日本国内のバーストにおいて、予報の的中率は、格段に上昇している。その背景には、積み重ねたバーストのデータや、ロスタイトを使った観測機器の精度上昇なども含まれている。
1月になったばかりのある日、ある地域の公的施設に設置された観測機器に、バーストの予兆とも取れる反応が現れた。けれど、1つ、通常とは異なる反応があった。
通常であれば、ある1点を中心に広がる。けれど、今回は、両側から引っ張られる様に反応する地点があり、中心が2つ有るようだった。
ANTは、バースト関連の研究者を総動員し、観測されたデータを洗いざらい調べ上げた。その結果、2つのバーストが、連続するように発生する可能性が有ることがわかった。しかし、2つのバーストについては、わかったが、その詳細なデータを得ることが出来ず、バーストについて、いくつかの不安要素を持ちながらも、雨島学園へ対応を任せることになった。
3学期も始まったある日、雨島学園高等部の職員室では、1つの議題にどう対応するか話し合われていた。
「暫定名称、ダブルバーストと名付けられたバーストの対応についての会議を初めます」
雨島学園高等部教頭が、議長を務めていた。
「通常のバーストが終息する前に、付近で次のバーストが起こると予測されているんですよね」
「なんとも安直な名前ですな」
「だが、名前なんてそんなものだ」
秋萌夕、夏芽朔、
「今回も、いつもどおり、君達が担任をしている3チームを頼りにしなければいけないのは、忍びないが、現状では、最高のチームを使わないわけにはいない」
「ユニオンは、完全に独立した存在ですからな。彼らを信じましょう」
「では、また、他のメンバーの選定も、彼らに任せようか」
教師陣が、何を考えようとも、最終的には生徒に任せるしかなかった。
「ですが、私は心配です。連続発生する影響で、詳細な分析ができていないんですから」
「ANTの古くからいる研究者の中には、バースの可能性を考慮する人もいるらしいですが、そもそもバースが何なのかを知らされていない以上、私達には、これが精一杯ですな」
秋萌の心配は、他の教師も同じだった。けれど、バースについて知らされておらず、ユニオンのシフトにも関われない以上、その心配事は、切り捨てるしかなかった。
Linkage・Labo・Paladinそれぞれのリーダーを務める、夜星ほのか、日向智花、最上誠の3人は、恒例となった、バースト対応の会議を行っていた。
「はい、それでは、バースト対応会議を始めます。今回の議長は、私です」
「しかし、いつも私達だな。Gearsを始めとした、バースト対応時のサブチームをメインするという話もあったはずだが?」
「ダブルバーストなんて、連続発生の可能性があるから、今回も俺達なんだろ」
普段通りのバースト対応であれば、いつものメンバーに、希望チームを加えるだけで済むが、今回はいつもと違う可能性がある。そのため、慎重を期すよう教師陣から言われていた。
「そうなんだよね。だから、新聞部・Trust・Gearsを第2部隊のメインにするっていう案があるんだけど、どう思う?」
「つまり、バースト対応の部隊を2つ編成するのか」
ほのかは、2つのバーストを、1つのものとして考えるのではなく、切り離すことで、それぞれの部隊が、それぞれのバーストを担当しようと考えている。
けれど、それには1つの欠点があった。
「夜星、第2部隊のメインチームの実力に心配がある。あいつらも、関門島へ入れるが、幻獣型との戦闘が、思うようにいっていないらしい。だが、2つ編成するのには賛成だ。だから、俺達3チームと組み合わせるのはどうだ?」
「私は反対だ。仮に、その案を採用したとして、私達を2チーム含む方が、先に対応するとしよう。そうなると、終盤に出てくる幻獣型は、実質2チームで対応することになる。そうなると、2つ目のバーストに加勢する余裕は無いと判断することになる。つまり、2つ目のバーストに出てくる幻獣型を、1チームで対処出来るか?」
誠は、反論出来なかった。現状、3チームで分担するからこそ、少しの余裕をもってバーストを終わらせることが出来ている。つまり、それは、少しの余裕しかないことを意味する。実質的に、2チームで幻獣型を相手にし、続けてバーストに参加するのは、難しいと言わざるをえない。さらに、光の柱を破壊出来るのも、3枚が限度だ。それは、バーストの短縮という点では、意味がある。しかし、それは3つのチームが同一のバーストを担当することを意味する。
「だから、私達が最初に対応するんだよ。現状、うまく行けば2枚は、柱を破壊できるから、バーストがかぶる時間を減らすの。そうすれば、2つ目のバーストで幻獣型が出てくるまでは休めるでしょ」
3人は、関門島での戦果が振るわない新聞部達を、幻獣型への戦力としては数えていないという共通点があった。だが、その戦力としての穴をどう埋めるかにおいて、それぞれの考えがあった。
「だったら、2つ目のバーストに参加チームを増やすか?」
「最上誠、それは駄目だ。問題になっているのは、力の合計ではない。個々人の力だ。幻獣型に対抗出来ない
実際に、関門島への立ち入り許可を得ているチームは少ない。それは、幻獣型との戦闘経験のあるチームが少ないことを意味する。大型は、倒せるが、幻獣型は倒せない。そんなチームの数を増やしたところで、幻獣型相手では、何の意味もなかった。
「ねぇ、だったら、1つ目の参加チームを増やして、私達が、幻獣型だけを相手にするってのはどう?そうすれば、力も温存できるし、2つ目の幻獣型を相手にするまでに、ある程度は回復できるはずでしょ」
「Trust達も、ある程度は幻獣型を相手に出来るはずだしな。俺は、賛成する」
「大まかな方針としては、私も賛成だ」
こうして、ダブルバーストにおける基本方針が決まった。後は、参加チームの編成を残すのみとなった。
雨島学園では、ダブルバーストの予報が発表されて以来、その編成について、様々な憶測が流れていた。
そしてこの日、ダブルバーストの編成が発表され、参加希望チームの募集が始まり、ダブルバースト対応の準備が始まった。募集チームが、今までよりも多くなっており、参加希望を出したチームの大半が、参加出来ることになった。
そのため、中心となるチームは、部隊の編成に苦労することになる。
生徒会室では、生徒会長である黒月紫苑と風紀委員長の双月氷華が話し合いをしている。
「ダブルバーストですか……」
「1つ目の分析は出来ているんだが、2つ目の方が、不十分だな」
「それについては、始まるのを待つしかありませんね」
「誰かが行ければいいんだがな」
氷華達は、ダブルバーストにおいて、ユニオンの誰かを待機させようと考えていた。しかし、2つ目のバーストについてわかったのが最近だったため、都合をつけることが出来なかった。
「誰かの手が空き次第、向かってもらうしかありあませんね」
2人共、この心配が杞憂に終わることを望んでいた。
ダブルバースト発生当日、編成された2つの部隊が、それぞれの予測範囲に展開し、バーストの発生を待った。
この時ばかりは、数多くのバーストに立ち会ったLinkageの面々も、緊張を隠せずにいた。
「皆、装備の確認は大丈夫?」
「ほのか、朝からそればっかりだな」
「確認、もう、10回は、してる」
「まぁしかたないわよね。今までとは、対応の内容が違うんだから」
「何があっても、幻獣型が出るまでは、動くわけにはいかないんだ。とにかく、落ち着こうぜ」
細川匠は、1人平静を装っている。けれど、どことなく浮ついていた。
そんな様子を見て、ほのか達は、少しでも落ち着こうと、思い思いの方法で、時間を過ごす。
ほのか達は、待機場所で、周囲が揺れるのを感じ取った。それは、バーストの始まりを意味する。
インカムを通した通信が活発になり、雨島の生徒が動き出す。事前の予定通り、広範囲に分散し、最初に出現する小型
時間が経つに連れ、次第に大型
今回指揮を取っているチームは、バースト対応の経験はあれど、あくまでもサポートの経験であり、全体の指揮を取ったことはない。多少の不慣れは感じさせるが、精一杯努力していることは、感じ取れる。
けれど、慣れないことをしているせいで、自身の守りが疎かになり、何度か危ない目にあっている。そんな様子に、ほのか達はハラハラしながらも、自身の役目を果たすために、待ち続けた。
しばらくすると、智花からインカムを通し、連絡が入る。
「夜星ほのか、聞いてるか?」
「智花、どうしたの?」
「こちらは、そろそろ外で待機する。その報告だ」
「わかった。こっちもそうする」
Laboも、Linkage同様、1つ目のバーストを担当することになっている。そのための連絡を受け、ほのか達は、待機場所から出て、待ち続けた。
そして、それは突如やってくる。
「Linkage・Laboの両チームに報告なんだよ。幻獣型のが出てきたんだよ。今は、牽制が精一杯なんだよ」
1つ目のバーストで指揮を取っている新聞部リーダー、御机文からの報告だ。
その声を聞き、2つのチームが動き出す。
「行くよ。Limit Break-Mode”THE NEXT”」
ほのかが、仲間に声をかけると同時に、ネクストを発動させる声が、インカムを通じ、流れる。さらに、その声とほぼ同時に、Laboの方でも動きがあった。
ほのか達の声を聞き、他のチームに安堵が広がる。
「矢吹さん、柱の破壊をお願いします」
「任せて下さい」
「舞、準備が出来るまでの護衛は、他のチームに任せるぞ。私達は、幻獣型の相手をする」
幻獣型でなければ、対処出来るチームは存在する。そのため、智花は、舞の護衛を他のチームに任せ、自身は、出現した幻獣型へ向かっていった。
最初に出現した幻獣型は3体、それぞれを出現位置に合わせて、担当を決める。
「匠、詩歌、近くの2体をお願い。智花、後の1体はそっちでお願い」
「ああ、五十鈴、頼む」
「了解っすねー」
3人は、幻獣型へ向かう。その様子を確認したほのかは、さらに指示を飛ばす。
「司、矢吹さんが、柱を破壊したら、2枚目をお願い」
「わかった」
天野司は、柱へと向かった。
皐月詩歌は、幻獣型へと向かい、対峙する。その手には、黒い籠手型のギアを着けている。
「鬼型ね……、前にも見たことあるわね。まぁ、時間はかけられないから、全開で行きます」
鬼の姿をした幻獣型は、その元となった姿と同様に、詩歌の倍以上の背丈を持っていた。
幻獣型が、出現し始めたばかりなため、そうそう時間はかけられない。時間をかけてしまうと、勢いを増す幻獣型の対処に、手が回らなくなってしまうからだ。
「Gyaaaa」
鬼型が、土属性の異能を使い、金棒を手にする。まさしく、鬼という形にピッタリの武器だった。
だが、それは、詩歌という相手に対しては、最悪の選択だった。
「『
鬼型が両手で握り、振り下ろす金棒に合わせ、振動する右拳を横から打ち込む。その強烈な振動が金棒へと伝わり、金棒を構成する分子の1つ1つを振動させる。その結果、急激な温度の上昇と、硬い鉄同士がぶつかり、崩壊を始める。
幻獣型にも、多少の知能があるのか、鬼型は、その結果に驚き、驚愕の表情を見せる。だが、詩歌の攻撃は、それで終わりではない。
「まだ、左があるんですよ」
詩歌の倍以上の背丈を持つ鬼型の腹に、1歩踏み込むと同時に、左拳を正面から打ち込む。その衝撃が、鬼型の体を駆け巡り、強烈に振動させる。その結果、風化する前に、鬼型の体を崩壊させた。
「ほのか、1体終わりました」
詩歌は、ほぼ無傷といってもいい。それが、成長の結果だった。
Laboのメンバーである鈴木五十鈴は、一番近くに出現した幻獣型へと向かっていた。そこには、白い炎を纏った3つ首の犬が佇んでいる。
「確か、前に最上が戦ったのと、同じっすねー」
ケルベロス型が五十鈴を見つけると、白い炎をまき散らしながら、その牙を向く。
「あぶねっすねー」
五十鈴は、重力を制御し、自身の体を吹き飛ばす。白い炎は、紙一重で回避しても、その熱に焼かれることになる。それを知っているからこそ、迂闊には近づくことが出来ない。
「Realization」
ギアを待機形態からサブマシンガン形態へと変え、重力弾をばら撒き、距離を保つ。
「ふーん、火も重力に引かれるっすねー」
ばら撒いた重力弾が、ケルベロス型から白い炎を剥ぎ取る。しかし、それを意に介さずケルベロス型が、五十鈴へ向けて、突進する。
重力弾の影響を受け、勢いを殺されるが、身に纏う炎を使い、重力弾を機敏に察知すると、その合間を縫うように突き進む。
「Garuuu」
五十鈴を包み込むように炎をまき散らしながら、牙を立てようとする。だが、五十鈴は、後方に下がり、そこから回りこむようし、側面から攻撃をする。ケルベロス型は、度重なる重力弾を受け、塵のようなダメージが積もっていた。
だが、獣というのは、手負いになればなるほど恐ろしい。
「やっぱ確実に倒すには、あれっすねー」
五十鈴は、右手に重力の塊を生み出す。そして、生み出した重力の塊に、さらに重力を加える。
「Garuーーー」
五十鈴の行動は、ケルベロス型を倒すために必要なことではあるが、敵であるケルベロス型にとっては、とても大きな隙だった。
一見すると、先程までと何も変わらない突進。だが、その周囲には、違うことがあった。
五十鈴が、ケルベロス型の背後に回ったことで、先程までと、位置が逆になった。そして、そこには、重力弾によってケルベロス型から剥ぎ取られた白い炎が燻っている。
ケルベロス型は、その炎を操り、五十鈴へと向かわせる。その炎は、五十鈴が生み出した重力の塊に引き寄せられ、五十鈴へと殺到する。
墓穴を掘った。その考えが、五十鈴の頭をよぎる。
何処へ避けようとも、白い炎に焼かれる。それは、火を見るより明らかだった。
「多少は、しょうがないっすねー」
そうつぶやくと、超重力の塊をその場に残し、炎の薄いところへその身を投げ出す。
五十鈴は、体の焼ける匂いを嗅ぎながらも、意識を繋ぐ。ケルベロス型も、五十鈴がいた場所を通り過ぎる。
五十鈴は、その場に置いておいた超重力の塊へと意識を向ける。そこには、重力に引かれて集まった白い炎があった。
「お返しするっすねー」
その一言と共に、五十鈴は、白い炎を纏った超重力の塊をケルベロス型へと打ち出す。
その一撃は、ケルベロス型の体を引き裂き、焼き尽くす。いくら白い炎を纏っているとはいえ、重力によって体を破壊され、その内側を焼かれることは、耐えることが出来なかった。
そして、核であるロスタイトだけが残った。
「また、火傷か……」
五十鈴は、智花に報告をする前に、自身に活を入れた。
匠は、詩歌とは反対方向にいる幻獣型へと向かっていた。
「えーと、こっちにいるのは、何だ?」
幻獣型とは、まだ距離が有るため、正確な距離を測ることは出来ない。しかし、大きい個体では無いことは、見て取れた。
「くっそ、やっぱ機動力が欲しいぜ」
土属性全体が持つ共通の悩みとして、機動力の無さが上げられる。そのため、移動に関しては、どうしても時間がかかってしまう。
そうぼやきながらも、走っていると、次第に幻獣型の姿が、はっきりと見えてくる。そう、見えてはきている。けれど、その形がよくわからない。長方形の長身に見えたと思えば、身を捩った瞬間に、核となるロスタイトを残し、姿が見えなくなってしまう。
けれど、近づかないわけにはいかず、慎重に近づく。その結果――
「布?」
それは、白い布の体をもった幻獣型
核であるロスタイトだけが、その存在を主張しているが、横を向いた瞬間には、その姿を見失ってしまうほど、細い。
「一反木綿……」
一反木綿型は、ひらひらと宙を舞い、匠を挑発しているようだった。だが、匠は、その様子を見ながらも、自身の気を引き締めた。
「わりいが、すぐに終わらせる。『一閃』」
単分子刀を手に、宙を舞う一反木綿型へと迫る。
土属性の
「喰らえ!」
核のある頭部を狙い、一気に振り下ろす。そして、一反木綿型を切り裂く。はずだった――
一反木綿型は、匠の刃が触れる瞬間に、体を捻じり、回避する。そして、薄い胴体を巻きつけ、匠を振り回す。
単分子の刃は、オリジンで強化しているため、そう簡単に折れはしない。けれど、予想外の結果に、匠は、動揺を隠せない。
だが、一反木綿型は、動揺する時間をくれなかった。
その薄い体を、鞭の様に振るい、近くの建物や地面を斬り裂く。
匠は、その大振りから、軌道を察し、回避するが、斬られた街灯の切断面を見て、その鋭さに、恐怖を覚える。それと同時に、1つのことが頭をよぎる。
「この断面、『一閃』と同じだ……」
その断面は、鋭利すぎる刃によって斬り裂かれた結果だった。
匠と一反木綿型は、奇しくも、似た原理の武器を持っていた。だが、決定的に違うことは、そのリーチだ。
鞭の様に振るうことで、遠心力をプラスし、周囲を斬り払うことが出来る一反木綿型に対し、通常の太刀と同じような長さしかない『一閃』では、匠が、圧倒的に不利だった。
匠が手を出せずにいると、遥か上空を、光が走った。それと同時に、インカムからの声が、意識に届く。
「『レーザー』による、柱の外郭の破壊を確認しました。幻獣型の対応に移ります」
その声を聞き、次は司の攻撃だと悟る。それ故、この相手に相性の良さそうな火属性と変われないことを覚悟させられた。
「やるしかねーか」
匠は、自身の武器を、少しづつ長くする。けれど、長くすれば長くするほど、その重さは増し、オリジンで強化しているとはいえ、折れそうになってしまうため、その維持に、意識を割くことになる。
だが、それを克服するためのお手本が、目の前にあった。
「似てるよな。だったら、試すか」
そういうと、刃を硬く伸ばすのではなく、刃を柔らかく伸ばす。握っている部分を、大きく振りかぶり、一気に振り下ろす。半円とはいえ、遠心力が乗り、命中した地面に、薄い亀裂を入れる結果となった。
一反木綿型は、その武器が、体の一部であるが、匠は、武器として振るうことになる。その違いが、武器を扱う上での、大きな違いになった。
始めてでは、扱いづらい。そう思いながらも、決定的なリーチの差がある以上、それを埋める手立ては必要だった。
匠は、単分子の鞭を大振りで振り回す。だが、単分子という性質上、空気中の微細な物質の影響すら受けてしまう。刀として使っていたときは、特訓のおかげか、軌道がぶれることはなかったが、大きく振るうことしか出来ない状態では、おおまかな方向しか、狙い通りにいかなかった。
「くっそ、扱いづらい。やっぱり、近づくしかないか」
そうは思うが、一反木綿型の攻撃が鋭く、近づくことは容易ではない。
匠が、単分子の鞭を振りかぶると、それに合わせるように、一反木綿型が、体を鋭く打ち込む。
それを回避しようとし、バランスを崩すと、単分子の鞭もその影響を受け、軌道を変える。その結果、壁を斬り裂くはずだった刃が、壁に弾かれ、一反木綿型の胴体の一部を捉えた。布のように見える体の一部を突き破り、斬り落とす。
それは、ほんのごく一部だが、始めて与えるダメージだった。
「今、なんで反射した?」
視界の隅に見えた偶然に、意識を向ける。何故、単分子の刃が、壁を起点に反射したのかを考える。
「そういえば、矢吹のレーザーって、光を屈折させて、集めてるんだよな」
先ほど見た光景を思い出し、今の現象と結びつける。
匠は、1つの仮説を立てる。
それは、これからの一挙手一投足の全てにおいて、完全な動きをする必要がある。
「今度こそ!」
そう叫びながら、大きく単分子の鞭を振るう。そして、体全体を使い、鞭の軌道に変化を与る。だが、それだけではない。物体を反射させるために、起点となる位置に、土属性の異能を使い、硬い物質を生成する。入射角と反射角を計算し、その角度を調節する。それを何箇所も行い、その刃を、一反木綿型へと向ける。
遠心力と慣性を纏い、極薄の刃が一反木綿型を斬り裂く。それが、一反木綿型との戦闘の最後だった。
残ったロスタイトを拾い上げると、光の柱が割れる音が聞こえた。
慌てて光の柱を見上げると、黒い炎によって侵食されるようすが見えた。
「これで、残りあと僅かだな」
ほのかは、光の柱に対し、2度の破壊が成功したことを確認すると、インカムを使い、指示を飛ばす。
「皆さん、あと少しです。通常であれば、幻獣型の出現も勢いが減るはずです。幻獣型担当で、消耗が激しい人は、申告して、待機所に戻ってください」
司が光の柱を破壊するまでにも、何体かの幻獣型が出現している。そのため、全員が、幻獣型と戦っており、多い人は、3体と戦っていた。
そして、しばらくは大型以下の出現が続き、光の柱の中心が崩れ落ちると同時に、2体の幻獣型が出現した。
「夜星ほのか、1体は私が引き受ける。」
「智花、お願い。もう1体は、私が引き受けるから、皆は戻って休んでて」
ほのかは、仲間を休ませるために幻獣型の対処を引き受けた。それは、次を見越してのことだった。
智花は、自身が引き受けた幻獣型の元へ向かう。その先には、風を纏い、黒い翼を持ち、赤く長い鼻の
「烏天狗か。だが、後は掃討するだけだ。だから、休むために、出し惜しみはしない」
智花の持つ炎の翼が勢いをました。それは、周囲を完全に包み込み、外界から遮断する。
烏天狗型は、脱出しようとするそぶりを見せるが、それよりも早く出口を塞がれ、炎の壁に囚われる。けれども、諦めることなく炎へ向けて攻撃を加えるが、属性の相性もあり、突破することが出来ない。
「無駄だ。そして、これで終わりだ。『灼熱ノ世界』」
智花が右手を開きながら前へとつき出すと、周囲を塞ぐ炎の壁が内側へと迫り、段々とその範囲を狭める。それは、世界が小さくなるような錯覚を与える。
烏天狗型は、迫り来る炎の壁に、後退を余儀なくされる。けれど、智花はそのまま動かない。
炎の壁が智花を飲み込むが、智花自身の身を焦がすことなくすり抜ける。
炎の壁の外側へと出ると、開いていた右手を一気に握りしめる。それに連動するかのように、炎の壁が一気に縮む。そして、中にいた烏天狗型を焼きつくした。
「私も、休ませてもらう」
そういうと、智花は、待機場所へと戻っていった。
ほのかは、自身が受け持った幻獣型と対峙していた。けれど、反応に困っている。
「雪だるま……」
そう、白い体を持ち、雪だるまと呼ぶに相応しいアイテムを身につけた
「司か空が向いてそうだけど、あの2人も消耗が激しいから、しかたないか。1つ、試してみたいしね」
水精型の方が試しやすいけどね。心のなかでそう付け足しながらも、雪だるま型へ意識を集中する。
雪だるま型は、体に異変を感じ、その身を捩る。けれど、その違和感は拭えず、突如、体の一部が水と化した。
「幻獣型の体に作用出来るかわからなかったけど、『液化制御』は成功かな」
ほのかは、雪だるま型の体を構成する雪に含まれる酸素分子の支配を奪い取り、雪という個体から、水という液体へと変化させた。
そして、雪だるま型は、体の一部を奪い取られたことを皮切りに、その体の制御を奪われ、ロスタイトだけを残した。
「幻獣型は、終了っと。御机さん、大型以下の掃討はお願い」
インカムを使い、文へ後を任せる。
バーストにおいて、幻獣型が出てくるまではそれなりの時間を要する。そのため、ほのかは、ゆっくりと休憩しようと考えていた。
待機場所では、LinkageとLaboのメンバーが休憩を始めていると、ほのかと智花が戻ってきた。
「疲れたー。しばらく休憩だよー」
「夜星ほのか、随分と気を抜いているな」
事実、待機場所には、ほのか達のために、食事などが準備されていた。
「ほら、飲み物だ」
「ありが――」
その時、世界が揺れた。
その衝撃にほのかはバランスを崩し、司にもたれかかる。
辺りを見回すと、仲間が壁に手をついたり、しゃがんだりしていた。
「バーストが始まったのかな?」
「それにしては、随分揺れたな」
通常のバーストと比べると、揺れ具合が圧倒的に大きかった。けれど、ほのか達にその理由はわからない。
状況を把握しようとしていると、インカムから連絡が入る。
「夜星、日向、幻獣型があらわれやがった」
それは誠からの応援要請だった。
だが、本来であれば、あり得ないことだった。
「最上誠、どういうことだ?今始まったばかりだろう」
「それが、柱が1枚割れて、幻獣型が現れたんだ。今は、他のチームに牽制させて、順番に対応してるが、手が足りない。でられるやつから、来てくれ」
この場にいる全員が、自身の耳を疑った。ほのか達が知る限り、最初に幻獣型が現れたことは、一度もない。
「と……とにかく、行ける人から行くよ」
ほのかは、すぐにこうどうに移った。幻獣型が出現した以上、行かないわけにはいかないからだ。
誠は、インカムを使い、各チームに指示を飛ばす。本来であれば、Gearsの仕事だが、緊急事態ということもあり、誠に指揮権が移譲されている。
「とにかく、俺達が行くまでは耐えてくれ。だが、決して無理はするな」
10体出現した幻獣型に対し、Paladinは5体、GearsやTrustは、チーム単位で1体づつが限度だ。応援が3人来れば、今出現している分に関しては、対応出来る。けれど、幻獣型がさらに増える可能性がある以上、1人でも手こずれば、一気に突き崩されるはずだ。
「ちっ。『青炎剣』」
青い炎の剣を使い、幻獣型を斬り伏せる。今後の数を予測できない以上、出し惜しみをしている暇はなかった。
ほのか達も軽い補給を終え、次々に参戦する。だが、増え続ける幻獣型に、劣勢を強いられる。1体を倒す間にそれ以上の幻獣型が出現する。
「最上君、どうする?このままじゃ……」
「わかってる。だが、倒すしか」
ほのか達は、出現し続ける幻獣型を倒すしか無い。いずれは、その数に圧倒される。それを理解しているが、他の方法が見つからない以上、この方法を続けるしかなかった。けれど――
「まったく、当たって欲しくないことほど、よく当たる。本当に
1人の声が響き渡る。その人物は、雨島学園の制服を身に纏っている。けれど、胸ポケットに入っている学生証にはエンブレムが記載されていない。その代わりに、腕に風紀委員長と記された腕章をしている。
「全員、柱から距離を取れ。周囲一体を包囲し、そこから幻獣型を出すな。『サモンパターン・炎竜&氷竜』」
氷華は2頭の竜を象った力を振るい、外周を回るように幻獣型を焼きつくし、凍らせる。そして、光の柱から生徒達が距離を取ったことを確認すると――
「凍れ。『ニブルイヘイム』」
光の柱を中心とした世界が凍りつく。柱と幻獣型を巻き込んで。
それは、圧倒的な力だった。
「砕けろ!」
その言葉に合わせ、巨大な氷塊に無数の亀裂が走る。柱の表面一枚を砕き、大量の幻獣型の命を奪う。だが、それだけでは済まなかった。
砕けた破片が宙を舞い、柱を傷つけ、凍てつかせる。そして、柱に対し、さらなる破壊を引き起こす。
何枚も、何十枚もの柱が破壊される。通常のバーストであれば、もう終わっているはずだった。けれども、光の柱が完全に崩壊するようには見えない。ほのかは、遠巻きに氷華を見つめると、焦っているように見えた。
「くそ。なら、噛み砕け」
氷華によって制御された炎竜と氷竜が光の柱へと向かう。破壊され続ける光の柱に喰らいつき、凍てつかせ、焼き尽くす。だが、それは、同時に幻獣型の殲滅を放棄することを意味する。
戦う相手のいなくなった幻獣型が、この付近で最も強い力を放出する氷華へ殺到する。
まるで、氷華とバーストが、お互いにノーガードで殴りあっているようだ。
本来であれば、幻獣型の攻撃を防ぐのに、自身の異能を使う。けれど、氷華は、その
氷華は、周囲を一瞥する。
異能の力を使い、自身の爪を使い、氷華に対して牙を向く幻獣型が殺到している。
「双月風紀委員長!」
誰ともなく声が上がる。けれど、それは杞憂だった。
「
氷華の声が響き渡る。すると、氷華に殺到していた幻獣型の動きが止まり、電撃や炎などのエネルギーとして考えられる異能の力が吸収される。氷華を中心とし、世界がそのエネルギーを失う。
幻獣型が動こうとすればするほど、氷華の氷と炎で作られた一対の翼が、より輝きを増す。それは、世界が失ったエネルギーに比例している。
「何……これ……」
ほのかは、
「周囲の、エネルギーが全て、双月風紀委員長の元へ集まってるわ」
「それって――」
「悪いが、お前達の疑問に付き合う暇はない。バースが起こった以上、一刻の猶予もないからな」
氷華は、今回のバーストをバースと呼んだ。だが、バースの意味を理解できる一般生徒はいない。
氷華は、光の柱を破壊し続けている。だが、それは一向に終わる気配がない。そして、氷華の焦りがより一層強くなる。
光の柱より出現し続ける幻獣型が、勢いを増し、氷華に近づく。だが、ある程度近づくと、エネルギーの全てを奪われ、その場に囚われる。かなりの数の幻獣型が静止した様子を一瞥すると、氷華は、その力をさらに引き上げる。
幻獣型は、その命のエネルギーすらも吸い尽くされ、ロスタイトを残し、風化し塵とかした。だが、残されたロスタイトすらも、粉々に砕け散る。それは、ロスタイトが持つエネルギーの全てを吸い尽くされたことを意味した。
そして、世界が突如揺れた。
光の柱に巨大な亀裂が走る。それは、氷華の攻撃によって引き起こされたことではない。
「まずいな。誰か、紫苑に連絡を付けろ。出てくる可能性があると言え」
氷華は、自身でPDAを操作することすら煩わしさを感じている。今は、思考の全てを異能の制御に回していた。
ほのかは、PDAを使い、紫苑に氷華からの伝言を伝える。返事は、「わかりました」ただ一言だった。けれど、そのたった一言に、言外の重みを感じ取る。
光の柱の亀裂が大きくなり、まるで、卵が割れるように2つに割れた。そこには、光によって構築された卵が浮かんでいる。
バーストの象徴たる光の柱が消え去る。通常であれば、この段階で一安心するが、氷華が攻撃の手を緩めず、異質な状況が続いているため、誰一人安堵することが出来なかった。
「お前達、あの中身が出てきたら、逃げろ」
その一言で緊張が走る。一般生徒と比べると、圧倒的な実力差を持つ氷華が、逃げろという。そのことに、誰もが耳を疑った。
そして、卵が割れる。1本の巨大な角に見えるほど密集した複数の角を持つ、巨大な白い虎のような
「ふはは。神獣型の出現だけは防いだか。不幸中の幸いだな。お前達、全員逃げろ」
全方位からの波状攻撃を続けてはいるが、成り損ないが纏うオリジンに阻まれ、本体へ届くことはなかった。だからこそ、一般生徒を逃がそうとする。だが、誰一人逃げ出さない。いや、出現した
「夜星、お前達で避難誘導をしろ。異論は許さん」
「は、はい」
ほのかは、呆けていたが、名前を呼ばれたことで我に返り、智花と誠に連絡を付け、一般生徒の避難を開始させる。そして、この場には、氷華と3チームのメンバーだけが残った。
「氷華、勝算はあるのか?前と違い、完全体ではないとはいえ、神獣型だろ。それに、雑魚が残ってる」
そこには、日之影次が現れていた。
「いつの間に来たんだ?」
「避難が終わった辺だな。でだ、迂闊に刺激していいのか?」
影次は、雨島を離れていた期間が長いため、行動指針の確認を取る。それだけ、厄介な相手ということだった。
ほのか達は、雑魚と言われ、咄嗟に反論しようとするが、実力差と状況を考え、口を噤む。
「出現した以上、後は殺せるなら殺すだけだ。ミズチと違い、完全体じゃないから、まだ倒せるはずだ」
恐らくは。氷華は、心の中でそう付け加える。
けれど、影次の到着により、状況は一変した。それは、影次が
「まぁいい。やるぞ」
その言葉と共に、無数の黒い影のようなものが成り損ないに向けられる。その攻撃は、防がれなかった。だが、当たらない。成り損ないが纏うオリジンに反応し、逸らされる。それは、影次にとって、始めての経験だった。
「腐っても神獣型か」
それは、影次の異能をよく知る氷華にとっても予想外の出来事だ。
2人が何の成果も挙げられずにいると、成り損ないが、覚醒する。
その巨大な体躯を伸ばし、眠りから覚めたような印象を与える。けれど、核が不完全なため、ところどころにぎこちない様子が見て取れる。
成り損ないが覚醒したことにより、その身に纏うオリジンが、さらに色濃くなる。
「Garuル……ルru……」
知性の欠片を持ち合わせているような声が響く。けれど、神獣型として現れたわけではないため、野生としての本能が勝っているようだった。
「影次、他に誰かこれるのか?」
氷華は、成り損ないにダメージを与える手段がないからこそ、別の手を模索する。
「時間がかかるぞ。成り損ないも、寝ぼけてるから、大人しいが、来るまでには、目も覚めるだろ」
2人は、力を温存するために、攻撃の手を止める。それほどまでに、力の差を認めていた。
「双月風紀委員長、私達も手伝います」
手を休めた氷華達に、ほのかは声をかける。けれど、氷華は視線を向けず、声を返す気すらなかった。
だが、インカムを通じ、別の場所から声が届く。
「夜星だったな。お前達は邪魔だ。不用意に範囲内に入られても、困るからな。さっさと逃げてろ」
「まったく、ひどい言い種だな。だが、影次の言うとおりだ。それで、準備はいいのか?」
「ああ、十分だ。逃すなよ、氷華!」
その言葉を合図に2人が同時に力を放つ。直接攻撃するのではなく、成り損ないの四肢を周囲ごと凍結させ、動きを封じる。けれど、成り損ないの反撃により、その枷が破壊されるが、それでも何度も拘束する。直接攻撃を防がれたとしても、その周囲を使い影響を与えることは可能だ。
だからこそ、2人は周囲を巻き込むことにした。
成り損ないを中心とした領域が、黒く薄い膜のようなものに包まれる。けれど、それは外から中の様子を伺うことが出来る。そのように調節された領域の壁だった。
「影次、私の力を遮断するなよ」
「そんな間抜けはしない。『メギド』」
影次が手を前にかざす。
それに合わせ、黒い膜で閉ざされた領域に亀裂が走る。中が不安定になり、局所的な天変地異が起こる。それは、中に何がいようとも一切合切を破壊し尽くす。中で起きている現象は、ただのおまけにしか過ぎない。元々存在した領域が破壊される。そのことへの抵抗だ。
影次が、手をゆっくりと強く握る。
それに合わせ、黒い膜がゆっくりと縮む。そして、握りつぶしたとき、黒い膜に包まれた領域が消滅した。
元々存在した地面すらも消滅し、大きなクレーターが出来ていた。
「さて、バースも終わったな」
「後片付け……、いや、後戻しか?あの3人のうちの誰かを来させればいいか」
その言葉を残し、撤収を開始する。大きなクレーターに誰もが驚いているが、それが作られるところを見たのは、ほのか達だけだったため、様々な疑問を持ちながらも、その答えを知ることは出来なかった。
氷華と影次は、雨島学園の生徒会室で報告をしている。
「バースによって出現した個体は、倒したぞ」
「周囲の被害は、相当なものらしいですね」
クレーターを作ったことにより、ANTやALUには大量の抗議がきていた。けれど、八神刹那によって一応の復旧がなされたため、抗議の対応も、山場を超えたと連絡が来ていた。
「だけど、影次がいなければ、もっと大変なことになっていただろうな」
氷華達は、神獣型の強さを知っている。だからこそ、どんなことがあろうとも、神獣型が生まれることだけは、避けようと考えていた。
紫苑も、攻めるつもりは一切なく、ただの確認以上の意味はなかった。
「今回の対応に参加した生徒は、
「ああ、だが、使う必要があったんだ、しかたない」
「ええ、ですが、生徒がさらに成長する可能性が出来てしまったのですから、色々と修正が必要ですね」
「それは、必要かもしれんが、私達だけじゃなく、他のやつも集めてからだな」
報告を終え、それぞれが持ち場へ戻る。
今回神獣型の誕生を阻止したことは、ユニオンにとって、この上ない成果だった。
こんばんは
今回も時間がかかってしまいました。
ところで、今の章に入ってから、話数が二桁になってしまいました。
今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。