11月の2週目、Linkage・Labo・Paladinの三チームは、ロストアイランド協定に関する国際会議の警備に参加している。とはいえ、警備のノウハウがある訳ではなく、ただのパフォーマンスの面が強かった。
夜星ほのかは、仲間と共に、担当エリアを歩いているが、周囲からは、様々な感情の入り混じった視線を向けられていた。
「今回は、何もないといいけどね」
「一応、生徒会長も情報はないって言ってたから、大丈夫だと信じたいな」
「普通の、警備員、いっぱい」
「警備員以外に、警察もいるな」
「さっき、ALUらしき人も、いたわよ」
「まぁ、パフォーマンスの一環らしいからね。日本の
「あれから何も隠してないって」
警備とは名ばかりの散歩をしていると、遠巻きに警備員から声をかけられた。
その行動に、ほのか達は身構えるが、それも一瞬の事。ほのか以外は、すぐに警戒を解き、声をかけてきた警備員を迎え入れた。
「おーい。坊主達」
「確か、前に警備に借り出された時の」
「サボれって、言った、警備、主任」
「いやいや、覚えててくれたか」
天野司達は、親しそうに話すが、ほのかだけは、置いてけぼりになっていた。
「もしかして、この辺の警備担当ですか?」
「ああ、そうだ。こうも偶然が重なるとはな。ところで、そっちの嬢ちゃんは、誰だ?」
「あ、えっと、夜星ほのかといいます。前回は、天岡会長の護衛に回っていたので」
「ああ、そう言うことか。まぁ、ここは俺の管轄だ。サボってていいぞ。但し、何かあったら頼りにするからな」
司は、このやりとりに既視感を覚えながらも、思った通りの事を口にする。
「何かあるんだったら、ここに来るのは、俺達じゃないですよ」
「だがな、前回もそう言って、あんなことがあったからな」
警備主任も、同じ事を考えており、不安を感じていた。それに関しては、ほのか達も、笑うしかなかった。
「アハハ」
「そういえば、坊主達は、うちの警備会社について、何か報告したのか?」
突然の疑問に、意味がわからなかった。
「え?」
「いやな、例の連盟加盟企業が、軒並み大変なことになってな。うちも潰れる寸前だったんだが、ANTの警備部門が、人員増強ってことでまるまる引き取ったんだ。ほら」
そういいながら、胸についているエンブレムを見せてくる。そこには、元々の警備会社の名前の上に、ANTの名前が、記載されていた。
「報告書は、提出しましたけど、特に覚えはないですよ」
「そうか、いや、すまん。坊主達が、口利きしてくれたんだと思ってたからな。まぁ、違っても、御礼を言わせてくれ。ありがとう」
ほのか達は、身に覚えが無い事で、お礼を言われた為、妙な反応しか出来なかったが、報告書が、役に立ったのならと、考える事にした。
「気にしないで下さい。俺達は、本当に何もしてないんですから」
「そうか。まぁ、サボっててくれ。じゃあな」
そういうと、警備主任は去っていった。
それを眺め、この後の行動を考える。
「いい人だね」
「ああ、普通に話しかけてくれたからな」
「どっかで座ってようぜ」
「お墨、付き」
サボりを公認された為、適した場所を探して歩いていると、休憩所の様な場所を発見した。だが、そこには、かなり疲れ切った様子の二人の先客がいた。
ぐったりとした様子のブロンドヘアーの少女を休ませているようだった。
ほのか達は、違う場所を探す為、通り過ぎようとするが、ほのか達に気付き、うんざりした様子で、声をかけてきた。
「またか……」
ほのか達は、先客から日本語で話しかけられた事に驚く。
「え?」
「さっきの少女の関係者ですよね」
「えっと、何のことですか?」
介抱している少女が、詳しく説明してきた。
「先ほど、建物内の通路で、突然に妹を抱きしめて、色々してきた少女がいたものですから」
「あれ?どのチームも、屋外担当だから、中には入ってないよね」
「そのはずだが……」
「黒のロングヘアーの彼女が、私にも、抱きついてきて、大変でした」
その容姿で、好き勝手をする少女に、心当たりがあった。だが、もし本当にその少女が来ているのであれば、それは、一大事に発展する可能性があるということだ
「まさか、空宮さんが……」
「待て、ユニオンが来てるってのか?」
「つまり、何かあるってことかしら?」
ほのか達は、確認を取りたいが、その方法が無く、何も出来ない。
そんな様子を見て、ぐったりしていた少女が、声をかけてきた。
「悪い人じゃないと思いますよ。ずっと、かわいいしか、言ってませんでした」
「最後には、今日は何も無いはずだと言ってましたね」
「何もないはず……、まぁ、空宮さんが、そう言っていたなら、安心ですね」
空宮あやめが、そう言っていたという事は、雨島学園には、そういった情報が入ってきていない事を意味する。その情報網には、ALUも含まれる為、ほのか達は、信じる事にした。
「でも、空宮さんに遭遇して、おもちゃにされるなんて、災難でしたね」
「日本人は、もっと奥ゆかしいと聞いていたので、いきなり、あのようなことをされるとは、思っていませんでした」
「まぁ、人それぞれとしか、言えないですね。それにしても、日本語上手ですね」
ほのかは、大変な出来事を根掘り葉掘り聞くのも悪い気がした為、話を変える。だが、思いがけない台詞が帰ってきた。
「ロスト関連の研究は、ANTが一番進んでいるので、ロスト関連の会議を日本で行う時は、日本語がメインになっているからです」
他の多数間会議とは違い、各国は、日本語が出来る通訳を連れて来ていた。
「私達、ロストは、国に雇われないと、その……、色々不利なので」
「二人は、護衛か何かですか?」
「私達姉妹は、イギリスの力を誇示する為に連れて来られました。機関では、トップクラスの成績です。ですが、貴女達の様に、バーストをたった一人で制圧出来るわけでは、ないですが」
「バーストを一人で何とか出来るのは、さっき会ったって言う、空宮さんとか、ごく一部ですよ」
「俺達一般生徒じゃ、無理無理」
外国では、日本の
「外国に公開されている雨島レポートで言う、第二段階というものにすら、届いていないのですが、日本では、どうなのですか?」
「ネクストですか?そこまで行く生徒は、結構増えましたよ」
「そうですか、あ、そういえば、自己紹介がまだでした。私は、シャルロット・ローレンスといいます」
「私が、姉のアリシア・ローレンスです」
「シャルロットちゃんにアリシアさんですね。私は、夜星ほのかです」
ほのかに続き、司達も自己紹介をしたが、一度に大勢の名前を覚えるのは、大変らしく、何度も小さく口ずさんでいた。
「私達は、会議に、各国のロストを見せるという意味合いで、同席するのですが、皆さんは、行かなくていいのですか?」
「あー、私達は、警備をしてる様子を見せるだけなので、きっと、空宮さんがいると思いますよ」
あやめの名前を聞き、シャルロットは、先ほどの事を思い出したのか、小さくなっていた。
その後、別れをいい、ローレンス姉妹は、去っていく。ほのか達は、時間を持て余している事には変わらず、そのまま警備をサボる事にした。
「あの二人のオリジン、あんまり良くないね」
「ああ、基本的な制御訓練が終わった頃のやつと同じくらいだ」
会議場には、ロストアイランドの第一発見国であるアメリカ・イギリス・オーストラリア・チリと、アフリカ西海岸の各国、さらに、その周辺国と、唯一制圧に成功した日本の代表者が集まっていた。
アメリカは、六人の屈強な男達、イギリスは、先ほどのローレンス姉妹が、代表者の後ろに、控えている。それは、
ALUの室長を務める男が、代表席に座っており、準備が整った頃合いを見計り、会議を始める。
「それでは、僭越ながら、日本の代表である私が、議長を勤めさせていただきます。それと、あちらには、ANTの天岡会長と、ALUの室長補佐が来ております」
紹介を受け、天岡新十郎と峰地総一が、簡単な挨拶をした。それが終わると、早速議題に移る。
「今回は、来年に失効するLI協定についてですかね」
「アメリカとしては、協定の失効後は、それぞれの第一発見国が、制圧の窓口をするべきだと考えている。しっかりと、許可を取ってから、制圧を開始するべきだ」
「周辺国連合としては、許可ではなく、届出制にするべきだと主張する。あくまでも、制圧期間の調整に留めるべきだ」
協定が失効しても、実効支配をし続けようとする第一発見国と、すぐにでも奪おうとする周辺国の主張が平行線の議論を続けている。
唯一日本は、既に制圧を終えており、
平行線の議論が続く中、あやめは、天岡と峰地を暇つぶしの相手にしようとしている。周囲の人間は、それを咎めようとするが、あやめの事を知っている人間が多く、声をかけられずにいる。
「天岡さん、峰地さん、この会議、意味あるですか?結局、アメリカの意見に、ちょっと制約つけるくらいが、落とし所になると思いますけど」
「問題は、そのちょっとの制約だ。どちらが先に譲歩するか。いや、どちらが、多く損をするかの話だからな」
「まぁ、民間企業のANTや、雨島には、興味が薄いと思うけど、僕達ALUからすれば、国の問題ですから、重要なんだよ」
峰地としては、下手に飛び火し、日本が損をしなければいいと考えている。だが、あやめの発言に、肝を冷やす。
「結局、そんなの適当に済ませて、他国の企業への委託を認めるかを決めればいいのに。ANTへ依頼すれば、当然私達が動くことになる。あの程度のロストアイランドくらい、すぐに制圧出来るのに」
「あやめちゃん、そんな大声で言っちゃだめだよ。実際に、第一発見国の中には、多めに譲歩して、そっちを認めさせようとしている国もあるんだから」
事実、ALUに対して、代理制圧の見積もり依頼が来ていた。そして、あやめの言うように、会議が動いた。
「イギリスとしては、日本が、民間企業に制圧を許した以上、委託の制限を無くすのであれば、周辺国の要求を呑んでもいいと考えている」
この発言に対し、各国が息を呑む。これは、一つの線引きだった。周辺国の要求と、委託の無制限化、この二つを対等なものとして見るという事だ。
周辺国の要求に対して、第一発見国側が、譲歩案を提示した以上、周辺国も、何かしらの案を提示しなければならない。だが、ANTに依頼し、それを引き受けた場合、ほぼ間違いなく制圧が完了する。それは、避けるべき事だ。だが、この案には、周辺国にも利点があった。
「この話し合いは、あくまでも協定失効後のことだ。つまり、委託の無制限化と制圧の届出制が、原案のまま通った場合、我々周辺国にも、その権利があるということで、間違いないか?」
つまり、早い者勝ちという事だ。最初に届出をしたかではなく、最初にANTから色よい返事を受けたものが、制圧出来るという事になる。それを理解した代表者が、天岡へと目を向ける。
「天岡さん、大変だねー」
「他人事だと思っているな」
「うーん。ユニオン側の窓口は、紫苑だろうから、他人事かなー。統一した回答を繰り返せばいいんだから」
あやめは、やる気が無かった。だが、一つの疑問が浮かんだのか、峰地に対して、口を開く。
「それで、今は委託に関しては、決まってるの?」
「今は、制圧を実行したものが、所属する国に、所有権を認めることになってるよ」
「ふーん。で、制圧の線引きは、実質引けてないと」
雨島諸島の制圧は、学園の開校日に届出をだしている。その為、他国も、認めざるを得なくなり、届出の際には、制圧しすぎとすら言われている。その為、制圧の線引きも、相談される予定だった。
白熱する利益の奪い合いを尻目に、あやめ達は、会話を続けていた。そんな中、主導権を握れずにいたアメリカが、とうとう切り札を切った。
「アメリカとしては、イギリスの案を採用したい。そして、一つ、ここにいる全員に見てもらいたいも物がある」
アメリカは、秘書に合図を送ると、一つの大きなケースを持ってこさせた。
「我々アメリカは、多大な犠牲を払いながらも、バーストを自国のみで対応してきた。その結果、少数ではあるが、ロスタイトを手に入れている。これは、その結果だ」
持ってこさせたケースを机の上に置き、中を見せる。そこには、まだら模様の巨大な剣が収められていた。武器を取り出した事に、動揺が走るが、他国が口を開く前に、続ける。
「これは、ロスタイトで作り上げた、対ロストビースト用の武器だ。無論、アメリカのロストアイランドで運用し、ロストビーストを倒せる事は、確認済みだ。そこで、我々は、大量に複製したこの武器を使い、この会議の後、ロストアイランドの制圧を実行する」
この宣言に、他国は、動揺を隠せなかった。アメリカが、着実にロストビーストを倒す方法を手にしたという事は、協定が失効した直後に、他のロストアイランドへ進行するという事を意味する。
アメリカは、この事を強みとし、制圧後の交渉へ移ろうとしていた。だが、一人の少女による笑い声が、それを遮った。
「あっはっはっはっは!」
あやめは、お腹を抱え、涙を流しながら、笑い転げていた。仕舞には、苦しそうに床を叩いている。
その様子を見て、アメリカ代表は、あやめに対し、問いただす。
「何が可笑しい。そもそも、君には、発言権は無いんだ。黙っていて貰おう」
「別に、発言する気はないですよ。ククク」
そう言いながらも、ほのかは、静かに笑い続けている。
アメリカ代表は、その様子に、業を煮やし、あやめに話しかける。
「これが可笑しいというのであれば、それを説明したまえ」
「ククク。だって、それが、モザイクみたいな理由って、属性別にロスタイトを、必要数集められなかったからでしょ。形を維持してられるのは、ちゃんと混ざってないからだし、大量に複製したって言ってるけど、数なんて、たかがしれてるんじゃないですか?」
「これは、全てのロストが使えるように、ロスタイトの属性を混ぜているのだ」
あやめは、この発言を聞き、アメリカが、ロスタイトについて、何も知らない事を悟る。
「そんな色をしている時点で、まともに作れてないってことですよ。ちゃんと混ぜれば、黒くなるんですから。つまり、それで倒せるのは、小型の中でも、雑魚の部類だけですよ」
「そこまで言うのであれば、試してみるがいい」
「試す?どうやって」
アメリカ代表は、控えさせていた
「ボス、あのリトルガールに、武器を使えと?」
「ああ、そうだ。実際に戦い、その優劣を見極めればいい」
アメリカ代表は、あやめを見下していた。自国で開発し、試験まで済ませた武器に、絶対の自信を持っており、負ける訳がない。そう考えている。さらに言えば、あやめが、怖気づくとさえ考えていた。
にやつくアメリカ代表達を見ながら、あやめは、自信満々に告げる。
「場所は、変えますか?後、死んでも、文句ないですよね」
「あやめ。殺すな。それは、約束しろ」
「はーい」
あやめの発言に、天岡が注意をした。天岡の言いつけは守る為、返事をするが、そのやりとりをみて、アメリカ代表達は、笑った。
「Hahaha.殺すな?死ぬなの間違えじゃないのか?」
「ここでいいだろ。時間の無駄だ」
「そうですか。ハンデ、あげましょうか?」
その台詞を聞き、アメリカの
「ハンデ?こちらがあげたいくらいだ」
「いらないなら、いいですよ。アメリカ代表さん、合図をお願いします」
そういうと、あやめは、白いギアを取り出した。それを見て、天岡以外は、首を傾げた。
「天岡会長、あれは?」
「偶然の産物だ」
その一言の後、続ける前に、アメリカ代表が、「Start」と合図を告げる。
「Realization」
オリジンを循環させ、白いギアが、形を変える。それは、巨大な鱗を半分にしたような剣へと姿を変えた。黒い複合ギアと違い、あやめとの接点から、無慈悲にも、オリジンを吸い上げる。その量は、並の
アメリカの
「しっかりと混ぜたギアは、黒いんだろ」
「これは、複可変型複合カウンターウェポンギア”白鱗”ですよ。唯一作成に成功した、対ロスト・対
白鱗を上段に構える。そして、一切殺気を含ませず、ただ力を振りまく。だが、それだけで、周囲に居た人は、全員が、蛇に睨まれた蛙のようになる。
「訳の……わからんことを……」
辛うじて声を絞り出し、アメリカの
だが、これ以上先へ進まない。いや、進めなかった。意識の上では、進もうとしている。だが、無意識下の領域が、それを拒む。それは、本能だ。
「どうしました?来ないんですか?ならこっちから行きますよ」
そういうと、ただにこやかに笑う。その直後、アメリカの
残された武器を異能を使い、空中に固定する。横向きに固定した武器目掛けて、ギアを振り下ろす。ただそれだけで、まだら模様の武器は、粉々に砕け散った。
「天岡会長、今のは?」
「あれは、触れた物のオリジンを吸い上げる。そして、吸い上げたオリジンをエネルギーへと変換し、攻撃力にプラスする。あの武器は、オリジンを吸い尽くされ、その衝撃によって、破壊されたんだ」
「でも、あやめちゃんも、オリジンを吸われるんじゃ?」
「ユニオンクラスのオリジン量なら、微々たる物だ」
各国の代表は、目の前での出来事が、理解出来なかった。相手も目を覚まさず、ただ時間だけが流れていく。
そんな中、あやめが、口を開いた。
「で、どうしますか?もっとも、他の人でも、雑魚ばっかりですから、どうにもならないと思いますよ」
その問いに、各国代表が意識を取り戻す。さらに、アメリカ代表は、あやめの挑発に乗った。
「アメリカは、日本と違い、銃社会だ。だから、こっちを試させてもらおう」
そういいながら、指を鳴らす。小型のアタッシュケースをいくつも運び込み、
アメリカの
あやめは、ギアを降ろし、感情を消した顔で告げる。
「その位置、天岡さんも狙ってるんですか?」
その台詞に、誰も口を開けなかった。それほどの明確な殺意を孕んでいた。
アメリカの
「あやめ、落ち着け。お前なら、問題なく対処出来るだろ」
「対処は簡単です。問題は、相手の反応ですよ」
「Mr.天岡、あなたを狙う意思はない。お前達、移動しろ」
アメリカ代表の命令で、移動する。今度は、その斜線上には、あやめしかいない。
「Limit Break-Mode”THE NEXT”」
そう呟くと、力の奔流が吹き荒れる。黒いロングヘアーが風に靡き、その下から、白く、機械のようで、輝く翼が出現した。
その翼を目にし、周囲の人は、その輝きに目を奪われる。
「ちょっとだけ、見せてあげます」
その呟きを聞き、己が目と耳を疑う。これほどの力を放出しながらも、『ちょっとだけ』。そう、これが、力のごく一部でしかない。
「ちょっとだけか、確かにあの状態は、ただのネクストだな」
「天岡会長、あの上をご存知なので?」
「ああ」
「さて、どうします?試します?どうせ、そのモザイク弾じゃ、さっきのモザイク剣と同じでしょうけど」
「撃て!その伸び切った鼻を撃ち砕け」
アメリカ代表の指示が飛び、引き金が引かれる。だが、弾丸の全てが、あやめの前で止まる。何発撃とうとも、同じ位置まで来ると、そこから先が無いかのように止まる。
「もう一つ、見せましょうか。ちょっと楽しくなってきましたし」
あやめが、自身の力を一段階上へと引き上げる。その瞬間、あやめの翼の間接部が歯車へと変化する。それと同時に、あやめの瞳に、歯車が浮かび上がる。それらは、ゆっくりと回転している。けれど、次第に早くなっていく。
だが、先ほどと違い、力を感じさせない。まるで、力のベクトルが違うようだった。
「歯車……第三段階か」
「あれがですか。僕は、初めて見ますね」
歯車が止まり、あやめが口を開く。
「その銃、全て弾はでませんよ」
「そんなことがあるか!」
何千、何万と撃てば、一発くらいは出ないかもしれない。だが、次に引き金を引いたとして、五人の銃、全てが、詰まるという事は、ありえない。だからこそ、引き金を引いた。
だが、一発目で、全ての銃が、詰まった。
焦って次を撃とうとしなかったのは、兵士として訓練を受けていたからかもしれない。だが、そのせいで、この異常な状態を正確に認識する事を、頭が拒む。
あやめが、言って聞かせるように、告げる。
「
そう言うと、また、歯車が回りだす。それが、確率を、運命を、事象を制御している証だ。
だが、誰も口を開かない。あやめの言う事が事実なら、自身の行動で、どんな目にあうかわからない。だからこそ、誰もが口を開く事を拒む。
そんな中、峰地が、手を上げた。
「一つ、よろしいでしょうか?」
「峰地君か、異論がないようなので、許可しよう」
議長を務める日本の代表が、周囲を見渡したが、反対意見が出なかった。いや、誰もが、この異常な状態で、まともに考える事が出来ずにいる。
「どうでしょう。イギリス代表の案を採用し、残りは後日というのでは」
あやめは、アメリカが、ロストアイランドの制圧が出来ないと言った。それが事実であれば、イギリスの案は、お互いにメリットがある。さらに、今の出来事のせいで、まともに頭を働かせられなかった。そういった理由が重なり、その案が通り、会議の初日が終了した。
日本代表の控え室では、会議に出たメンバーを、峰地直属部隊隊長である渚一葉が迎えた。
「お疲れ様です」
「やぁ、一葉。あやめちゃんのお陰で、予定通りに行ったけど、あれはやりすぎだよ」
「峰地君、君の立てたプラン通りだったね。これで、お飾りの地位は、安泰だ」
ALUは、アメリカが、対ロストビースト用の武器を持ち込む事を知っていた。だが、その武器の価値を認め、アメリカがロストアイランドを制圧出来ると思われてしまえば、日本の独占状態が、崩れる可能性がある。だからこそ、ユニオンを呼び、一騒ぎ起こさせた。
「どちらにしろ、あれは役に立ちませんね。ちょっとむかついたから、暴れちゃいました。だーかーらー、一葉ちゃん、休ませてー。あれは、消耗が激しいんだよー」
そういいながら、あやめは、渚一葉にしなだれかかる。かすかな抵抗を感じるが、それを無視する。
「空宮さん、重いです」
「重くしてるんだよー」
その様子を見ていた天岡は、峰地達へと向き直り、自らの考えを口にする。
「まったく。ですが。基本筋の合意は取った。後は、細かい調整だけですから、ANTとしては、これ以上の立会いは、必要ないと考えますが?」
「そうですね。お付き合いいただき、ありがとうございました」
そういうと、天岡は部屋を出て行く。それを追うようにして、あやめも早口に捲くし立てる。
「一葉ちゃん、今度雨島に遊びに来てね。それと、峰地さん、イギリスの
峰地達は、返事をしようとしたが、あやめは、既に立ち去っており、返事を伝えられなかった。だが、ユニオンからの頼まれごとである以上、むげには出来ない。
「さて、じゃあ僕は、根回しに行きますね。一葉、君にも見せるべきだったね。先を知っていた方が、成長に繋がるかもしれないし」
「ネクストすら発現できない私が、その先を見ても、どうにもなりませんよ」
「しかし、日本の
こうして、日本の思惑通りに、会議が進んでいった。
会議が終わり、各国代表は、それぞれの国へと帰っていくが、イギリス代表達がチャーター便に乗り込む為の通路を歩いていた。
「日本のロストは、本当に人間か?それに、あの室長補佐とかいう官僚、我々の動揺をうまく利用しおって」
「代表、止まってください」
護衛として同行しているSPが進行上に、入るはずのない人影を見つけた。
今いる場所は、チャーター便の専用通路であり、一般人が紛れ込む事は、ありえない。だからこそ、壁に寄りかかっている人物の異常さが際立つ。
SPは、銃口を向け、少しずつ近寄る。
「何者だ。大人しくしろ」
「そっちの会議場にいた人達は、知ってると思うよ。それと、見掛けは、大人しくても、異能が暴れるかもね。『クリエイト・斬撃』」
ただ視線を向けただけで、SPの持つ銃に、亀裂が走る。
その結果、SPは、警戒心を強める。だが、イギリス代表が連れて来た
「たしか、空宮あやめでしたね」
「うーん、誰に聞いたのかなー。まぁいいか、そこの姉妹と、イギリス代表さん、峰地さんから話は聞いてますよね」
「二人を、雨島学園に留学させるという話か?あの話の続きにしては、無礼だな」
「私が人間かどうか疑っている人に、礼儀を通すつもりは、ありませんよ」
イギリス代表達は、その表情に恐怖心を抱く。それは、死をも覚悟させる笑みだった。
「それで、お姉さんは、どうしてここにいるんですか?」
「シャルロットちゃんは、かわいいなー。ちょっと念を押しに来たのと、野暮用かな」
念を押しに来た事は、先ほどの発言からも理解できるが、野暮用の方に、心当たりがなかった。
イギリス代表は、あやめの話を聞かざるを得ない。
「この状況、我々に選択肢は無いのだろ。話せ」
「まぁ、ちょっと考えて欲しいんだよね。雨島制圧隊って、知ってますよね。雨島諸島を制圧した
皆が首を横に振る。ANTや、雨島学園では、その正体がユニオンだという事は、ほぼ知れ渡っている。だが、それも最近の事。日本でも、雨島の関係者以外には、まったく知られていない。
「そ、誰も知らない。つまり、雨島諸島が、日本の領土になったのは、ANTがその指揮を執ったからに、他ならない。それは、どこの国の人が、制圧するかじゃない。どこの国の団体が、制圧するかの話」
「それが、何なんだ」
「簡単でしょ。その二人が、雨島学園で異能の制御を学び、そのノウハウをイギリスの機関に持ち帰る。そして、広める。その前提があれば、
雨島学園で学ぶという事は、その実力を裏付ける。たとえ、それが過大評価だとしても。
「だが、そう簡単に制圧が出来るものか!」
「んー、無理だろうね。でも、あくまでも、イギリスの機関が指揮を執れば、誰が参加したかは、公表されない。たとえ、留学を受け入れた代わりに、その制圧実行日に、私が留学して、参加したとしても」
イギリス代表は、息を呑んだ。確かに、それは可能だ。だが、机上の空論に過ぎない。
何かの拍子に他国の人間が見に来れば、ばれてしまう。さらに、国によっては、地上の人間を識別できる人工衛星すら存在すると言われている。
さらに、一つ気になる事があった。
「日本には、何の利益がある」
「相手が日本人なら、恩を売るって言えば、済むんだけどね。明確に、わかりやすく言うと、貸しを作ることかな。それも、かなり大きな貸しだよ。そうそう返せないね」
「我々に、何をさせる気だ」
「別に、簡単なことだよ。私達の基本姿勢に、追従するだけでいいんだから」
雨島の基本姿勢、それは、一般生徒を人間だと思わせる事。その為に、あやめ達は、異常ともいえるレベルの異能を振りまいている。
イギリス代表は、それに対して返事が出来ずにいると、あやめが続けた。
「ロストアイランドの制圧に成功すれば、ロスタイトの供給源になる。それは、経済的にも、いいことだと思いますよ。何せ、今現在、ロスタイトの供給は、ANTの独占だからね。感情で納得できない部分を、利益で押し流せばいいんだよ。それも、圧倒的な利益でね」
「いくら私が、ロスト関連のイギリス代表だからといって、すぐには返事が出来ない。だが、いい返事を期待していてくれ」
それを聞くと、あやめは一団をすれ違うように歩き出す。
「先に言っとくと、アメリカの鼻を圧し折ったけど、交渉先は、どこでもいいんだからね。まぁ、いい返事を期待してるよ」
イギリス代表が振り返ると、そこにあやめの姿は、もうなかった。
「彼女の異能が、わかるか?」
「確かに、同じロストですが、力が違いすぎて、理解出来ません」
「でも、あのお姉さんの力は、凄いと思いますよ」
イギリス代表は、この話を進めるべく、帰路を急いだ。
こんばんは
ユニオンのチートに磨きがかかってきました。
第三段階ですが、~の瞳と~の歯車で迷いました。ええ、気持ち的には3日くらい。
実際は、一話からずっと迷ってました。ですが、~の魔眼とか、~の瞳とか、目関連の方が、語呂がいいといいますか、気持ちかっこいいので、瞳にしました。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。