Linkage   作:enz

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集まるセカイ

 クリスマスが近づいたある日、ANT本社の会長室では、面談が行われている。

「では、イギリスへの技術者支援の件を承諾してくれるな?」

「はい、この不肖新科(あらしな)(まなぶ)、イギリスで誠心誠意研究してきます」

 天岡新十郎は、静かに笑い、もう一人の人物に目をやる。

「やっぱ、この人面白いでしょ。研究成果も中々だし」

「いやー、ユニオンの一人に認めて貰えるとは思いませんでしたよ」

 新科は、言葉だけの謙遜をする。けれど、この場にいる二人は、その事を正確に理解している。

 八神刹那は、新科の研究成果に目を通している。その中で、一番最初の研究に目をつける。

「そもそも同じ異能は、存在しない。全ては同じように見えるだけで、突き詰めれば違うもの。確か、そんな感じだったな。結構な量のデータ集めてたし」

 それは、新科が最初に手がけたテーマだ。数多くの喪失者(ロスト)のデータを集め、検証している。だが、検証の段階を超えてはいない。

 それは、テーマとして認められはしたが、利益につながる研究ではないため、優先することが出来ないからだ。

「今までのデータは、全て日本人だけですから、イギリスにいけば、データに多様性をもたせられますからね」

「行く前に、Linkageの天野司のデータは取り直しとけ。概念干渉の炎の色が、ほむらと違うんだ。何かの参考になるはずだ」

 天野司は、概念干渉に成功した。その時、炎の色が黒く染まった。だが、赤月ほむらの場合、その色は、真紅に輝いていた。それは、個人による違いに他ならない。

「ええ、依頼を出すことにします」

「それもいいが、くれぐれも、守秘義務は守ること。それは忘れないように。それと、バースの予兆が出た時は、すぐに知らせろ」

「それは、重々承知してます。データでしか知りませんが、神獣型が出現したら、大変なことになりますからね」

 雨島レポートは、提供する情報の格差が激しい。イギリスのロスト関係機関には、公開範囲が拡大されるとはいえ、ANT内の公開範囲と比べると、まだまだ狭い。さらに、神獣型という喪失獣(ロストビースト)、それは、かつてユニオンが束になっても敵わなかった相手であり、その出現には、最大の警戒をしている。だからこそ、天岡は、念を押した。

 

 

 

 

 クリスマスが近づいたこともあり、雨島学園では、クリスマスパーディーの準備で賑わっている。それは、担任の秋萌夕も例外ではなかった。

「はい、皆さん、クリスマスまでだいたい一週間くらいですね。そこで、先生思いつきました。このクラスは、探索型のチームだけなので、クラスで何かしましょう。ここは、文化祭がないので、ちょうどいいです!」

 秋萌は、一人乗り気だ。だが、このクラスに、文化祭という言葉が、通じなかった。

 そもそも、雨島学園しか知らず、他の学校を知らないため、雨島学園にないものは、知る由もない。

 そんなクラスの空気を察し、秋萌は、頭の中で、文化祭の説明を考えている。

「えーと、文化祭っていうのはですね、クラス単位や、部活単位で発表をしたり、露店をしたりするんですよ。ここでのクリスマスパーティーに似てますけど、まぁ、同じようなものです」

 クラスの面々は、おおよその理解を示す。けれど、具体的に何をするかがわからず、何も言い出せない。

 そんな中、夜星ほのかは、一つ理解したことがある。

「秋萌先生、それは、一週間と少しで、出来るんですか?」

「でもですね……、確かに、皆さんはいつもより多くのロスタイトを集めるべきだと思っているかもしれませんが、せっかくの高校1年生なんですよ。もっと楽しまないと!」

 そう、雨島学園においても、クリスマスパーティーの準備は、何ヶ月も前から行っている。確かに、封鎖領域に行く時間を削れば、かなりの時間を使うことは出来る。だが、この時期は、多くの研究型チームが、数多くのロスタイトを必要とする時期であり、探索型チームは、多くの時間を封鎖領域で過ごすのが、毎年のことだった。

 それは、秋萌も理解している。だが、毎年有志による何らかのイベントや出し物が行われており、少数ではあるが、秋萌の言う、楽しんでいる生徒は存在する。

 だが、何人かの生徒は、もう一つの疑問に思い当たる。

「せんせー、職員室では、何の話題で盛り上がったんですかー?」

「え……」

 秋萌は図星を疲れたかの様に言い淀む。けれど、その発言を聞き、クラス中が、理解し、視線を向ける。

 その視線に観念し、口を開く。

「えっと、昔やってた学園ドラマの話で盛り上がっちゃいまして、文化祭に向けて一致団結するのが、輝いて見えたんですよ。それで、ですね。各所の食堂に依頼して、パーティー中の配膳係をやらせてもらえることになったんですよ!文化祭っていえば、ドラマとかでは、喫茶店系がよく出てきますけど、衣装を作る時間は無いので、エプロンつけて、実行委員みたいな立場で頑張ってもらおうと思ったんですよ」

「秋萌先生、それって確定ですか?」

「いえ、皆さんがいやだって言えば、中止になります。一応、全探索型チームがローテーションでやる予定です。ああ、それと、今回は、ANT社員の家族とかも来るそうなので、今までと違って、島に来る人が多くなる予定ですよ」

 教室にいる生徒全員が、秋萌自身は、純粋に楽しんでもらおうと考えているが、何人かの教師は、秋萌の発案にかこつけて、足りない人手を補充しようと考えていると感じていた。

「えっと、いつまでに決めればいいんですか?」

「エプロンの手配があるので、週末までには決めてくださいね」

 詳しい案内が全員のPDAに配布される。エプロンのデザインが、フリルの付いたものだったため、女子生徒は、少し盛り上がっているが、男子生徒は、各々がエプロンを着けている姿を想像したのか、どんよりしている。

 

 

 

 

 この日の授業が終わり、実習の時間になる。多くの生徒が封鎖領域へ行く中、Linkageの5人は、教室で話し合いをしている。

「司への研究依頼かー」

「近日中ってなってるけど、新科研究員って、懐かしい名前だな」

 司を指名しての研究依頼が出ているため、封鎖領域の探索をどうするか相談していた。

 関門島へは、5人全員で向かうことが義務付けられているため、司を研究依頼へ向かわせる場合、ほのか達は、課題に制限を受けることになる。その為、司がこの依頼を受けることに、難色を示している。

「でも、司を指名してるんだろ。行ったほうがいいと思うぜ」

「私達は、別に、何でも、受けられる」

「後輩指導とかもあるのだから、気にしなくてもいいわよ」

 他の面々は、司に依頼へ向かうことを進める。けれど、ほのかは、1人別のことを考えていた。

「やっぱり、司の概念干渉のデータが欲しいんだよね。きっと。私達は、まだ出来てないし」

 司が概念干渉に成功して以来、ほのか達を始め、LaboやPaladinのメンバーにも、詳細な情報を渡した。けれど、どのチームからも、成功したという話を聞いていない。現段階で、一般生との中では、司しか成功していなかった。

 仲間の反応を見て、ほのかは、司をしっかりと見つめ、続ける。

「だから、早く行くべきだと思うよ。目的は違うかもしれないけど、それが概念干渉の理解に繋がるかもしれないんだから」

「わかったよ。今からでも、指定の時間には間に合うしな。じゃあ、ほのか達も、何処で何するかはわからないけど、気をつけろよ」

 そういうと、司は教室を出て、研究所へ向かう。

 その光景を見送りながら、ほのか達は、今日の予定を決める。けれど、話し合いを始める前に、来客が現れる。

「Linkageは、まだいるか」

 ほのか達が声のする方を向くと、3人の女子生徒が立っている。だが、先頭に立っている女子生徒を見た途端、ほのか達は、恐怖で顔を引きつらせた。

 先頭に立ち、楽しそうにニヤついている女子生徒は、後ろの2人を引き連れているのではなく、連行しているという方が、しっくりとくる。

「双月風紀委員長……」

 風紀委員長である双月氷華が、Linkageに用があってやってきた。それは、ほのか達に思いもよらぬ衝撃を与える。

 仲間内で、ヒソヒソとこの事態をどう乗り切るかを相談し始める。けれども、目的がわからない以上、ただ動揺するだけで、具体的な策が思いつかない。

「安心しろ。風紀委員長としてじゃない。クリスマスパーティーで有志を率いてイベントを主催する側として来たんだ」

「本当ですか!」

「本当だ。そもそも、お前達は、風紀委員に世話になるような事をしたのか?夜星ほのか」

 何か言いたげな表情を向けながら、ほのかに問いかける。

 ほのかは、うろたえるが、このまま攻め続けられれば、どんな目にあるかわからない。そう考え、話を進めることにした。

「それより、双月風紀委員長は、何をしに来たんですか?」

「ふっ、まぁいい。この説明も3度目だが、高等部の生徒が、各所の食堂の手伝いをさせられるって聞いてな。何人かスカウトに来たんだ」

「えっと、まだやると決まったわけでは……」

「そんな細かいことはどっちでもいい。お前達は、そのフリルの付いたエプロンを着て、食堂で手伝いをするか、私の元で働くかだ。どっちがいい?」

 終始笑顔を浮かべたまま話し続ける。

 ほのか達は、このままでは勝手に話を進められると判断し、何とか主導権を握ろうとする。

「双月風紀委員長の手伝いって何をするんですか?」

「もしかして、直営ギャンブルに関わらせようとしてるのですか?」

 皐月詩歌が、クリスマスパーティーと氷華を結びつけ、1つの可能性を口にする。けれど、それは可能性ではなく、現実だった。

「わかってるなら、話は早い。ただ、ここは一応ではあるが、教育機関だ。ギャンブルだと、印象が悪い。あくまでも、ちょっとした遊技場だ」

「もしか、して、バニー、ガール?」

 四葉空は、後ろに女子生徒がいることを踏まえ、判断した。けれど、氷華は首を横に振る。

「言っただろ。ここは、教育機関だと。そんな格好させられるか。ディーラーをやってもらうんだよ。このクラスからは、夜星ほのかと皐月詩歌を生贄にしてもらおうか。他のクラスメイトがいた方が、脅しやすいんだが、まぁしかたない。さ、諦めてついて来い」

 氷華はもはや、交渉をせず、強権を発動する。

「いや……その……でも……、私、ディーラーなんて……出来ませんよ」

「教えるから問題ない。それに、重要なのは、風属性と運動エネルギーだ。高位であれば、あるほどいい」

 ほのかは、その言葉を聞き、頭に1つの単語が浮かぶ。

「もしかして、イカサマですか?」

 その瞬間、氷華の表情が変わり、目がほのかを射抜くように鋭くなる。

「ふっふっふ。私にイカサマの濡れ衣を着せようというのか?まったく、私の様な清廉潔白な生徒に、そんな濡れ衣を着せようとはなー。これはこれは」

 感情が篭っていない。けれど、どこか楽しそうに口を開いた。

 ほのかは、己の失態を悟る。氷華に付け入る口実を与えてしまった。けれど、それはもう後悔したところで、遅かった。

「夜星ほのか、皐月詩歌、大人しく手伝え」

 改めて、氷華は、宣言した。

 

 

 

 

 ほのかと詩歌は、氷華に連れられ、クリスマスパーティー当日に、カジノの会場として使われる施設へと案内される。その途中に、気になっていたことを口にした。

「ところで、北上さんと矢吹さんは、何で連行されてるんですか?」

 ほのか達は、氷華がLinkageのいる教室へ連れて来た2人の女子生徒、北上きずなと、矢吹舞が、何故大人しく付いてきているのかが気になっていた。

 その問に、舞が答える。

「私は、智花と双月風紀委員長の取引の結果です。智花がやろうとしている大規模な実験の許可や手伝いやその他諸々を含めて、つつがなく終わらせたければ、私を差し出せとのことでした」

「そっちは、なんというか、前向きというか、利益供与といか……。北上さんの方はどんなのだったの?」

「私の方は、脅迫だったよ。ほら、誠って最近は治ってきたけど、態度悪かったから、未だに先生達の印象悪くてね。確か、風紀委員に協力すれば、その辺りをどうにか出来るかもって言われてたよ」

 けれど、ほのかは、きずなの言葉に違和感を覚える。

「最上君って、自分の為に、仲間を売るかな?」

「ふふ、やっぱりそう思うよね。誠も、俺自身の身から出た錆だから、仲間を売るようなことはしないって言ったんだけどね。双月風紀委員長の方が、何枚も上手でね。そうか……、じゃあ、チーム全体に悪影響があってもいいんだな?って脅してくるんだよ。それで、泣いて謝りながら、私を売ったわけ」

 ほのか達は、目の前にいる、目的の為なら手段を選ばない氷華に怯えながら、歩き続ける。

 この話を聞きながらも、話に入ってこない氷華を不気味に感じながらも、ただ付いて行くしかなかった。

 目的地には、、氷華の手下と呼ばれている、下級生で構成されたいくつかのチームがいた。

「ほら、人の悪口もそこまでにしろ。着いたぞ。基本的には、こいつらがやるんだが、時々悪さを働くやつがいてな。お前達の様な高位の実力者がいれば、手も出しにくいだろ」

 そういうと、氷華は、会場にいた手下と共に、基本的な指導の準備をする。

「それにしても、トップクラスのチームの先輩方に会えるとは思っていませんでした」

「先輩達は、人気がありますから、当日は大好評でしょうね」

「ま……まぁ、よろしくね」

 ほのか達は、この発言を聞き、氷華に連れて来られた理由の1つを知ることとなった。

「風紀委員長、この先輩達なら、ルーレットの玉に影響を与えられますね」 

「こらこら、大声で言うな。バレるだろ」

 氷華は、笑いながら下級生を注意する。けれど、ほのかは、自身の考えが間違っていなかったことを理解した。

 

 

 

 

 生徒の多くが、クリスマスパーティーへ向けて準備をしている中、生徒会長である黒月紫苑は、ALUからの連絡を受けていた。

「それで、アメリカが、喪失者(ロスト)の異能を無効化する兵器を作り上げたと?」

「そうなんだよ。まぁ、どの程度のものかは、わからないけどね」

 紫苑は、峰地総一から、アメリカの動向について聞かされていた。その中に、事実であれば、困ったことになる情報が紛れ込んでいた。

「しかし、そんな情報どうやって……」

「雨島レポートの未公開部分の中で、数カ所意図的に流出させてる部分があるでしょ。あれと同じで、意図的に流してきたんだよ。知らせることで、本来の効果以上の効果を得ようとしてるんだね」

 紫苑は、しばらく考えこむ。

 このことが事実であれば、ユニオンという異常な戦力が無効化されることを意味する。

 この兵器が存在し、その力を発揮すれば、現在の力関係が崩壊しかねない。その為に、何をするべきか。それを思案する。

 そんな様子を感じ取り、峰地は口を開いた。

「とりあえず、情報は送ったから。後は、任せるしか無いのが悔しいけど、任せたよ」

 峰地との通信が終わり、紫苑は、長い思案から目を覚まし、PDAを手に取る。

 手の開いているユニオンの中から、調査に適した人物に対し、PDAのチャット機能を使い、連絡を取る。

「影次、詳しいことは送りました。この情報の真偽も含め、調査をお願いします」

「了解」

 日之影次からの短い返事を受け、他のメンバーに注意をするよう連絡をする。

 それらの作業を終えると、紫苑は一息つき、外を見る。

「今年も残りあと僅か。何もなければいいのですが」

 紫苑の呟きを聞いたものは、誰もいない。

 

 

 

 

 雨島諸島全体が、クリスマスムードに包まれる中、高等部の生徒による各所の食堂の手伝いが決まり、一部の生徒が風紀委員長に連れて行かれ、研究型チームによる発表の準備が行われ、着々とクリスマスパーティーの準備が進んでいく。

 

 

 

 

 クリスマスパーティー当日、多くのANT関係者や、招待客がフェリーに乗り、雨島学園を訪れる。その中には、ANT社員の家族も含まれている。けれど、ANT社員の家族が、友達を連れて来ることは、珍しかった。

「なぁ、天岡、本当に俺達が来てよかったのか?」

「悟、フェリーで思いっきりくつろいでたくせに、今更何言ってんのよ」

「その……一応、前もって申請すれば友人知人の招待は認められてますから。ただ、今まで招待されたがる人がいなかっただけなので」

 ANT社長である天岡藤九郎の娘である天岡怜奈が友達を連れてくる以上、規則上の問題が無い限り、誰も拒むことが出来ない。

 怜奈は、社長の娘であるが、雨島学園の生徒は、その顔を知らず、本人の気弱な雰囲気もあり、誰も気づくはずがなかった。けれど、1人の生徒がゆっくりとダークブラウンの髪をなびかせながら近づいてきた。

「お嬢に、泉さんに、山田君、雨島諸島へようこそ」

 声のする方を向くと、3人にとって見覚えのある顔があった。けれど、周囲の生徒が、そのたった1人を見て、ざわついていることに気づく。

「陸、やっぱり今日は島にいたんだね」

「もちろんですよ。もっとも、全員揃っているわけではありませんが、時期に揃いますよ」

「陸、その……久しぶり」

「三笠、久しぶりだな」

「ええ、お久しぶりです」

 周囲の生徒は、ユニオンを構成するチームの1つ、七星のメンバーである三笠陸が現れたことにざわついていたが、フェリーから降りてきた人物との関係がわからず、そのざわめきが、より大きくなっていった。

 そんな中、別の生徒が、生徒達をかき分け、中心へと歩み寄った。

「陸、お嬢、後、連れのやつ。お前達が、ここにいると、邪魔だ。さっさとどっか行くなり場所を確保してから会話をしろ」

 氷華の登場に、辺りは一瞬にして静まり返り、蜘蛛の子を散らすように、人がいなくなる。

 怜奈達は、その光景に唖然とするが、氷華のいう通りに、場所を移動することになった。

 

 

 

 

 雨島諸島でのクリスマスパーティーも一段落し、夕食の時間が近づいてくる中、生徒会室では、紫苑と氷華に加え、ユニオンを構成するチームのリーダーが集まっていた。

「去年は、夜遅くに来たというのに、今年は随分と早いな」

「自称、国籍不明船か。まったくご苦労なこった」

「この船は、影次が調べに行った装備は積んでるの?」

「映像を見る限りだと、俺が見たのと同じのがあるぞ」

 面倒な雰囲気が漂う中、影次が見たものがある以上、この船には、アメリカが関わっていることは、容易に想像がつく。だが、どこが関わっているかを気にする素振りは、誰も見せなかった。

 なぜなら――

「とりあえず、船のシステムに侵入してみましたが、めぼしいデータはありませんね。電気的な情報にしてないのであれば、私には手の出しようがありませんけど」

 紫苑が、自身の力を使い、既に調査をしていた。

「そうか、なら、私達のうちの誰かが行って、始末するしかないが、このままだと、厄介なことになるぞ」

 船の予想進路には、雨島学園が、危険だという理由で、立ち入り禁止にしている海域があった。その場所は、日本の領海内であれば、完全に立ち入り禁止にすることも出来るが、危険な海域は、領海からはみ出しているため、あくまでも、立ち入らないことを推奨するまでにとどまっている。

 そして、その海域を立ち入り禁止にしているだけの理由があった。

「ミズチの海域に入り込む可能性があるんだ。俺が行く」

 刹那は、立ち上がりながらいうと、準備を開始するが、思い出したように、影次 を見ながら、口を開く。

「ああ、で、例の装備はどうだったんだ?」

「ああ、紫苑にはデータを送ったんだが、見てなかったのか」

 そういいながら、PDAを取り出し、データを表示させる。

 そのデータを見た面々は、ただ笑うしかなかった。

 

 

 

 

 日本から太平洋の東側へと伸びる雨島諸島、その七の島である無間島。そこから、200海里以内海域に、自称国籍不明船は、侵入していた。

 雨島へと進路を取る自称国籍不明船の乗組員は、所属を示すものを身につけておらず、つかている装備も、正規品ではなく、密売されている、入手経路を辿れない品ばかりだった。

「艦長、もう時期、雨島が危険海域といっている場所へ入ります」

「そうか。この海域に一体何があるのやら」

 この海域には何かある。日本以外の国では、そう考えられていた。

 艦長は、通常の作戦以外に、この海域にある何かを見つけるという命令を受けていた。そのため、この海域に隠されているものを想像しながら、船の指揮をとっていた。

「この辺りには、海洋生物型喪失獣(ロストビースト)が少ないな」

「雑魚に関しては、ロストジャマーの効果だと推測出来ますが……」

 副官は、船の両脇に付けられた大きなスピーカーを見ながら、口を開いた。

 だが、その言葉には、いくつかの疑問が含まれていた。

「ここまでくれば、多少は強力な喪失獣(ロストビースト)が現れてもおかしくはない。そういうことだな」

 艦長は、副官の考えていることを理解していた。だが、それに対して副官からの返事はなかった。

 視線を副官へと向けると、遠くを見つめ、驚きを露わにしている。その視線の先を見ようとした時、無線機から声が聞こえた。

「ハロハロー。自称国籍不明船の諸君聞こえるかー」

 船の乗組員に緊張が走る。

 あまりにも突然の出来事に、艦長が返事を出来ずにいると、声の主は、さらに言葉を続けた。

「俺は今、お前達の船の眼の前にいる。副官は俺を見つけて驚いている見たいだな。場所が場所だから、手短に話そう。この海域はやめておけ。死ぬぞ。雨島に潜入したいんなら、別のルートを使え。それだけだ」

 声の主が話している間も、船は進み続け、とうとう声の主の足元までやってきた。

 艦長が、肉眼で声の主を捉えると、正体を察し、部下に命令を下す。

「ロストジャマーをやつへ向けろ。恐らく、雨島のロストだ」

 その命令に従い、スピーカーが、声の主へと向けられる。艦長の目には、一瞬苦しむ姿を見せると共に、声の主が持つ禍々しい黒い翼が薄っすらと消えたように見えた。

 そのまま、甲板へと落ちていく姿を見て、艦長はロストジャマーの効果を確信した。すぐに、部下に捉えるように命令するが、落下によるダメージを受けている声の主の不敵な笑みに恐れ、銃を向けたまま取り囲むのが、精一杯だった。

 囲んでいる部下に対し、声の主に通信機を渡すよう伝え、話が出来るのを確認すると、艦長は口を開く。

「これが、ロストジャマーの力だ。この装備を提供してくれた国には、感謝をせねばな」

「あくまでも、背後の国とは無関係を貫くか」

「ふっ、状況がわかっていないようだな。お前に何が出来る」

「何か勘違いしているな。誰が、殺すと言った。死ぬぞ。そういったはずだ」

 その声が聞こえた瞬間、前方に巨大な水柱が立った。

 無線機からは、微かに「タイムオーバー」そう聞こえた。

「サワガシイヤツダ」

 水柱が雨になり、海へと戻ると、そこには巨大な青い竜が出現していた。

「何者だ」

「ココハ、ワレノリョウイキダ。ソウヤクソク、シタハズダガ、ドウナッテイル」

「すまねぇ、ミズチ。こいつら出て行ってくれなくてな」

 船の乗組員は、ただ立ち尽くすしか出来なかった。それだけ、この光景が信じられず、夢だと思い込もうとしていた。

「デハ、ヤクソクドオリデ、カマワンナ」

「ああ、ちょっと待ってくれ、これから死ぬんだ。死ぬ状況くらい理解させてやるよ」

「スコシ、ダケダゾ」

 周りから聞こえる声が、理解できず、ただ呆然としていると、何かが切り裂かれる音と共に、艦橋から上が、ずり落ちた。

 その状況に、艦長は、ふと我を取り戻す。

「な……なんだ!」

「まずは、自己紹介だな。俺は、雨島学園ユニオン構成チーム、LostWingリーダー、八神刹那。あいつは、神獣型喪失獣(ロストビースト)”ミズチ”だ。雨島の言う危険海域ってのは、こいつの住処だよ。まぁ、簡単な話だ。こいつとの交渉の結果、この海域に立ち入らないのを条件に、大人しくしてもらってるのさ。それなのに、お前らが騒がしくするから」

 艦長は、刹那の言葉を理解した。だが、納得は出来なかった。

 ユニオンとは、現在存在する喪失者(ロスト)の中で、最強と言っても過言ではない。だが、その中の1人が、喪失獣(ロストビースト)と戦わず、交渉したという事実を飲み込むことが出来ない。

「だが、ロストジャマーが……」

「ああ、影次が言ってたな。騒音発生器だって。まったく、その通りだったぜ。雑魚には効果があるかもしれんが、雨島の喪失者(ロスト)には、効果はねーよ」

「モウ、イイナ」

 ミズチがそう言うと、船の横に、大きな水柱が立つ。そこから現れたのは、ミズチの尻尾だった。

 尻尾が、船体に巻き付くと、そのまま締め上げる。当然のごとく、その力に耐えることが出来ず、船体が破壊される。

 ミズチが船と乗組員を周囲の海水ごと飲み込む。

 この海域に存在するのは、海とミズチと刹那だけになった。

「ミズチ。ほら、食え。騒がした分だ」

 そういながら、刹那は右腕の服を捲る。

 ミズチは、刹那の右腕めがけ、巨大な口を開く。そのまま右腕を食いちぎりながら、通り過ぎる。

「ワリニアワナイ。コレッポッチデハ」

「だが、約束通りだろ」

 刹那が顔を歪めながら、ミズチへ向き直ると、既に食わせたはずの右腕が存在した。

「フクセイノチカラガ、アルカギリ、キサマハ、シナン」

「だから、俺が腕を食わせてるんだろ」

「モウ、ネル。コンドコソ、オコスナ」

 そういうと、ミズチは海底へと戻る。

「ああ、起きないことを願うよ」

 刹那は、その姿を確認すると、一息つくと同時に、雨島へ帰還する。

 しばらくすると、その海域には、静けさが戻った。

 

 

 

 

 刹那が雨島へと戻ると、夕食の時間は終わっていた。だが、そんなことは気に止めず、ユニオンの寮へと向かう。

「おかえりー」

 その声が示すように、寮のエントランスには、ユニオン全員が集まっていた。

「奥で、天岡さんも待ってるから、早く行くよ」

 空宮あやめが、刹那の右腕に抱きつきながら、奥へ連れて行こうとする。

 奥では、天岡が待っており、これから彼らにとっての本当のパーティーが開催される。




こんばんは

今回も目標から遅くなってしまいました。
それと、IMEを前のPCで使っていたものにしたので、変換のしかたが若干かわっているかと思います。

前々から名前だけが何度か出てきていた設定が、今回やっと登場しました。ですが、かなり前の登場人物をもう一度出すにあたって、少し読み返したところ、色々とダメージを受けてしまいました。
詳しいことは、聞かないでください。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからも、お付き合いいただけると、幸いです。
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