醜美逆転ものも書きたかったけど、見るのはともかく巫剣達が虐げられる世界観や設定を考えることに拒絶反応がやばかったのでそちらはあえなく断念。
誰か代わりにお願いします(懇願)
明治館1階の食堂で和泉守兼定と菊一文字は朝食をとっていた。食堂にいる巫剣達は珍しくがやがやと落ち着きがなくいつもより騒がしい。
「‥‥そうか、今日は新しい隊長が着任する日か」
「僕としては綺麗な男性だったりすると嬉しいですね。ま、無いでしょうけど」
この世界では大昔から男の数が少なく、希少な存在になっていた。この街にも男は数人くらいならいるであろうが、基本的には家からは出ず部屋の中でやりたいことだけをして暮らす、いわゆる箱入り息子が普通だった。
それゆえ巫剣として長く生きる二人も男を見たことはない。
男を見ずに一生を終える女性もさして珍しくはないこの世界では菊一文字の言ったことは年頃の女性の妄想のような話だ。
「戦場に男なんて不要だ」
「さすが鬼の副長、硬派ですね。僕としてはつねに禍憑に目を見張らさなければならない職場だからこそ、華が必要だと思うんですけれど」
そんな話をしていると一人の女性が近付いてくる。
「あ、和泉守さん菊一文字さん丁度良かった。お二人とも今日は任務は無かったですよね」
「七香か、確かに今日は非番だったが」
「ええ、僕も今日はこれといって用事はなかったですよ」
「実は今日隊長さんをお迎えするはずだった石田切込正宗さんと加州清光さんが禍憑を見付けて交戦に入ったらしくて、代わりに二人に新しい隊長さんのお出迎えをお願いしたいんです」
「禍憑の方は加州がいるなら大丈夫か。わかった私が行こう」
「加州さんもこんな時に禍憑見付けちゃうなんて大変ですね。僕で良ければいいですよ」
「ありがとうございます。ここ最近は何故か禍憑の出現が多いです。一体何が起きてるんでしょう」
「案外この街に絶世の美男でも来たんじゃないかな。禍憑は人の負の感情で湧きますし」
「もうっ、そんな男の人を見ずに生涯を終えた女性の執念なんかで湧くわけないじゃないですか!」
「いや分からないですよ? 案外本当にそうだったりして、なんてね」
「ほら二人とも、確かそろそろ新しい隊長殿が到着する時刻だろう。ふざけたこと言ってないで行くぞ」
「そうでした! 私は準備してから行きますのでお二人は先に明治館の前で待っていて下さいね」
「わかりました。七香さんも忙しそうだけど頑張ってください」
「ありがとうございます。それではっ」
二人が明治館の入り口に移動してから半刻が経った。
七香は準備に忙しいらしく出迎えには参加できないと二人に伝えており、二人で隊長を出迎える手筈になった。
「そろそろ新しい隊長さんが来る時刻ですね。どんな人でしょうか。僕としては仕えがいのある人がいいんですけれど」
「どんな人であろうと私はその隊長の指示に従うまでだ」
「はは、和泉守さんならどんな人が来ても理想の隊長にしてしまいそうですね。....っと、隊長が来たみたいで‥‥すね‥‥‥‥」
「どうした菊一文字、そんな呆けた顔をし‥‥て‥‥」
この世界の女性が想像する理想の美男子がそこにいた。小さくすらりとした体に整った中性的な顔立ち、どこか幼くみえる守ってあげたくなるような理想の清楚系美男子。
その美男子は走ってきたのか頬を朱に染めて息を切らしている。
正直にいってムラムラする、菊一文字はそう思った。
新任の美男子は息を切らしたまま少し緊張した顔でお辞儀をする。
「新しく着任した隊長の誠(マコト)です。これからよろしくお願いします!」
(可愛い、可愛すぎる! え、この物凄く可愛い美男子が僕の新しい巫剣使い!?)
菊一文字の好みにクリティカルヒットした。
そのあまりの可愛さに一瞬口が動かなくなるもどうにか声を振り絞っていつも通りの対応を心掛ける。その際に衝動に身を任せて襲ってしまわないように可能な限り体を律するのも忘れない。
「よ、よろろくお願いします。僕は菊一文字という巫剣です。これから末永くずっとよろしくお願いします」
いつも通りの対応ではなかった、というか台詞をかんでいた。
それに気付けないくらい動揺した菊一文字だったが、和泉守兼定が一言も喋っていないことに気付き、同時に仕方がないと思った。
(こんな美男子を見てしまったら言葉が出なくなってしまうのも仕方ないですね。僕ですら一瞬声が出ませんでしたし)
菊一文字がフォローを入れようとしたとき、それより和泉守の口が開く。
「私は和泉守兼定というものです。これから貴方の刀として一生護り続けることを誓います、我が君」
一瞬で誠衣装になり片膝をついている和泉守兼定の姿がそこにはあった。
「我が君!? ちょっ和泉守さん、あなたそんなキャラじゃないでしょう!? 鬼の副長はどこ行ったんですか!? というか今の一瞬でどうやって誠の陣羽織を羽織ったんですか!?」
「我が君よ、館内を案内します。さ、こちらに」
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
「和泉守さん一応言っておきますが、手を握ったりしたら憲兵案件ですからね」
和泉守の手がピクリと動いたのを見逃さずに菊一文字が忠告する。
この世界では男性が許可しない限り身体的な接触は犯罪である。血迷って抱きつこうものなら死罪、巫剣なら金槌での打ち折りが待っている。
菊一文字の言葉に和泉守の顔に少しだけ理性が戻り、自分のやろうとしたことにサーっと顔が青くなる。そして菊一文字の方を見て、視線で感謝を伝えた。
「失礼、我が君。‥‥改めてこちらへどうぞ」
「え、あ、よろしくお願いします」
今のやり取りを理解していない誠が戸惑いながら館内へ入っていく。
(戸惑っている顔も可愛すぎるっ)
誠の戸惑い顔を脳内保存した菊一文字はそのまま二人の後を追った。
あの後明治館は混乱に陥った。年頃の巫剣達が大勢いるのだから当然とも言える。
そんな巫剣達の肉食乙女と化した顔を見るたびに菊一文字は、不謹慎ながら彼女らよりも誠と長くいれることに優越感を感じてしまっていた。
長くといっても館内案内の間だけだったが。
今は部屋に戻っていて自室で恋愛小説を見ている。禍憑に襲われていた男性を助けた女性がそのまま関係を深めていく内容で、女性達の間で大人気の小説だ。
菊一文字も愛読しており、禍憑から逃げるために男性と手を繋ぐシーンを見たときには布団をゴロンゴロンと転がりながら言葉にならない声をあげたものだ。他の人には絶対に見せれない奇行である。
小説を読んでいると勢いよく扉が開いた。
「菊一さん酷いですよ、またですか!」
扉を開けたのは加州清光だった。
「ああ、かしゅーさんですか。酷い、とは?」
「また私の巫剣使いを毒牙にかけようとしましたね!」
「酷い言いぐさだなぁ。僕は禍憑と交戦して隊長のお出迎えが出来なくなってしまった加州さんの代わりに七香さんに頼まれたんですよ」
「そうやってまた奪うつもりでしょう、騙されませんよ!」
「騙してなんかいないですよ。そんなに不安なら僕と一緒に任務をするようにしますか? 新撰組で一番の働きをする人の下なら僕も勉強になりますし」
「うっ、完全に嫌がらせじゃ....ゲボッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか!?」
いつの間にか開けっぱなしの扉の前に薬箱を持った誠が立っていた。誠は心配そうに加州に近付く。
「あ、誠さん。かしゅーさんなら大丈夫ですよ、いつものです」
「え、そうなの?」
「主様、菊一さんの言う通りです。巫剣は病気にはかかりませんから、ですからその手に持った薬箱は下ろしてください!」
「そ、そう? 大丈夫ならいいんだけど」
「ええ、もうそれは完全に! むしろ今が絶好調ですから!」
「かしゅーさん落ち着いて。血を吐きながらてんぱっちゃってるとだいぶ危ない人に見えちゃいますよ」
「ぐっ、そうやって菊一さんは‥‥ゴホッゲハッ! くっ、失礼します」
「あ‥‥」
誠の持つ薬箱を見て逃げる加州。薬嫌いは相変わらずだった。
「やれやれ、嫌われたものですね」
「菊一文字さんは加州清光さんとは仲が悪いんですか?」
「僕としてはみんなと仲良くやっていたつもりだったんですけど、なんでか目の敵にされてしまって。‥‥それより、えっと、僕に何か用がありましたか?」
「あ、そうでした! 菊一文字さんちょっと失礼しますね」
そう言うと誠は菊一文字の前で屈んで菊一文字の足の裾を捲る。
(え、近! というか男の人ってとってもいい匂いが....)
上では菊一文字がスンスンと匂いを嗅いでいることなど露知らずに誠は菊一文字の足を真剣な表情で見ている。
「‥‥やっぱり。菊一文字さん、怪我していますね」
「ぅあ? あ、うん。‥‥バレてしまいましたか」
菊一文字の足は紫色に腫れていた。
巫剣使いが未着任だった期間に菊一文字は刃こぼれするほどではないものの負傷してしまっていた。
どうやら微妙な足取りの違和感から誠は気付いたらしく、薬箱はその為に持ってきていたようであった。
「痛そう‥‥。少し触りますね」
凄く近い位置に男の人が居ることで混乱ぎみの菊一文字には一切気付かずに誠は触診を始める。
(お、男の人が僕のふくらはぎを触ってる!? うわ、手が綺麗。というかなにこの状況、ご褒美かな?)
菊一文字が刀生初の男とのふれあいに至福を感じてふるふると震えていると、それを怪我のせいだと勘違いした誠が真剣な表情のまま呟いた。
「痙攣するほど辛かったんですね。‥‥うん、これだけの傷だとお手入れした方がいいですよね」
「お、お手入れですか!?」
(男の人にお手入れしてもらえるとか、これ僕捕まったりとかしないですよね!? というか巫剣の『折れるまでに一度は体験したいことベスト3』である男性からのお手入れがまさかの実現!?)
菊一文字の驚いた声を、羞恥によるものと勘違いした誠が真剣な顔を菊一文字へ向ける。
「巫剣使いとはいえ会ったばかりの男の人に体を触られるのは不快だと思います‥‥。でも菊一文字さんが怪我をしたままなのは私が嫌なんです!」
(脈あり? これって脈ありですよね? これは婚姻待ったなしなのでは!?)
「ふつつかものですがよろしくお願いします」
「ふつつか‥‥?」
「あ、いえなんでもありません。お手入れして欲しいです。お願いします」
「よかった‥‥」
菊一文字の欲望にまみれた返事を聞いて、自分の誠実な思い(怪我を治したい)が届いたと安堵しあどけない笑顔を向ける誠に、菊一文字のムラムラは加速する。
(お手入れして欲しいなんて犯罪級の台詞を言った僕の体を気遣って安堵してくれるとか、天使かな?)
「あ、では布団に横になって下さいね」
「は、はい」
上着を脱ぎ布団にうつ伏せになった菊一文字の上に誠が跨がり、拭紙で綺麗に拭いていく。
「ん‥‥っ」
そのまま打ち粉と拭紙を何度か使って菊一文字の背中を綺麗にしていく。自分を大切にしていると肌で感じれるその丁重な手際に菊一文字の口はだらしなく開いていく。
「ふっ、くぅ‥‥っ。んはあ‥‥っ」
(ああ、これはヤバイですね。本来守るべき男の人に身を任せることがここまでいいとは。これはまさかあの恋愛小説に書いてあった『バブみ』というものなのでは?当分おかずには困らないですね‥‥)
顔は赤く火照り開いた口からよだれを垂れ流す菊一文字。下半身が疼きっぱなしであり、内心このまま襲っても許されるのではという気持ちが支配していく。
(いや、さすがにそれは捕まる。というか誠さんに嫌われたくはないですね。がまん、がまんするのです)
「では失礼します」
菊一文字が鋼の精神で欲望を押し殺していることなど露知らずの誠。
手に丁子油を付けた誠は菊一文字の背中を揉みほぐし始める。
(ふあっ‥‥あっ‥‥あっ‥‥‥‥。これはやばい、男の人の手が直接僕の背中を揉みほぐしてる‥‥っ。というかこのお尻に乗っている感触って、誠さんのお尻!?うわ、なにこれ柔らかい‥‥‥‥うっ)
「え?、あ、うわぁっ」
ビクンビクンと腰を痙攣させた菊一文字に誠の体勢が崩れる。
手で体を支えようとするも油で滑りそのまま覆い被さるように倒れた。
「いったぁ~‥‥」
(胸のポッチが背中に当たってる!? え、誠さんサラシ巻いていないんですか!?というかお尻に当たってるこの硬いのは‥‥)
そこまで考えた瞬間菊一文字の意識は途切れた。
「ううっ、ごめんなさい菊一文字さん‥‥‥‥あれ、菊一文字さん? ちょっ、菊一文字さん!? だ、誰かーーっ!? 菊一文字さんがーーっ!!」
騒ぎを聞いて駆けつけた巫剣いわく、その菊一文字の表情は鼻血を出しながらも、とても満足しきった安らかな笑みを浮かべていたという‥‥。
どうも、いまだに某お婆さんの名前が頭から離れないわたち教徒です。
先日ぎっくり腰をやってしまった際、頭の中であの名前が浮かんだ時に私はあの名前を忘れることを諦めました。多分一生あの名前を頭に浮かべて生きていくのだと思います。
誠さんは一応転生者(0才児スタート)になります。といってもなろうあるあるの貞操概念逆転系の転生者なので特に無双系能力なんて持ち合わせていないでしょうが。
1話完結系の主人公に名前を付けたのはなんか今回は誠キャラが多かったから試しに誠と付けてみた次第です。局長とヤンデレ百合さんが居ないのはゲーム内好感度や未入手の問題と意図して誠キャラを出したわけではなかった為。
それと多分、牛王隊長や現代デスゲーム系(?)の話みたいに続きを書くこともあるかもしれません。