「・・・あの、シノンさん…」
「ついてこないで」
あれからシノンは上条を控え室からビンタで叩き出し、緑を基調とした装備に変えた。一先ず上条も控え室でマーケットで購入した防具に着替えた。しかしその頬には平手打ちの跡が痛々しく赤く点滅しており、そのままシノンの後を追いかけていた
「で、でもこの後どうすればいいのか分からなくて…」
「ついてこないで」
「で、でも他に知り合いもいないし…」
「ついてこないで」
「いや本当ごめんなさいすいませんでした反省してるからどうかお許しを…」
「ついてこないで」
「あ、あのシノン…この後ろの人は一体…」
「可愛くてか弱い女の子を助けてはいい男を演出して油断させた隙に女の子の貞操をつけ狙う変態スケコマシ野郎よ」
「そこまで言いますかね!?」
そんな風に喋りながら歩いていると、会場の少し端の方にあるボックス席にシノンがドスン!と腰を下ろした。そしてその彼女の横にシュピーゲルが腰掛け、反対側の席に上条は腰掛けた
「・・・はぁ…分かったわよ。じゃあ最低限のことだけ説明したげる。その後は本当に敵同士だから」
「ほ、本当か!?ありがとう!」
「で、えーっとシノン。この人は?」
「あ、そうだったわねシュピーゲル。この人は…」
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「へぇ…じゃあ上やんさんは僕達の高校の卒業生なんですか」
「まぁそういうことだな」
その後、シノンと上条はシュピーゲルに対し、自分達がどういった経緯で出会い、どういう間柄で行動を共にしていたのかということをかいつまんで説明していた
「では改めまして、シュピーゲルです。シノンのフレンドで、リアルでは彼女と同じ高校に通っていたので、そこで知り合いになりました」
「おう。よろしく…ってあれ?通って『いた』?」
「あ、はい。お恥ずかしい話なんですが僕最近あの高校を自主退学しまして…今は将来の夢であり、ウチの父の経営する病院の医者になるために予備校に通いながら勉強中です」
「へぇ…お医者さんの息子なのか…すごいなシュピーゲルは…シュピーゲルもこのBoBに出るのか?」
「いやいや、そんなそんな。医者を目指してるのだって親が医者だから跡を継ぐ為に無理矢理やらされてるようなものですから…それに僕なんてプレイヤーとしての腕は全然で、ここにはただシノンの応援に来ただけですよ。それにこっちの方が大画面で中継してくれて試合を見るのも楽しいですから。それに朝田さんが出るなら見ないわけには……あっ……」
「・・・はぁ〜、だからここではその名前で呼ばないでっていっつも言ってるのに…」
「あっははは…ごめんよシノン…」
「まぁ幸いコイツは元から私のリアルネームを知ってたから良かったけど、そうじゃなかったら笑い事じゃ済まないんだから…」
「あははは…ちょっと抜けてるんだなシュピーゲルは」
「ええ、でもこのままだとシノンだけが損をしてしまいますし、上やんさんはリアルの名前を知ってどうこうという人ではなさそうなので僕も名乗っておこうと思います。僕の名前は『新川恭二』と言います」
「そっか。じゃあ俺も一応二人の先輩だし、この場で巡り会えたのも何かの縁だ。まだ名乗ってなかったし俺の本当の名前を教えておくよ。俺の名前は『上条当麻』だ」
ガタンッ!!
「「かっ!?上条当麻ぁ!?!?」」
シノンとシュピーゲルの二人は、上条の本名を聞くなり、目を丸くして驚愕し、もの凄い勢いで席から立ち上がった
「・・・え?な、なんでそんなビックリしてんの?」
「上条当麻って…!あの!?」
「『あの』が何を意味してるのかは知らんが…とりあえず私は上条当麻でございますのことよ?」
「知らないの!?ウチの高校じゃあなた有名人よ!?」
「ゆ、有名人?」
「いつも小萌先生が事あるごとに鼻高々に話してましたよ!諸事情があって高校3年間の間のほとんどを欠席していたにも関わらず、卒業まで残り3ヶ月というところでひょっこり学校に顔を出して、小萌先生と一緒に血の滲むような努力をした結果!見事に一般受験で大学に合格した伝説的な無能力者の生徒がいたって!」
「で、伝説的な生徒って…確かにどの話とっても間違ってこそないけど拡大解釈がすぎるぜ…てか小萌先生も俺のこと話しすぎだろ…」
「でもそれがまさかあなたのことだったなんて…驚いたわ…」
「でも諸事情があって三年間の内のほとんど学校を休んでたって…何があったんですか?」
「あーー…えっとそれは…」
ブーーーーーーーーッッッ!!!!!
シュピーゲルにそう聞かれ、答えにくそうにドギマギしている上条だったが、強烈なブザー音が会場中に鳴り響き、彼らの会話を遮った
「な、なんだぁ?」
「あら、もうそんな時間なのね」
「え?そんな時間とは?」
「始まるのよ。BoBの予選トーナメントが」
「ええっ!?マジで!?俺まだ何も知らないんだけど!?」
「・・・はぁ〜、まったく面倒ね…いい?もう間も無くここにいるエントリー者は全員、ここのどこかにいる予選一回戦の相手と二人だけのバトルフィールドに自動転送される」
「ふむふむ」
「フィールドは1キロ四方の正方形。地形や天候、時間はランダム。最低500メートル離れた場所からスタートして、決着したら勝者はまたこの待機エリアに、敗者は一階のホールに転送される」
「なるほど」
「負けても武装のドロップは無し。勝ったとして次の対戦者の試合が終わってればそのまますぐ二回戦がスタート。終わってなければそれまで待機。Fブロックは64人だから5回勝てば決勝進出で本戦への出場権が得られる。分かった?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
「決勝まで来るのよ。これだけ色々レクチャーさせたんだから、最後の一つも教えておきたい」
「・・・最後?」
「敗北を告げる弾丸の味」
「あ、あははは…」
彼女の冷めきった視線と言葉に、上条は苦笑いで返すことしか出来なかった
「でも、シノンの方は大丈夫なのか?一応強敵揃いなんだろ?この大会は」
「ふんっ。予選落ちなんてしたら引退する。それに私は…今度こそ……」
「・・・?」
「強い奴らを…全員殺してやる」
「ーーーッ!?」
寒気がした。氷のような冷気が背筋をなぞり上げた。上条は目の前の少女の発した声と、獰猛な獣のような笑みに思わず生唾を呑んだ。だが、それ以上に上条が畏怖の念を抱いたのは……
「・・・フッ」
シノンの言葉を聞いて、不気味なほどに口角を吊り上げ、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべたシュピーゲルの方だった
(い、一体なんだ…?シノンもそうだけど…それ以上にコイツ…!シュピーゲルのヤツ…一体何を…!?)
『大変長らくお待たせしました。「第3回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、間も無く予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』
ドワアアアアアアアァァァァァ!!!
「・・・それじゃシノン、上やんさん。頑張ってください。応援してます」
「ええ、ありがとうシュピーゲル。それじゃ行ってくるわね」
「・・・・・ありがとよ」
「・・・ええ、どういたしまして」
「・・・・・」
ポワァァァァァァ…シュンッ!
まるで取り繕ったような笑顔でそう告げるシュピーゲルに、シノンは混じり気のない純粋な笑顔を返した。しかし上条は、シュピーゲルに対して抱く得体の知れない不気味さと謎の違和感を払拭できぬまま、その身体がシノンと共に光のベールに包まれ決戦の舞台へと転送された