「まったく…君、本当にこれで何回目だろうね?」
「い、いやぁ、あはは…今回は直接的には先生の手を煩わせてないわけで、結果的にも入院は1日の検査入院なわけでありまして…そこんとこ踏まえましてノーカンにしてくれると上条さん的にも助かると言いましょうか……」
「そンじゃあ術式を担当した俺に手術代っつーことで報酬でも払ってくれよォ?まァ、レベル0の庶民様の懐事情をいたわって特別プライス40万円っつーことでェ!」
「お前分かって言ってるよな!?」
BoB本戦終了から既に一夜が明けていた。昨夜、詩乃のアパートで起こった騒動にて恭二に薬液を注射され万事休すかと思われた上条だったが、その後現場に駆けつけた一方通行が能力により体内の薬物を抽出したおかげでなんとか一命を取り留めた
「しかしまぁ、現場に彼が駆けつけていたから良かったものの、もしそうでなかったら今ごろは確実に三途の川を渡り切っていただろうね?」
「怖いこと言わないでくださいませ!?」
「しかしまァ、奇しくもやったことは『妹達の時』とは真逆だったけどなァ」
「ああ、ありがとな。一方通行」
「しかしよォ、オマエの場合右手から先はどうやってもアプローチ出来ねェからてっきりそこは壊死するもンだと思ってたンだが…右手から先は全く影響なしってェのはどういう了見なンですかァ?もうオマエの右手から先は別の生き物なンじゃねェのか?」
「ははは…まぁ案外間違ってないかもな。吹っ飛んでも勝手にくっついたり生えたりするぐらいだし…」
「まぁいざとなったら僕も右手から先だけ切り落として生えるのを待つという方法に頼っただろうね」
「だから怖いこと言わないで先生!?」
ガラガラガラガラッ!!
「おーっす、調子はどうじゃんよ上条」
病室のドアが開く音が聞こえたかと思えば、病室内に不躾な態度で入ってきたのは、件の依頼主である黄泉川だった
「調子はどう?じゃないですよ黄泉川先生。今回ばっかりは本当に運の尽きかと思いましたよ」
「まぁでも、それは病院から朝田の家に走りながら私個人の連絡先に電話を入れたのが功を奏したじゃんよ」
「あ、そうだ。詩乃の方は?」
「彼女の場合は命に別状はないね。擦り傷と軽い打撲程度だね」
「ほっ…良かった…」
「ほら、噂をすればなんとやらじゃん?」
ガラガラガラガラッ!!
「上やん!!!」
もう一度ドアの開く音がしたかと思えば、詩乃が病室に駆け込んで来た。そしてそのまま上条のベッドの元へと駆け寄った
「大丈夫!?どこか怪我とか…!」
「え?あーいいや、大丈夫さ。どっちかっつーと俺は怪我じゃないからな。詩乃の方こそ大丈夫だったか?」
「もうっバカ!本当にバカなんだから!!もしもあなたが死んだら私は…私は…!」
「おーおー、見せつけてくれちゃってェ?お熱いですねェお二人さァン?」
「ッ!?/////」
一目散に上条の元へと駆け寄った詩乃を見た一方通行が彼女をニヤついた顔で茶化すと、詩乃の頬がみるみる内に紅潮していき上条の体から飛び退いた
「・・・?どういう意味だよ一方通行?」
「君は少しは自分でそれを理解する努力をした方がいいね」
「?????」
パンパンッ!
「さて、まぁ役者も揃ったことだし事後報告といくじゃんよ」
和やかムードなところを申し訳なさそうに、黄泉川はその手の平を2度と叩いて話を切り出そうとした
「あァ?おい黄泉川、俺それ関係あンのか?」
「まぁ一方通行を役者として数えていいか微妙だとは私も思ったじゃん。でも一応は元ラフコフのメンバーなんだし、完全に切り離すのも良くないから聞くか聞かないかは自分で決めてほしいじゃん」
「なっ!?こ、この人も元殺人ギルドのメンbッ…!」
「大丈夫だ詩乃。この一方通行は確かに元ラフコフのメンバーだったけど、結果的には途中で脱退したし、SAOをクリアまで導いたメンバーの内の一人だ」
「へ?あ…まぁ、そういうことなら…」
「・・・チッ、今さらあの組織がどうかしたところで俺は興味ねェな。っつーことだ、俺は帰る」
チャッ…チャッ…ガラガラガラガラ…
そう言い残すと一方通行は杖を突きながら病室のドアに向かって歩き出し、そのままドアを開け病室を後にした
「わ、私があんな反応したから機嫌悪くしちゃったのかな…」
「え?あっはっはっは!違うじゃんよ朝田」
「・・・え?ち、違うってどういうことですか?」
「アレが一方通行なりの気の遣い方じゃんよ。だから決して朝田のせいじゃないから気にすることないじゃん」
「・・・え?ていうか…今、黄泉川先生…それに上やんもあの人のこと『一方通行』って…」
「ん?ああ、言ったじゃんよ」
「えっ!?えええええええええええええええええええ!?!?!?じゃ、じゃああの人が学園都市第1位!?」
「まぁ、そうなるじゃん」
「へ、へ〜…あんな人だったんだ…ちょっと意外…」
「さて、それじゃ事後報告といくじゃんよ」
「・・・・・」
黄泉川がそう言うと、病室内の全員の雰囲気が一変した。各々話すのをやめ、真剣な眼差しを当事者へと向けた
「昨日のアパートでの一件の後、新川恭二、並びに恭二の兄である新川昌一を逮捕したじゃん。昌一に行った取り調べの供述で共犯者が判明。3人目の死銃と語る『金本敦』は現在逃走中だけど、捕まるのは時間の問題じゃん」
「死銃が生まれた原因は、昌一がリアルマネー取引で透明化できるマントを手に入れたことがきっかけだったじゃんよ。そのマントの能力を使っていたある日、総督府で他のプレイヤーが操作していた情報端末を試しに双眼鏡で覗き込んだところ、そこにはプレイヤーのリアルの情報がズラリ。それからGGO内のプレイヤーの現実の情報を集め始めていたらしいじゃん」
「つまり…情報を得るためにマントを入手したんじゃなくてその逆…先にマントありきだった…ということですね」
「まぁ、MMOじゃ『隠れ身』ってのはそれこそ定番スキルだ。ない方が珍しいとも言える。SAOでもハイディングは街中でも使えたし、俺も中層で一度それを駆使した事件に遭った。でもそれは別にズルってわけじゃない。当時の情報屋の奴らもかなり重宝して使ってた。その点、今回の事件は現実と密接な関わりがあるGGOだからこそ起きた事件だとも言えるな」
「そして、恭二はGGOでアバターの育成に手間取っていたじゃん。理由は…まぁ私にはよく分からないんだが、ゼクシードがプレイヤーに嘘の育成論みたいなのをばら撒いておいて、自分はそれに該当しないステータスを育成してたのを酷く恨んでたみたいじゃん」
「・・・はい、新川君も昨日そんなことを言ってました」
「ああ。それでその話を聞いた昌一が恭二にゼクシードの現実の氏名と住所を教えたところ、まぁウチの高校の教師である災誤先生であることが発覚、話はすぐに彼をどう粛清するかって段階に移ったらしいじゃん」
「最初は本気にしてなかったみたいだったじゃん。でも連日議論している内に計画が現実味を帯びてきて、ついに昌一と恭二は計画を実行するために第13学区で父親が経営する病院から緊急時に電子キーを解錠するマスターコードと薬物を盗み出す算段を整え、それを実行したじゃん」
「そして昌一は最初の犠牲者、ゼクシードこと災誤先生の自宅にマスターコードで侵入し、事前に恭二と示し合わせていた時間に先生を殺害し、恭二は兄のアバターであるステルベンでログイン。死銃と名乗ってテレビ画面越しにゼクシードを銃撃したじゃん。そして二人目の被害者である薄塩たらこも同じ手口で…」
「・・・・・」
「しかし、GGO内のプレイヤーは死銃の噂に怯えるどころかデマ扱いしたじゃんよ。それに業を煮やした昌一達はBoBで一挙に3人を殺害すると計画したじゃん。そのターゲットになったのが、ペイルライダー、ギャレット、そして…」
「シノン…朝田だったじゃんよ」
「・・・・・」
分かっていたことだったがやはり事実を知った衝撃は隠せなかった。詩乃は少し顔を俯かせると、どこか悲しげな表情を浮かべていた。そんな彼女を気遣ってか冥土帰しは黄泉川に疑問を投げかけた
「・・・だけど、複数人をそんな短時間に殺害するには、どうしても障害が生まれてくるね?」
「そうじゃん。死銃の共犯者も、犯行のタイミングに合わせてターゲットの自宅に移動しないとならないじゃん」
「・・・そこで、3人目の共犯者として金本敦を新たに引き入れた…ということですか?」
「そ、上条の言う通りじゃん。金本は昌一の古い友人…というよりも、SAOで同じギルド…ラフィンコフィンに属していた身として関わりがあったらしいじゃん」
「ちなみに昌一のSAO時代のキャラネームは『ザザ』、金本は『ジョニー・ブラック』。聞き覚えは…?」
「・・・いや、本当に情報屋の情報とか巷の噂程度に聞いたことがあるぐらいですね。俺自身が実際に会ったことはないです」
「そうか…まぁそれで金本は互いの家が近いという条件を満たしたペイルライダーとギャレットの殺害依頼を引き受け、恭二はシノンの殺害を引き受けたじゃん。今までは昌一が現実側の実行役だったらしいけど、今回は恭二が実行役に固執していたみたいじゃん」
「・・・あ、あの…」
「ん?どうしたじゃん朝田?」
「そういうことは、新川君…恭二君が話したんですか?」
「いや、これらは兄の供述に基づいた話じゃん。恭二は頑なに黙秘を貫いてるじゃんよ」
「そ、そうですか…」
「ちなみに新川昌一は幼い頃から病気がちだったじゃんよ。父親は早々に見切りをつけて、弟の恭二を跡継ぎに決めたじゃん」
「まぁそれで兄弟仲が悪化するとかそういうわけじゃなかったんだけど、昌一はネットゲームにのめり込むようになり、二年半前にソードアート・オンラインに囚われたじゃん」
「・・・・・」
「本人の供述によれば生還した昌一は恭二にだけ色々語ったらしいじゃん。いかにあの世界で自分が血も涙もない殺戮者だったか…そんな昌一が、恭二にとっては英雄に見えていたらしいじゃん」
「・・・でもその反面、弟に英雄として見られれば見られるほど、自分の耳に入ってくるラフィンコフィンに対する世間の評判が気に食わなかったみたいじゃん」
「自分たちは紛れもない殺人鬼のはずだった。しかしその実、ラフィンコフィンはSAOに曲がりなりにも75層で終止符を打つ一因を作った『正義の集団』だったと…そう思われるのがどうしても許せなかったらしいじゃん」
「言うなれば、昌一や金本はそうした理想と現実の違いで生まれた狭間で踠き苦しんで出来てしまった『膿』みたいなものじゃん」
「まるで『仮想世界のダークサイド』…だな…」
黄泉川の話を聞いた上条は苦虫を噛み潰したような顔で静かにそう呟いた。一方の詩乃はそんな彼の顔を一瞥すると、黄泉川に視線を向け問いかけた
「あの、恭二君はこれからどうなるんですか?」
「んー…まぁ一概には言えないけど、第10学区の少年院に入ることは避けられないじゃん。なんせ二人は仮想世界に囚われてすぎて現実を見失っちまったじゃんよ」
「・・・黄泉川先生…私、彼に会いに行こうと思います」
「・・・え?ど、どうしてじゃん?昨日あんなことがあったばっかりじゃんよ?」
「・・・伝えたいんです。私が…彼が誘ってくれた仮想世界で…彼が生きがいにしていた仮想世界で…何を見て、何を感じていたのか、今何を考えているのか、話したいんです」
「・・・なるほど…ある意味じゃ二人は似た者同士…だったのかもな。仮想世界に自分の強さを求めて、そして戦い続けた。きっと、今の詩乃の言葉は恭二のこれからの糧になるはずだ」
「・・・うん。ありがとう」
上条は詩乃の目を見つめてそう言うと、最後に少し笑った。彼の笑顔を見て、詩乃もまた自分の考えは間違っていなかったのだと感じ、彼に笑顔で礼を返した
「・・・朝田は強くなったじゃん。そういうことなら拒否する理由はないじゃん。面会が出来るようになったら、ウチの学校で朝田に伝えるじゃんよ」
「ありがとうございます、黄泉川先生」
「さって…私もまだ仕事を残してきたからそろそろお暇するじゃんよ」
「あ、すいませんわざわざ手間を取らせてしまって…」
「いやいや、朝田たちにはもちろん知る権利があるじゃん。それにお前たちを危険な目に合わせてしまったのは私の落ち度もある。これぐらいしないと教師として生徒に顔向け出来ないじゃん」
「あ、黄泉川先生…それで報酬の件は…」
「え?あっはっは!心配しなくても後で上条の口座に振り込んどいてやるから安心するじゃんよ!」
「そ、そすか…安心した…」
「それじゃ朝田、上条の看病よろしくじゃ〜ん♪」
「よっ、黄泉川先生!///」
ガラガラガラガラ…バタンッ!
そう詩乃に言い残して面々に別れを告げると、巨乳系体育教師は上条の病室のドアから去っていった
「???黄泉川先生となんかあったのか詩乃?」
「べ、別に!アンタの病室に来るまでは先生に手当てしてもらってたからそこで色々と……ごにょごにょ…/////」
「?????」
「い、いいでしょ!アンタには関係ないことなの!///」
「そ、そんな怒ることかよ…てか今に始まった話じゃないけど仮にも先輩にアンタって呼ぶ女の子が最近多すぎやしませんかね…詩乃に限らず…」
「あっ…そ、そうね…え、えっとじゃあ、か、上やん…は本名じゃないし…上条…先、輩…?」
「ん、んーーー…な、なんか詩乃にそう呼ばれんのむず痒いからやっぱり上条でいいかな…」
「な、何よそれ!///ていうかなんでか、上条……の方こそ私のこと下の名前で呼んでんのよ!?」
「え?だって『シノン』から『ン』取るだけだし、その方が楽だし呼びやすいかなって。なんだったら別に詩乃だって俺のこと名前で呼んでいいんだぜ?」
「〜〜〜〜〜ッ/////べ、別に上条でいいわよ!バカ!」
「なんでそれだけでバカとまで言われにゃならんのでせう!?」
「ははは。さて、どうやらここにいてもお邪魔虫になるようだし、僕もお暇することにしようかね」
「あ!すいませんお世話になりました!」
「いやいや、僕は朝田さんには特に何もしてないからそこまで気を遣わないでくれたまえ」
「先生、ありがとうございました」
「それじゃ、毎度の事ながら君はくれぐれもお大事にね。出来ることならもうこの病院の世話にならないことを祈っているよ」
スタスタスタ…ガラガラ…バタンッ!
「・・・・・」
「・・・・・」
冥土帰しも病室から退室し、二人残された上条と詩乃。急に人がいなくなった静けさが二人を包み、秋の訪れを予感させる少し涼しげな風が病室の窓から吹き込んできた
「・・・ねぇ上条、リンゴ食べる?」
「ん?剥いてくれんのか?」
「一人暮らししてるんだからリンゴぐらい剥けるわよ」
「そっか…じゃあ頼む」
「・・・ありがとう、上条」
「はは、俺もありがとな、詩乃」
「・・・どういたしまして」
どこかくすぐったさを覚えるお礼の言われ方に思わず笑ってしまった上条だったが、頬をポリポリと掻いてそれを誤魔化しながら礼を返した。リンゴの皮を剥く音が心地良く耳に残りながら、心地よい秋の風が二人の肌をなぞった