とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第31話 軋轢

 

ズザザザッ!!

 

「・・・へぇ、珍しい武器だな、ソレ」

 

「・・・フンッ」

 

 

左肩を刺された上条は咄嗟に後ろに跳んで死銃の追撃を逃れた。刺された左肩を右手で抑えながらゆっくりと立ち上がり、死銃の持つ長細い針のような剣を一瞥した

 

 

「というより、このGGOの世界にも金属で出来た剣があるなんて驚いたな。しかも『エストック』なんて変わった趣味してんな、アンタ」

 

 

上条はあくまでも平静を装い、少しの笑みを浮かべながら死銃に向けてそう言い放った

 

 

「これは『銃剣作成スキル』で作れる。長さや重さは、この辺が限界だがな」

 

「そうかよ…生憎上やんさんは盾にしか興味がなくてな。剣なんてSAOの第一層でしかマトモに使わなかった」

 

「相変わらず、盾と右手に頼った、お前だけの戦法を使うようだな。それではさぞかし、銃の攻撃範囲の広さに悩まされただろう。もっとも、俺の持つこの剣を掻い潜って、お前の攻撃の間合いに入るのも、一苦労だろうがな」

 

「へっ、どうかな…なんだかんだ言っても今までどうにかなったからな。このビームシールドでお前の剣を防いで間合いに入り込めれば俺の勝ちだ」

 

「ふっ…威勢が、いいな。出来るのか?貴様は現実世界の、腐った空気を吸いすぎた。さっきの生ぬるい拳を以前の貴様が見たら、失望するぞ」

 

「んなの知るかよ。上やんさんだって中身はもう大学生だ、高校生の時ほど無茶できるわけじゃない。それに、それはお前も同じなんじゃないのか?その刺青。まさかとは思うが、お前だけはまだラフィンコフィンのメンバーでいるつもりとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

 

そう言って上条は右手の人差し指で、ちょうど包帯がほつれている死銃の右手首あたりに彫られている『笑う棺桶』の刺青を指差した

 

 

「・・・ほぉ、そこまで理解したのなら、分かっている、はずだ。オレは本物のレッドプレイヤーだが、お前は、違う」

 

「違うのはテメエもだろうが」

 

「・・・なに?」

 

「知ってんだろ。殺人ギルドとして恐れられていたラフィンコフィンは、最終的にはSAOの裏で暗躍してたアレイスター達の計画を見抜いた。本来100層で終わるはずだったあのデスゲームを75層で終わらせ、あれ以上の被害者を出さなかった、そして俺たちが75層以降の強敵と邂逅せずに済んだ一因を作った。SAOから目覚めた後、世間はリーダーのPoHを含め、その功績を讃えるヤツもいた」

 

「・・・・・」

 

「まぁ認めたくもないだろうな。自分たちは殺人鬼だと信じて疑わずにPKを繰り返していたお前らの行為は現実世界に戻るなり、あまりにも輝かしすぎる最後の功績に埋もれていった。そりゃそうさ、人間みんな暗い事件よりも明るい功績を共有したくなるもんだからな」

 

「だからこそお前たちは現実を受け止められなかったんだ。自分たちは本物の殺人鬼だと信じて疑わなかったのに、実際のラフィンコフィンの行動は曲がりなりにも大義だったと世間が認めたんだ。お前らは自ら悪を演じて、狂気に走った自分とその周囲の恐怖を楽しんでいたのに、その行為を世間は大して見向きもしなくなったんだ。そりゃ現実受け入れるのに苦労もするだろうな」

 

「でもって、なんで改まって面も向けたことのねぇ俺をそこまで知ってるかって、そりゃ俺がお前らのボスと一緒にSAOのクリアに一役立てた張本人だからだ。だからお前らは…」

 

「黙れ」

 

 

荒くマスクで息を吐きながら、冷酷な赤い眼光を光らせ、死銃は上条のそれ以上の追求を阻止した

 

 

「・・・へっ、そうかよ。だが生憎、お前の拳銃じゃ俺は殺せない。ここで諦めて自首するんだな。お前らの行為はもう、仮想世界のPKじゃ済まされない。歴とした犯罪だ」

 

「ふんっ…精々、吠えておけ。お前が何をしようが、お前は、オレの殺戮を、止められない。お前はここで俺に切り倒され、無様に転がり、オレがあの女を殺すのを、ただ見ていること以外には……」

 

「何も、できない!!」

 

ビュンッッッ!!!

 

「ッ!?」

 

キィンッ!ズブリッ!!

 

 

まるでバネが跳ねるような速さで死銃はエストックを突き出す。その剣先は上条がシールドを構えるよりも遥かに早く、上条の胴を突き刺した

 

 

「フフフフフフッ……」

 

「あがっ!?クソッ!」

 

フォン!キィン!シュンッ!ガキィ!

 

 

これ以上会話をする気はないと語るかのように、死銃は次々にエストックで突きを繰り出してきた。上条はその目にも留まらぬ連撃を何とか盾でいなしていく。しかし、それでも何とか防ぐだけで限界なのは明白であり、死銃はさらに畳み掛けるように上条へと剣を突き立てて襲いかかった

 

 

ビュビュビュビュビュビュッッッ!!

 

「なっ!?どわあぁぁぁっ!?」

 

ズドドドドドドドッ!!!!!

 

 

死銃の右手はもはや霞むほどの速さで動いていた。次々に振るわれるエストックの切っ先が上条の視線に残像を残していく。その剣技、SAOで広く親しまれていた八連撃ソードスキル『スター・スプラッシュ』は上条の身体を無数赤い切り傷で染め上げていった

 

 

「クソッ!追いつけねぇ…!」

 

フォン!キィン!シュンッ!ズバッ!

 

(強え!剣のスピード、攻撃のバランス、タイミング…全てが完成されてやがる!これじゃ拳一発ぶち込むどころか俺の盾で防ぎ切ることさえも…!)

 

(だけど…一瞬でいい…一瞬だけでもこのラッシュを止められれば…!)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「上やん…!」

 

 

上条と死銃が戦闘している場所から約700メートル離れた岩山で、シノンは膝立ちになりながら何もできない苛立ちに歯噛みしていた

 

 

「スコープさえ無事なら…!」

 

 

彼女のヘカートは本体こそ無事であったが、死銃の狙撃によってスコープを失っていた。おかげでその照準は彼女の言うことを聞かなかった。銃弾を撃つことそれ自体は可能だが、いかんせん上条と死銃の距離があそこまで詰められていると、上条に銃弾が当たってしまう可能性も否定できず、その引き金を引くまでには至れずにいた

 

 

(上やんは今、自分の言葉を行動に変えようとしている!SAO世界の闇を引きずる死銃という犯罪者を、自分なりの手で止めようとしている!)

 

(それが出来るのは、上やんが強いからじゃない!自分のしていることがただの喧嘩の延長線にすぎないと分かっていてそれでもなお、その拳を握り締めて前を向いていられるから!)

 

「何か…私にできること…」

 

 

シノンがその頭脳をフル回転させ思考を巡らせる。岩山からあちらに近づくのは逆効果だ。シノンが黒星で撃たれれば現実で死ぬことに変わりはない。かといってここで引き金を引こうものなら、上やんに風穴を開けかねない

 

 

「何か…他に手段は………ッ!!」

 

 

その瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃がシノンの頭を駆け抜け、光明が差し込んだ

 

 

「・・・ある。たった一つだけ…」

 

 

瞬間、シノンは全身を震わせた。考えついた今の自分がたった一つ、今も戦っている彼のために取れる戦術を頭の中でシミュレーションした

 

 

「・・・どこまで効果があるかは分からない…でも…やってみる価値はある!」

 

 

大きく息を吸い込み、奥歯を噛み締めながらヘカートを握りしめると、シノンは相棒が死闘を繰り広げる戦場へと視線を向けた

 

 

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