Linkage   作:enz

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海の向こうのセカイ

 12月も二周目に入った頃、アリシア・ローレンスは、機関の上司から連絡を受けていた。

「はい、ロスタイトも順調に集まっています。チームメンバーによると、作るだけなら、ウェポンギアが作れるくらいの量は、あるそうです」

「作るだけというのは、どういうことだ?」

「ウェポンギアは、補給の出来る消耗品ということで、常用するには、三本必要とのことです。補給や、常用を考えなければ、一本は作れると言われました」

 一般的な喪失者(ロスト)では、ギアから力を引き出す必要がある為、ギアの著しい消耗は避けられない。つまり、ロスタイトの安定的な供給がなければ、維持する事すら、出来ない。

「つまり、作ったとしても、こちらで使用するには、ロストアイランドの制圧が必要ということだな。ちなみに、指導方法については、理解出来たか?」

「はい、それについては、理解出来ていますが、どうやら秘匿情報があるらしく、教える側のメンバーも苦労しているようです」

 夜星ほのか達は、秘匿情報について口にする事が出来ず、アリシアもそれを何となくであるが、感じ取っていた。とはいえ、無理に聞き出すわけにもいかず、お互いにもどかしい思いをしている。

「無理に聞き出すメリットと、あいつらを敵に回すデメリットを考えれば、聞き出さない方がいいだろう。それと、週明けには、帰還してもらう予定なので、準備しておけ」

「それは……いえ、了解しました」

 上司からの連絡が終わり一息つく。

 連絡が終わるのを待っていたのか、後ろから声がかかる。

「お姉さま、報告お疲れ様です」

「シャルロットか。近々イギリスに戻ることになりそうだ。残り僅かな時間、無駄にはしないようにな」

 アリシアは、シャルロットに上司からの連絡を伝える。

 二人にとって、約一ヶ月という短い期間ではあるが、充実した日々であり、喪失者(ロスト)として急激な成長を遂げる事が出来ていた。その為、まだここに居たいという気持ちもあるが、喪失者(ロスト)として国に雇われている以上、帰国命令には逆らう事が出来ず、また、帰りを待っている喪失者(ロスト)も多くいる為、帰国する以外の選択肢はなかった。

 

 

 

 

 アリシアがイギリスからの連絡を受けている頃、ほのか達は、Laboの研究室を訪れていた。

「智花ー、連絡貰ったから来たよ」

「夜星ほのかか、それにLinkage全員で来たのか。一人でよかったものを」

「いやー、皆からのプレゼントだからね、皆で受け取りに来たんだよ」

「まぁいい、今出すから待ってろ」

 そういうと、日向智花は、作業の手を止め、Linkageからの依頼品を取りに行く。

 ほのかが部屋の中を見渡すと、他のメンバーは席を外しているらしく、智花しかいなかった。その為、Linkageが注文したギアを取り出すのに苦労しているように見えた。

「匠……」

 四葉空は、じっと細川匠を見つめる。

 匠は、その視線に耐え切れなくなり、動き始めた。

「日向、手伝うぞ。司も手を貸せ」

「ああ、そうだな」

 匠が、天野司をひきいて智花に手を貸そうとするが、智花は、それを拒否する。

「悪いが、この中には試作物やら取り扱い注意やらが大量に入っているから、迂闊に手を出される訳にはいかない。下がっててくれ」

 その言葉を聞き、二人は怖気づく。様々なウェポンギアを作成している研究型チームである為、その研究成果に興味はあるが、好奇心を恐怖心が越えた為、二人は、近づくのをやめた。

 ほのか達は、しょうがないと思いつつ、智花が戻ってくるのを待っていると、目的のものが見つかったらしく、二つのギアを手にしていた。

「一つは、アリシア・ローレンスからの依頼である、風属性の近接用ウェポンギアだ。そして、こっちが、お前達からの依頼である、水属性の盾型ウェポンギアだ」

「盾なのにウェポンギアって、何か変だよね」

「戦闘用をウェポンギアって括ってるからしょうがないだろ」

「盾型なんて初めて作ったから、他からの流用が出来ないせいで、かなりのコストがかかったぞ。しかも、使っているロスタイトの量も、通常のバッテリーギアの比じゃないから、維持管理が大変だな」

 円盾を模しており、通常のウェポンギアと一緒に持つ事で、盾持ちの剣士を彷彿とさせる姿になる。けれど、使用目的としては、盾とは大違いだった。

「盾型だけど、実際は大きなバッテリーギアだからね。力を使う時のイメージのし易さの都合で、盾型にしたけど」

「まぁ、お前達からすれば、困るような出費ではないか」

 智花の発言に、明確な返事をせず笑って誤魔化す。事実であるが、わざわざ口にするような事でもなかった。

 二つのギアを受け取り、用は済んだ。智花はそう思い、作業に戻ろうとするが、ほのかには、もう一つの用件があった。

「智花、相談があるんだけど、聞いてくれる?」

「耳だけなら貸してやる。頭を貸すかは、内容次第だ」

「この前のバースト対応なんだけど、失獣教団の団員を助けようとした時に、稲穂さんが止めに入ったでしょ。あの時、私達がバースト対応を始めるまでは生徒を映さないって決まってたのに、稲穂さんは、自分からカメラの前にいって、一般生徒じゃ、稲穂さんの力からは逃れられないって言ってたの。私たちに向けてというよりも、カメラに向かって喋ってた。まるで、力の差があることを知らしめるかのように……。教団員に手出しするなって言うのは、確かに前もって決まってたけど、それをあんな風に言ったら、反感を買うだけだと思うんだけど」

 ほのかの話に耳を傾けていた智花は、頭の一部を割く事を決め、作業を続けながら話し始めた。

「雨島学園の方針を覚えているか?喪失者(ロスト)の力を暴走させない為に、制御を覚えさせ、人間社会に帰属させる。それが、設立当時の方針だ。だが、現状はどうだ?暴走させない範囲の制御なんて、とっくに終えている。なら、本当の方針は、何だと思う?」

 ほのか達は、智花の問いに答える事が出来ず、考え込んでしまう。雨島学園の方針は理解しており、その範囲を一番超えている喪失者(ロスト)が、自分達である事は理解している。けれど、雨島学園の方針と、ほのかの話がどう関係するのかが理解出来ず、何も言う事が出来ない。

 その様子を感じ取り、智花は、続けた。

「これは、あくまでも私の予想だ。それを念頭に置いておけ。学園の目的は、言ってしまえば喪失者(ロスト)を人間だと認めさせることだ。だが、私達は、成長しすぎた。集団ではあるが、バーストを乗り切るほどに。けれど、あの映像を見たら、どう思う?ユニオンの圧倒的な力の前に、地面にひれ伏す私達。それは、ユニオンという存在がいる以上、取るに足らない存在だとは思わないか?十人以上でやっとバーストを制圧する一般生徒と、たった一人でバーストを終わらせるユニオン。この差をどう感じる?」

「まさか、ユニオンは……」

 ほのかは、智花の考えを聞き、恐る恐る口を開いた。だが、それを口には仕切れなかった。

「ユニオンは、化物。一般生徒は、取るに足らない異能者。そう思わせたいんだろ。ユニオンは、自身を化物と呼んだ相手には、化物として振舞う。それは、そういうことなんだろうな」

 ユニオンの犠牲の元に、居場所を与えられようとしている。知らず知らずのうちにとはいえ、その事実に、ほのか達は言葉を失う。

「それじゃあ、ユニオンの人達は……」

「言ったはずだ。あくまでも、私個人の考えだと。それに、方針は一つだけじゃない。研究型チームには聞かされているが、私達の研究成果で、喪失者(ロスト)喪失者(ロスト)のまま受け入れられる可能性が出てくると言われたよ」

「それって――」

「話はここまでだ。そろそろ皆が帰ってくる。そしたら話す暇は無い。お前達も、ここで油を売っている暇があるのか?」

 ほのかが続きを聞こうとするが、智花によって遮られる。

 智花自身も、話を続ける気は無く、作業に没頭し始めていた。

 実際にかなりの時間を使った為、ローレンス姉妹が待ち惚けている可能性もある。ほのか達は、二つのギアを確認し、待ち合わせの場所へ向かう事にした。

 

 

 

 

 双子島の封鎖領域を塞ぐ門でLinkageは待ち合わせをしていた。ローレンス姉妹が到着してしばらくすると、ほのか達が何かを隠すようにやってきた。

「アリシアさんにシャルロットちゃん、待たせちゃってごめん」

「いえ、簡単なイメージトレーニングにちょうどよかったです」

「ところで、動きがものすごく不自然ですが、どうしたんですか?」

 何かを隠している以上、不自然にならざるを得なくなり、隠している事が、簡単にばれていた。

「えっと、まずは二人が集めたロスタイトで作ったウェポンギアです」

「もう出来上がったのか。生徒でもすぐに作れるとは、すごいな」

 アリシアは、渡されたギアを手に取り、新しい玩具を与えられた子供の様に喜んでいる。

 シャルロットも、そんな姉の様子を見て、喜んでいた。

 喜ぶ二人を見ながら、ほのか達は、もう一つのギアを見せる。

「えっと、シャルロットちゃんに、私達からのプレゼントです」

「え、それは?」

「盾型のウェポンギアです」

「防御にかんしては、土属性が向いてるんだが、水は形を変えやすいから、イメージ次第では、土属性とは違ったことが出来ると思うぞ」

 ギアを手渡され、シャルロットは呆然としている。しかし、喪失獣(ロストビースト)を倒す事に難色を示していた自身に対し、倒す為の武器ではなく、守る為の防具を用意したほのか達の行動に、感謝の念を抱いていた。

「あの、ありがとうございます」

「お礼はいいよ。仲間だから。詳しいデータはPDAに送っとくから、ちゃんと確認してね」

「二人には、言わないといけないことがあるんだけど、ギアは消耗品だから、気をつけてくださいね」

 皐月詩歌は、水を挿す様な事を言うが、言っておかなければいけない事だ。

「つまり、使い切る前に、イギリスのロストアイランドを制圧しろということですね」

「それもあるけど、私達からは教えられない次の段階へ行って欲しいって思ってるから」

「そうそう、ロッカーにギアを仕舞えるから、管理はしっかりな」

「ここに、いる、間は、補充も、受け持つ」

 ローレンス姉妹は、PDAを取り出し、設備とギアの確認をする。二人は、ギアを常用する為には、三本必要だという事は知っている。けれど、消耗したギアに補給するには、どれだけのロスタイトを使うかは知らない。だが、ロスタイトの状態で力を引き出した事がない以上、それは仕方のない事だ。

「この盾型のギアは、バッテリーギアっていうのに近いんですね」

「ギアを使って防御するっていうより、ギアから力を引き出して、異能の力で防御する為の物だからね」

「水の、操作、慣れて、来てる。だから、ギアに、早く、慣れる」

 この日から、二人は新しいギアに馴染む為、その力を振るった。アリシアのギアは、貸し出されるギアと変わらない為、すぐに使いこなしていたが、シャルロットは、今までと違うギアの為、苦戦していたが、次第にしっかりと扱えるようになっていた。

 

 

 

 

 12月も二週間が終わろうとしている頃、生徒会室では、生徒会長である黒月紫苑とLostWingリーダーの八神刹那が、話し合いをしている。

「Linkageからの報告ですと、渡したギアの扱いは、十分にマスターしたそうですよ」

「なら、ロストアイランドで喪失獣(ロストビースト)を倒す実力は、あると断言出来るな」

 二人は、イギリスの喪失者(ロスト)関連機関から渡された資料を見ながら、ローレンス姉妹の実力を推測している。

「イギリスは3島ですが、1島を制圧して、研究所を建てることが出来れば、制圧完了に異論を出す所はないでしょう」

「あっちのロストアイランドは、詳細なデータがないが、最初の島には、いても中型どまりらしいな。なら、何チーム行かせる?」

 二人は、PDAにユニオン構成チームの予定表を表示させている。七星が自由になった為、かなり余裕のある内容になっている。それは、今までと違い、時間に追われる必要がなくなったという事だ。

「あやめが行きたがってますから、LostWingは確定ですね。あとは、七星かElementalKnightsのどちらかですね」

「他で何かあった時に回せる人手は多いほうがいいから、七星は残らせるか」

「そうしましょうか。あちらも、準備は出来ているので、あとはローレンス姉妹を帰し、ギアを貸し出せば、大丈夫でしょう。制圧の流れも協議してありますから」

 イギリスの喪失者(ロスト)関連機関と雨島学園が、留学の話が持ち上がってから、様々な協議を続けていた。その中には、留学期間や、ロストアイランドの制圧に関する話もあり、日程のほとんどが決まっている。

「週が開けたらあの姉妹を帰して、それと同時に俺達が制圧の手伝いに行くわけか。大忙しだな」

「クラスの方には、既に通知してありますから、パーティーをするらしいですね」

 二人は、結論をまとめ、必要な手配をこなしていった。

 

 

 

 

 そして、週が開け、ローレンス姉妹の留学期間が終了する日、二人を見送る為に、クラスメイトを始め、多くの生徒がお別れを言いに集まっていた。

 フェリーの出港までいささか時間があり、賑やかな時間を過ごしていた。けれども、出港の時間が決まっている以上、ずっと話をしている訳にもいかず、乗客名簿に二人の名前しか載っていないフェリーに乗り込む。

 他に乗客の居ないはずのラウンジでくつろいでいると、突如後ろから声をかけられた。

「二人共、雨島学園はどうだった?それにしても、シャルロットちゃんはかわいいねー」

「そ……空宮あやめ……」

 突如現れた空宮あやめに驚くが、シャルロットは既に抱きかかえられていた。

 あやめは、そのままアリシアの向かいに座ると、二つのPDAを取り出し、二人に見えるように置いた。

 そこには、イギリスのロストアイランド制圧計画が記されていた。

「まず、イギリスの機関の喪失者(ロスト)は、ギアを使えるくらいには、指導しといたよ。もっとも、二人のように、使いこなせてはいないけどね。次に、向こうに着いたら、すぐに制圧に移るから、移動中はゆっくり休むこと。二人は、制圧において、重要な位置にいるから。そのPDAは二人が使ってたのだから、しっかり確認しといてね」

 二人は、突然の事に理解が及ばない。けれど、ロストアイランドの制圧がすぐそこまで来ている事だけは理解出来た。

 あやめは、二人に計画の概要を伝えると、どこかへ消えてしまう。けれど、すぐに会うことになるような気がしていた。

 

 

 

 

 イギリスへと帰ってきたローレンス姉妹は、そのまま機関の施設へと移動する。そこでは、機関所属の喪失者(ロスト)達が、二人を出迎えた。けれども、行き着く暇もなく、ロストアイランド制圧作戦が開始される。

 イギリス北部の関連施設にて、最後の会議が行われようとしている。そこには、イギリスの喪失者(ロスト)関連機関の代表も来ていた。

「諸君、今日こそはロストアイランドの制圧を成功させる。その為の秘策を用意した。紹介しよう」

 その声に反応する様に、二人の喪失者(ロスト)が現れる。

「人が多いと、面倒だから、俺達二人だけの紹介だ。LostWingリーダー、八神刹那だ」

「僕は、ElementalKnightsリーダーの風花凛だよ」

「待ってください。他国のロスト、しかも雨島のロストを使ったとなれば、他の国からの批判は免れません。さらには、どんなペナルティを要求されるか……」

 アリシアは、ユニオンを利用する事に異論を唱える。だが、それはイギリス代表も理解している。けれど、八神刹那が、口を挟む。

「確かに、制圧をするなんて言えば、衛生でもなんでも使って監視するだろうな。でも、そんなもんは、原始的であれ、電子的であれ、超常的であれ、科学的であれ、どっかの目や耳を誤魔化す方法はいくらでもあるんだぜ。」

 刹那は、他国の監視を誤魔化す方法をいくつも用意している。その方法があるからこそ、この計画を持ちかけていた。

 アリシアは、その方法を知らない為、渋ってはいるが、代表が承認している以上、この件に異論を唱える事は許されなかった。さらに言えば、制圧を認めさせる方法すら理解できていなかった。

「作戦は説明してあるが、一応確認だ。まず、お前らで上陸して、戦え。ある程度戦ったら、後はこっちで対処するから、とにかく身を守ってろ。それに、お前達が始めて、お前達が締めるんだ」

 刹那は、一方的に指示だけすると、歩き始める。だが、それが開始の合図となり、ロストアイランドの制圧が開始される。

 

 

 

 

 イギリス北部からロストアイランドへは、いくどとなく検証を重ね、喪失獣(ロストビースト)の出現しない航路を確認している。その為、上陸する事に対しては、何の問題も起きなかった。

 アリシアは、小高い丘の様になっている島を見つめ、上陸を果たすと、上陸地点の喪失獣(ロストビースト)を倒し、安全を確保する。そして、一度隊列を整え、制圧の開始を宣言する。

「皆、私達が先陣を切る。行くぞ」

 アリシアが声をかけ、シャルロットがその後ろにつける。

 二人を追いかける様に機関所属の喪失者(ロスト)が行動を開始する。

 あやめによってギアの扱いを覚えた為、道を切り開くアリシアが取りこぼした個体の対処をする。先へ進むに連れ、小型喪失獣(ロストビースト)の数が増えるが、アリシアがギアから力を引き出し、広範囲の喪失獣(ロストビースト)を倒す。その為、後ろでは、対処できる限界を超える事なく進行する事が出来た。

 アリシアが、小型喪失獣(ロストビースト)に対しギアを振るう。その軌道上には、喪失獣(ロストビースト)の核であるロスタイトが残った。時折、複数の小型喪失獣(ロストビースト)が同時に襲いかかるが、捌き切れない喪失獣(ロストビースト)の牙が、アリシアへと届く。だが、その直前に、シャルロットが水の膜を張り、弾き飛ばす事で、アリシアを守る。

「ありがとう、シャルロット」

「お姉さま、私は、守るために力を使うのですから、当然です」

 さらに、シャルロットは、周囲にも気を配り、仲間の些細なミスを、水の膜を使いカバーする。

 水の膜は、時に塊へと姿を変え、鞭の様に一部を伸ばし、喪失獣(ロストビースト)を払いのける。形を変える液体としての特性を生かし、全体の為に大きく貢献する。それが、シャルロットの言う守る為の使い方だった。

 全体で声をかけながら進み、連携を保つ。けれど、出来立ての連携を破壊するきっかけが訪れる。

 中型喪失獣(ロストビースト)が出現し始めた。

 初めは、小型が出現する合間に出現し、次第に小型と同時に出現する。それでも、片手で足りる数であれば、多少の苦戦は強いられるが、対処しきれていた。けれども、中型の数が極端に増えた途端、アリシアに限界が訪れる。そもそも、ギアを使えるだけの機関所属の喪失者(ロスト)では、中型の相手は無理があった。

「そろそろか。各種ジャミング出来てるな」

 刹那の声が響き渡る。

 その台詞が届く前から、全方向からの光景を騙し、電子的な設備に嘘をつき、ロストアイランドの制圧に関わる全てを隠蔽していた。

「全部出来てるよ」

 凛が、隠蔽を理解出来ていないアリシア達の為に声に出して答える。けれど、隠蔽がなされている事は理解したが、その方法自体には、検討がつかなかった。

「凛達は、そのまま上陸して始めろ。あやめ、俺達は、左右に分かれて反対側へ行くぞ。最奥の一体は俺が確保する。全力でぶっ飛ばせ」

「りょーかい。それじゃ、派手に行きますか」

 上陸地点から黒と白の光が島の外周を回るように移動する。アリシア達のいるラインを超えた辺りから、『ガン・パレード』と『爆刀(ばっとう)』による面制圧が始まる。それは、喪失獣(ロストビースト)がいようがいまいが、構わない。とにかく、目についた場所をただ爆撃していた。ただ更地に変えようという攻撃だった。

 アリシア達にも、刹那とあやめによる攻撃から逃れようとした中型喪失獣(ロストビースト)が襲いかかる。さらに、背後からは、迂回してきた小型喪失獣(ロストビースト)が現れた。けれども、アリシアは、空が降ってきたような感覚に囚われる。

 それは、凛による攻撃だった。大気を手中に収め、面によって押しつぶす。単純ではあるが、その範囲故に、逃げ場のない攻撃である。

 数多くの喪失獣(ロストビースト)が、その一撃で核だけを残した。

 シャルロットは、ギアから引き出した力に異変を感じた。だが、その異変はすぐに収まる。けれど、周囲の海水に変化が訪れる。海水が何本もの竜巻状に舞い上がり、強烈な雨となって降り注ぐ。小さな水の弾丸ではあるが、それは、喪失獣(ロストビースト)を貫くには、十分な威力を持っていた。

 アリシア達は、その力を目の当たりにし、実力の差を思い知らされた。

 刹那は、身を守れと言ったが、その必要すらなく、七人の喪失者(ロスト)による蹂躙を、ただ眺めるだけだった。

「これが、雨島のユニオン……」

 誰ともなく溢れた言葉が、アリシア達にのしかかる。それでも、諦めずに同じ属性の力を感じ取り、その技術を盗もうとするが、その取っ掛かりすら掴めず、ただ悔しさを積み上げるだけだった。

 

 

 

 

 アリシア達は、周囲を警戒していると、音が止んだ事に気づく。しばらくそのままでいると、黒く禍々しい翼が視界に映る。段々と近づいてくるその姿を見つめていると、その翼に何かが絡め取られている事に気づいた。

「アリシア・ローレンス、こいつが、最奥に居た、最後の一体だ」

 そういうと、刹那はこの島にいる最後の中型喪失獣(ロストビースト)を投げた。

 反射的に、アリシアはギアを振るい、中型喪失獣(ロストビースト)を倒す。それと同時に、刹那が宣言した。

「さぁ、今アリシア・ローレンスが最後の一体を倒した。これは、このロストアイランドを喪失獣(ロストビースト)から開放したということだ」

 インカムを通し、歓喜の声が聞こえる。確かに、アリシアが最初の一体を倒し(始めて)、アリシアが最後の一体を倒した(締めた)。だが、そう簡単な事とも思えない。だからこそ、口を挟む。

「だが、何か施設を建てないことには、制圧は認められない。開放したことは事実かも知れないが、途中経過の記録を求められたら、どうすると言うのだ」

「おいおい、喪失獣(ロストビースト)との戦闘は、記録しながら行えるようなものか?お前達にそんな余裕はないだろ。それに、雨島の門までは無理でも、このご時世だ。施設なんて、なんでもいいんだから、すぐ作れるだろ。それに、後ろのやつが持ってるギアは、レンタルだ。無期限だがな。つまり、小型くらい何とかしろ」

 アリシア達は、小型喪失獣(ロストビースト)であれば、問題なく対処し切る事が出来る。そこまで育てたからこそ、今回の計画が実行された。

 

 

 

 

 ロストアイランドにおいて、喪失獣(ロストビースト)とは、自然に湧いてくる存在である。だが、それも自然がある場所に限られる。つまり、コンクリートなどで地面を覆ってしまえば、喪失獣(ロストビースト)が出現する可能性は、大いに減る。そこまでの工事には、長い時間がかかるが、観測の為のちょっとした小屋を作る程度であれば、それほどの時間はかからない。

 制圧中の記録は無くとも、建造中の記録を取る事で、制圧の証拠とする。他国からすれば、文句はつけ放題ではあるが、先に制圧した国の出した証拠に文句を付け過ぎれば、自分たちが制圧する時の条件がきつくなる為、そうそう文句は付けられない。それが、明確な違反の証拠でも見つけない限り。

 そして、この先は、イギリスの手腕次第だった。

 

 

 

 

 イギリスへ向かったユニオンのメンバーは、そのまま各地のバースト対策へ向かった。

 その為、雨島へは戻って来なかったが、厳格な箝口令が敷かれた上で、イギリスのロストアイランド制圧が成功した事が伝えられた。

 そんなお祝いムードの中、ほのかは、教室へ二人の生徒を呼び出していた。

「夜星ほのか、何の用だ?」

「まったくだ。夜星、お前が呼び出すなんて、珍しいな」

 この教室には、Linkageリーダー夜星ほのかと、Laboリーダー日向智花、Paladinリーダー最上誠の三人が揃っていた。

「智花には、この前相談したけど、雨島学園とユニオンの目的について考えてたの」

「何のことだ?」

 智花は、既に話を聞いているが、誠には初耳だった為、その説明が必要だった。

 その為、ほのかは、誠に対し、ユニオンが自らを犠牲にしようという仮説を伝える。

「だが、それは私の仮設にすぎない。二つの計画を同時進行しているというな」

「どちらかが成功すればいい……そういうことか?だが、この話をしてどうなる」

「まだ、具体的に何かあるわけじゃないけど、とりあえず知っておいて欲しかったから」

「だが、仮定に仮定を重ねているだけだろ。それに、ユニオンの目的が本当にそれだとしても、俺達がそれを受け入れるかという問題もある。そもそも、お前達は、そこまでして人間という枠組みに固執するのか?」

 雨島学園の生徒は、様々な理由でここにいるが、大別すれば、救出組と死別組、がその大半を締める。その中には、人間か化物か、そんな枠組みを気にしない生徒や、一般人を毛嫌いしている生徒もいる。

 ほとんどの生徒は、チームメンバーですら過去の話をしない。だが、この学園にいる以上、似た経験をしている。それだけは知っていた。

「私は……、そんな枠組みどうだっていい。ただ、あの人達を犠牲にしたくないの」

「そもそも、ユニオンが、何故その事に固執しているかだ。おそらくは、第二喪失実験に由来した何かが、あるのだろうが。それがわかれば、犠牲も何もなくなる可能性はあるがな」

 ほのか達は、公開されている情報から推測する事は出来る。だが、それはあくまでも推測であり、仮説でしかない。

「俺達は、必要とされる必要はない。支え合う気もない。誰かの役に立たなきゃ存在しちゃいけないなんて決まりはないんだ。まだ、続きがあるか?ないならもう行くぞ」

 誠は、ほのかの反応を待つ。だが、ほのかは静かに首を振った。

 その反応を確認すると、誠は、教室を後にした。

「最上誠は、自分の意志をしっかりと持っているってことだ。私達も、それぞれの答えを出す必要があるな」

 智花も、そういうと教室を後にする。

 教室には、考えのまとまらない、ほのかだけが残された。




こんにちは

まさか三が日が終わってからが忙しいとは思いませんでした。
一週間の目標を守れなかったです。

前回は完全にスルーしてましたが、新年ですね。
今年もお付き合いの程をよろしくお願いします。
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