Linkage   作:enz

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高みを知るセカイ

 4月も終わりかける頃、世の中は、大型連休と呼ばれる時期に入る。しかし、雨島学園では、希望者には、休日にも、課題(ミッション)が出される。つまり、土日も祝日も関係ないということだ。

 雨島という特殊性から、それは仕方のないことだった。

 基本的に、外からの情報が入ってこず、雨島というコミュニティーが、世界の全てとなってしまっている。ここにいる生徒は、何年も前に保護され、ここに残ることを選んだ子供だ。雨島という世界でなら、平気で過ごしているが、外へ行くことに、拒否反応をしめす生徒もいる。

 雨島学園の教師陣は、自分達が当たり前に経験した、修学旅行に、興味を示さない生徒がほとんどと知り、どうするべきか、悩んでいた。

「まさか、ゴールデンウィークにも、島の外に出ようという子がいないとは……」

「毎年のことですけどね、高校生になったら、もっといろいろ興味を示すとおもっていたんですけどね」

 雨島学園の生徒が、雨島諸島から出るには、基本的に、前もって外出届を出す必要がある。そのため、島を出る生徒は、把握できるのだが、今年も、誰一人いなかった。

 更に、追い討ちをかける、一つの噂があった。

「そういえば、私服を持っていない生徒がいるって噂を聞いたんですけど……」

 封鎖領域への立ち入りは、制服着用が義務なので、私服を着る機会がなく、休日すら、制服で過ごす生徒が多い。

「そういえば、制服の上に白衣を着ている生徒もいますよね」

「ああ、Laboのリーダーですか」

 有名だった。

「修学旅行なんて、夢のまた夢ですな」

 職員室で、教師達は、言いたい放題だった。

「そもそも、全生徒の出身地の資料は、雨岡新技術研究所の方しか持っていませんし」

「避ける必要のある場所が、多すぎますな」

 雨島に来ることになった理由の中には、地元に行かせると、危険な生徒がいる。それは、全教師が理解していた。

「そういえば、しばらくは、生徒会長と風紀委員長が外へ行くらしいですね」

「雨岡新技術研究所の方で、用事があるとか、言っていたと思います」

 この二人がいないだけで、教師陣は、かなりの不安を抱えることになる。

「緊急時の対処は、連絡さえ入れてもらえれば、任せるといわれてますが、何事もなければいいんですが」

「でも、けが人が出たときは、冬凪先生が、なんとかしてくれますよね」

 秋萌は、唐突に保険医である、冬凪(ふゆなぎ)(あさ)を名指しする。

「なんで、私なんですか?」

「だって、今まで重傷者が出ても、死者がでていないのは、冬凪先生のお陰じゃないですか!」

 ちょっとしたミスや、不用意に奥へチームがいるので、毎月数人は重傷者がでる。しかし、いまだに、誰一人として、死んではいない。

「そういえば、精神的に復帰できない生徒はいても、肉体的に復帰できてない生徒は、今の所居ませんね」

 他の教師も、秋萌に続く。けれど、冬凪は、その賛辞を素直に受け止めることができなかった。

「重症を負った生徒のほとんどが、数日入院すると、全快して、退院するんですよ。私は、何もしていないのに」

 冬凪の発言の意味を、誰も理解できなかった。

「病院の噂なんですけどね、見知らぬ生徒が、夜に歩き回って、全ての病室に入っていくそうなんです。そうすると、全員の怪我や、病気が治ってるんです」

 保健室と呼ばれている、雨島病院では、そんな噂が出回っていた。しかし、ある時は、男子生徒であり、またある時は、女子生徒である為、謎が謎を呼んでいる。

「実際、喪失者(ロスト)について、分かっていることなんて、極僅かですから。身体能力や、自然治癒力まであがってますから。私達にとっては重症でも、彼らにとっては、数日で直るのが普通という考えも出来ますし」

 この考えは、言った本人すら、信じていない。

 喪失者(ロスト)については、公開されていることの方が少なかった。

「まぁ、全員で、何も起きないことを祈りましょうよ」

 冬凪の一言に、誰しもが頷く。

 

 

 

 

「今日の課題(ミッション)は、双子山の麓まで行くよ!」

 一年中制服で過ごす生徒の筆頭であるほのかは、仲間とともに、封鎖領域を目指していた。

「ほのか、今年の大型連休は、どうする?」

「今まで見たいに、下級生の制御訓練の付き添いでいいと思うわよ」

 ほのか達は、今までも、トップを競うチームということで、連休のたびに、下級生の特訓に付き合っていた。

 誰からも、反対意見がでず、直ぐに予定が決まる。

「双子山の麓にある、監視ネットワーク用設備の確認か」

「そういえば、Paladinは、もう一つの山のどの辺りまで、登ったんだ?」

 匠も、それなりのライバル心を持っているため、Paladinの様子は気になっている。

「んー、昨日最上君から、連絡が来て、『麓まで来たぞ!直ぐに追い抜くから、首を洗って待ってろ!』って書いてあったよ」

 Paladinは、ほのか達に若干遅れながらも、順調に進んでいた。

「ほのか、川の分岐まで、着た」

 ほのか達は、ここまでは、順調にこれるようになっている。

「油断してたつもりはないけど、余計に気を引き締めて行くよ!」

 ほのかの号令に、全員が気を引き締める。だが、匠が、何かを発見する。

「なぁ、ほのか、前に、山の間の向こうの方で、何か光ったって言ったよな」

「一瞬だったから、確証はないけど、見た気はするよ」

 今月の初めのことだった為、今更どうしたのかと、匠の方を見るが、不思議そうな反応をする。

「今、結構遠くで、爆発が見えた気がする」

 光ではなく、爆発。しかし、そんなものが見えれば、かなりの音がするはずである。

「爆発がしたにしては、音がしなかったぞ」

「よくわからないんだが、爆発っていうか、火の塊って言った方がしっくりくると思う」

 ますます、わからなくなっていくが、一人、違う反応をした。

「匠、嘘は、よくない。人魂なんて、非科学的」

 怖い話に聞こえたようだ。

「いや……でもっ」

 話を続けようとした。しかし、空がそれを許さなかった。

 匠は、足を踏まれ、のたうち回る。

 その光景を見て、3人は、話を引きずらないことにした。

「さ、油断してたつもりはないけど、余計に気を引き締めて行くよ!」

 仕切りなおした。

「森が、中腹くらいまで、続いてるから、そのくらいまでは行きたいわね」

「よし、いくか!」

 3人は、一気に話を進め、進んで行く。

 

 

 

 

 麓が見えてきた頃、ふと、詩歌の頭を一つのことがよぎる。

「そういえば、封鎖領域で、他のチームと会うって滅多にないわよね」

 雨島諸島は、島の一つ一つが、かなり広い。そして、現在、双子島の封鎖領域にいるのは、高等部の1年生のみなので、他のチームとの遭遇率は低かった。

「たしかに、皆、山を目指しそうなものだけどね」

 山という、特徴的なものがある為、遭遇しやすそうに見えるが、実際は、一箇所に密集しないように、課題(ミッション)が作られているため、他のチームとの遭遇率は、限りなく低い。

「そういえば、雨島の封鎖領域でも、結局、他のチームと会わなかったよな」

 匠は、記憶を掘り起こしていた。だが、話は、司によって遮られた。

「見えたぞ。今日の課題(ミッション)の観測室。それにしても、対喪失獣(ロストビースト)用なのかもしれんが、奥へ行くほど、設備が強化されてるな」

 門の近くでは、何故壊されないのか、分からないほど、脆そうな外見だった。しかし、今回のは、明らかに手が込んだ造りをしている。

 全員が中に入ると、そこには、様々な設備が、所狭しと置かれていた。

「それじゃ、チェック始めるね」

 そういいながら、学生証をかざし、メンテナンスモードを起動する。普段であれば、数分で終わる作業だが、今回は、いつもと違い、一つのエラーを出した。

 エラーコードが――監視ネットワークに異常が発生しています――出ており、詳しい情報が表示されるが、今までになかったことなので、対処の仕方が分からず、設備に備え付けてあるケーブルをPDAに繋ぎ、学園と連絡を取る。

「こちら、チームLinkage、リーダーの夜星ほのかです。課題(ミッション)で観測所がエラーを出しているので、確認をしていただきたいのですが」

 そういい、状況を説明したのち、PDAを使い、詳細なデータを送る。また、学園側でも遠隔操作が出来る為、そちらでも、対処をすると言われ、とりあえず、課題(ミッション)はクリアとなる。

 普段であれば、エラーがでることがないため、不完全燃焼ではあるが、課題(ミッション)はクリアになった。

 しかし、ほのか達は、モチベーションが下がってしまい、今日は帰ることにした。

 帰る前に、一度山の方を見る。その時、木々の間に、土煙を見た気がするが、中型喪失獣(ロストビースト)が何かをしているのだろうと思い、気にもとめなかった。

 

 

 

 

「ハイ、じゃあ今日の反省会を始めます。何かある人」

 封鎖領域での活動が中途半端になった為、特に議題がでることはなかった。

「でも、時間も結構余裕あるよな」

 普段であれば、戻ってくるのは、遅い方な為、反省会の後は、すぐに夕食を食べていた。

「体育館でもいって、制御訓練の手伝いでも行くか?」

 匠の提案に、皆賛成し、この日は、下級生の手伝いをすることになった。

 この日は、中等部1年生が、制御訓練で使っていた。

 Linkage自体、トップを競うチームである為、下級生からの人気は凄まじい。

 元々、制御訓練の講師役の課題(ミッション)を受けていたチームがいたので、そのチームの補佐という形ではいったが、そのチームには、貯蓄型(チャージタイプ)がいないので、詩歌のみ、一人で受け持つことになる。

「皐月先輩って、運動エネルギーで、特化持ちなんですよね」

 トップを競うチームであり、異能を隠しているわけではないので、下級生にも広くしられている。

 さらに、特化持ちは、かなり珍しく、注目の的だった。

「さぁさぁ、話はここまでで、制御訓練はじめるわよ」

 詩歌は、一人の生徒に目を引かれた。その生徒は、手の間に、火を出しては消し、出しては消している。それを眺めていた詩歌に気付き、火を落としそうになるが、あわてて熱エネルギーを吸収し、火を消す。

「皐月先輩、どうしたんですか?」

「熱エネルギーの子が、一番多いなって思ってね」

 氷炎の魔女と呼ばれている、双月氷華を筆頭に、貯蓄型(チャージタイプ)の大半を占めている。

 そんな中、その生徒は、疑問に思っていることがあった。

「熱エネルギーで、空気中の塵を発火点まで持っていって、火を点けるのは簡単なんですが、そこから、火の温度を上げるのが難しいんです。」

 授業では、温度を上げ、火を点けることは、貯蓄型(チャージタイプ)の異能で、出来るが、火の温度を操作することになると、物質型(マテリアルタイプ)の火属性の方が、得意だといわれている。

「それに、温度って、分子の運動じゃないですか。だから、運動量を増加させる必要が、あるのかもしれません」

 今まで、詩歌は、感覚的に異能を使っており、どのくらいの運動エネルギーを与えるかに、着目していた。振動にしても、対象の細胞一つ一つに振動を与える方法を使っている。

 振動を起こして、熱を生み出すという、理論的な考え方をしていなかった。

 しかし、今の段階で、一つだけ言えることがある。

「まずは、感覚でいいの。しっかりと、力を使えるようになってから、細部を詰めていって」

 基本が出来る前に、細部を作りこんだとしても、本来作るべきものと、違うものが出来てしまうことがある。だからこそ、感覚で、しっかりと作りこむ必要がある。

 そして、詩歌は、自分が理論的に、異能を使う段階にいると、気付かされた。

 

 

 

 

 その日の夜、双子島の封鎖領域にある、双子山。その中腹付近で、大きな爆発があり、双子島の監視ネットワークに、大きな影響を与えた。Linkageが調査した、観測所のエラーのこともあり、研究所の職員を中心に、夜通し、検証が行われた。

 そして、明け方、双子島での異変が、判明した。

 

 

 

 

 双子島での課題(ミッション)が中途半端に終わった次の日、5人は、朝食を取りながら、前日に詩歌が感じたことを話し合っていた。

「今まで、ずっと、感覚的に力を使ってたけど、トレーニングギアのこともあったし、理論立てて、細かい制御をしていく必要が、あるとおもうの」

「自分の異能を、理解し、理論的に使う、か……」

 各々、自分の異能がどういったものか、そして、それを元に、何が出来るかを考える。

 しかし、一朝一夕に思いつくものではない。

 そうこうしているっと、放送による、呼び出しが聞こえてくる。

「高等部1年、Linkage及びPaladinは至急、双子島高等部職員室まで来てください」

 5人は、去年の中型の経験から、何かが起きていると感じ取った。

 

 

 

 

 職員室へ向かうと、既にPaladinが到着しており、そのまま会議室へ、連れて行かれる。

「皆さん、土曜日なのに、お呼び立てして申し訳ありません」

 前回同様、普段のやさしそうな雰囲気ではなく、気丈に振舞おうとしている。

「Linkageの皆さんは、知っていいると思いますが、昨日、双子島の監視ネットワークに、異常が発生しました。さらに、夜中に、双子山にある観測室付近で、爆発が確認され、ネットワークの維持に、影響が出ています」

 スクリーンに写し出されたデータによると、観測室が連動し、監視ネットワークを維持している。しかし、双子山のそれぞれの山の中腹にある観測室に異常が発生し、監視ネットワークに、大きな穴が開いてしまっている。さらに、その観測室は、かなり頑丈に出来ている方であり、その為、重要な設備が、いくつも設置されている。

「ことの重大性を考え、現在、双子島の封鎖領域を封鎖しています。本来なら、生徒会長に頼むのですが、風紀委員長と共に、ANT本社へ行っているので、しばらく帰ってきません。その間、ずっと封鎖しておく訳にもいきません。そこでLinkageとPaladinに指名課題を出すことにしました。詳細をPDAに送ります。受けて頂けるかどうか、じっくりと考えてください」

 二つのチームは、麓へ行ったことはある。けれど、中腹までは、未知の領域だった。しかし、この二つのチームよりも、先に進んでいるチームは、ない。だからこそ、この二つのチームに白羽の矢がったのである。

 それぞれのチームメンバーと内容を確認するが、全員、拒否をするそぶりは見せない。なぜなら、自分達以外に、この領域へ足を踏み入れることが出来るチームを知らないからだ。

「秋萌先生。私達Linkageは、この指名課題を受けます」

「秋萌先生。俺達Paladinも、この指名課題を受けます」

 ほのかがそう言うと、誠も、同じように続き、二つのチームが指名課題を承諾した。

「いいですか、皆さんが、双子島で、どこまで行ったことがあるかは、把握しています。ですが、今回行ってもらう場所は、それよりも先にあります。当然、今までより、協力な喪失獣(ロストビースト)が出てくるはずです。それに、付近の映像を解析した時に、変異体らしき姿も確認されています。ですから、絶対に、気をつけて下さいね」

 全員に、無事に戻ってくるよう、しっかりと言葉にする。

 全員が、思い思いの方法で、返事をした。

「あと、今回は、事が事だけに、皆さんに、バッテリーギアを配布します。5大属性しかないので、それ以外の属性の人ど、貯蓄型(チャージタイプ)の人は、希望する属性を申告してください」

 バッテリーギアは、腕に着けることができ、簡易的なプロテクターとして使用できるように、設計されている。

「皆、いくよ!」

 ほのかの号令と共に、封鎖領域へと向かう。それぞれが持つ不安を、秋萌に悟られぬように。

 遅れて、Paladinも出発する。自分達の力を信じて。

 

 

 

 

 ほのか達は、武器としての能力を考え、バッテリーギアから、力を引き出すようにしていた。ウェポンギアを消耗させてしまうことで、いざというときに、リーチの差や、強度に不安を残したくなかった。

「バッテリーギアって凄い。こんなに軽いのに、ウェポンギアと比べると、引き出せる力が段違いだよ」

「確かに、緊急用で、常備されている理由が、なんとなくわかる」

 各々、その凄さに驚きながら、前へと進む。そして、麓までは、難なく到達する。

「ほのか、ここからは、なるべく喪失獣(ロストビースト)との戦闘を避けた方がいい」

 司の意見に対し、全員が、肯定する。未知の領域である以上、戦闘は避けるべきだ。今回の目的は、特殊鉱石(ロスタイト)の収集ではなく、観測室の確認と、可能ならば、エラーを取り除くことだ。

「分かった。じゃあ、広域検索して、喪失獣(ロストビースト)の位置を確認するから」

 そういい、広域検索の準備に取り掛かる。司達も、この領域の喪失獣(ロストビースト)に、一人で相手をする気はないので、ある程度近づいて、警戒を始める。

「司、中型だ」

 匠の声を聞き、司は、匠のフォローに入りながら、空と詩歌に、経過を促す。

 様々な組み合わせの戦闘トレーニングの成果か、危なげなく対処し、バッテリーギアの消耗にも注意を払う。

「大体把握できたよ。MAPに、おおよその位置を書き込むね」

 地図データを仲間に送り、慎重に進む。その甲斐あってか、強敵との戦いを避け、中腹にある、目的の観測室へとたどり着く。

「なんとか、対処できる範囲の喪失獣(ロストビースト)でよかったわね。変異体もいなかったしね」

「流石に、広域検索の連発は、疲れたよ」

「完全に、喪失獣(ロストビースト)、避ける、無理」

「強固な観測室って聞いてたけど、なんか変な感じだな」

「確かに、なんか違いすぎないか?」

 観測室の外観に、若干の違和感を覚えながらも、中に入ろうとする。扉を開けたとき、その違和感の理由が明らかになる。

 扉を開ける為に、学生証をかざし、ロックを解除する。

 そして、扉を開けると、観測室という室内に、太陽の光が見えた。

 そう、扉の反対側に大きな穴が開き、観測室自体が、破壊されていた。さらに、観測室を破壊した犯人は、すぐにわかった。なぜなら、目の前に、残っているからだ。

 観測室を破壊した、枝分かれした角を持つ、中型喪失獣(ロストビースト)は、まだ、ほのか達に、気付いていない。そして、この状態を見ているのも、ほのかだけだった。

「なにやってんだ?」

 そういいながら、司が覗き込む。その声に反応し、枝分かれした角を持つ、中型喪失獣(ロストビースト)が、ほのか達の方を向く。

「逃げて!」

 反射的にほのかが叫び、その声に、危険を感じた仲間も、走り出す。途中で、他の中型に出くわす危険性も考えずに、一目散に逃げる。

 麓まで、戻ってきた5人は、息を整えるため、一度小休憩を挟む。そこで、中を見なかった3人から、理由を聞かれた。

「つい、逃げたけど、何がいたんだ?大型か?」

「枝分かれした角があったから、多分中型の変異体。大型と比べれば、ましだけどね」

「変異体は、おそらく俺達じゃどうにもならない」

「変異体って……どうするの?どこかの観測室から連絡する?それとも門まで戻る?」

 現在、封鎖領域では、監視ネットワークに異常をきたしており、封鎖領域内でのPDAによる長距離通信も不安定になっている。観測室は、強力な電波を発することが出来るので、そこからであれば、安定した通信が可能になる。

「変異体が追ってきたら、さっきの観測室以下の耐久度の場所じゃ危ないと思う。ここは、門まで、戻るべきだよ」

「まぁ、幸い、立ち入り禁止だから、他のチームが巻き込まれることはないしな」

 膳は急げと、行動を開始する。けれど、ほのかは、異常を感じ取り、叫ぶ。

「避けて!」

 そういうや否や、風が吹き荒れる。広範囲を横向きの竜巻が襲い、唯一反応ができたほのかを除き、4人は、周りの木々に体を打ち付ける。

「あの変異体、風属性だ」

 変異体が5人の方へ向かってくる。観測室の中では、分からなかったが、よく見ると、ライオンの様な外見をしている。ほのかは、囮となり、引き付ける。

「皆、動ける?」

 二つのギアを使い、変異体の攻撃を捌く。だが、力が違いすぎるため、押されている。

 変異体の爪を掻い潜りながら、ウェポンギアでかすり傷を与える。最初の不意打ちに、反応したとはいえ、ダメージを受けているため、思い切った動きができない。

 ギアを消耗させ過ぎない様に、多方向からの、注意を引くためだけの攻撃を混ぜる。

 視界の隅で、仲間が起き上がるのを確認し、逃げる為の作戦を考える。

 4人も、変異体とほのかとの距離が近い為、手が出せずにいる。

「皆、先に戻って。Paladinの方も、同じ状況の可能性がある。学園から、生徒会長達に連絡してもらえれば、なんとかなるはず」

 ほのかは、無理だと分かっていた。生徒会長達は、ANTの本社にいる。本社は、雨島諸島の外だ。戻ってくるにも、かなりの時間がかかる。

 けれど、仲間が無事ならば。そう思っていた。

「わかった。また後で」

 司達は、緊急事態の為、リーダーであるほのかの指示に反射的に従う。

 急いで戻る司達を見て、ほのかは、一安心する。けれど、後で。そう言われてしまった為、この場を何とかしなくてはならない。

 変異体の爪や枝分かれした角を掻い潜りながら、異能による攻撃を防ぐ。ほのか自身と違い、多方向からの攻撃をしてこない為、ぎりぎりで捌けている。

 変異体の気を逸らす為、ギアから引き出した力を、変異体の背後に置き、相手の攻撃に合わせ、重い一撃を加える。

 成功した。後ろに気を取られ、変異体が振り向こうとする。しかし、成功したと思ったことが、裏目に出る。一瞬の気の緩みが、振り向こうとする変異体の枝分かれした角への反応を遅らせる。

 頬にかすり、ほんの少し血がでる。しかし、その血の匂いに、変異体が反応する。

 気を逸らすことには成功した。しかし、気の緩みから、また、自身に注意を向けさせてしまった。

「このまま門まで戻っても……」

 注意を引き付けたまま、門まで戻ってしまうと、門を壊させる可能性がある。だからこそ、変異体を引き離す必要があった。

 振り下ろす爪を、後ろに下がりかわす。それに合わせて、前へ出ようとするが、角が邪魔で、容易には近づけない。攻めあぐねていると、変異体が体勢を整えてしまい、チャンスが潰える。

「目か鼻を潰せれば」

 それが出来れば、逃げる上で、大きなアドバンテージとなる。

 周囲に気を配りつつ、後ろに下がり続ける。角による突進を回避しようと、大きく横に避けるが、突然、地面の質が変わった。木の根や土の地面から、小石などが多い、川岸へと変化していのだ。

 それに気付かず、足を取られる。

「足が……」

 着地ミスで、右足を捻ってしまう。しかし、幸運なことに、変異体自体も、川へ飛び込んでいた為、大きな岩に手を着き、体勢を整える時間を手に入れる。

 変異体が、体を振るい、体に付いた水を飛ばす。

 右足を庇いながら、川岸を進む。変異体も、直ぐに体勢を整え、追いかけてくるが、足首ほどの深さだった為、若干足を取られている。

「とにかく、変異体から、離れないと」

 痛む右足を酷使しながら歩く。その時、後方に、力の高まりを感じる。ほのかは、本能に従い、倒れ込む様に、その場を退く。

 変異体は、風を纏い、足元の水を吹き飛ばし、確実な足場を踏みしめる。

 ほのかは、その一撃を運良く回避することが出来た。さらに、角が木に刺さり、身動きが取れなくなっている様子が、視界に入る。今のうちに。そう思い、立ち上がろうとするが、幸運だけでは、なかった。

 右膝を変異体に踏まれていた。

 それを視界に入れた瞬間、激痛が体を駆け巡る。意識がブラックアウトしかけるが、強烈な痛みに、それを許さない。

 立ち上がり、動こうとするが、ちょっとした刺激が、激痛に変わる。ウェポンギアを杖の様に使おうとするが、刺さってしまう為、体重を掛けることが出来ない。とりあえず、ギアを腰に下げる。

「左足を踏まれるよりは、ましだ」

 両足に怪我をしてしまうと、歩けなくなってしまう。不幸中の幸い。そう考えるようにした。

 痛みを我慢しながら、なんとか立ち上がる。一秒でも早く移動する。そのことに、意識を集中する。

 生きて帰る為に、ありとあらゆる手を考える。

 背後で、今度は木が倒れる音がする。変異体の突撃によって、ボロボロになっていた木が倒れ、変異体が、自由を取り戻す。

 ヤバイ。そう感じながらも、体が言うことを利かない。

 ただ、前へ移動することしか出来ない。

 変異体は、ほのかへ狙いを定め、何度目になるか分からない突進を繰り出す

 ほのかは、まともな回避が出来ない。このまま倒れこんだら、今度は、何処を踏まれるか分からない。その一瞬の迷いが、無防備な時間を作る。

 その結果、角がほのかの左脇腹を背後から貫通する。

「――――!!」

 ほのかは、痛みのあまり、叫ぶが、言葉としての音がでない。

 幸運の後に不幸があったように、不幸の後に幸運があった。

 角が、幾重にも枝分かれしており、さらに、木と違い、地面に固定されていなかった為、深く貫かれることなく、先の方に引っかかる形になった。

 変異体が、ほのかを振り払うように、頭を振る。その衝撃で、吹き飛ばされ、木へと、叩きつけられる。

 過剰な痛みに痛覚が麻痺しはじめたことで、異能の制御に力を割くことが出来るようになった。

 かすかな意識を集め、ウェポンギアから力を引き出し、異能を制御する。高気圧の小さな塊を、辛うじて作り出す。それを傷口へ当てて圧迫止血をする。

「これで、出血は、なんとか」

 生きて帰ることを諦めない。後で。そう言われた以上、約束を違える気はない。

 しかし、もう動く気力がない。出来たとしても、木を頼りに、立ち上がることだけだ。

 諦めたくはない。しかし、ここまで。その言葉が、頭をよぎる。

 変異体に与えた傷は、かすり傷程度。倒せないにしても、ダメージを与えることすら出来ない。

 ほのかが動けずにいると、変異体が歩み寄ってくる。抵抗する力がない。そう思われているのか、悠然と歩いてくる。その間に、ウェポンギアが徐々に小さくなる。

 本来、ほのかは、細かい制御を得意とするタイプだ。全方位からの同時攻撃も、その精密な操作を得意とするからこそ、出来ること。痛みに痛覚が麻痺し、余計なことに脳を使わない今だからこそ、新たな一手を打てる。

 自分が持つ制御能力をフル稼働させる。

 ほのかは、トップを競うチームのリーダーだ。精密な操作が得意だからといって、一度に扱う総量が低いわけではない。

 自身が扱うことの出来る力の総量の限界まで、力を引き出し、圧縮する。さらに、圧縮が完了した直後に、その制御を完全に手放し、残りのウェポンギアを全て力に変換する。

 瞬間的に、大量の空気が精製される。それは、一切の指向性を持たず、ありとあらゆる方向に向けて、一点から解き放たれる。

 周りにある木々を、岩を、水を、吹き飛ばせるもの、全てを吹き飛ばす。

 それは、ほのかと変異体の間で、解き放たれ、お互いを反対方向へ吹き飛ばす。

 圧倒的な風圧は、静かに爆発する。

 一切の手加減が、なかった。

 

 

 

 

 ほのかから、先に戻るよう、命令された4人は、一切の考えを放棄し、門へとひた走る。

 しかし、司は、遠くで木が倒れる音を聞き、瞬間的に、考える力を取り戻す。

 他の3人の様に走るが、だんだんと遅れる。

 司は、走りながら、考える。

 今の木が倒れる音は何なのか?ほのかがやったのか?変異体がやったのか?ほのかは無事なのか?ほのかは?ほのかは?

 その考えが頭を埋め尽くす。そして、一つの決断をする。

「皆、今の音が気になる。俺は、ほのかの所へ戻る」

 Linkageでは、普段は、絶対に命令をしない。しかし、緊急時の命令は絶対だった。

 そして、今はその緊急時だった。

「何言ってるの!ほのかを助けたいんなら、会長達をたよらないと!」

 そう理解しつつも、誰もが納得をしていない。全員で決めたルールだからこそ、遵守する。

「今の4人で、権限を持っているのは、サブリーダーの俺だ。詩歌をリーダーとして、3人で戻れ。時間が惜しい。これ以上の問答は無しだ」

 そう言って、一方的に話を打ち切る。

 詩歌も追いて行こうとするが、空が遮る。

「全員が、戻ると、誰も、助け、呼べない」

 仮にも、中型喪失獣(ロストビースト)が徘徊する領域。司のように、一人で行動するのは、以ての外だが、2人になるのもまずい。そう考え、3人は、門へと急ぐ。救援を呼ぶために。

 

 

 

 

 川からの冷たい風にさらされ、意識が覚醒する。自分はどのくらい気を失っていたのか。

 変異体から逃げるために、自分自身を吹き飛ばしたのは、覚えている。左脇腹から出血していることを思い出し、確認する。

「無意識下でも、止血を続けてたんだ」

 先ほど交わした約束。それを守る為に、無意識下で行っていた。

 体に、力が入らず、冷気で、体温が奪われるのを感じている。

 無意識で生きようとしているのに、意識が諦めている。

 瞼が重くなっていく。司の顔が思い浮かぶ。後で。そう言われたのに、約束を守れなかった。

「ほのか!」

 ほのかの耳に、司の声が聞こえる。

 幻聴。そう頭が理解する。けれど、実際に、何度も鼓膜が震える。

「ほのか、起きろ」

 閉じていた瞼を持ち上げる。そこには、司の顔があった。

「つか、さ?」

「ほのか、生きてるよな」

 見た目は、無事には見えなかったが、生きていたことで、心のどこかで安心する。

「生きてるけど、もう、全身痛くて、痛みを感じなくなってる、かな」

 次に、意識を失えば、止血をしている異能の制御を失いかねない。そういう状況だった。

 辛うじて、言葉を紡ぐ。

 突然、ほのかの口に指を入れる。

「舌噛むなよ」

 ほのかの左脇腹に熱による痛みが走る。痛みに麻痺したはずの神経が、悲鳴を上げる。反射的に、司の指を噛む。血の味がした。

「――――――!」

 うめき声を上げ、体が激痛に反応する。

 しばらくして、熱が引き、口から指が引き抜かれる。

「とりあえず、止血。傷口焼いたから」

 異能の制御すら失いかけていた為、別の方法で止血を施した。

 無意識下とはいえ、異能の制御に使っていた領域が開放され、多少であるが、体を動かすことが出来る。

 傷口に触れると、確かに、血が止まっているようだが、火傷の様になっていた。

「女の子に傷つけるなんて、ひどい」

 そんな軽口を叩き、自分は無事だ。そう司に印象付ける。

「痛覚、麻痺してるって言ってたよな。なら、まだ、我慢してくれ」

 そう言うと、ほのかを抱え上げる。そのまま走り出すが、右膝を壊されているため、膝から下が、たれさがっている。ほのか自身、力が入らない為、協力が出来ない。

「どうして、来たの?先に戻ってって言ったのに」

「木が倒れる音がして、気になったから。そしたら、凄い風が吹いたから、急いで来たんだ」

 Linkageは、門へ戻るとき、必ず川を下るように移動する。司は、今回、ほのかが川沿いに移動すると賭けていた。

「変異体も、見える範囲には居ないから、このまま走れば、逃げ切れるだろ」

 ほのかは、変異体の力を感じる。風属性同士、大まかな位置がわかってしまう。

 2人を見つけた変異体は、先ほどの一撃を警戒し、ゆっくりと近づいてくる。

 司は、ほのかを抱える手に、自然と力が入る。

「司、大丈夫だよ」

 ほのかは、今出来る精一杯の笑顔を見せ、手の中で風を制御する。

 手の中で、ある自然現象を起こすために、環境を整える。手につけてあるギアから力を引き出し、理想的な状態の空気を生み出す。

 目に見えないほど小さな氷の粒を含んだ空気。手の中に気流が生まれ、氷の粒が、何度も衝突する。それは、やがて放電現象を起こす。放電現象を予測し、その通りに風を動かす。

 それは、風の異能を使い、間接的に雷を制御することだ。

 手の中で稲光が起こる。それは、次第に、規模を大きくする。

 帯電し、確保した電気を溜め、出力を上げる。

 雷と呼ぶに相応しい出力へと到達する。それを以って、変異体への一撃を与える。

 変異体は、雷撃を受ける。微かに濡れていた為、意識を白く塗りつぶされる。

 しかし、全身を覆う鉱石をボロボロにしながらも、突撃してくる。その様子は、頭に血が上り、少ない理性を、完全に放棄していた。

 司は、なすすべなく、ほのかを守ろうと、自身の体を盾にする。

 ほのかは、高速で移動する大きな力を感じ取る。風属性の強い力だ。圧倒的で絶対的な力の存在に、体が震える。しかし、その力の正体がわからない。

 そんなほのかの様子を感じ取り、司は、精一杯の笑顔を見せる。

 その時、変異体へ向けて、空が振ってきた。風属性の、面による範囲攻撃。辺りにあるもの全てを、押し潰す。

 ほのか自身、風属性の喪失者(ロスト)だからこそ、感じ取ることが出来た瞬間的な攻撃。そして、その圧倒的な力。ほのかが先ほど起こした突風とは、比べ物にならないほどの風を使った一撃。

 それが、2人を助けた。しかし、その余波を受け、司は前のめりに転びそうになる。

 なんとか踏ん張り、体勢を整える。

 薄い緑色の短い髪の小柄な少女が、風を纏い、空から降りてくる。その少女は、変異体を気にも留めず、2人へ振り返る。

「2人とも、無事みたいだね」

 無事。司は、ほのかの状態を見ても、無事と言った少女に対し、腸が煮えくり返る。

 ほのかは、その言葉を聞いておらず、少女の胸にある、学生証に目を奪われていた。

「ゴ、ゴールド……エンブレム」

 この距離では、上に書いてあるチーム名までは見えない。しかし、存在を知らないチームに所属する少女に対し、困惑する。

「ああ、僕は、ゴールドエンブレム・チームElementalKnightsリーダー、風花(かざはな)(りん)だよ」

 ほのかが感じ取った、圧倒的で、絶対的な力の正体、それは、目の前の少女だった。

 2人の方へ向き、完全に油断している凛へ、変異体が突撃する。

 完全に、不意を突いた一撃。しかし、変異体は、凛にとって、気にかける必要のない存在だった。

 角が、凛を突き刺そうとする瞬間、何発もの気弾が精製され、変異体を吹き飛ばす。

 気弾の一つ一つが、大量の空気で作られていた。それは、弾丸と呼ぶに相応しい硬さを持っていた。

「はぁ、うっとおしいなぁ」

 そう言うと、手を振り上げる。それと同時に、空気で出来た槍が、空を埋め尽くす。

 そのまま、手を振り下ろす。そして、槍が、変異体を貫く。

 そして、風化し、塵と化す。変異体の証である、幾重にも枝分かれした角だけが残る。

「紫苑に頼まれてね。助けに来たよ」

 その言葉を聞き、詩歌達が、無事に門へ着いたことを理解するが、心のなかでは、もっと早く着いていれば。そう思ってしまう。

 その時、Paladinが向かった山で火柱が立つ。

 2人は、唖然とするが、凛だけは、平然としていた。

「ほむらも、派手にやるねぇー。あっちも移動を開始すると思うから、こっちも移動しようか」

 あの火柱に、心当たりがあるようだった。

 それについては、何も語らず、2人を風で包み、持ち上げる。

 やさしく包む風が、2人から緊張を奪う。

 ほのかは、意識が薄れていくのを感じ取る。しかし、司の体温が、辛うじてほのかを繋ぎ止める。

 

 

 

 

 Paladinが担当した観測室は、外部に設置してある通信設備を破壊されており、建物自体は無事だった。

 ゴリラ型の変異体を発見したときは、全員が室内におり、けが人が出ることはなかった。しかし、外部との連絡が取れず、閉じ込められていた。

 「俺が、おとりになるから、脱出しろ」

 何度も、この提案をしたが、他の4人から却下され続けた。

 緑が、植物の異能を使い、何度も外の様子を確認するが、変異体は、観測室付近を棲家としており、離れる様子はなかった。

 双子島の封鎖領域を突風が吹きぬけたとき、状況が一変した。

 しばらくしてから、誠は、今まで感じたことのないほどの強い炎の力を感じ取る。

 変異体が、電気属性だということは、確認している。

 だからこそ、この力の正体がわからなかった。だが、その直後、肩までで揃えられた、真紅の髪をもつ少女が現れた。

 その少女は、誠達を、一目確認すると、一足飛びに、変異体との距離を詰め、変異体が反応をする前に、炎を纏った拳をアッパー気味に振りぬく。

 その一撃は、巨大な火柱となり、変異体を焼き尽くす。

 たった一撃。Paladinが出て行くことすら諦めた相手を、それだけで倒した。

 その様子を見ていた5人は、観測室から出てくる。

 それに気付き、少女は話しかける。

「Paladinだね。私は、赤月(あかつき)ほむら。ゴールドエンブレム・チームElementalKnightsのサブリーダーを務めてる。紫苑からの連絡で、助けに来たよ」

 5人は、助けを呼べていない。それはつまり、Linkageが助けを呼んだということだ。

 つまり、自分達と同等か、それ以上の自体に遭遇したということだ。

「あいつらは、無事なんですか?」

 誠は、自分達が認めた相手だからこそ、その安否を確認する。

「さぁ?門へは3人しか戻ってないし、他の2人は、もう1人が助けに行ってるから」

 誠達は、救助が間に合っていることを祈るしかなかった。

「他の心配をしてる暇があるなら、さっさと移動するよ。ああ、面倒だから、一気に運ぶね」

 そう言うや否や、炎が回りを包み、その気流で5人を浮かべる。そのまま、一気に門へと飛んでいく。

 

 

 

 

 門では、詩歌達3人が、今や遅しと無事を願いながら、待っていた。

 視界の隅に、炎の塊が見えたときは、肝を冷やした。さらに、それと同時に突風が吹き荒れる。

 凛とほむらは、ほぼ同時に門へと到着した。

「ほむらは、火力があるから、速いね」

 突然現れた少女に、唖然とする。しかし、ほのかの様子を見た瞬間、愕然とした。

「ごめん。どじっちゃった」

 明るく振舞うことで、心配を掛けまいとする。そんな中、怒鳴り声が聞こえる。

「夜星!どういうことだ!お前……なんで」

 誠は、今にも掴みかからんとする勢いだが、チームメンバーによって抑えられている。

「へへ、ごめんね」

「ほのか、もうしゃべるな。急いで病院へ行こう」

 しゃべるだけで、かなりの体力を消耗する。だからこその気遣いだ。

 司は、詩歌に、学園へ連絡するよう頼むと、モノレールへ向かう。

 モノレールでは、座席にほのかを寝かせ、司が付き添う。

 凛とほむらも、同じ車両に乗り込もうとするが、他のメンバーによって別の車両へと連れて行かれる。ほのかの状態を見た、メンバーによる気遣いだ。

 緊張が解け、麻痺していた痛覚が戻ったのか、ほのかは、辛そうな顔をするが、心配させまいと、気丈に振舞う。

 司は、ほのかの手を握り、ずっと黙っている。内心では、1人残した自分を責め続けていた。

「ごめん、俺がもっとちゃんとしてれば」

「大丈夫だよ、雨島病院で、復帰できなかった人はいないらしいし」

 入院した重傷者は、全員復帰している。そういう噂が流れている。

 ほのか達は、噂しかしらない。噂しか知らないからこそ、気休めにしかならなかった。いや、司にとっては、気休めにもならなかった。

「ねぇ、司、一つ賭けをしよ。私が、無事に復帰できるかどうか。復帰出来たら、私のお願い一つ聞いて。復帰できなかったら、私の事、忘れて」

 それは、賭けとして成立していない。ほのかが、司を思うからこその願いだった。

 弱々しい笑顔を見せるからこそ、司は、その賭けに乗ることが出来ない。

「司、私が、復帰できるって思ってくれないの?」

 卑怯だ。司は、心の中で思う。信じたい。しかし、現実が、信じさせてくれない。

 苦し紛れの、一つの決断をする。

「じゃあ、俺からも。復帰出来たら、俺の願いも聞いてくれ。ダメなら、忘れてやるけど、絶対に許さない」

「それ、忘れるって言わないよ」

 司は、涙を流しながらも、精一杯の笑顔を見せる。

「俺を、賭け事での約束を守れない男にしたくなけりゃ、絶対に復帰しろよ」

 

 

 

 

 2人との後ろの車両に乗った面々は、2人が何を話しているのかわからない。

 凛とほむらを除いた面々は、現実を受け止められず、押し黙るしかなかった。

 そんな中、詩歌は、ある噂を口にする。

「すごい重症を負った人でも、数日入院したら、全快したって噂だってあるんだし……」

 噂を聞いたことはある。しかし、実際にそれを経験した人物を知らなかった。

 気休め。誰もがそうだと思っている。しかし、それにすがり付く他なかった。

「夜星、リタイヤなんて許さねえ。俺が……俺達が目標として、認めたチームなんだ。ここで終わるなんて許さねえ」

 独り言だった。しかし、今ここにいる3人に向けての言葉だった。

 そんな中、凛が1人、PDAを操作し、連絡を取っていた。

 それが終わると、この空気を壊すことになる言葉を言い放つ。

「さっき、皐月詩歌だっけ?君が聞いた噂、真実だよ。だから、安心していいよ。あの子は、復帰できるから」

 しかし、誰もが気休めとしか受け取らなかった。その為、誠は、怒りをあらわにする。

「お前、ふざけるな。誰が見ても無理だろ!足の関節なんて、雨島じゃ、致命傷だ!」

 Linkageは、探索型のチームだ。封鎖領域を駆け巡るチームにとって、足の怪我は、致命的だった。諦めたくはない。しかし、諦めなければならない。誰しもが、そう思っている。

「僕は、言ったはずだよ。紫苑から、連絡を貰って助けに来たって。当然、怪我に対しても対応は済んでるよ」

「私や凛じゃ無理だけど、ユニオンには、それが出来る喪失者(ロスト)がいるから」

 ほむらが続けるが、皆知っている。喪失者(ロスト)とは物質型(マテリアルタイプ)貯蓄型(チャージタイプ)の2種類であり、その異能では、ほのかを助けられないということを。

「これは、公開許可でてたよね」

「重傷者が居る場合、どうせ見せることになるから、教えていいって言ってた」

 凛の問いにほむらが答え、凛が、続きを話す。

喪失者(ロスト)には、三つのタイプがあるんだよ。物質型(マテリアルタイプ)貯蓄型(チャージタイプ)、そして不明型(アンノウレッジ)。不明な事が多すぎる。そもそも喪失者(ロスト)に分類できるのかも分からないタイプ。君達は、これからその一つを目の当たりにするんだよ」

 凛とほむら以外、誰もが理解できずにいる。三つ目のタイプ。今まで、噂にすらならなかったこと。そんなことを、突然言われ、理解しろというのが、到底無理な話だった。

 しかし、その不明型(アンノウレッジ)に該当する喪失者(ロスト)を見たことがある

「白い翼の人……」

 誰かが、そう呟いた。

 救出組といわれる、異能に目覚めたばかりに、研究所に売られ、助けられた喪失者(ロスト)。その救出を実行した本人。彼女なら、不明型(アンノウレッジ)だと言われても不思議ではない。

 だが、確証がなかった。

「そもそも、君達は、喪失者(ロスト)について、どれだけのことを知ってるの?だだ感覚で異能を振るい、身体能力が普通の人間と比べて、圧倒的に向上してることすら気付いていない」

 ほむらは、この場にいる面々が、井の中の蛙だということを突きつけた。

「あなた達は、トップを競うチームって呼ばれていても、私達ユニオンには、手も足も出ない」

「あっちの子は、自力で間接制御まで、たどり着いたみたいだけど、君達はまだでしょ」

 ユニオン、間接制御。この場の面々には、意味の分からない言葉だ。この2人と、自分達では、知っていることが違う。それを痛感させられる。

「本当に、本当にほのかは、助かるの?気休めじゃなくて、現実に助かるの?」

 詩歌もまた、ほのかを置いて行ったことで、自身を責めていた。

「僕達が、これ以上説明しても、信じられないみたいだし、この後起きることを見てみな」

 そう言い、一方的に話を打ち切る。

 半信半疑のまま、時間だけが過ぎ、雨島の駅へと到着する。

 

 

 

 

 雨島駅では、3人の生徒が、モノレールの到着を待っていた。

 ANTの本社にいるはずの、黒月紫苑と双月氷華がおり、もう1人、見知らぬ生徒だった。

 モノレールが雨島駅へ到着すると、全員がほのかの元へ移動してくる。

「早速ですが、命、お願いします」

 紫苑がそう言うと同時に、四谷(よつや)(みこと)がほのかの元へ行く。

「はいよ。あたしは、そのために来たんだしねー」

 茶色い、ウェーブのかかったロングヘアーを揺らし、ほのかの状態を見る。

 司は、状況が飲み込めずにいた。

「あんた、一体?」

「ハイハイ、邪魔。えっと、全身の細かい傷に、左脇腹の何かが貫通した傷と、止血の為の火傷。それに右足間接の粉砕ってとこか」

 ほのかの状況を口にする。そして、用はないと言わんばかりに、ほのかから離れる。

 その行動を理解できなかったが、ほのかは、悲鳴を上げていた痛覚が、静かになるのを感じた。

 誰も、一瞬の出来事に、反応出来ずにいる。しかし、ほのかは、静かに起き上がった。

 右足と左脇腹を触って確認する。そこにあった傷がなくなり、全てが元に戻っている。

「相変わらずの手際だね、無駄巨乳」

 凛の、皮肉を込めた一言に、雰囲気が変わる。

「凛、そっちこそ、ちゃんと牛乳のみな」

 笑いながら、胸が揺れるのを凛に見せ付ける。

 二つのチームの面々は、状況が理解できずにいたが、ほのかは、凛達に感謝の言葉を伝えようとする。しかし、頭で、怪我が治ったことは、理解できているが、納得が出来ていない為、うまくあるけずよろけてしまう。

 その結果、司に支えられることになる。

「あの、危ないところと怪我の治療、ありがとうございます」

 凛達は、にこやかに笑い、感謝の言葉を受け取る。

「LinkageとPaladinの皆さん、この度は、私達が不在のせいで、危険な課題(ミッション)を受けさせてしまい、申し訳ありません」

 紫苑が頭を下げる。だが、ほのかは、紫苑が頭を下げる必要はない。そう言わんばかりに、あわてる。

「私達が、課題(ミッション)の危険性を、ちゃんと認識してなかったのがいけないんです」

「そう言って貰えると、助かります。それと、夜星さん、あなたは、自力で間接制御までたどり着いたと、凛から報告を受けました。そのお祝いといってはなんですが、LinkageとPaladinの質問に、出来るだけ答えましょう」

 そう言いつつ、紫苑達は、モノレールを降りる。そして、最後に一言。

「但し、皆さん、今日は、しっかり休んでくださいね」

 その一言と共に、他の面々の時間も動き出す。

 けれど、ほのかは、司にのみ聞こえる声で囁く。

「司が、付けてくれた傷、なくなっちゃった」

 顔を赤くするほのかにつられ、司も顔を赤くする。




この話を書いている途中で、接続詞の意味を考えずに使っている部分が多かったので、注意していこうと思います。

「しかし」とか「だが」とか「けれど」とか、何故かつけたくなってしまう。

今回は、中等部編の中型の話同様分割したかったのですが、うまい具合に、場所がみつからなかったので、1話になっています。

もっと前から、フラグを立ててみたいですが、大枠は決まってたはずなのに、一話一話に集中してしまい、先に繋がるフラグを立てるのが難しいです。

長い話にお付き合いいただき幸いです。

これからも、よろしくお願いします。
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