ANTでは、バースト発生の予兆を研究し、バーストが起こるであろう地域には、前もって警報を出している。的中率は、そこまで高くないが、多くの人間が目を通していた。この日、追加された予想地域に、三笠陸達が通う学校が入っていた。
陸達が不良グループに襲われた次の日、彼女達は何食わぬ顔で登校した。教室では、不良グループに依頼した生徒が、驚きの表情を見せたが、陸達は、それを無視し、クラスメイトとの雑談に興じていた。
この日も、天岡怜奈は登校してきた。不良グループに通じていた生徒が、大人しいということもあり、昨日よりも、教室の空気が和らいでいた。その為、陸に話しかけに来る生徒も、増えていた。けれど、不良グループに通じている生徒は、面白くなさそうに、その様子を見ていた。
担任の挨拶で、今日も一日が始まる。だが、今日はいつもと違うことが、一つだけあった。
「よし、お前ら、席に着け。今日も全員いるな。なによりだ。それじゃあ、一つ、三笠、昼休みに職員室にくるように」
頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能、品行方正、などなど、多くの褒め言葉で飾られている少女が、職員室へ呼び出された。クラスのほとんどが、その事実に大きく驚いた。けれど、本人は至って冷静だった。
「わかりました。では、職員室への呼び出しということは、先生から様々な罰を与えられるのですね」
その一言で、クラスメイトの担任への視線に、黒いものが混ざるが、担任がすぐさま否定する。
「三笠、お前はいちいち変な噂に影響されすぎだ。罰とか、そんなんじゃない。部活の話だ。それと、今日ANTからのバースト予報で、この辺りに警報が出た。予報の日時はまだ先だが、気をつけるように」
そういい、朝のホームルームが終わる。先生もなれたのか、昨日のように腫れ物に触るような対応は、鳴りを潜めていた。そのまま昼休みになると、悟は、陸につかまる前に教室を脱出したので、陸は、怜奈を泉に任せ、職員室へ出かけた。
ノックと共に陸が職員室へと入る。
「失礼します」
担任が、職員室の区切られたスペースに陸を案内する。その途中で、陸は、また不穏当な言葉を口にする。
「先生は、物陰に女子生徒を連れて行くのが、趣味なんですね」
「三笠、その変な噂はどこから仕入れてくるんだ」
担任は、三笠陸のことを諦め、話を進めようとする。ソファーに座わらせ、話を切り出す。
「実はな、いつくもの部活から、三笠を迎え入れたいと言われてな。三笠は、今の所どこかの部活に入る気はあるか?」
「部活ですか?あまり興味がわかないものですから」
殺風景な陸の部屋が示すとおり、何か特定のものに興味を惹かれている訳ではなく、これといってこだわりもなかった。スポーツの才能と呼べるものはあっても、情熱が無い為、陸自身から部活に入ろうとは思っていない。
「体育の授業でも、凄いらしいな。陸上部の顧問の先生をはじめ、運動部の顧問の先生が、こぞって欲しいって言ってたぞ」
「申し訳ありませんが、部活に入ろうという気はありませんので」
「そうか、ならしかたないな。先生個人としては、それだけの才能があるんだから、勿体無いとは思うが、まぁ、話をしておいてくれと言われただけだから、気にするな」
こうして、担任からの話が終わり、教室へ戻るよう促す。だからそこ、陸が、去り際に呟いた一言を聞くことができなかった。
「才能じゃありませんよ」
「陸ー、先生からの呼び出しってなんだったの?」
「ええ、部活のお誘いでした。お断りしたしましたけど」
「まぁ、体育でアレだけやらかせば、お呼びがかかるよね。このクラスの陸上部より足速いし」
「陸さんは、何でも出来るんですね」
「何でもなんて出来ませんよ。ただ、出来ることの方向性が、人と少しずれているだけですよ」
泉は、その意味が理解できなかった。けれど、その言葉の意味を、詳しく聞くことが出来なかった。
そうこうしていると、時間が経ち、午後の授業が始まる。午後の授業も、何事もなく過ぎていき、放課後、いつもと違う出来事が起きた。
上級生の不良グループと繋がっている、
「三笠、あんたその天岡とよくつるんでるけど、天岡のこと、わかってんの?」
威圧感を漂わせ、突如話しかけてくる。さらに、怜奈を見下しながら、続ける。
「そいつの親は、あのANTの社長なの。この前、デモグループを皆殺しにしたやつらの、親玉なの。大量殺人犯と繋がってんの。そんな、何するかわからないやつの娘なの。わかる?わかるよね。あんたは、よくそんなやつと仲良くやってられるね。信じらんない」
一方的に捲くし立て、怜奈を侮辱する。自分の言っていることが全て正しいと言いたいようだった。けれど、相手が悪かった。
「まず、デモグループと言ってますが、武装したテロ集団ですよ。次に、大量殺人犯との事ですが、テロ集団は、
冷静に、自分の想いをぶつける。クラスメイトは、陸の発言に、目を丸くしているが、中には、共感できる部分もあったのか、大勢が、陸の味方になっていた。形勢が不利と判断し、花蓮は、最後の悪あがきをする。
「ああ、もう、お前ら、後悔しても知らねーからな」
捨て台詞を残し、花蓮は、取り巻きを連れ、教室から出て行く。
そんな中、一人の生徒が、陸に声を掛ける。
「三笠、お前、バカか。あいつらが、上級生の不良グループと、つるんでるのは知ってんだろ。それなのに、あんなこといって」
「山田君、私は、間違った事を言ったとは、思っていませんよ。先ほどの事が、私の考えですから。それに、私は、山田君の事も、友達だと思っています。ああ、でも山田君は、泉さんを優先していいですからね」
「え、ちょっ……なんで、そこで私の名前が出てくるの!」
弥生泉は、突然のことに驚きながらも、まんざらでもない顔をしていた。
そんなやり取りをしていると、数人の生徒が怜奈に話しかけてきた。
「えっと、その天岡さん、その、前はごめん。三笠さんの意見に、全部は賛同できないけど、俺達、間違ってた。クラスメイトで、どんな人かわかってたはずなのに、噂とか、周りの意見に左右されて、ひどいことしちゃって、本当に、ごめん」
「えっと、私、その、家の事でとやかく言われるのは、慣れてるし、その、しょうがないから、だから、頭あげてくれるかな」
クラスメイトによる謝罪を、怜奈は受け入れ、このクラスが抱える問題が、少し、軽くなった。
「まったく、こんなに可愛い娘をいじめるなんて、小学生じゃないんですから」
「陸、ずっと思ってたけど、やっぱあんた変人だわ。残念美人だったのね」
「泉さん、私は、私ですよ」
その言葉を聞き、泉は、陸のことを少し理解できた気がしていた。
「あいつらが、このまま引き下がってくれれば、問題はないんだがな」
「そうよね。原因が、嫉妬からだから、ちょっと厄介よね」
「あの上級生は、もう来ないと思いますよ。プライドがずたずたでしょうし、勝てない事が、わからない人だとは、思えませんから」
陸は、上級生の不良グループのリーダーを、それなりに評価していた。
数日が過ぎ、日に日に、教室の雰囲気が和らいでいくのを感じていた。
担任が、朝のホームルームで、バーストに関わる注意事項を述べていた。
「雨島のバースト予報は、毎日言ってるから、わかってるとおもうが、何度でも言うぞ。雨島学園が、対
この学校では、知る者はほとんどいないが、日本国内のバースト対応から、雨島学園が抜けるということは、その分、ユニオンが他の事に動けると言う事だった。
山田悟が、学級委員である泉や、社長令嬢の怜奈、才色兼備の陸といった、誰もが認める美少女を独り占めしているという、噂が流れていた。本人には、そのつもりがなくとも、周りから見た結果である為、必然的に、周囲から嫉妬の感情を向けられていた。けれど、悟が、
悟は、教室の雰囲気が和らいでいく中、嫉妬の視線は感じるものの、それ以外の、
「えっと、山田……君、あ……いや、さん。えっと違う、山田様?」
「最初のでいい。何か用か?」
突然話しかけられ、驚きつつも、平静を保ち、続きを促す。
「ああ、山田君。明日、土曜だから、午後時間空くだろ。何人かでカラオケいかないか?」
入学してから、一度も誘われる事の無かった悟は、突然の誘いに、戸惑いながらも、理由を推測し、それを口にする。
「つまり、泉達を連れて来いということか?」
「いや、そうじゃないんだ。連れて来てくれると嬉しいが、流石に、あの3人だと、心の準備が出来ない。三笠さんのまねじゃないけど、山田君を色眼鏡で見てたのは、確かだ。だから、山田君自身を見てみたくてね。だめかい?」
悟を真っ直ぐ見つめる。そして、悟が、返事をするまで、じっと待ち続けた。
「ああ、わかった。行くよ」
「そうか。ありがとう。これが俺の連絡先だ」
そういい、連絡先の交換をし、別れる。遠目に、普段、成り行きで一緒に帰っている三人を見ると、他の女子から、何かに誘われているようだった。タイミングがいいが、先ほどのクラスメイトからは、嫌な感じを受けなった。さらに、悪意があれば、陸が気付くだろうと思い、気にしないことにした。
月曜日、この日の朝は、今まで以上に、教室の空気が清々しかった。教室内にあったわだかまりが消え、風通しがよくなったように思えた。
不良グループと繋がっている生徒の件はあるが、けしかけた先輩が、返り討ちにあい、陸達に因縁をつけても、真っ向から言い返されてしまった為、クラス内で、噛み付こうとはしていなかった。
「さて、お前ら、雨島のバースト予報だが、とうとう明日に迫っている。外れる場合だと、訂正が出る時期だが、その様子もないようだと、明日のバーストは確実のようだ。学校が休みになるわけではない。授業時間中に、バーストが発生する予報なので、その際は、先生達の言うことを、よく聞くように」
雨島学園が関わらない形のバーストでは、数人のけが人が出ているが、そのほとんどが、避難中の事故によるものである為、落ち着いて行動するよう呼びかけられていた。
その日の昼休み、四人が、教室で昼食を食べていると、泉が、突然切り出した。
「悟、あんたって、実際どのくらい力を使えるの?」
教室で、
「あんま大声で言いたくないけど、ほとんどつかえねーよ。扇風機レベルだ」
「この前の立ち回りを見る限り、多少の身体能力の強化に、武道を組み合わせているようですね」
陸の発言に、悟は驚きの表情を隠せない。なぜなら、悟は、親戚をたらいまわしにされている間、とある地域で、道場に通っていたことがあるが、誰にも言っていない為、気付かれているとは、思っていなかった。
「護身術をやってるだけあって、その辺はわかるんだな」
「ええ。そんなところです」
「じゃあ、いざと言う時に悟に守ってもらえないのか。ちなみに、ダメ元で聞くけど、怜奈の家から、ギア?とかいうやつ持ってこれないよね」
突拍子もないことを立て続けに思いつき、口にしている泉に、苦笑いしながらも、怜奈は真面目に答える。
「えっと、対
「実際、
怜奈が拒否し、陸が、否定する。この会話を聞いていたクラスメイトも、自分達の護身用にならないかと期待していただけに、残念がる様子が、見て取れた。
だが、一名、諦めきれない人間がいた。
「ねえ、悟に持たせたら、ちゃんと使えるかな?」
泉だった。ウェポンギアは、
「その、泉さん、異能の媒体として使うにしても、それ相応の訓練をしないと、結局使えないんです」
「だいたい、俺に
「いやー、ちょっと気になってね。でもさ、ギアについてはわかったけど、何でバーストが起こるって言うのに、休みにならないのかな?」
「バースト予報だと、昼前後ですから、多くの人が、バラバラにいるよりも、まとまっていた方が、守りやすいという理由があるらしいですよ」
結局、ギアを使う訓練をつんだ人間に任せるしかないという結論に達し、バーストについての会話を挟みつつも、昼食の時間が過ぎていく。
この日、明日に迫ったバーストに対し、様々な感情を抱きながらも、全ての生徒が帰路に着き、当日を迎える。
バースト当日、予想地域には、朝から多くの自衛隊員や警察官が厳重な警備体制を整えていた。
「よし、お前ら、今日は昼前後にバーストが起こると言われている。だから、授業内容の変更だ。バーストについて教える」
担任がそう言うと、授業が始まり、バーストについて記載されたプリントが配られる。
「よし、全員に行き渡ったな。バースト、つまり、異常発生とか言われる場合もあるが、
余りにも大雑把な質問であるが、バーストについては、通常の授業では用語を習う程度、詳しい生徒はほとんど居ない。けれど、三笠なら知っている。担任すら、そう思うようになっていた。
「知っていることですか……まず、発生する時に、光の柱が現れ、そこから、多くの
「ふむ。大まかなことは、説明されてしまったな。ま、そういうことだ」
担任は、予想以上に説明されてしまった為、時間を持て余してしまう。そこで、授業形態を切り替えることを思いついた。
「よし、質問あるか?」
生徒への丸投げである。
その丸投げに応じた生徒がいた。
「せんせー。何で
泉が、質問を投げかける。このあたりの知識は、雨島関係者であれば、一般常識である。しかし、雨島から離れれば、詳しく知る者はいない。
「詳しいことは、公表されていないが、
一般にも、雨島レポートは公開されているが、学園内や、研究者用と比べれば、圧倒的に範囲が狭かった。しかし、このクラスには、例外的に、雨島関係者と言える人物がいた。
一人の生徒が手を上げる。それは、怜奈だった。
「先生、さきほど、陸さんが、言っていましたが、
ANTの社長令嬢として、
バーストに関する授業が終わり、そろそろ昼休みになるという時、突然、世界が揺れた。
それは、地震ではなかった。突如光り輝いた地点を中心に、半径数キロだけが、揺れる。そして、揺れの中心にある光が、大きな柱となる。辺りが静寂に包まれるが、それは、嵐の前の静けさだった。
外から、多くの人が動き回る音が聞こえる。バースト対応の為に配備された自衛隊と警察の混成部隊が、展開を始める。そんな中、陸達のクラスでは、避難の開始を担任が告げていた。
「前もって説明したと思うが、全員校庭に一時避難だ。
地震のときは、建物からの落下物から身を守るには、建物の高さと同じ距離だけ離れる必要があるといわれている。つまり、校舎が破壊された時は、校庭では意味はないが、
怜奈は、開けた屋外に避難するという選択肢に戸惑っていた。それは、彼女が、
「鳥型の
「それはそうだが、警察からの命令だから、避難してくれ」
担任も、雇われの身であり、上から、降りてきた命令に関して、逆らうことが出来なかった。
クラスメイトが、次々と廊下へ出て行く中、陸が、怜奈にだけ聞こえるように呟いた。
「怜奈さん、雨島から貸し出されているギアには、遠距離用も含まれているので、ある程度は、大丈夫なはずですよ」
「陸さん……」
陸に促され、怜奈も移動を開始する。地震の多い国ゆえ、避難訓練の賜物か、大した混乱も無く、全校生徒が、校庭への避難を完了させた。
この高校の護衛担当の警察官が、校長と打ち合わせをしている。その時、光の柱に異変が起きた。ガラスが割れるような音と共に、光の柱の一番外側の層が剥がれ落ち、大量の小型
「えー、皆さん、ここで、警察の方が、
校長がそんな話をしていると、付近の住人も、校庭へ避難してくる。この校庭が、付近の避難所となっていた。
時折、小型
「バースト、第2フェイズへ移行を確認。中型の出現が確認されました。鳥型、もしくは、強敵と判断した場合、遠距離型ギアの使用を許可する」
警察官の無線機が、バーストの状況を知らせていた。その無線が示す通り、地面へ落ちていく破片の他に、空中で姿を変え、飛行を開始する固体が出現した。
鳥型と呼ばれる
「これが、バーストか」
そんな声が、所々から聞こえる。
始めは一方的だったが、次第に苦戦の音が聞こえる。遠くで建物が崩壊する音が聞こえた。中型
各避難所の防衛を担当している警察や、出現する
一体のゴリラ型中型
「悟……」
「心配するな」
ゴリラ中型
「だまれ!」
上級生の不良グループでリーダーをしている生徒だった。不良グループを束ねているだけあり、統率力のある生徒だ。
「騒げば、余計な混乱を生む。それは、余計な被害を生む。こんな時だからこそ、落ち着け」
周囲は、その言葉を聞き、一時的に落ち着きを取り戻す。けれど、一つの不幸を呼び寄せた。
その大声が呼び水となり、不良グループのリーダーに対し、中型
リーダーも、それに気付き、行動を開始する。
「それを、貸せ」
その一言と共に、近くにいた警察官からウェポンギアを奪い取る。そのまま大きく動き、中型
リーダーは、不良として、多くの喧嘩をしてきた。その勘が、中型
自衛隊の包囲網を突破した中型
「そういえば、
悟は、雨島レポートに記載された記述を思い出す。そして、自ら、中型
「行かせないよ。悟のこと、頼まれてるから」
「俺が居たら、皆襲われるかもしれないんだぞ」
泉は、その言葉を否定したかった。だが、否定するだけの証拠がない。悟に手を振り払われ、力なくうな垂れるしかない。けれど、別の手が、悟を捕まえる。
「何を勘違いしているんですか。山田君、貴方のような雑魚が、中型を引き付ける訳ないでしょう」
それは、陸だった。陸は、悟の肩を掴んでいる。周りからすると、乗せているようにも見えたが、掴まれている悟は、その、あり得ないほどの力に驚愕する。その驚きを尻目に、陸は一人続けた。
「前回は、ちゃんと対応できたというのに。まったく、このままだと、大型が出てきたら、総崩れですね」
陸は落ち着き、状況を整理している。その目には、何かを決意したように見える。
「三笠、お前、何なんだ?」
「私は、私です。何かと言われれば、それは、私を見る貴方が判断することです。貴方が人間と呼べば、人間として振舞います。ですが、化物と呼べば、化物として振舞うだけです」
誰もが、この言葉の意味を理解できなかった。いや、ただ一人、理解していた。
「陸……」
「怜奈さん……、いえ、貴女が、いつも通りの呼び方をするのでしたら、ここはいつも通り呼びましょうか。お嬢、貴女が何とかしろといえば、私は、この場を何とかしますよ」
陸は、普段以上に親しみを込めて、お嬢と呼んだ。それは、呼びなれたような言い方だった。
「でも……私は、貴女達に何かをしてあげたわけじゃない」
「まったく、いつもいってるじゃないですか。お嬢は、天岡さんの姪なんですよ。あの人の家族なんですから、それだけで、私達、ユニオンには十分です」
ユニオン、それは、雨島学園で、ゴールドエンブレムを持つチームによる連合であり、雨島が、 J‐LI‐07と呼ばれていた時、その島を制圧した雨島制圧隊の、雨島内での今の呼び方である。
だが、この場に、この二人以外に、ユニオンの意味を理解できる人はいなかった。
「陸……私は、一方的な関係は好きじゃない。貴女が、友達って言ってくれた時、嬉しかった。だから、本当の友達になって」
「友達ですか。その辺りの言い方は、後々考えますね。では、私は、勝手に友達を守りますよ」
怜奈は、相変わらずユニオンはわからない。そう思った。けれど、友達と認めてくれたこと。それが、とても嬉しかった。
陸は、遥か昔に忘れた感情が揺さぶられた気がした。それがどんな感情なのかはわからない。ただ、友達の為、その為に、自身を切り替える、魔法の言葉を紡ぐ。
「Limit Break-Mode”THE NEXT”」
陸から、膨大な力が溢れ出る。周囲にいる中型
陸の背中に、オリジンの翼が現れる。色はない。だが、確かにそこに存在する。
陸に反応し、近づいてきた中型
「なんだ……あの力」
悟は、自身の疑問を口にした。口にする気はなかったが、自然と、口からこぼれていた。
本来、誰からもその答えが出てくるはずがない。けれど、一人、その答えを知っている人がいた。
「あの力は、ネクストって呼ばれてる力です。
怜奈は、その疑問に答えるように呟いた。
「
「そもそも、
ネクストの圧倒的な力に、避難している人達は、目を奪われていた。そんな中、不良グループのリーダーは、目を奪われた隙をつかれ、目の前の中型
その様子を知覚していた陸は、追撃をしようとしている中型
「お前、
陸は、その呟きを耳にしながらも、答えない。見ればわかると言わんばかりだ。そして、目の前にいる中型
校庭にいる中型
「お巡りさん、対応状況は、どうなっていますか?後、ALUは来ていますか?」
ALUそれは、対ロスト対策室という、元々は、
「いや、今回は着ていない」
「そうですか、この総崩れの原因はそれですね。では、無線で伝えておいてください。雨島の
陸は、左手に、黒い棒状のギアを取り出す。それは、複可変型複合ギア。流し込んだオリジンの波長に合わせ、形を変化させるウェポンギアだ。
黒い一枚の大きな翼のような剣となる。陸は、「行きなさい」と呟くと、翼から、羽が分離し、宙をまう。それは、落下するエネルギーと同じ量の運動エネルギーを真逆に与え、空中に静止する。
「お嬢、ちょっとバーストを終わらせてきます」
にこやかに、そう宣言すると、分離したギアと同じ要領で、空中に足場があるかのように移動する。自身の知覚範囲を広げ、バーストの範囲全てを知覚する。
分離したギアが、散開し、宙を舞いながら、広範囲に移動している
光の柱から、表面が剥がれ落ち、バーストは、更なる段階へと進む。それは、大型
「四体ですか。まぁ、普通ですね」
陸は、ギアに残された刃を使い、大型
「本部、連絡にあった雨島の
「了解。そのまま監視を続けろ。但し、邪魔だけはするな」
「なんなんだあいつ……」
そんな会話を尻目に、陸は、考えをめぐらせる。このまま、光の柱の剥離を待ち、バーストを通常通りに終わらせるのか、光の柱そのものを破壊するのか。そして、陸は残りの手に、ギアを取り出す。
「終わらせた方が、早い」
ギアが形を変える。右腕を守る手甲のようになり、さらに、短槍が装備されている。パイルバンカーのような武器だった。
陸は、羽の制御を維持し、
右腕のギアに力を載せ、光の柱へ突撃する。インパクトの瞬間に、載せた力を解き放つ。ギアで出来た短槍が射出され、光の柱を穿つ。その一撃により、光の柱に小さな穴が開く。その影響で、柱全体に亀裂が走る。そして、光の柱が砕け散った。その破片から
異能を制御し、射出した槍を回収する。まだ、周囲には
空が、澄み渡る。
普通の人間には、陸が力を使った結果しか、認識できなかった。だが、バーストによって生まれた
陸は、空気中にある小さなゴミやほこりに、運動エネルギーを与え、極小の弾丸とし、
後処理を混成部隊に任せ、陸は校庭へ戻ってくる。校庭に避難していた一般人は、既に解散していた。校庭にいるのは、学校関係者と警察関係者だけだ。
陸は、その中に見知った顔を見つける。
「やぁやぁ、陸ちゃん、相変わらず凄い力だね」
「峰地さん、さぼりですか?」
対ロスト対策室、通称ALUの室長補佐を勤めている峰地総一だった。
「さぼりなんてひどいな。ここの連中が、僕達は不要だっていうから、待機してたら、案の定さ。君がいてくれて助かったよ」
よく見ると、遠目にALUの隊員が見える。陸が隊員を見つけたのに気付き、峰地は続けた。
「そういえば、
「
「いいのかい?君達にとって、
「ハァ、急がないと、誰かに持っていかれますよ。あちらこちらに散らばっているのですから」
陸は、ため息交じりで、めんどくさそうに答えた。
その答えを聞き、峰地は、隊員に指示を出しながら、急いで離れていった。
そして、陸は、一瞬の逡巡を見せるが、意を決し、怜奈の元へ戻る。怜奈の方を見ると、数人の生徒に問い詰められているようだった。陸は、意識を傾けることで、その会話を聞いた。
「天岡さん、三笠が
「ユニオンって何なの?」
「何なのよ、あの娘」
泉と悟が間に入っているが、怜奈は、クラスメイトの剣幕に脅え、答えることが出来ない。
陸が近づいていることに気付き、クラスメイトは、口数を減らしていく。
「お嬢、ただいま戻りました」
陸は、そう言いながらも、クラスメイトの雰囲気の変化を感じ取っていた。
教師陣が、校庭にいる生徒を、徐々に教室に戻している。そんな中、上級生の不良グループのリーダーが陸の元へやってきた。
「三笠陸であってるか?」
後ろから聞こえた声に、陸は振り向く。
「そうですよ。不良グループのリーダーさん」
「確かに、お前からすれば、そういう認識だな。まぁいい。さっきのことの礼を言いに来ただけだ。ありがとう。そして、この前は、すまなかった」
「別に、お礼を言われるほどのことだとは思っていませんよ。それに、この前のことは、気にしていませんよ。私がいるんですから、貴方達が、どうこうできるわけがありませんから」
不良グループのリーダーは、「それもそうだな」といい、去っていく。
リーダーと入れ違いに、担任が近づいてくる。
「ああ、えっと、とりあえず、ここだと目立つ。教室に戻れ」
担任は、唯一、陸のことを知っていた校長から、事情を聞かされたばかりだった。
教室へ戻ると、陸達を囲み、言葉を投げつけてくる。
「三笠さん、貴女、
「
「友達だと、思ってたのに……あなただって、ばけ――」
そこまで言ったところで、頬を叩く大きな音が響く。クラスメイトは、頬を赤くし、驚きのあまり、呆然としていた。
「貴女は助けられた。そのことをわかっているの?陸が戦わなければ、みんな死んでたかもしれないのに」
「そうだよ。警察だって、自衛隊だって、結局、
泉が怜奈を擁護する。クラスメイトもそれはよくわかっていた。だが、遠目とはいえ、怖かったのだ、その目で見た光景が。混成部隊が手を拱いていた中型
「でも……」
クラスメイトは、反論しとようとする。だが、その為の材料がなかった。だが、一人だけ気付いたものがいる。
「だから私は言ったんだ。後悔しても知らないって。こいつは、天岡や雨島を庇ってたけど、そもそもこいつだって、同類だったんじゃん」
花蓮は、高らかに宣言した。だが、内心では、陸という存在に恐怖していた。
悟は、そのことを見抜いている。
「なぁ、藤原、そんだけ勝ち誇ったように言うなら、同類とか言葉を濁すなよ。口にだしてみろよ。それに、そっちのお前も、天岡に助けられたことに気付け」
花蓮が、無意識に『化物』という言葉を避けたこと、さらに、クラスメイトが『化物』といいかけたことに気付いていた。
悟は、数々の情報から、雨島に関係する
「山田君、そんなにいじめちゃだめですよ。それに、私が、この学校に通う条件に、
そう言うと、陸は荷物を片付け、教室を去ろうとする。けれど、怜奈が、陸を止める。
「陸……ありがと。後、皆に伝えといて。皆がなんて思ってるかわからないし、皆の考え方もわからないけど、私は、友達だと思ってるからって」
「伝えておきます」
陸は、教室の入り口で、小さく手を振りながら、言うと、この学校から去っていった。
こんにちは
本当は、もっと早く投稿するはずでした。
ラノベの新刊って読みたくなってしまうのです。申し訳ありません。
読んだ後に、色々というか、所々微修正して、終盤を書き上げました。終盤って難しいです。
外の話を書くと、主人公が出てこないですね。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。