Linkage   作:enz

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育てるセカイ

「会議では、あやめが暴れたそうですね」

「力を見せ付けるってことなら、成功だからいいだろ」

 生徒会長である黒月紫苑と風紀委員長の双月氷華が生徒会室でくつろいでいた。

「ですが、第三段階まで見せる必要があったのかどうか……」

「あやめに任せた時点で、中途半端はしないだろ。それよりも、留学生の件だ」

 イギリスから、喪失者(ロスト)の留学に関する返事が来ていた。その内容は、予想通りだったが、返事が車での期間が、予想以上に、はやかった。

「そうですね。話をしたのが、週の半ばでしたのに、週明けには、もう来るのですから」

「しかも、週末に、途中経過を見るとか言ってるしな。それと、姉妹をどこに預けるかだが、あやめがやりたがってたが、却下だな」

「あやめに、あの程度の力しかない人を育てる能力はありませんから」

 空宮あやめを含めたユニオンのほとんどは、力の先を見せる事は出来るが、道筋を立てて、しっかりと教える事が出来る人物は、いないと言ってもいい。

 出来る事は、その圧倒的な力を見せつけ、必要な事を見せるだけだ。

「それなりのチームに任せないと、先方が文句を言うよな」

「最上位チーム以外は、まだ知らないことが多いですから、やはりあの三チームのどこかですね」

「教えるって意味なら、Linkageが適任だな」

「それでは、先生方を通して、依頼しておきましょう」

 この日、Linkageの与り知らぬ所で、重要な事が、決められていた。

 

 

 

 

 11月3週目の月曜日、教室で朝のホームルームが始まろうとしていた。

「さて、おはようございます。実は、皆さんに、凄いニュースがあります。二人とも、入ってきてください」

 担任である秋萌夕の声に反応し、扉が開く。そこには、見慣れぬ二人の姉妹が立っている。だが、Linkageの五人だけは、見覚えがあった。

「なんと、イギリスの……何でしたっけ?とりあえず、イギリスからの留学生です!」

 ブロンドの髪をなびかせ、姉妹揃って教壇の横へ立つ。

 凛とした雰囲気の姉と穏やかな垂れ眼をした妹が、それぞれ口を開く。

Extra Force Academy(エクストラ フォース アカデミー)、イギリスのロスト専門機関のことです。私は、姉のアリシア・ローレンスです」

「私は、妹のシャルロットです。皆さん、よろしくお願いします」

 姉妹揃って、簡単な挨拶をした。だが、秋萌の生徒は、ただ静まり返っていた。転校生や留学生を受け入れるという経験が無く、雨島にいる人は、ほぼ全てが顔見知りと言っても過言ではない。だが、初めて、新しい人を受け入れた為、どうせっしていいのかわからなかった。

「皆さん緊張してるんですね。二人とも、Linkageと一緒に行動してもらうことになってるので、夜星さん、お願いしますね」

「え?私達ですか?」

「ええ、そうです。黒月生徒会長からの依頼なので、頑張ってくださいね」

 夜星ほのかは、突然の指名に驚きを隠せなかった。

 生徒会長からの依頼であり、唯一面識のある一般生徒である為、断るわけにも行かず、引き受けるしかなかった。

「二人とも、よろしくね」

「こちらこそ」

 その様子を確認し、秋萌は、ホームルームを続ける。

「今日の授業は、無しにしていいそうなので、各チーム自由行動です。先生はしばらく教室にいるので、何かあったら声をかけてくださいね」

 秋萌の話を聞き、それぞれが課題へと出かける中、転校生の姉妹と、Linkageの面々が残る。

「アリシアさん、シャルロットちゃん、こっちに来てください」

「はい、ところで、私達は、これからどうすればいいんですか?」

「喋り方、固い」

 四葉空が、アリシア・ローレンスをじっと見つめ、呟く。だが、全員が同じ事を思っていた。

「せっかくクラスメイトになったんだから、もうちょっと砕けた話し方でいいんですよ」

「ああ、何とかしてみる」

「お姉さん達、よろしくお願いしますね」

 ほのかは、紫苑から連絡が来ているようで、PDAを弄っていた。

「黒月生徒会長が、二人の特訓をするようにってさ。ところで、二人は、どうして雨島に来たんですか?」

「ユニオンの、空宮あやめとの取引です。私達は、ここでの指導法を学ぶよう言われています」

「来てすぐに、もみくちゃにされました」

 ほのか達は、シャルロット・ローレンスの発言に、何も言えず、今日の予定を決める事にした。

「と、とりあえず、二人がどのくらい出来るか見たいから、封鎖領域行こっか」

「あそこの端末で、色々登録する必要あるしな」

「二人とも、詳しいことは、話しながら聞くわ」

 封鎖領域と、他のエリアを分ける為の門へ向かう。だが、一番大事な事を聞き忘れていた。

「二人の異能って何ですか?」

 何をするにしても、何の異能かを知らなければ、教えようが無かった。

「私達は、マテリアルタイプで、私が風属性です。シャルロットは、水属性です」

「アリシアさんは、私と同じですね」

「シャルロットちゃんは、水属性なのね。私達にはいないけど……」

 Linkageには、水属性の喪失者(ロスト)がいない。マテリアルタイプの風・火・土・電気・水属性は、5大属性と呼ばれるほど数が多い。だが、トップチームのLinkage・Labo・Paladinの三チームの中に、水属性の喪失者(ロスト)は一人しかいなかった。

「水属性って多いのに、何か珍しいな。火と電気は、よく見るけどな」

「水無瀬君に、連絡してみる?」

 ほのか達にとって、交流のあるチームにいる水属性の喪失者(ロスト)は、Paladinの水無瀬守ただ一人しかいない。だが、ほのか達の心配は、杞憂に終わる。

「空宮あやめが言うには、基本的な制御訓練が終わる段階らしいので、属性別の訓練は早いと言われています」

「私達に、お姉さん達の基礎を、教えてください」

 雨島学園では、異能の指導法が確立している。だが、他の国では、まともな指導法もなく、ギアを扱う事も出来ない。それが、日本と他国の差だった。

「基礎だけなら、問題ないね。ギアを使ってもらえばいっか」

 ギアから力を引き出す方法は、どの属性でも変わらない。ただ、運用の方法が違うだけだ。だからこそ、水属性の喪失者(ロスト)を指導者として連れてくる必要はない。

 指導方法を考えながら歩いていると、門へとたどり着く。ほのかは、一つの端末へ近づくと、ローレンス姉妹を呼ぶ。

「二人とも、この端末で、チームの登録するから、学生証出して」

 ほのかも、胸ポケットから学生証を出すと、端末に読み込ませる。続いて、ローレンス姉妹が、学生証を入れると、ほのかが端末を操作し、登録を済ませる。

「はい、登録完了。この学生証で、ある程度のことは出来るから、その説明は、追々ね」

 そう言いながら、学生証を返すと、そこには、シルバーエンブレムとチーム名が記載されていた。だが、ほのか達と唯一違うところがある。それは、エンブレムに、大きく『仮』と書かれていた。

 そのやりとりをしていると、後ろから天野司に声をかけられた。

「ほら、ギア借りてきたぞ。練習スペースあるから、試してみろよ」

「これが、ウェポンギアか」

「軽いのですね」

 二人は、初めて持ったギアに、興奮を隠せない。これを一つ作るのに、どれだけのロスタイトが必要か、二人は知らなかった。けれど、知らない方がいい事もある。

「おーい、こっちだ。レクチャーするから来てくれ」

「持てば、何となく、わかる」

 その先には、細川匠と、空が待ち構えている。

「確かに、力を感じますが」

「基本は、普通に、異能を、制御、するのと、同じ」

「主な工程は、引き出す。纏わせる。維持する。だから、まぁ、試してみてくれ」

 二人に言われる通りに、ギアを使う。確かに、力を感じるが、自身の異能を制御するのが精一杯の二人には、力を引き出すという事が、かなり難しく感じた。

 時折力を引き出す事には成功するが、周囲に霧散させてしまったり、その力に驚き、止めてしまったりしている。ほのか達も、こればっかりは手を出せない為、ただ見守る事しか出来ずにいた。

 何度も失敗を繰り返し、何本ものギアを消耗させ、その都度、ほのか達は、代わりのギアを用意した。

 しばらく時間はかかったが、ギアから力を引き出す事には成功した。だが、その代償として、大量のギアが、修理へと回された。

「なんとか、成功しました。しかし、この力、凄いですね」

「ちょっとでも気を抜いたら、すぐに制御を手放してしまいそうです」

「じゃあ、ギアを交換して、封鎖領域に行きましょうか」

 ほのかは、二人のギアを新品にし、門へと促す。

 双子島の封鎖領域には、奥の方に、中型喪失獣(ロストビースト)が生息しており、手前側には、数多くの小型喪失獣(ロストビースト)が生息している。ローレンス姉妹の実力から言えば、手前側を探索する事がちょうどいい。

 ほのか達は、手持ちのギアを使い、簡単な手本を見える。ローレンス姉妹は、その様子を見て驚いていた。

「小型とはいえ、ロストビースト。それを簡単に倒すとは……」

「動物さんを殺しちゃうんですね」

 けれども、姉妹の中でも、驚きの方向が違った。

 ほのか達や、アリシアは、やるべき事と、やらなくてはいけない事を理解している。特に、ほのか達は、これが日常であり、倒すべき相手としか認識していない。だからこそ、動物を殺すという感覚がなかった。

「でも、喪失獣(ロストビースト)って、倒すと風化しちゃうから、動物とは違う気がするんだよね」

「それ以前に、そんな風に考えたことなかったな」

「弱肉、強食。私達には、必要な、こと」

「シャルロット、私達は、必要とされなければ、ただ差別されるだけだ。だから、その為の方法は問わない。甘い考えは捨てるんだ」

 雨島学園の喪失者(ロスト)は、ロスタイトの供給や、バースト対応などで、その必要性が認められている。けれど、雨島以外の喪失者(ロスト)は、未だに根強い差別の対象とされている。だからこそ、アリシアは、シャルロットの考えを甘いと断じた。

 しばらく考え込み、シャルロットは、考える姿勢を示す。

「お姉様、わかりました」

 納得はしていない。だが、理解を示し、口を噤む。シャルロットにとって、これが精一杯だった。

 そんなやりとりを見て、ほのか達は、自分達が、この状況をおかしいとすら感じていない事に、気付かされる。だが、この方法以外で、自分達の居場所を守る為の方法を、思いつかない以上、この状況を続けるしかない。

「とりあえず、能力の制御を確実にしよ。暴走したら危ないし」

「ギアに、力を纏わせた状態で、維持する所までは、さっき練習したから、大丈夫だとは思うけどな」

 実際に、喪失獣(ロストビースト)がいる所へ向かい、何度か戦闘をこなす。元々、ギアだけでも小型喪失獣(ロストビースト)は倒す事が出来る。その為か、大した苦戦もせず、多くの喪失獣(ロストビースト)を倒す。

「ちょっと、疲れました」

「まぁ、初めてだからしょうがないわね」

「二人は、このギアから引き出した力が何かわかる?」

 突然の質問に、ローレンス姉妹は、首を傾げる。確かに、ギアの力を制御する方法を教わったが、その力については、何も聞いていない。

「この力はね、オリジンって呼ばれている力なの。私達喪失者(ロスト)の、力の源って言えばいいのかな。喪失者(ロスト)の第二段階であるネクストまでいけば、このオリジンを使って、生み出す事が出来るようになるんだよ」

「オリジン……、それが、ロストビーストを倒す為に必要な物なんですか?」

「そうだよ。そして、これを、意のままに操れるようになれば、ネクストへ一歩近づけるよ」

「おーい、引き付けて来たぞ」

 匠が、大きな声で叫んでいた。その奥から、中型喪失獣(ロストビースト)が追いかけてきている。本来、ほめられる行為ではないが、ほのか達であれば、何の問題も無く対処できる為、紫苑に前もって許可を貰っていた。

「流石に、接近して倒せとは言わないから、ギアのオリジンを異能の属性に変換して、飛ばしてみて」

「さっきほのかは、ネクストになれば、オリジンを使って生み出せるっていったけど、それは、あくまでも自分自身のオリジンの話で、ギアのオリジンなら、ネクストじゃなくても、変換できるから」

 ローレンス姉妹は、何度かギアを振りながら、属性への変換を試みる。オリジンの操作を体感した事で、感覚として理解したのか、ギアのオリジンを属性へと変換する事に、成功する。けれど、かなりのロスがあるのか、しようしたオリジン量に比べ、変換後の量が、圧倒的に少なかった。

「難しいですね。ちょっとしか、水が出来ません」

「まぁ、上達すれば、変換効率もよくなるから」

「なぁ、引き付けるのも楽じゃないんだ。とりあえず、試してくれ」

 匠が根を上げた為、ローレンス姉妹は、遠隔操作に挑戦するが、うまくいかない。小型と比べると、目標が大きい為、辛うじて命中する事はあるが、蚊に刺された程度しか感じていないらしく、匠を追い続けていた。

 二人の疲労を感じ取ったのか、ほのかが匠に対し、休憩を挟む事を伝えると、匠は、異能で刀を作り、中型喪失獣(ロストビースト)を、一刀の下に斬り伏せた。

 作り上げた刀を風化させ、合流する。だが、その光景を見たシャルロット姉妹は、目を丸くしている。自分達が、苦労したにもかかわらず、倒せなかった相手を、たった一撃で倒した事を、信じられなかった。

「ある程度のレベルのやつなら、このくらいは、簡単にこなすぞ」

 休憩を挟み、特訓を再開する。多少の進歩は見られたが、制御を完全にものに出来はしなかった。

 

 

 

 

 封鎖領域から戻り、食堂でいつもの様に反省会を開いていた。

「今日一日で、全部マスターされたら、私達の立場がないですよ」

「だが、期限が決められていないとはいえ、そうゆっくりとはしていられないのです」

「最終的な期限は無いですけど、すぐに経過確認に、機関から人が来ますし」

「二人とも、今日で感じたとは思いますが、私達には、この雨島諸島と、ギアが揃った環境があるからこそ、制御訓練の後に、この力を伸ばす為の特訓が出来るんです。正直に言えば、この環境がない場所で、力を伸ばす事は、出来ないと思います」

 ほのかは、事実を口にする。ローレンス姉妹は、実際に、今まで以上のペースで、異能の制御をものにした事を実感している。

 だからこそ、空宮あやめは、その環境を手に入れる為の手伝いを、取引材料に選んだ。

「ですが、私達は、強くならなければいけないんです」

「私は、強くなる為の下準備の為に、留学させられたんだと思いますよ」

「でも、お姉さん、私達が、力を付けないと、ロストアイランドを国のものに出来ないんです」

「それは――」

「ストップ。その議論は、置いとけ。答えを出す意味のあるものじゃない。話を聞く限り、空宮さんが、何かを企んでるんだろ。とりあえず、今はここで特訓したっていう事実があればいいだろ」

 険悪な雰囲気になる前に、司が止める。この後、微妙な雰囲気のままだったが、夕食を取る頃には、そんな雰囲気も和んでいた。

 

 

 

 

 双子島にある人気の無い海岸に、一艇のボートが接舷した。特定の所属を示さない服装をした五人の男達が、辺りを警戒している。

「周囲に人影無し」

「よし、上陸するぞ」

「作戦内容を理解していな」

 隊長らしき男が、隊員を振り返り、確認すると、部下が、頷き、理解を示す。

「その内容、是非教えて欲しいですね」

 声と共に、一人の女生徒が、現れた。

 男達は、銃口を向け、引き金を引くが、雷光が轟き、弾丸の全てを撃ち落された。そして、何事も無かったかの様に、女生徒は、話を続けた。

「鼻を圧し折られたアメリカか、何らかの賠償狙いのイギリスか、いつもの自称国籍不明軍のどれですか?」

「何者だ」

「生徒会長の黒月紫苑です」

 男達は、返事が返ってくると思っておらず、動揺する。だが、隊長らしき男が、ふと、我に返る。

「なら、話は早い。我々と来てもらおう」

「今、攻撃が無駄に終わったばかりで、よくそんなことが言えますね」

 相手は、この学園の生徒会長。それは、バースト対応を行うユニオンの一人だと言う事を意味する。だが、男達は、下された命令がある以上、引き下がる訳には行かない。

「我々の母船が、この島に狙いを付けている。被害を出したくなければ、大人しく従え」

 その言葉に紫苑は、ふと、遠くを見つめる。何気ない動作だが、男達に戦慄が走る。その方向には、自分達の乗ってきた船が停泊している。

「貴方方が乗ってきた船の位置は、把握してますよ。そろそろ時間ですね」

 そういうと、紫苑は、船の方向に腕を伸ばす。腕に電撃が走り、帯電する。その光は、次第に大きく、激しくなる。

 男達は、紫苑が何をしているのかは、わからない。だが、引き起こそうとしている結果は、予想が付く。

「待て!」

 男達の言葉と同時に、雷を放つ。その一撃は、海を割り、遠くで爆発を引き起こす。

「さて、ここからでは、よくわかりませんね」

 紫苑の黒く長い髪が、顔の右側を覆い隠し、男達には、その表情が読み取れない。だが、見えている範囲ですら、恐怖を与えるには、十分だった。

「お前の目的はなんだ!」

「平穏……ですかね。とりあえず、この後約束があるので、終わらせましょうか」

 男達に激痛が走る。体の電気信号を、外部から強制的に操られる。

「や……やめろ。何をする」

 隊長らしき男の後ろで、部下が銃を向け合っている。顔は恐怖に引き攣り、必死の抵抗をするが、その全てが無駄に終わる。

 銃声が鳴り響き、唯一自由になっていた首より上から、力が抜ける。だが、紫苑によって体を動かす電気信号が掌握されている為、部下達の銃口が、隊長らしき男へと向けられる。

 抵抗が無駄だと悟ったのか、最後に紫苑へ向けて、言葉をぶつける。

「化物め!」

 その言葉と同時に、引き金が引かれ、男達が、ただの屍と化した。

「紫苑が直々にでるなんて、珍しいな」

「多少時間がありましたから。でも、掃除が大変なんですよね。母艦の方にも、所属を示すデータはありませんでしたし。氷華、約束があるので、後を、お願いしていいですか?」

 少し離れた物陰から氷華が出てくる。だが、億劫そうだった。

「まぁ、やってやるさ。さっさと行け」

「それでは、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 挨拶を済ませ、待ち合わせへと向かった。

 

 

 

 

 この日の夜、ほのかは、紫苑によって食堂へ呼び出されていた為、誰もいない食堂の入り口でまっている。

「何か光った様な……」

 ほのかは、少し早く来たようで、待ち合わせの時間まで、まだ少し時間がある。

 しばらく待っていると、ほのかを呼び出した人物がやってきた。

「お待たせしました。ちょっとした急用を済ませてきたので、遅れてしまいました」

「こんばんは、黒月生徒会長」

「こんばんは。ここは冷えますから、こちらへどうぞ」

 食堂の周りには、三つの建物がある。男子寮と女子寮、そして、一般には詳細が公表されていない建物。その最後の一つへと案内される。

 学生証をかざし、入り口の鍵を開ける。中は、他の寮と違わない造りをしていた。

「ここは、私達ユニオン用の寮です。バースト対応などで生活が不規則ですし、かなりの変わり者が多いですから。私を含めてですが」

 その発言に、ほのかはただ笑う事しか出来なかった。

「あはは。でも、それなら公表してもいい気がするんですが」

「ある意味特別扱いですから、反感を買ってしまいますからね」

 寮の1Fにある談話室へ連れて行かれた。二人は、向かい合う様に座り、紫苑が話を切り出す。

「それでは、夜星さん、今日の報告をお願いします。レポートは読ませていただきましたけど、口頭でも、お願いします」

「はい。纏っているオリジンを見ても、その質が桁違いになりました。ですが、まだまだです。間接制御や、オリジンの掌握には、時間がかかると思います」

「与える情報を制限した上での指導は、大変だと思いますが、頑張ってくださいね」

「……はい」

 ほのかは、後ろ暗い気持ちになりながらも、従う。もし、紫苑によって伝える事を禁止された情報を伝えた場合の事を、考えたくなかった。

 ほのかを見送り、談話室には紫苑だけが残る。

「成長しすぎても、困るんですよ。主導権は、雨島が握り続ける必要がありますから」

 その笑みは、他者の背筋を凍らせる程だが、それを見たものは、誰もいなかった。

「紫苑、話は終わったか?」

「氷華ですか。先ほどは、押し付けてしまって、ごめんなさい」

「気にするな」

 そういうと、紫苑と向かい合うように座る。その席は、先ほどまでほのかが座っていた場所だった。

「この前の会議以降、思い出したかの様に、人間派の派生団体が動き出したらしいぞ。イギリスからの留学生を受けれたことで、日本の優位を揺るがす気かってことらしいぞ」

「ANTの恩恵を受けている人達が、喪失者(ロスト)を非難するなんて、おこがましいですね」

「先を考えず、目先の利益だけを考えてるってことだろ。物事を長い目で見ない馬鹿共だ」

「もっとも、私達の言う利益は、喪失者(ロスト)にとっての利益ですけどね」

「だが、一応は普通の人間にも利益はあるだろ」

 そういいながら、二人は自嘲気味に笑う。喪失者(ロスト)だけの利益であれば、批判しかでない。だが、ロストアイランドを手にした他国を味方につけるという事は、その分野において、発言権をもう一つ手に入れるという事に近い。

「それにしても、たった一週間で、結果を確かめる為に、視察を送ってくると気だとはな」

「それに関しては、ALUの方で対処しますから、任せましょう」

 それを最後に、二人は自室へと戻った。




こんばんは

今更になって、かなり前のネタを再利用しようとしたりしています。
元々は考えていた話ですが、そこまでの道筋がやっと決まったというべきでしょうか。

とても寒い時期ですが、今年の更新は、リアルでの諸事情もあり、目標の一週間を守れそうに無いと、先に言わせていただきます。
年末年始は更新が不定期になると思いますので、そこは、ご了承ください。

さて、今回もお付き合いいただきありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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