転生したら何故か親友がTSヤンデレ勇者に生まれ変わって求婚してくるんですけど!? 作:エスト瓶
「イクス」
「はい、何でしょうか母上」
今日は珍しく母さんに声を掛けられた。念の為に言っておくが俺と母さんの仲は決して悪くない。生前の奴等と比べるまでも無い程に俺を愛してくれる人だから俺も敬意を持って接している
本当に珍しく母さんは俺一人を自身の部屋に呼び出した。普段なら必ず父さんが居るのに今日は不在らしい
「子供は?」
「生憎と彼女達とはまだに肉体関係に及んでいません。それと俺もまだ16なのでもう少し時間が経ってからかと思っています」
「そう」
そう言って母さんは用意されたカップに口を付けて中身を飲み始めた。母さんは俺が産まれた時から無表情、無感情、無口と言った三拍子揃った【無】の人だった。俺や姉さんが産まれても表情1つ変えた事も無く、例え目の前で家族が殺されても母さんは顔色1つ変えないだろう
姉さんや父さんが一方的に話を続けても極希に相づちをする程度でこれと言った反応を示さない。なら、母さんは俺達を愛していないのかと言うとそれは外れで、母さんは俺達家族やこの家の使用人を愛している。本当に極希に母さんに誉められたりお祝いに料理を作ってくれる事がある。俺達はそれがとても嬉しかった
父さんは産まれた時から一緒だったから母さんの考えている事や感情を読み取ることが出来るらしい。何でも「彼奴は本当ならお前達を溺愛するくらいに愛しているから心配するな」と言われた時は流石に驚いた。母さんが彼処まで【無】なのは自身が持っているスキルの影響があるらしいが本当はどうなのだろう?
「仕事は?」
「毎日書類整理の仕事が主流ですが、たまに外に見回りをすると良い気分転換になって書類仕事にまた身が入ります」
「そう」
カップが空になったのか後ろに控えていた使用人に視線を向けるとすぐさま新しい紅茶を注ぎ入れる。視線で俺の方にも淹れるかどうかと聞かれるが視線を外す
「…………」
「…………」
お互いに話す事が無く、沈黙が流れるがこの沈黙は不快感など一切無く俺にとっては至福の一時の1つだった。普段は同じ家に居る筈なのに余り会う事が出来ないし、何よりも俺は父さん達と違って話続けるのが苦手だから母さんに不快感を与えかねないから余り話し掛けない様にしていた
「……貴方は」
「え?」
沈黙を破ったのはまさかの母さんだった為に俺は視線を母さんに向けた
「私達の誇りよ。だから頑張りなさい」
「―――!?」
母さんの言葉に思わず瞳から涙が溢れそうになった。俺は母さんや父さん達に誇りに思われていた事に嬉しく感じた。姉さんを誇りに思うのは分かるが魔法の才能も無い俺なんかを誇りに思ってくれる母さんに俺は言葉が出なかった。本当に認めて欲しい人に認められるとこんなにも嬉しかったんだな……
「はい、これからも母上に誇りに思われる様に精進します!」
「そう」
それから特にお互いに会話は無かったが俺にとって素晴らしい時間だったのは言うまでもなかった
本当は誰よりも家族に認めて欲しかったイクス君。生前は本当に運が無かったとしか言い様が無い程に不運でしたからね