「・・・これは…」
「・・・追いつけなかったのね」
その後、川岸から都市廃墟まで走り続けた2人は川の一番端まで辿り着いていた。川が暗渠となって都市地下に流れ込んで降り、その入り口には頑丈そうな鉄格子が設置されており、プレイヤーのこれ以上の進行を阻んでいた
「ここで行き止まりってことはそれぐらいしか…それともまさか私たちがどこかで追い越しちゃったとか…?」
「いや、それはないな。走りながらずっと水中をチェックしてた」
「そう…ならヤツはもうここから上がってこの都市のどこかに身を潜めているはずね」
「・・・よし、じゃあ次のスキャンで場所を特定して次の被害者が出る前にアイツを強襲しよう」
「それはいいけど…一つ問題があるわよ」
そう言ってシノンは右手の人差し指を立て、それをまざまざと上条に見せつけた
「も、問題…?」
「デス・ガンはアイツの正式なキャラネームじゃないこと、忘れてないでしょうね?」
「あっ…忘れてた…」
「ったく…しっかりしてるようで変なとこ抜けてんだからアンタ…」
「えと…確か初出場のヤツでシノンが知らないのは3人だったな。その内ペイルライダーは死銃じゃなかった…てことは残ったのは…銃士Xとスティーブンのどっちかだな」
「もしスキャンでその2人ともが都市にいたら迷ってる暇はないわよ?」
「だよなぁ…どうしたもんか…」
「・・・あのさ、今ふと思ったんだけど…」
「何だ?言ってみてくれ」
「『銃士』をひっくり返して『しじゅう』。『X』は『クロス』。あいつがやってた十字を切る動作…ってのは流石に安易すぎ…よね?」
「んぁー…まぁいやどうかなぁ…オンラインゲームのキャラネームなんて基本みんな安易だと思うけどな俺の知り合い含めて…俺なんて高校時代のダチから呼ばれてたあだ名そのまんまだし…シノンは…って聞くまでもないな。本名の『詩乃』に『ン』つけただけか…」
「う、うるさいわね…別に名前なんてなんでも…って議論が逸れたわね」
「あ、そうか…よし、じゃあ廃墟に両方いた場合は銃士Xの方を優先しよう。もし俺がペイルライダーと同じようにスタン弾に撃たれて麻痺しても、慌てずその場で狙撃体勢に入ってくれ」
「え?」
「アイツは必ず、最後はあのハンドガンで止めを刺そうとするはずだ。そこを撃ってくれ」
「な、なんでそこまで…私が死銃じゃなくてアンタを背中から撃つかもしれないのに…」
「?」
シノンの言葉に上条は大層不思議そうな表情で首を傾げた後、少し微笑んでシノンの頭を二回軽く撫でた
ポンッ…ポンッ…
「なっ!?///」
「シノンがそんな風に俺を撃たないことぐらい、もう分かってるさ。もうシノンのことはとっくに信頼してる。頼りにしてるぜ、相棒」
「〜〜〜ッ!?///うっさい!早くこの手を退けなさいこの変態!///」
「おおっと!はは、吹寄の世話好きが移ったかもな。さ、早く行こう!」
(惑わされてんじゃないわよ…!コイツは私が倒すべき敵!それ以上でも以下でもない!)
そう言うと2人は、河床から市街地に上がるための階段を登り始めた。シノンは撫でられた頭に妙な熱と疼きを感じながら、上条の背中を追った
タッタッタッタッタッ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、シノン。サテライト・スキャンを使う。俺は廃墟の北側からプレイヤーの名前を確認する。シノンは南側から順に頼む」
「分かった」
ピコンッ!
廃墟都市の丁度中心部へと移動した2人は、周囲に気を配りながらサテライト・スキャンを起動させた。フィールドの立体映像が展開され、2人はその中の廃墟都市に潜伏している輝点に触れ、敵の名前を順に確認していった
ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!
「!!!いたわ!銃士X!」
「よし…全部確認した。てことは、スティーブンはこの街にはいないな…つまり、この銃士Xが死銃ってことだ」
「よし…じゃあ銃士Xのいるこのスタジアムに急ぎましょう」
「ああ」
タッタッタッタッタッ……
そして二人は廃墟都市エリアの中にあるまるで野球場のようなドーム型のフィールドの近くまで辿り着いた。そして、シノンが視力強化スキルの補正を受け、スタジアムの屋上あたりを注意深く見つめた。するとその視線の先に、キラリと一瞬光る銃口を発見した
「・・・いたわ。あそこ」
「よし、まだ動く気配はないな。今のうちに後ろからアタックしよう。シノンは通りを挟んだ向かいのビルから狙撃体勢に入ってくれ」
「え…?いや、そんな面倒なことせずに私もスタジアムに…」
そう言いかけたシノンの口を、上条は鋭い目線で塞いだ
「いや、これがシノンの能力を最大限に活かす作戦なんだ。ピンチの時はお前がその銃で援護してくれると信じているから、俺は怖れることなくあのボロマントと戦える。相棒ってそういうもんだろ?」
「・・・・・」
「よし。それじゃ俺はシノンと離れてから30秒後に敵に殴りかかる。その時間で足りるか?」
「うん、多分…」
「OK。それじゃ、よろしくな」
タッタッタッタッタッ……
そう告げて段々と小さくなっていく彼の背中をシノンは見つめていたが、やがてその姿が見えなくなると、自分も指示された狙撃ポイントに向かって走り始めた
タッタッタッタッタッ……
(・・・死銃を倒せば…アイツはまた敵に戻る…アイツを撃って、倒して…そして…忘れればいい…)
(アイツとは…きっともう2度と会うことなんてないんだk…)
プシュッ!
(・・・え?)
ドサッ………
不意に横から何かがシノン目掛けて飛来した。そしてシノンの体にはまるで雷に撃たれたかのような電撃が走り、全身の痺れとともに身体の力が抜けていき、地面にうつ伏せになって倒れていた
(・・・なに?身体が、動かない…一体なにが…?)
バチッ…バチバチバチバチバチッ!!
自分に降りかかった事態も上手く飲み込めていないまま、異物感を感じた右腕を見つめると、青白い光を発する細い針のような物が刺さっているのが分かった
(すっ!?スタンバレット!?一体誰が!?死銃は今スタジアムにいるはずなのに…!)
ジジッ…ジジジジジジッ!!
「ッ!?」
次の瞬間、シノンの耳にブラウン管テレビの砂嵐のような音が聞こえた。かと思えば、目の前で透明な人影が電子の波の中に形を作っていき、一人のプレイヤーがその姿を現した
「上やん、お前が本物か、偽物か、これで、ハッキリする」
「仲間が、守るべき物が、何よりも大切だと言うお前が、この女を殺されて、怒り狂えば、お前は本物だ」
(こっ!?殺す!?私を…!?何とか…何とかしないと…!)
「うっ…!くうっ…!」
シノンは麻痺で痙攣の止まらない体に無理を言わせて左腕を懸命に動かし、自分の腰に装備した小機関銃を掴もうとする。しかし、目の前に現れたボロマントのプレイヤーはゆっくりと自分に向かって近づいてきていた
「上やん、さぁ、見せてみろ。お前の怒りを、あらゆる幻想を殺す、その右手の力を、もう一度、見せてみろ」
ジャカッ!
「!!!!!」
(そ、その…その拳銃は…!)
死銃がそのマントの中から一丁の拳銃を取り出し、そのグリップをわざとシノンに見せつけるように掲げた。その拳銃のグリップには、怪しく輝く『黒い星』が彫られていた
(『黒星54式』…!?)
その拳銃を見るなり生唾を飲み込んだシノンの脳裏にはある記憶が鮮明なまでに蘇った。自分が無我夢中で拾い上げ…実際にその引き金を引いた「鮮血の記憶」…その記憶の中心にあった拳銃が、なんの因果か再びシノンの前に現れたのだ
(なんで…なんで…!なんで…今ここにあの銃が…!)
「・・・クククッ…」
ガシャッ!
シノンは衝撃のあまり完全に萎縮してしまい、手の届いていた小機関銃を取り落としてしまった。だが死銃は無慈悲にも黒星のスライドを手前に引き、弾丸を装填すると、その銃口をシノンに向けた
(・・・強さ…意味…戦うことの意味。上やんを見てれば…いつか、きっと分かると思ったのに…)
そして、死銃が左手を上げ、まるで神を冒涜するかのようにその身体に十字を切った
(嫌だ…諦めたくない…諦めたくない!)
ダンッ!!!
「やめろテメエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェ!!!!!」
「「!?!?!?」」
刹那、シノンは銃声が聞こえたのかと思い反射的に目を瞑った。しかし、それは銃声ではなかった。上条がスタジアムの屋上からジャンプするために地面を思いっきり踏み切った音だった。死銃も思わずその方向へと振り向き驚愕していた。上条はその表情を怒りで歪め、叫びながらこちらへ飛び降りてくる。そして…
「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
ドゴオオオオオォォォォォンッ!!!
上条は落下していく速度をそのままに右の拳を地面に思い切り叩きつけた。するとたちまち、上条の拳を中心としてまるでグレネードが爆発したかのように周囲を濃い砂煙が包んだ。そしてその煙に乗じて上条はシノンの元へと駆け寄った