2月も終わりに近づき始めた頃、Linkageリーダー・夜星ほのか、Laboリーダー・日向智花、Paladinリーダー・最上誠の3人が、新聞部から渡されたレポートを元に話し合いを進めている。
新聞部の用意した情報は、ある意味予想通りであり、ある意味予想外のものだった。
「救出組の生徒と、その生徒が所属するチームは、予想通りだね」
「それに、大怪我をしたことある奴がいるチームもだな。ユニオンの3人の内の誰だかは知らんが、治療のお礼もあるんだろうな」
ほのかと誠は、当然だと言わんばかりだった。
「最上誠、あの3人の力は、治療というレベルを遥かに超えているぞ」
智花は、ウェーブのかかった金髪を掻き毟りながらレポートを見つめる。そこには、問題と言っていいレベルの情報があった。
「まぁしかし、こちらの考えに賛同するチームが多いのは、これからを考えるといいだろ。問題は、こいつらだな」
智花は、一つのレポートを示す。そこには、ほのか達とは違う考えが書かれていた。
「構わない、か。このチームには、救出組もいるのに、何でだろうね」
「無理強いをする気はないが、ちょっと気になるな」
「だよね。チームメイトの子が、そう言ってた子を説得するって言ってくれたけどね……」
「だが、この生徒は、ユニオンに恩があるからこそ、思うようにして欲しいと言っていたな。私は、それも間違いではないと、思う」
3人は、その生徒を否定する気はなく、間違っているわけでもないため、頭を抱えていた。だが、問題にしているのは、この生徒ではない。
ほのかは、レポートをめくり、悲しそうな顔をする。
「後は、ここだね。人間は、
「ユニオンがこの方法をとった場合、これを実現するのは、簡単だろう。あれだけの力があるんだ。恐怖を植え付けるには、十分だ。だが、それをしない理由の一つに、自給自足が出来ていないのが、あるだろうな。雨島では、食料の大半を本州から運んでいる。、島内で作っているが、実験という味合いが強い。さらに、今現在は、
智花は、ユニオンが力を振りかざさない理由を推測する。けれども、当の本人出ない以上、あくまでも、推測でしかない。
ほのか達もこれ以上、推測を重ねても意味が無い。そう考え、話を変える。
「こいつの何があったんだろうな。実際、個人の過去なんて、自己申告しない限り、誰も知らねーけど、こういう考えの奴って少ないから、気になるな」
チームメイトであれば、お互いの過去を知っているチームもある。だが、チームの外となれば、ほとんどの生徒は、互いの過去を知らない。けれども、誰も詳しく知ろうとも思っていなかった。
「過去がわかったからって、どうにかなるわけじゃないけどね」
「ユニオンは、人間と
確かに、ユニオンと一般生徒の間では、圧倒的な差が存在する。けれども、それを知らない人間からすれば、どちらも同じだとしか思えない。ユニオンは、強大な力を持つが故に、そのことに気づけずにいた。
「夜星ほのか、そういった理詰めで、説得するしかないな。感情ではなく、頭で理解すれば、賛同してくれるはずだ」
「でもな、日向、感情ってのも、意外と重要だぜ。理解はするけど納得はしない。そういうことだってあるだろ」
「大多数の同意を得たからって、それは私達の総意じゃないもんね。とにかく、納得してくれるまで、話し合うしかないか」
智花と誠は、ほのかの意見に頷き、話し合いは一応の終わりを迎える。
ほのかは、話の終わりを見計らい、一つの提案をする。
「そうだ。せっかくだから、私達の過去でも話す?」
「夜星ほのか、突然どうした。」
「いやね、私達ってこうして集まって相談してるけど、お互い知らないことの方が多いでしょ。だから、何かの役に立つかなって」
「夜星、お前が救出組だってことは、有名だぞ」
「最上君が、死別組ってことと、智花が救出組だってことも知ってるよ。でも、それだけなんだよね」
「夜星ほのか、最上誠、お前達の詳細は知らない。だけど、私の過去は、取るに足らないよくあることだ。何をしても、認められず、何をやり遂げても、当たり前だと言われ、何も出来なければ、罵られる。その結果が、今の私だ」
智花が口火を切るが、多くは語らず、簡単に言い切った。
それに続き、誠も話し始める。
「俺の方も、よくある話だ。家族が居て、俺しか残らなかった。ただそれだけだ」
「まったく、皆して簡単にしか言わないんだから。とはいっても、私も、テンプレ中のテンプレなんだけどね。優しかったお母さんが居なくなって、父親が荒れて、研究所へ売られる。ここでは普通だよ」
「夜星ほのか、最上誠、結局、私達三人も、ここでは普通の存在だということだろ」
三人は、小さく笑う。
それぞれに、意見の違うチームの説得を割り振りながら、準備を始めることになり、この場は解散となった。
Linkage・Labo・Paladinの3チームは、それぞれが意見の異なる生徒の説得へ向かう。決して強制するのではなく、理解し、納得するまで声をかけ続ける。
時間はかかったが、それぞれの熱意を目の当たりにし、全ての生徒が、今回の話に納得した。
ほのかは、生徒の意見をまとめたため、計画を次の段階へと進める。意見をまとめたとはいえ、それをユニオンに伝える必要がある。それも、ただ伝えるのではなく、全員の意志であることを示す必要がある。そのため、雨島学園の全生徒が集まる修了式の日を予定している。だが、そこで発言するには、一つの大きな壁がある。
それを乗り越えるため、担任である秋萌夕の元を訪ねていた。
「秋萌先生は居ますか?」
ほのかの声が職員室に響く。その声に反応し、秋萌がほのかの元へやってきた。
「夜星さん、どうしたんですか?」
「実は、ちょっとお願いがありまして、話を聞いてもらってもいいでしょうか?」
「それじゃあ、空いてる会議室へ行きましょうか」
秋萌は、込み入った話がある。そう感じ取り、場所を変えることにした。
二人は、空いている会議室へ行き、向い合って座る。
広い空間に二人だけ。ほのかは、多少の心細さを感じるが、自身を奮い立たせ、話を始める。
「実は、修了式の時に、ユニオンの皆さんにお礼を言いたいんです。それで、ユニオンの皆さんには内緒で、時間を貰えませんか?」
「お礼ですか?でも、どうして突然?」
「突然かも知れませんが、この一年は、結構お世話になりましたし、全生徒からの同意も貰いました。署名もあるので、後でお持ちしますよ。それで、私が代表で、伝えることになったんですが、ダメでしょうか?」
秋萌は、悩んでいる。秋萌自身は、この頼みを聞きたい。けれども、式に関しての権限を持っているわけでもなく、職員会議で提案すれば、自然と生徒会長である黒月紫苑の耳に入る可能性もある。それでは、ほのかの頼みを聞いたことにはならない。そんな細かいことで、悩んでいた。
「えっとですね、職員会議で提案することは、可能です。ですが、議事録を保存しているので、生徒会長がそれを閲覧する可能性もあります。でも、そうなると、内緒にするという約束を守れない可能性が……」
「やっぱり、難しいですか。でも、それはしょうがないですよね。この学園の式典って、基本的に短いですからね」
秋萌は、生徒の頼みを聞くことが出来ない。そのことに対して、ショックを受けていた。夜星ほのかという生徒は、トップチームを率いているということもあり、優秀な生徒で、今までに教師を頼ったことが無かった。けれども、その夜星ほのかが、担任である秋萌を頼っている。それは、秋萌にとって、嬉しいことだ。だからこそ、この頼みを聞きたい。そう考え、そう想っている。
「確かに、難しいです。ですが、なんとかしてみせます。だから、大船に乗ったつもりで、待っていてください」
「ありがとうございます。秋萌先生」
ほのかは、この時ほど、この担任が頼もしく見えたことはなかった。
3月の終わり、雨島学園の修了式が行われる。
小学生から高校生までがいるため、一つの会場では全生徒が入りきらない。そのため、いくつかの学年は、モニターでの参加となっている。
メインとなった会場には、高等部の生徒が集まっている。そして、会場の壇上で、それぞれが挨拶をし、生徒会長の順番が来た。
「皆さん、こんにちは。この一年、お疲れ様でした。後数日で、新しい年度が始まります。この会場の皆さんには、私も含め、高等部の後輩が出来ることになります。後輩指導もすることになると思うので、皆さん、頑張ってください。それでは、これで終わりにします」
紫苑は、一歩下がり、一礼する。そして、司会の教師が、紫苑に戻るよう告げる。はずだった。
「それでは、黒月生徒会長、その場でお待ちください」
予定とは違う自体に、紫苑は驚く。けれど、一般生徒が何かをしていることは、知っていた。きっと、これがそれだと感じ取り、流れに身を任せることにした。
壇上に、もう一つマイクが準備される。
壇上の準備が終わると、司会の教師が、口を開く。
「それでは、夜星ほのかさん、どうぞ」
「はい」
ほのかは、ゆっくりと歩き、壇上へと向かう。そこで、準備されたマイクの前へと立つ。
ほのか自身が言い出したこととはいえ、今までにないパターンの緊張がほのかを襲う。けれども、緊張を受け入れ、その上で、話し始める。
「黒月生徒会長、今回は、無理を言って、時間を用意して貰いました。全生徒を代表して、話をさせて頂きます」
ほのかは、一度言葉を切り、大きく息を吸う。
「黒月生徒会長。私達は、この一年と少し、多くのユニオンの方と関わりました。そして、貴女達の行動を見て、一つの疑問が浮かび上がりました。何故、貴女達は、自身の力を見せつけるように振る舞うのか。人は、異質であれば、あるほど、その人を、遠ざけようとします。特に、ユニオンの持つ力は強大です。ですが、それを見せつけ、私達を一般生徒と予備、自らをユニオンと呼んでいます。私達との力の差を見せつけ、まったく別の存在だと思わせようとする程に」
ほのかは、紫苑の目を見つめる。けれど、顔の右半分を髪で覆い隠しているため、その表情から、考えを読み取ることは出来ない。だからこそ、言葉を続け、自身の思いをぶつける。
「これは、私達が立てた仮説です。普通の人間と
紫苑は、ほのか達の立てた仮説を聞くが、ただ微笑みかけるだけで、表情を崩さない。けれど、ほのかは、その表情から、肯定を感じ取る。
「確かに、私達
ほのかは、大きく息を吸う。そして、自身の想いを込め、言葉にする。
「私達は、貴女達を犠牲にすることを望みません。そして、私達が私達として生きる方法は、私達が、自分の手で、見つけます。だから、今までの様にレールを敷くのではなく、私達が道を切り開くのに協力してください」
ほのかは、そう言うと、紫苑に向けて頭を下げる。ほのか自身の想いが、ほのかの中を駆け巡り、頭の中を真っ白にしていた。ただ、想ったことを次々言葉にすることが、精一杯だった。けれども、言いたいことは言い切った。そう実感することが出来た。
そして、向かいにいる人物から、声が聞こえた。
「貴女達が何かをしていることは、知っていました。けれど、何をしているかまでは調べていませんでした。まさか、こんなことの同意を取っていたとは、思いませんでしたよ。さて、皆さん、どうしましょうか?」
紫苑は、修了式に出席しているユニオン全員に向けて、声をかける。そして、そこから帰ってくる答えは、予想通りのものだった。
「いいんじゃねーの」
全員が、肯定した。
ほのかからでは、全員の表情が見えないけれど、その声からは、楽しそうな雰囲気を感じ取ることが出来た。
「それでは、いくつかの計画を変更する必要がありますね。夜星さん、貴女達の想いは、しっかりと受け止めました。確かに、私達は、私達の考えだけで動いていました。相手の行動を予測しているつもりでも、結局は私達を基準に考えている。それでは、だめですよね。それでは、これからは、色々と手伝って貰うことも増えるでしょうから、覚悟していてくださいね」
ほのかは顔を上げる。その顔には、自身の想いが通じたことに対する感激が現れていた。
「はい」
その一言を絞りだすと。ほのかは、その場にへたり込んでしまう。
けれど、そんなほのかを励ますかのように、割れんばかりの拍手が雨島を包み込んだ。
緊張のあまりに、立つことの出来ないほのかを天野司が迎えに行く。
司に肩を借りたほのかは、照れくさそうな表情を見せ、壇上を後にした。
「それでは皆さん、これからは、今まで以上に大変になると思います。ですが、皆さん自身や、同じチームの仲間、そして、皆さんが手を取り合いたい人のために、その力を貸してください」
紫苑は、言い終わると、一歩下がり一礼する。そして、ユニオンの仲間が待つ場所へと歩く。その表情は、どこか楽しそうだった。
修了式の次の日、Linkageは、実習に出ていた。向かった先は、4の島・関門島、そして、その中でも、出発地点である港と正反対にある位置にたどり着いていた。
「ここからなら、しっかりと次の島が見えるね」
「確か、5の島・叫喚島だったな」
「阿鼻、叫喚」
「空、それは物騒だ」
「でも、立ち入り許可でなかったわね」
現在、立ち入り許可が出ているのは、関門島までだ。一部の予想では、修了式で、許可が出る。もしくは、許可に関する話が出るのではと言われていた。けれど、それについて一切触れられなかった。
ほのか達は、次の島を見つめるが、その先に待ち構えるものが何なのか、詳しくはわかっていない。けれども、この先に何が待ち構えていようとも、自身の力で道を切り開く。そう決めたばかりだ。
「さて、そろそろ時間だし、戻ろうか」
「そうだな。いろいろと考えることも増えたしな」
ほのか達は、先へ進むために、この場を後にした。
こんにちは
ものすごくわかりにくいかもしれませんが、今回で最終回だったりします。
この終わり方は決めていたのですが、話上の明確な敵がいないので、ちゃんと終われるのか不安でした。
今までお付き合いいただき、ありがとうございました。
もし、また何かを書くことがありましたら、お付き合いいただけると、幸いです。