Linkage   作:enz

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企てるセカイ

 11月も終わりに近づいた頃、一つの団体が、世間を賑わせていた。

「かの獣は、我々を更なる高みへ導く為に天より使わされたものである。あの者達は、天よりの使いを殺すという大罪を犯している」

 失獣教団と呼ばれている宗教団体が、その勢力を拡大していた。

 喪失獣(ロストビースト)を盲目的に崇め、バースト対応でやってくる雨島関係者や、ALUの関係者に対し、

喪失獣(ロストビースト)の討伐をやめるように騒いでいる。

 人間派と違い、喪失者(ロスト)に自体に対しての敵意は持っていない。ただ、喪失獣(ロストビースト)を尊い存在であると、主張しているに過ぎない。けれど、目的の為に、雨島に良い印象を持たぬ人を煽ろうとし、多くのメディアを利用する事で、教団の主張を広めている。

 

 

 

 

 雨島に存在する研究所の中で、一つ、他の研究所と比べ、圧倒的に厳重な警備に守られている研究所がある。そこには、雨島の地下へと続く道が存在する。

「まったく、かなり時間がかかったな」

「ですが、これで4個目です」

 三つのロスタイトが厳重に保管されている部屋で、黒月紫苑と双月氷夜が新しいロスタイトを保管容器に移していた。

 既に容器に保管されているロスタイトには、それぞれ土・風・水を纏っている。それと比べ、新に容器に移しているロスタイトは、光り輝いていた。

「光精型が、地下に逃げるから、手間取っちまったな」

「ですが、これで七星も他の仕事に移れますね」

「残りの3体は、発見出来てるのか?」

 雨島諸島を構成する七つの島には、それぞれ特殊な幻獣型が一体づつ存在していた。その形状から、精霊型と呼ばれ、他の幻獣型と比べ、純度の高いロスタイトを核にしている。それは、ただ保管しているだけにも関わらず、異能の力を発していた。

「間引きの際には、遭遇していないそうです。ですが、私達なら、倒すのにそう苦労はしません。ですから、気長に待ちましょう」

「同意したいが、長時間、地下まで追いかけた俺達が言っても、説得力のかけらもないな」

「ふふ、七星が自由になったんですから、よしとしましょう」

 光り輝くロスタイトが入った容器を一瞥し、二人は研究所を後にした。

 

 

 

 

「ですから、何度言われても、部外者を雨島に入れるわけにはいかないんですよ」

 職員室で、秋萌夕は、運悪くしぶとい取材の電話につかまっていた。

 失獣教団の台頭を機に今まで謎に包まれていた雨島を取材しようと、多くのメディアがアポを取ろうとしていた。

「警備とか、安全の維持とかを頑張ってはいますが、それでも絶対ではないので、島に来ることは、許可出来ないんです」

 秋萌の悲痛なまでの声が響き渡るが、電話の相手も引き下がろうとはしなかった。

「それでは、まだ仕事があるので、失礼します」

 秋萌は、一方的に電話を切った。そうしなければ、電話から解放される気がしなかった。

 

 

 

 

 生徒会室では、紫苑と双月氷華が打ち合わせをしている。

「職員室も大変だな」

「他人事ではありませんよ。一般生徒がバースト対応に出た時に、ずっと横で叫んでいるんですから。もし集中を乱されて、怪我でもしたら大変ですよ」

「その時は、人を襲うようなやつらは、天よりの使いじゃないって言ってやればいいさ」

 紫苑は、氷華の発言を聞き、何かを思いついた様で、黒い笑みを浮かべている。

 滅多に見ないその笑みに、氷華は、軽く引いていた。

「なぁ、すっげー悪いこと思いついただろ」

「ふふ、悪いことではありませんよ。彼らに、喪失獣(ロストビースト)がどのような存在か、それを身をもって証明してもらうだけですよ」

 そういうと、今までに取材要請をしてきたテレビ局の一覧を取り出す。その中には、どういった内容で取材をたいのかも、記載されている。

「まったく、人が悪いな」

「氷華ほどではありませんよ。せっかくですから、テレビ局にも。バーストを取材させるべきでしょ」

 二人は、悪い笑みを浮かべ、計画を立てていく。ロストアイランドを近くに持つ国は、他の国と比べ、バーストの発生率が高く、迷うほどの数が存在する。

「紫苑、恐らく取材班の護衛くらいは出すべきだから、生徒の移動費も考えると、近場がいいよな」

「ええ、でしたら、ここなんてどうでしょう」

 紫苑は、一つのデータを表示させる。けれど、氷華は難色を示す。

「ここは、ANTの施設が近いだろ」

「ですが、近場かつ壊滅時の被害が大きい場所でないと、教団は叩けませんよ。それに、ある程度は身を削った方が、追求も減らせます」

「それはそうだが……、まぁ、誰かに後詰をさせればいいか。それに、結果次第じゃ、喪失者(ロスト)の有用性も示せるな」

「ええ、万全を期しておきましょうか」

 計画の大筋は決まり、後は、現場に向かうチームに了承を取るだけだ。

 

 

 

 

 数日後、モニター越しではあるが、失獣教団の代表の一人と紫苑の対談が放送された。

「我々は、喪失獣(ロストビースト)こそ、世界をより高みへと導く為の天よりの使いだと考えている。何故なら、あの姿を見ればわかるだろう。普通の動物や、恐竜の姿をしたものもいる。けれど、存在しないとされる、想像上の獣をした個体すら存在する。それが、何よりの証拠だ」

 紫苑は、笑みを崩さずに、ただ聞き続けている。最終的に、どのような結論に持っていくかは決まっている。それまでに、とことん喪失獣(ロストビースト)は、安全な存在だと主張して欲しかった。

「つまり、バースト対応などといい、喪失獣(ロストビースト)を殺すから、凶暴になるのであって、いくらバーストと言っても、何もしなければ、我々を導いてくれるはずだ!」

 教団の代表が、この言葉を発した瞬間、紫苑の左目が、鋭い光を発した。だが、ほとんどの人は、その事に気がつかなかった。

 そして、その重い口を開く。

「なるほど、興味深いですね」

 教団の代表は、紫苑から肯定的な言葉が出た事に驚くが、すぐに気を取り直し、更なる追い討ちをかけようとする。だが、その前に、紫苑が続ける。

「何もしなければ、凶暴にならない。では、貴方方で試してもらいましょう。次のバーストは、雨島学園の一般生徒が参加する予定でしたが、それを取り止めます。その代わり、失獣教団の全員で、予定地に赴き、身をもって証明してください」

 教団の代表は、口を開いたまま絶句した。よもやそんな返しが来るとは思っていなかった。だが、ここで引き下がれば、ただ騒ぐだけの迷惑な団体だというレッテルを貼られてしまう。それだけは避けなければいけない。

「わかった。では、本部へ持ち帰り、対応を協議しよう」

「逃げるのですか?貴方方は、何故この話に乗らないのですか?それは、つまり、別の目的があって、騒いでいるのですか?」

 教団の代表は、苦虫を噛み潰す様な顔をしている。代表として、この場に来ているが、教団の教祖ではなく、幹部の一人に過ぎない。さらに、この男は、教団の目的よりも、騒ぐ事により入ってくる資金を使う事が目的だった。だからこそ、内心では、紫苑に負けを認め、立ち去りたかった。だが、それをすれば、教団からの追求にあう。それは、避けなければいけない。けれど、この話を、独断で決めるわけにはいかない。何故なら、教団の目的は、信者を集める為の、建前に過ぎないからだ。

「教団の全員を向かわせるとなると、時間もかかりますから……」

「国内でのバースト予報は出ていますから、それを見て、決めればいい話です。では、全員を向かわせて、バーストが起きなかった場合の費用は、雨島で持ちますから、請求してください」

 紫苑は、着々と追い詰める。ぼろを出したり、教団の非を認めれば、それも良し。話に乗れば、後は決めたプランを提示するだけだ。

「……わかった。では、予報を頼りに、全員で向かおう」

「では、詳しい情報をお送りします」

 二人の会談が終わる頃を見計らい、番組の司会が、口を挟んできた。

「黒月生徒会長、我々に、バーストの取材をさせていただけますか?」

 教団の代表は、司会者を心の中で恨んだ。取材による証拠が無ければ、行った事にするなど、造作も無い。だが、第三者による証拠が作られてしまえば、嘘を吐く事すら出来なくなる。

「ええ、構いません。では、取材陣には、こちらで護衛を用意します。但し、喪失獣(ロストビースト)には、手を出させませんので、そこだけは、了承してください」

 それでは、護衛の意味が無い。誰もがそう思っていた。けれど、紫苑が思い出したように続ける。

「ああ、忘れていました。もし、教団の幹部以上の方が救援要請をするか、全滅した場合は、通常通りに、対応をさせていただきます」

 教団が全滅するまで待つ。紫苑は、そういいきった。それは、目の前で人が死んでも、一切動かない。そういう事だった。

「えっと、取材許可を貰ったので、詳細は、後ほど決めましょうか。では、次のコーナーです」

 紫苑の発言に、ディレクターがすぐに次へ進むよう促した。

 番組側としては、視聴者が紫苑の発言の意図に気付く前に、他の話題で流してしまいたかった。その甲斐あってか、一部の視聴者からのクレームはあったが、全てを雨島のせいにして乗り切る事が出来た。

 雨島側からすれば、一般人が連絡を取る方法は皆無なので、痛くも痒くも無く、ANT本社にクレームをつける人もいたが、教団のせいにするか、言いくるめるかの方法で、対処しきる事が出来た。

 

 

 

 

 教団と雨島学園のやり取りが終わり、検証の日程が決まった。それを受け、紫苑は、三人の生徒を呼び出す。

 生徒会室には、紫苑の他に、Linkageのリーダーである夜星ほのか、Laboのリーダーである日向智花、Paladinのリーダーである最上誠の三人が呼び出されていた。

「皆さんに、単刀直入にお伺いします。既に話は聞いていると思います。この依頼、受けますか?受けませんか?」

 実際に、教団との話は、学園中を駆け巡っている。だからこそ、紫苑は余計な会話を省いた。ただじっと待った。依頼の内容を知っており、その判断を迫られている三人を見つめながら。

 そして、数分が経ち、ほのかが、口を開いた。

「教団が全滅するまでは、喪失獣(ロストビースト)を倒すなということは、防御に徹しろということですよね。そして、教団が襲われても、見ていろと……」

「ええ、その通りです」

 再び生徒会室を沈黙が支配する。人を見殺しにしろという無いように、決断出来ずにいる。だが、ほのか達が断れば、他のチームへと依頼が出されるだけであり、結局は誰かが見殺しにするはめになる。それを理解しているからこそ、断る事も出来ずにいる。

「黒月生徒会長、ユニオンは動かないのですか?」

「ご存知の通り、七星は、地下ですし、他の3チームも、各地のバースト対策や、ALUへの協力といった仕事がありますから、今のところ、ユニオンは動けません」

 紫苑は、真実を隠したまま説明をした。教団を叩く以外の目的をしらないからこそ、人の死を目の当たりにした時の悲壮感を表す事に繋がり、真実味を持たせる事が出来る。そう考えていた。

「なら、私は受けます。結局、誰かがやらなくちゃいけないことですから」

 ほのかが口火を切った。ここがほのかの居場所である以上、断るという選択しは、最初から存在しなかった。

 他の二人も、悩んではいるが、断る事が出来ず、続けざまに承諾する。

「私達も、受ける」

「まぁ、受けるしかないな」

「ありがとうございます。それれでは、詳細を送りますので、目を通しておいてください。くれぐれも、予定外の行動は避けてくださいね」

 紫苑は念を押す。どれだけ酷な事を強いているかは理解している。けれど、これは必要な事だと、自身に言い聞かせる。

「失礼します」

 ほのか達は、生徒会室を後にした。

「理由はどうあれ、研究成果を試せる機会ではある。感情は度外視して、挑むさ」

「日向、ずっと聞こうと思ってたんだが、たまに、レーザーみたいなので、関門島の川を焼き払ってないか?」

「あ、私も気になってた。あれ何?」

「あれは、舞の技だ。勝手には教えられない。まぁ、夜星ほのかなら近くで見ればわかると思うがな」

 そういうと、報告する為に、それぞれの仲間の元へ向かう。

 

 

 

 

「皆知ってると思うけど、教団関連のバーストに、テレビ局の護衛で行くことになったから。それで、アリシアさんとシャルロットちゃんは、居残りだって。双子島までなら、封鎖領域で好きにしていいってさ」

 ほのか達であれば、バースト対応に出ても問題はない。だが、ローレンス姉妹は、バースト対応に出られるほどの実力は無い。

「ちょっと気が重いな。人を見殺しにしろってことだろ……」

「割り、切れ、ない」

「まぁ、結局誰かがこんな思いするなら、自分達でってのは、ほのからしいかな」

「そうね。ほのかも辛いんだから、責めちゃかわいそうよね」

 ほのかを責めるどころか、気を使う。誰もが、手の届かない範囲の事で、諦めていた。

「黒月生徒会長に、念を押されたけど、ユニオンが来ないなら、現場判断が出来るからね」

 ほのかは、最初から服従する気はなく、ほのか自身の意思で動く気しかなかった。

 その言葉を聞き、天野司達は、軽く笑っている。

「ふっ、天邪鬼め。まぁ、それなら特訓の成果も見せられるな」

「二人の指導しながら、色々試したものね」

 各々が、試したい事を考えながら、バーストの準備を進める。ローレンス姉妹は、若干の疎外感を感じていたが、自身の未熟さが原因である為、奥歯をかみ締めながら耐え、力をつけるしかない。

「司は、特訓って言いながら、考え事ばっかりしてたよね」

「ああ、まだわかってないんだがな。敷居とか垣根がな……」

「相談する気になったら、声かけてね」

 ほのかは、無理に聞き出そうとせず、司が自分から離すのを待つ事にした。

 

 

 

 

 12月に入り、予定されていたバーストの日がやってきた。

 今回の件が公表されてから、対象地域の住民や、企業関係者からの苦情がANTや雨島へ押し寄せたが、その全てを教団へとなすりつけ、平穏とは呼べないまでも、滞りなく業務を遂行してきた。

 反対に、全ての苦情を押し付けられた教団は、その対応に追われ、さらに、バーストへの恐怖から、多くの団員が離れた。しかし、教祖や幹部といった、甘い汁を吸い続けていた人物は、離れようとしたが、外部の圧力や、内側からの引き戻しにあい、離れる事が出来ず、恐怖に震えながら過ごしていた。

 教団に所属している人を一箇所に纏めるわけにも行かず、数箇所に分散させ、それぞれの場所に、テレビ局のスタッフの一チームにつき一人の護衛を配置した。ほのか達は、インカムで連絡を取りながら、バーストが始まる時を、刻一刻と待っている。

 護衛の条件に、護衛の人物を映像に収めないという条件がついていたので、取材される事無く、周囲に気を配りながら待っていると、一人の少女が、ほのかに話しかけてきた。

「おねえちゃんは、あまじまのひと?」

「え、ああ、うん、そうだよ」

 予測地域の人は、既に避難しており、ここにいるのは、護衛の喪失者(ロスト)とテレビ局のスタッフ、そして、教団関係者だけだった。

 ほのかは、この子が、教団の関係者だと、理解した。

「あのね、すごいどうぶつさんがね、しあわせにしてくれるんだってさ」

「そっか、でも、ここは危ないから、離れた方がいいよ」

「うん。それじゃあ、あとでね」

「う……うん」

 子供は、親と思われる人の元へと駆けて行く。その様子を見守り、ほのかは、あの子供を守る為に、自身の感知出来る範囲を広げ、備える。さらに、インカムを使い、仲間達に信者の中に子供がいると事を伝える。だが、通話にノイズが走る。

 そこまで大きいノイズではないが、通話に関しては、邪魔になる。聞こえない訳ではないが、バーストが始まった後に大きくなると、悪影響が出かねない。そう考えていると、背後から声が聞こえる。

「Linkageリーダー夜星ほのか、紫苑に言われたはずだよ。絶対に手を出すなって」

 ほのかは、その声の方向を見ると、かつて雨島の発電所を襲撃した人物と、瓜二つの少女がいた。

「私は、ElementalKnightsの稲穂鳴。今回の、後詰兼監視役で来てるから、余計なことはさせないよ」

「余計なことって、どういうことですか!」

「カメラがあるから、余計なことを言うつもりはないから。とにかく、指示があるまで動かないで」

 ほのかが護衛をしているカメラマンは、鳴を撮ろうとカメラを向けようとするが、途中で体の動きが止まってしまう。

「条件に、喪失者(ロスト)を撮るなって言ったはずですよ。次は、そのカメラを壊しますよ」

 鳴が電気を身に纏う。それが、PDAの不調の原因であり、カメラマンの動きを封じた正体だった。

 そして、衝撃と共に、バーストが始まった。

 光の柱がそびえ立ち、教団から歓喜の声が聞こえる。喪失獣(ロストビースト)の出現が始まると、その声はよりいっそう大きくなった。

 鳴がいつの間にかいなくなっていたが、ほのかは、一先ず護衛の仕事をする為に、スタッフを少し下がらせる。

 小型喪失獣(ロストビースト)が教団に近づく。喪失獣(ロストビースト)を迎え入れるように、多くの信者が両手を広げる。だが、歓喜の声が、悲鳴に変わるのに、時間はかからなかった。

 一番前に居た信者が、その牙に貫かれ、肉塊と化す。ただ時間が止まったかの様に、信者はその光景をみて動きを止める。だが、喪失獣(ロストビースト)だけは動き続けた。血の匂いが広がり、一部の信者が、現実を直視すると、今までの考えを捨て去り、我先にと逃げ始める。

 ほのかは、その光景を見て、助けに入ろうとする。だが、力を使おうとした瞬間、稲光がほのかを包み込む。

「――――――」

 体中を激痛が走り、倒れこむ。空を見上げると、他の場所でも同じような光景がおきているようだった。

 体を動かす事が出来ず、力を使う事も許されなかった。ただ前を見る事しか出来ず、人が殺されていく光景を見せ付けられた。

「稲穂さん……なんでこんなことを」

「決まりだからだよ」

 鳴は、そういいながら、カメラの前へ出る。その姿を晒しながら続けた。

「教団が全滅するまでは、テレビスタッフの護衛には、それ以外をさせないよ。一般生徒じゃ、私の力からは逃れられないからね」

 それは、ほのか達への言葉ではなく、テレビを見ている人へ向けられている。全ての批判を鳴自身が受ける為に。

 ほのかは、先ほどの子供と目が合う。恐怖に打ち震えているが、ほのかには、ただ見つめることしか出来ない。その子供が、喪失獣(ロストビースト)の牙に貫かれ、地面に転がる。ほのかは、己の無力さを感じながら、嘆く事しか出来なかった。

 教団の大半が死に、全滅まで後少しとなった時、ほのかの前に、一人の人物が這って来た。

「げふぉ……わ、私は……かん、ぶの、一人……だ。私を、助けて、くれ」

 全てを言い切り、願いむなしく事切れる。体から力が抜け、動く事は無かった。だが、その言葉には、重大な意味がある。

「稲穂さん。教団の全滅、もしくは、幹部以上の人からの救援要請があればいいんですよね!」

 鳴の返事を待たず、ほのかは、自身の力を発揮する。風を撒き散らし、小型喪失獣(ロストビースト)を殲滅する。

 その様子を感じ取ったのか、他の場所でも異能の力が振るわれる。

 鳴は、その様子を見ても、止めようとしない。ほのかの言うとおり、幹部以上からの救援要請があるから、止める必要がなかった。だが、無事に立っていられるのは、一箇所につき、数人だけだった。だが、鳴は、何かを見つけたようで、死体の山を歩く。目的の場所にたどり着くと、PDAを使い指示を飛ばす。バースト範囲外には、ANTやALUの関係者が待機していた。

「皆、まだ人が残ってるから、これ以上の被害は出させないよ!」

 涙を堪えながら、決意を口にする。それに答えるかの様に、インカムからの返事が聞こえた。視界の端に、ANT関係者が何かをしているのが見えた為、その付近を重点的に守る。これが、今出来る精一杯だと考えていた。

 テレビスタッフは、バースト対応に移行した後の喪失者(ロスト)を撮影する事は、許されている為、ほのか達をカメラに収める。

 ほのか達は、先ほど鳴によって与えられたダメージをものともせずに動き回る。小型の次に、中型喪失獣(ロストビースト)が出現したとしても、一切てこづらずに殲滅を進める。それは、たとえ大型喪失獣(ロストビースト)が出現しても変わらなかった。

 一際大きく空間が震える。柱から大きなかけらが剥がれ落ち、幻獣型が多数出現した。

 インカムを通し、矢吹舞の声が聞こえる。

「私が、空の敵をなぎ払います。幻獣型と地上をお願いします」

「夜星ほのか、舞の準備が出来るまで護衛にはいる。飛んでるやつは、準備が出来たら降りろ。巻き添えになるぞ」

「別に、今回はリーダーとか決まってないよ。とりあえず、チーム単位で判断して動いて。フォローはするから、連絡はちょうだい」

 全体のリーダーに任命されたわけではないが、大まかな方針を示す。けれど、それだけで十分だった。

 幻獣型と地上とで分担し、対処を始める。テレビスタッフを残して、生存者は退去している為、そこだけに注意し、散開した。

 舞は、智花に周囲の警戒を任せ、意識を集中する。大気中に、空気の塊をいくつも生み出す。空気の塊は、レンズの様に光を集中させる。集中させた光を、幾重にも束ね、何度も集中を繰り返す。その光は、膨大な熱量を持つ。

「準備、出来ました」

「全員降りろ」

 智花の声に従い、高度を下げる。その結果、上空にいる喪失獣(ロストビースト)に対して、射線が開く。

 舞は、集めた光を、空気の塊の中で緩やかにカーブさせる。

「『レーザー』ですよ」

 空気を使い塞いでいた光の出口を開く。その光を根元から曲げ、喪失獣(ロストビースト)をなぎ払う。

 光を浴びた喪失獣(ロストビースト)は、体を焼かれ、核であるロスタイトだけを残した。

「関門島で見たのって、これだったんだ」

 ほのかは、その仕組みを理解した。それと同時に、膨大で精密な制御に驚く。

 舞は、さらに広範囲から光を集め、砲門の数を増やす。そして、一点へ向け照射する。

「割れてください!」

 バーストの中心となる光の柱へぶつける。

 柱との接点が、高熱を帯びる。そして、柱が耐え切れなくなり、轟音と共に、外郭が一枚剥がれ落ちた。

「一枚が限度ですか」

「だが、一枚剥がせれば、上出来だ」

 今まで破壊する事が出来なかった柱の外郭を破壊した事で、自然と士気が上がる。

 そんな中、司は、何かに気付きつつあった。

「風でレンズを作り出したのか。でも、レンズを作るんなら、土属性の範囲だよな。ネクストになって、いろんな垣根を越え始めてる。属性によっては、物質型(マテリアルタイプ)貯蓄型(チャージタイプ)も関係ないしな」

 頭で考え事をしながらも、体を動かす。襲い来る幻獣型を『青炎剣』を使い、焼き斬る。それは、今までと違い、炎の発する熱すらも制御し、相手へと向ける。その結果、自身へのダメージを無くす事となった。

 司は次の相手を探いていると、近くにいた一体の幻獣型が司の方へ接近してくる。

「ちょ!幽霊なんているのかよ。ほのか、こいつの体、風か?」

 浮遊しながら移動してくるそれは、向こう側が透けており、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 司は、水精型との経験から、風を体とした喪失獣(ロストビースト)だと判断するが、ほのかからは、願いとは違う答えが返ってくる。

「そっちに、風を司るのは、いないと思うよ」

「え……じゃあ、幽霊って何?」

 そういいながらも、炎の弾丸を撃ち出す。けれど、幽霊の体を通り抜け、在らぬ場所へ飛んでいってしまう。

 喪失獣(ロストビースト)の証である核は、複数の角を模しており、その姿から幻獣型に分類されるのは間違いない。しかし、風を纏っている訳でもなく、体を構成する物質がわからず、攻めあぐねている。

 正体不明の幽霊に対し、戸惑っているのは、司達だけではなかった。

「幽霊……物理的に干渉できない物で体を構成しているのは、確認出来てるだけでも、精霊型の光精と闇精だけなのに……」

 鳴は、前例の無い個体に、鳴自身が対処するべきか戸惑ってる。そこで、PDAを使い、連絡を取る。

「幽霊型ともいえる個体が出てきたよ。どうする?」

「危ない時には、対処をお願いします。苦戦しているのであれば、力の差を示す機会になりますから」

「りょーかい」

 紫苑から返事があり、しばらく様子を見る事になり、重傷者の対処を優先する事にした。

 鳴と紫苑の考えなど露知らず、司は、幽霊型の対処を考えている。

「幽霊型か……なんか冷たい風が来るんだが、風属性じゃないのか?」

「風属性じゃないことは、確かだよ」

 ほのかも、司の元へやって来る。その目で、肌で、感じ取り、確証を得る。けれど、一つの可能性が消えただけであり、相手の力を判別出来た訳ではない。

「ほのか、一つ試したい。だから、持ち場に戻ってくれ」

「わかったけど、危なかったらすぐに呼んでね」

 ほのかを持ち場へ戻らせ、幽霊型へ向き直る。

「植物とか氷とかも入るんだ。喪失獣(ロストビースト)にも、冷気とか氷とかいてもいいよな。とりあえず、水系と風系だな」

 相手の力、全てを知る必要はない。間接制御がある以上、一つのものだと決め付けずに、幅を待たせたほうが、とっさの対処もしやすい。そう考え、対処法を考える為に、頭を切り替える。

「UーーーRAーーー」

 幽霊型から、冷気が迫り来る。

 司は、炎を壁にし、冷気を緩和しようとするが、炎自体が凍る。

「な……炎がそのまま凍った」

 氷の炎が砕け散る。それは、司の制御を完全に離れていた。

 全てを凍らせる冷気が司へ迫る。炎を壁にするが、それが通用しない事は理解している。けれど、時間を稼ぐ事は出来る。その時間を利用し、距離を取りながら、自身の取れるありとあらゆる方法を試す。だが、灼熱の青い炎を含め、温度では対処できない事だけがわかった。

 時折、冷気が司の体まで届くが、他の喪失者(ロスト)の体に干渉する際に、オリジンが邪魔する様に、司自身の体を凍らせるには、時間がかかるようで、少しずつ侵食する様に、凍り付いていく。

「まるで、凍らせる異能みたいじゃ……」

 そこまでを口に出すと、一つの仮説が組みあがる。だが、それはとても信じ難い事だった。

「凍らせる……凍結……不明型(アンノウレッジ)……でも、喪失獣(ロストビースト)は、物質型(マテリアルタイプ)しか確認されてないはずだ」

「URAMEーー」

 司は、自身の仮説を信じまいと、抵抗する。だが、司の仮説を肯定するかの様に、周囲にあるもの全てを凍らせる。幽霊型がその力を振るうたびに、仮説が証明されていく。

 周囲を見ると、幻獣型の数も減っている。けれど、油断できる数ではない。今の司に出来る事は、幽霊型をより長く引き付け、他の手が空くのを待つ事だけだった。だが、段々と氷の侵食が広がると同時に、一つの不安がよぎる。

 不明型(アンノウレッジ)に似た力を持つ喪失獣(ロストビースト)が、この一体だけだとは限らない。さらに、ユニオンが来ているにも関わらず、手を出さないという事は、何かしらの事情があると判断せざるを得ない。

「熱線すら凍らせるか。そもそも、実体が無いし、火や電気見たいなエネルギーでもない。どうやって焼けばいいんだよ。ああ、まったく、あいつみたいに、焼くって概念なら、苦労しないのに……」

 幽霊型も、素早く移動しながら、冷気を撒き散らす。その姿は、まるで雪女だった。

 司は、幽霊型の異能を、凍結という概念だと過程した。概念の塊だからこそ、物理的な実体がない。けれど、オリジンは持っている。それが今判断できる限界だった。

 そして、最近考えていた一つの事を思い出す。

「ほのか、聞いてるよな。ちょっと耳だけ貸してくれ。この前の否定の子供、あいつってさ、第一段階だよな。そもそも、不明型(アンノウレッジ)って第一段階と第二段階の区別がつかねーし。それでさ、物質型(マテリアルタイプ)と、貯蓄型(チャージタイプ)の関連性について考えたんだ。結果だけを見ると、火属性と熱エネルギーって似てるよな。課程はどうあれ、火を起こせるんだから」

「司、突然どうしたの?」

 ほのかは、司が何かを考えていた事は知っている。だが、それを突然話し始めた事に驚きを隠せない。

 けれど、ほのかの問いかけを無視し、考えを話し続ける。

「それで、一つの仮説、とまではいわないけど、ネクストってのは、物質型(マテリアルタイプ)貯蓄型(チャージタイプ)の垣根を越える為のものなんじゃないかと思うんだ。吸収は出来ないけど、同じ様なことは出来るだろ。そう仮定した場合、風花さんが、見せたっていう第三段階、風そのものになるってやつ。それって、風っていう概念になるんじゃないかって思うんだ」

「だから、司、突然どうしたの!ねぇ、司!」

「ネクストへの鍵が、オリジンの精密制御と、間接制御なら、第三段階Evolution(エヴォルシオン)への鍵は、概念に関わることだと思うんだ。といっても、方法はわからないけどな。うまくいけば、物質として存在しない幽霊型も、焼けるはずなんだ。だから、ちゃんと結論を出してくれ」

「司、それは司のテーマでしょ。だから、司自身の手で結論を出して。それが、私のお願い。忘れてないよね」

「今ここで、それを持ってくるかよ……それじゃあ、試すしかないか!」

 そういうと、司は、全身を氷に侵食されながらも、炎に対して一つの思いを込める。約束を守る為に。

 焼く

    焼く

       焼き尽くす

 ただそれだけを込める。

 司の思いに答えるかのように、炎が輝きを放つ。

「おいおい、光ったのはまだしも、黒いってなんだよ」

 司の炎が、黒く輝く。その黒炎で徐々に範囲を広げる氷を焼く。凍らせる氷が、焼き尽くす黒炎に侵食される。そして、氷そのものを焼き尽くす。氷だけを焼き尽くす。

「概念か、わけわかんねー。でも、名前付けないとな」

 司は、バーストが終わった時の事を頭の隅に追いやり、目の前の敵に意識を向ける。

 黒い熱線が冷気を焼く。

 だが、黒炎を使うたびに、オリジンをごっそりと持っていかれる。それは、体力を著しく消耗するのと同義だ。

「鍵を一つ外せたわけか。でも、扉を開けられる訳じゃない。まぁ、私が出る必要はなくなったね」

 鳴が、司を見て呟く。その言葉は誰にも届かない。

 司は、黒炎の弾丸を周囲にばら撒く。一見すると、黒い雨のようだ。さらに、両拳に黒炎を纏う。

「さて、遠距離にすると、消耗が激しいから、殴るか!詩歌みたいに!」

 幽霊型へ向けて一気に距離を詰める。

 幽霊型も迎撃しようとするが、黒炎に阻まれる。

 逃げようとしても、瞬間的なスピードでは、火属性の喪失者(ロスト)には敵わない。

「喰らえ!『理の炎』」

 燃焼という概念を持った黒い炎が、実体を持たない幽霊型を焼く。

 始めは、自身のオリジンを使い、抵抗を見せる。だが、存在そのものを焼かれ、力が弱まる。その結果、黒炎は、次第に勢いを増し、幽霊型を焼き尽くした。

 けれど、核であるロスタイトだけが残される。

 空中に残ったロスタイトを掴み、インカムを通して報告する。

「幽霊型、倒したぜ。でも、疲れたー」

 報告を済ますと、力が抜け、徐々に落下し始める。

 大量のオリジンを消費した為、姿勢を維持する為の出力がないが、安全に着地するには、十分だった。

 その様子を確認し、ほのかは胸を撫で下ろす。

「幽霊型は、大丈夫だね。皆、もうすぐ終わるはずだから、油断しないでね」

 思い思いの返事が聞こえ、よりいっそう気を引き締める。ここで油断をしては、元も子もないからだ。けれども、幻獣型の増援はあるが、強敵といえる相手は現れない。その結果、無事にバーストを終える事が出来た。

 

 

 

 

 テレビスタッフの撤収には、ANT関係者が対応し、ほのか達は、一度ANT関連施設へと集められた。

 そこでは、鳴が待ち構えていた。

「さて、とりあえずはお疲れ様。負傷者は、あっちのホールに行ってね」

 負傷者、ほのかは、そう聞くと、思い出す。自身の力が及ばない結果、喪失獣(ロストビースト)の牙にその体を貫かれた少女の事を。

 憂鬱な気分になりながらも、ホールへの扉を開く。

「あ、お姉ちゃん」

 ほのかは、その声に顔を上げる。そこには、先ほど喪失獣(ロストビースト)によって重症を追った少女が、元気そうに椅子に座っていた。けれど、目の前の出来事が理解出来ず、ただ呆然とするしかなかった。

「どうしたの?」

 少女は、元気そうにほのかの下へ歩いてくる。

「どうしたんだ?夜星ほのか。あたしがいるんだ、何の不思議もないでしょ」

 声の方を見ると、四谷命が椅子に座っていた。

 ほのか達は、辺りを見回すと、このホールにいる人数が、ほのか達が確認した生存者よりも、あきらかに多い事に気付く。ほのか達の目の前で、喪失獣(ロストビースト)によって重症を負わされた人物も、何事も無かったかの様に、ALUの関係者から、話を聞かれている。

「四谷さん、これは一体……」

「鳴が、まだ生きているやつを回収させたんだよ。その後は、あたしの出番ってわけ」

 ほのかは、目の前にいる少女に向き直り、安心した表情を見せながら、呟く。

「そっか、よかった。本当に、よかった」

 少女を抱きしめ、目じりに涙を溜めながら、何度も、何度も繰り返していた。

 

 

 

 

 雨島学園の会議室に、ユニオンを構成するチームリーダーと、紫苑が集まっている。

「刹那、Linkageから学園に提出された幽霊型のロスタイトです」

 紫苑が持ち込んだロスタイトに、刹那が手を伸ばす。刹那の異能を使い、その力を探る。

「氷属性だな」

「つまり、概念干渉まで会得した喪失獣(ロストビースト)ってことか」

物質型(マテリアルタイプ)以外の喪失獣(ロストビースト)が出現した訳じゃなくて良かったね。貯蓄型(チャージタイプ)ならともかく、不明型(アンノウレッジ)のが出てきたら、僕達でも、苦戦しそうだからね」

 喪失獣(ロストビースト)の異能で、現在確認されているのは、物質型(マテリアルタイプ)のみであり、五大属性が、その大半を占める。

 けれど、今回集まった目的は、幽霊型についてではない。

「それでは、本題に入りましょうか。天野司が、概念干渉に手をかけたことについてです。流石に、あの領域までいってしまうと、取るに足らない異能者だとは、思わせられませんね」

「実際、ネクストまでいくと、無理があるよな」

「刹那、それをいったらお終いだよ」

「お前らが暴れても、俺達が事件を起こしても、結局は、喪失者(ロスト)でひと括りにされちまうんだからな」

「やはり、喪失者(ロスト)が利益をもたらすと、思わせる必要がありますね」

 恐怖心を利益が上回る事が出来れば、喪失者(ロスト)に対する差別を下火にする事が出来るはずだと考えている。それが、雨島学園の目的の一つだ。

「ロスタイトの供給と、ANTによる喪失者(ロスト)研究の成果。バースト対応。それだけでは、足らないと言うことですね」

「今進めているイギリスのロストアイランド制圧への協力以外に、経済的に利益になることを考える必要があるな」

「発電でもする?」

「それだと、ただのエネルギー源です。化物から、エネルギーの塊になるのでは、意味がありません」

「まぁ、それを全面的に否定しなくてもいいだろ。他に案が無いんだ。すぐに答えが出るわけでもあるまいし、これから探そうぜ」

 刹那は、エネルギーを生み出す存在になる事を否定しない。少しでも現状を変える可能性を放棄したくなかった。

「そうだよ。それに、イギリスへの協力が控えてるんだから、その結果を見てからでも、遅くはないと思うよ」

「そうですね。一般生徒の成長を目の当たりにして、少し焦ったようですね。では、今日はここまでにしましょうか」




こんにちは

年末年始が忙しく、中々時間が取れませんでした。
男キャラの書き分けが難しい……
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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