Linkage   作:enz

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離合するセカイ

 ANTでは、バースト発生の予兆を研究し、バーストが起こるであろう地域には、前もって警報を出している。的中率は、そこまで高くないが、多くの人間が目を通していた。この日、追加された予想地域に、三笠陸達が通う学校が入っていた。

 陸達が不良グループに襲われた次の日、彼女達は何食わぬ顔で登校した。教室では、不良グループに依頼した生徒が、驚きの表情を見せたが、陸達は、それを無視し、クラスメイトとの雑談に興じていた。

 この日も、天岡怜奈は登校してきた。不良グループに通じていた生徒が、大人しいということもあり、昨日よりも、教室の空気が和らいでいた。その為、陸に話しかけに来る生徒も、増えていた。けれど、不良グループに通じている生徒は、面白くなさそうに、その様子を見ていた。

 担任の挨拶で、今日も一日が始まる。だが、今日はいつもと違うことが、一つだけあった。

「よし、お前ら、席に着け。今日も全員いるな。なによりだ。それじゃあ、一つ、三笠、昼休みに職員室にくるように」

 頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能、品行方正、などなど、多くの褒め言葉で飾られている少女が、職員室へ呼び出された。クラスのほとんどが、その事実に大きく驚いた。けれど、本人は至って冷静だった。

「わかりました。では、職員室への呼び出しということは、先生から様々な罰を与えられるのですね」

 その一言で、クラスメイトの担任への視線に、黒いものが混ざるが、担任がすぐさま否定する。

「三笠、お前はいちいち変な噂に影響されすぎだ。罰とか、そんなんじゃない。部活の話だ。それと、今日ANTからのバースト予報で、この辺りに警報が出た。予報の日時はまだ先だが、気をつけるように」

 そういい、朝のホームルームが終わる。先生もなれたのか、昨日のように腫れ物に触るような対応は、鳴りを潜めていた。そのまま昼休みになると、悟は、陸につかまる前に教室を脱出したので、陸は、怜奈を泉に任せ、職員室へ出かけた。

 ノックと共に陸が職員室へと入る。

「失礼します」

 担任が、職員室の区切られたスペースに陸を案内する。その途中で、陸は、また不穏当な言葉を口にする。

「先生は、物陰に女子生徒を連れて行くのが、趣味なんですね」

「三笠、その変な噂はどこから仕入れてくるんだ」

 担任は、三笠陸のことを諦め、話を進めようとする。ソファーに座わらせ、話を切り出す。

「実はな、いつくもの部活から、三笠を迎え入れたいと言われてな。三笠は、今の所どこかの部活に入る気はあるか?」

「部活ですか?あまり興味がわかないものですから」

 殺風景な陸の部屋が示すとおり、何か特定のものに興味を惹かれている訳ではなく、これといってこだわりもなかった。スポーツの才能と呼べるものはあっても、情熱が無い為、陸自身から部活に入ろうとは思っていない。

「体育の授業でも、凄いらしいな。陸上部の顧問の先生をはじめ、運動部の顧問の先生が、こぞって欲しいって言ってたぞ」

「申し訳ありませんが、部活に入ろうという気はありませんので」

「そうか、ならしかたないな。先生個人としては、それだけの才能があるんだから、勿体無いとは思うが、まぁ、話をしておいてくれと言われただけだから、気にするな」

 こうして、担任からの話が終わり、教室へ戻るよう促す。だからそこ、陸が、去り際に呟いた一言を聞くことができなかった。

「才能じゃありませんよ」

 

 

 

 

「陸ー、先生からの呼び出しってなんだったの?」

「ええ、部活のお誘いでした。お断りしたしましたけど」

「まぁ、体育でアレだけやらかせば、お呼びがかかるよね。このクラスの陸上部より足速いし」

「陸さんは、何でも出来るんですね」

「何でもなんて出来ませんよ。ただ、出来ることの方向性が、人と少しずれているだけですよ」

 泉は、その意味が理解できなかった。けれど、その言葉の意味を、詳しく聞くことが出来なかった。

 そうこうしていると、時間が経ち、午後の授業が始まる。午後の授業も、何事もなく過ぎていき、放課後、いつもと違う出来事が起きた。

 上級生の不良グループと繋がっている、藤原(ふじわら)花蓮(かれん)が陸の下へやってくる。

「三笠、あんたその天岡とよくつるんでるけど、天岡のこと、わかってんの?」

 威圧感を漂わせ、突如話しかけてくる。さらに、怜奈を見下しながら、続ける。

「そいつの親は、あのANTの社長なの。この前、デモグループを皆殺しにしたやつらの、親玉なの。大量殺人犯と繋がってんの。そんな、何するかわからないやつの娘なの。わかる?わかるよね。あんたは、よくそんなやつと仲良くやってられるね。信じらんない」

 一方的に捲くし立て、怜奈を侮辱する。自分の言っていることが全て正しいと言いたいようだった。けれど、相手が悪かった。

「まず、デモグループと言ってますが、武装したテロ集団ですよ。次に、大量殺人犯との事ですが、テロ集団は、喪失者(ロスト)の事を化物と呼んでいるんですから、言ってしまえば、自業自得です。さらに、喪失者(ロスト)と関係が深いからといって、何するかわからないというのは、ただの言いがかりです。ついでにいえば、怜奈さんは、怜奈さんですから。怜奈さんの事は、怜奈さん自身を見て、自分の目で、判断します。最後に、今、私と怜奈さんは、友達です。貴女にとやかく言われる必要はありません」

 冷静に、自分の想いをぶつける。クラスメイトは、陸の発言に、目を丸くしているが、中には、共感できる部分もあったのか、大勢が、陸の味方になっていた。形勢が不利と判断し、花蓮は、最後の悪あがきをする。

「ああ、もう、お前ら、後悔しても知らねーからな」

 捨て台詞を残し、花蓮は、取り巻きを連れ、教室から出て行く。

 そんな中、一人の生徒が、陸に声を掛ける。

「三笠、お前、バカか。あいつらが、上級生の不良グループと、つるんでるのは知ってんだろ。それなのに、あんなこといって」

「山田君、私は、間違った事を言ったとは、思っていませんよ。先ほどの事が、私の考えですから。それに、私は、山田君の事も、友達だと思っています。ああ、でも山田君は、泉さんを優先していいですからね」

「え、ちょっ……なんで、そこで私の名前が出てくるの!」

 弥生泉は、突然のことに驚きながらも、まんざらでもない顔をしていた。

 そんなやり取りをしていると、数人の生徒が怜奈に話しかけてきた。

「えっと、その天岡さん、その、前はごめん。三笠さんの意見に、全部は賛同できないけど、俺達、間違ってた。クラスメイトで、どんな人かわかってたはずなのに、噂とか、周りの意見に左右されて、ひどいことしちゃって、本当に、ごめん」

「えっと、私、その、家の事でとやかく言われるのは、慣れてるし、その、しょうがないから、だから、頭あげてくれるかな」

 クラスメイトによる謝罪を、怜奈は受け入れ、このクラスが抱える問題が、少し、軽くなった。

「まったく、こんなに可愛い娘をいじめるなんて、小学生じゃないんですから」

「陸、ずっと思ってたけど、やっぱあんた変人だわ。残念美人だったのね」

「泉さん、私は、私ですよ」

 その言葉を聞き、泉は、陸のことを少し理解できた気がしていた。

「あいつらが、このまま引き下がってくれれば、問題はないんだがな」

「そうよね。原因が、嫉妬からだから、ちょっと厄介よね」

「あの上級生は、もう来ないと思いますよ。プライドがずたずたでしょうし、勝てない事が、わからない人だとは、思えませんから」

 陸は、上級生の不良グループのリーダーを、それなりに評価していた。

 

 

 

 

 数日が過ぎ、日に日に、教室の雰囲気が和らいでいくのを感じていた。

 担任が、朝のホームルームで、バーストに関わる注意事項を述べていた。

「雨島のバースト予報は、毎日言ってるから、わかってるとおもうが、何度でも言うぞ。雨島学園が、対喪失獣(ロストビースト)用の武器で、新しい物を開発したらしい。それで、この前のバーストで、日本初、自衛隊と警察のみでバースト対応をして、大成功したらしい。これから暫くは、雨島学園抜きでバースト対応をするらしいから、避難誘導には、しっかりと従うように」

 この学校では、知る者はほとんどいないが、日本国内のバースト対応から、雨島学園が抜けるということは、その分、ユニオンが他の事に動けると言う事だった。

 山田悟が、学級委員である泉や、社長令嬢の怜奈、才色兼備の陸といった、誰もが認める美少女を独り占めしているという、噂が流れていた。本人には、そのつもりがなくとも、周りから見た結果である為、必然的に、周囲から嫉妬の感情を向けられていた。けれど、悟が、喪失者(ロスト)であるということは、入学直後から、周囲に知られている為、面と向かって、何かをしてくるような生徒はいなかった。

 悟は、教室の雰囲気が和らいでいく中、嫉妬の視線は感じるものの、それ以外の、喪失者(ロスト)への恐れといった感情が薄らいでいくのを感じていた。

「えっと、山田……君、あ……いや、さん。えっと違う、山田様?」

「最初のでいい。何か用か?」

 突然話しかけられ、驚きつつも、平静を保ち、続きを促す。

「ああ、山田君。明日、土曜だから、午後時間空くだろ。何人かでカラオケいかないか?」

 入学してから、一度も誘われる事の無かった悟は、突然の誘いに、戸惑いながらも、理由を推測し、それを口にする。

「つまり、泉達を連れて来いということか?」

「いや、そうじゃないんだ。連れて来てくれると嬉しいが、流石に、あの3人だと、心の準備が出来ない。三笠さんのまねじゃないけど、山田君を色眼鏡で見てたのは、確かだ。だから、山田君自身を見てみたくてね。だめかい?」

 悟を真っ直ぐ見つめる。そして、悟が、返事をするまで、じっと待ち続けた。

「ああ、わかった。行くよ」

「そうか。ありがとう。これが俺の連絡先だ」

 そういい、連絡先の交換をし、別れる。遠目に、普段、成り行きで一緒に帰っている三人を見ると、他の女子から、何かに誘われているようだった。タイミングがいいが、先ほどのクラスメイトからは、嫌な感じを受けなった。さらに、悪意があれば、陸が気付くだろうと思い、気にしないことにした。

 

 

 

 

 月曜日、この日の朝は、今まで以上に、教室の空気が清々しかった。教室内にあったわだかまりが消え、風通しがよくなったように思えた。

 不良グループと繋がっている生徒の件はあるが、けしかけた先輩が、返り討ちにあい、陸達に因縁をつけても、真っ向から言い返されてしまった為、クラス内で、噛み付こうとはしていなかった。

「さて、お前ら、雨島のバースト予報だが、とうとう明日に迫っている。外れる場合だと、訂正が出る時期だが、その様子もないようだと、明日のバーストは確実のようだ。学校が休みになるわけではない。授業時間中に、バーストが発生する予報なので、その際は、先生達の言うことを、よく聞くように」

 雨島学園が関わらない形のバーストでは、数人のけが人が出ているが、そのほとんどが、避難中の事故によるものである為、落ち着いて行動するよう呼びかけられていた。

 その日の昼休み、四人が、教室で昼食を食べていると、泉が、突然切り出した。

「悟、あんたって、実際どのくらい力を使えるの?」

 教室で、喪失者(ロスト)に関する話をする。それは今まででは、ありえないことだった。

「あんま大声で言いたくないけど、ほとんどつかえねーよ。扇風機レベルだ」

「この前の立ち回りを見る限り、多少の身体能力の強化に、武道を組み合わせているようですね」

 陸の発言に、悟は驚きの表情を隠せない。なぜなら、悟は、親戚をたらいまわしにされている間、とある地域で、道場に通っていたことがあるが、誰にも言っていない為、気付かれているとは、思っていなかった。

「護身術をやってるだけあって、その辺はわかるんだな」

「ええ。そんなところです」

「じゃあ、いざと言う時に悟に守ってもらえないのか。ちなみに、ダメ元で聞くけど、怜奈の家から、ギア?とかいうやつ持ってこれないよね」

 突拍子もないことを立て続けに思いつき、口にしている泉に、苦笑いしながらも、怜奈は真面目に答える。

「えっと、対喪失獣(ロストビースト)用に使われるギアは、ウェポンギアって呼ばれているんですけど、管理がしっかりしてますし、銃刀法に引っかかるはずなので、無理だと思います。それに、素人が扱うと、危ないらしいですよ」

「実際、喪失獣(ロストビースト)を倒せる武器が合っても、使う側に、その覚悟がないと無理だと思いますよ」

 怜奈が拒否し、陸が、否定する。この会話を聞いていたクラスメイトも、自分達の護身用にならないかと期待していただけに、残念がる様子が、見て取れた。

 だが、一名、諦めきれない人間がいた。

「ねえ、悟に持たせたら、ちゃんと使えるかな?」

 泉だった。ウェポンギアは、喪失者(ロスト)が異能を使う際の媒体として使われる。つまり、喪失者(ロスト)であれば、その力を十分に引き出せると考えてのことだった。

「その、泉さん、異能の媒体として使うにしても、それ相応の訓練をしないと、結局使えないんです」

「だいたい、俺に喪失獣(ロストビースト)と戦えって言うのか?」

「いやー、ちょっと気になってね。でもさ、ギアについてはわかったけど、何でバーストが起こるって言うのに、休みにならないのかな?」

「バースト予報だと、昼前後ですから、多くの人が、バラバラにいるよりも、まとまっていた方が、守りやすいという理由があるらしいですよ」

 結局、ギアを使う訓練をつんだ人間に任せるしかないという結論に達し、バーストについての会話を挟みつつも、昼食の時間が過ぎていく。

 この日、明日に迫ったバーストに対し、様々な感情を抱きながらも、全ての生徒が帰路に着き、当日を迎える。

 

 

 

 

 バースト当日、予想地域には、朝から多くの自衛隊員や警察官が厳重な警備体制を整えていた。

「よし、お前ら、今日は昼前後にバーストが起こると言われている。だから、授業内容の変更だ。バーストについて教える」

 担任がそう言うと、授業が始まり、バーストについて記載されたプリントが配られる。

「よし、全員に行き渡ったな。バースト、つまり、異常発生とか言われる場合もあるが、喪失獣(ロストビースト)が大量に出現することを言う。それじゃあ、三笠、わかっている範囲でいいから、言ってみろ」

 余りにも大雑把な質問であるが、バーストについては、通常の授業では用語を習う程度、詳しい生徒はほとんど居ない。けれど、三笠なら知っている。担任すら、そう思うようになっていた。

「知っていることですか……まず、発生する時に、光の柱が現れ、そこから、多くの喪失獣(ロストビースト)が出てくるそうです。そのことから、光の柱が、喪失獣(ロストビースト)の核である特殊鉱石(ロスタイト)だと言われています。さらに、喪失獣(ロストビースト)自体が、小型・中型・大型と分類されており、小さい方から、段々と出現するそうです。以上です」

「ふむ。大まかなことは、説明されてしまったな。ま、そういうことだ」

 担任は、予想以上に説明されてしまった為、時間を持て余してしまう。そこで、授業形態を切り替えることを思いついた。

「よし、質問あるか?」

 生徒への丸投げである。

 その丸投げに応じた生徒がいた。

「せんせー。何で喪失獣(ロストビースト)を倒すのに、ギアっていうのが必要なんですか?」

 泉が、質問を投げかける。このあたりの知識は、雨島関係者であれば、一般常識である。しかし、雨島から離れれば、詳しく知る者はいない。

「詳しいことは、公表されていないが、喪失獣(ロストビースト)の表皮は、ギアや、喪失者(ロスト)の異能以外の攻撃を受け付け難いと言われている。きっと、この辺は、雨島関係者用に公開されている雨島レポートに載っているとはおもうがな。誰か、この辺りの事で、説明できるやついるか?」

 一般にも、雨島レポートは公開されているが、学園内や、研究者用と比べれば、圧倒的に範囲が狭かった。しかし、このクラスには、例外的に、雨島関係者と言える人物がいた。

 一人の生徒が手を上げる。それは、怜奈だった。

「先生、さきほど、陸さんが、言っていましたが、喪失獣(ロストビースト)の核は特殊鉱石(ロスタイト)という物質です。そして、ギアも、その特殊鉱石(ロスタイト)から作られています。よって、喪失獣(ロストビースト)を包む、防御幕としての性質を持つ何かが、特殊鉱石(ロスタイト)に反応し、攻撃を受け入れると言われています。ただ、これは雨島外の研究者による考察なので、真相は不明です」

 ANTの社長令嬢として、喪失者(ロスト)に関わる知識に関しては、一般人よりは、確実に多い怜奈と、クラスメイトからは、博識だと思われている陸により、様々な疑問が解消されていった。

 

 

 

 

 バーストに関する授業が終わり、そろそろ昼休みになるという時、突然、世界が揺れた。

 それは、地震ではなかった。突如光り輝いた地点を中心に、半径数キロだけが、揺れる。そして、揺れの中心にある光が、大きな柱となる。辺りが静寂に包まれるが、それは、嵐の前の静けさだった。

 外から、多くの人が動き回る音が聞こえる。バースト対応の為に配備された自衛隊と警察の混成部隊が、展開を始める。そんな中、陸達のクラスでは、避難の開始を担任が告げていた。

「前もって説明したと思うが、全員校庭に一時避難だ。喪失獣(ロストビースト)が校舎に突っ込んだら大変だからな」

 地震のときは、建物からの落下物から身を守るには、建物の高さと同じ距離だけ離れる必要があるといわれている。つまり、校舎が破壊された時は、校庭では意味はないが、喪失獣(ロストビースト)の攻撃から身を守るという点については、ある程度の効果があると考えられていた。

 怜奈は、開けた屋外に避難するという選択肢に戸惑っていた。それは、彼女が、喪失獣(ロストビースト)に対しての知識を、一般人より多く有しているからであった。

「鳥型の喪失獣(ロストビースト)が出てきたら、屋外だと危ないと思うんですけど……」

「それはそうだが、警察からの命令だから、避難してくれ」

 担任も、雇われの身であり、上から、降りてきた命令に関して、逆らうことが出来なかった。

 クラスメイトが、次々と廊下へ出て行く中、陸が、怜奈にだけ聞こえるように呟いた。

「怜奈さん、雨島から貸し出されているギアには、遠距離用も含まれているので、ある程度は、大丈夫なはずですよ」

「陸さん……」

 陸に促され、怜奈も移動を開始する。地震の多い国ゆえ、避難訓練の賜物か、大した混乱も無く、全校生徒が、校庭への避難を完了させた。

 この高校の護衛担当の警察官が、校長と打ち合わせをしている。その時、光の柱に異変が起きた。ガラスが割れるような音と共に、光の柱の一番外側の層が剥がれ落ち、大量の小型喪失獣(ロストビースト)が、生れ落ちる。これからが、バーストの本番である。

「えー、皆さん、ここで、警察の方が、喪失獣(ロストビースト)を迎撃します。時折、警察の方から、指示があると思いますが、その際は、落ち着いて、行動してください」

 校長がそんな話をしていると、付近の住人も、校庭へ避難してくる。この校庭が、付近の避難所となっていた。

 時折、小型喪失獣(ロストビースト)が、近づいてくるが、待機している警察官が、ギアを使い倒していく。その様子を眺めていると、先ほどよりも、さらに大きな音が、響き渡る。

「バースト、第2フェイズへ移行を確認。中型の出現が確認されました。鳥型、もしくは、強敵と判断した場合、遠距離型ギアの使用を許可する」

 警察官の無線機が、バーストの状況を知らせていた。その無線が示す通り、地面へ落ちていく破片の他に、空中で姿を変え、飛行を開始する固体が出現した。

 鳥型と呼ばれる喪失獣(ロストビースト)である。鳥型が、空を埋め尽くそうとするが、あちらこちらから、銃声が聞こえる。それは、特殊鉱石(ロスタイト)により、弾丸をコーティングされた、遠距離用ギアの音だ。特殊鉱石(ロスタイト)の弾丸が、空を飛ぶ鳥型を打ち抜く。いくつもの銃創をその身に刻んだ鳥型は、力なく降下を開始し、風化し塵と化した。

「これが、バーストか」

 そんな声が、所々から聞こえる。

 始めは一方的だったが、次第に苦戦の音が聞こえる。遠くで建物が崩壊する音が聞こえた。中型喪失獣(ロストビースト)による攻撃が、破壊を撒き散らしていた。始めは、その膂力による破壊だったが、次第に、異能による破壊が広がる。

 各避難所の防衛を担当している警察や、出現する喪失獣(ロストビースト)の殲滅を担当している自衛隊に、苦戦の色が広がる。そんな中、陸達が避難している校庭、押され始めた自衛隊員の姿が見えた。防衛を担当している警察官に、緊張の色が見える。

 一体のゴリラ型中型喪失獣(ロストビースト)が、自衛隊の包囲網を突破し、校庭に突入する。周囲からは、数多くの悲鳴が聞こえる。勇敢な生徒は、他の生徒を庇うように前へ出る。陸達の傍にいた悟も、泉を庇うように立ち位置を変えた。

「悟……」

「心配するな」

 ゴリラ中型喪失獣(ロストビースト)が自衛隊に開けた穴を塞ぐ前に、多くのゴリラ中型喪失獣(ロストビースト)が、通り抜ける。恐怖の余り、避難している多くの人間が、混乱し、叫びを上げる。警察官や、教師陣がなだめようとするが、効果がない。しかし、一人の生徒による怒鳴り声が、その状況を一変させる。

「だまれ!」

 上級生の不良グループでリーダーをしている生徒だった。不良グループを束ねているだけあり、統率力のある生徒だ。

「騒げば、余計な混乱を生む。それは、余計な被害を生む。こんな時だからこそ、落ち着け」

 周囲は、その言葉を聞き、一時的に落ち着きを取り戻す。けれど、一つの不幸を呼び寄せた。

 その大声が呼び水となり、不良グループのリーダーに対し、中型喪失獣(ロストビースト)が目を付ける。

 リーダーも、それに気付き、行動を開始する。

「それを、貸せ」

 その一言と共に、近くにいた警察官からウェポンギアを奪い取る。そのまま大きく動き、中型喪失獣(ロストビースト)の意識を引き付ける。

 リーダーは、不良として、多くの喧嘩をしてきた。その勘が、中型喪失獣(ロストビースト)との戦闘を、一時的に可能にしていた。何度か、中型喪失獣(ロストビースト)へ浅い傷を負わせるが、それ以上の傷を負っていた。動きが鈍り、防戦一方へと変化する。誰もが、もうもたない。そう思っている。

 自衛隊の包囲網を突破した中型喪失獣(ロストビースト)は、一体ではない。防衛を担当している警察官が、数人がかりで、引き付けるが、倒すには至らない。そんな中、一体の中型喪失獣(ロストビースト)が、悟の方を見つめる。

「そういえば、喪失者(ロスト)って喪失獣(ロストビースト)引き付けるんだよな……」

 悟は、雨島レポートに記載された記述を思い出す。そして、自ら、中型喪失獣(ロストビースト)へ向かおうとするが、泉が、引き止める。

「行かせないよ。悟のこと、頼まれてるから」

「俺が居たら、皆襲われるかもしれないんだぞ」

 泉は、その言葉を否定したかった。だが、否定するだけの証拠がない。悟に手を振り払われ、力なくうな垂れるしかない。けれど、別の手が、悟を捕まえる。

「何を勘違いしているんですか。山田君、貴方のような雑魚が、中型を引き付ける訳ないでしょう」

 それは、陸だった。陸は、悟の肩を掴んでいる。周りからすると、乗せているようにも見えたが、掴まれている悟は、その、あり得ないほどの力に驚愕する。その驚きを尻目に、陸は一人続けた。

「前回は、ちゃんと対応できたというのに。まったく、このままだと、大型が出てきたら、総崩れですね」

 陸は落ち着き、状況を整理している。その目には、何かを決意したように見える。

「三笠、お前、何なんだ?」

「私は、私です。何かと言われれば、それは、私を見る貴方が判断することです。貴方が人間と呼べば、人間として振舞います。ですが、化物と呼べば、化物として振舞うだけです」

 誰もが、この言葉の意味を理解できなかった。いや、ただ一人、理解していた。

「陸……」

「怜奈さん……、いえ、貴女が、いつも通りの呼び方をするのでしたら、ここはいつも通り呼びましょうか。お嬢、貴女が何とかしろといえば、私は、この場を何とかしますよ」

 陸は、普段以上に親しみを込めて、お嬢と呼んだ。それは、呼びなれたような言い方だった。

「でも……私は、貴女達に何かをしてあげたわけじゃない」

「まったく、いつもいってるじゃないですか。お嬢は、天岡さんの姪なんですよ。あの人の家族なんですから、それだけで、私達、ユニオンには十分です」

 ユニオン、それは、雨島学園で、ゴールドエンブレムを持つチームによる連合であり、雨島が、 J‐LI‐07と呼ばれていた時、その島を制圧した雨島制圧隊の、雨島内での今の呼び方である。

 だが、この場に、この二人以外に、ユニオンの意味を理解できる人はいなかった。

「陸……私は、一方的な関係は好きじゃない。貴女が、友達って言ってくれた時、嬉しかった。だから、本当の友達になって」

「友達ですか。その辺りの言い方は、後々考えますね。では、私は、勝手に友達を守りますよ」

 怜奈は、相変わらずユニオンはわからない。そう思った。けれど、友達と認めてくれたこと。それが、とても嬉しかった。

 陸は、遥か昔に忘れた感情が揺さぶられた気がした。それがどんな感情なのかはわからない。ただ、友達の為、その為に、自身を切り替える、魔法の言葉を紡ぐ。

「Limit Break-Mode”THE NEXT”」

 陸から、膨大な力が溢れ出る。周囲にいる中型喪失獣(ロストビースト)が、その力に反応する。

 陸の背中に、オリジンの翼が現れる。色はない。だが、確かにそこに存在する。

 陸に反応し、近づいてきた中型喪失獣(ロストビースト)に、運動エネルギーによる一撃を叩き込む。それは、中型喪失獣(ロストビースト)を吹き飛ばし、遠くに見える光の柱への攻撃だった。

「なんだ……あの力」

 悟は、自身の疑問を口にした。口にする気はなかったが、自然と、口からこぼれていた。

 本来、誰からもその答えが出てくるはずがない。けれど、一人、その答えを知っている人がいた。

「あの力は、ネクストって呼ばれてる力です。喪失者(ロスト)の第二段階。操作だけでなく、生み出すことすら可能になる力」

 怜奈は、その疑問に答えるように呟いた。

喪失者(ロスト)の第二段階って……それに、生み出すって」

「そもそも、喪失者(ロスト)の力は、司る力だといわれてるんですよ。司っているのに、操作しか出来ないというのは、可笑しいとおもいませんか?」

 ネクストの圧倒的な力に、避難している人達は、目を奪われていた。そんな中、不良グループのリーダーは、目を奪われた隙をつかれ、目の前の中型喪失獣(ロストビースト)からの一撃を受けてしまう。

 その様子を知覚していた陸は、追撃をしようとしている中型喪失獣(ロストビースト)と、リーダーの間に現れる。そのまま、中型喪失獣(ロストビースト)からの攻撃を、手のひらで受け止める。

「お前、喪失者(ロスト)だったのか」

 陸は、その呟きを耳にしながらも、答えない。見ればわかると言わんばかりだ。そして、目の前にいる中型喪失獣(ロストビースト)に、下方向への膨大な運動エネルギーを付与する。それは、上から押しつぶすのと、同じことだった。

 校庭にいる中型喪失獣(ロストビースト)を殲滅した陸は、近くにいる警察官に声をかけ、対応の為の混成部隊の状況を聞きだす。

「お巡りさん、対応状況は、どうなっていますか?後、ALUは来ていますか?」

 ALUそれは、対ロスト対策室という、元々は、喪失者(ロスト)による事件を担当する為の部署だった。だが、現在はその活動内容を、大きく変えている。

「いや、今回は着ていない」

「そうですか、この総崩れの原因はそれですね。では、無線で伝えておいてください。雨島の喪失者(ロスト)が、喪失獣(ロストビースト)の殲滅を行います。――Realization」

 陸は、左手に、黒い棒状のギアを取り出す。それは、複可変型複合ギア。流し込んだオリジンの波長に合わせ、形を変化させるウェポンギアだ。

 黒い一枚の大きな翼のような剣となる。陸は、「行きなさい」と呟くと、翼から、羽が分離し、宙をまう。それは、落下するエネルギーと同じ量の運動エネルギーを真逆に与え、空中に静止する。

「お嬢、ちょっとバーストを終わらせてきます」

 にこやかに、そう宣言すると、分離したギアと同じ要領で、空中に足場があるかのように移動する。自身の知覚範囲を広げ、バーストの範囲全てを知覚する。

 分離したギアが、散開し、宙を舞いながら、広範囲に移動している喪失獣(ロストビースト)を貫く。

 光の柱から、表面が剥がれ落ち、バーストは、更なる段階へと進む。それは、大型喪失獣(ロストビースト)の出現を意味する。

「四体ですか。まぁ、普通ですね」

 陸は、ギアに残された刃を使い、大型喪失獣(ロストビースト)を一刀のもとに切り捨てた。

「本部、連絡にあった雨島の喪失者(ロスト)と思われる人物により、出現した大型の消滅を確認しました」

「了解。そのまま監視を続けろ。但し、邪魔だけはするな」

「なんなんだあいつ……」

 そんな会話を尻目に、陸は、考えをめぐらせる。このまま、光の柱の剥離を待ち、バーストを通常通りに終わらせるのか、光の柱そのものを破壊するのか。そして、陸は残りの手に、ギアを取り出す。

「終わらせた方が、早い」

 ギアが形を変える。右腕を守る手甲のようになり、さらに、短槍が装備されている。パイルバンカーのような武器だった。

 陸は、羽の制御を維持し、喪失獣(ロストビースト)の殲滅を行いながら、光の柱から距離をとり、運動エネルギーを溜める。

 右腕のギアに力を載せ、光の柱へ突撃する。インパクトの瞬間に、載せた力を解き放つ。ギアで出来た短槍が射出され、光の柱を穿つ。その一撃により、光の柱に小さな穴が開く。その影響で、柱全体に亀裂が走る。そして、光の柱が砕け散った。その破片から喪失獣(ロストビースト)が生まれることは無く、風化し塵と化す。

 異能を制御し、射出した槍を回収する。まだ、周囲には喪失獣(ロストビースト)が残っていた。羽を使い、一体ずつ倒すのが面倒になり、陸は、力を解放する。

 空が、澄み渡る。

 普通の人間には、陸が力を使った結果しか、認識できなかった。だが、バーストによって生まれた喪失獣(ロストビースト)は、体中にいくつもの小さな穴を開けられていた。

 陸は、空気中にある小さなゴミやほこりに、運動エネルギーを与え、極小の弾丸とし、喪失獣(ロストビースト)を殲滅した。喪失獣(ロストビースト)の生物的な頑丈さを無視するほどの膨大なエネルギーを与えられていた。それは、ネクストに成ったばかりの喪失者(ロスト)では不可能といえるレベルの技量だ。

 

 

 

 

 

 後処理を混成部隊に任せ、陸は校庭へ戻ってくる。校庭に避難していた一般人は、既に解散していた。校庭にいるのは、学校関係者と警察関係者だけだ。

 陸は、その中に見知った顔を見つける。

「やぁやぁ、陸ちゃん、相変わらず凄い力だね」

「峰地さん、さぼりですか?」

 対ロスト対策室、通称ALUの室長補佐を勤めている峰地総一だった。

「さぼりなんてひどいな。ここの連中が、僕達は不要だっていうから、待機してたら、案の定さ。君がいてくれて助かったよ」

 よく見ると、遠目にALUの隊員が見える。陸が隊員を見つけたのに気付き、峰地は続けた。

「そういえば、特殊鉱石(ロスタイト)は回収したのかい?」

特殊鉱石(ロスタイト)ですか。”共鳴”で回収してもいいのですが、面倒です。そちらに譲りますので、勝手に回収してください」

「いいのかい?君達にとって、特殊鉱石(ロスタイト)の供給の独占は、かなり重要な部分のはすだけど」

「ハァ、急がないと、誰かに持っていかれますよ。あちらこちらに散らばっているのですから」

 陸は、ため息交じりで、めんどくさそうに答えた。

 その答えを聞き、峰地は、隊員に指示を出しながら、急いで離れていった。

 そして、陸は、一瞬の逡巡を見せるが、意を決し、怜奈の元へ戻る。怜奈の方を見ると、数人の生徒に問い詰められているようだった。陸は、意識を傾けることで、その会話を聞いた。

「天岡さん、三笠が喪失者(ロスト)だって知ってたの?」

「ユニオンって何なの?」

「何なのよ、あの娘」

 泉と悟が間に入っているが、怜奈は、クラスメイトの剣幕に脅え、答えることが出来ない。

 陸が近づいていることに気付き、クラスメイトは、口数を減らしていく。

「お嬢、ただいま戻りました」

 陸は、そう言いながらも、クラスメイトの雰囲気の変化を感じ取っていた。

 教師陣が、校庭にいる生徒を、徐々に教室に戻している。そんな中、上級生の不良グループのリーダーが陸の元へやってきた。

「三笠陸であってるか?」

 後ろから聞こえた声に、陸は振り向く。

「そうですよ。不良グループのリーダーさん」

「確かに、お前からすれば、そういう認識だな。まぁいい。さっきのことの礼を言いに来ただけだ。ありがとう。そして、この前は、すまなかった」

「別に、お礼を言われるほどのことだとは思っていませんよ。それに、この前のことは、気にしていませんよ。私がいるんですから、貴方達が、どうこうできるわけがありませんから」

 不良グループのリーダーは、「それもそうだな」といい、去っていく。

 リーダーと入れ違いに、担任が近づいてくる。

「ああ、えっと、とりあえず、ここだと目立つ。教室に戻れ」

 担任は、唯一、陸のことを知っていた校長から、事情を聞かされたばかりだった。

 

 

 

 

 教室へ戻ると、陸達を囲み、言葉を投げつけてくる。

「三笠さん、貴女、喪失者(ロスト)なの?何でこの学校にいるの!」

喪失者(ロスト)かどうかは、見ていればわかりますよね。理由は、秘密です」

「友達だと、思ってたのに……あなただって、ばけ――」

 そこまで言ったところで、頬を叩く大きな音が響く。クラスメイトは、頬を赤くし、驚きのあまり、呆然としていた。

「貴女は助けられた。そのことをわかっているの?陸が戦わなければ、みんな死んでたかもしれないのに」

「そうだよ。警察だって、自衛隊だって、結局、喪失獣(ロストビースト)を完全には抑えられなかったじゃない」

 泉が怜奈を擁護する。クラスメイトもそれはよくわかっていた。だが、遠目とはいえ、怖かったのだ、その目で見た光景が。混成部隊が手を拱いていた中型喪失獣(ロストビースト)よりもさらに強い、大型喪失獣(ロストビースト)を一撃で倒したことに。

「でも……」

 クラスメイトは、反論しとようとする。だが、その為の材料がなかった。だが、一人だけ気付いたものがいる。

「だから私は言ったんだ。後悔しても知らないって。こいつは、天岡や雨島を庇ってたけど、そもそもこいつだって、同類だったんじゃん」

 花蓮は、高らかに宣言した。だが、内心では、陸という存在に恐怖していた。

 悟は、そのことを見抜いている。

「なぁ、藤原、そんだけ勝ち誇ったように言うなら、同類とか言葉を濁すなよ。口にだしてみろよ。それに、そっちのお前も、天岡に助けられたことに気付け」

 花蓮が、無意識に『化物』という言葉を避けたこと、さらに、クラスメイトが『化物』といいかけたことに気付いていた。

 悟は、数々の情報から、雨島に関係する喪失者(ロスト)の中でも、上位に位置する喪失者(ロスト)に対し、化物と言うことの意味を理解していた。

「山田君、そんなにいじめちゃだめですよ。それに、私が、この学校に通う条件に、喪失者(ロスト)とばれないこと言うのがありますから、私は、この学校に居なかった事に成ります。貴方達がいれば、天岡さんの頼みごとも、問題ないでしょうし」

 そう言うと、陸は荷物を片付け、教室を去ろうとする。けれど、怜奈が、陸を止める。

「陸……ありがと。後、皆に伝えといて。皆がなんて思ってるかわからないし、皆の考え方もわからないけど、私は、友達だと思ってるからって」

「伝えておきます」

 陸は、教室の入り口で、小さく手を振りながら、言うと、この学校から去っていった。




こんにちは

本当は、もっと早く投稿するはずでした。

ラノベの新刊って読みたくなってしまうのです。申し訳ありません。

読んだ後に、色々というか、所々微修正して、終盤を書き上げました。終盤って難しいです。

外の話を書くと、主人公が出てこないですね。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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