Linkage   作:enz

21 / 40
迫り来るセカイ

 6月も終わりに近づき、例年よりも早めに梅雨が明けた。雨島学園では、封鎖領域での探索が開始され始めていた。

 Linkageは、雨の日に可変型ギアの使い方を学び、晴れの日には、水輪島へ出かけていた。

 そんなある日、授業が終わり、Linkageリーダーである、夜星ほのかは、担任の秋萌夕に呼び出された。

「夜星さん、探索前にごめんなさい。急な事態だったので……」

 本来であれば、教師陣は、課題を受けたチームを引き止めるということは、しないようにしている。にもかかわらず、秋萌は、ほのかを引き止めた。

「いえ、急にどうしたんですか?」

「それがですね、黒月生徒会長が、急にANTの本社に行ってしまいまして、双月風紀委員長も、手が空いてないようなんです。他のユニオンの人は、私達じゃ連絡がつかなくて……。あのですね、今日、東京から、ALUの隊員が、演習に来るらしいんですよ。それで、夜星さん達にそのお手伝いをして欲しいんですよ」

 ほのか達は、一度東京に行ったときに、ALUの室長補佐という人物にあっていた。他の隊員については、見かけた程度だが、雨島学園の一般生徒では、唯一だ。

「それって、指名課題ですか?」

「ええ、そういうことになります。Paladinは、ちょっと色々問題もあるので……」

 Paladinのリーダーである最上誠は、今では少しとげが取れてきたが、少し前までは、周りに噛み付いていたので、教師陣からの評価は、若干低かった。

 Linkageに指名課題が来たのは、その為でもあった。

「仲間と相談していいですか?」

「ええ、データを転送しますので、見てから決めてください」

 ほのかは、リーダーとはいえ、独断する訳にはいかないと考えている。その為、教室に残っている仲間と相談を始める。

「ALUの隊員の戦闘訓練の付き添いか……」

「場所は、双子島の水輪島側の橋付近からね」

「船は、学園側のを使っていいのか」

「要するに、護衛」

 ほのか達は、指名課題の内容を確認する。ほのか達にとって、そこまで難しい内容ではなかった。

「それじゃあ、受けたくない人ー」

 ほのかの問いかけに、誰一人手を上げなかった。五人は、指名課題である以上、なるべく受けようと考えていた。

 その結果を見て、ほのかは決断を下す。

「それじゃあ、先生に受けるって、返事してくるね。司、最上君に、今日は水輪島いなかいって伝えといて」

 そういうと、ほのかは、廊下で待っている秋萌に返事をしにいく。

 その答えを聞き、秋萌はほのかの手をとり感謝する。

「夜星さん、ありがとうございます。では、詳細をお話しますので、職員室へお願いします」

 ほのかは、教室にいる仲間に声をかけ、全員で職員室へ向かう。

 ほのか達は、職員室の前で、見慣れた生徒と鉢合わせした。

「あれ?智花、Laboは水輪島行かないの?」

「夜星ほのか、こんな所で会うとは思わなかったよ。その疑問には、答えてやる。行くが、その前に所要だ。秋萌先生、ちょうどいい所に。黒月紫苑生徒会長は、居ますか?」

 日向智花は、生徒会長である、黒月紫苑に用があり、職員室の隣にある生徒会室へ行く途中だった。

「日向さん、それがですね、急にANTの本社に行くことになったらしくて、今日は居ないんですよ。どういったご用件ですか?」

「秋萌夕先生、用事と言うのは、黒月紫苑生徒会長を通じて、これの返却をして欲しかったものですから」

 そういうと、智花は、手に収まるサイズの黒い棒状の物を取り出した。

 ほのかは、それに心当たりがあった。

「可変型ギア……」

「ああ、夜星ほのか、その通りだ。LostWingからデータ解析用に渡されていた物だ。これ自体を強化するより、一から作るほうが、強化できるからな」

「LostWingというと、ユニオンの一つですよね。職員室からは、連絡が取れないので、もしよければ預かりますよ。双月風紀委員長の手が空き次第、連絡を取ってもらおうと思いますので」

「秋萌夕先生、わかりました。いないのであれば、しかたないです。この可変型ギアは、重要なものなので、厳重に管理してください」

 そういうと、智花は、秋萌にギアを託し、去っていく。

 残されたほのか達は、秋萌に連れられ、職員室で指名課題の詳しい説明を受けることになった。

「ギア、しまうので、待ってくださいね。えっと、東京から来るALUの隊員は、全部で5人だそうです。基本的に、手出し無用で、皆さんが危ないと思った時に、助けに入ればいいそうです。何か質問はありますか?」

 ギアを机にしまい、鍵を掛ける。指名課題に関しては、簡単な説明だったが、他に聞くこともない内容だった。

 仲間を見回し、確認したところで、ほのかが、代表して、答える。

「大丈夫です」

「そうですか、それでは、そろそろフェリーが着く時間なので、お迎えもお願いします」

 ほのか達は、「ハイ」と答え、そのままフェリー乗り場まで向かう。

 

 

 

 

 雨島諸島で唯一、他所からの船を迎え入れている雨島港。ここは、東京から来る専用フェリーも、受け入れている。

 完全予約制ということから、欠航が、頻繁に起こるフェリーだが、この日、六人の人間が乗っていた。

 一人はスーツの男性、残りの五人は、同じような意匠の、特殊部隊の戦闘服を着ていた。

 ほのか達は、五人と聞いていた為、隊員だけで来たのかと思ったが、スーツの男性は、ほのかと天野司の二人にとって、見たことのある人物だった。

「やぁ、ほのかちゃんと司君だったね。君達が迎えに来てくれたのか」

 ALUの室長補佐である、峰地総一が、五人の隊員を連れてフェリーから降りてくる。

 ほのかは、知らない人間もいるので、きちんとした挨拶をすることにした。

「皆さん、いらっしゃいませ。雨島へ、ようこそ」

 突然のほのかの対応に、司達は、噴出しそうになっていた。

「ほのかちゃん、そんな無理しなくていいから。僕は、別行動するから、彼らを連れて行ってくれ」

 そういうと、峰地は、スーツケースを手にし、余った手を振りながら、一人で行ってしまった。

 ほのか達と、ALUの隊員は取り残されてしまったが、気を取り直し、課題へ向かうことにした。

「連絡は貰っています。皆さんが、Linkageですね。私は、(なぎさ)一葉(かずは)。今回の訓練の指揮官を任されています。

 ALUの隊長を務める人物は、ほのか達と同じくらいの少女だった。

 ほのか達は、気付いた。この部隊の全員が喪失者(ロスト)だということに。

「はい。私は、夜星ほのかです。よろしくお願いします」

 各々、簡単な挨拶をしながら、船を止めてある場所へ向かう。

「ねぇねぇ、渚さん、あの室長補佐さんって何しに来たの?」

「先日のバーストで、小型・中型の核を大量に、そして、大型の核を3つ手に入れることが出来たので、それを使ったギアの作成を依頼するそうです」

「へー、でも、ギアなら雨島からの貸し出しがあると思うんだけど」

「貸与品ではなく、所持品としてのギアが欲しいそうです」

「詩歌、そっちにも色々事情があるんだろうから、根掘り葉掘り聞いちゃダメだよ」

「ハーイ」

 詩歌が、興味津々に様々なことを聞こうとするが、ほのかがそれをとめる。

 ほのかが止めたのも、船に着いたからであった。

「では、船の方は任せてください」

「ギアは、あちらの施設でレンタルしますので、移動中に襲撃があった場合は、対処をお願いします」

 隊員がそういうと、船の準備をしていく。あっと言う間に準備が終わり、船が出港する。

「渚さん、一応、危ない時の助太刀って形ですけど、私達の独断で入っていいんですか?」

「夜星ほのかさん、同い年なので、呼び捨てで構いませし、敬語は要りません。皆さんも、それでお願いします。それと、独断で構いませんが、ギリギリまで待つようにして下さい」

「じゃあ、一葉さんって呼びますね。なんか大人っぽいから。私も、ほのかでいいですよ。わかりました。無理しないでね」

 ほのかは、渚一葉の凛とした、たたずまいから、他の仲のよい同級生のように、呼び捨てにするのを憚られた。

 一葉は、ほのかの相手をしながら、部隊員との打ち合わせを行っている。

「一葉さんって、よくほのかの相手をしながら、ミーティング出来るな」

「慣れてる雰囲気は、あるわね」

「あの人達って、雨島のリストから外れた人達だよな」

「もしくは、雨島を、拒否、した、人達」

 喪失者(ロスト)が雨島に保護された時、一通りの説明を受け、自らの意思での選択を迫られた。その中には、異能の力を使わずに、今まで通り暮らす事を選んだ人もいる。また、ある程度の年齢に達していた人達は、雨島への勧誘はあったが、断ったものもいる。

 雨島のシステムは、未成年の中でも、少年少女と呼ばれる年代に適応している。数は少ないが、大人と呼ばれる年齢で、喪失者(ロスト)になった人もいる為、その中で、新しい場所で暮らす事を選んだ大人は、かなり多い。ALUの隊員も、それぞれの事情で、ALUに所属していた。

「さて、着いたね。船の格納は、私達がやるので、一葉さん達は、ギアのレンタルとか、準備してきてね」

 ほのかに促され、一葉達は、準備に向かう。

「なぁ、ほのか、あの人達、物質型(マテリアルタイプ)見たいだけど、一葉さんだけ、何か違うよな」

「うん。多分貯蓄型(チャージタイプ)なんだと思う」

「でも、私は、少し違和感を覚えたよ」

「詮索、しても、しょうが、ない」

「そうだな。どうせ、このあと見れそうだし」

「そだね。格納も終わったし、合流しようか」

 ほのか達が、観測室へ向かうと、一葉達は、準備を終え、ウォーミングアップをしていた。

「ほのかさん、こちらの準備は出来ています。私達が先行するので、後から着いて来て下さい。後は、打ち合わせ通りにお願いします」

 そういうと、行動を開始する。

 一葉達は、峰地の直轄部隊という事で、今までのバーストでもユニオンが殲滅をしている中、一部の区域を担当し、対喪失獣(ロストビースト)の戦闘を経験していた。今回の演習も、ユニオンの三笠陸が介入したバーストを踏まえ、ALUが国内のバースト対応の主導権を握る事になるので、メインのアタッカーとして経験を積む為のものだ。

「必ず、数で勝るように立ち回ってください。相手は、私たちよりも、異能を使いこなします」

「「「「了解」」」」

 一葉の命令の元、中型喪失獣(ロストビースト)との戦闘を繰り広げる。双子島の奥地には、中型喪失獣(ロストビースト)の群れも存在する。そういった場合、ほのか達が介入し、数を減らすようにしていた。

 前に、ほのか達が遭遇したレベルの固体もおらず、つつがなく演習をこなして行く。一葉達は、ネクストではないが、制御能力に関しては、雨島学園でも、トップクラスに相当する実力者だった。

「ほのかさん、次に群れがいた場合、数は減らさないで下さい。相手の数が多い場合の訓練を行います」

「わかった。減らす時は、言ってね」

 暫く戦闘を続け、先へ進むと、六体の群れを発見する。一葉は、それに気付くと、部隊員に指示を飛ばす。

「二人ずつに別れて、一体ずつ対処して下さい。残りは、私が引き付けます」

 一体ずつ誘い出すにしても、密集していた為、数を減らしながら対処することにした。

「まず1体、完了。残り5体」

「こちらも1体完了。残り4体」

 順調に数を減らしていく。すぐに残りの数が、一葉達を下回る。

「各自1体ずつ対応。私が、加勢し、討伐します」

 一葉が引き付けていた四体を、隊員がそれぞれ受け持つ。それぞれの位置を離した段階で、一葉が、近くにいた隊員に加勢する。

 一葉達も、ギアの扱いには慣れている為、順調に討伐する。

「こちら、引き付けていた1体、完了。残り3体。他へ加勢します」

 中には、一対一なら、中型喪失獣(ロストビースト)を倒せるものもいる。

 その結果、直ぐに元々いた六体の喪失獣(ロストビースト)を倒しきった。

「一葉さん、四体を捌くなんて、すごいね」

「バーストでは、多くの喪失獣(ロストビースト)に囲まれますから、常に周囲を警戒した結果です」

 一葉は、相手にダメージを与えてはいないが、自分も、危なげなく回避していた。

「そろそろ、戻り始めないと、暗くなるよ」

 ほのかが、時間を確認し、戻るよう促す。夜になると、喪失獣(ロストビースト)はさらに活発になると言われており、雨島学園でも、夜の封鎖領域への立ち入りは、一部を除き禁止されている。

「では、戻ります。通った道なので、遭遇率は低いと思いますが、気を抜かないように」

 一葉達を先頭に来た道を戻る。空白地域となった為、移動してきた喪失獣(ロストビースト)もいたが、数自体は少なく、たいして時間もかからなかった。

「戻るのは、やっぱ早いね」

「まぁ、この辺は、道を選べるほど広くないからな」

「ですが、迂回も出来ないので、必ず倒す必要があるというのは、いい緊張感を生みます」

「それじゃあ、一葉さん達は、返却とか、してきてください。船の準備しておくので」

 一葉達は、ほのかに言われ、観測室へ向かう。たいして時間が掛かる事ではないので、ほのか達が船の準備をしている途中で、戻ってきた。

「こちらは終わりました。帰りに関しては、行きと同じようにお願いします」

 全員が船に乗り、運転はALUの隊員に任せる。そんな中、皐月詩歌が、異変に気付く。

「ねぇ、雨島で、黒い煙がでてるわ」

 雨島の建物から煙が出ており、何かの異常が起きていた。

「あそこって……研究所付近だよね」

「爆発、してる」

「峰地さん!」

 峰地は、ギアの開発を依頼する為、特殊鉱石(ロスタイト)を持って、研究所を尋ねていた。

 一葉は、慌てて向かおうとするが、船の上にいる為、急ぐことが出来ない。

「大丈夫。ギアの製造をする建物じゃないから」

「あっちって、発電所付近じゃないか?」

「ちょっとまて、それってやばいだろ」

 雨島諸島の封鎖領域を隔てる門の防衛設備は、雨島の発電所からの電力供給を受けている。それが止まるという事は、機能停止を意味し、門を開くとも出来ず、門を破壊しようとする喪失獣(ロストビースト)を撃退する事も出来なくなる。

 そんな中、ほのかのPDAに連絡が入る。

「双月風紀委員長からだ」

 そこには、生徒会長である黒月紫苑が不在な為、双月氷華が研究所の防衛を担う必要があり、発電所まで手が回らないので、そちらの対応を任せたいというメッセージが来ていた。

 場合によっては、四葉空による、電気の供給も視野に入れて欲しいとの事だった。

「ほのか、どうする」

「私と、司で先行する。皆は船で乗り付けて」

 ほのかと司は、自分一人で、短時間であれば風の異能と火の異能を使い飛ぶ事が出来るようになっていた。その為、二人で先行する事を告げる。

「後の指示は、詩歌に任せるから、お願いね」

 ほのかと司は、自身を切り替える為の言葉を口にする。

「「Limit Break-Mode”THE NEXT”」」

 ほのかは風を纏い、自らの体を宙に浮かべ、自由に操る。

 司は、間接制御を使い、ほのかと同じ要領で浮かぶが、さらに、火をブースターとし、推進力を得る。

 二人が、お互いの制御を邪魔しないように離れながらも、一直線に発電所へ向かう。

 詩歌達は、それを見送り、船で近くまで行く事になった。

「あそこ、電気属性、暴れてる」

 ある程度近づくことで、空が発電所の火災の原因に気付く。

「でも、雨島の生徒が、あんなことするわけないだろ」

「雨島の防衛システムは、黒月生徒会長がいるかどうかで、大きく変わると、峰地さんから聞いています。であれば、生徒以外の喪失者(ロスト)の可能性もあります」

 一葉は、自身が知っている事を話すが、他国の喪失者(ロスト)は、公表されている限り、雨島学園と比べると、封鎖領域への立ち入りが認められるレベルではないものしかいない。つまり、目の前で起こっている騒ぎを起こすことは、不可能だと言われている。

 

 

 

 

「司、あそこにいる喪失者(ロスト)、ネクストだよね」

「ああ、翼があるし、この感じは、ネクストのものだ」

「でも、遠目だから、わかり辛いけど、見たことない人」

 雨島学園の一般生徒で、電気属性のネクストは、Linkageの空と,Paladinの根津美月だけだ。

「ほのか、この感覚、どこかで感じたことあるんだが……」

「司も?私も、覚えがあるけど、思い出せない」

 二人は、発電所で暴れている人物に、心当たりがあるが、誰かわからなかった。

 発電所に到着し、謎の電気属性の喪失者(ロスト)に近づく。

「そこの人、何やってるんですか!」

 ほのかが、声を掛けると、その人物はゆっくりと振り向いた。

「へぇー、ネクスト発現者か、ほんとにいたんだ」

 犯人は、一人の少女だった。

「大人しくしてください」

「ほのか、火は俺がなんとかする。あっちは任せるぞ」

「わかった。気をつけてね」

「おまえもな」

 そう言うと、司は、燃え盛る炎をかき集め、空や海へ向かって放出し、火災の規模を小さくしていく。それを尻目に、ほのかは、一人の少女と向かい合う。

「何をしてるか、わかってるんですか!」

「わかってるよー。でもね、目的がある以上、やめられないねー」

 黄色い髪の少女は、電気を発生させ、周りに解き放つ。無差別に向けられる電撃は、辺りに火花を散らす。

 ほのかは、真空を作り出し、炎を一時的に消すが、それを上回る勢いで、火災が発生する。

「門の機能が止まれば、どうなるかわかってるんですか!」

 ほのかは、何度も攻撃を加えるが、全て防がれている。実力が違いすぎる事を、本能で感じていた。

 だが、少女による襲撃は、突如終わりを告げる。

「そろそろ、氷華がきちゃうかな。それに用事も終わったみたいだし、行きますかねー」

 そういうと、突如少女が吹き飛んだ。他者からの攻撃ではなく、電気を使い、磁力を発生させ、レールガンの要領で、自身を吹き飛ばしたのだ。それは、電気属性の喪失者(ロスト)が、空を飛ぶための、数少ない方法の一つだった。

「なんなの……あの娘」

 ほのかは、一人取り残されてしまう。だが、呆然としている暇はなかった。

 

 

 

 

 襲撃者がいなくなった事で、氷華が動けるようになり、発電所までやってきた。

 電力供給は、空と、たまたま戻ってきた美月が、共同で行っている。火災自体も、消火が終わっており、氷華に事情を聞かれることになった。

「犯人は、どんなやつだ。とりあえず、どんなに小さいことでもいい。全部話せ」

「えっと、電気属性で、ネクストを知っていて。多分彼女もネクストです。私よりも、実力は高いと思います」

「ほう、ユニオンを除けば、トップレベルであるお前よりも上か。他には?」

 そういいながら、氷華は考え込む。

「黄色い髪で……えっと、あ、頭の後ろでポニーテールが横に2個ならんでました」

 外見の特徴を聞いた瞬間、氷華は目を見開いた。それは、心当たりがあり、信じたくないようだった。

「あいつが……だが、目的がわからん……それに、一人か?」

 小声で呟いたせいで、ほのかには聞き取れなかった。

「双月風紀委員長?どうかしましたか?」

 ほのかに声を掛けられ、ハッとする。

「ああ、すまん。なんでもない。他にはあるか?何か気にしていたとか、何か言ってたとか」

「えっと、基本高笑いしていたんですが……ネクスト発現者がほんとにいたんだ、とか、目的があるとは、双月風紀委員長の事も知ってるようでしたし、用事も終わったみたいって言ってました」

「ああ、そうか。わかった。時間を取らせなた」

 氷華は、動揺しながらも、話を終わらせ、発電所の状態を確認しに行く。

 発電所には、教師陣や、研究者、発電所の職員もいた。

「双月さん、ひどいものですね。修繕には、時間がかかると思います」

「ああ、場合によっては、復元できるやつを呼び寄せる」

「そうしていただけると、助かります」

 発電所について、打ち合わせをしていると、紫苑に連絡をしにいっていた秋萌が、血相を変えて戻ってくる。

「皆さん、大変です、職員室が!職員室が!大変なんです!すごいんです!」

 秋萌が、慌てており、詳しく話を聞き出せる様子ではなかった。

「先生方、ここは、発電所の職員に任せましょう。職員室が気になります」

「わかりました。双月さんも、秋萌先生を連れて行くのに、協力をお願いします」

 そう言うと、教師陣と氷華が、慌てている秋萌をつれ、職員室へ向かう。

 

 

 

 

 職員室は、荒らされていた。空き巣が入ったという状況ではなかった。

 壁が斬られ、中にある机などの備品も、切断されていた。それは、目的を隠すように、手当たり次第に攻撃を加えたようだった。

「生徒に出来るレベルを超えていますな」

 教師陣が、それぞれの机を確認しているなか、氷華は、壁や備品の切断面を気にしていた。

「この断面、普通じゃない」

 ハンマーなどで破壊されたわけではなく、鋭利な刃物で切られたような傷跡であり、鉄製のものだと、切断面が鏡のようになっており、生徒に貸し出しているギアでも、このように斬る事は不可能だ。それは、極薄の刃によって切られているようだ。

「あー、お気に入りのカップがー」

「小銭貯金が……」

「100万円たまる貯金箱が!」

 私物が切断され、阿鼻叫喚になっていた。

 そんな中、秋萌だけが、顔面蒼白となっている。

「な……ない。そんな、なんで!」

 一人だけ、切られているのではなく、物がなくなっていた。

「秋萌先生、何がないんですか?テストの答案ですか?」

 保険医である冬凪朝も、職員室に机があり、私物の確認をしていたが、隣の秋萌の様子に違和感を覚えていた。

「あの、Laboの日向さんから、預かったものがあるんです……」

 生徒から預かったものがない。日向のファンが、秋萌に預けたものを盗んだのかとも思ったが、それにしては、様子がおかしい。そもそも、秋萌は、日向の担任ではない。

 氷華は、詳しく聞きだそうとする。

「秋萌先生、落ち着いて話してください」

「は……はい。あのギアを預かったんです。LostWingから預かったもので、一から作るからって。生徒会長が急にANTの本社に行ったから、いなくて。双月さんに連絡して貰おうと思って、鍵の掛かる所に入れてたんです」

 氷華は、驚愕しながらも、確認する。

「秋萌先生、まさか黒いギアですか?」

「あ、そうです。可変型ギアって言ってました。重要な物って言ってたので、鍵を掛けたんですが」

 教師陣は、職員室に常備してあるバッテリーギアを確認するが、金庫自体は、切断されているが、中には手を付けられていなかった。

「LostWingがLaboに貸したギアって確か、複可変型複合ギア試作一号機”複鱗”、あれは、データ採取ように、可変機構の、波長域を広くしてるから、使いやすくしてたはず……」

 氷華は、PDAを取り出し、データの確認をしている。その様子を眺めていた秋萌は、恐る恐る声を掛ける。

「あの……どうしたんですか?」

「発電所は、囮だったんですよ。目的は、秋萌先生が預かったギアを盗む事だったんです。すみません、ギアについては、こちらで預かります」

 そういうと、氷華はどこかへ行ってしまう。

 氷華が預かると言った以上、教師陣では何も出来ない。唯一できることは、職員室を使えるようにする事だけだった。

 

 

 

 

 氷華は、寮にある自身の個室へ戻ると、ユニオンと連絡を取るために、PDAのチャット機能を起動する。

「全員、よく聞いてくれ。複可変型複合ギア試作一号機”複鱗”が盗まれた」

「ちょっとまて、どういうことだ。あれはLaboに貸してたはずだ」

「解析が終わったから、返そうとして、先生の一人が預かっていたらしい」

「犯人はわかりそう?」

「ああ、ShadowFangだ。発電所を襲い、私を研究所に張り付かせ、職員室を狙ったようだ」

「私が、ANTに呼び出されたのを、何処で知ったんでしょうか」

「それは、フェリー乗り場を張ってれば、わかるだろ」

「行動を起こす準備を進めてるんだね」

「何かあったら、僕は、動くからね」

「それは、情報を集める必要がある。とりあえず、刹那かあやめか命、戻ってこれるか?発電所を直したい。今は、生徒が供給してるが、復帰は早いほうがいい」

「あたしは、電気が止まってると、地上に戻るのはきついね。供給している生徒に鞭打つことになるから」

「それじゃあ、私が戻るよ。何時間かかかるけど、一番早そうだから」

「確かに、俺は、ちょっと無理だ」

「それじゃあ、あやめ、頼む。それと、全員、バーストの時に、特殊鉱石(ロスタイト)を狙ってくる可能性もある、回収は確実に頼む。大型のを1個でも持って行かれると、やばいことになる」

 氷華からの忠告に、各自がおもいおもいの返事をし、チャットが終わる。

 状況を整理し、一人呟いた。

「今回の襲撃も、情報が漏れると、喪失者保護連盟に漬け込まれるな……」




こんにちは

水輪島編のはずが、水輪島に行く描写が、ほとんどなかったりします。

今までに何度か、伏線のつもりも無く書いた事が、便利に使えた事があるのですが、意図的にやると、なぜか露骨な感じがしてしまいます。

今回も、お付き合いいただき、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。