2話目にして保険が両方とも外れる事態に。
深夜になり廊下の灯りが消灯した時刻、私は一人明治館の外に出る。
向かうのは町の端の方にポツンとある公園。
いや、この時代に遊具なんてものは無いから広場といった方が正しいかもしれない。
ここ最近寝不足なせいか目にクマが出来ているのがわかる。
広場に着いた私はこっちに来てから吸うようになった煙草に火を付け少し多めに煙を吸い煙草の火をじーっと見つめる。
煙草は良い。眠気とストレスだらけの荒んだ心に安らぎを与える。
....最近はいつもこうだ。夜は部屋に居たくない、あの極悪なレズどもが侵入してくるから。
私が天華百剣 斬に嵌まったのは冬馬という主人公の親友ポジションのキャラクターの画像を見たからだ。
当時そのキャラクターのイベント露出は少なかったが図鑑で何度も冬馬の出る所を再生し、次のイベントは冬馬が出るはず、次こそは、この次こそはとイベントをやり続けていたらいつの間にか極級すらも余裕でクリアできるレベルに達していた。
wiki内でも冬馬、次こそは冬馬を。と書き込んでいたらいつの間にか冬馬のストーカーとか、女なのにホモのガチな奴というあだ名が付けられるまでになった。
ゲーム自体も女性キャラしかいないとはいえなんだかんだ楽しかったのもあった。私は女性キャラを愛でる趣味は無いが、ゲーム自体は面白いからキャラクターに興味が無くても続けられたし最後まで巫剣に興味を持つことはなかった。
あれだ、男の人が男キャラを使うときにそのキャラを愛でたりはしないでしょう?ただキャラが居るから使う。私も同じような感覚で使っていた。
よく使うのは小夜左文字と獅子王、それに水神切兼光だ。
小夜左文字は私が女子高生なこともあって見た目が似ているから。
感覚的にはキャラクタークリエイト出来るゲームで自分に似せて作る感じだ。
こう、自分がゲームの中で動いているような気分になるのだ。
後の二人はただ単純に強いから。
同性のゲームキャラを使う理由なんて誰だってそんなものだと思う。
.....なんの話だったっけ?ああそうそう、それでその日も冬馬のイベントを見ながら寝落ちしちゃったんだけど、気付いたら天華百剣 斬の世界に居たんだ。
最初は冬馬に会えると喜んだりもしたんだけど、よくよく考えたら陸軍が出動するレベルにでもならないと会えないことに気付いた。
その時に足手纏いにならないように必死で剣術の練習や体力作りも頑張った。そのお陰か最近だと益荒男相手に時間を稼ぐことだって出来るようになってきた。大振りとか回避よゆー。
その頃は巫剣達も別に普通な感じだったんだ。
私的にも女友達って感じだった。
獅子ちゃんはほわほわで向日葵みたいな笑顔のどこかズレた感じのおっとりさんって感じで、小夜ちゃんは、....あれはクール系だね。
スイは何て言うか、うん、冗談が上手い盛り上げ役って感じ。
普通にみんなで明治館の一席使って注文したおっきいわたちパイ食べながら中身の無いお喋りをする、現実の日常となんら変わらない光景。
世界が変わっても女子が数人集まればどこも変わらないんだなぁってそんな気持ちになったね。
いやぁ、スイの話の途中で獅子ちゃんがうとうとしだしてそれを小夜ちゃんが「獅子....寝るな」って首に手刀入れるの。本人は突っ込みのつもりだったみたいだけど、それで獅子ちゃん意識落ちちゃったし、話をしていたスイはスイで「ちょ、まだオチ言ってないですよ~。獅子さーん!?」なんて必死に起こそうとしてさ。
時間差で手を手刀のままにして固まっていた小夜ちゃんが復讐帳取り出して獅子ちゃんの名前消してたのを見たときには思わず笑っちゃった。
お手入れの時だって、巫剣自体にさほど興味が無かったから最初にこちらに来たときにマッサージのことだと知った時は驚いた。
刀ぽんぽんしてるのってあれ、マッサージの比喩表現だったのかーって感じ。
まぁ、高校でも悪ふざけの入った女同士でのボディタッチみたいなのは割とよくあったし、お手入れも最初に巫剣達が艶声をあげたときにはびっくりしたけど、だんだん慣れてきて私も『お客様、揉み加減は如何でしょうか?』とか『お、ここか?ここがエエのか?』とか馬鹿言ながらやっていた。
本当に他愛ない日常って感じ、楽しかった。
きっかけはこっちに来て3ヵ月くらいたった時、獅子ちゃんが赤い顔で着替え中だった私の部屋に入って来たんだ。
「どうしたの?獅子ちゃん、こんな時間に。ってかちょっと着替えちゃうから待ってて?」
真っ赤な顔の獅子ちゃんは私の言葉に耳も向けずに抱き付くと、胸に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅いできた。
「主の匂いだぁ...えへへ~....」
「こらぁ、そこは獅子ちゃんの寝床じゃないぞ~?」
「主はやっぱり胸が大きいなぁ...。ふかふかぁ....」
「やんっ、こら~!怒るよ、獅子ちゃん。もぅ~」
その時は女友達の間で良くある行き過ぎたボディタッチだと思った。
だけどなんだか獅子ちゃんの胸を触る手付きがいやらしくなってきて、その手がブラをずらそうとした時。
「獅子、抜け駆けは良くない....」
「がふぅっ!?」
小夜ちゃんが獅子ちゃんの首に手刀を入れて気絶させた。
「小夜ちゃん!?」
「獅子が迷惑掛けた。....じゃ、おやすみ」
「あ、ちょっ」
小夜ちゃんが獅子ちゃんを片手で抱えてそそくさと帰っていってしまった。
「一体なんだったの....?ってか、抜け駆け?」
なにがなんだかさっぱりだった私は、まぁ、大分楽観的な性格なのもあったのだろう。
その日は、まぁ明日になれば分かるだろうなんて考え、そのまま眠りについた。
そして朝、開店前の明治館でいつもの3人と朝食をとった時、私は事の厄介さを知ることになる。
「へ....?今なんて?」
「だから、ここにいる巫剣達はみんな貴女の事を好きなんです、恋愛対象的な意味で。もちろんスイも貴女の本妻の座、狙ってますよぉ?」
「こっちに来てから鞘入もご無沙汰....私も欲求不満ぎみ....。獅子が暴走したのもそれが原因....」
「あうう~、すみませんでした.....。」
顔を真っ赤にして謝る獅子ちゃんに反応する余裕すらない。
『鞘入』、一時期wiki内で住民達がはしゃいでいた時があったから巫剣自体に興味が無い私でも、それが原作内でどういう扱われ方をしていたかは分かる。
どうやら、私はゲーム内で好感度35超えだった子達とは鞘入を定期的に行っていたらしく、それが最近はご無沙汰だった為みんな欲求不満になっているらしい。
ってか私は女同士で乳繰り合う趣味もないしそもそもまだ経験なんか無い。
衝撃の事実に辺りをキョロキョロと見回すと六道開聖周回に便利と知って育てた三ツ鱗と目が合う。
三ツ鱗は頬を上気させ潤んだ瞳でこちらを見つめていた。慌てて私は視線を外す。
え、ってか私、あんな幼女とも鞘入したことになってるの!?
「む、無理!流石に無理だって!」
「鞘入しないといずれ他の巫剣達も獅子みたいなことになるかも....」
「あうっ....しゅみませんでした」
「スイはまだ我慢できるけど、さすがに今後ずっとは自信無いですね~....」
「いやだって女同士とか無理でしょ!」
「スイは貴女の子供、3人は欲しいです!そして赤い屋根の一軒家で幸せな家庭をーー」
「そもそも巫剣は出産不可....」
「いや、巫剣関係無く女同士で子供は出来ないから!?」
「獅子はこの先我慢できる...?」
「む、難しいかもです...」
「何言われても無理なのは無理だから!私はそっちの趣味ないからっ!」
それから数日後くらいから悪夢のような日々が始まった。
夜這いやお風呂時を狙ってくるのは当たり前、テラスで軽くうたた寝なんかすれば起きたときにどんなことになってるか想像もつかない。
人混みの少ない場所を歩こうものならスラムばりの治安の悪さを体で実感することになるだろう。
お手入れ後にそのまま押し倒されたこともあったが何とか逃げ切れた。
あのときほど禍憑用に体を鍛えたことに感謝した日はないと思う。
最近はお手入れで指一本たりとも動かないくらいにしてから部屋を出るようにしてるから危険はないが。
明治館で唯一安全なのは七香と八宵くらいだ。あの二人には本当に感謝している。
七香は相談役として精神安定に欠かせない人だし、八宵の造った対巫剣用兵装『獅子改』がなければ暴走した獅子ちゃんから逃げる手立ては無かったと思う。
本当に感謝してもしきれない。
二人がいなかったら精神面と体力面の両方でボロボロになっていた私は悪夢が始まった日からそう遠くない日に補食されていただろう。
今度人気茶屋の限定ぜんざいをご馳走してあげよう。
そして3人で....
......辺りから欲情した獣の気配がするな。
「出てきな、居るんでしょう?小夜ちゃん」
「気付かれてた、流石....」
小夜ちゃんが一際濃い闇の中から現れる。流石に学習したのか体操服では来なかったらしい。
赤い瞳に紅く上気した頬、なるべく息を殺してはいたみたいだが発情した獣特有の息遣いを殺しきれていない。
「今日こそは鞘入をさせてもらう....」
「生憎鞘入をする予定は私にはなくてね。私が捧げるのは冬馬一人って決めてるんだ」
「会ったことないくせに....。最近は禍憑も少数しか沸かない、これからも会えない....」
「いつか会えるさ」
「そう、....ならその前にあなたは私のものだって体に刻み込んであげる」
「小夜ちゃんには無理さ、これからもずっとな!」
駆け出す二つの影、小夜ちゃんを倒して私は生き残ってみせる。
そして冬馬に会うんだ。
私の戦いはまだ始まったばかりだ!
どうしてこうなった。
ヤンデレものに見せかけたほのぼのハーレムものを書こうとしたらバトル漫画になっていた、コレガワカラナイ。
読む分には1話5000字でも少ないと思ってしまうのに書くとなると1000字すらキツい。ハーメルンで書き物をしている人達の凄さがわかりました。