「・・・おかしい…」
上条は洞窟でシノンと離れた後、砂漠を少し歩いたところでサテライト・スキャン端末を行使して残りの敵とその現在位置を確認していた。しかし、そのスキャンされた現状を確認するなり、一つの違和感に気づいた
「この本戦の参加者総数は30人…残りは俺とシノン、『闇風』と死銃の4人…」
「そしてフィールドに死体がそのまま残ってる敗退者が24人…そして死銃に撃たれて通信が切断されたペイルライダーを入れても…25人…」
「・・・1人…足りない…」
(一体なんで…さっきの俺たちと同じようにどこかの洞窟に隠れてるのか?それとも死銃と同じ光学迷彩か…川に潜ってるか?それとも…)
「死銃に…撃たれたのか…?」
(いやでもそれはないはずだ…死銃の共犯者は今はシノンの家でその時を待ってるはずだ…)
(一体なんだ…まだ何か足りない気がする…ひょっとしたら俺はまだなにか…決定的な見落としをしてるんじゃねぇか…?)
フォンッ…
(・・・いや、まさかな…)
嫌な予感が上条の頭をよぎる。そして彼の心の中に再びぶ厚い暗雲が立ち込め始める。そして彼の不安を煽るかのように、サテライト・スキャンの表示した立体映像が静かに消えた
「・・・ここでうだうだ考えても狙われるだけだな。一先ずシノンのとこに戻るか…」
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「どうだった?」
砂漠から洞窟へと戻ってきた上条を見るなり、シノンは開口一番で彼にそう尋ねた
「・・・残りはおそらく5人。俺とシノン、闇風に姿を消してる死銃。それと…誰かもう1人、俺たちと同じように洞窟に姿を隠してる」
「残り5人…か…まぁ1時間45分経ったしね…前回のBoBが2時間で決着だったから…ペースは大体同じね。誰もここにグレネードを投げに来なかったのは不思議だけど…」
「・・・あぁ。もしかしたら死銃のヤツが俺たちを探してうろついてる間に、目についたヤツを片っ端からあのライフルで撃ったのかもな…」
「だとしたら『MAXキル賞』は間違いなくアイツね…それはそうと、問題は『闇風』の方よ。彼のスキャン端末に表示されたのはあなた1人なんだから…きっと追ってくるわ」
「えっと…どんぐらい強いんだ?」
「前回の準優勝者。バリバリのAGI型一極ビルドで『ランガンの鬼』とか呼ばれてる」
「ら、らんがんとは?」
「『Run&Gun』走って撃って、また走るってスタイルのこと。この前の大会はゼクシードのレア防具とレア武器に競り負けて二位だったけど、実力なら闇風の方が上って言うヤツもいる」
「そ、それってつまり…GGOサーバー内じゃ最強かもしれない…ってことでせうか…?」
「ふっ、何を今さら。このBoBは最強を決める大会なのよ。最強の名前を恐れるなら、自分が最強になればいいだけのことよ」
「その底なしの元気はどっから溢れてくるんだよ…」
「・・・あのさ、アンタの推測が正しければ死銃が今殺せるのは私だけってことになるわよね?だって共犯者は私の家に貼り付いてないといけないんだから」
「・・・・・」
「つまり、闇風が死銃に撃たれても本当に死ぬ可能性はないってことよね?なら、闇風には悪いけど、この際彼にも囮になってもらえばいいんじゃない?死銃が闇風を撃てば位置が分かるから…そこを狙う。まぁ考えようによっては、私だって似たようなことやってる訳だし…」
「・・・強いな、シノンは」
上条はシノンに向かってそう呟くと、もはや先ほどと違って恐怖に負けていないのを見ると、安心しているかのように微笑んでみせた
「別に…ただ考えないようにしてるだけ。それよりどう?今の作戦。もう使えるものはなんでも使うべき状況だと思うんだけど…」
「ああ…そうだな。基本的には俺も賛成…なんだけど…」
「?なによ?なんかあるの?」
「・・・さっきのスキャンで生存者と敗退者を数えたんだけど…28人しかいなかった。1人は通信切断されて存在自体が無いものとして扱われたペイルライダーを入れても…29人。1人足りない」
「ッ!?まさか…死銃が誰かをまた殺したっていうの…!?」
「その可能性があるとしたら、さっき俺が言ってた洞窟に隠れてるかもしれないヤツだ」
「そ、そんなの不可能よ!だって共犯者は私を狙ってるはずでしょ!?」
「ああ、そうだ。だから考えてみたんだけど…ちょっと不自然なところがいくつかあると思わねぇか?」
「ふ、不自然…?」
「死銃がペイルライダーを撃ってから次にシノンを撃とうとするまで、30分とかかってない。それはつまり、シノンの家から現実のペイルライダーの自宅が30分の圏内ってことになる。となるとちょっと出来過ぎだと思わねぇか?」
「でも…そうとしか考えられないでしょ。総督府で参加者の住所を盗み見て、同じ学園都市に住んでて移動に都合がつく私とペイルライダーをターゲットにして今回の犯行に望んだとか…!」
「それもあり得る。だけど、死銃の共犯者が『1人だけ』とは限らない」
「!?」
「もし現実の実行する仲間がいるなら、今現実でシノンの部屋に待機してるヤツの他にも仲間がいたら、他のプレイヤーが殺されることもあり得る」
「つまり…闇風もまた、死銃のターゲットになってる確率も、否定はできない」
「そ、そんな…!こんな恐ろしい犯罪に3人以上が関わってるって言うわけ…!?」
「俺も詳しくは知らねぇけど…クリア当時のままなら、元ラフィンコフィンの生還者は少なくとも10人以上はいるはずだ。まさか全員が関わってるとは思わねぇけど…共犯者が1人だけだと断言できる根拠もない」
「どうして…どうしてそこまでプレイヤーキルにこだわるの!?折角デスゲームから解放されたのに…!」
「・・・多分、アイツらは認められないだけなんだ。真実を…自分から受け入れられないだけなんだ」
「・・・え?」
上条が暗い顔で俯きながら何かを呟いた。それはあまりにも小さな呟きで、あっという間に砂漠の風に掻き消されたため、シノンにはなにも聞こえなかった
「・・・ともかく、そんなヤツらには負けられない。さっきはPKって言ったけど、取り消すわ。アイツらがやってることはPKなんかじゃない。フルダイブ中の意識のない人間に毒薬を打ち込んで殺す…ただの卑劣な犯罪者…人殺しだわ」
「・・・ああ、これ以上ヤツらの好きにはさせられねぇ。この戦場で死銃をぶっ飛ばして、本人の情報を割り出して捕まえてやる」
そう言うと上条は自分の前で右拳を握り、左手の平に打ち込み、パァン!という音ともに自らの闘志に気合いを入れた
「なら闇風は私が相手をする。死銃には殺させない」
「えっ!?」
「あの人は強い。たとえあなたでも瞬殺はできないわ。それにあなたが闇風と交戦してるところを死銃に狙撃されるかもしれない」
「そ、そりゃそうかもしれねぇけどさ…」
「どうせあなたのことだから、私を守らないと、とか考えてたんでしょ?」
「うっ…」
「そんなの冗談じゃないわ。そもそもあなたが言ったんでしょ?私は『狙撃手』。あなたはスポッターとして、敵のいる位置を割り出してくれれば、あとは全員、私が仕留める」
「・・・よし、それなら任せるよ。もう闇風も死銃もかなり接近してるはずだ。まず俺が砂漠に飛び出すから、シノンは後からここを出て、狙撃ポイントに向かってくれ」
上条がそう言うと、シノンはそれにこくんと頷き、自分の分身であるヘカートを両手に持った
「よろしく、相棒」
「ああ、頼りにしてるぜ。相棒」
ゴツンッ!
そして二人は差し出した拳を軽くぶつけ合うと、互いに微笑み合った。そして上条は砂漠へと飛び出していき、少し時間を置いてからシノンも狙撃場所へと向かい始めた。そして、来るべき最終決戦に近づくにつれて戦場は妙に静まりかえっていた