ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
ヘカートが撃った弾がバギーの燃料タンクに引火した瞬間、周囲を猛烈な爆炎が包み込んだ。爆発の中心にいた死銃と馬はそのまま爆炎に飲み込まれ、その姿が炎の中に消えていくのをシノンは見ていた。しかし、その視界は突如として失われた
「ふぇっ!?わぷっ!?」
「ッ!!!」
その原因は上条にあった。上条はシノンを自分の胸に抱き寄せると、彼女の右手から手を離し、そのまま彼女の後頭部を守るように自分の右手で覆い、彼女の身体をキツく抱きしめた
ドガッ!!!
「あぐっ!!」
「かっ!?上やん!!!」
ドサッ!ゴロゴロゴロ…ズシャッ…
上条はシノンを抱きしめながら、空中で姿勢を変え、地面を背にすると、そのまま落下していき、その身体が思い切り叩きつけられた。それだけでは爆風で煽られ飛ばされた2人の勢いは止まらず、跳ねながら地面を何度も転がりつつも上条は最後までシノンの身体を守り抜き、2人の身体がやっとのことで静止した
ガバッ!!!
「上やん!大丈夫!?ねぇ!ねぇったら!!」
「痛てっ…痛てててててっ…ははは、高いところから落ちんのは慣れてるからな…これぐらい平気だ…」
「はぁ…良かった…」
シノンは上条の腕の中から抜け出すと、懸命に彼の身体を揺らした。そして彼が無事だと分かると安堵の息を漏らし、上条はゆっくりと膝に手を置きながら立ち上がった
「倒した…のか…?」
「いや…多分生きてる…爆発の瞬間、アイツがロボットホースから飛び降りるのが見えたわ。でも無傷じゃないはずよ…かなり時間は稼げるはず」
「・・・そうか…なら一先ずここは逃げよう。このままやっても確実にこっちが勝てるとは限らない」
「分かった。行きましょ」
タッタッタッタッタッ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ…ここまで来ればまぁ安心だな…」
上条とシノンは一先ず死銃を撃退した後、廃墟都市を抜け出し一面の広大な砂漠地帯を歩いていた
「しっかし…こうも見晴らしがいいと隠れようにもなぁ…」
「待って。あそこ、多分洞窟がある」
「え?あ、あの周りよりちょっと盛り上がってるとこか」
「あの中なら、衛星スキャンも避けられるわ」
「よし、じゃああそこに行くか」
ザッザッザッザッザッザッ…
そして2人は砂地を踏みしめながら歩くと、そこそこ広い洞窟の内部へとたどり着いた
「は〜〜〜…とりあえずここで次のスキャンをやり過ごそう…流石の上やんさんも少し疲れた…」
「・・・そうね」
そういうと2人は洞窟の地に腰を下ろし、壁に背中を預けた
「・・・ところで、アイツはさっきいきなりシノンの前に現れたよな?もしかしてあのボロマントは自分を透明化する能力があるのか?ペイルライダーを撃った橋のところで消えたり、衛星に映らなかったのは傍の川に潜ったんじゃなくてその能力で…」
「・・・多分、そうだと思う。『メタマテリアル光歪曲迷彩』っていう能力だと思う。元々ボスモンスター専用の能力だけど…その効果がある装備があったとしても不思議じゃないと思う…」
「そうか…これで…全部…なにもかもが繋がった…」
「?」
シノンの話を聞くと、上条が何かを呟いたが、シノンの耳にはそれがなんなのか聞こえなかった
「・・・まぁともかく、ここなら大丈夫だと思う。下が荒い砂だし、透明になっても足音は消せないし足跡も見える。いきなり近くに現れるのは無理よ」
「なるほど…じゃあ最低でも耳を澄ませてないとな…」
「ねぇ。さっきスタジアムのとこで、どうやってあんなに私を早く助けに来られたの?アンタ確かスタジアムの外周の上にいたんじゃ…」
「あーいや、俺たちが死銃の正体だと踏んだ『銃士X』が人違いだってのは、一目で見りゃ分かったからな」
上条はなぜか少し照れ臭そうにポリポリと自分の頬を掻いて苦笑いしながらそう答えた
「え?ど、どうして?」
「どっからどう見ても女の人だったからだよ。それも割と露出多くてセクシー系の…いやー、戦う時どこに目を向けたらいいか正直迷っt…」
ガチャ…
「」
笑いながらそう話す上条のこめかみに、ヘカートの銃口が向けられ、ギギギッ、と錆びた機械のような音がしそうなほどぎこちなく首を曲げその先に視線を向けると、鬼のような形相でこちらを睨むシノンがいた
「次は撃つわよ」
「す、すみませんでした…」
「ったく…で、どうしたの?」
「ああ…それで、俺たちは何か重要な見落としをしてるんじゃないかって思った。それでシノンの方に死銃のヤツが行くかもしれないと思ったらモタモタしてらんなくてな。堂々と名乗ろうとした銃士Xさんを問答無用でぶん殴った」
「・・・うわぁ…」
「いやまぁ後で謝るって…それで、こっちもちょっと攻撃食らったけど何とか倒した。ちなみに名乗りによると本当は『ジュウシエックス』じゃなくて、『マスケティア・イクス』って読むらしい」
「へぇ…」
「それでスタジアムの上から南の方を見たら、シノンが道路に倒れてるのを見つけてさ。もう我も忘れてドームの屋上から飛び降りてた…ってことだ」
「・・・私がもっとしっかりしていれば…」
「そんなに自分を責めなくていい」
「・・・・・」
「俺だってアイツが隠れてることに気づかなかったんだ。もし役割を逆にしていたら麻痺弾を喰らっていたのは俺の方だ。そしたらその時はシノンが自慢の狙撃で俺を助けてくれる。そうだろ?」
上条の穏やかなその声は、そう言った本人の思いとは裏腹に、シノンの胸に鋭い痛みと疼きをもたらした
(・・・私…なぐさめられてるんだ…ライバルだと思っていた相手に…挫けて、弱気になってるのも全部見透かされて…子どもみたいにあやしてもらってる…)
焦燥や無力感、そして迷いと混乱に惑わされながら、シノンはただ自分の膝を抱えて俯いた。そのまま何十秒かが経過した後、再び彼女の耳に上条の声が聞こえてきた
「・・・よし、じゃあ俺は行くよ。シノンはここでもう少し休んでてくれ。本当はログアウトしてほしいとこだが…大会中はできないからな」
「・・・え?」
シノンは反射的に俯いていた顔を上げ、上条の方を見る。視線の先に映った上条は自分で開いたウインドウを操作し、シールドのバッテリー残量をチェックしていた
「1人であの男…死銃と…戦うの…?」
「・・・ああ。アイツは強い。正直なとこ、あの銃の力を抜きにしても、姿を消す装備やあのライフル、そしてステータス…どれを見ても周りより頭一つ以上抜けてる…さっき逃げ切れたのだって半分は奇跡だ。次にあの拳銃を向けられたら…流石に物怖じしないってのは無理だ…シノンを見捨てて逃げちまうかもしれねえ。だから、これ以上シノンを巻き込む訳にはいかない」
「・・・あなたでも、アイツが怖いの?」
「怖くないって言ったら…それは嘘になるな。『あの時』の俺なら…あるいはあの銃で撃たれたら本当に死ぬ可能性があるとしても、戦えたと思う」
「・・・あの時?」
「でも、今は違う。BoBが終わったらALOにとっとと帰るってみんなに約束したからな…守りたいものも、帰りたい場所も、俺には多すぎる。死ねないし、死にたくない」
「守りたい…もの…?」
「ああ。仮想世界にも、現実世界にも」
「・・・なら、このまま洞窟に隠れていればいいじゃない。BoB中は自発的ログアウト不可だけど、大会が進んで残りが私たちと誰か1人になれば、その時点で自殺でもすれば、残った1人が優勝になる。それで大会を終わらせればいいわ」
「・・・確かに、それもアリにはアリだ。でも、そういう訳にはいかねぇんだ。このまま大会が終わるまで死銃を野放しにしてたら、後何人にあの銃を向けるか分からないからな」
「・・・そう」
(やっぱりあなたは強いよ…守りたいものがあると言いながら、命の危険を冒してまであの死神に立ち向かえる…)
そしてシノンは上条から目を逸らすと、呟くように消え入るような声で言った
「私、逃げない」
「・・・え?」