ほとんど自爆じゃん」

 昼の屋上で、そんな会話があったが、普通の生徒が、そんな会話を耳に出来るはずがなかった。

「泉さん、ずっと聞こうと思ってたんだけど、あの席の人って、どうしたの?」

「ああ、ちょっとここだと話し辛いかな。今日、家行ってもいい?」

 遠まわしに断るつもりだったようだが、相手が悪かった。

「転校先で、初めての友達のお宅訪問ね。わかったわ。精一杯もてなすから」

 にこやかに微笑まれてしまった。

 昼の教室で、こんな会話をしている普通の生徒の耳に、届くはずが無かった。

 

 

 

 

 放課後、二人で帰ろうとすると、陸の下駄箱に、一通の手紙が入っていた。

 外見上は、ラブレターに見えるが、外見には、差出人の名が無く、周囲もざわめくが、本人は、中を見ずに、帰ろうとする。周りは、開けないのかと聞くが、本人は、その声を一蹴する。

「手紙を入れるだけで、直に来ない人に、用はありません」

 はっきりと言い切り、去っていく陸を止められるものはいなかった。

 家へ着くと、陸は、泉をもてなす為、お茶の準備をしていた。

「そんなの、別にいいのに」

「何言ってるんですか、これから、不登校の生徒について、尋問するんですから、お茶くらいは、用意しますよ」

「え……尋問?」

「気のせいですよ」

 一瞬不吉な単語が聞こえたが、直ぐに否定されたが、不安がよぎる。

「さて、では、教えてください」

「はい、えっとね、名簿見ればわかると思うけど、あの席の娘、天岡って苗字なの」

 この発言で、大体の察しはつく。この場所自体、ANT本社ビルの近くなのだ。そして、その場所で、天岡という苗字、この時期の不登校。理由は一つしかなかった。

「人間派の襲撃。雨島学園や、ANTの対処が、過剰だったって言われてるわね」

「あの娘自体は、普通の良い娘だったの、裕福なのを鼻にかけてもないし、才能や見た目をひけらかしても無かった。でもね、そういうのを勝手に妬む人も多いから……」

「まぁ、時々ですが、妙な視線は感じますし、イジメですか?」

 陸も、負の感情を含む、いやな視線はよく感じていた。いずれは、自身が対象になる気配はひしひしと伝わっている。

「タイミングが重なった、ってことですね。不満がたまった頃に、襲撃が起きた」

「それで、ANTの社長令嬢ってことで、周囲から色々言われて、来なくなっちゃったの。ただでさえ、ちょっと問題を抱えてるクラスだったのに、不登校が出てね。陸が、このクラスになったのは、多分、クラスの雰囲気を変えたかったんだと思う」

 クラスの雰囲気は、一時的には改善したが、黒い感情が見え隠れし始めている。実際、陸は、下駄箱に入っていた手紙が、ラブレターではないと、考えている。

 陸は、下駄箱に入っていた手紙を取り出し、開封する。そのには、一見するとラブレターのように見える。だが、差出人の名前が無かった。

「転校生は、自分のクラス以外の生徒なんてわかるはずがないですから。そこを狙ったのかしら」

「たしかに、これ、ぱっと見は、ラブレターだけど、何か変よね」

 この手紙には、言い表せない違和感が、存在した。

「まぁ、確証はないですけど、犯人に、心当たりはあるんですよね。ああ、泉さん、教えませんからね」

 そう言い、陸は、会話を一方的に打ち切ってしまう。

 何度聞いても教えてくれない陸に業を煮やすが、諦め、別の話題をふる。

「そういえば、一人暮らし?家族の影がないけど」

「一人暮らしよ。何でも一人でやらなくちゃならなくて、大変ですけど、楽しいですよ。ご飯は、一人ですけど」

「そうなんだ」

 陸の最後の一言だけ、妙に感情が篭っていた為、うろたえながら、一言口にするのがやっとだった。

「ご飯は、一人なんですけど、食べていきません?食べていきますよね?食べますよね?」

「…………えっと、ご馳走になります」

 感情の篭らない笑みに、恐怖を感じ、食べていくことになった。

 

 

 

 

 陸の手料理に、舌鼓を打った後、泉は、意を決して、ずっと気になっていたことを切り出す。

「ねえ、陸、一人暮らしってのはわかったけど、それにしても、この部屋、違和感を覚えるんだけど。なんか、元々長くは住まないって感じがする」

 一瞬洗い物の手が止まるが、直ぐに再開する。

「気のせいですよ。あまり、物を持たない主義なので、そう感じるんでしょうね。確かに、転校してきて二週間で、この様子というのは、自分でもおかしいとはおもってますよ」

 そういうタイプだと言われてしまい、これ以上の追求はできなくなってしまった。

「そっか、変なこと聞いてごめんね。それじゃあ、夜も遅いし、そろそろ帰るよ。送らなくていいからね。陸と一緒だと、余計狙われそうだから」

 そう言い、そそくさと帰り支度を始める。

 陸は、簡単な挨拶をし、見送る。だからこそ、陸の呟きが耳に入ることは無かった。

「これから、忙しくなりますよ」

 

 

 

 

 次の日、学校中が、妙な雰囲気に包まれていた。

 陸が、前日にラブレターを無視したことは、知れ渡っていたが、相手もわからないため、そこまで大事にもならなかった。

 クラスに担任が来た時、一人の女子生徒が一緒にいた。

「よし、天岡、席に着け」

 周り全てに脅えている少女は、歩いている途中で、足に何かがあたり、倒れてしまう。周りからは、小さな笑い声が聞こえるが、その時、陸が少女の元へ向かう。

「天岡さんですよね。転校生の三笠陸です。よろしくお願いします」

 そう言いながら手を貸すと、少女は、驚愕の眼差しを向けるが、うまく言葉が出て来ない。さらに、陸が、驚きの一言を告げる。

「先生、早く仲良くなりたいので、彼女を私の隣に移動させてください」

 無茶な要望だった。けれど、クラスの状態を知っているので、端に移る分には、願ったり叶ったりだった。

 真ん中付近に空白が出来る形になったが、少女の席が移動する。

 少女は、陸に名を聞かれたため、脅えながら答える。

「えっと、天岡(あまおか)怜奈(れいな)です」

「よろしくおねがいします」

 その一言を最後に、授業が始まる。

 

 

 

 

 昼休み、数人の生徒が、屋上を占領していた。

「あーうぜー」

「天岡のやつ、なんできてんだよ」

「三笠の横じゃ、手が出し辛いな」

「びびってんのか?」

「ちげーよ。リスクがやばいんだよ」

「天岡の時は、自爆だもんなー」

「呼び出しても、無視しやがるし、どうするよ」

 キナ臭い会話だが、屋上は、彼らしかいない。だからこそ、普通の生徒の耳には入らなかった。

 教室では、普段と違う空気だが、殺伐とはしていなかった。

「では、天岡さん、泉さんにちなんで、怜奈さんと呼ばせて頂きます。よって陸と呼んでください」

「えっと……その、み……」

 三笠、そう呼ぼうとした瞬間、天岡は、背筋に冷たいものを感じた。感じたのは、背中だが、原因は、正面だった。

「陸……さん」

 今の彼女にとって、それが精一杯だった。

 午前中は、腫れ物に触るかのような空気が充満していた。先生すらも、登校してきた怜奈を見て、気まずそうにしていた。そのお陰か、陸が指される回数も、陸に向けられる視線も、目に見えて減っていた。

 その日の昼休み、陸は、直ぐに出て行こうとする悟に、声を掛けることにした。

「山田君、どうです?美少女3人と、お昼でも食べませんか?」

 突然の事態に、三人は、目を丸くしていた。だが、直ぐに理性を取り戻した悟が、口を開く。

「俺に話しかけない方がいいぞ」

 そう言い、あっという間に教室を出て行ってしまう。その様子を、名残惜しそうに泉が見つめていた。

「泉さん、追いかけてもいいんですよ。私は、応援します」

 陸は、何かを勘違いしているようだった。だが、それを否定しないまま、泉は、悟を追いかける。

 その場に、陸と怜奈が残される。

「あ……あの……」

「では、仲良く食べましょうか」

 そのまま陸に押し切られてしまい、二人で昼食を食べることになった。

 

 

 

 

 その日、屋上では、いつもの面子に加え、何人かの上級生がいた。

「先輩、転校生のことで、頼みがあるんですけど」

「ああ、けっこう可愛いらしいな」

「そういう噂ですねー。で、その転校生をちょっとシめて欲しいんですよ」

「方法は、任せますから」

普段と比べると、会話の内容が、具体的になっていた。

 

 

 

 

 この日、何事も無く一日が過ぎていった。陸に近づこうとする生徒は多いが、怜奈のこともあり、中々近づけずにいた。

 放課後、怜奈は一人で帰ろうとするが、陸に捕まってしまい、逃げることが出来ずにいた。

「さて、山田君、捕まえましたよ」

 怜奈を捕まえていた陸だが、それと同時に、悟も捕まえていた。その手際に、誰もが唖然としていた。

「俺に、話しかけるな」

「話しかける前に、捕まえましたよ。泉さんから聞いています。家、近いんですよね。美少女と下校できるなんて、滅多にないですよ」

 悟は、手を振り払おうとするが、手を動かすことが出来なかった。そこには、圧倒的な力の差を感じた。

「陸って、大和撫子風の何かだよね……」

 泉の呟きが、響き渡る。けれど、その呟きを流し、四人での下校が始まる。

 陸の下駄箱に、何通かの手紙が入っているが、いつもの様に、封を開けず鞄にしまい帰路に着く。

「読みもしないって噂になってるぞ。男が、勇気出したんだ、その場で開けるくらいしてやれ」

 悟が、男側の意見を言うが、陸は、それを真っ向から否定した。

「手紙を書いて、こっそり入れる。そんな行動に、勇気は感じませんね。それに、それが勇気だとしても、そんなのは一方的な押し付けです」

「わ……私は、読むのは、礼儀だと思ってました」

 怜奈が珍しく口を開いたので、三人は目を丸くしていた。その様子を見て、また、口を噤んでしまう。

「まぁ、人それぞれだけど、悟、押し付けはよくないよ」

 そんな話をしていると、怜奈と別れる場所まで来るが、陸は、妙な気配を感じた。

「さて、ここで別れない方がいいですね」

「え、どうしてですか?」

 怜奈の疑問は、当然だった。けれど、陸は、違う方向を見て、口を開く。

「私、視線には、敏感なんです」

「尾行ってほどでもなかったんだがな、よく気付いたな」

「そんなギラついていて、大柄な人なら、誰でも気付きますよ」

 陸達と同じ制服を着た生徒が数人立っていた。その中には、同じクラスの生徒や、先輩がいた。

 さらに、先回りしていたのか、別の方向からも、不良グループと呼ばれる外見の生徒が現れる。

「大人しく、ついて来い」

 陸は、怜奈を強く抱く。泉も、悟の影に隠れた。

 

 

 

 

 人通りの少ない路地へ連れ込まれ、不良グループは、より威圧感を増す。陸と悟だけは、気丈に振舞っていた。

「そこの転校生は、いいねぇー。そそるじゃねーか」

 陸は、メインターゲットは自分だと悟り、女の子二人を庇うように前へ出る。その様子をみて、悟も前へ出るが、不良グループは、その様子を見て、余計に下卑た笑みを浮かべる。

「三笠、ここは俺がなんとかするから、二人を連れて逃げろ」

「山田君、それは最初に囲まれた時にするべきですよ。そうすれば、好感度は急上昇でしたのに」

 陸は、どんな状況でも余裕を崩さなかった。いや、そもそも、相手を脅威とは思っていなかった。

「そこの転校生、大人しくしてれば、他のやつらは見逃してもいいぜ」

「あと、そこの赤髪、お前は、絶対に動くな。余計なこともするなよ」

「それは、俺の異能が、怖いのか?この喪失者(ロスト)の力が!」

 その言葉と共に、風が吹き荒れる。余りにも不自然な強風に不良グループはうろたえるが、リーダーの男は、激を飛ばす。

「あいつは、雨島の化物とは違う、ただの雑魚だ。怖がることはない」

 悟は、喪失者(ロスト)として覚醒した後、親戚をたらし回しにされたが、非人道的な研究所に売られるようなことも無く、雨島のリストに載らなかった、喪失者(ロスト)だ。

 喪失者(ロスト)としての教育を受けたわけではないが、独学である程度は異能の力を振るえる様になっていた。さらに、風属性だからこそ、媒体に困ることもなかった。

「山田君、6人いるけど、大丈夫?」

「問題ない、お前らは逃げろ」

「なめやがって。一人でも捕まえれば、後は芋ずる式だ。お前らもいけ」

 悟は、風の弾丸を使えるわけでもなく、風の刃や真空状態、強烈な突風も使えない、ただ、風を吹かせるのが精一杯だった。けれど、喪失者(ロスト)特有の身体能力の強化という恩恵は、僅かながら持っていた。

「寝てろ」

 そういいながら、手下を殴り飛ばすが、その隙に、一人が陸へ向かう。まずい。そう思いながらも、間に合わない。けれど、心配する必要はなかった。

「女の子には、やさしく触れるものですよ」

 そういいながら、相手の力を利用し、投げ飛ばす。どう利用したのかは不明だが、投げ飛ばされた男は、別の男へとぶつかり、起き上がれない。

 あっと言う間に、残るはリーダーの男だけになる。

 陸は、挑発するように口を開く。

「さて、先輩、どうしますか?」

「くそ、調子に乗りやがって」

 そう言いながら、一歩踏み込む。残りの距離は、約3m。陸は、タイミングを合わせ、一気に近づき、がら空きの腹に、強烈な一撃を叩き込む。

 倒れ行く相手に、一言。

「か弱い女の子に負けるなんて、恥ずかしいですね」

 リーダーの男は、薄れる意識の中、その言葉を脳裏に刻みこまれた。

「なぁ、三笠、お前、何者だ?」

「護身術を少々学んでおります」

 護身術というレベルを超えた動きをしていたが、それは、悟の感覚でしかなく、これ以上の追求は出来なかった。

 泉は、ずっと違和感を感じていた。自身は、悟が喪失者(ロスト)だということを知っていた。陸は、自身が強いことをわかっている。けれど、怜奈は、常に不安だったはずだ。けれど、陸に守られることで、完全に安心していた。その理由が、泉には、わからなかった。

「皆さん、この人達が目を覚ます前に、帰りましょうか」

 

 

 

 

 その日の夜、陸は、携帯情報端末を使い、どこかと連絡を取っていた。

「今日は、不良グループに襲われてしまいましたけど、何の問題も無く、制圧しましたよ」

「陸がいて、問題になる相手なんて、普通はいませんね」

「あと、例の子ですが、物質型(マテリアルタイプ)の風属性ということを確認しました。もっとも、本人は、異能を使う気がないようですが」

「そうですか。では、そちらは放置でいいですね」

「今回のメインを忘れないでくださいね」

 そう言われ、チャットが終わる。

「普通の学校というのも、疲れますね」

 そう呟き、夜が更けていった。




こんばんは

ちょっとした学園風ですが、難しいですね。

続きも、もう少しなので、直ぐに上げられると思います。

これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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