「上やん、頼んだわよ」
上条と別れたシノンは、砂漠に無造作に突き刺さっている廃ビルの屋上に陣取って、暗視モードに変更したヘカートのスコープを覗き込んだ
(西からは闇風が接近中だから…死銃が撃ってくるとすればおそらく東…頭か心臓を狙撃されたら…ほぼ即死…しかもアイツはマントで透明になったまま撃ってくる)
(でもきっと…あなたなら…なんとか出来るわよね…上やん…)
(私のやるべきことはまず闇風を速やかに排除すること。じゃないと上やんが死銃と闇風に板挟みにされてまず殺られる。その後で死銃は私を殺すはず…)
(そう…この1弾には…私の『本物の命』が懸かっている!あの時と同じように…!)
(『ヘカートII』!弱い私に力を貸して!ここからもう一度立って…また歩き出すための力を!)
自分の唯一無二の分身にそう願うと、シノンはヘカートのトリガーに、そっと指を当てた
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「・・・はぁ、やるしかないか」
月夜が照らす広大な砂漠に、上条は佇んでいた。遮蔽物がなく次々と吹き荒れていく風に装備の服やそのツンツンと尖った髪を揺らしながら、ゆっくりと目を閉じ、意識を集中しはじめた
タッタッタッタッタッ…
(・・・南西。これは闇風のヤツだな…闇風はシノンがきっと止める…)
遠く聞こえている闇風の足音がどんどんと自分に迫ってくる。しかし上条は彼のことは気にも留めなかった。シノンを信頼し、自分の感じるべきもう1人の居場所を探す為に意識をさらに集中させる
(考えろ…音もなく襲いかかってくる銃弾…それをどう防ぐか…)
(俺が死銃ならこの状況…砂漠の中央に突っ立ってる標的を確実に撃ち抜くには…)
(南西には闇風…だがヤツの標的は俺だけ…つまり南の方には絶対にいない。かといって真っ正面から撃つほどバカ正直にはなれない)
(そしてこのゲームの最も重要な点、弾道予測線。これが相手の視界に見えた時点で、遠距離射撃なんてまず実現しない)
(この全てを考慮して、俺を狙うとしたら狙う場所はただ一つ…!)
ブォンッ!!
「ここしかねぇだろっ!!!」
カァンッ!!!
上条は左腰にぶら下げたビームシールドを展開すると、そのまま自分の本能に従ってシールドを導いた。真東からやや南にズレた方向。それを上条は見事に予測し、死銃放った銃弾を後方へと弾き飛ばした
「行くぞっ!!!」
ダッ!!!
そして上条は勢いよく砂を蹴ると、そのまま死銃が示す赤い弾道予測線が伸びてくる方向へと突っ込んでいった
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カァンッ!!ヒュウンッ!!
「はっ!?はぁっ!?どおわぁぁぁ!?!?」
そして上条が後方へと弾き飛ばした死銃の弾丸はなんの運命の巡り合わせなのか、そのまま闇風の方向へ導かれるように直進した。闇風は何とか自分の方へ飛んできた弾丸をかわしたが、スピードが自慢の彼がついに立ち止まった。そして…
「捉えたっ!!!!!」
ドゥンッ!!!!!
ズドオオオオオォォォォォッ!!!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
[DEAD]
闇風が銃弾をかわして立ち止まった一瞬の隙をシノンは見逃さなかった。着弾予測円の導くままに引き金を絞ると、ヘカートの銃口から標的を冥界へ送る弾丸が放たれた。その弾丸は闇風の胸に特大の風穴を開け、アバターの体を数十メートル以上吹き飛ばし、ついにBoB本戦から叩き出した
(上やん!!!)
心で叫びながらシノンは相棒の名を胸に刻んだ。そして即座にヘカートの銃口の向きを彼の延長線上にいる死銃の方へと変えた
(これで…!!!)
ガチャッ!ガチャッ!
(ッ!?)
死銃を横から狙撃しようとトリガーを引きかけたシノンだったが、その先の死銃はなんと、シノンが狙撃しようとしていることに気づいたのか、サイレントアサシンの銃口を上条からシノンの方へと変えたのだ
(負けられない!!上やんのためにもここで私は…死銃!あなたを撃ち抜く!!!)
ドゥンッ!!!プシュンッ!!!
ヘカートから発せられる轟音。それとほぼ同時に死銃のライフルからも沈黙の弾丸が飛び出す。二つの弾丸はよもや空中で衝突し合うかに思えた。しかし、ごく僅かに互いの銃弾はそれぞれの軌道に干渉しあい、その弾道をズラした。そして音速をも超えた弾丸がすれ違った次の瞬間……!
ガシャアンッ!!!
「くっ!?」
ガシャアンッ!!!
「ッ!?!?!?!?」
死銃の放った銃弾がヘカートの大型スコープを跡形もなく吹き飛ばした。しかし、シノンの撃った銃弾は『沈黙の暗殺者』をバラバラに破壊し、スナイパー対決は僅差ながらもシノンとヘカートIIに軍配が上がった。フェイスマスクのせいで死銃の素顔は見えないが、その仮面の奥の表情は屈辱で歪んでいることは想像に容易かった
「後は頼むわよ…上やん…!」
そう言ってシノンは死銃へと立ち向かっていく上条に願いと希望を託した
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(やったぜシノン!!後は俺がなんとかする!!)
ダダダダダダダダダダッ!!!
上条はひたすら砂を蹴って死銃へと向かっていく。ライフルをシノンによって破壊された死銃はゆっくりと亡霊のように立ち上がった。そして上条は彼に引導を渡すため、その右手の拳を強く握った
「うおおおおおおおおおおお!!!」
上条は一際強く脚に力を込め、思いっきり砂を蹴って跳躍した。そして握り締めたその右拳を振りかぶり、死銃に向かって殴りかかった。しかし…
ヒュンッ!…ズドスッッッ!!!
「ッ!?がっ!?」
上条の左肩で赤いエフェクトが迸り、その奥に鋭い痛みが迸走った。そこには長細い金属の針のような物が突き立てられていた。そう、死銃はまるで上条の右拳の軌道を分かっていたかのように回避すると、その冷たい『刺剣』を突き刺したのだ