Linkage   作:enz

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動き出すセカイ

 12月16日月曜日・朝

 雨島学園では、一つの噂で持ち切りだった。

 雨島の封鎖領域に、1体の中型の喪失獣(ロストビースト)が出現した。さらに、背びれや尾ひれが着いているが、大元は、これである。

 教師陣からは、調査中だが、封鎖領域では、十分気をつけるように。との御触れが出ている。しかし、生徒会や風紀委員からは、何の音沙汰もない。普段から活動内容が不明瞭であり、生徒の一部からは、批判もあがっている。

「現在調査中、ねぇ」

「どうしたんですか、氷華。何か不満でも?」

 生徒会室で、生徒会長と風紀委員長が会話をしていた。

「いや、不満はないが、調査中ねぇ。実際は確認済みだろ。とはいえ、こうしてゆっくり話せるのも、先月ぶりだな」

「ええ、ユニオンのメンバーには、雨島において、中型を発見した場合、報告で留めるように頼んでありますから」

「まぁ、流石に大型は出現しなかったけどな。結局何体いるんだ?」

「全部で2体です。両方とも、猪型。そのせいもあり、1体の中型が現れた。と噂になってます」

「来週のクリスマスパーティーのこともあるんだ。そろそろいいんじゃないか?」

「確かに、天岡さんが来る前には、終わらせておきたいですね。ちなみに、中型の情報を自主的に集めているチームはいくつあります?」

 その問いに対して、氷華はPDAを操作しながら、答える。

「トップの3チームと新聞部だ。詳細は、送ったから見てくれ」

 氷華からのデータを見ながら、どのチームに直接課題を出すべきか考える。

「LinkageとLaboは協力してますね。ですが、Linkageから最初の情報が流れている点からして、最初に動いたのは、Linkageですね。Paladinは、相変わらず自分達だけで頑張っている様子ですね。」

「チーム新聞部は、まぁ名前通りの目的だな。とはいえ、LinkageとLaboは、まだしも、Paladinから情報を引き出してるのは、流石だな」

 二人は、データの流れや動きを予測し、推論を重ねる。

「流石に、このデータからでは、2体いることが予測できているかは、わかりませんね」

 二人が見ているデータは、あくまでも情報の流れに関するもので、交わさせている情報そのものを知ることはできない。紫苑が自身の異能を使えば、各自が持つPDAのデータを引き出すことも可能だが、彼女が、それをしようとはしない。氷華も、それをさせる気はない。

「使えるデータにするのに、時間かかったんだ。そのくらいは、多めに見てくれ」

「責めるつもりは、ありませんよ」

 PDAにデータを表示させながら、さらに、一言。

「教師陣からの、直接課題を出させるチームは、ここでいいですね」

「動きからみて、妥当だろ」

 

 

 

 

 同日・夕方

 Linkageは、いつものように、寮の間にある食堂の一角を占領し、課題の反省会を行っていた。ここ最近の議題は、チャージタイプの運動エネルギー・振動特化の異能を持つ、皐月詩歌にあったギアである。

「やっぱりね、風か火属性が、一番しっくりくるの」

 雨島レポートによると、ギアは、精製の方法次第で、特化させる属性を決めることが出来る。しかし、元となる特殊鉱石(ロスタイト)自体、いや、それを核とする喪失獣(ロストビースト)が、使うことの出来る異能を基準としたほうが、効率がいい。だが、小型の喪失獣(ロストビースト)が、異能を使ってくることは少ないので、雨島では、判別がしずらい。

 また、喪失獣(ロストビースト)の異能は、現在確認されている範囲では、マテリアルタイプの5大属性、つまり風・火・土・電気・水のみである。

「風と火の特殊鉱石(ロスタイト)をうまく調合して、専用のを作れればな……」

「司……流石に、オーダーメイドは無理だよ。レンタルだから使えてるけど、私達の資産、全部集めても足りないかもしれないよ」

司とほのかは、いつもこのやりとりをしている。それぐらい、どうしようもないことなのだ。

「属性は、諦める。研究型が、作ってた、グローブタイプ、あれの、専属テスターに、なればいい」

「空、その話も、前にしたろ。ネタ武器って言われて、終わったじゃねーか」

 5人は、いつもの流れを消費し、このまま夕食の時間まで、雑談に花を咲かせようとしていた。が、校内放送で、職員室から、Linkageに呼び出しがかかった。

 

 

 

 

「Linkage、入ります」

 5人は、呼び出しの通り、職員室の近くにある、会議室へ入る。中には、担任の秋萌(あきもえ)(ゆう)がいた。

「皆さん、まずは座ってくださいね。長い話になりますので」

 そういわれ、5人は、用意されている席に座る。それを見て、先生がモニターを操作しつつ、話を始める。

「きっと、皆さんも噂を耳にしているとは思いますが、雨島の封鎖領域に、中型の喪失獣(ロストビースト)が現れました。現在確認されている数は、1体。猪型だと言われています。」

 モニターには、遠巻きに撮影された写真や、監視ネットワークによって、捉えられた映像が映っている。

「皆さんは、普段から小型を相手にしているので忘れがちですが、喪失獣(ロストビースト)は、皆さん同様、異能を使うことが、出来ると言われています。遭遇したチームの情報から、土属性だと予測されます」

 一度ここで言葉を切り、Linkageの反応を見る。そして、本題を切り出す。

「これは、私達教師陣からの指名課題です。もちろん、皆さんには、拒否権があります。その際は、別のチームを指名します。ですが、私個人としましては、能力・チームワーク、その他諸々を考慮しても、Linkageの皆さんに受けていただきたいと考えています」

 担任の秋萌夕は、普段から、よく言えば、やさしい。悪く言えば、頼り無い。しかし、生徒には親しまれている先生だ。だが、この場に関して言えば、自分の生徒を、危険に晒す役目を、気丈にも、必死に全うしようとしている。

「皆さんには、指名課題、雨島に出現した中型喪失獣(ロストビースト)の討伐を命じます」

 Linkageは、確かになりかけを倒している。しかし、いくらなりかけといえど、分類上は、小型なのだ。

 5人は、顔を見合わせ、確認をとる。そして、リーダーであるほのかが答える。

「秋萌先生、私達、Linkageは、その指名課題を受けさせてもらいます」

「本当に、いいんですね。前のなりかけとは、違って、本当の中型なんですよ」

 その問いに対して、全員で口を揃える。

「「「「「ハイ」」」」」

 自分を心配させまいとする生徒に、目を潤ませながらも、自分に与えられた仕事を全うする。

「それでは、現在教師陣にあつまっている資料の全てを、リーダーである夜星さんに送ります。また、討伐までの間に、こちらへ来た情報も、全て送るよう手配します。」

 ほのかは、一つ、約束を果たすために、確認をする。

「先生、指名課題ですが、連合課題(ユニオンミッション)とすることは可能ですか?」

連合課題(ユニオンミッション)ですか?今のところ、Linkageに指名をする。ということしか決まっていないので、私の一存では決められないです。ですが、他の先生に確認を取りたいので、理由を教えてください」

 少しでも危険を減らすために、その頼みは聞いてあげたい。それが、秋萌の考えだ。しかし、課題である以上、成績に反映される。それは、一教師の勝手な判断で変更できる内容ではなかった。

「理由としては弱いのですが、Laboのリーダーと、中型の噂に関する話をする機会がありました。その際に、『もし、存在していたら、協力を要請しろ。それまでには仕上げてみせる』そう言われました。恐らく、何か秘策があると思います」

「そうですか。その件に関しては、他の先生との協議が必要になるので、一旦保留させてくださいね。あと、中型の討伐に関してですが、現在期限は設定されていないので、準備が出来次第、でお願いします。だからって、今からいかないでくださいね。もう暗くなるんですから」

 そういって、話を打ち切る。秋萌は、片付けがあるからといい、5人には、寮に戻るよう伝え、一人残る。

「気をつけて下さいね」

 結果的に、このつぶやきが、5人に届くことは無かった。

 

 

 

 

 17日火曜日・朝

 中型討伐の指名課題が出されたことが発表された。どのチームに対してかは、発表されなかった。が、前日の呼び出しと関連付けて、Linkageが指名されたことは、明らかだった。

 Laboのリーダーである日向智花には、前日のうちに連絡してあったため、ほのかは、智花によって、食堂が開く前に叩き起こされる。

「夜星ほのか、あなたは、なぜそんなに寝ていられる?」

 大事な睡眠の時間を取られ、若干ふてくされているため、意趣返しをする。

「日向智花、その疑問は予想していたよ。何、簡単なことさ。そこに、ベットがあるからさ!」

 そういい終えた瞬間、向かい合って朝食を取っていたため、食べかけのパンを突きつけられた。

「夜星ほのか、人の真似をするとは、随分な余裕だな。」

 ここは食堂であり、キッチンがある。つまり、コンロがある。それは、火があるということ。風属性のほのかの方が、瞬発力は高い。しかし、空気で火は防げない。防ぐのであれば、真空を作る必要がある。それは、かなりの手間だ。従って、もっとも有効な手段をほのかはとる。

「ごめんなさい」

「夜星ほのか、別に謝罪を求めている訳ではない。ただ、随分な余裕だな。と、言っただけだ」

 謝罪を口にした瞬間に、返答があったため、やりにくい、ほのかは、そう思うしかなかった。

 このままでは、ジリ貧だと思い、話題を切り替える。

「そ……そういえば、中型の噂話のときに、『それまでには仕上げてみせる』って言ってたけど、それって何?」

「夜星ほのか、今回は誤魔化されてやる。だが、今更その疑問か。もっと早く聞かれると思っていたよ。まぁうちのチームは、テストを自分達でやってるから、研究内容を知らないのは当然だな」

 研究型チームは、研究成果による加点が、メインとなっている。しかし、試作品のテストなど、他のチームに協力を要請した場合、その度合いに応じて、加点が振り分けられる。そのため、新型ギアの製作に関しては、情報が表にでやすくなっている。

「遠距離用ウェポンギアだ。今まで試作されている、弾丸を特殊鉱石(ロスタイト)で作るタイプではない。通常の弾丸を使うタイプだ」

「今まで見たいに、引き出した力を、ギアに載せて飛ばすのとは違うの?」

 ほのか達は、距離が伸びれば、威力が逓減するが、強力な一撃を遠くへ飛ばすことが出来る。そのために感じた疑問だった。

「夜星ほのか、貴様はバカだ。対喪失獣(ロストビースト)用遠距離用武器で、威力が逓減しては意味が無い。なりかけを倒したとき、近接でなら倒せるはずの威力にも関わらず、遠距離で放ったため、倒せなかったんだ。確かに、連射性能は上がるが、それではだめだ。倒せなければ意味が無い。」

 そういいながら、PDAにデータを表示させ、付きつけてくる。

「近接用ギアで、遠距離攻撃をした際の、逓減率のグラフだ。小型なら、平均的な視界内なら問題ない。なりかけとの戦闘からの推測になるが、中型では、5m離れれば、倒すことは出来ない。その距離で、遠距離攻撃とはいえない。ましてや、異常発生(バースト)では、中型や、大型の出現すら確認されている。小型も加えれば、出現数は三桁を超える。その全てに、特殊鉱石(ロスタイト)で作られた弾丸を使った場合、どれだけの量を使うと思う?絶対的に数が足りない。」

 そこで、一息つき、別のデータを表示させる。

 大量の喪失獣(ロストビースト)が発生する異常発生(バースト)、それは、雨島諸島での発生は少なく、逆に、世界各地で発生している。日本では、その対策として、自衛隊と警察にウェポンギアが貸し出されている。特殊鉱石(ロスタイト)で作られている以上、喪失獣(ロストビースト)を倒すことができる。しかし、普通の人では、媒体をすることが出来ないので、力を載せて、飛ばすことはできない。特殊鉱石(ロスタイト)の弾丸というのも考えられたが、需要が、供給に見合っていないので、実用化されていない。

喪失獣(ロストビースト)を倒すための、異能が持つ、威力以外の何か。それが解明できれば、劇的に進歩するんだが」

 智花は、異常発生(バースト)での使用を前提に、研究を進めている。それは、一つの事実を浮かび上がらせる。

「ねぇ、智花、最終的には、誰でも使えるようにするの?喪失者(ロスト)以外でも……」

「最終的には……な。だが、現段階では、特殊鉱石(ロスタイト)でコーティングした弾丸に力を載せることで、逓減を防ぐのが精一杯だ。コスト的に、特殊鉱石(ロスタイト)で弾丸自体を作るよりはまし。といったレベルだ。もっとも、本体を作るのに、大量の特殊鉱石(ロスタイト)がいるんだがな。それに、本体から、力を引き出し、弾丸に載せるんだ。それでは、喪失者(ロスト)しか使えん。夢のまた夢だ」

 そういいながら、自嘲気味に笑う。ほのかにとって、その姿は、初めて見るものだった。

 智花にも、欲しいものがある。ほのかにとって、居場所が欲しいように、譲れないものがある。

「智花は、認められたいんだね」

 ほのかは、ふと、つぶやいた。だが、智花の耳にはしっかりと届いていた。その証拠に、顔を赤くしながら、飲んでいた牛乳の瓶をテーブルに叩きつける。

「夜星ほのか、何を言ってる!わた、わた、私が何だと言うんだ!大体、何だそのニヤケ顔は!」

「ほらほら、牛乳こぼれてるよ。制服につくと、めんどうだよ」

 テーブルに備え付けてある布巾で、こぼれた牛乳を拭きながら、興奮している智花をなだめる。

 そうこうしているうちに、智花は冷静さをとりもどし、元々の用件を切り出す。

「夜星ほのか、あなたのせいで、余計な時間を使ってしまった。中型のデータを見て、気になった事がある。サイズの違う喪失獣(ロストビースト)は、お互いを敵と認識する傾向がある。その時の目撃情報だが、土以外に、風を使っていたという情報がある。勿論、戦っていた小型が使ったという可能性もある。しかし、切り捨てるにしては、目撃例が多い」

「もし、中型が使った異能なら、全部で2体。もしくは、それ以上いる可能性がある。ってこと?」

 智花は、頷きながら、新たな牛乳に手を伸ばす。

「と、言っても。可能性であって、確証はない。これをたてに、連合課題(ユニオンミッション)にするのは、無理がある。とりあえず、可能性を頭に入れて、注意しろ」

「智花、ありがと。気をつける。それじゃ、一緒に登校しようか」

 気がつけば、登校するには、ちょうどいい時間になっていた。だが、智花は、片付けをすまし、一人で行こうとする。ほのかは、無理やりついていくしかなかった。

 

 

 

 

 ほのかと智花が、並んで登校している風景がめずらしのか、遠巻きに見守る生徒が多い。

 だが、校舎前には、人だかりができていた。

「秋萌先生、なぜ、指名先が、俺達のチームじゃないんですか?」

 そんな怒鳴り声が聞こえてくる。二人は、巻き込まれる予感に、足を止める。

最上(もがみ)(まこと)、Paladinのリーダー、内容からして、中型の話か」

 状況を整理。智花は、自分が絡まれることはないと判断し、先にいこうとするが、白衣をほのかに掴まれているため、先にいくことが、出来なかった。

 なにをする。そういうつもりだが、ほのかに先をこされた。

「秋萌せんせー」

 その一言を防げなかった時点で、敗北を察する。

 

 

 

 

 ほのかの大きな声が響き渡り、校舎前にいる人影が、一斉に振り返る。そんな中、一人の教師が、その場から逃げるように、ほのかへ駆け寄る。

「夜星さん、待ってましたよ。」

 秋萌は、昨日の会議室とは違い、いつも通りのやわらかい雰囲気を纏っている。だが、目は、泣きそうになっている。

「本当に……待ってましたよ」

 その反応には、ほのかも、苦笑いをするしかなかった。

「秋萌先生、おはようございます。」

「ハイ、おはようございます。」

 そんな一連の流れの後に、秋萌は、待っていた理由を話し始める。

「夜星さん、昨日の件でお話があります。ここでは、人が多いので、場所を変えましょうか」

 秋萌は、誠から逃げてきたので、一刻も早く、逃げ出したかった。

 さらに、指名課題を連合課題(ユニオンミッション)に変更したい。という申し出自体、周りの生徒からの、Linkageへの評価を下げかねない話題であったため、二人っきりの場所で、話がしたかった。

「私は、ここで構いません」

 そんな一言で、保身と気遣いの両方を潰されてしまう。

「そう……ですか。ごほん、昨日の、指名課題を連合課題(ユニオンミッション)にしたい。というお話ですが、教師陣での協議の結果、却下されました。力が及ばなくて、ごめんなさい」

「そうですか、わかりました。では、今日の実習から、中型の討伐に挑もうと思います」

 短いやり取りを、眺めていた一人の生徒が、口を挟んできた。

「夜星、自分達だけで、中型に挑むのが怖いから、頭数を増やそうとしてたのか?自信がないなら、俺達に譲れ」

「あ、最上君おはよー」

 威圧的な態度に対し、ほのかは、ゆるく対応することで、雰囲気を破壊した。しかし、さりげなく、白衣を引っ張ることで、智花を盾にしていた。

「夜星ほのか、私を盾にするな」

 傍から見れば、トップを競う三つのチームのリーガーが揃うという、珍しい状況なため、多くの生徒が様子を伺っている。

 そんな中、一人の生徒が、大声を張り上げる。

「お前達、そこで何をしている。」

 校舎から、一人の女生徒が出てきた。その生徒は、胸に学生証を着けてはいるが、チームを示すエンブレムは無い。代わりに、風紀委員長と入った腕章をつけていた。

 あたり一面に緊張が走る。最強の喪失者(ロスト)である、生徒会長と同格の力を持つ人物、その人である。

「秋萌先生、この騒ぎはなんですか?」

 厳しさの中に、騒ぎを楽しみにしている様子が、見て取れた。下手なことをいえば、『氷炎の魔女』の異名の通り、あたり一面を、極寒の地獄へと変えかねない。

 しかし、そんな氷華に対して、冷静に対処した人物がいる。

「双月氷華風紀委員長、おはようございます。私は、夜星ほのかに白衣を掴まれて、動けないだけなので、教室へ行ってもいいでしょうか?」

 裏切りだった。

 智花自身、ここに留まる必要はなく、とどめられているだけだ。

 だが、相手が悪かった。

「却下だ。なぜなら、私が質問している相手は、秋萌先生だ。他からの返答は考慮しない。また、中心にいる以上、勝手な退去も許さん。」

 そういいきると、ニヤリと笑う。

 そう、相手が悪すぎた。

 秋萌からの返答しか受け付けない以上、3人は、秋萌に期待するほかなかった。

「えっと……私は、夜星さんに用事がありまして……、その用件自体は終わりました。それで、そのう。たまたま、LinkageとLaboとPaladinのリーダーが揃ってるのが珍しいので、人が集まったみたいです」

 この場をなんとか治めるための嘘を混ぜた。しかし、相手が悪いのだ。

「校舎まで大声が聞こえてましたが、それは、なぜですか?」

 そもそも、氷華は最初から、見ているのだ。つまり、この場で起きたことの全てを知っている。だが、あえて説明させている。

 自身が楽しむために。

 だが、ほのかが切り込んだ。

「双月風紀委員長。別件で、早急にお伺いしたいことがあります。」

 智花と誠は、純粋に、うまい。そう思った。

 別件で、そうつけることで、この騒ぎとは、無関係だと言い張る。さらに、早急に、とつけることで、後にしろ、という返答を封じた。

「おもしろい。なんだ」

「雨島で、中型喪失獣(ロストビースト)が出現していることは、ご存知だと思います。それが、2体いる可能性については、ご存知でしょうか?」

 本来では、この場で切るべきカードではなかった。しかし、秋萌に任せた場合、何が起こるか、予測がつかなかった。

 しかし、終始ニヤついていた氷華の顔が、一瞬にして引き締まる。

「理由はなんだ」

「先生方から頂いたデータによると、どこかのチームが、遭遇時に使用した異能が、土属性だと、記載されています。しかし、小型と戦闘をしていたときに、使用した異能が風属性だという、報告があります。そのことからの推測です」

「推測したのは、お前か?」

 ほのかは、自分だと答えることも出来た。しかし、この氷華に対して、嘘をつくという行為は、あまりにも、危険すぎた。

「いえ、Laboのリーダー、日向智花の推測です」

 氷華は、智花のほうを見るが、直ぐに、ほのかの方へ視線を戻す。

「どうせ、今日の実習は討伐に行くんだ、ついでに確認してこい。但し、無茶はするな。二人はいっていい」

 二人が立ち去るのを確認する。

 さて、そういいながら残った二人へと向き直る。

「まず、秋萌先生。返答に嘘を混ぜたことですが、まぁ、風紀委員会は、教師に対して権限を持たない。よって、何もできません。」

 体を震わせていた秋萌だが、ほっとしたのか、その場にへたり込んでしまった。

「次に、最上誠。教師にたいしての、暴言とは行かないまでも、礼節を欠いた言動の数々。さて、どうしようか」

 誠は、自分が受ける処罰に対して、想像がつかず、恐怖している。

 この学園では、氷華の胸先三寸で全てが決まる。だからこそ、魔女と呼ばれているのである。

「まぁ、テキトーに反省文でも書いとけ。枚数は、3枚だ」

 その言葉に、安堵する。手間はかかるが、雨島学園では、5枚以内であれば、どんな状況にも対応できる定型文が出回っている。3枚用の定型文を使えば問題はない。

 しかし、氷華が去り際に、誠にのみ聞こえるように放った言葉で、自分の不甲斐なさを突きつけられる。

「大変気分がいい。あの二人は、データだけで、2体いる事実に気づいた。実に楽しみだ」

 

 

 

 

 同日・実習開始時間・封鎖領域ゲート

「今朝は大変だったよ。早朝から起こされるわ、最上君に絡まれかけるわ、双月風紀委員長のおもちゃにされかけるわで」

「災難だったね」

「詩歌はやさしいなー。何度話しても、構ってくれる」

 ほのかは、何度も同じ話をしているため、放置されていた。

「ほのか、朝の災難はもういいよ。そんな災難、想像したくない。それよりも、中型が2体いるって話の方が大事だろ」

 氷華が2体いることを、認めた発言を、誠から聞いた司は、全員に話していた。

「しっかし、あの最上が、こっちに情報提供をするとは思わなかったぜ。司、よく聞き出せたな」

「別に、聞き出した訳じゃない。あっちに呼び出されたんだ。まぁ、最上は、自分達が、気がついてなかったことで、ショックを受けてたみたいだけどな」

「中型同士、縄張り意識少ない。2体と同時遭遇、危なすぎる」

 氷華からは、確認してこいといわれている。つまり、2体いる確実証拠をもってこいということだ。

「まぁ、監視ネットワークと広域検索で、場所を絞り込んでいくしかないかな。今日は、骨が折れそうだー」

 そういいながら、封鎖領域へと足を踏み入れる。実力が未知数の敵が2体いる。そのことが確定している以上、無理にでも明るく振舞おうとしていた。

 

 

 

 

「流石に、広域検索の連続はつらい」

 息を荒くしながら、ほのかは、持参した食料をほおばる。

「でも、いまのルートを潰せれば、範囲はかなり、しぼれるぜ」

 監視ネットワークに中型が映れば、直ぐに連絡が来るようになっている。

「監視ネットワークの範囲を除外して、その分、遠くまで伸ばせば、これで終わりにできるはず」

 そういい、広域検索の準備を始める。

 全員が、警戒位置につき、インカムを通して合図を送る。

 ちなみに、このインカム、封鎖領域進入時にレンタルできるが、普段は、使うほど離れないので、滅多にレンタルされていない。

「全員、配置についた。始めてくれ」

「了解」

 広域検索を始める。風を円状に広げるのではなく、監視ネットワークの間を、直線的に通す。

 そして、雨島自体を突き抜ける。

「終わったよ。この先の、森の終わりあたりにいる。属性は、わからないけどね」

 全員が集まり、中型への移動を開始する。

「でも、属性がわからないと、戦い方が、思いつかないよね」

 属性がある以上、ある程度の相性が存在する。そして、その属性は、見た目では判断できない。

「外見の色でも変わってくれれば、いいんだけどな」

「たまに、喪失者(ロスト)になって変化する人いるけど、滅多にいないじゃん。詩歌は、もともと黒だったんでしょ。今は、ど派手なピンクだけど」

「そうなのよねー。変わり始めたときは、おどろいたわよ」

 変化したとしても、異能に関係した色になるわけではない。現在、その法則は、解明されていない。

「皆とまって、見えてきた」

 ほのかが指示を出し、全員が、中型から距離を保ったまま止まる。中型を確認し、作戦の最終確認を行う。

「外見から、わかることは、データ通りの、猪型ってことと、牛くらいの大きさってことだけか」

 匠は、現状を把握する。

「何か異能を使っていれば、わかりやすいんだけどね、流石に、期待しすぎよね」

「まぁしょうがないよ。じゃあ確認するよ。まず、空が電撃を浴びせる。何をされようが、相手の動きを止められるはずだから、全員で一気に切りかかる。OK?」

 もし、相手が迎撃してきたとしても、異能の使用により、その場に留まるはず。もじ、土属性だったとしても、効果が薄いだけで、効き目がないわけではない。つまり、空の一撃は、攻撃ではなく、陽動なのだ。

「力を、引き出してる間、時間かかる。気づかれたら、そのまま撃つ。それで、いい?」

「それで、いいよ。じゃあ皆、位置に着くよ」

 全員が、分散し、中型に気づかれないように、近づく。そして、空がギアから力を引き出す。自身が扱える限界まで、ギアを電気へと分解する。ギアが、目に見えて小さくなる。

「そろ、そろ……限界」

 そういうや否や、中型が、空の周りでスーパークを起こしている電気に反応をする。巨体故に、動き自体は早くない。

「気づかれた。撃つよ」

 そういい、引き出した全ての力を使い、中型への電撃を放つ。

 しかし、それに反応し、防衛本能から、アースの代わりとなる岩を地面から出現させる。

 だが、少しずつ、電気量を減らしながらも、光速の一撃は、瞬間的に、空と中型の間を通り抜ける。岩がアースの役目を果たそうとするが、空によって制御されている電撃は、まっすぐ突き進み、岩を掠りながらも、大部分は中型へと、命中する。

 電撃は、中型の体の中を駆け巡り、その場へと縫いとめる。結果を確認すると同時に、ほのかは、皆へと指示をだす。

「行くよ」

 その一言を聞き、土属性だと判断しながらも、形を小さくしたギアで、全員が、最大の一撃を見舞う。

 喪失獣(ロストビースト)は、属性ごとに特徴をもっている。土属性の共通した特徴、それは、硬い。とにかく硬いのだ。

 動きを封じられていようとも、思考を麻痺させようとも、特徴である限り、常にそうあり続ける。

 ほのか達の攻撃は、硬い表皮を傷つけるが、倒すまでには至らない。全員が、中型の力を認識する。小型にはない、強さ。単純な力ではなく、命の強さだ。

「硬い」

 誰からか、自然と言葉が漏れた

 傷からは、硬い表皮の内側が覗いている。しかし、内側の表皮は無傷だった。

 まずい。頭の中が、その言葉で埋め尽くされる。ギアから力を引き出すにしても、時間がかかる。さらに、一撃目で、ギアを消耗させすぎたため、同じ威力は出せない。

 司は、視界の隅に写る、詩歌のギアに目を奪われる。

 それは、ギアの大きさだった。他のメンバーと比べ、大きかった。それが口をついて出る。

「詩歌のギアなら……」

 詩歌は、基本的に、風属性のギアを使っている。それは、ほのかに、予備として使わせるためでもあった。しかし、ほのかはその一言から、別の方法を導き出す。

「詩歌、傷口から、中に、全部ぶち込んで!」

 そう、5人のチームであるが、詩歌は、唯一のチャージタイプ。属性を持つギアからは、力を引き出そうにも、変換効率が悪い。しかし、チャージタイプは、自らに、対応するエネルギーを蓄えることが出来る。

 詩歌は、運動エネルギーを司る。それは、衝撃であり、物理的な威力となる。だが、それだけではない。振動特化。それは、特化している方法において、圧倒的な変換効率を誇る。

「そこー!」

 ほのかの言葉を聞き、反射的に体を動かす。

 傷口へ、ギアを突き入れる。中型の体内に残る電撃が、詩歌を襲う。しかし、それによって起こる体の振るえさえ、自身の力とする。

 一撃で、放出仕切れなかった、残り全てのエネルギーを、ギアと通し、中型の体内へと流し込む。それは、中型を体内から振るわせる。体を、臓器を、細胞の一つ一つを高速で振動させる。

 終には、硬い表皮すら、振動させる。その結果、細胞の一つ一つが、ぶつかり合い、破壊される。

 中型は、内側からの破壊に、なすすべなく、崩れ去り、核となる角だけが、転がり落ちる。

「皆、大丈夫?」

 空が、駆け寄ってくる。しかし、4人は、無言で座り込んだ。

 なりかけが、あくまでも小型だった。という事実を、改めて理解した。

「皆、とりあえず、戻ろう。ここが空白地帯になったから、小型が集まってくるかもしれない」

 ギアの消耗が激しいため、小型の大軍と戦うことになると危ない。そう、判断したためだった。

 

 

 

 

 疲労困憊で、門へと戻ってくる。残り2体の確認をする気力すら、残っていなかった。

「よう、おつかれ。どうだ、初めての中型戦は?」

 そこには、氷華だけがいた。だが、5人には、まともに相手をする気力が無かった。だが、ほのかは、気力を振り絞り、氷華の相手(めんどうごと)を引き受ける。

「お出迎え、ありがとうございます。かなりの強敵でしたが、何とか1体、討伐に成功しました」

「そうか、で、2体いる可能性は、確認できたのか?」

「いえ。1体を発見し、討伐したところで、撤退してきました」

「1体は、倒したんだな」

 氷華の確認に対して、ほのかは、中型の核を見せる。

 それを見た氷華は、満足したように笑う。そして、査定に向かうよう、促す。

「ああ、ギアの消耗分は、こっちで持つ。」

 そういいながら、氷華は、査定機に、自分の学生証をかざし、消耗分を引き受けるよう、設定する。

 ほのかは、礼を言いながらも、一つの表示に目を奪われた。しかし、声に出すことが出来ず、反応をみた氷華は、自らの口に指を当て、黙っているよう、意思表示をする。

「流石は、中型だな。小型とは比べ物にならない、質と量だ」

 突然、Linkageの全員に対して、労を労うために、飲み物が振舞われた。

 そこには、智花と誠、そして紫苑がいた。

「皆さん、お疲れ様です。一先ず、中型の討伐おめでとうございます。さて、残りの1体に関してですが、Linkageが、望むのであれば、連合課題(ユニオンミッション)とさせて頂きます」

 ほのかは、紫苑の言葉に、耳を疑った。教師陣からは、1体だといわれ、氷華からは、確認しろといわれた。それは、2体いるとは、認めないということ。しかし、紫苑は2体いることを認めた。

 さらに、ほのか達は、氷華が2体いるのを認めたことを知っている。

 この二つのことから、生徒会と風紀委員会が、情報を隠していたことになる。それを明らかにすることは、二人にとってマイナスにしかならない。

 だが、どんな手を使ったのか、この場には、Linkageと智花・誠・氷華・紫苑しかいなかった。

 そんな疑問を察したのか、紫苑が口を開いた。

「いろいろ、機密がありますので、前もって人払いをさせて頂きました」

 ほのかは、今考えるべきことを、思い出し、前もって考えていた通りのことを口にする。

「私達、Linkageは、連合課題(ユニオンミッション)を望みます。協力要請を送るチームは、LaboとPaladinの2チームです」




今まで、時期などの設定を曖昧にしていましたが、今回は、少しきちんとしてみました。

あと、重要なことを忘れていました。ええ、登場人物の大半が、外見の設定を公開していないということです。

とりあえず、なるべく早く、公開したいと思います。
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