とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第26話 血塗られた手

 

「逃げない。ここに隠れない。私も外に出て、あの男と…死銃と戦う」

 

 

俯いた顔を上げたシノンは、静かな声でそう告げた

 

 

「ダメだシノン。アイツに撃たれれば本当に死ぬかもしれないんだ。俺は完全な近接戦闘タイプで、身を守る盾もある。でもお前は違う。姿を消せるあの男にゼロ距離から不意打ちされたら、危険度は俺の比じゃない」

 

 

シノンは静かに瞳を閉じた後、その胸に秘めたただ一つの結論を口にした

 

 

「死んでも構わない」

 

「・・・え…?」

 

「・・・私、さっきすごく怖かった。死ぬのが恐ろしかった。5年前の私より弱くなって…情けなく悲鳴あげて…」

 

「・・・5年前…?」

 

「そんなんじゃ、ダメなの。そんな私のまま生き続けていくぐらいなら、死んだほうがいい…」

 

「・・・死ぬのが怖いのは、そりゃ当たり前だ。死ぬのが怖くないヤツなんていない」

 

「嫌なの、怖いのは。もう怯えて生きるのは…疲れた…別にあなたに付き合ってくれなんて言わない。一人でも戦えるから」

 

ガシッ!

 

 

虚脱していた体に力を入れ、立ち上がろうとしたシノンの腕を、すぐ隣まで身を乗り出していた上条が掴んだ

 

 

「一人で戦って、一人で死ぬ…とでも言うつもりか?」

 

「そう。多分…それが私の運命だったんだ…」

 

グイッ…

 

「・・・離して。私、行かないと」

 

 

上条はその要求を無言で拒み、シノンの腕を掴みながらそのままゆっくりと立ち上がった

 

 

「お前は間違ってる。確かに人はいつか必ず死ぬ。だけど、どう死ぬかなんて運命まで決められて生まれた人間なんて誰もいない。もしもそんな運命があるっていうんなら、そんな幻想は俺がぶち殺す」

 

「それに、人が一人で死ぬ…なんてことは絶対にあり得ない。人が死ぬときは他の誰かの中にいるソイツも同時に死ぬ。俺の中にはもう他のヤツに代えられないシノンがいる!!」

 

「・・・そんなこと頼んでない。私は…私を他の誰かに預けたことなんてない!」

 

「もうこうして関わりあってんだろうがっ!!!」

 

「ッ!」

 

ガッ!!!

 

「なら……」

 

 

シノンの左手が上条の襟首に勢いよく掴みかかった。そして、絞るような声の後、燃え上がるほどの熱量を込めた視線を上条に向け、心の底から彼に向かって叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

「なら、あなたが私を一生守ってよ!!」

 

 

 

 

 

 

突然シノンの視界が歪んだ。頬から何かが地面に滴り落ちていた。それは紛れもない自分の涙であることに、彼女はしばらく気がつかなかった

 

 

「何も知らないクセに!何も出来ないクセに!勝手なこと言わないで!」

 

 

自分の右腕を掴んでいた上条の右手を無理やり振り払うと、彼の肩を2度、3度と怒りの感情を込めて力任せに打ちつけた。上条はそんな彼女の拳を無抵抗で受け続け、彼女の心の叫びをも、その一身で受け続けた

 

 

「これは私の…私だけの戦いなのよ!たとえ負けて、死んでも、誰にも私を責める権利なんかない…!!」

 

 

彼女の声はとても弱々しく、震えた声だった。瞳からはとめどなく涙が溢れ、声だけでなく、その小さな肩も小刻みに震え始めていた

 

 

「それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!?この………」

 

 

震える自分の右手の拳を動かす。それはかつて、血に塗れたトリガーを引き、一人の人間の命を奪った手……

 

 

「この…ひ、人殺しの手を!あなたが握ってくれるの!?」

 

ガシッ!!

 

「!!!!!」

 

「ああ、握ってやる」

 

 

震える彼女の手を、上条の右手が力強く握った。シノンの願いにも似た問いかけに答えた上条の言葉は、瞳は、どこまでも真っ直ぐだった

 

 

「俺は、シノンの過去にどんなことがあったのか知らない。シノンのことを…何も知らない俺が、こんなことを言うのは無責任かもしれない」

 

「でも、権利ぐらいあるだろ。泣きながら一人で、孤独に戦ってる女の子の盾になって、その手を握って救い上げる権利ぐらい俺にもあるだろ」

 

「!!!!!」

 

「何が正しくて、何が間違ってるかなんてどうでもいい。正しいだけで女の子の一人も安心させられない生き方なんて、俺は認めない」

 

「約束するよ。たとえどんな罪を背負ってても、たとえどんなに自分を悪人だと言っても、俺は絶対にシノンを見捨てない」

 

「だから、俺がお前を助けてやる。たとえ世界と戦ってでも、俺がシノンを守る」

 

「だから…もう泣くなよ。シノンはもうとっくに、俺にとって守りたい誰かの一人なんだからさ」

 

「・・・うっ…ううっ…うああっ…」

 

 

そう言われても、もうシノンの涙は止まるところを知らなかった。彼の言葉は今まで聞いた誰の言葉よりも優しく、暖かく、安心した。もう限界だった。氷で覆われた彼女の心の壁は、もう溶けきっていた。溶けた氷の水分は彼女の涙となって溢れ出し、そして……

 

 

「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!わあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「あっはは…流石にダメか…全く…世話のかかる後輩だな」

 

 

シノンは上条の胸に飛び込むと、そのまま幼い子どものように泣き喚いた。上条はそんな彼女の体を受け止めると、その頭を優しく撫でた

 

 

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