とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第28話 見えざる魔の手

 

「・・・そんな…確かに災誤先生のことは夏休み明けから見てなかったけど…まさか…亡くなっていたなんて…」

 

 

その後、上条はシノンに対し自分が黄泉川に依頼されこの世界に来たこと、そして死銃が関連していると思われる事件、死銃のプレイヤーはSAOで殺人ギルドに属していたメンバーであることについて説明し終わっていた

 

 

「じゃあ…死銃はSAOでやってたPKをまたやりたくなったから…今度はこのGGOに来たってことなの?」

 

「ああ、おそらくな…」

 

「でも、だとしたらどうやって犯行を…死銃はどうやって現実世界の人間を殺しているの?」

 

「そこだ、そこが問題なんだ。まず、死銃は複数犯に間違いない」

 

「・・・ふ、複数?」

 

「ああ。まず死銃…あのスティーブンってアバターでログインした人間が仮想世界でプレイヤーに向けてあの拳銃を撃つ。そしてそのタイミングとほぼ同時に、現実世界にいる死銃の仲間が撃たれたアバターを操作してる…現実世界の本人に薬物を注入して殺す」

 

「!!!!!」

 

「実際、アミュスフィアをつけてダイブしてる本人は現実じゃ覚醒状態じゃない上に無抵抗だ。そんなほぼ寝たまま起きてこない人を殺すなんて赤子の手を捻るより簡単だ」

 

「ま、待ってよ!そ、そんなの…そんなの出来るはずない!確かにその方法なら殺害は可能かもしれない。仮想世界のプレイヤーを撃つのもGGOなら造作もない…でも!現実世界は話が別のはずよ!?どうやってプレイヤーのリアルの住所を割り当てるの!?その上で住居に侵入するなんて…!」

 

「あの『マントの能力』だよ」

 

「・・・え?」

 

「総督府で俺たちはBoBにエントリーする時、リアルの個人情報を入力したはずだ。あの端末が置かれてた場所は個室じゃなくて完全なオープンスペースだった」

 

「ま、まさか…そんな…!!」

 

「そう。死銃はあのマントで透明になって後ろから入力した情報を盗み見ていたんだ」

 

「そして現実の学園都市でなんらかの方法でアプローチして被害者の自宅の電子ロックを解除したんだ。被害者は全員1人暮らしだし、ログインしてる間は寝たきりだ。解錠に多少時間がかかっても他の住民にさえ見られなければリスクはない」

 

「そして準備が整ったら、仮想世界で死銃がプレイヤーを撃つ。そしてそこで時間を合わせて現実世界と時間を合わせるための手段が、あの十字を切る仕草なんだ。あれを合図に、きっと死銃はタイミングを合わせてるんだ」

 

「・・・ま、待ってよ…それって…」

 

「ああ、だから俺はシノンにこの話をしたんだ。危険だってのは分かってる。でももう未然には防げなかった。だからシノン、聞かせてくれ…」

 

「シノンは…一人暮らしか…?」

 

「・・・・・」

 

 

上条の小さな声の問いかけに対し、シノンはその血の気の引いた生気の無い顔で、コクン…と、静かに頷いた

 

 

「・・・やっぱりか…だから死銃はあの銃をシノンに向けたんだ…もう現実で準備が整ってるから…クソッ!!」

 

 

上条は死銃に対する怒りの感情を込めて右手を岩壁に叩きつけた。ゴツゴツとした岩の表面が右手に当たったことでその拳がジンジンと痛むが、そんなことなどもはやどうでも良かった

 

 

「い、嫌…嫌ぁっ!そんな…そんなの…!」

 

バクバクバクバク!ドッドッドッ!!

 

「ああ…ああああああああああああああああ!!!!!」

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

恐怖…などという生易しいものではなかった。シノンの体を激甚な拒否反応が駆け巡り、全身が抑えようもないぐらいに震えていた。呼吸ができなくなり、背筋に悪寒が走り、呼吸を求めてその口が喘ぐ。次第にその心拍数が高まっていき、アミュスフィアに安全機能として備えられている『自動切断』のアラートが鳴り始めた

 

 

ガシッ!!

 

「ダメだシノン!!!」

 

「ッ!?」

 

 

しかし、彼女の震える両手をきつく握った上条が叫んだ。そのありったけの叫びが彼女の耳の中で反響した

 

 

「今自動切断したら危険なんてモンじゃない!気をしっかり保って落ち着け!まだ大丈夫だ、アイツらは無条件に誰でも殺す訳じゃない!!」

 

「そ、そんな…でも…怖い…怖いよぉ…」

 

ギュッ…

 

 

子どものように恐怖を訴えながら、シノンは上条の胸の中に顔を埋めた。そして、上条はそんな彼女を優しく諭すように、その両腕で彼女の体を包み込んだ

 

 

「・・・落ち着いたか?」

 

「・・・もう少しだけ…」

 

「・・・分かった」

 

「・・・あんたの手…あったかい…」

 

「はは…まぁ仮想世界だけどな…いつか似たようなことを言った女の子が他にもいたよ」

 

「・・・その女の子とはどういう関係なの?」

 

「え?どう…ってもな…うーん…まぁ友達だよ。じゃじゃ馬なところはあるけど…頼りになる。そんな女の子だ」

 

「・・・ふーん」

 

「ど、どうしたんだよ…」

 

「別に…自分で考えたら?」

 

「?」

 

 

そう言うとシノンは何やら不機嫌そうな顔を浮かべて再度上条の胸の中で自分の体を埋めたが、なにしろ上条はシノンの顔すら見えないので、その真意は読み取れなかった

 

 

「・・・ねぇ上やん、どうしたらいいか…教えて」

 

「・・・死銃を倒す。そうすればまずそもそも仮想世界でプレイヤーに向けて銃を撃つって大前提が崩せる。死銃の仲間も何も出来ずにシノンの部屋から姿を消すはずだ。でも、シノンはここに待機してくれてればいい。俺が戦って死銃を倒す」

 

「本当に…大丈夫なの…?」

 

「ああ。俺は総督府で自分の個人情報を打たなかったし、ダイブしてる俺の身体のすぐ近くに人がいる。だから俺は大丈夫だ。ゲームのルールに則って、全身全霊でアイツをぶっ飛ばす」

 

「でも、『黒星』抜きでもアイツの腕はかなりのものよ。たった100メートル足らずの距離からヘカートの銃弾を避けたの、あなたも見たでしょう?」

 

「確かに絶対の自信はない。でも、このままじゃ被害者が他にも増えるかもしれない」

 

「・・・でも、多分私たちもこのままここに隠れてはいられなくなる。そろそろ私たちがこの砂漠の洞窟に隠れてることを他のプレイヤーも気付き始めているはずよ。むしろ30分もっただけいい方だわ」

 

「・・・そうか…」

 

 

では次にシノンにはどこに隠れていてもらおうかと、上条は考え込んでいた。しかし、そんな風に考えている彼にシノンが自分の決意を吐露した

 

 

「どうせここまでコンビを組んだんだもの。最後まで、二人で戦いましょう」

 

「・・・え?で、でもシノンがもしあの銃で撃たれたら…」

 

「あんなの所詮は旧式のシングルアクションだわ。それに、仮に私が撃たれても、あなたがその盾で、簡単に弾き返してくれるでしょ?」

 

「・・・ああ。シノンを撃たせはしない。だけど、そうする為にもやっぱりお前は死銃の前に身を晒さない方がいい」

 

「そんな…!」

 

「分かってる。シノンのその気持ちはありがたく受け取る。でもお前は本来スナイパーだろ?だったら遠距離からの狙撃が真骨頂だろ?」

 

「そ、そりゃそうだけど…」

 

「だからこうしよう。次のスキャンで俺だけがフィールドに出てわざとマップに場所を表示させて死銃をおびき出す。アイツはライフルで俺を遠くから狙撃しようとするはずだ。その射撃でアイツの位置を割り出して、そこをシノンが撃つ。どうだ?」

 

「・・・自分から囮になるってわけね?」

 

「そうだ」

 

 

二人は数秒の間見つめ合い、お互いの覚悟、そして信頼を確かめ合う。そして数秒の沈黙が流れた後、シノンが口を開いた

 

 

「分かった。それでいきましょう。でも言っとくけど、死銃の最初の一発で一撃死とかやめてよね?」

 

「あ、あはは…努力は致しますが…生憎あの銃本当になんの音もしないからなぁ…上やんさんでも咄嗟に避けれるかどうか…」

 

「予測線を予測するんじゃないの?」

 

「・・・無茶言えよ…」

 

 

悪戯っぽく上条にそう言ったシノンだったが、そんな彼女の視線の先には宙に浮く赤い丸型の表示があった

 

 

「うわっ、やっば…油断した…」

 

「え?油断したって何を?」

 

「アンタの頭の上、見てみなさい。アレはライブ中継カメラよ。普通は戦闘中のプレイヤーしか追わないんだけど…残り人数が少なくなってきたからこんなとこまで来たのね」

 

「・・・え?ま、まさかさっきの俺たちの会話…」

 

「ううん、それは大丈夫だと思う。大声で叫ばない限りは声は拾わないから」

 

「・・・でもこの光景を全国の不特定多数の人に見られているのには変わりはないと?」

 

「何よ?この映像を見られたら困る人でもいるの?」

 

「・・・アイツら見てませんように…」

 

「?」

 

ピコンッ!

 

 

そうこうと二人が話していると、頭上に浮かんでいたライブ中継カメラは他の中継対象を見つけたのか、一瞬でその場から転移した

 

 

「あ、消えたな…」

 

「ふぅ…そろそろ時間ね…次のサテライト・スキャンまであと2分…」

 

「ああ。じゃあ俺は外に出てくる。このまま洞窟にいたらスキャンされないけど、自分がスキャンを使えないからな」

 

「ええ。でも、例え少しの時間だけとは言えど気をつけてね」

 

「ああ、じゃあちょっくら行ってくるよ」

 

ザッ…ザッ…ザッ…

 

 

そう言うと上条は月明かりが差し込んでくる洞窟の穴から外へと出ると、砂地を踏みしめながら歩き始めた

 

 

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