雨島にある発電所が破壊されてから、数日が過ぎ、7月になり、季節は、もう夏だった。
ユニオンの一人、空宮あやめが、破壊された設備を創り直し、見かけ上は、何もなかった事になっている。
発電所が破壊された際の煙が、雨島から離れた位置にいた船に発見され、対外的には、事故として発表された。
その事は、雨島を狙う、喪失者保護連盟が付け入る隙になっていた。
「困りましたね」
「襲撃と発表するわけには、いかないからな」
生徒会室で、生徒会長である黒月紫苑と、風紀委員長の双月氷華が話をしていた。
「ですが、事故として発表した途端、ANTが建てた施設は、不安だと、言いがかりを付けて来ましたね」
「ALUの峰地さんから連絡が着てたが、連盟の建築系の企業が主導で、建物の総チェックをさせろと、政府に圧力が掛かってるらしいぞ」
喪失者保護連盟は、会長である
「
「あたりまえだ」
そういうと、氷華は生徒会室を出て行く。
この日、船を共同レンタルしている三チームが、揃って水輪島へ向かう。
「夜星、日向、お前らの方は、探索はどうなってる?」
「んー。私達は、洞窟の途中にある、大きな空洞に溜まってる中型を倒し終えたよ。どっかから、集まってこなくてよかったよ」
「最上誠、私達は、外周を回っているだけだ。そのかわり、複数の洞窟の入り口は、見つけてある。そういうPaladinはどうだ?」
「ああ、こっちは、別かれ道が多くてな、予想以上に手間取ってる」
最上誠は、夜星ほのかと、日向智花に、進行状況を聞き、進み具合を比べていた。
山の中を通り、中央の森林エリアと呼んでいる場所への道は、完全には判明していなかった。
この日も、船を格納し、それぞれのチームが、、目的の場所へと向かう。
「レンタルのギアと、Laboに依頼した、可変型ギアがあれば、結構長時間篭れるね」
「ああ、でも、あの洞窟だと、そろそろ時間が厳しいと思うぞ」
天野司は、道に慣れてきたとはいえ、大きな空洞までの時間を考えると、そうそう奥までは行けないと、考えている。
「これ、山って言ってるけど、断崖絶壁の、崖ですよね」
「匠が、土属性で、外から、運んで、くれれば、すぐ」
「いや、無理だから」
四葉空は、細川匠の異能で、山を登れればいいと考えていた。
しかし、山の斜面が急だという点と、そこまでの力を持っていないという点で、実行できずにいた。
洞窟の入り口へと到着し、ほのか達は、奥へと進む事にした。
「それじゃあ、進むよ。空、明かりお願いね」
「了解」
空は、持ってきたライトを装備し、電気を供給する。洞窟に明かりが灯され、周囲がはっきりと見えるようになった。
ほのか達が進む洞窟にも、別かれ道があるが、大きな空洞までの間にある道は、全て確認してあり、この一つしかないことがわかっている。
「途中に1体いるよ」
ほのかは、中型
「せい!」
掛け声と共に、ギアを振り下ろし、遠距離から、風の刃を放つ。一直線に飛び、中型
その結果、核であるロスタイトを残し、風化し塵と化した。
「ほのか、すまないな。場所からして、ほのかが一番適任だからって、まかせっきりにしちまって」
「んー、大丈夫だよ。全員、1体づつなら、一人で大きな空洞まで行けるでしょ。だから、気・に・し・な・い!」
ほのか達は、何度も実戦をこなし、ネクストを含め、その異能を使いこなしていた。
「司君は、ほのかが心配なのよね。疲れて倒れるんじゃないかーとか、いろいろよね」
「空、明かりの維持で大変じゃないか?」
「大丈夫。気に、ならない」
司がほのかを心配するように、匠も、空を心配していた。
何度か戦闘をこなし、大きな空洞までやってくる。最初に訪れた時は、大量の水生生物の形をした中型
大きな空洞には、湖があり、山の中を登る途中ではあるが、地底湖のようだった。いくつかの水路はあるが、人が通る事のできる陸路は、来た道を除くと、一つしかない。そのため、ほのか達は、一度休憩を挟む事にした。
「一度、休憩しようか」
ほのかの合図で、周囲を警戒しながらも、休憩を開始する。
司は、PDAを確認している。
「所要時間には、まだ余裕があるな」
「でも、ここから奥に行っても、直ぐに時間切れになりかねないな」
奥へと進む余裕はある。だが、この洞窟が何処まで続くかわからない以上、その時間的余裕は、どの程度のものかかわらなかった。
「とりあえず、行ける所までいかないとね。それじゃあ、そろそろ行こっか」
大きな空洞から、さらに奥へと向かう。ここから先は、ほのか達にとって、未知の領域だった。
ほのか達は、慎重に進むが、大きな空洞を越えたからといって、
暫く進むと、自然の洞窟の中に、人工的な建物が見えてきた。
「観測室だ」
匠が、いち早く気付く。双子島までであれば、その維持管理の課題を受けることもある。だが、水輪島では、そういった課題は存在しなかった。だからこそ、ほのか達は、今まで見なかった事もあり、水輪島には、観測室がないと思い込んでいた。
「どうする?時間は、少し残ってるけど、中入って調べる?」
観測室には、長期保存が出来る食料が置かれていたり、付近の地図データが保管されている場合がある。地図データが回収できれば、残り少ない時間で探索を続ける以上の地形を把握できる可能性がある。
「どのみち、時間も少ないし、地図データにかけるか?」
「地図がなくても、次回以降に、また奥まで行けばいいわよね」
全員が賛成し、観測室に入っていく。そこには、食料は無かった。だが、地図データと共に、今まで見た事の無いものがあった。
「水輪島探索特殊規定?」
地図データを回収し、辺りを見回すと、掲示板があり、そこには、校則の水輪島における例外が、記載されている。
「何だそれ?」
「何々?水輪島において、宿泊施設を兼任する観測室では、そこにある端末から滞在申請をする事により、封鎖領域での宿泊が、認められる……え?」
ほのかは、間抜けな声を発した。
そこに書いてある事、それは、今までの常識を覆す事だった。
「つまり、泊まれる観測室があるってこと?」
「多分そうだと思う。水輪島は、探索に時間がかかるからだと思うけど、この地図にある、次の観測室まで行ければ、泊まれるはず」
この観測室にある地図データは、次の観測室までの道のりを示していた。大まかに計算して、約1時間、そこに向かうという事は、往復の時間を考えると、封鎖領域で一夜を明かす事と、同義だった。
ここから先も、未知の領域。突然、
「皆、どうする?」
五人は、先に進みたかった。だが、封鎖領域の危険性は、Linkageが一番良く知っていると言っても過言ではない。
実際に、ほのかは、二度大きな怪我をしている。
その事が、五人を慎重にしていた。
「俺は、一度戻るべきだと思う。別に、Paladinに先を越されても、安全を優先するべきだ」
「私は、行きたいけど、司君の言う事も一理あると思う。だから……」
空も匠も、皐月詩歌と同じ意見だった。
行きたい。でも、無理は出来ない。だからこそ、決める事が出来なかった。
そんな中、ほのかが口を開く。
「私は、先に進むべきだと思う。今まで奥へ進むたびに、私が怪我をして、大変な目にあってきた。だから、今度こそ、先に進んでも大丈夫だって、胸を張って言いたい。だから、皆、協力して」
ほのかは、仲間を見つめ、自身の心の中にある思いを言葉にする。ほのかは、自分が怪我をたせいで、仲間に迷惑を掛けてきた。そう思っている。
さらに、胸に秘めた思いを吐き出す。
「だって、この先、もう一度たどり着ける保証はないし、4の島以降に入れるようになった時も、同じように、何かあるたびに戻ってたら、いくら時間があっても足りないよ。だから、今日、これから、先に進も」
司は、ほのかの思いを受け止め、結論を出す。
「わかった。安全第一で進むぞ。なに、ほのかに怪我させなけりゃいいんだ」
そう言いながら、ほのかの頭をくしゃくしゃにする。ほのかは、抵抗しながらも、その行為を受け入れる。
「はいはい、じゃあ決まったところで、いちゃついてないで、行こうよ」
詩歌に言われ、司も手を引っ込める。ほのかも、簡単に髪を直しながら、先へと進む準備をする。
「広域検索するよ」
ほのかの護衛をするように配置につく。一本道である為、襲撃があったとしても、直ぐに反応できるが、襲撃はなかった。
「終わったよ。中型がそこそこいるけど、強敵の雰囲気は無かったよ」
ほのかの言葉を受け、全員で奥へ進む。障害となるような
暫くすると、PDAから、けたたましい音がなり響く。
「半分切ったね。皆、ここから進めば、確実に戻れないからね」
「「「「了解」」」」
全員が、意を決し、前に進む覚悟を強める。
地図データでは、もうそろそろ観測室のある空洞がある場所のはずだったが、中々見えてこず、焦りが生じるが、それでも前へ進むしかなかった。
「ほのか、地図データだと、後どのくらいだ?」
「もう少しなんだけどね……」
先がわからない不安と、後戻りが出来ないという事。この二つが、全員の精神力を、確実に削っていた。
そんな矢先に、水の落ちる音が聞こえる。
大量の水が、連続して落下する音が響き渡り、会話すらままならない。
五人は、PDAのチャット機能を使い、なんとか意思疎通をする。
「多分だけど、この先に広い空間があるんだと思う」
「この音、滝だよな」
「外なのかな、それとも、さっきみたいな広い空間なのかな。まぁ、行ってみるしかないわね」
ほのか達は、洞窟から、広い空間に出る。そこは、洞窟内にもかかわらず、滝がその存在を主張していた。
その空間には、目的としていた観測室が存在していた。
「大きい観測室だね」
「建物っていうよりも、一部を壁で区切った感じだな」
「観測、壁。とりあえず、中、入ろ」
「そうだな、中に何があるかわからねーし、手続きしなきゃいいけないしな」
観測室の中には、いくつか機械と、掲示板、そして、奥へと続く扉が存在した。
「とりあえず、手続きして、宿泊許可とるね」
「じゃあ、俺達は、中を調べるから」
そうして、ほのかは、手続きを開始する。初めての操作だが、ガイドが出ている為、スムーズとはいかないまでも、滞りなく手続きをする。
司達は、奥へと続く扉を開くと、廊下があり、いくつかの部屋があり、二階に続く階段も存在した。
「二階が、寝室って所か?奥は、倉庫と機械の置いてある部屋に、ミーティングルームかな?」
「寝室は、男女別ね、司君、匠君、残念ね。ほのかと空の寝顔は、私が堪能するからね」
「お風呂、ない」
詩歌の言葉に、司と匠は、顔を赤くしながらも、余計な事を喋らない様にしている。それに対し、空はマイペースだった。
「でも、滝の水を無理やり引き込んで、観測室の中を水が通るようにしてるんだな」
滝の水で作られた、シャワー室の代わりだった。小さい部屋の中を川のように水が流れている。
「体だけは、拭けると……」
「ここは、交代制だな」
観測室の中を一通り見て回ると、ほのかが、手続きを終え、合流する。
五人は、ミーティングルームへ入ると、今日の予定を話し合う。
「ここって、洞窟の中だから、暗さがわからないけど、日没の予定時刻はわかるから、それまで探索を続けようか」
「それはいいけど、PaladinとLaboへの連絡はどうする?」
観測室から、職員室への連絡は出来る。だが、PDAを使った長距離通信は出来なかった。
「ああ、それは大丈夫。手続きした時に、PaladinとLaboが船についたら、連絡が届くようにしてもらったから」
「ここにあった地図データによると、洞窟の出口って、結構近いのね」
「そこ、行って、見よう」
話はまとまり、行動を開始する。かなり急な道ではあるが、地形のせいか、
ほのかは、一つの変化に気がつく。
「まぶしい……」
それは、洞窟の出口だった。
「やっと、出られた」
「洞窟、出たら、森、だった」
「いやいや、森は、この付近だけだろ。先は、草原っていうか、湖のほとりって感じだな」
「皆、洞窟のなかだから気がつかなかったけど、結構よごれてるわね」
時期は夏で、夏服となっていたため、制服を脱いではたく訳にもいかず、汚れを手で払うくらいしか出来なかった。
日差しが強く、遠くには、湖が見える。そんな長閑な風景とは裏腹に、ほのか達に、緊張を走らせる要因があった。
「大型……」
大型
せめてもの救いは、肉食ではなく、草食恐竜を模していることだった。だが、その大型の証である二本の角を持っている以上、油断できる相手ではなかった。
大型
ほのか達は、可変型ギアを取り出し、オリジンを注ぎ込む。形状は、普通の接近戦用ギアの形だ。だが、その性能は、雨島学園が貸し出しているものと比べまでもないものだ。
さらに、ネクストを発動する。近くに他の個体は見つからない。ならば、全力をもって、この個体を倒そうとする。大型
「ほのか、トドメの準備」
司が、叫び、四人それぞれが、大型
ギアが纏う力は、固体といっていいほどの気圧の高まりになり、風で出来た刃ではなく、ギアを核とした、風の剣となる。
「皆、どいて」
ほのかの一言と共に、四人が離れる。その直後、風の剣が、大型
ほのかは、残った核を拾い上げる。
「ほのか、それが、大型の核か?」
「そうだと思う。大きいし、角が二つある。でも、角ごと斬ったはずなのに、切れてない……」
「ロスタイトに関しても、わからない事が多過ぎるわね」
その後も、暫く周囲を見て回るが、大型
「ネッシー、いない……」
「空、お前、さっきから湖ばっか見てると思ったら、それが目的か」
「大型、ネッシー、いても、おかしくない」
空は、しょんぼりしながらも、諦めきれずに湖を眺めている。
匠は、そんな様子をみて、空に近づく。
「ほらほら、そんな落ち込むなって」
そう言いながら、小さくなっている空の頭を撫で、元気付けようとする。
空は、ほほを膨らませ、不機嫌を演じているが、まんざらでもなさそうだった。
ほのか達三人は、その様子を遠くから眺めている。
「さてさて、ほのか、司君、私も、離れた方がいい?」
「え、ちょっ、詩歌……えっと、大型、そう、大型出るんだから、一人じゃダメだよ」
「ほんとかなー?」
「とりあえず、大型が出てくる場所なんだから、あいつらからも、離れないようにするぞ」
二人は、顔を赤くしながらも、詩歌のいたずらを回避する。
五人は、初めての場所で、周囲を警戒しながらも、思い思いの時間を過ごした。
夕暮れ時、ほのか達は、集まり散策の結果を話し合う。
「観測室は、見つからなかったね」
「ほかの入り口も、なかったな」
「その辺は、明日、遠くまで、行けば、いい」
「そうだよな。今日は、さっきの観測室に戻るってことでいいのか?」
「それじゃあ、他に無ければ、戻ろうか。夜の封鎖領域には興味あるけど、流石にね……」
他の四人も、未知の領域で、さらに、未知の時間帯である為、このまま外にいる気はなかった。
五人は、元来た洞窟へ戻り、観測室を目指す。空が灯す明かりはあるが、夜になると言う雰囲気の為、余計に暗く感じた。
徐々に滝の音が聞こえてくる。次第に大きくなり、滝が、見えてくる。
その空間は、観測室を出た時とかわらなかった。
観測室に入ると、滝の音は、ほとんど聞こえなくなった。
「防音が凄いのか?」
「寝るにしても、うるさいと、眠れないもんね」
「お腹、空いた……」
空の言うとおり、かなりの時間、動き回っていた為、全員空腹だった。
ミーティングルームで食事を取るが、観測室に置いてあったのは、長期保存の出来る食べ物。つまり、缶詰だ。
「味気ない……」
「場所柄、しょうがないだろ。滝の水も、飲める川からないし、維持管理が大変なんだろ」
「きっと、ユニオンの人が、急いで準備したのよね」
「雨島とか、双子島の封鎖領域だと、食料は運ぶって課題もあったよな」
「やった、けど、重かった……」
かつてない経験の為、ほのか達はテンションが上がっている。
他愛のない話を続け、暗い洞窟の中、夜が更けていく。
「さて、服を洗えないのは、仕方ないとして、体くらいは、拭きたいよね」
「髪も、ほこりっぽいわね」
「タオルなら、いっぱい、あった」
三人は、司達を横目に見ながら話を続ける。
そんな様子を見て、司達は、諦めたように、目を逸らし、男子用の寝室へ移動しようとする。だが、後ろから声が聞こえた。
「覗いたら、後悔させるよ」
司達は、背筋が凍る思いがした。首を立てに振り、覗かないという意思表示を見せ、二人は足早に立ち去った。
体を拭くための設備は整っており、ほのか達は、タオルを持ち込む。
「ここで脱ぐのは、ちょっと抵抗あるよね」
「一応、室内だけどね」
ほのかと詩歌は、戸惑いを見せているが、空だけは、淡々と準備をしている。その様子を見て、二人も準備をする。
脱いだ服を叩き、軽く汚れを落とす。この場では、これが限界だった。
服をたたみ、タオルを濡らすが、体を拭くのは、躊躇してしまう。
「水が、冷たい」
「ほんと、冷たいよね」
「まぁ、浴槽が無いから、少しは諦めがつくわね」
詩歌は、異能を使い、水を含んだタオルの分子一つ一つを振動させる。タオルの温度が上がり、
体を拭くのに、抵抗のない温度になる。さらに、桶に水を汲み、同じように温度を上げる。
「流石に、温度は、諦めがつかなかったわ」
「「詩歌、ありがとう!」」
三人は、ぬるま湯で体を拭き始める。余裕が出来た為か、ほのかは、一つの事に気付く。その方向を指差しながら、空に問う。
「ねぇ、空、あれ、どう思う?」
空は、その方向を見て、ほのかが言わんとしている事に気付く。
「許せない」
「だよね……」
詩歌が二人の会話に気付き、それに加わろうとする。だが、二人の目が笑っていないこと気がつく。
「えっと……二人とも、どうしたの?」
「あのね、詩歌、その胸がね、許せないの」
「だから、私達に、別ける、べき」
詩歌に襲い掛かろうとするが、寸前の所で避けられる。だが、二人を相手にしている以上、逃げ道はない。この部屋は濡れている。つまり、空が理性を失い、少しでも異能を使えば、大惨事になる。その為、迂闊な事はできない。
この状況を切り抜ける方法を考える。二対一という不利な状況。どうすれば抜け出せるか。だが、一つの事に気付く。二対一だから、不利なのである。一対二か、三つ巴にしてしまえばいい。二人の内のどちらかを仲間に引き込むのは無理だ。であれば、仲間割れをさせればいい、両方が、お互いを敵として認識しなくても、片方が敵意を持てばいい。その為の行動に出る。
「空、よく聞いて。ほのかくらいの大きさが、ちょうどいいって言う人がいっぱいいるよ」
空は、横目でほのかを見る。確かに、詩歌はの胸は大きい。だが、ほのかの胸は、決して小さい訳ではない。対して、空はどうか。小さい、場合によっては、貧乳と呼ばれる部類だ。それを確認した空は、ほのかに対して牙を剥く。
「空、今は、あの大きいのをどうにかするべきだよ」
「ある、以上、両方、敵」
詩歌の作戦は成功した。ほのかは抵抗しているが、空は確実に敵とみなしている。だが、問題が一つあった。
一方的な状況は打破したが、この場を沈める方法がない。唯一の希望は、司と匠の乱入であるが、あの二人に掛けた言葉からして、乱入はありえない。ならば、如何するべきか?
詩歌は、一瞬の隙を突き、入り口に積んである桶に飛び掛る。両手に一つずつの桶を確保する。
二人は、その行動に疑問を感じるが、今はそんな場合ではないと、頭の隅においやった。
空は完全に暴走している。ほのかは、謎の行動をする詩歌を無視し、目の前の空に、意識を集中する。それは空も同じだった。
お互いの一挙手一投足に注意を払い、こう着状態が続く。だが、それは詩歌への注意がそれる事を意味する。
その瞬間、水が掛けられた。表現ではなく。物理的に。
詩歌が、手にした桶に水を汲み、二人の頭から掛けた。冷え切った水を。
「「冷たい!」」
そういいながら、あまりの冷たさに体を震わせ、しゃがみ込む。
「二人とも、頭、冷えたかしら?」
詩歌の、目の笑っていない笑顔があった。
「「ハイ!」」
「騒いだから、二人が乱入してくるといけないわね。さっさと体拭いて、着替えましょ」
詩歌は、自分だけ温めた水を使い、体を拭いていく。
ほのかと空は、水を温めてもらえず、冷たい水で体を拭く事になった。
三人が、ミーティングルームへ戻ると、二人が待っていた。
「おかえりー」
「そんじゃ、俺らも、体拭くか」
「だな」
司と匠も、体を拭きに行く。だが、その前に、司が、ほのかにささやく。
「風邪引くなよ」
そういうと、直ぐに行ってしまった。
ほのか達が残される。そして、ほのかの顔は、少し、赤くなっていた。
「愛されてるわね」
「羨ま、しい」
詩歌と、空は、二人が戻ってくるまで、ほのかを弄っていた。
ほのか達と、司達は、それぞれの部屋に別れ、一夜を明かす。観測室のベットは初めてな為、中々寝付けないと思われていたが、大型
次の日、目を覚ましたほのかは、左右を見回し、状況を整理する。そして、思い出す。
「そっか、観測室か。ん、しょっと」
大きくノビをしながら、起き上がる。左右には、詩歌と空が気持ちよさそうに寝ていた。寝巻きがあるわけでもなく、制服の上は着ていたので、スカートを履き部屋を出る。使い捨ての歯ブラシと、タオルを用意し、水の流れる部屋を開ける。
そこには、先客がいた。
「ほのか、おはよ」
司だった。だが、ほのかは、顔をタオルで隠してしまう。
「おはよう。えっと、その、部屋戻ってるから、終わったら教えて」
「ああ、終わったから、出てくよ」
そういうと、司は直ぐに出て行く。
ほのかは、水に写る自身の姿を見ていた。
寝起きと言う事もあり、髪はボサボサ、服も、乱れており、顔も引き締まっていなかった。
「バカ……」
そんな呟きも、司には届かなかった。
全員の朝の支度が終わり、缶詰の朝食を取る。それも終わると、この日の打ち合わせをする。
「Paladinは、今日も水輪島に来るらしいから、帰りの足は問題ないよ」
「だとすると、時間配分だな」
「そうよね。結局洞窟を戻らなきゃいけないわね」
「匠、あの絶壁、降りれない?」
「いや、無理だろ。ほのかと司は自分で飛べるからいいけど、俺含めて3人は無理だ」
「匠君、飛ぶのは無理だけど、私は、降りるくらいなら、自分で出来るわよ」
匠は、土属性の
「だとすると、帰りは、ショートカットできるね」
ほのかは、匠が空を抱きかかえるのが、決まっているかのように話し始める。空自身も、抵抗しなかった為、それが決定された。
「それだと、降りた地点からの時間と、降りるのにもちょっと多めに時間とって設定するか」
「それじゃあ、あの湖周辺の探索が出来るわね」
「ネッシー、探す。電気ショック漁法、やる」
空は、ネッシーを諦めていなかった。
「いや、それ、ネッシーいても死ぬだろ。それに、雨島諸島の動物って基本、
「水生恐竜型
外見が合えばいいようだった。
「空、危ないのが出てくると、危険だから、眺めて探すだけにしてね」
この日の方針と行動予定がまとまり、本格的に湖周辺を探索する。
四足を持った、水生生物型
「観測室、ないな」
司が、長時間の探索にも関わらず、地上に観測室がないことを不思議に思う。
「まだ推測の段階だけど、地上に作って、肉食恐竜型が出ると、危ないんだと思う。だから、洞窟の中につくってあるんじゃないかな」
ほのかは、現状の情報から推測する。であれば、洞窟の位置を記録しておけば、その中に、観測室があるととになる。だが、現状では、推測の域を超えない。
そんな話をしていると、奥から恐竜型のオオガタ
「ティラノザウスル?」
「いや、違うと思うぞ。つーか、見てもわからねーだろ」
ほのかは、肉食恐竜で、思い浮かぶものを言っただけだった。
そんな話をしていても、
「皆、注意して」
力の象徴であるオリジンの翼を出し、ギアを変化させる。ほのか達全員が、今出来る中で、最高の力を発揮する。
チャンスを作る為、小さい攻撃を続け、消耗させるが、その頑丈な皮膚で防がれてしまい、思うようにダメージを与えられない。
「空、きっついのかまして。倒せなくても、麻痺してくれれば、畳み掛けられる」
空から注意を逸らすように、四人が攻撃の間隔を狭めていく。その間に、空は力をギアに載せ、力を高める。
電気を、一切の無駄を省き、その流れすら完全に制御する。ギアが纏ったその姿は、奇しくも、ほのかが作り上げた風の剣のようだった。電気で作られた剣は、触れるだけで、その全てを感電させ、焼き尽くすほどの電流を流し込む。
「いいよ」
空がそういうと、ほのか達が散会し、空が気を引くための、電撃をぶつける。大した威力はない。だが、気を引くには十分だった。
空に目をつけた大型
「まさか、口から中に入れるとは……」
「空の発想が、恐ろしいわね」
「ぶい」
空は、得意げにVサインをしていた。
ほのかは、PDAを確認し、残りの時間を確認する。
「ちょうどいいし、そろそろ戻ろうか」
「それもそうだな。結構探索出来たな」
反対意見もでず、戻る為、船に近い位置の断崖絶壁へと向かう。
森野を抜け、壁に到着するが、ここの地形は、台地の中が、一段凹んでいるので、壁を越える必要があった。
「匠、空をお願いね」
「ああ、任せて、先に行け」
そういうと、ほのか達三人は、ネクストを発動し、壁を越え、その向こうの断崖絶壁を降り始める。
「匠、任せた」
「ああ、安心しとけ」
水輪島の一部を操作し、足場を作る。しかし、雨島諸島の地面は、異能に対する抵抗力が強く、少し気を抜くと、直ぐに戻ってしまう。これが、反対側から、全員を運ぶのを、無理だと言った理由だった。
時間はかかったが、壁を登りきり、あとは降りるだけだ。ほのか達も離れた位置におり、様子を見守っている。
「空、いくぞ」
斜面を滑り降りながら、スピードがつき過ぎないように地面を制御する。そうしていると、木々が近づいてくる。
そして、地面へと到着する。
その様子を見て、ほのか達も、匠の元へとやってくる。
「お疲れ」
「問題、ない」
「いや、空は抱えられてただけだろ」
「これ、疲れる」
「はいはい、じゃあ、空は、そのまま抱えてもっらてなさい」
船の位置へと移動を開始する。
時間的に早かったのか、船へと行くと、Paladinは戻ってきていなかった。
ほのか達は、Paladinが戻ってくると、詳しい事を問い詰められると思い、情報を整理する事にした。
その予想は、半分当たっているが、半分外れていた。
当然Paladinから問い詰められるが、雨島に戻ってから、Laboに問い詰められる事になった。
さらに、チーム新聞部により、今回の情報は、大々的に報道されることになる。
ほのか達が、水輪島に宿泊した次の日、生徒会室で、紫苑と氷華が相談をしていた。
「ANTは研究開発をメインにしている企業ですから、いつかはありえると思ってましたが、本当にやってくるとは思いませんでしたね」
「まったく、物流封鎖で、雨島を干上がらせる気か」
「喪失者保護連盟の加盟企業も増えていますね。保護対象を干上がらせるなんて、何を考えているんでしょうかね」
「結局、自分達の利益だろ。実際に私達が干上がっても、気にしないはずだ」
「備蓄は、かなり余裕がありますが、一般生徒に不安が広がる恐れがありますね」
「天岡さんは、何て言ってるんだ?」
「物流封鎖で、保護対象に危害を加えてきた事は、ANT側からすれば、連盟の攻撃材料になると言ってました。それと、この程度で収まっているならいいですが、次の手が予想できない以上、これ以上の無視は危険だとも言ってました」
「ってことは、やつらの会議に出るのか?」
「そのようです。もっとも、会議の開催に関しては、色々口を出すらしいですが」
「開催が決まり次第、ユニオン全員で、会議だな」
「ええ、そうですね」
ほのか達とは別のところで、島を取り巻く環境が急速に変化しつつあった。
こんばんは
船で移動して、島を探索するって、かなり時間かかりますよね。
今回のような方法なら、ある程度は説明がつく気がします。
これからも、おつきあいいただけると幸いです。