7月中旬、世間的には、もうすぐ夏休みになる頃だ。
一つのニュースが世間を騒がせていた。
「ANT会長が、喪失者保護連盟の召集に応じる!か……」
喪失者保護連盟に加盟している企業による、ANTや雨島への物流封鎖が行われており、食料を始め、研究に必要な機材などの調達が、滞り始めていた。
「研究に必要な物資に関しては、どうにでもなるのですが、雨島での自給自足は不可能ですから、致命的ですね」
「いざとなれば、バースト対応を全放棄して、ありがたみを思い知らせるって方法もあるけどな」
「そんなことをすれば、悪い印象を与える可能性がありますから」
「印象か……どうにもならないな。開催の予定はどうにかならないか?」
生徒会長である黒月紫苑と風紀委員長である双月氷華が、喪失者保護連盟の会議が開催される日の予定を相談していた。
「あちらも、バースト予報を確認して、私達が動けない日を確認しているのでしょう」
「悪知恵を働かせやがって」
「天岡さんの護衛は、Linkageに直接課題をだすことで、合意しましたから、彼女らを信じましょう」
数日後、水輪島から戻ったLinkageは、教師陣に呼び出され、職員室へ向かった。そこでは、担任である、秋萌夕が、待っていた。
「Linkageの皆さん、お待ちしてましたよ。水輪島での宿泊が多いから、呼び出しが大変ですよ」
「えっと、その、すみません」
夜星ほのかは、反射的に謝ってしまう。
「いえいえ、謝ってもらう必要はないんですよ。とりあえず、皆さん、詳しい話をするので、隣の会議室へ来て下さい」
秋萌は、そういうと、ほのか達を会議室へ連れて行き、説明を始める。
「えっと、あ、先に行っておきますけど、なんか凄い
ほのか達は、先生に呼び出されるたびに、強力な
「そうだといいんですが」
誰とも無く呟いていた。
「えっと、指名課題なんですが、職員室からではなく、生徒会というか、ユニオンからなんですね。それで、内容ですが、ANTの会長が、喪失者保護連盟の会議に出席するって話は知ってますか?」
ほのか達は、連日そのニュースが流れているのを見ている為、大まかな内容は知っていた。さらに、ユニオンからの指名課題ということもあり、
「ニュースで流れている程度なら知ってます」
「それなら、話が早いですね。実は、学園から、護衛を派遣する事になったんですが、ユニオンの皆さんが、動けない日らしくてですね、Linkageに指名課題を出す事になったらしいんですよ。どうでしょうか?」
「あの、もうちょっと詳しい内容を聞いてもいいですか?」
元々ユニオンが動こうとしていた内容であり、護衛についても、何も知らない為、これだけでは決めるに決められなかった。
「ああ、そうですよね。といっても、そのままの内容なんですが、雨島学園の
ユニオンにとって、天岡新十郎は、かけがえのない存在であるが、一般生徒にとっては、理事長以上でも、以下でもない。年に数回、式典などで姿を見せることもあるが、そこまで親しみのある存在ではなかった。けれど、ほのか達は、ユニオンに対していくつかの恩を感じているのも確かだった。
ほのか達が、遭遇した訳ではないが、護衛をつけるということで、どうしても確認しておきたいことがある。
「一つ気になるんですが、人間派みたいな襲撃の情報でもあるんですか?」
「黒月生徒会長からは、そんな話は聞いてないですよ。もし、そんな情報があれば、ユニオンが動きますよ」
「でしたら、その指名課題、受けようと思います」
今までの危険な課題は、教師陣からの課題が多かった。ユニオンは、一般生徒を危険な目に合わせるつもりが無いのは、誰の目にも明らかだ。ならば、断る理由はない。
「詳しい事は、黒月生徒会長から連絡があると思うので、直に聞いてください、しばらくは、直通回線もよういするそうです」
しばらくすると、生徒会長から連絡があり、細かな話を聞く事が出来たが、危険な話はなく、人に向けて、異能を使う際には、十分注意するよう言われただけだった。
そして、数日が経ち、喪失者保護連盟の会議が行われる日となった。
会議当日の朝、天岡は、ANT本社ビルの会長室にいた。だが、一人ではなかった。
「刹那、心配してくれるのはありがたいが、バースト対応で忙しいと聞いている。こんなところにいないで、早く行った方がいいんじゃないか?異能の酷使は、体に悪いぞ」
「そんなデータはありませんよ。それに、死なない限り、どうとでもなります」
八神刹那は、そういいながら、窓から外を見下ろす。そこでは、雨島へ行くフェリーが襲撃された日と同様に、デモが行われていた。
喪失者保護連盟のマスコミを使った宣伝に踊らされた一般市民が、多数を占めている。
刹那は、その光景を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をするが、天岡がそれを諌める。
「気にするな」
「でも、あいつらは、天岡さんのことを何もしらないのに、ただ悪く言うやつに乗って騒いでるだけだろ!」
「だからこそ、気にするな。何も恥じる事はしていない。堂々としていればいい。刹那、そろそろ時間だ。お前達が用意してくれた護衛もいる。何も心配するな」
刹那は、後ろ髪を引かれながらも、出発するしかなかった。
「気をつけて」
その一言が、精一杯だった。
「ANTは
その一言をテーマに、ANT本社前で、デモが行われている。そんな中、一人の参加者が、何かを発見した。
「屋上に誰かいるぞ」
そこには、刹那がいた。屋上のへりに立ち、デモを見下ろしていた。その表情を、下から伺う事はできない。
屋上の人影を見つめ、デモが静まり返ると、刹那は、屋上から飛び降りる。
その行動に、誰もが息を呑む。刹那は、落下しながらも、言葉を紡ぐ。
「Limit Break-Mode”THE NEXT”」
オリジンが禍々しい黒い翼を形どる。その姿に、誰もが恐怖した。
「
誰が言ったのかはわからない。だが、人間というのは、往々にして、自分の都合のいいように、物事を解釈する。それが、間違っていたとしても、聞こえた言葉が心地よければ、それが真実に聞こえる。
「さぁ、我々の元へ来るんだ」
刹那は歩き出す。だが、その瞳には、狂気を宿していた。
自分達の恩人である天岡への暴言の数々。刹那には、それを許す事が出来なかった。
「Realization」
ギアを取り出し、武器を構える。その様子を見て、デモ隊は、初めて現実を見た。
「君、何をする気だ。我々は、君達の為に行動しているんだ」
「黙れ!何も知らないくせに、知った風な口を利くな!」
刹那は、我慢の限界だった。このまま力を解き放ち、目の前を一掃する衝動に駆られている。
そんな時、一台の車がやってくる。それは、ANTの車である為、デモ隊は、道を開ける事を余儀なくされる。
そこから、前日にANTの宿泊施設に泊まっていたLinkageが制服を着て、降りてくる。
「なんか、凄い事になってるね」
「ああ、デモもそうだけど、八神さん、やばくないか?」
ほのか達は、刹那の様子を見て、身の危険を感じた。
警備員も、通用口を開け、ほのか達を中に入れようとするが、その隙を伺い、中に入ろうとするものも現れる。さらには、突如現れたほのか達を見て、仲間に取り込もうとするものもいた。
「あの、八神さん、何があったかわかりませんが、一旦落ち着きませんか?」
ほのかは、刹那に落ち着くよういうが、聞こえていても、聞いていない。
ほのか達が現れた事により、誰も気付いていなかったが、刹那の傍に、天岡が来ていた。
天岡は、刹那の頭に手を乗せながら、やさしく告げる。
「まったく、刹那、気持ちは嬉しいが、やりすぎだ」
刹那は天岡の言葉に、怒りを納めた。
「すみません。ちょっと頭に血が上りすぎました。確かに、これ以上は時間が無いので、行きます」
そういうと、刹那は、ネクストを維持したまま、バースト対応の為に飛んでいった。
ほのか達は、取り残されてしまったが、天岡が迎え入れる、
「確か、Linkageだったな。今日はすまない」
「いえ、黒月生徒会長から、直に頼まれましたから」
「そうか、では、時間まで休んでいるといい。食堂にでも案内させる」
そういうと、天岡は、ほのか達を連れ、本社に入る。
デモ隊は、その様子を見ていたが、天岡と
Linkageが本社へ入った後、デモの規模は小さくなったが、まだ続いていた。ほのか達は、食堂で時間を潰していた。
「八神さん、怖かったね」
「なんていうか、怒髪天っていうのかな?」
「殺気、まんまん」
「前に、伊達や酔狂で生きてるとか言ってたけど、そんな人が、あんなになるなんてな」
「ユニオンにとって、天岡会長は、恩人らしいからな」
「私達、詳しい事何も知らないよね」
ユニオンは、自らの過去を余り語らない為、雨島制圧以前の事は、まったく知られていなかった。その為、何故
そうしていると、喪失者保護連盟の会議へ向かう時間になる。
TV中継や、多くの加盟企業からの代表が来る為、大きな施設を貸しきっていた。
天岡とLinkageを乗せた車が、本社から出る時も、デモは続いていたが、規模は、最初とは比べ物にならないほど、小さくなっていた。
「紫苑から聞いていると思うが、今回、私が会議に出るにあたり、いくつかの要望をしたのだが、護衛としてつれて歩けるのは一人だけになってしまった。すまないが、一人を決めておいてくれないか?残りの四人は、会場周辺の警備に参加という名目で、待機してもらうことになるがな」
喪失者保護連盟からも、会場警備や、参加者の護衛の要請が来ていた。しかし、雨島学園は、その要請をことごとく却下した為、喪失者保護連盟が雨島学園との中を偽装する為に、天岡が連れてきた護衛を、会場警備に回させたのであった。
「はい、前もって聞いているので、私が、護衛としてついていきます」
ほのかは、前もって決めていた内容を告げた。
「そうか、よろしく頼む」
いくつかの打ち合わせをしていると、車が会場へ着く。そこで、ほのかは、何かの気配を感じた。
「ほのか、どうした?」
天野司は、ほのかの異変に気付くと、声を掛けるが、自身もその気配を感じた。
「司、発電所の襲撃の時も感じたけど、その前にもどこかで感じた事あるよね」
「ああ、思い出せないけど、どこかでこんな気配を感じたと思う」
「二人とも、大丈夫?私達は、よくわからないけど」
皐月詩歌達は、雨島を襲撃した犯人と、直接遭遇したわけではない。だから、この微かな気配に覚えが無かった。
「多分、大丈夫。皆、注意してね」
司達は、周辺警備の応援へ、天岡とほのかは、控え室へと向かう。
天岡のいる控え室の扉がノックされる。
「喪失者保護連盟、会長を務める
護衛としてほのかが動こうとするが、天岡がそれを制し、自らが扉を開ける。
「これはこれは、全人社長。それとも、ここでは、連盟の会長とお呼びするべきかな?」
全人は、All PersonHDの社長であるが、天岡と張り合う為に、連盟に会長職を作った。それを見透かされたと思い、一瞬悔しい顔を見せる。だが、直ぐに取り繕うと、ほのかの方に、視線を走らせる。
「そうですな。ここでは、連盟の会長として来ている訳ですから。それにしても、雨島学園からの護衛ですか。雨島学園に対して、かなりの力をお持ちのようで、うらやましい限りです」
「彼女は、学園側が、気を利かせて用意してくれた生徒だ」
「そうですか。それにしても、可愛らしいお嬢さんだ。私にも娘がいてね。君と同じくらいの歳と、小学生の二人なんだが、上の娘が、反抗期でね。中々相手をしてくれないんだよ」
「それで、全人会長、どういったご用件ですか?」
「いやいや、どちらかと言うと、雨島学園の生徒に用があったんですよ。どうでしょう、我々からの依頼を受けてはくれませんか?」
ほのかは、全人の纏う雰囲気に対して、生理的嫌悪感をいだいている。詳しい理由はわからないが、この誘いを受ける気にはならなかった。
「いえ、私達は、学園を通した依頼しか受けません。なので、お断りさせていただきます」
「そうですか。まぁ学園の生徒ですから、仕方ないですね。もっとも、この会議のあとは、どうなるかわかりませんが」
断られる事を予想していたのか、落胆した様子は見せず、天岡に視線を向ける。
「天岡会長、それでは、よい会議を。失礼します」
「それでは」
天岡は、その一言で全人を見送る。
「夜星君、君も災難だな。こんな依頼を受けたばかりに」
「いえ、あの人に学園を乗っ取られるのは、嫌だと、痛感しました」
「初対面の君にそこまで言われるとはね」
「すみません、出すぎた事をいいました」
天岡が席に戻り、ほのかに対して、座るように薦めながら、話を変える。
「いや、気にする事ではない。ああ、一つ聞きたいんだが、あの子達の中で、誰と面識があるんだ?」
「あの子達ってユニオンですか?」
「ああ、そういわないとわからんよな」
「ユニオンですと、黒月生徒会長と、双月風紀委員長。LostWingの八神さんと、空宮さん。後は、ElementalKnkghtsの風花さんと赤月さん。七星の四谷さんと、舞台に立っているのを見ただけですが、双月さんも見たことだけならあります」
「7人か、双月兄妹にはあったのか」
「風紀委員長と七星のリーダーは、兄妹なんですか?」
確かに、同じ苗字であり、雰囲気も似ていたが、遠めに見ただけだったので、兄妹だとは思っていなかった。
「氷夜が兄なんだがな。兄妹揃って熱エネルギーを司るそうだ。君から見て、彼らはどう見える?」
「ユニオン全員ということでしたら、仲がいいといいますか、よくわからないです」
数人との面識はあるが、一人か二人と会う事が多く、うまく答えられなかった。
「まぁ、仕方ないな。話に着き合わせてしまってすまん。時間までゆっくりしてくれ」
このまま、会議まで、誰も来ず、ただ時間だけが過ぎていった。
警備の応援へ向かった司達は、警備本部へと向かった。そこでは、歓迎の雰囲気はなかった。
「すみません、雨島学園の者ですが」
「ああ、君達か。とりあえず、無線と腕章を渡しておくが、特にしてもらう事もない。その辺、うろついててくれ」
司達には、警備の心得などもなく、当然と言えば、当然だった。
中には、恐怖の視線を向けるものもおり、居心地の悪さを感じていた。
「とりあえず、外出るか。中にいても仕方ないだろ」
司の提案どおり、外へ出るが、外に出た司達を、待ち構えていたかのように、マスコミが囲みに来た。
「雨島学園は、どういった立場でここにいるんですか?」
「今後、多数の企業からの依頼を受けるんですか?」
「ANTから、非道な仕打ちをうけているというのは本当ですか?」
畳み掛けられる質問に、何も言い返すことが出来なかった。だが、皐月詩歌だけは違った。
「質問があるなら、一列に並んでください。聖徳太子じゃないんですから、何言ってるかわかりません」
その堂々とした対応に、マスコミはあっけにとられ、固まってしまう。そのまま数分が流れる。
「質問がないようなので、もう行きますね」
そのまま詩歌達が立ち去ろうとすると、慌てて質問を繰り返すが、質問の時間は終わりと言わんばかりに無視し続ける。
マスコミは、これ以上付きまとっても、何も出てこないと判断し、離れていった。
「やれやれ、やっと諦めたか」
「詩歌、流石」
「だって、失礼だったから」
細川匠と四葉空が、詩歌をおだてていた。そんな時、警備の腕章をつけた人が、近づいてくる。
「やぁ、君達が雨島からのお客さんだろ」
他の警備員とは違い、恐怖心を感じさせない雰囲気だった。
「ええ、そうです。警備にまわされても、何かするわけじゃないので、ただの客ですね」
司の反応に、意外そうな表情を見せる。
「いやいや、すまん。聞いていた話と、随分違ったものでな。こうしてみると、ただの子供じゃないか」
「ただのかはわかりませんが、子供には違いないですよ」
司の答えに、警備員が苦笑する。だが、
「クックック。そんな事いうのは、確かに子供だな。俺は、建物の外側の警備主任をしている。君達もこの辺りを警備するのか?」
「いえ、私達がここにいるのは、連盟の建前ですから、無線と腕章だけ貰って、サボってろと言われてます」
「本当は、天岡、会長の、護衛」
本当のことを伝えると、警備主任は笑っていた。この警備会社も、連盟加盟企業だが、現場の中では、様々な考えのものがいる。この警備主任は、そんな中でも、
「なら、俺の管轄でサボってろ。何かあったら当てにさせてもらうさ」
「何かあるようだったら、来るのは俺達じゃないですよ」
「それが本当なら、安心だな」
そういいながら、警備主任は巡回に戻る。
司達は、
時間が過ぎ、喪失者保護連盟の会議と言う名の糾弾が始まる。
普通の会議室ではなく、大企業が株主総会を行うような会場だった。
壇上の左側には、ANTの会長である天岡と護衛のほのか。右側には、喪失者保護連盟の会長である全人と役員が座っており、観客席には、その他の企業関係者や、マスコミが座っている。
「それでは、我々喪失者保護連盟と雨岡新技術研究所による、雨島の未来を考える為の会議を開始します。僭越ながら、私、全人百木が、司会を兼任させて頂きます」
全人が、開会を宣言し、大きな拍手に包まれる。その拍手が静まると、全人が話を続ける。
「壇上にいる我々の紹介は、モニターでさせて頂きます。それでは、まず、現状の雨島諸島ですが、これは、ANTが
全人の目的は、ANTを糾弾し、雨島諸島の全てを手に入れることだ。その為に、非人道的に行われている事の全てを、白日の下に晒そうと考えている。
「まず、ロスタイトとは何か。そこからになるが、ロスタイトとは、
天岡にとって、隠す事などなく、堂々と話した。
「そう、
会場からは、われんばかりの拍手が鳴り響く。全ては、全人の手のひらの上だった。
「続けて聞きます。雨島制圧隊、彼らは、何者ですか?」
ロスタイトの後に、この質問。会場にいるほとんどの者が、全人の意図がつかめなかった。
「それは、全人会長、貴方が一番よく知ってるはずですが?」
「ええ、調べさせて頂きましたから。当時、ANTが保護した、
全人は、過去と現在に行われている、
「あれは、あの子達が望んだ物を手に入れる為に行った事で、ロスタイトの採取に関しても、生徒の自由意志に任せている」
事実、当時ロストアイランドと呼ばれていた島を制圧したのは、ユニオンの意思であり、封鎖領域の探索も、チーム単位での意思だ。
彼らが自らの意思で行った事であり、ANTは一切強制していない。
けれど、全人からすれば、それは受け入れられることではなかった。
「そうですか、では、隣にいる護衛の少女に聞きましょう。大丈夫、何を言っても、君の安全は、保障します。ロスタイトの採取と天岡会長の護衛、それは、何故行っているのですか?」
ほのかは、自分に発言の機会が回ってくるとは思っておらず、驚きをあらわにしていた。だが、それは、簡単な質問だった。
「ロスタイトの採取については、採取量が、収入に成りますし、封鎖領域は、監視網がしかれているので、学園側は、安全に配慮してますよ。天岡会長の護衛は、生徒会長に頼まれたので、引き受けました。本当は、会長達自身が来たかった見たいですが、忙しくて、これなかったと聞いてます」
正直に答える。毎月のノルマは、学費分だけであり、残りは、チームの資産となる。そのノルマ自体、無理なく集められる量である。護衛に関しても、一切の強制は無かった。
この答えに、全人は納得しなかった。だからこそ、追求を続ける。
「君、いくら天岡会長がいるからって、気を使う必要はない。思った事を、正直に話してくれ」
「本当のことを言っています」
「そんなはずは――」
全人がそこまでいうと、天岡が口を開いた。
「全人会長、貴方は、何故ここにいるのですか?」
全人は、発言の意味がわからなかった。
「何を突然、私は連盟の会長ですよ。
突如、爆発音がした。会場は騒然となり、数人が外へでて状況を確認しようとするが、扉が開かない為、それは叶わなかった。
けれど、一つ例外があった。
正面の扉が切り刻まれ、崩れ落ちる。近くにいた人が、外へ出ようとするが、暗闇を彷彿とさせる黒い髪を持つ少年によって阻まれた。
表情は良く見えない。だが、憎悪に包まれている事だけは理解できた。
少年が席の中ごろまで進むと、壊された扉付近にいた人が外へでようとするが、黒い物体が開いた空間を塞ぐ。そのまま近くの男からマイクを奪い、離し始める。
「全人百木、どの口がそんなこと言ってるんだ」
「な……なんだね君は!ANTの差し金か」
天岡やほのかも含め、壇上にいた全ての人間が突然の乱入者に、唖然としているが、天岡は、直ぐに我に返り、一つの事実に驚愕する。
「まさか……」
その呟きは、ほのかにだけ届いた。そのお陰か、ほのかも、我に返ることができ、動き出そうとする。
「天岡会長、不審者を拘束します」
乱入者に向けて飛び出そうとするが、天岡はそれを制した。
「やめろ。君では、敵わない」
「全人百木、第二喪失実験、それに、第四
全人は、二つの名称に聞き覚えがあった。だが、その事実を理解できなかった。
「何が言いたい。お前、何なんだ」
「そうか、じゃあ、見せてやる。
そういうと、会場のスピーカーから人の声が聞こえてくる。
「はいはーい。流しちゃうよー」
ほのかは、この声に聞き覚えがあった。雨島の発電所を襲った少女の声だった。
壇上のスクリーンが起動し、一つの映像が写し出される。
「第二喪失実験、その内容の一つだ」
数人の研究員と、二人の子供が写し出される。声が出せないようにか、二人とも口を塞がれており、異能を使おうとすると、抑制の為に、電流が流れる首輪を付けられている。少年は、壁に拘束され、動けずにいる。少女は、手枷と足枷をされており、床に放り出されている。
研究員が、データ採取と記録の為、マイクを使い録音している。
「あー、あー、えーと回数は忘れた。第二喪失実験を始めます。対象は、この兄妹。観察は兄の方です。それじゃあ、お前ら、始めろ」
その合図と共に、研究員が少女の手足の骨を破壊する。
「――――――!」
声にならない悲鳴を上げるが、研究員はやめようとしない。メスなどを使い、少女の体に傷を付けていく。
少女は、反射的に異能を使おうとし、機械がそれを察知し、電流を流す。
「あっぶね。感電しちまうよ」
「その為の装備だろ。気にせず続けろ」
研究員によって少女が弄ばれていく。少年もまた、抵抗の為に異能を使おうとするが、電流が流れ、力を使う事が出来ない。
「ほらほら、ガキ。大事な妹を助けたいんなら、早く2個目の異能に覚醒しろよ」
第二喪失実験、それは、
実験とは名ばかりの、研究員のお遊びだった。
「班長、もう犯していいだろ」
「お前らそればっかだな。このロリコン共が」
この映像が流れている会場からは、嗚咽の声が聞こえる。生中継をしているはずのマスコミは、カメラを止め、放送をスタジオに移している。
それだけ凄惨な光景だった。
ほとんどの者は、スクリーンから視線を外している。
「どうした?まだ映像は終わっていないぞ」
画面に映っている兄の面影を持つ少年は、その様子を悟り、映像を見るよう促す。
「
わざとらしい笑い声を上げながら、スピーカーから声が聞こえる。
少女は、この建物の、制御室を乗っ取っていた。
「傘、最後を見せてやれ」
「はいはーい」
映像が早送りされる。だが、簡単な内容は見て取れた。その映像は、少女が延々と犯され続けている。
早送りが止まると、一つの機械が写し出される。スクリーンに写る子供達は、既にぐったりしており、目は虚ろになっている。
「さて、ガキ、ここまで耐えた褒美だ。いいもん食わせてやる」
研究員が、機械に少女をセットする。
その映像を見ている人達の中で、料理の知識を持っているものは、そこから先を想像してしまい、何人かは、吐いていた。
「夜星君、画面を破壊できるか?あの映像はまずい。私が気を引くから、その隙に頼む」
天岡は、流れている映像を知っているようで、その先を流すべきではないと判断した。
「わかりました」
ほのかは、気付かれないように少しずつ力を溜める。
天岡は、直ぐに行動に移す。
「
日之影次は、天岡が自分達の名前を呼んだ事で、無関係を装えなくなると判断した。
影次は、天岡に迷惑を掛けたくは無い。だが、全人のとった行動は、許せる事ではなかった。
「天岡さん、俺は、あいつを許せないんですよ。自分がしたことを棚に上げて、俺達によくしてくれた貴方を、一方的に糾弾するなんて……だから、あいつに、俺と同じ思いをさせる事にしたんです。邪魔しないで下さい」
影次は、全人に向かって話を続ける。
「全人、知らないわけじゃないよな。お前の傘下の研究所なんだからな。だから、お前――」
影次の注意は完全にそれていた。いや、最初からほのかに対して注意を払っていなかった。
その為、ほのかの行動に気付くのが遅れた。スクリーンの背後に設置してある機械ごと破壊し、少女の悲鳴が鳴り響いていた映像が消える。
影次は、ほのかを敵として認識した。
「お前は、俺の邪魔をするのか」
影次の足元から、黒い何かが伸びる。それは、影の様だった。
影の様な物体が、ほのかへと襲い掛かる。間一髪、その攻撃を避けるが、壁にいくつもの切れ目を入れることになった。
回避のタイミングで、反撃を仕掛けるが、影の様な物体が、盾となり、攻撃を防ぐ。
「影次ー、だっさーい。映像止められちゃうしー。アハハハ。あれ、出しちゃいなよー」
スピーカーを通し、
影次の横に、影の様な物体が立ち上がる。そこから、一人の少女が転げ落ちた。
その少女に対し、全人が反応する。
「
全人の娘の一人だった。影の様な物体が枝分かれし、少女を吊り上げる。
「行ったはずだ。お前には、俺と同じ目にあわせると。それと、そこの女、外の仲間が心配なら、大人しくしてろ」
ほのかは、息を呑んだ。影次達の襲撃からそれなりの時間が経っている。にもかかわらず、外からの干渉が一切ない。それは、今回の襲撃が、二人だけではない事を意味する。
ほのかは、歯を食いしばり、大人しくするしかなかった。
「頼む、娘は助けてくれ。私は、どうなってもいい。頼む」
全人の言葉を無視し、影次は、周囲へと視線を走らせる。
「その辺のやつ、お前らは研究員役だ」
そう言いながら、少女を投げ込む。
少女を受け取った全人の部下は、如何するべきか、戸惑う。
戸惑うだけで、行動に移さない様子を見て、続けた。
「やらないなら、他のやつにやらせる。但し、お前らには死んでもらう」
影の様な物体が全人の部下に襲い掛かる。血飛沫が舞い、人間の悲鳴が聞こえる。
彼らもまた、天岡に危害を加えようとしていた一団であり、影次に取っては、どうなってもいい存在だった。
影次の隣に、別の少女が現れた。それは、全人の娘の一人、姉の方だった。
「お前、桃まで!娘達を返せ」
妹とは違い、姉には意識があった。だが、表情は青ざめ、吐き気を我慢している。
「姉の方には、さっきの映像を見せてある。お前がしたこと、全ても、教えてあるぞ」
「あの……お願いです。蜜柑だけは、助けてください。お願いします。何でもしますから……お願いします」
影次にしがみつき、妹だけはと、懇願する。だが、影次は、それを無視し、話を続ける。
「さて、助かりたいやつ、姉の方が終わったら、やったやつは、助けてやる」
それは、悪魔の囁きだった。少女を犠牲にすれば助かる。外から助けが来る気配も無く、その一縷の希望にすがるしかなかった。
だが、天岡の一言が、その希望を掻き消した。
「影次、お前は、全人会長をお前と同じ目にあわせると言った。お前達は、あの研究所から逃げ出す時に、研究員を皆殺しにしている。ということは、誰一人、助ける気がないだろ!」
「何言ってるんですか。天岡さんは無条件で解放しますよ。それに、そこ女も、何もしなければ、殺しませんよ」
それは、何をしようと、助からないという事だ。ただ二人を除いて。
会場を絶望が襲う。外の様子がわからず、助けも期待できない。それは、容易に結末を予想させる。
影次達が襲撃をする直前、会場の周囲三箇所から、衝撃が響き渡る。
司達がいる辺りに、水色の髪の少年が現れた。
「君達が、天岡さんの護衛として派遣された
「誰だお前」
司は、その雰囲気から、敵だと察した。
空気が冷え切る中、司達は、ネクストを発動させる。
「Limit Break-Mode”THE NEXT”」
四人に、オリジンの翼が生える。それを見て、少年は、微笑んだ。
「雨島学園は、そこまでいったか。なら、見せてあげるよ。Limit Break-Mode”THE NEXT”」
少年の背中に、氷の翼が現れる。日の光を透過する、輝く翼だ。
目の前の少年がネクストを発動した。それは、司達にとって、理解しがたい事だった。
「ネクスト……だと」
「ああ、自己紹介してあげる。僕は、
元雨島制圧隊、それは、司達が知るユニオンと同格の
「黒月生徒会長達の仲間……」
「元、だよ。僕達は、考えの違いから、袂を分かったんだ。とりあえず、足止めさせてもらうよ」
氷の槍が精製され、司達に降り注ぐ。急所は外されているが、いくつもの傷が司達の行動力を奪う。
「燃えろ」
司は、ギアを変化させ、迎撃にうつる。けれど、司の炎では、水鏡剣の氷を破壊しきれない。
それは、実力の差だ。
ギアを持った四人の
「無駄だよ。これが、絶対的な力の差だからね。凍れ!」
司達の体を氷が覆う。瞬間的な攻撃に、身動きする隙すらなく、氷の中に閉じ込められる。
剣は、そこで手を止めない。氷を砕く為に、さらなる一撃を加える。だが、その直前に、爆発が起こる。
司が、炎に指向性を与え、氷の塊を打ち落とす。さらに、その余波を使い、自身を覆う氷を溶かす。
「げほ、げほ」
短時間でも呼吸を止められており、全身が氷付けになっていた為、行動力を完全に封じられた。
まともに動く事が出来ず、もはや戦闘とは呼べる代物ではなかった。
「剣、雨島の
背後から別の声が聞こえる。
「
司達とは比べ物にならないほどの力をもつ人物が二人、それに対し、司達は、まともに動く為の力が残っておらず、絶体絶命というべき状態だ。
そんな中、詩歌は、力を使い、自身の体を温め、二人に気付かれぬように、動ける状態を取り戻す。力を取り戻した段階で、司達にも同じことをしようとする、けれど、それは気づかれていた。
「
圭が、土属性の異能を使い、詩歌を大地が飲み込む。匠が、助けようとするが、実力が違いすぎる為、その状態を覆す事が出来ず、倒れた状態の詩歌にのしかかる面積を、少し減らすに留まる。
司は、無線を持っているが、既に通信が途絶えている。それは、警備員のほとんどが無力化されていることを意味する。
「なんで、こんなことをするんだ」
「復讐だよ。全人百木に対するね。君達は、雨島制圧隊について、どれだけ知っている?」
「黒月生徒会長とか八神さんとか、ユニオンに人達のことだろ」
「別に、誰が制圧隊のメンバーかって話じゃないよ。雨島学園を作る前の事だよ」
雨島学園が出来る前、雨島制圧隊だったということすら、つい最近知った事である。それ以外のことなど、何も知らなかった。
「俺達が、
第四全人研究所、それは、All Person HDの傘下企業の一つだ。だが、今は存在していない。数年前に、建物自体が消失し、そのまま倒産した企業だ。
「僕達は、そこでモルモットとして扱われていたよ。いや、モルモットの方が、待遇がいいかもね。研究員からすれば、異能を持った玩具だったよ。研究と称して暴行を受け、研究の後には、暇つぶしと称して暴行を受ける。そんな場所さ。だから、僕達は、そこを壊し、逃げ出した。研究員や、関係者を皆殺しにしてね」
司達は、話が理解できなかった。いや、本能的に理解する事を拒んでいた。
雨島学園という組織が無ければ、自分達も、同じ道を辿っていた可能性がある。その事実を、否応なしに突きつけられる。
「その後、天岡さんに助けられたんだ。詳しくしりたきゃ、紫苑にでも聞いてみな」
「圭、紫苑が教えるとは思えないよ」
その時、遠くから、強い力が近づいてくるのを感じ取る。
「剣ー!」
炎の塊が、接近してくる。
その正体は、ElementalKnightsの赤月ほむらだ。
「やぁ、ほむら、一人かい?」
気軽な挨拶をしながらも、異能による壮絶な打ち合いをしている。ほむらは、炎の弾丸を、剣は氷の槍を精製し、打ち出す。お互いが、攻撃を攻撃で防ぎ、ある種の均衡状態となっている。
「剣ー!」
「相変わらず、好かれてるな、剣」
「圭、手を出すなよ」
「安心しろ、別の客が来てる。二人逃したけどな」
圭の方へ、二人の
「圭、久しぶりだね」
「清一に鉄也か。二対一は無理だな。大人しくすれば、止まってくれるのか?」
ElementalKhightsの和水清一と土師鉄也を前にし、圭は、自分の不利を理解してた。
「Linkageの四人の確保に一人、圭の対応に一人、そう考えれば、妥当だろ。余計な事するなよ」
お互い、自分達が本気で戦えば、周りがどうなるか理解している。建物の中には、天岡がいる為、辺りを消し飛ばす可能性のある戦いは、したくなかった。
だが、ほむらと剣の戦いは続いている。
「ほむら、強くなったね」
「剣、何で、雨島から……私達から離れた!」
ほむらは、どこまでも熱くなる。周りを気にしないほどに。
「ダメだよ。周りがどうなってもいいのかい?」
「黙れ。Realization」
ほむらは、ギアを変化させる。三本の爪を持つ、赤い手甲へと変化する。
「ギアか、荒々しいね。ならこっちも一つ使おうか」
剣は、角のようなものを取り出す。二つの角が繋がった物体を。
司達は、それに心当たりがあった。それは、ほむらもだ。
「大型
「陸が近くにいたからね、一つ回収するのが、精一杯だったよ」
それは、三笠陸が、バースト対応でALUに回収を任せた際に、気付かれぬように回収した物だ。
「武器として使えなくても、ブースターの代わりにはなるからね」
剣が扱う氷を包むオリジンが増える。さらに、ロスタイトを核とし、氷剣を創り出す。それは、理性を失いかけているほむらにとって、最悪の出来事だ。
ほむらの力も、ギアを通し、強化されている。だが、怒りに我を忘れ、細かな制御を手放しているほむらは、本来の力を使う事が出来ず、剣に押され始めている。
「なんで……なんで私を置いてったの」
炎を纏った爪による連撃。だが、剣の持つ氷剣によって、全て捌ききられる。
「ごめん。でも、君達は許した。だから、許せなかった僕達は、雨島を出たんだ」
剣達は、研究員を皆殺しにしたとしても、許す事ができなかった。ほむら達を傷つけた奴等、そして、自分達を犠牲にした研究で甘い汁をすすっていた連中、その全てに報いを受けさせるべきだと考えていた。
「ふざけるな。私は、剣がいるから許した。でも、いなくなったら、意味がない」
「そういって貰えると、嬉しいよ。でもね、だからこそ、今、君に邪魔をさせるわけには行かないんだ」
「なんで……なんで」
ほむらは、泣いていた。ただ、目の前にいる剣に、感情をぶるけるしか出来ない。
剣は、オリジンだけによる、純粋な力を腕に乗せる。ほむらの連撃を回避しつつ、着実に力を溜める。それは、ほむらの意識を刈り取るには、十分な量だ。
その一撃を、正面からほむらへと叩き込む。
一撃を受け、崩れ落ちる。だが、剣がほむらを支える。
剣は、ほむらの目じりにある涙をそっとぬぐう。それが、二人の戦いの終わりを意味した。
「余韻に浸ってるとこ悪いけど、どうする?」
清一が、剣に問う。
「僕は、ほむらを確保した。圭は鉄也と相打ち。清一、君はそこの四人の安全確保。なら、中に任せようか」
「異論はないかな。ここでやりあうつもりは、ないからね」
外の戦いが終わり、中の様子を見守る事となった。
会場では、参加した人達のほとんどが、絶望に支配されている。
圧倒的な力を持つ
ただ、殺される為につれてこられた姉のすすり泣く声だけが響く。
「はぁ、傘、天岡さんと、護衛の女を連れて逃げろ。ここを壊す」
「ほえー。影次、いいの?」
「これ以上続けてもしょうがない。なら、さっさと終わらせよう。誰か来そうだ」
遠くを眺めるように、影次が呟く。それに傘が続けた。
「影次ー。手遅れみたいだねー」
その声と同時に、会場とスピーカーの両方から爆発が聞こえる。
「傘、大人しくしなさい」
「
スピーカーから音が途切れた。施設が破壊され、その振動だけが響く。
「こっちにも来たか」
「そうだよ、影次」
緑の小太刀を二振り手にした小柄な少女が現れる。
その瞬間、邪魔になると判断し、足元で泣き崩れている人質の姉を、影の様なものを使い放り投げる。
「
天岡は、冷静に状況を判断する。
「凛さんは、知ってるんですが、稲穂鳴って誰ですか?」
「恐らくだが、制御室を占拠したのが、ShadowFangの稲穂傘だ。そして、そこに突入したのが、その双子の姉である、稲穂鳴だ」
天岡は、ほのかに状況を伝える。二人の襲撃者に対して、二人の戦力がやってきた。それにより、状況は一変する。
「凛、どうするんだ?」
「決まってるよ。僕がすることは、影次を殺す事だから」
その瞬間、二つのギアを使い、切りかかる。ネクストを維持し、風を纏った高速の連撃を繰り出す。
対して、影次もそれに合わせ、影の様な物体を使い、攻撃を防ぐ。さらに、凛の攻撃の隙に、攻撃を差し込む。
凛は、影次の攻撃の全てを回避する。風を纏、宙を舞う。どんなに無理な体勢をとろうとも、絶対に防御をしない。
それは、影次の異能を知っているからだ。
全てを断ち切り、全てを防ぐ黒い影の正体を。
「どうした?俺を殺すんじゃないのか?」
「ぐ……」
影次の挑発に、奥歯をかみ締める。覚悟は、とうの昔に決めている。しかし、頭では理解していても、心がついてこない。その為、攻めあぐねていた。
影次の襲撃以降、会議の参加者は壁際に非難しているが、それが原因となり、攻撃の余波により壊れた壁が参加者に降り注ぐ。しかし、影次も凛も、周りに気を使う様子はない。
「しょうがない、使うか……Realization」
影の様な物体から、小さな黒い棒を取り出す。それは、雨島学園の職員室から盗まれた、複鱗だ。
それが、剣へと形状を変える。
複鱗が影次の異能を纏い、巨大な刃となる。その一撃に合わせ、凛も小太刀に、高密度のオリジンを纏わせる。
このとき、初めて、攻撃の際も、ギアと影の様な物体をぶつける事を拒んでいた凛が、影次の攻撃を、受け止めた。
だが、影次は、一撃。それに合わせた凛の攻撃は、二つ。残りの一撃が、影次を襲うが、影の様な物体が、それを防ぐ。その瞬間、凛のギアが纏っているオリジンが、砕け散る。
凛は、大きく距離をとり、ため息をつく。
「だから、いやなんだよね。
影次は、普段影を操るかのように力を使っている。だが、その異能は、影ではなく、領域であり、次元であり、空間そのものだ。
空間の壁は、全てを遮り、次元の裂け目は、全てを断ち切る。それは、絶対の盾であり、絶対の矛であった。
「なら、どうする?」
「決まってる。全力で殺す。それが、あの時止められなかった僕が、今やるべき事だから」
凛は、影次達が、雨島を出て行く日に、止める事が出来なかったことを、後悔している。だからこそ、影次が起こす騒ぎを、自らの手で止めようとしていた。
意識を改め、さらなる攻撃を繰り出そうとするが、それが、仇となる。
黒く染まった領域の壁が、凛を包み込む。凛は、その中に閉じ込められ、隔離された。
「凛、君は、とことんあまいよ。そんなところが、好きなんだけどね」
そう呟くと、傘がいた方向を見るが、まだ続いているようで、先に自分の用をすますことにした。
「影次、戻ってくる気はないのか?」
近づいてきた影次に対して、天岡が、説得を試みる。だが、今の影次に、天岡の言葉は届かない。
「天岡さん、ここまでやったんだ。今雨島に戻れば、迷惑を掛けてしまいます。だから、戻れません」
「お前達は私の子供も同然だ。だから、お前達の為なら、私は、何だってする。それは、今でも変わらん」
影次は、天岡の言葉が嬉しかった。だが、この復讐は、やり遂げる。そう決めていた。
ふと、周囲に妙な間隔を感じた。それは、自分の中からも感じ取れる。空気を吸い、肺が膨らむ。だが、膨らむだけで、体が酸素を取り込まない。そのまま息苦しさを感じる。凛なら、こういった攻撃も可能だ。だが、それを防ぐ為に、別の次元へ隔離した。黒い領域の内側にいる凛に、外側へ干渉する事は、不可能だ。
だが、凛の言葉が聞こえる。
「影次、甘いよ。それに、ひどいよ。戻ってきてくれてもいいじゃないか」
「凛、だと……」
風が渦巻き、人の姿を形どる。それは、凛だった。
「影次は、知らないよね。
「塞がれる瞬間に、脱出したのか」
あの隔離した中にはいない。それは、隔離に制御を使う必要がない。そう考え、影次は、隔離を解除する。
「ちょっと早計だよ。全てが抜け出てたわけじゃないのに。でも、お陰で全部出てこれた」
凛は、自身を風にしたまま漂う。肉体という枠に囚われないということは、物理的な攻撃を、ある程度は無効化できる。それは、全てを断ち切る影次の力にとって、相性が悪かった。
凛の力は風を司る。風は、何処にでもあるもの。凛が風そのものになるということは、ありとあらゆる所から、攻撃が来るという事だ。
ほのかは、かつて、全方位からの連続攻撃をしたことがある。だが、この光景は、それ以上だった。
「ゲホゲホ、くそ」
影次自身と空気の全接点からのゼロ距離連続攻撃、それから逃げる事はできない。呼吸を奪い、息すら吸わせない。それは、確実に殺す為の方法。
「影次、ごめんね。でも、すぐ終わるから」
手を握る。単純な動作だが、それは、影次を握りつぶす。空気が圧縮され、気圧が高まる。オリジンで強化しているとはいえ、その強化を超える圧力がかかれば、それは致命的な攻撃となる。
空気との接点があるからこそ、その攻撃を受ける。影次は、その接点を断ち切る。
自分自身を別の領域へ隔離する。
その瞬間、影次は深呼吸する。体中が酸素を必要としている。それを補充するように、呼吸を繰り返す。
「その世界の空気を支配したとしても、この世界の空気まで支配できるわけじゃない。そういうことだろ」
領域を超え、攻撃を繰り出す。だが、今の凛は、形を持たない。断ち切る攻撃が、通用しない。
お互いが、相手に対する決定打を打てない。それは、膠着状態だ。
「影次、お互い、何も出来ないね」
「ああ、しかも、やっかいなのまできやがった」
ユニオンは、ALUへの協力とバースト対応で出払っている。だが、バースト対応に行っているはずの、ElementalKnightsの全員がこの場所に来ている。だとすれば、他のバースト対応に行っているユニオンも、来れる筈だ。
漆黒の禍々しい弾丸が打ち込まれる。その弾丸により、建物の屋根が、消し飛ぶ。瓦礫すら残らなかった。
「やっかいとは、ひでーな。なぁ、影次」
「刹那、重役出勤か?」
八神刹那、
この状況で、影次に対して、致命傷を与える可能性を持つ存在だ。
「刹那、早かったね」
「なんなんだ!バーストの予定は調べ上げ、誰もこれないようにしたのに、なんで、こんなにもやってくるんだ」
全人は、事態が自らの手を離れ、何度も状況が変わる。それに対して、我慢が出来なくなった。
だが、刹那の回答は、いとも簡単だった。
「バーストの対応なんて簡単だぜ。光の柱が出てきた瞬間に、ぶっ壊せばいい。ただ、それだけだ」
バーストを終わらせる方法は二つある。一つは、剥がれ落ちる破片が
刹那は、思い出したように付け足した。
「ああ、往復の方が時間くったな」
影次は、刹那に対し、攻撃を開始する。だが、影次の攻撃は、刹那に届かない。
「攻撃されていない状態を上書きし続けているのか?」
「理由なんて、どうでもいいだろ。俺達に必要なのは、結果だ」
「意見がぶつかれば、徹底的にやりあう。そして、勝者の方針に従う。か」
力による意思の決定、それが、ユニオンのルールだった。普段であれば、そこまでの対立が起きない為、滅多に行われない方法。
「お前が勝てば、好きに復讐しろ。何なら、手伝ってやる。俺が勝てば、戻って来い」
刹那達ユニオンも、全人には、頭にきている。恩人である天岡への侮辱の数々。それは、許せる事ではなかった。
「だが、この距離で、全人への攻撃を防げるのか?」
「無理だな」
刹那は、あっさりと答える。元々、全人を助ける気などなかった。
そして、一つの案を出す。
「折衷案といこうぜ。とりあえず、紫苑がやられたように、目でもえぐっとくか」
「相変わらずだな。刹那。それで、天岡さんへの非礼をチャラにし、その後決着をつけるということか」
「刹那、影次、いくらお前達でも、全人会長への暴力は認めん」
刹那は、自分のペースへと引き込み、話をまとめようとしていた。だが、天岡がそれを許さなかった。
「天岡さんに禁止されたら、今は痛めつけられないな。なぁ、影次、第二喪失実験の内容、全部流すってのでどうだ。ユニオンで拒否するやつがいれば、そいつの分は流さなければいい。物理的には生きてても、社会的には、完全に死ぬぞ」
影次にとって、無理に自分達の意見を通そうとすれば、戦闘は避けられない。刹那との戦闘となれば、影次の力でも、天岡の安全は保障できない。だからこそ、この場では、引くしかなかった。
「わかった。場所を変えよう。俺が勝ったら、手を貸せよ」
全人にとって、もはや助かる道は無かった。だからこそ、少しでも傷をつけようとした。
「そこのお前、私の部下を殺しただろ。その罪はどうやって償う!」
その瞬間、刹那が指を鳴らすと、光景が変化した。
会場が元に戻り、怪我が治り、死んだはずの部下が、生き返る。それは、訳がわからなかった。
「刹那、珍しいな。死んだやつを生き返らせるなんて」
八神刹那・空宮あやめ・四谷命、この三人は、それぞれの方法で、何かを元に戻す事が出来る。それは、死者とて同じ事。だが、死んだ人間を生き返らせることは、しようとはしない。それは、理由があった。
「人格が、本当に同じとは限らない。俺の場合、生きている状態を貼り付けてはいるが、俺の無意識下の影響を受けている。近い人間なら、確実に差異に気付く。だがな、あいつらがどうなろうと、しっちゃこっちゃない。そう思えば、やるさ」
影次達による被害を消す。そうすることで、この事件をなかった事にする。そういう目論見があった。
全てが元通り、襲撃が起こる前に戻った。だが、人の記憶は消えていない。影次が流した映像の記憶。そして、高位の
刹那は、全人の前へ現れ、問う。
「さて、喪失者保護連盟会長全人百木、どうする?」
この状況、何を言ったところで、どうにもならない。それは、わかりきっていた。どこかに訴えようにも、実験の映像を流されれば、味方をするものはいない。だからこそ、諦めるしかなかった。
「諦める、すまなかった」
「謝る相手は……違ってはないと思うが、今は違う。しっかりと謝っとけ」
刹那は、それを合図に撤収を開始する。その中には、影次達も含まれていた。
「刹那!お前、何処まで予想してた?」
「何の事ですか?」
刹那は、しらを切る。だが、一つだけ確かな事を呟く。
「ユニオンが揃った。でも、前は勝てなかった。だから、期待してるぞ」
その視線の先には、ほのかがいた。
数日間、世間は大騒ぎだった。雨島学園より提供された第二喪失実験の映像により、All Person HDと、その関連企業は、大打撃を受ける。世論は、
そして、雨島学園では、別の騒ぎが起きていた。数日間に渡り、7の島方面で、戦闘が繰り広げられていた。だが、それが、誰によるものかは、伏せられている。
雨島学園が、夏休みに入ってから数日後、生徒会室に六人の生徒が集まっている。
生徒会長である黒月紫苑、風紀委員長である双月氷華、LostWingリーダー・八神刹那、ElementalKnightsリーダー・風花凛、七星・リーダー双月氷夜、ShadowFangリーダー・日之影次、彼らは、ユニオンを構成する中でも、重要な位置にいる。
「とりあえず、ShadowFangはElementalKnightsの監視下に置かれるってことでいいな」
「異論があっても、従うしかないだろ。俺は負けたんだからな」
「そうだよー、影次、僕の監視下に置かれるんだからねー」
「氷華、俺の監視下に置かれないか?」
「黙れ、バカ兄貴」
「皆さん、雑談はそのあたりにしましょう。全員で集まると、収拾がつかないので、人数を絞ったのですから」
紫苑が、話を進めようとする。そして、一つの議題を示す。
「バーストの解析は、ほぼ終わっています。確度の高い予測を出せるでしょう。ただ、バースに関しては、データが1件しかないので、バーストとの比較しか出来ていません」
「とりあえず、バースの可能性がある場合は、最優先で潰すしかないな」
「ええ、そういうことです」
「確か、ミズチって呼んでたな。あの神獣型」
神獣型
「そういえば、影次達が、出て行く少し前でしたね」
「ああ、あれは、やばかったな」
「今は、7の島の近くの海域で寝てるぞ」
「そのかわり、近寄れなくなったけどね」
7の島周辺を提供したが、近づくものの安全は保障されない。それが、ミズチとの契約内容の一つだ。
だが、それは、現れた神獣型
「第三段階でも、無理なのか?」
「あれは、タイプによって違うんだよ。それに、長所を思いっきり伸ばすが、極めつけの弱点を作っちまう」
影次達を除き、全員が第三段階に到達している。だが、その力は、使いどころを選ぶものだ。
「とりあえず、現状の確認は、終了しました。後は、彼女らの成長に期待しましょう」
こんにちは
一つ言い訳を
こんなに長くなるはずじゃなかった!
書き終わってから、分けようかとも思いました。ですが、一連の流れで書いたので、分けるとぶつ切りになってしまうので、分けられませんでした。
こんなに長い話にお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。