とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第17話 決勝戦

 

[Kamiyan vs Sinon

準備時間:残り56秒

フィールド:大陸間高速道]

 

 

「やっと決勝戦か…ついにシノンとの対決だな」

 

 

その後、次々と襲いかかる銃弾を盾で弾き、相手のHPを拳で沈め続けた上条は、予選トーナメントを順調に勝ち進み決勝まで駒を進めた。そして、その決勝の相手は、同じくトーナメントを勝ち進み、上条とは反対の山を越えて決勝にたどり着いたシノンだった

 

 

「さっきシノンの試合を見たけど…シノンの武器は『スナイパーライフル』って言うんだよなアレは…だとしたら接近すれば俺に分がある…問題はどうやって接近するかだけど…」

 

 

上条は試合が始まるまでの、自分の立つ床以外真っ暗な準備空間にいるため、その会話を他人に聞かれる心配がないゆえ、声に出しながらシノンへの対策を考えていた

 

 

「・・・よし、一か八かそれでいくか。元々そういう小難しい作戦立てていくのは俺の領分じゃないからな。下手に失敗したらそれこそシノンに狙い撃ちだ」

 

 

[7…6…5…]

 

 

「お、そろそろか」

 

 

上条は何かを思いつき、自分の方針を心に決めた。そして残り時間に目をやると、試合開始まで時間はもうほとんど残っていなかった

 

 

「よし、いくぞシノン」

 

 

[3…2…1…START!]

 

 

ポワァァァァァァ…シュンッ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ポワァァァァァァ…シュンッ!

 

 

(・・・まずは周囲を確認して…)

 

 

決勝戦が始まり、シノンの身体は『大陸間高速道』フィールドに転送されていた。このマップはその名称の通りただ細長いだけの道路がどこまでも続く単純なフィールドであるため、スナイパーライフルを扱うシノンにとっては大きなアドバンテージがあった

 

 

(・・・よし、私の現在地はほぼマップの一番端…なら、あいつは向こうから私に真っ直ぐに近づくしか方法がない。だったら、あの観光バスから狙撃できる)

 

 

周囲を見渡したシノンは、自分がマップのほぼ東端にいることを確認すると、近くに止まっていた観光バスの内部に駆け込み、二階席に上がった。そして中央の床面に腹ばいになると、肩から外した『ヘカートII』の二脚を展開。バスのフロントガラスから上条の姿が見えないのを確認すると、ヘカートのスコープを覗き込んだ

 

 

(あいつは恐らく、物陰を移動しながらこちらに接近してくるはず…だとしたらチャンスはこちらの位置を特定出来ていない最初の1発のみ…)

 

(ーーー当てる。必ず)

 

 

シノンはその確固たる決意のまま、来るべき時を待った。しかし、長くに渡るその時間の中でふと、自分の心の中に芽生えたある感情に疑問を抱いた

 

 

(・・・そう言えばなんで私はこんなにもアイツに勝ちたいと思うんだろう…?)

 

 

ふとそんな疑問を持ったシノンは、脳裏に今日1日行動を共にした少年との出来事と、彼の言動に思いを馳せた

 

 

(・・・アイツは私に無い物をたくさん持っているから…?アイツを倒せば、私もそれを得られると感じたから…?)

 

(ッ!!我ながら今さらになってそんな世迷言を…!他人から得るものなんてない!自分を助けられるのはいつだって自分だけ!だから私はこの世界で強くなろうと………ッ!?)

 

タッタッタッタッタッ……

 

 

スコープ越しのシノンの視界に映るのは、沈みかけの夕陽に照らされる一本道の高速道路。その道路の中央に、こちらに走って向かってくる人影が1人。それは、ツンツンと尖った頭をした、どこまでも真っ直ぐな自分の対戦相手である少年だった

 

 

(・・・バカなの?遮蔽物も何もなしに私の方に突っ込んで来るなんて…それとも私の弾なんていつだってかわせるって言うの!?)

 

「・・・ふざけないでよっ!!!」

 

 

バカ正直に走って来る彼の態度にカッとなったシノンは、その引き金を引こうとした。しかし、彼女の視界に映る着弾予測円が引き金を引くその指に待ったをかけた

 

 

(ッ!!ダメよ、冷静に。このままじゃ予測円が大きくなるだけ。もし仮に向こうが私の位置に気づいていないとしても、弾道予測線が視界に移ればまだこれだけの距離じゃアイツならほぼ確実に避けるかシールドで防ぐはず。自分でも分かってるでしょ、勝負は最初の1発。あいつがいくら私をバカにしていようと、その1発だけは外せない)

 

タッタッタッタッタッ……

 

 

なおも上条当麻は無言で走りながらこちらに向かって来る。距離にして両者の間隔は残り約30メートル。そこからさらにシノンの心理戦は続く

 

 

(おそらく、この距離なら向こうももう私がどこにいるか気づいているはず。接近戦なら間違いなく私に勝ちはない。なら、私の取るべき最良の選択は一つ…)

 

(残り10メートル地点が勝負!そこまで近づけば予測線の表示と実弾の間にほとんどタイムラグはない!システム的必中距離!)

 

 

ついにシノンは自分の取るべき行動を選択した。そして心を落ち着け、着弾予測円が限界まで狭まったところで上条がヘカートの必中距離に入り込むのを待った

 

 

タッタッタッタッタッ……!

 

(残り距離…25…20…15…!)

 

(10メートル!)

 

「・・・ジ・エンド」

 

上条との距離が10メートルまで狭まった。そしてついにシノンが引き金にその指をかけた。しかし、その瞬間…

 

 

ビキィィィィィッッッ!!!!!

 

「!?!?!?」

 

 

シノンの視界にヒビが入った。否。ヒビが入ったのは彼女の覗くスコープではなく、彼女が身を隠していた観光バスのフロントガラスだった。思わずスコープから目を外し、フロントガラスに視線を変えると、ヒビ割れたガラスの中心に黒いフリスビーのようなものが刺さっていた

 

 

「ッ!?ビームシールドそのものを投擲してフロントガラスを割って…!?マズイ…これじゃ前が何も見えn…!」

 

バリィィィィィンッッッ!!!!!

 

 

次の瞬間シノンが見たのは、臆することなくヒビ割れたガラスに飛び込んできた上条当麻だった。夕陽を背にし、両手を顔の前で交差させながらガラスを突き破った眩しすぎる姿に、シノンは思わず一瞬目を瞑ってしまった

 

 

(ッ!?ヤバイ…!)

 

「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

ガシッ!ゴロゴロゴロ!!

 

 

マズイと直感したシノンはすぐさま腹ばいになっていた自分の身体を起こそうと試みたが、その時にはもう既に上条は勢いそのままに自分に飛びかかっており、その勢いを殺しきれず2人はバスの床を転がった

 

 

ゴロゴロゴロゴロ…ドサッ!

 

「くっ…!」

 

チャキッ!

 

「無駄だ。もうお前の負けだよ、シノン」

 

「ッ!?」

 

 

やっとのことで転がり続けた身体が止まり、シノンは腰にかけたサイドアームの短機関銃を取ろうとしたが、シノンの両手は頭の上で上条の左手で押さえつけられていた。さらに上条は覆いかぶさるようにシノンの体を押さえつけ、空いた右手にはファイブセブンが握られており、その銃口はシノンのこめかみに押しつけられていた

 

 

「くっ…!このっ…!」

 

「やめとけ。シノンの筋力じゃ俺の腕は動かせない。それにシノンも言った通り、流石の俺もこめかみに銃口押し当ててれば絶対に外さない」

 

 

両手の拘束を解こうとシノンはありったけの力を込めてバタついて抵抗したが、それでも上条の左手は全く動かなかった

 

 

「離せっ…!離しなさいよこの変態!強姦魔!」

 

「おいおいそりゃないだろ…確かに周りが見りゃこの体勢はそう見えるかもしれねぇけど…」

 

「・・・分かった。もう私に打つ手はないわ。でも撃つ前に一つだけ教えなさい。これはあなたの考えた作戦?だとしたらなんで私が近距離で撃ってくるって予測できたの?」

 

「確かにこの観光バスに30メートル近づいた時ぐらいにシノンの姿が見えた。でも正直そこからさらに近距離で撃ってくるって予測したにはしたけど、確証はなかった」

 

「だったらなんで…!」

 

「賭けたんだよ。全力でやるって言った手前、負けるつもりはなかった。だから余計なことは考えず、自分が信じた選択に賭けただけだ」

 

「そ、そんな…!?」

 

(・・・強い。この強さは…VRゲームとしての強さだけじゃない…!この人は…純粋に人として…強い…!)

 

「どうして…どうしたらその強さを身につけられるの!?」

 

「・・・いや違うよシノン。俺はただのどこにでもいる平凡な大学生だ。シノンが思うほど強いヤツじゃない」

 

「嘘…嘘よ!だったらその強さに納得がいかない…!」

 

「・・・ならシノン。お前は引き金を引けるか?」

 

「・・・え?」

 

「確かにシノンはこの試合で一度も引き金を引かなかった。だけどもし、今俺がシノンに向けている銃口から撃たれる弾丸が、現実世界のシノン…朝田詩乃を本当に殺すとして…もしそうなったら当然、俺を殺さないと自分が…そして自分にとって大切な誰かが死ぬ。そんな状況でも、それでもシノンは、俺に対して引き金を引けるか?」

 

「・・・ぇ…?」

 

(まさかこの人は知っているの…?私の過去を…あの出来事を…ううん、違う…もしかしたらこの人も…)

 

「そんな状況になったとしても戦えるか、戦えないか。その選択はシノンにだって出来る」

 

「・・・選択…」

 

「だからその選択はきっと…銃弾よりも早くて…重い」

 

「!!!!!」

 

「だから、もし仮に俺が強いとシノンが思うんだとしたら、それは違う。俺は、守りたい何かがあって、守られている何かがあるから、強くあろうと思える。だからその選択が出来るだけだ」

 

「守りたい…何か…」

 

チャキッ!

 

「はっ!?」

 

 

そう言い終わると上条はシノンのこめかみに突きつけていた銃口を、もう一度強く押しつけた

 

 

「さて、まぁ勝負は俺の勝ちだ」

 

「え…ぁ…ぅ…」

 

「だけど、試合の勝ちは出来れば穏便に済ませたい。自分より年下の女の子の脳天ぶち抜くってのも、あんまり気が進まないからな」

 

「・・・ッ!?!?///」

 

 

上条の言葉にハッとしたシノンは、今自分が置かれている状況を再認識し、その様子が中継されてるかもしれないと考えると、どんどんその顔が紅潮していった

 

 

「わ、分かったわよ!だからさっさと離れなさい!///じゃないと本当にハラスメントコード押すわよ!!」

 

「おっと、そりゃ流石に嫌だな」

 

 

そう言うと上条はゆっくりと立ち上がり、シノンの両手を押さえつけていた左手を離し、こめかみに押しつけていたファイブセブンを腰のホルスターに戻した。そしてようやく体の自由が効くようになると、シノンもその場から立ち上がった

 

 

「いいわ…今日のところは私も負けを認めてあげる!でも次は絶対負けない!明日の本大会!私と遭遇するまで生き残りなさい!」

 

「はは…そっちこそ、俺が会いに行くまでやられるなよ?」

 

「〜〜〜ッ!///ふんっ!リザイン!」

 

 

シノンは上条の台詞に心底頭に来たが、思いっきり鼻を鳴らして視線を顔ごと逸らすと、自ら負けを認めるリザインを宣言した。すると彼女の目の前にタッチパネルが現れ、そこに手を置いた瞬間、試合の勝敗が決した

 

 

[Fブロック 決勝戦 勝者 Kamiyan]

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおお」

 

ザワザワザワザワザワザワザワザワ…

 

 

そして同時にFブロックの優勝者を待機場所の中継モニターが表示すると、会場では一際大きなどよめきが起こった

 

 

「・・・そんなバカな…僕のシノンが…僕のシノンが負けるなんて…そんな…そんなことあってたまるか!!」

 

「待ってろよ上条当麻…お前だけは…お前だけは僕がこの手で始末してやるからな…!」

 

 

そしてそのざわめきの中で、歯噛みしながら上条へ怨念にも似た感情を吐き出すプレイヤーが一人。かくして、第三回BoBは、出揃った役者と、影で暗躍する者たちを等しく迎え入れ、明日の本戦を控えるのだった

 

 

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