「・・・えええ…ギャンブルねぇ…」
「そんなにツキがないの?あなたって」
「いやもうツイてないとかいうそういうレベルじゃねぇよ…キャッシュカードを踏み砕いたり、野良犬に噛みつかれたり、カップ焼きそばを流し場にぶちまけるなんてのはもう日常茶飯事だよ…」
「同情しようにも同情の域を出てるわねそれは…ほら、アレよ」
「へぇ、アレがねぇ?」
一先ずギャンブルというのがどのような物か見てみようと決心した上条はシノンが指差した案内板を頼りにギャンブルゲームの広場にたどり着いた。そしてそこには『Untouchable!』の文字が書かれた、西部劇をイメージさせる幅3メートル、全長20メートルぐらいの装置が見えた
「これはどういう代物で?」
「手前のゲートから入って、奥にいるNPCガンマンの銃弾をかわしながらどこまで近づけるか、っていうゲームよ。ちなみに一回につき500クレジット」
「ははぁ…これどうなったらいくら貰えるんだ?」
「報酬を貰う方法はただ一つ。NPCガンマンに触れること。もし触れれば今までプレイヤーがつぎ込んだお金が全額バック」
「ぜ、全額ですと!?」
「ほら、看板とこにキャリーオーバーの表示があるでしょ」
「今んとこの金額は…30万ちょいだな…それぐらいあれば装備は揃うもんなのか?」
「そうね…防具も含めて大体は満足のいく物が揃うと思うわ。下手に欲張り過ぎなきゃだけど」
「なるほど…そりゃいいや」
「でも無理よ」
「え、なんで?」
「あのガンマン、8メートルラインを超えるとインチキな早撃ちになるのよ。予測線が見えた時にはもう手遅れよ」
「予測線…?」
上条にとって聞き慣れない単語がシノンの口から発せられると、奥の方から何やら数人の男性の集団がやって来た。それを見るとシノンは上条の耳元で小声で囁いた
「ほら、丁度良いところにカモが来たわよ」
「今日こそは頼むぜ!」「気合い入れて行けよ!」「よっしゃあ!」
ギャラリーも十分に集まったところで男性はエントリーの為のパネルに右手の掌を押し付けた。すると500クレジットの支払いが行われ、数秒のカウントダウンの後ゲートの金属バーが開き、男性は全速力で駆け出した
[3…2…1…GO!]
ガシャン!!ダダダダダッ!!
「うおおおおおおお!!!」
チャキッ!
「ッ!そらっ!」
「?なんだあの変な踊り?」
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
「んなっ!?」
奥のガンマンがリボルバーを構えると、挑戦者の男性はその場で立ち止まって変なポーズを取った。なんだろうと上条が疑問に思ったのも束の間、その男性を避けるかのように三発の銃弾が通過した。その光景はまるで、男性は銃弾がどこに来るか分かっていたかのようだった
「アレが…予測線…?」
「そ。防御的システム・アシスト。通称『弾道予測線』。狙われたプレイヤーの視界には、赤い弾道予測線が表示されるの。それを見て、プレイヤーは弾丸を回避するのよ」
「へぇ…」
バンバンバンバンッ!
「ぎゃあああああっ!?」
「GAME OVER!」
そうこう話している内に男性は後3メートルほどのところでガンマンに銃撃され、GAMEOVERを宣告された
「あーあ…」「やっぱりダメかー…」「時間無駄にしたな…」
「うっわ…早いな…最後が特に」
「ね?だから言ったでしょ。左右に大きく動けるならともかく、道幅が3メートル程しかないからほとんど一直線に突っ込まなきゃならないのよ。だからどうしてもあの辺が限界なのよ」
「へぇ……」
そう言うと上条は興味深そうにギャンブル装置の全体を見回し始めた。そして顎に右手を当てて何やら思考を巡らせると、その口元を緩ませた
「予測線が見えた時には遅い…なるほどなるほどそういうことか…いやでもそれだとギャンブルって言うか?まぁいいや、モノは試しだ」
ザッ…!
「へ?ちょ、ちょっとあなた…!」
誰にも聞こえないような静かな声で呟くと、上条はゲートに向かって歩き出し、台座パネルの上に右手を置いた
「おいおい、今度はビギナーが挑戦かよ」「ついでにちょっと見てくか」「やめとけよ小僧ー!」「いいカモだぞー!」
ギャラリーが囃し立てる中、上条の手持ち金額から500クレジットが支払われ、ゲーム開始の音楽が鳴り響きカウントダウンが始まった
[3…2…1…GO!」
ガシャンッ!
「!!!!!」
ダダダダダッ!!
カウントダウンが終わり、ゲートが開いたのとほぼ同時に上条は全速力で駆け出した
「I kill you!」
「ッ!!」
数歩も進まない内にガンマンのリボルバーが持ち上がり、握られた銃の銃口から上条に向かって三本の赤い弾道予測線が伸びた。しかし、予測線が表示され終わる頃には、上条は既に右前方に飛んでいた
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
「「「なっ!?」」」
シノンやギャリーは思わず驚愕の声を漏らした。なにしろ立ち止まらずに走りながらガンマンの銃弾を避ける人間を初めて見たからだ。それがビギナーならなおさら驚かない訳がない
「お次は!?」
「You loser!」
「ッ!!」
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
またも上条の視界に三本の赤い予測線が見えた。しかし、軽やかな動きとステップで直後に発射された三発の銃弾をかわすと、走る勢いを落とすことなく装置内の半分地点を通過した
「うっそお!?」「もう10メートルかよ!?」「何者なんだあのツンツン頭は!?」
「でもそろそろガンマンが度を超えた早撃ちモードに…!」
「Die!」
バンバンバンバンバンバンッ!!
「よっ!!」
シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!
ゴールに近づくにつれガンマンが早撃ちになってもなお、上条に弾は一発もカスりさえしなかった。その俊足に止めをかけることなく次々に襲い来る弾丸を避け続けついに…
「Go to a hell!」
バンバンバンバンバンバンッ!!
シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!
「それでもう弾ぁねぇだろ!?」
ジャキッ!
「ッ!?」
ダンッ!!!
バシュンッ!バシュバシュバシュバシュバシュバシュンッ!!!
弾丸を避けながら走り続けた上条はついにガンマンの2メートル手前まで到達した。しかし、事もあろうにガンマンのリボルバーからノーリロードで6発のレーザーが飛び出した。だが上条はそれすらも跳躍してかわし、レーザーは先ほどまで上条が走っていた地面を焼き焦がした
「ほっ!…まったく…流石に最後のレーザーはナシだろオッサン」
トンッ!
「・・・Oh…my…goooood!!!」
テレテテテーン!テッテッテテーン!
ジャラジャラジャラジャラジャラ!!
そう言って上条がガンマンの肩を叩くと、昔のレトロゲーム風の音楽が流れ、ガンマンの断末魔と共に後ろの店風の建物から金貨が溢れ出した
「「「・・・・・・・」」」
ピコンッ!
「っしゃ、30万クレジットもらいだな」
もはやギャラリーは唖然として開いた口が塞がらなかった。そんなギャリーを気にすることなく上条はもらった金額を自分のウインドウで確認しながらゲートを出た
「な、なんだよさっきの…」「一体誰だアイツ…」「おかしいだろ…」
ザワザワザワザワザワ……
「よう、待たせたなシノン」
「あ、あなた…一体どういう反射神経してるの!?」
気軽に話しかけた上条とは裏腹に、話しかけられたシノンは驚愕の表情を見せながら上条に聞き迫った
「反射神経?あっはっは!違う違う!そんなので全部避けようなんて流石に上やんさんだって不可能でございますのことよ?」
「で、でもあなた今やってのけて…!というか最後目の前2メートルぐらいの所からあのレーザーを避けた!あんなの、もう弾道予測線と実射撃の間にタイムラグなんてほとんどない筈なのに…!」
「簡単だよ。弾道予測線を予測したんだ」
「・・・よ、予測線を予測ぅ!?」
「おう」
「いや、『おう』って!?な、なんだって一体そんなことを…!?」
「シノンが自分で言ってたじゃないか。『予測線が見えた時にはもう遅い』って」
「え?あ、あぁ確かに言ったけど…」
「それは裏を返せばつまり、『弾道予測線が分かればいい』んだ。でもそれは分からない。じゃあもう予測するしかないって話さ。でも、予測するのもネタが割れればなんてことはない。例えばシノン、お前は相手を正確に狙う時に何を頼りにする?」
「え?そりゃまぁ…遠距離ならスコープを…ハンドガンなら照準をきちんと合わせてブレがないように…」
「のんのん。もっと初歩的なことだよ。まぁ質問が悪かったかもな。シノンは相手を体の何で見る?」
「・・・目?」
「ご名答。つまりこのゲームはガンマンの目線から予測線を予測してゴールまでたどり着こうぜってゲームなんだ。まぁ最後のレーザーは流石にちょっと驚いたけど、それもきちんとガンマンの腕が動いて、なおかつ目線で俺を狙ってたからな。なんとか避けきれたってだけだ」
「・・・・・は」
「「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」