ダダダダダッ!!!
「な、なぁ!テレポート的移動手段はねーのか!?」
受付時間までもはや一刻の猶予もない上条とシノンは総督府を目指してSBCグロッケンの街並を一心不乱に走り続けていた
「ない!GGOでその移動手段がとれるのは死んで蘇生ポイントに戻る時だけ!それに街中じゃHPはデュエルじゃなきゃ絶対減らないからその手は使えない!」
「歩きが基本ってことか…なら総督府までは後どんぐらいで着けばいいんだ!?」
「あの少し先にある大っきい建物!アレが総督府よ!まだ3キロはあるわね…受付に5分はかかるとして…あと3分ぐらいで到着しないと間に合わない…!」
「ってことは分速1キロか…陸上選手でもそんな早く走れんのか!?」
「間に合って…お願い…お願い…!」
「・・・シノン…」
上条は胸が痛んだ。自分の隣で並走する少女の表情があまりにも必死で、その口から溢れる懇願を聞いていると悲痛に感じた。そんな顔をしてほしくないと心から願った上条は何か方法はないかと辺りを見渡した。すると…
「・・・あれは…」
ブゥン!…ブゥンッ!…ブブゥンッ!
上条が見つけたのは自分たちより下の道路で走る数台のトラックや車の数々だった。信号がないところを見ると高速道路なのだろう。次々に川水が流れるように走っていく車を眺めていた上条は何かを思いついたように目を光らせた
「あれなら…あれを使えば…シノン!止まってくれ!」
「えっ!?でももう止まってる暇なんて…!」
「俺に一つ考えがあるんだ!シノンの命運!俺に預けてくれないか!?」
「え……」
シノンは隣で走りながらそう叫んだ上条の目をまじまじと見つめた。彼の目はどこまでも真っ直ぐで、不思議とどこか頼りたくなってしまうような、そんな目をしていた。そして数秒悩んだ後、シノンはその首を縦に振って走る足を止めた
「分かった、あなたを信じるわ。一体どうすればいいの?」
「・・・俺からシノンに言えることはたった一つだ」
「聞くわ。なに?」
「これから何が起こったとしても、ハラスメントコードだけは絶対に押すな」
「・・・はぁ?」
「いいか!?絶対押すなよ!?フリじゃないからな!?ぜーったいに押すなよ!?」
「そこまで言われると逆にフリにしか聞こえないわよ…本当に一体どうするつもり?」
「それじゃ、失礼して」
ズイッ…
「ふぇ?きゃっ!?ちょっと!///」
まるで某リアクション芸人のような注意を終えると、上条はシノンの肩と膝の裏に手を伸ばし、可愛い悲鳴にも耳を貸さずにそのまま彼女の華奢な身体を抱き抱えた。シノンの身体は上条の腕の中にすっぽり収まり、いわゆるお姫様抱っこで抱えられていた
「よし!行くぞ!しっかり捕まっとけよ!」
ガッ!
「ふぇ!?///つ、捕まるって一体どこに!?」
「俺の胸でも服でもいいからガッチリ掴んで離すなよ!?どりゃあ!!」
ダンッ!!ビュオオオオオオ!!!
「へぇっ!?きゃあああああああああああああああああああああ!?!?」
上条はシノンを抱き抱えたまま、道路の端に設置された落下防止の為のガードレールに足をかけると、そのまま高速道路に向かって飛び降りた。二人の体が空気の抵抗を受けながら落下していき、そして……
ズダンッ!!ガタガタッ!!
「よっと!!」
「はわっ!?えええええっ!?」
高速道路へと飛び降りた上条たちの身体はそのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、高速道路を走っていたトラックの荷台の上に二本の足でしっかりと着地していた
「す、すご…」
「ちょっとコイツ遅いな…他のにしよう!」
「ええっ!?ちょっ!?…いやあああああああああああ!?!?」
ダンッ!ガタンッ!ピョンッ!ガタンッ!ダンッ!ドン!
「わっはっはっは!ALOで随意飛行をモノにした上やんさんにとってこの程度の空中姿勢制御なんざ朝飯前だぜ!」
「きゃあああああああああ!?!?」
上条の腕の中でなんとも女の子らしい悲鳴を上げ続けるシノンだったが、上条は彼女のことなどお構いなしに次々に高速道路を行き交う車の天井から天井へ、トラックの荷台から荷台へと飛び移っていった。そしてそれを幾度か繰り返す内に気づけば総督府が目前まで迫っていた
「あっ!運転手さんちょっとストップ!…って聞いてくれる訳ないか。シノン!最後行くぞ!」
「まだやるのおおおぉぉぉ!?!?」
「とうっ!!」
ダンッ!!スタッ…
上条は最後に乗っていたトラックから大ジャンプすると、高速道路から合流する一般道路の歩道にスマートに着地した
「ふうっ…何とか着いたか。大丈夫だったかシノン?」
「全ッ然!大丈夫なわけないでしょ!女の子は下方向から吹いて来る風が苦手な上に敏感なの!分かる!?」
「いや男性の上やんさんにそんなこと言われてもだな…」
「いいから着いたなら早く降ろしなさいこのバカ!!///」
「分かった分かった。言われなくても今降ろすから」
ストッ…
「ぁ…」
「ん?どうかしたか?」
お姫様抱っこタイムが終わり、上条の腕の中から解放され地に足をつけたシノンは、どこか少し寂しそうな顔をしていたが、ただでさえ鈍感な上条がそれに気づくことはなかった
「ッ!?べ、別になんでもないわよなんでも!/// ほら!さっさと行くわよ!///」
スタスタスタ!
「え!?あ、ちょっ!待てって置いてくなって!」
照れ隠しなのか、今の自分の顔を見られたくないのか、そそくさとシノンは歩き始めた。彼女の後ろを必死に着いて行く上条がその表情を拝むことは叶わなかったが、シノンの頬は赤らんでいて、どこか嬉しそうに笑っていた