Linkage   作:enz

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整えるセカイ

「皆さん、修学旅行お疲れ様でした。それでは、レポートも集めたので、今日の授業は、終了です。よかったですねー。ホームルームだけですよ」

 担任である秋萌夕は、それだけ言うと、すぐに教室から出て行った。

 修学旅行の後、レポート作成の為、封鎖領域への立ち入りを禁止されていたが、レポートの提出が終わり、立ち入り禁止が解除される。

 夜星ほのかは、仲間と共に、今日の予定を確認する。

「それじゃあ、修学旅行前の特訓の成果を試しに行きますか」

「Laboに、頼んだ、物、試せる」

「じゃあ、空が、メインでやるしかないな」

「任せて」

「ほのかも司君も、何か特訓してたわよね」

「ふっふー、秘密だよ」

「ま、行こうぜ」

 双子島から関門島への移動は、手馴れたものになり、苦労しなくなっていた。

 

 

 

 

 何時も通りに、関門島の港へたどり着く。

「さて、皆、注意してね」

 ほのかの言葉を合図に、思い思いの返事をしながら、探索を開始する。

 他のチームは、まだ来ていないようで、三チームでの取り決め通り、進んだ方向を示す。

「地形的に高低差が少ない島だよな」

「でも、ちゃんと川の水は流れてるから、不思議だよね」

「この水、海水だから、しょっぱいのよね」

「電気分解、しやすい、から、楽」

「空、その腰のが、新型なのか?」

「そう、だけど、違う」

 曖昧な答えをし、それ以上は、口を噤む。だが、自信があるようで、意気揚々と歩いている。

 しばらく進むと、四葉空が、何かに気付いた。

「皆、近くに、幻獣型、多分、電気属性」

 同じ属性の空だからこそ、最初に気付く事が出来た。

 ほのかは、幻獣型に気付かれる可能性を考慮し、能動的な探知を行っていない。その為風属性特有の、広範囲の感知能力を使えずにいる。

「方向、わかる?」

「あっち」

 空は、幻獣型がいる方向を指差す。周囲を警戒しながら、先へ進む。そうして、森を抜け、支流の一つへと出る。

 幻獣型を発見する事が出来たが、一つの問題があった。

「川の向こうで、水が海水……」

「さらに、電気属性。最悪だな」

「あれって、何だ?」

「虎かしら?」

「頭は、猿だよ」

「尻尾が蛇だぞ」

 幻獣型は、存在しない生物の形を模している。だからこそ、呼称する事が出来た。だが、複数の生物が混じった個体を見た事が無い為、混乱している。

 そんな中、細川匠が呟いた。

「確か、鵺とかいうんじゃなかったか?」

「鵺?」

「日本の妖怪だ。複数の動物が組み合わさったやつだよ。想像上の生き物だから、幻獣型のパターンからも、外れていない」

 鵺型に気付かれないように森の中へ退避し、作戦会議をする。

「鵺型か、私が注意を引き付けるから、皆は、迂回して、近づける?」

「出来なくはないが、他にもいたら、危険だぞ」

「今までは、近くにいることはなかったわね」

「LaboとPaladinからも、複数体と同時に遭遇したとは、聞いてないから、大丈夫だと思いたいよね」

「だが、あくまでも、希望的観測にすぎないだろ」

「皆の方は、四人で対処できるでしょ。だから、私が襲われたら、思いっきり叫ぶから、すぐに助けに来てね」

 ほのかは、司の方を見ながら言い、意見を押し通した。司は、反論出来ず、この方法を承認する事になる。

 

 

 

 

 それぞれが配置に着き、行動を開始する時を待つ。

「いいね?」

「ああ」

「いくよ!」

 そういい、ほのかは、森から飛び出す。川幅はおよそ10m、越えられない距離ではないが、下手に水につかれば、思わぬ痛手を受けかねない。川岸まで行くと、ほのかは、可変型ギアを変化させ、サブマシンガン形態へと変形させる。

「牽制を始めるよ」

 インカムを通し、状況を伝える。

 引き金を引き、風の弾丸を打ち出す。それは、傷を負わせる事が出来ない。だが、注意を引き付けるには、十分だ。

 鵺型が、無意識に垂れ流すオリジンに防がた。その余波を受け、猿の頭と、尻尾の蛇が、ほのかを睨みつける。

「Nyaーーー」

 凄みの効いた雄叫びと共に、川を挟み、ほのかと対峙する。電気を纏い、威嚇を始めた。

 鵺型の余波を受け、川に電気が流れる。しかし、水を分解しきる程の威力は無く、触れた者を麻痺させる程度の電気だった。

「あぶな!」

 ほのかは、川岸から更に下がり、電気の余波を回避する。ほのかにとって、鵺型との距離は、攻撃をする事が出来る距離だ。だが、必殺の一撃を加える事の出来る距離では無かった。

 しかし、ほのかは、サブマシンガン形態の引き金を引き続け、風の弾丸をばら撒く。ほのかの目的は、注意を引き付ける事であり、倒す事ではない。

 鵺型は、近づいてこないほのかに対し、苛立ちを募らせる。尻尾にいる蛇の口が大きく開き、電気がチャージされる。そして、雷撃が飛び出す。

 鵺型にとって、何気ない一撃だが、直撃すれば、死にかねない程の一撃だった。

 ほのかは、致命的な一撃を見て、反射的に飛び退く。直前までほのかがいた場所を雷撃が通り抜ける。間一髪回避した事で胸を撫で下ろす。

「予備動作を見極めないと」

 偶然の回避が、そう何度も出来るはずが無く、距離を取り、回避までの時間を確保する。

 だが、距離を取るという事は、ほのかの攻撃の威力も弱くする。それは、ちょっとしたきっかけで、移動中の天野司達に気付く可能性が高くなる事を意味する。

 またもや、蛇の口が大きく開く。

 ほのかは、その動きを見て、賭けに出た。

 周囲の気圧を調整し、高気圧の膜を作り出す。オリジンを介し、風を生み出すのでは無く、元々ある空気の密度を調節する。

 その結果、高気圧と低気圧の層が出来上がる。さらに、いくつものラインを作るように、低気圧の道を発生させる。

 大きく開かれた、鵺型の尻尾にいる蛇の口に、電気がチャージされ、雷撃へが飛び出す。それは、ほのかへと一直線に向かうが、ほのかへ命中する事無く、低気圧のラインを通り、あらぬ方向へと飛び去った。

「成功かな」

 ほのか自身、雷撃が迫る恐怖に震えていた。

 鵺型が、雷撃を逸らされた事により、別の攻撃方法を考える。だが、横から、炎の塊が飛来する。

「お待たせ」

「遅いよ、もう」

 ほのかが、呟きながら安堵する。後は、司達に任せるだけだ。

 司達は、鵺型を囲むように移動する。鵺型の頭と尻尾が、周囲を見渡し、雷撃を放つ。だが、予備動作を見切ったほのかにより、低気圧のラインが形勢され、雷撃が上空へと逸れる。

「手際がよくなってるわね」

 皐月詩歌は、ほのかの特訓に付き合っていた為、ほのかがやっている事の詳細を知っていた。

 空が、可変型ギアの見慣れぬ形態を変形させ、腰につけていたマガジンを刺し込む。

 それは、大型の拳銃サイズのギアだった。

「相手も電気属性だけど、本当に大丈夫か?」

「問題、無い」

 ギアに電気を注ぎ込み、砲身に磁力を纏わせ、電磁レールに変える。さらに、可能な限り、間接制御を使い、砲身の延長線上にも、電磁レールを作り出す。必要な事は、ただ、それだけだった。

 マガジンの中には、Laboに特注した、専用のロスタイト弾が入っている。

 弾丸に、オリジンを込め、威力の底上げをする。そして、一言囁いた。

「行くよ、『電磁加速砲(レールガン)』」

 引き金を引くと同時に、電磁レールの中を、弾丸が突き進む。それは、加速し続け、音速を越える。気付いた時には、鵺型の体に、風穴が開いていた。

 たった一撃で、鵺型は、風化し塵と化した。

 

 

 

 

 ほのかは、風を纏い、川を越える。五人が合流し、小休憩をする。

「Laboに渡された可変型ギアに、それを追加したのね」

「すげーな、それ」

 口々に、空の新しいギアを褒め称える。

 間接制御は、異能やオリジンの制御の特訓の為に、習得するが、発動に時間がかかる為、実戦での使用は、避けていた。

 だが、電気から磁力を生み出す程度であれば、そこまでの時間は必要としない。その点を利用した。

「ところで、ほのか、電撃の軌道を変えたのってなんだったんだ?」

「えーと、簡単にいえば、電気を通りやすい方向へ、誘導したんだよ」

「私が、練習に付き合った時は、弾丸の軌道を、高気圧の壁みたいなので、逸らしてたわね」

「基本は、同じだから、簡単だよ」

「それ、簡単で済む話なのか?」

 司の疑問に、詩歌達も頷く。

「え?だって、相手を中心にしての全包囲攻撃とかと、基本は同じだよ」

 広範囲内の多重制御において、一般生徒の中では、ほのかに右に出るものはいない。だからこそ、簡単と言えるのだった。

「防御技で、あってる?」

「一応はね。でも、名前は、まだ決めてないんだよね」

 ほのかは、自身の居場所を守る為に、敵を倒す為の方法では無く、味方を守る為の方法を作り上げた。

「なぁ、ほのか、それって、逸らすだけじゃなくて、ぐるっと回して、跳ね返せないか?」

 ほのかは、ただキョトンとし、司を見詰めた。その様子を見て、司は、まずい事を言ったと思い、慌てて訂正する。

「あ、えっとすまん。なんとな――」

「そっかー!その手があったね。威力は落ちると思うけど、もうちょっと丁寧に制御すれば、いけるよ。ありがと!」

 司の謝罪を遮り、抱きつきながら、礼を言う。風花凛の様な、圧倒的な力を持たない以上、風で押しつぶす事が出来ない。それは、決定打不足を意味していた。だが、相手の力を、減少するとはいえ、跳ね返す事が出来れば、十分な火力になる事は、想像に難くない。

「さて、二人がいい雰囲気になったところで、そろそろ次行くか?」

「次、行こう」

 匠達が、促し、さらに探索を続ける。

 支流の一つを越えただけで、島を分断する川にたどり着いてはいなかった。その為、川へ向かい、さらに先へ進む。

 

 

 

 

 途中、何度か休憩を挟み、探索を続けると、水の流れる音と、波の音が聞こえてくる。そこは、川が枝分かれする場所の一つだ。

 川へ近づくと、向こう岸が見えるが、かなり遠い。移れない事は無いが、水棲生物型がいないとも限らない為、安易に行動する訳にはいかない。

「ねえ、司、何か熱くない?」

「念のためだ、少し我慢してくれ」

 ほのか達は、意味がわからなかった。だが、司が何かしている事だけは、理解出来た。

「何もないか、どうやって移動する?」

「同じ、方法、危険」

「範囲内の運動エネルギーを吸収すれば、行けるわよ。でも、結構疲れるのよね」

 そんな会話をしていると、川の表面が盛り上がり始めた。だが、何かの生物の様には見えない。

「見て、何かいる」

「でも、向こう側が透けてるぞ」

「何か、浮いてる」

 空の発言を聞き、よく目を凝らす。そうすると、ロスタイトが浮いていた。

「まさか、あの水が、体?距離があって、よく見えないけど……」

 ほのかは、ここにある水の全てが喪失獣(ロストビースト)の体だと想像し、青ざめる。だが、現実は、そこまで非情ではなかった。

 余計な水が流れ落ち、体を構成する水だけが残る。それは、女性のようなシルエットだった。

「ウンディーネっていうのかな?」

「長い。水精でいいだろ」

「ああいうのも、いたのね」

 想像上の生物には、精霊と言われる存在も含まれている様で、まさしく水精だった。けれど、その力は、想像を超えていた。

 川から、巨大な水柱が登る。その全てが、水精型の制御を受けている。水柱から、水の散弾が射出される。その一つ一つが、ほのか達の急所を狙っている。

 水精は、その全てがほのか達を貫く様子が見えた。

「熱いのを我慢してて良かったろ」

 水弾が貫いた後、ほのか達の姿が消えた。そして、着弾地点よりも、水精型に近い位置に、ほのか達は立っていた。

「どうやったの?」

「原理は、蜃気楼だ。但し、複数発生させて、俺達を隠したけどな。それに、間接制御をメインにしてるから、本来なら、風属性(ほのか)の領域だぞ」

「くるぞ!」

「問題、無い」

 水精型は、更なる攻撃を加えようとするが、既に遅かった。

 空の電磁加速砲(レールガン)が発射され、水精型の体に穴が開く。

 水精型の体が崩れ、核であるロスタイトと、周りの一部の水だけが残り、川の中へ落下した。

「結構な距離があったのに、すごいね」

「距離が、あれば、その分、電磁、レールが、延びる。威力、増す。それに、電気、纏わせた」

「空、『共鳴』で回収した方が、いいと思うわよ」

 空は、ロスタイトを回収しようとするが、手応えが無い。それは、一つの事を意味する。

「まだ、生きてる」

 空の言葉を聞き、ほのか達は、警戒を強める。生物としての体を持たず、水を体にしていた。それは、体である水に穴を開けたところで、意味が無い事を意味する。

「つまり、核を壊すつもりで、やるしかないか……」

「俺は、役に立ちそうに無いな。砂や土で水分の吸収くらいなら出来るが、それで倒せるとは、思えん」

 水精型が、出現した位置よりも、さらに近い場所で、再び水が盛り上がる。そこには、最初と変わらず、女性型の水の塊が存在した。水精型が、周囲の水を操ろうとするが、空がそれを許さなかった。

「海水なら、全部、吹き飛ば、せる」

 空は、電撃を水精型に浴びせる。だが、周囲の水が分解されるだけで、本体にダメージは無かった。

 水は電気に弱い。それは、誰もが知る常識だ。だが、水精型は、びくともしなかった。それどころか、水弾を飛ばしてくる。

「水に、電気が、通ら、ない」

 ほのかは、水精型の攻撃を撃ち落とす。

「空、水の弾丸は、撃ち落せるはずだから、お願い」

 ほのかは、攻撃への対処を空に任せ、遠距離での攻撃を加える。だが、実体が水である為、体を斬っても、すぐに再生してしまう。だが、ほのかの支配下にある風が、水精型の支配下にある水に触れた事で、一つの結論に至る。

「そっか、純水か」

 水精型は、限りなく純度を高めた水で体を構成している。その為、電気を纏った弾丸を受けても、体に穴が開くだけで済んでいた。

「だから電気を通さないのか」

「俺も司も、使い物にならないが、どうする」

「私も、迎撃くらいしか、出来ないわね」

 空と詩歌が、攻撃を防ぐ。だが、水精型が、弾幕を維持しながら、巨大な水柱を建てる。それを何に使うのか判断する為の材料がないが、放置する訳には、行かなかった。

「私が、抑える」

 ほのかは、大気を集め、水柱を上から押さえつける。だが、力が拮抗する事は無く、徐々に成長する。

「水が、電気に弱いのは、わかるが、相性をひっくり返すなんてな……」

 司とが、そう言いながら、逆転の手を考える。

「空、俺が、土属性の異能で、不純物混ぜ込めば、吹き飛ばせるか?」

「相手の、体に、干渉、出来る、なら、出来る」

 それは、難しい事だ。一般的な喪失者(ロスト)は、自身から離れた場所での異能の行使は、精度や力が落ちる。一部の例外は、いるが、土属性(たくみ)は、苦手な方だ。

「なぁ、匠、普通に考えれば、俺の火属性は、水に弱いよな」

「ああ、だって、火に水をかけると、消えるしな」

「でもさ、あいつは、相性を克服したよな。だったら!」

 司は、異能を使い空を飛ぶ。その手には、待機形態のギアを握り締めている。武器ではなく、ブースターとして使う。ただひたすらに炎の力を高め、両手に炎を纏う。

 水精型が、司の方を向き、水弾を飛ばす。だが、匠が、それを迎撃した。

「サブマシンガン形態なら、こんくらい出来るんだよ」

 司は、水精型の攻撃を防ぐ仲間に感謝しながら、水面に立つ水精型に突っ込む。

「調べてて良かったぜ。蒸発しろ。『火侮水(かぶすい)』」

 司は、水精型の胴体へ向けて赤い炎を纏った拳を打ち出す。その直後、高温の炎により、水精型を形成する水を蒸発させる。だが、その勢いは、余りにも凄く、水蒸気爆発を引き起こす。

 司を巻き込み、高熱が吹き荒れる。

 水精型の顔が、核ごと上空へ吹き飛ばされる。だが、まだ生きていた。

 司は、全身をボロボロにしながらも、意識を繋ぎ、残ったもう一方の手を、白い炎ごと、水精型へ突き出す。

「距離はあるが、これだけ力を込めれば、問題ねえ。逃がさねえぞ」

 白い炎を撃ち出す。すると、水精型の前で、大きく広がり、包み込む。

 それは、水精型を捕まえる為の、一分の隙もない、赤い牢獄だ。司は、炎を内側へと圧縮し、中にいる水精型を押しつぶす。その結果、核であるロスタイトから、全ての水を奪い取った。

 司は、攻撃に意識を向けていた為、爆発の衝撃で吹き飛ばされた姿勢のまま、川へ突っ込み、水柱を上げながら、沈んでいく。

「ちょ!司」

 ほのかは、風を纏い司が沈んだ位置まで飛び、川の水を巻き上げながら、司を探す。

「流石に、私達が行っても、邪魔よね」

「ああ」

 詩歌達は、ただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

「はっくしょん」

 司は、ずぶ濡れになりながらも、焚き火を熾し、暖を取っている。隣には、司を引き上げる際に濡れた為、ほのかも、いた。

「まったく、無茶しすぎだよ」

「ずまん」

「まぁ、無事だったからいいけど。それに、PDAも、異常なしって、どうなってるの?」

 ほのかは、司の水没したPDAを弄りながら、驚いていた。

「俺の火傷は心配してくれないのか?」

「そのくらいなら、すぐに治るでしょ」

「はいはい、二人とも、夫婦喧嘩は、そのくらいで、今日これからを考えましょ」

 詩歌が、話が終わりそうに無い二人の間に口を挟む。

 匠と空が、水精型のロスタイトを確認しながらも、会話に参加する。

「これ、一応報告した方がいいよな」

「角も、無い。ただの、大きな、塊」

「これで、小型だったら、踏んだり蹴ったりだよ」

「でも、今まで見たことないよな」

「とりあえず、司がずぶ濡れだから、今日は戻ろ。そんで、黒月生徒会長に報告しとこ」

 話が纏まる寸前に、上流の方で、光が走り、川の水面が切断された。その直後に、爆発が起こり、水飛沫が舞う。先ほどの司の攻撃と、同じか、それ以上の熱量だった。

「あれ、何?」

「上流だから、多分Laboだよな」

「Laboに何かあったのか?」

 ほのか達は、あまりの出来事に、慌てる事が出来なかった。

「でも、水面、焼き、払ってる」

「ってことは、Laboが、やったのかしら?」

「とりあえず、もう、戻ろ」

「ああ」

 司達に異論は無く、双子島へ戻る事が確定した。だが、あまりの衝撃に、理解が追いついていなかった。

 

 

 

 

 双子島へ戻り、生徒会室へ水精型の報告をした後、いつものように、食堂で反省会を開いている。

「まず、Laboのことは、忘れよ。考えても、仕方ない。それと、司、PDAで何やってんの?」

「ああ、大丈夫。もう終わったから」

 ほのかの提案に、全員が頷いき、司がPDAをしまう。そして、詩歌が、手を上げる。だが、ほのかは、嫌な予感を感じていた。

「ほのか、私からいいかしら?」

「えっと、どうぞ」

 ほのかは、手を上げている以上、指名しないわけには行かず、しぶしぶ指名した。

「まずは、ほのかの防御技の名前を決めましょ」

「うぐ……」

 詩歌は、明らかに楽しんでいる。その様子を見て、ほのかは、かつて詩歌の技をからかった事を後悔した。

 そこで、司は、話を進め、この時間を終わらせる事にした。

「ほのかのは、気圧差で作った道を通らせるんだよな」

「う……、そうだよ……」

「壁が、透明だから、どこを進んでるのか、わからねぇって事か」

「迷路」

「でも、迷路は、分かれ道とかあるじゃない」

 ほのかを差し置いて話が進む。だが、一刻も早くこの時間を終わらせたいほのかは、すぐに結論を出す。

「じゃあ、迷宮にしよ。そう迷宮。えっと風で作るから、『風の迷宮』ね。異論は受け付けない。はい、終了。次ね」

「まぁ、ほのかが、自分で決めたんなら、何も言えないわね。それじゃあ、次は、司君の技名ね」

 司は、まさか自分に振られるとは思っておらず、完全に油断していた。

「え、俺?」

「いいな、それ。司の技か。火で水を一気に蒸発させてたよな」

「それ、『火侮水』って、言ってた。中国の、五行の、やつ」

「つーかーさー、火で囲んで圧縮してたよね。あれの名前きーめーよー」

 ほのかは、少し壊れていた。

「えっと……よろしくお願いします」

 司は、抵抗を諦め、流れに身を任せた。今の状態で何を言っても、耳を貸してもらえない事を、理解しているからだ。

「そういや、手の近くでは、白かったけど、水精型を囲んだ時は、赤になってたよな」

「ああ、あれは、射出した後に、制御が仕切れなかっただけだ。俺が、未熟な証拠だよ」

 司は、己の未熟さ故に、自らの炎で体を焼き、爆発に巻き込まれた。それら全てが、未熟な証であり、成長の余地だ。

「囲んでー、捕まえてー、逃がさない。まったく、束縛男だねー」

「ほ、ほのか?大丈夫?ごめん、弄りすぎたみたい」

「普段は、弄る方だから、弄られなれてないってことか」

「束縛、拉致、監禁、逮捕、牢屋」

「空、うまいこというねー」

 ほのかと空の二人だけで、話を進めている。誰も、中に入ろうとはしない。何故なら、巻き添えが怖いからだった。

「牢屋か。じゃあ赤い牢屋?」

「牢獄の、方が、かっこ、いい」

「じゃあ、赤い牢獄?『赤の牢獄』にしよう。決定」

「そ、そうだな、そうしよう。じゃあ、次の議題だな……」

「司も、私と同じ苦しみを受けたことだし、許してあげるか。水精型の報告は、終わってるから、関門島の川を渡る方法だね」

「周囲を警戒しながら、行きと同じ方法がいいんじゃねーか?」

「電気、流し、ながら、渡る」

「場合によっては、それもありかな」

 安全に川を渡る方法はない。だとすれば、安全になるようにするしかない。空の方法は、事実、有効な手段だった。

 他に方法が浮かばず、この日は、このまま雑談へと移行した。

 

 

 

 

「まったく、お前に呼び出されるとはな」

「すまない。だが、お前に取っても、いい話だと思うぞ」

 Paladinのリーダー、最上誠が、夜の校舎に来ていた。

「それは、俺が判断する。天野、用件を言え」

「せっかちだな。まぁ、まずはこれを受け取れ。異能の制御データだ」

 そういいながら、司は外部メモリを投げて渡した。

 誠は、驚きを隠せない。

 異能の制御データは、各自が、異能の制御方法をデータとしてまとめたものである。言い換えてしまえば、各自の力の秘密だ。

「天野、なんのつもりだ」

「今日の戦闘で、ちょっとやらかしてな。白い炎を出す事には、成功したんだけどな」

 そういいながら、手に巻いた包帯を解く。そこには、自らの炎によって生じた傷跡があった。

 だが、誠は、それを鼻で笑った。

「ふっ、その程度で済んでよかったな」

「ああ、お前が、青い炎を出した時は、もっと酷かったらしいからな。でもな、日向も、前に、青い炎になるまで温度を上げた事が在るらしいぞ。去年の年末の話だ。今思うと、どれだけ凄いことをしたのかわかるよ」

 誠も、驚きを隠せなかった。その頃は、まだネクストを発現してなく、今ほど異能の制御に長けている訳でもない。それが、どれだけ無茶な事か、誠は、よく知っている。

「それで、お前の目的は、なんだ。その話を聞かせる為じゃ、ないだろ」

「ああ、青い炎を、教えてくれ」

「天野、ふざけているのか?」

「いや、本気だ。そのデータの中身を見てから、決めてくれ。それと、もう一つある」

 誠は、司を睨みつけ、怒気を孕んだ声を発する。

「天野、俺は、お前を評価していた。だが、その図々しさは何だ!」

「まぁ、最後まで聞け。もう一つの内容は、あくまで協力してくれってことだ」

 司は、一呼吸置き、しっかりとした口調で、続ける。

「ユニオンの火属性の喪失者(ロスト)、赤月ほむらに、指導を頼みに行くつもりだ」

 ユニオンに指導を頼む。誠は、それを今まで一度も考えていなかった。何故なら、ユニオンは、常に時間に追われており、連絡すら取れない。つまり、受けてもらえるかどうかではなく、頼む事すら、出来ない相手だ。

「お前は、馬鹿か。飽きれて何も言えん」

「連絡を取る方法ならあるだろ。生徒会長がいるんだからな」

「だが、生徒会長が、そう簡単に協力すると思うか?」

「日向から聞いたんだがな、LostWingの八神刹那を知ってるだろ。あの人が、Laboに、可変型ギアのデータを流したそうだ。ネクストを発現してから、情報を隠すのではなく、与えようとしている部分がある。俺は、それに賭けたい」

 司の目は、真剣だった。だが、誠には、一つの疑問が残る。

「それと、これに、何の関係がある」

「最上、お前が羨ましいんだ。ほのかにとって、お前は対等な相手だ。でもな、俺は、チームの仲間だ。ちょっと特別ではあるが、実力的に、対等だとは、思われていない」

「それはないだろ。俺への評価はともかく、お前の実力を認めていない訳がない」

 誠の推測は、事実だ。ほのかは、仲間の実力を認めているからこそ、喪失獣(ロストビースト)との戦闘で、後ろを任せている。だが、司は、それが不満だった。

「ほのかはな、いつも自分が囮になるんだ。確かに、俺達を信じているから、囮を買って出るんだと思う。でもな、俺は、あいつを守りたいんだ。だから、今よりも、強くなりたいんだ。だが、一人じゃ限界があるんだ。共に、競い合える相手が必要なんだ。だから、俺に協力してくれ。頼む」

 そういいながら、司は頭を下げる。

 司は、自身の持つ全てを賭けて、ほのかに認められようとしていた。

「お前だけ、指導を受けるのは、癪だな。それに、指導を受けられたら、青い炎なんて、秘密でも何でもないんだから、すぐに身に付けるか。なら、協力してやるよ」

「ありがとう、最上」

「誠だ。いいな、司」

 そういいながら、誠は、手を差し出す。司は、その手を握り返す。

「ああ、誠」

 

 

 

 

 後日、生徒会室に、黒月紫苑と、赤月ほむらがいた。

「詳細は、データで送った通りです。受けるかどうかは、ほむら、貴女次第です」

「強くなりたいから、指導してくれって、何と言うかねぇ」

「断ってもいいんですよ」

 紫苑からすれば、一般生徒に、自分達の領域へ足を踏み入れさせたくなかった。それは、雨島学園の理念に反するからだ。

「私達と、一般生徒に、決定的な実力さがあるからこそ、ユニオンの意味があるからね。それに、名プレイヤーが名コーチになるとは、限らない。有名な話よね」

「ええ、私も、誰かに指導を頼まれても、しっかりと教える自身は、ありません」

 ほむらは、何かを考えていた。だが、一向に返事が無い為、紫苑が、結論を急ぐ。

「それでは、私から、断っておきます」

「それには、及ばないよ。その二人の連絡先教えて。私が、二度とこんなこと考えないように、徹底的に、教育するから」

 ほむらは、凶悪な笑みを浮かべながら、二人の連絡先を聞き出す。だが、紫苑は、最後まで渋っていた。

「私は、過度に力をつけるのを、認めるわけにはいきません」

「知ってるよ。紫苑は、穏健派だもんね。でも、LostWingみたいな過激派や、七星みたいな革新派もいる。私達は、保留組みだけどね。こればっかりは、一方的に決められないから、しょうがないことだよ」

「ほむらは、彼らを私達に近づけたいのですか?」

「さぁね。でも、最終的に、どの道を選ぶかは、彼らの権利だと思ってるよ」

 そう言いながら、指導のプランを考える。だが、その顔は、新しいおもちゃを与えられた子供のように、楽しそうだった。

 その様子を見た紫苑は、ため息を吐く。

「はぁ、ほどほどにしてくださいね。彼らには、LI協定会議の護衛を頼むのですから」

「それまでには、ある程度仕上げておくね」

 そういいながら、ほむらは生徒会室を出て行く。

 これが、二人にとって、苦労の始まりだった。

 

 

 

 

 ほむらが司と誠の指導を引き受けてから、数日が経過した。

 授業の終わる間際に、担任の秋萌が、Linkageに対して、伝達事項を思い出す。

「ああ、夜星さん、黒月さんからの伝言があったんでした」

「え、突然どうしたんですか?」

「あはは、先生忘れてました。いいですか、小等部の制御訓練のお手伝いだそうです。授業が終わり次第、生徒会室へ行ってくださいね」

「わかりました」

 生徒会から、下級生の手伝いの依頼は、珍しい事ではない。だからこそ、何の疑問も感じなかった。

 授業が終わり、生徒会室へ入ると、紫苑が、待っていた。

「Linkageの皆さん、よく来てくれました。早速ですが、PDAに情報を送ります」

 紫苑から、依頼に関する詳細データが送られてくる。普段の依頼と変わらない、ごくありふれた内容が、ほのかに送られてくる。だが、司だけは、様子が違った。

「司?」

「いや、なんでもない」

「それでは、引き受けてくださいますね?」

「はい、Linkageは、この依頼を引き受けます」

「ありがとうございます。それでは、お気をつけて」

 紫苑に見送られ、ほのか達は、各自指定された場所へと向かう。

 

 

 

 

 司は、指定された場所に来ていた。だが、そこは、制御訓練の会場ではなく、関門島へ行く時に使う港だった。そこでしばらく待っていると、後ろから声をかけられた。

「司、早いな」

「誠か。お前は、詳しいことを知ってるのか?」

 司は、ただ稽古を付けるから来いという内容しか知らず、誠に確認するが、誠も、同じ事しか知らなかった。

「何も知らんが、赤月ほむらが来れば、わかることだ」

「そうだよ。私しか知らないよ」

 背後から声が聞こえ、振り向くと、そこには、ほむらがいた。

「二人とも、久しぶり、でいいのかな?さ、行くよ。」

 ほむらは、そのままネクストを発動し、飛ぼうとするが、司達は、目的地を聞かされておらず、動けずにいた。

「どこに行くんですか!」

「ん?今日は、私が、叫喚島の間引き担当でね。そこで特訓してあげるから着いて来て」

「叫喚島?」

 誠は、聴いた事のない島の名前に戸惑う。だが、その答えは、いとも簡単に聞かされる。

「叫喚島ってのは、5の島のことだよ。言っておくと、雨島諸島の7つの島、全てに名前が付いてるよ。公表されてないだけでね。無駄話は、ここまでだよ。着いて来て」

 そういうと、ほむらは、一人先に行く。司達も、置いていかれる訳には行かない為、着いていく事にしたが、その実力差故に、必死に飛んでいるにも関わらず、圧倒的な差が付いていた。

 司達は、いくつもの小さな山が並び立っている島にたどり着く。そこでは、ほむらが待ち構えていた。

「遅い。間引きの準備するから、ちょっと待ってて『サモンパターン・十二神将』『サモンパターン・ジャックランタン』」

 炎で形作られた十二支と、数多のジャックランタンが出現する。十二神将は、そのまま飛び去り、島内にいる喪失獣(ロストビースト)の殲滅を開始した。

「サモンパターンって、確か、七星のリーダーが使ってたやつだな」

「氷夜のを見たんだ。まぁ、これについては、機会があれば、そのうちね」

 そういいながら、炎で出来たジャックランタンを分裂させ、増殖させる。炎で出来た、壁のようになる。

「さて、じゃあ始めようか。とりあえず、今日の課題は、私にダメージを与えること。それと、ギアは、使用禁止だから。はじめ!」

 そういうと、ほむらは空を飛び、炎の弾丸を撃ち降ろす。突然の事に、司達は、反応が遅れたが、間一髪、初弾の回避に成功した。

「司、とにかく、やるぞ」

「ああ」

 二人は、ほむらの弾丸を掻い潜りながら空を飛び、ほむらへ向け手を伸ばし、炎の弾丸を連射する。だが、遠隔操作を得意としない為、ほむらへ近づけば、近づくほど、制御が甘くなり、いとも簡単に相殺される。

「はぁ、その程度?」

 ほむらの力に惹かれ、喪失獣(ロストビースト)が接近してくるが、ジャックランタンの壁に触れると同時に、爆発が起こり、そのまま、核であるロスタイトだけが残る。攻めの十二神将と守りのジャックランタン。ほむらは、それを司達に対して、攻撃しながら、完璧に制御している。

「だったら!『青炎剣』」

 誠が、ギアを使わず、青い炎の剣を生み出す。自らの手を焼きながらも、ほむらへ斬りかかる。だが、ほむらは、自身へ届く寸前に、赤い炎の翼でそれを受け止める。

 ほむらは、炎の翼を羽ばたかせ、誠を振り払う。その余波を受け、二人は、地面へとたたきつけられた。

「まったく。確かに、喪失獣(ロストビースト)や、実力の近い喪失者(ロスト)となら、その青い炎は、有効かもしれないけど、オリジンの質も量も、桁違いの相手には、その程度の温度差は、誤差だよ」

「誠、気付いてるか?青い炎が間近にあったのに、まったく影響を受けてない」

「ああ、こっちは、余波でボロボロなのによ」

 誠自身、最初に使った時よりは、影響を受けなくなっているが、それでも無傷ではない。だが、ほむらは、まったくの無傷だった。

「まったく、君達は、オリジンが見えてないんだね」

「オリジンが」

「見えてない?」

 オリジンは、人の目には映らない。それは、事実だ。だからこそ、司達は、オリジンを感じ取る事で、精密な操作を会得してきた。

「君達のオリジンが、イメージ通りに動いている証拠が、何処にある?目に見えない以上、それは、感じ取っただけで、確証ではない」

「オリジンが人の目に見えた前例なんて、無いだろ!」

 誠は、オリジンを目で確認した事がなかった。それは、雨島学園の一般生徒の全てに当てはまる事だ。ほむらは、それを否定しなかった。

「そうだね。オリジンだという証拠はないね」

「どういうことだ」

「君達は、ロストアイランドの成り立ちを習わなかったの?」

 ほむらは、そういいながら、突然攻撃を再開した。炎が、レーザーの様に一本の線になり、地面を焼き払う。何本もの炎のレーザーが司達を襲った。

「ロストアイランドの成り立ちって、島が出来て、ロストビー――」

「その島が出来た理由だよ」

 二人は、炎の弾丸に、レーザーが加わり、防戦一方となる。そんななか、ほむらが、悠々と続ける。

「何故、世界中にこんな島が現れたのか、確証はないけど、仮説はあったはずだよ」

「たしか、おっと……、変な隕石だったよな」

「星をすり抜けるとかいう」

 ロストアイランドが出現する前に、一つの隕石が地球に落下していた。だが、その隕石は、物質ではなかった。肉眼で確認でき、カメラなどにも写る。だが、その軌道上には、他の星が存在しており、それらの星をすり抜け、地球と重なった時、その隕石は、消滅したと言われている。

「私達は、それが、高密度のオリジンの塊だと考えてる。事実、高密度のオリジンの塊は、肉眼で見えるから」

「それが本当だとして、いちいちそこまで高密度にする余裕なんかないだろ」

 誠の反論はもっともだ。まして、肉眼で見えるほど密度を高めたオリジンは、ユニオンでも、そうそう作れる物ではない。

「それにしても、こんな会話して、アレだけの異能を制御してるのに、あんな余裕があるなんて……」

「それは、実力差だよ。それと、あくまでも、オリジンが目に見えるって説明であって、いちいちそうしろなんて、言わないよ。非効率的だし」

 サモンパターンは、並列思考による制御を必要とする。ほむらは、多くの並列思考をこなしている。それは、二人にとって、信じられないことだった。

「つまり、見る方法があるってことか」

「天野君、刹那にいたぶられた経験が、効いてるね。君は、その時に、オリジンを使って、体を外側から操って見せたらしいね。でもね、オリジンは、体の外側に纏っているだけじゃないんだよ。体の中を、血の様に、駆け巡ってるんだから」

「それが、どう関係するっていうんだ」

 先を急ぐ誠に対し、ほむらは、ため息を付きながら続けた。

「そうだねぇ、とりあえず、考えてみてよ。オリジンが供給されているから、性能が上がる。だけど、その機能に、オリジンが付与されているわけじゃない。なら、オリジンをどうすれば、オリジンが見えるようになると思う?」

 二人は、ほむらの問いを考える。だが、止まって考え込むと、途端に蜂の巣にされそうになる。

「くそ、考える暇がない」

「まったく、いい?今日の課題は、私にダメージを与えること。それ以外は、おまけなの。まぁ、理解できれば、成長に繋がるかもね。だから、どっちにするか、決めなさい」

 司は、動きながら考える。ほむらの攻撃は、強力だが、単調だ。複雑な軌道や、誘導弾などは、使ってこない。であれば、回避は、反射的な行動だけで十分だ。

「前に、八神さんから特訓を受けたとき、行動や、発言の一つ一つが、ヒントだった。なら、何かしらのヒントがあるはずだ」

「だからって、あの致死レベルの攻撃を無視できるか!」

「逆だ。致死レベルだからこそ、本能で回避しろ。頭は、思考だけに使え」

 司は、無茶を言う。だが、それを実行しない限り、この特訓が終わる事はない。

 司は、ほむらの攻撃を本能で回避する。いくどと無くかすり、その度に熱さを越えた激痛が走る。だが、紙一重の回避に成功した時、余波をまったく感じなかった。それは、炎を完全に制御している為、その余波すら制御しきっている事を意味する。

 その制御能力に畏怖の念を抱きつつも、思考を続ける。

 誠も、始めは文句を言っていたが、司を見習い、本能での回避に移る。二人は、ほむらの発言を思い出し、オリジンを見る為の方法を考える。

 だが、誠は、一つの結論に思い当たった。

「たく、思い出すも何も、答えしか言ってねーじゃねーか。目かよ」

「どういうことだ?」

「赤月ほむらは、肉眼って何度も言っただろ。でも、それ以外の器官は、何も言ってないだろ。それに、オリジンを見るんだ。目をオリジンで覆うなり、オリジンで浸すなりしろってことだろ」

 そう、ほむらは、答えしか言っていなかった。二人が、勝手に難しく考えていただけだ。

「そう、目にも血が通ってるから、視力の向上とかはするけど、オリジンで覆われてるわけじゃないから、見えるわけじゃない。ただそれだけ。わかったんなら、さっさと実行しな」

 そういいながらも、ほむらは攻撃の手を緩めない。そもそも、緩められるほどの攻撃をしていなかった。

「こんな状況で、やれって……」

「最上誠、あんたさっきから、ぶつくさぶつくさ、やめてもいいんだよ。その程度の覚悟じゃ、何も守れないよ」

 ほむらは、いや、ほむらを含めたユニオンの全員は、雨島の一般生徒の過去を知っている。だからこそ、効果的な挑発をした。そして、誠は、見事に挑発にのった。

「俺が何も守れないだと……、その言葉、実力で取り消させてやる」

 ほむらは、誠に集中的に攻撃し始める。だが、その攻撃は、薄皮一枚を焼く程度で、身動きしなければ、致命傷には至らない。

 誠は、目を瞑り、攻撃を感覚だけで察知する。威力は、知る必要が無い。軌道さえ見切れればいい。それは、同じ火属性の喪失者(ロスト)だからこそ、可能な事だ。恐怖心を押し殺し、自然体のまま立ち尽くす。けれど、オリジンの流れを感じ取り、操作する。

 ほむらは、その様子を見て、誠への攻撃を取り止め、司へ集中する。

「さて、あっちはいけそうだね。さて、君はどうやろうか」

「何をされようが、やるべきことをするまでだ」

「そう」

 ほむらは、言葉を短く発し、攻撃の難易度を上げた。炎の弾丸は、司を追尾し、レーザーは、フェイントの様に、何度も軌道を変化させる。だが、司は、繊細なコントロールを行い、紙一重で回避する。

「目にオリジンを」

 そう呟きながら、回避を続ける。だが、今までと違い、一つの変化があった。

「回避しながら、接近してくるのか。まったく、答えを聞いた以上、課題をクリアする訳ね」

 司は、本能に任せた回避を行い続ける。司自身は、気配を外へ向けない。だからこそ、ほむらは、先が読めず、次第に接近される速度が上がる。

「このパターンに、慣れてきたのか。この距離で、難易度を上げれば、死んじゃうか」

 ほむらは、一瞬の思考で、難易度を上げた場合を考えた。だが、その瞬間、司が、一気に接近し、ほむらの背後を取る。

「しまっ――」

「『赤の牢獄』」

 巨大な炎が、壁となりほむらを包み込む。だが、完全に炎に包まれる直前に、ほむらが手の中で小さな火種を起こす。

「爆ぜろ」

 その一言と共に、小さな火が爆炎と化す。牢獄内の酸素を焼き尽くし、そのまま炎の壁すらも破壊する。その衝撃に、司は吹き飛ばされる。

 爆発による煙が晴れると、そこには、ほむらが悠然と佇んでいた。

「まったく、いくら私でも、酸素がないと、死ぬよ。まったく、攻撃的な本能だねぇ」

「痛てて」

「無事か。まぁ、要治療かな。とりあえず、ダメージは受けたから、合格か」

「でも、俺は、攻撃を当てたわけじゃ」

 司は、攻撃を成功させた訳ではない。だが、ほむらは、ダメージを与える方法については、明言していなかった。つまり、自爆を伴う防御方法によるダメージでもいいという事だった。そして、この方法が、唯一課題をクリアする方法と言っても過言ではない。

「続けたいんなら、本気で攻撃するよ。それが嫌なら、さっさと、見えるようにしな」

 ほむらは、にこやかに笑い、脅迫した。その笑みに言い得ぬ恐怖を感じ、司は大人しく言う事を聞いた。だが、横から声が聞こえる。

「これが、あんたのオリジンか。どんな制御をしてるんだ」

 誠は、既にオリジンが見えるようになっていた。それ故、サモンパターンの制御の為のオリジンの流れを目の当たりにした。

 それは、いつまでも自己増殖を続けるジャックランタンを含め、全てが、ほむらと細いオリジンの糸で繋がっていた。

「これは、基本中の基本だよ」

「それに、あんたが纏うオリジンは、俺達と違いすぎる。俺達は、ただ、オリジンを宿しているだけか」

 誠は、自らの体に流れるオリジンを見つめ、その違いに落胆する。まさに、血管に沿って流しているだけだった。だが、ほむらは、細胞の一つ一つに、オリジンが行き渡り、さらに、その軌跡に、迷いが無かった。

「ほんと、これが力の差か」

「司も、終わったのか」

「ああ、遠隔操作で、威力や精度が落ちる理由は、完全に切り離してたせいか」

「さて、じゃあ、間引きが終わるまで、徹底的に指導してあげる」

 ほむらの発言に、二人は顔を引きつらせた。なぜなら、ほぼ無傷のほむらに引き換え、誠は、細かい傷や火傷ですんでいるが、司にいたっては、全身がボロボロで、立っているのもやっとだった。

 だが、ほむらは、そんな二人を気にする素振りも見せず、淡々と準備を始めていた。

 

 

 

 

 各自の依頼が終わり、各チームのリーダーが集められていた。

「最上君、疲れ切ってるけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ……」

「最上誠、そんなに手を焼く後輩がいたのか?」

「いや、聞かないでくれ」

 誠は、この日の出来事を話す事を拒んだ。充実した内容ではあるが、それと同時に、精神的にとても消耗していた。

「皆さん、お待たせしました」

 紫苑が、生徒会室へ戻っ来ると、ほのか達に、一つのデータを送る。

「これは?」

「今度、LI協定会議が行われるのは、知っていますね。貴女方に、その護衛をお願いしたいのですが、どうでしょうか?」

 現在では、雨島内の情報規制が解かれており、外部の情報が、入るようになっている。その為、ほのか達は、世界情勢などを、ある程度は頭に入れていた。その中でも、最近一番騒がれている内容である。

 ほのかは、一つ、気になる事があった。

「ちなみに、実はユニオンのチームがもう一つあって、そこが襲撃してくるとか、ないですよね……」

 前回の事もあり、少し脅えていた。

「大丈夫ですよ。今の所、私達が知る限りは、襲撃の情報は入ってきていません」

「黒月紫苑生徒会長、私達は、その依頼を受けます」

「私達も、断る理由が無いので、お受けします」

「俺達も、受けますよ」

 三人は、断る理由も無く、依頼を引き受けた。それぞれの思惑は異なるが、それぞれの理由を抱えての事だった。

「そうですか、ありがとうございます。それでは、さらに詳しいデータを送りますので、よく目を通しておいてください」

 こうして話が終わり、三人は生徒会室を後にした。その後しばらくして、生徒会室の扉がノックされる。

「どうぞ」

 その声に反応し、空宮あやめが入ってきた。

「あの三チームは、引き受けたんだ。じゃあ、当日は、ばったり会うかもね」

「あまり、目立たないで下さいね」

「さぁ、確約は、出来ないなー」

「あやめ、貴女は、秘密裏に派遣させるのですから、わきまえて下さい」

 あやめは、楽しそうな顔をしながら、はぐらかす。だが、紫苑も、半ば諦めていた。

「それじゃ、確認は済んだから、行くね」

「よろしくお願いしますね」

 後ろ手に手を振りながら、あやめは生徒会室を後にした。




こんばんは

とうとう30話です。まさか続けられ……
さて、記念に何かしようかと思ったのですが、何も思い浮かばなかったです。
それどころか、何故か特訓まで突っ込んでしまった。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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