8月中旬、この日、Linkage・Labo・Paladinは、いつも通り、水輪島へ向かっていた。だが、一つ、いつもと違う事があった。
「ねぇ、智花、今日は荷物が多いけど、そのケースの中って何?」
「夜星ほのか、私達は、研究型チームだ。とすれば、研究関連の物に決まっているだろ」
日向智花は、いつも通りだった。
「夜星、ちゃんと具体的に聞かないとダメだろ」
「まったく、最上君の言葉は、傷つくなー。智花、言える範囲でいいんだけど、その中身について、詳しく教えてくれる?」
夜星ほのかは、最上誠の忠告通り、言葉による反撃を受けないように、細心の注意を払い、質問した。
「まぁ、お前達なら、問題ないな。ギアの力を引き出すには、オリジンが必要なのは、わかっているな。そこで……いや、これはまだだ。とりあえず、手で持つ以外武器とか、色々な新型だ」
「新型……でもさ、ケース多くない?」
「五十鈴は、
ケースが、全部で八個、一人二個ずつの計算だ。その全部に、新型ギアが入っているとなると、相当な重量になる。重力を司る五十鈴がいるからこそ、この量を持ってきていた。
「なるほどね、後、今日の探索だけど、智花達は、山肌を直接登るとして、最上君達は、いつもどおりでいいの?」
「ああ、そっちがいつもどおりでいいならな。今回ので、確認してある洞窟は、最後になりそうだから、もしかしたら、会うかもな」
「じゃあ、期待しないで、期待しようか」
「さて、皆さん、そろそろ着きますよ」
皆が話し込んでいると、既に専属船長と化している松下紳が、到着を告げる。
「それじゃあ、皆いつも通り?」
「ああ、俺達は、そのつもりだ」
「私達もだ」
三チームは、散開し、それぞれのルートを行く。その中で、Laboだけは、洞窟へは向かわず、山の斜面に向かっている。
「さて、五十鈴、頼むぞ」
「了解ですよー。舞、微調整は、頼むよー」
「はい。お任せを」
五十鈴は、周囲の重力を吸収する。それは、智花達に掛かる重力も例外ではない。重力を制御し、ゆっくりと上昇を開始する。山の急斜面に沿うようにして、上昇する。
さらに、矢吹舞が風を使い、方向に調整を加える。そうする事で、大きくそれる事なく山を登る。
「着いたか」
智花が、周囲を確認した。
そのまま、宿泊を予定している観測室へ向かう。途中で、大型
「智花、新型のテストをしますか?」
「いや、ケースの重量を吸収し続けている五十鈴の負担が心配だ。まずは、観測室を優先する」
「放出じゃなくて、吸収だから、大丈夫ですよー」
「五十鈴君、上限が凄くても、限界はあるんだから、注意してね」
「大丈夫ですよー。だって、時々放出してますから!」
そういいながら、近くにいた大型
「五十鈴、吸収した以上に、放出したな?」
「わかりますー?大した量じゃないですよー」
そういいながら、洞窟へ入り、観測室を目指す。
出口側からでは、観測室へはすぐに到着する。そこで、ケースを置き、手続きをしてから、テストの順番を確認する。
「それでは、最初は爆弾系だな。
八個のケースの内四個は、爆弾系と呼んでいるギアであり、一個は、IGである。残りの三個は、武器系のギアだ。
武器系のギアは、可変型ギアとなっている為、ある程度は持ち運びが楽に出来る。そして、爆弾系とIGを持ち、大型
智花達は、草原となっている部分へと到着する。湖から離れており、恐竜型の大型
「この辺りでいいか、舞、広域検索を頼む」
「はい、それじゃあ行きますよ」
広域検索を始めるが、すぐに答えがでる。
「近いですね、約1km向こうです。森と草原との境付近です。寝てるようですね」
「設置を開始する」
智花の合図で、爆弾系と呼んでいるギアを円状に地面に埋めていく。複数の属性を混ぜたギアであるが、複合ギアではない。単属性のギアでパーツを作り、それを組み合わせた、複数属性使用ギアであった。
その中心部には、火属性のギアが使われている。それが、爆弾系と呼ばれる仕組みの、中心だ。
「智花、IGを下さい。それで、完了します」
「ああ、気をつけろよ」
智花からIGを受け取り、慎重に爆弾系ギアにセットする。これは、爆弾系ギアを起爆させる為の物だ。
準備が完了すると、刀剣型の、一般的な可変型ギアを展開し、肉食恐竜型へと向かう。
「私が、行く。皆は、サポートを頼む。起爆のタイミングは、紳に任せる」
「わかりました」
「智花、気をつけてね」
智花は、肉食恐竜型へと向かう。気付かれたとしても、逃げる事のできる距離を保ち、ギアに力を込める。ギアが炎を纏い、一気に振り下ろす。斬撃が飛び、肉食恐竜型へ命中する。しかし、大きなダメージを与えていない。
起こすのが目当てであり、この一撃で倒す気はなかった。
肉食恐竜型が目を覚まし、智花に向けて、走り出す。それを確認すると、智花も、すぐに戻る。
「かかった。おびき寄せるから、注意しろ」
智花からの連絡を受け、舞達も、警戒を開始する。
肉食恐竜型は、水属性だった為、強烈な水流を、智花へ向けて吐き出す。しかし、智花も、ネクストを発動し、その火力を推進力とし、回避する。
「紙一重で回避し、攻撃へつなげる必要はない」
その言葉が示すとおり、火力に物を言わせ、大きく回避し続ける。一見無駄の多い行動であるが、爆弾系ギアや、IGのテストである為、これでいい。
「紳、タイミングを間違えるなよ」
「大丈夫です」
紳は、IGから伸びたコードを一つに纏め、手元に伸ばしている。
智花が、設置地点を通り過ぎ、肉食恐竜型が設置地点の中央へ来るのを待ち構える。
「今だ!」
誰もがそういい、紳がコードに電気を流し込む。
IGが反応し、中に溜めてあるオリジンを放出する。
放出されたオリジンは、爆弾系ギアに注ぎ込まれ、予定通りの動作をする。それはすなわち、火属性のギアによる、爆撃。周囲にある他の属性は、爆発に指向性を持たせる為の物だ。肉食恐竜型は、円状の爆発に飲まれる。その爆発自体が、IGにより、オリジンを纏っている為、その肉体に直接届き、肉体を破壊する。
爆炎が収まると、残っているのは、核となっているロスタイトだけだった。
「とりあえず、成功だな」
智花が、結果を確認する。
「IGも、ちゃんと動きましたね」
「それに、火力も申し分ないです」
「申し分ないというか、過剰だった気もしますねー」
円状に敷き詰めた為、周囲から、爆炎が押し寄せた。それぞれが、
この後、大体の必要個数を判断する為に、爆弾の数を試行錯誤し、大まかな固体ごとの目安の作成を行う必要があった。
「IGも、問題ないな」
「オリジンが無いと、力を引き出せないギアを、誰でも使えるように、オリジンを封入した起爆装置ですからね。動いてくれないと、困りますよ」
「一応、僕の電気を使っていますが、理論上は、普通の電気で、問題ないですからね」
遠距離から攻撃するには、ロスタイトを使った弾丸や、コーティングが必要だ。だが、それでは威力が低い。そこで、ギアの起動に必要なオリジンを溜め込む物を開発し、それを使い、爆弾系ギアの起爆装置とする事に成功した。
「とりあえずは、成功だ。LostWingには、感謝する必要があるな」
八神刹那から、複可変型複合ギアを預かったが、剣以外に、銃の形を持っていた。それは、弾丸を込め、打ち出すのではなく、引き金を引く事によいり、注ぎ込まれたオリジンが、力となり、発射される仕組みだ。
そこには、オリジンを注ぎ込み、力を発動させるという、システムが組み込まれていた。
智花達は、そこに目を付け、力を注ぎ込み、力を発射させるシステムから、力を注ぎ込むと、爆発するシステムを作り出した。
それは、刹那の思惑を超えた事実だ。
「それでは、テストの続きですね」
「ああ、数の調節が必要だな」
数体の大型
だが、一つの結論がでた。
「爆弾系と呼んでいるが、手榴弾の様には使えないな」
「タイミングが難しいですからねー」
「それに、一個だと、威力も足りないんですよ」
「それがわかっただけでも、有意義なテストだった。残りを使いきり、他のギアのテストにうつるぞ」
「智花、次からは、おびき寄せる段階から、新型ギアのテストをしましょう。その方が、早いです」
紳は、そういいながら、新型ギアを取り出しながら、続ける。
「次は、僕が囮をします」
その手には、サブマシンガンの形をしたウェポンギアが握られている。弾丸を使わず、オリジンのみを弾丸とするシステムが搭載されている。
オリジンを持たない普通の人が使う為のギアと、オリジンを持つ
最後の爆弾系ギアの設置を終え、紳は、囮を開始する。
紳は、電気属性の異能を使い、大型
「この新型は、中々な出来です。そろそろ着きますのっで、準備をお願いします」
大型
「爆弾系ギアと、IGの実験は、完了だな。紳、新型ギアはどうだ?」
大型
「目に見えての不具合は、ありません。属性の付与も出来ています。
「それじゃあ、次は俺ですねー。重力弾が出来るかどうか、楽しみですねー」
「無茶は、しないでね」
爆弾系ギアは、もうない。これからは、持ち込んだ新型ギアによる、包囲殲滅の実験に取り掛かる。
Linkageは、未踏破の洞窟を通り、宿泊が出来る観測室を目指す。このルートは、比較的短く、障害となる大型
洞窟の出口付近は、草木が無く、岩肌が見えていた。
「洞窟自体は、短いし、楽だけど、船着場から、ちょうど反対なせいで、時間は、あんまり変わらないね」
「こっちには、船着場なかったしな」
「次への、橋、無かった」
雨島から双子島、双子島から水輪島へは、それぞれを繋ぐ橋が存在した。だが、水輪島から4の島へと続く橋は、存在しない。それどころか、双子島からの橋にある船着場と観測室以外、水輪島には、手を加えられた後が無かった。
五人は、台地部分の探索を始めようとした時、後ろから、声が聞こえる。
「夜星、お前達も、この辺りに出たのか」
Paladinのリーダーである誠だった。
誠達が入った洞窟の出口は、ほのか達が入った洞窟の出口と、近い位置にあった。
「封鎖領域で、他のチームと会うって珍しいね」
「実際、反対周りで回ってるんだ。最後の方になれば会う可能性はあると思っていたが、本当に会うとは……」
Paladinが、時計回りで回り、Linkageが、反時計回りで回った為、最後の方になれば、出会う確率は高くなるが、洞窟の出口にもよる為、実際に会うとは思っていなかった。
「最上君達は、どっちに行くの?」
ほのかは、PDAに集めた地図を表示させながら、確認をする。大まかな場所は決めてあったが、かぶると、効率が悪い為、確認しようとする。
三チームは、観測室で手に入れた地図データを共有している為、最後の観測室で手に入れた地図データを表示させながら、範囲の確認を行おうとし、ほのかは、誠に歩み寄る。誠もまた、地図を表示させながら歩いてくる。
その時、ほのかが、地面を踏み抜いた。
近くにいた誠を巻き込み、地面が崩れる。二人を呼ぶ声が聞こえるが、足元が抜けるという出来事に対し反応できず、ただ呆然と落ちるしかなかった。
そんな中、誠は、一つの行動に出た。
「夜星!」
そう叫びながら、自分より下にいるほのかの手を、辛うじて掴み、自身を下にするように、体勢を変える。そのまま二人は闇の中に落ち、意識を手放した。
残された司達は、穴を塞ぐように周囲も崩れた為、近づく事が出来ずにいる。
「円藤、地図データを合わせるぞ。詩歌、インカムで呼びかけろ。空、PDAで連絡を取れるか確認してくれ」
天野司は、お互いのリーダーがいなくなった為、サブリーダー同士で、この状況に対処しようとする。
皐月詩歌や四葉空が、ほのかとの連絡を試みるが、連絡が帰ってこない。PDAは、封鎖領域では、観測室にいる間や、短距離の通信しか出来ないようになっている。インカム自体も、PDAの機能を利用している為、通信の距離は変わらない。
返事がないという事は、通信距離の外にいるか、意識が無い事を意味する。
「この下を通るルートは……」
「天野、あったぞ。俺達が、前に通ったルートだ。誠も、地図は持ってるから、意識があれば、場所の確認はするはずだ」
「なら、俺達は、上から行こう。前衛を頼んでいいか?」
「任せろ」
司達は、Paladinのメンバーを前衛に、封鎖領域を駆ける。
どのくらい意識を失っていたのか、誠は、暗闇の中、目を覚ます。
「いっつー」
痛みにより、意識が呼び起こされた事に気付く。体が重く、右手は何かを握っている。だが、暗闇の中で、周りを見渡す事が出来ない。自身の異能で、明かりをともそうとするが、周囲の空気に異変を感じ、火を生み出す事をやめる。代わりに、PDAを取り出し、その明かりを頼りに、周囲を見渡す。
最初に目に入ったのは、少女の黒い髪だった。誠は、咄嗟に、ほのかと地面の間に自分の体を入れた為、ほのかの下敷きになっている。ほのかを抱きしめるように落下していった為、右手は、ほのかの腕を掴んでいた。
ほのかは、細かな傷が見られるが、意識を失っているだけのようだ。
「夜星、起きろ」
そういいながら、体をゆする。
「ん……んん……」
ほのかが、うっすらと意識を取り戻す。だが、呆然としているようで、状況を把握できていない。
「夜星、ちゃんと目を覚ませ」
ほのかは、周囲を見渡した後、至近距離で、誠の顔をじっと見つめる。
「最上君?」
「とりあえず、起きたな。状況わかるか?」
「なんとなくは、わかるよ。落ちたんだよね」
会話が出来る事を確認し、安堵する。周囲を岩に囲まれた状況では、一人よりも、二人の方が、打てる手が多い。
「夜星、まず確認したいんだが、岩を支えているのは、お前の力で間違えないか?」
誠は、火属性の
「そう……みたい。無意識下で制御してるみたいだね。超高気圧の壁を作ったって所かな?」
誠は、空気中の気体の濃度まではわからない。もし、酸素濃度が高ければ、火を付けた瞬間、一気に燃え広がる可能性があった。その為、火を付けなかった自分を褒めたくなる。
「後……ちょっと、離れてもらえるか?その……顔が、近い」
空間に余裕は無いが、誠には、ほのかの至近距離で見詰め合うのは、荷が重かった。
「その、ごめん。後、ありがと。血、出てるけど大丈夫?」
ほのかは、ハンカチを取り出し、頭から垂れている血を拭く。
誠は、自身の怪我には気付いていなかったようで、されるがままになる。
「頭の怪我なら、血が出ない方が怖いって言うくらいだから、大丈夫だろ。戻ったら、精密検査でもするさ」
「そんなこといってー。まったく、顔赤いよ」
「それよりだ。場所を確認するぞ」
そう言いながら、PDAを取り出す。データの共有をし、記憶を頼りに、最後にいた位置を確認する。
立ち上がるほどの空間は無い為、横に並んで座る事になる。
「最後の位置覚えてる?確か、この辺りのはずだけど」
「ああ、そうだな、そこでいいはずだ。その辺りを通る洞窟を探そう」
誠は、ほのかを意識しないように、PDAを見つめる。手に入れた地図データを、平面画像で、立体的に表示させ、位置を確認する。
大まかではあるが、位置の予想がついた。
「ここって、最上君から貰ったデータの方だよね」
「ああ、前に俺達が通った洞窟だ」
「場所は、わかったね。後は、この瓦礫をどうするかだね」
ほのかの力で、少しの空間は、確保できている。だが、どれだけの量が積もっているのかがわからず、さらに、場所がわかっても、方向までは、わからなかった。
「夜星、瓦礫が積みあがってるといっても、隙間がないわけじゃないはずだ。広域検索の要領で、向こうを調べられないか?」
「出来ると思うけど、意識が戻ったことで、ここの空間維持に結構力使ってるから、ちょっと時間かかるよ」
「とりあえず、頼む」
空間維持の為に力を使いつつ、瓦礫の向こう側を調べる。
誠は、その間、ただ待つしか出来ない事が、歯がゆかった。
ほのかは、そっと目を開いた。
「道の途中みたいだね。方向としては、この二つ。後、近くに
道が続いている方向を示し、周囲の状況を説明する。近くに
「瓦礫の厚みは、わかるか?」
「1mは、なかったけど、天井まで積みあがってる。通路を、完全に遮断してるから、壊すにしても、向かう方向を確定した方がいいね」
「あいつらの事だから、場所に目星をつけて、上から来るはずだ。俺達も、出口を目指すべきだな」
向かうべき場所を決めるが、方向を決める手がかりが無く、手を拱いている。
「ここからだと、入り口よりも、観測室の方が近いよね」
「ちょっと待て、夜星――」
観測室の方が近い。だが、相当な距離がある。この洞窟を通った事のある誠だから、わかる事だった。けれど、ほのかは、その距離を、風を使い、把握し始めた。
制止しようとした誠の言葉に耳を貸さず、目を閉じ、風に意識を載せる。周りに対して無防備になるが、狭い空間であり、誠を信頼しているからこその、行動だった。
周囲が瓦礫に埋もれているので、警戒のしようがなく、ただ待つしかなかった。
しばらくすると、ほのかが目を開き、結果を伝える。
「あっちだよ。観測室があった。でも、大型が3体入ってきてる」
誠は、その事実に絶句する。大型
「それって、恐竜型か?」
「草食が2体と、肉食が1体だと思う。気付かれた様子はなかったよ。幻獣型なんて、バーストの最後の方しか、確認されてないんだから、安心していいと思うよ」
水輪島に残されていた雨島レポートによると、肉食恐竜型の中でも、特に強いタイプが、三本の角を持っていると記載されていた。さらに、その上位の幻獣型という項目名だけが、記されていた。
「そうだが……わかった。とにかく、この狭さを有効に使って行くしかないな」
「それじゃあ、瓦礫を吹き飛ばしますか」
「ああ、だが、どうやる?」
瓦礫の壁は、1m前後の厚みだが、吹き飛ばしたとしても、また、上から降ってくる可能性がある以上、何らかの準備をしなくてはいけない。だが、ほのかの支配下にある空気が、瓦礫を支えている以上、誠の火を使う事は、避けたかった。
「私が、ギアを使って吹き飛ばして、その後に、上から降ってくる瓦礫を支えるしかないかな?」
「確かに、この状態で火を使うのは、まずいと思うが、全て任せるのは……」
「気にしないの。大型との戦闘で、役にたってもらうから」
ほのかは、片膝立ちになり、ネクストを発動し、ギアを変化させる
「Limit Break-Mode”THE NEXT” Realization」
立つ事の出来ないほどの狭い空間で、風が吹き荒れる。力が舞い、翼を形成する。
同時に、ギアに力を注ぎ込み、循環させる。
ほのかの持つ可変型ギアの武器形態は、通常のレンタル用ギアと同じ形だ。それは、使い慣れた形を求めたに過ぎない。だが、余計な飾りを持たないお陰で、この狭い空間で使うには、適していた。
「その状態でも、この空間を支えている空気を維持できるのか……」
誠は、ほのかの卓越した制御能力に脱帽した。それと同時に、自身の未熟さを見せ付けられた。
ギアが風を纏い、力を蓄える。
「行くよ。吹き飛ばしたら、一気に走るからね」
「ああ、お前のタイミングでいけ」
「いくよ」
誠の返事を聞き、ほのかは、片膝立ちの姿勢からギアを振り上げる。
ほのかは、誠が脱出する為の通路を確保する為に、天井を高密度の空気で支える事に、意識を割いていた。
そのため、動き出しが遅れる。
「世話が焼けるな」
ほのかが異能の制御に意識を割いた事を確認した瞬間、誠は無意識に動いた。
ほのかの肩と膝の裏に手を回し、抱きかかえ、一気に走りだす。
「え、ちょっと」
突然の事に、異能の制御を手放しそうになるが、ギリギリのところで踏みとどまる。
誠は、無我夢中で走り続ける。今の一撃で、洞窟の他の場所が脆くなった可能性が、頭の中をよぎる。ほのかが異能の制御を手放したのか、背後で岩の崩れる音がした。
「最上君、もう大丈夫だから」
ほのかの声に、我に返ると、ゆっくりと立ち止まる。
ほのかは、少し顔を赤くしながら、誠に声をかける。
「とりあえず、おろしてくれるかな?」
「ああ、すまない」
いつのまにか、ギアを待機状態にし、ネクストの発動もやめていた。
「えっと、運んでくれて、ありがと」
「別に……あのまま埋もれられても、面倒だと思っただけだ。それで、大型は、どの辺りだ?」
誠は、照れを隠しながら、話を切り替えた。
「まったく、女の子に対して面倒だなんて、ひどいなー。でも、助けてくれたみたいだから、許してあげる。もうちょっと先だよ。曲がり始めるあたりかな」
誠は、頭の中で、洞窟を通った時の事を思い起こす。ほのかが示した地点を思い出し、大まかな道のりを思い出す。
「結構近いな。草食恐竜型の方が弱いとはいえ、大型だ。油断するなよ」
そういうと、誠は歩き出す。その後を、ほのかは、着いてく形になった。
「最上君、図々しいお願いだけど、灯り点けられる?」
「ああ、そうだな」
ほのかは、目が慣れていたとはいえ、PDAの画面の明かりだけでは、暗い洞窟を歩くのは危険と判断し、誠を頼る。
誠は、制御した火を点ける事で、揺らぎを減らし、満遍なく辺りを照らす。
「もう少しで、大型の予測地点だ」
「それじゃあ、私が先陣を切りますかね」
ほのかは、明かりの制御に専念させ、自身が
「夜星、さっきからお前にばっかりやらせてるんだ、そのくらい俺がやる。草食恐竜型くらい、なんとかなる」
そういうと、ギアを取り出し、大型
しばらく進むと、通路を塞ぐほどの大きさの、大型
「なんか、大人しいね」
「ああ、だが、ちょうどいい」
そういうと、誠は、ネクストを発動させ、ギアを展開する。
それは、暗い洞窟を、煌々と照らす。闇に包まれていた大型
ギアが炎を纏い、燃え上がる。赤い炎が、ギアを包み込み、より大きな剣となる。
「燃えろ」
その一言と共に、ギアを振り下ろす。
大型
後には、核である、ロスタイトだけが残った。
「一撃とはねー」
「身動きの取れない相手なら、このくらいは出来る。とはいえ、最大火力を出す必要があるから、実戦じゃ、無理だ」
「それでも、十分だよ。PaladinとLaboは、聞いてるか知らないけど、黒月生徒会長から聞いたんだ。バースト対応を、一般生徒に任せる予定があるって」
それは、初耳だった。だが、他のチームに、ネクストを発現させる為の課題について考えれば、ありえる事だった。
「だから、MTGの指導があったのか」
「多分ね。場合によっては、幻獣型の相手もすることになるから、力をつけなきゃね」
「ああ。ところで、次は、どの辺りだ?」
「次は、肉食恐竜型なんだけど、坂みたいなところだったよ」
ほのかは、二体目の位置を教える。この位置からは、そう遠くは無かった。
その先に待ち受けるのは、先ほど戦った相手よりも強いと言われている肉食恐竜型だった。
先に向けて進みながら、二人は相談を始める。
「最上君、肉食型は、どうやって相手をしようか」
「お前から貰ったデータにあっただろ。四葉が、口の中に一撃入れて倒したって。あの方法が、ベストだろ」
かつて、空は、自身の最大火力を、肉食恐竜型の口に入れることで、体内から攻撃した。それにより、体内は、外と比べ、オリジンの膜が薄いということが、実証されている。
「じゃあ、最上君には、トドメをお願いしようかな。私が、時間を稼ぐから」
誠は、迷った。確かに、自分なら、トドメを刺せるかもしれない。だが、ほのかが時間を稼ぐと言う事は、それだけ、ほのかを危険にさらすと言う事だった。
「お前は、広い空間なら、問題無いと思うが、ここは洞窟の中だ。それに、広域検索した時の位置だって、そんなに広いわけじゃない。逃げ回れるのか?」
「さっきの一撃を準備した段階で、私がおびき寄せれば、何とかなると思うよ」
誠の準備が出来た段階で、ほのかが、囮として
「だが、移動速度の――」
「最上君、私が信じられないの?確かに、この状況の原因を作ったのは、私だよ。でも、私は、Linkageのリーダーなの。Paladinに負けないくらい、この水輪島に入り浸ってる。私達が倒した
誠の思いは通じない。だが、ほのかにも、譲れない事がある。
「……」
お互い、しばらく無言が続く。しかし、一歩も譲らないように、見詰め合う。
先に動いたのは、誠だった。
「わかった。信じるよ。でも、約束しろ。絶対に失敗するなよ」
「うん、約束するよ。私は、絶対に失敗しない」
ほのかは、そう言いながら、小指を出すが、誠は、目を逸らし、先へ行く。
「最上君、指きりしないの?」
「必要ない。お前の事を信じるからな」
二人は、先へ進むと、予想地点までまだ距離があるが、突如、威圧的な感覚を覚えた。
「Gyaaaa」
それは、肉食恐竜型の存在が原因だった。
準備をする間もなく、戦闘を開始する事となる。だが、お互いを信じる以上、作戦に変更はない。
「最上君、引き付けるから、準備して!」
「ああ」
短く返事をすると、誠は距離を取り、敵を殺す為の準備をする。
ほのかも、ネクストを発動し、ギアを変化させ、肉食恐竜型の攻撃を捌く。せめてもの救いは、二足歩行でありながらも、手が進化しておらず、その牙と尻尾が最大の武器だという事だった。また、狭い洞窟の中という事もあり、その巨体故、尻尾を振り回す事も出来ず、周囲の壁や天井を破壊しながらも、素早い攻撃を繰り出す事が出来なかった。
ほのかは、風を纏い、肉食恐竜型が暴れる事による副産物である、壁の飛散物から身を守る。
「ほーらほーら」
言葉が通じない事を理解しながらも、挑発し、意識を向けさせる。
全方位からの攻撃を繰り出すと、その方向へ、意識を向けてしまう可能性がある為、自身がいる方向からの攻撃にかぎる。時折、大きな一撃を繰り出すが、肉食恐竜型の纏うオリジンを、少し削るに留まる。
「夜星、いいぞ」
誠は、ほのかに合図を送りながら、肉食恐竜型へ突進する。
誠の合図を受たほのかは、予定通り、口を誠へ向けるように、間に入る。自身が離脱する時間を作る為に、一瞬の隙を突き、速度重視の一撃ではなく、重い、傷つける為の一撃を放つ。
「はあーーーーーー!」
怯んだ隙を突き、纏った風を使い、宙返りの要領で誠の上を越える。
ほのかと入れ替わるように、肉食恐竜型の前に突き進んだ誠は、その閉じられた口に向け、ギアを突き出す。一瞬、歯に当たるような感触を得るが、さらに踏み込み、口の中へ、刺し込む。
肉食恐竜型の体内で、力が解放される。誠が司る炎が、敵の内側を焼き尽くす。
その瞬間、肉食恐竜型は、核を残し消え去った。
誠は、息を荒くしながらも、ネクストの発動をやめ、ギアを待機状態にする。
「やったねー」
ほのかが後ろから飛びついてきた。突然の衝撃に驚きながらも、ほのかを振りほどこうとする。
だが、思いのほか、力が強く、そう簡単には、振りほどけなかった。
「離れろ。重い」
背中に当たる微かな感触を意識しながらも、気を紛らわせるように言い放つ。だが、その瞬間、空気が凍る。
「へー。重いんだー。重いのかー」
一瞬にして、ほのかの雰囲気が変わり、声が低くなる。誠は、後ろにいるほのかの表情が見えないが、自身が、間違った選択をした事に気づいた。
「えっと、その、夜星……いや、夜星さん、あの、離れていただけますか?」
「重いからね、そうだよね、どくべきだよね。ごめんね、気がつかなくて」
ほのかは、そのまま歩き始める。
誠は、しばらく呆然としていたが、ふと我に返りほのかを追う。
何度も声をかけるが、ほのかは、一切返事をせず、ただただ前へと進むだけだった。
しかし、この先には、まだ大型
誠は、ほのかの腕を掴み、強引に歩みを止めさせる。
「夜星――」
名前を呼びながら振り向かせるが、ほのかの感情を殺したような目つきに萎縮してしまい、何も言えなくなってしまう。
その様子に痺れを切らし、ほのかは、口を開く。
「何」
ただその一言に、言いようの無い威圧感があった。
「えっと、その、あの……この先に、草食動物型の……大型
「わかってる。別に私でも倒せるから、問題ない」
取り付く島も無く、先へ進もうとするが、この機会を逃すと、誠は、何も言えなくなる気がし、勇気を振り絞る。
「夜星、あの、すまん。重いって、その、言葉のあやというか……決して、本心じゃないんだ」
「で?」
「だから、その、抱きつかれて、照れくさくて……」
「で?」
「えっと……」
ほのかの視線に耐え切れず、逃げ出したくなるが、じっとこらえ、言葉を搾り出す。
だが、ほのかが、言い訳の続きを遮る。
「はぁ、女の子に抱きつかれて、照れくさいって……まったく。その割には、手はずっと握ってられるんだね」
そう言われ、誠は、すぐに手を離す。
「いや、その……」
「とりあえず、重いって言った分、一発殴らせてくれれば、チャラにしてあげるよ」
その瞬間、大きな音が響き渡る。
返事を聞く前に、ほのかが裏拳を叩き込んだ。
突然の衝撃に、よろめき、頭の理解が追いつかない。やっとの思いで、頭を整理し、状況を理解する。誠は、口の中を切ったようで、血を拭いながら、立ち上がる。
「夜星、ビンタとかじゃなくて、裏拳って、何考えてんだよ」
「重いっていわれたことに対する精神的苦痛からすれば、軽いもんだよ。さ、行くよ」
しばらく歩くと、最後の
その瞬間、奥の方で、炎が燃え上がった。指向性を持った
耳を澄ますと、微かに話し声が聞こえる。その声に、聞き覚えがある。
「司!」
ほのかは、大きな声で自らのチームメンバーの名前を呼んだ。その声に反応し、奥から人影絵が見える。そこには、LinkageとPaladinの残りのメンバー、そして、Laboの全員がいた。
「ほのか、無事だったか」
「誠、元気そうだな」
「落っこちた時の怪我は、最上君が、助けてくれたから、かすり傷ばっかりだよ」
「俺は、少し血が出ただけだから、問題ない」
「最上、ほのかの事、助けてくれたんだな」
「一人だと、大変だと思っただけだ」
各々が、それぞれの無事を祝う。だが、ほのかは、Laboが居る事に、疑問を感じている。
「それで、何で智花達がいるの?」
「夜星ほのか、簡単な疑問だな。洞窟の入り口付近で、たまたまあっただけだ」
「私達が、新型ギアのテストをしていたら、天野君達が、血相を変えて走ってくるものですから、智花が、心配になったんですよ」
舞が、説明すると、余計な事を言うなと言わんばかりに、智花が、舞の口を塞ぐ。
「とにかく、お前達が、無事なら、それでいいんだ。戻るにしても時間がかかるんだ。急ぐぞ」
智花が、指揮を執る。だが、誰も逆らえなかった。
洞窟内の
「そうか、バースト対応に一般生徒を使うのか。新聞部達が、ネクストになれば、すぐだろうな」
ほのかが、黒月紫苑生徒会長から聞かされた事を話すと、智花自身、急な連合課題に、合点がいくようだった。
Laboと別れ、LinkageとPaladinは、宿泊する予定の観測室へ向かう。ほのか達が落ちた場所に着くと、落ちた直後と比べ、下側を吹き飛ばした分、下がっているが、崩れた事は、容易に想像できるようになっていた。
「最上君、あらためて、助けてくれてありがとね」
「気にするな。だが、無事で何よりだ」
その会話を最後に、二つのチームは、別の道を行く。
日が暮れ始めており、各チームは、それぞれ観測室で、一夜を明かした。
数日後、生徒会長である黒月紫苑は、ALUの室長補佐である峰地総一と、ネット回線による打ち合わせをしていた。
「こちらは、シルバーエンブレムのチームが、6チームになりました。実力差は、まだありますが、バースト対応には、問題ないと考えます」
新聞部・Gears・Trustの三チームも、全員がネクストを発現させ、シルバーエンブレムへの昇格を果たしていた。代表して、Linkageから水輪島の情報を渡され、立ち入りの準備に追われている。
「では、シルバーエンブレム6チームと、ブロンズエンブレム9チームによる、バースト対応実験ですか」
「ええ、その予定ですよ。勿論、そちらの部隊を投入しても、かまいません」
「それは、ありがたい。次のバーストは、9月に入ってすぐでしたね」
「ええ、そうです。ところで、失獣教団は、何か動いていますか?」
「いや、普段どおりですよ」
「そうですか。では、お互い、良い成果を残しましょう」
「そうですね。それでは、また」
その言葉を最後に、通話が終わる。架空の生物の形状を取る
紫苑は、生徒の無事を祈ることしか出来なかった。
こんばんは
なんとか目標の一つである周一投稿に、間に合いました。
少し詰め込んだり、前に出てきた設定?を最後に引っ張ってきたりしました。
こんかいも、お付き合いいただきありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。