とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第36話 小さな一歩

 

「よぉ〜朝田〜、待った〜?」

 

「・・・そっちから呼び出しておいたクセに待たせないで」

 

 

死銃事件解決から一週間が経った。ここ、とある高校の体育館裏では今、朝田詩乃と彼女をいじめのターゲットにしている遠藤を含めた3人の女子が待ち合わせていた

 

 

「あぁ?朝田さぁ〜、最近マジ調子乗ってなーい?」

 

「本当、ちょっとヒドくない?」

 

「ははっ、別にいいよ。私達は『トモダチ』なんだから。そんかしさぁ〜私達が困ってたら助けてくれるよなぁ?そういう訳だからとりあえず二万でいいや、貸して?」

 

「・・・・・」

 

スチャッ…

 

「んぁ?」

 

「・・・前にも言ったけど、あなたは友達なんかじゃないし、あなたにお金を貸す気はない」

 

 

遠藤はまるで詩乃を嘲笑うかのように詩乃を見下しながらそう言ったが、詩乃は毅然とした態度で彼女の言葉に応じず、ゆっくりと眼鏡を外し、真っ直ぐな瞳でそう告げた

 

 

「チッ、おい朝田ぁ?今日はマジで兄貴から『アレ』借りてきてんだからな?」

 

(・・・逃げない…私は…戦うことを選択する…それを上条から学んだ)

 

「好きにしたら?」

 

「へっ!」

 

ガサゴソ!ガチャッ!!

 

「!!!!!」

 

 

遠藤がバックに手を突っ込み、その中から取り出したのは一丁のエアガンだった。そしてその銃口が詩乃へと向けられ、彼女は思わず鋭く息を呑んだ

 

 

「これ、兄貴には絶対人に向けるなって言われてんだけどさぁ…朝田は平気だよなぁ?慣れてるもんなぁ?」

 

「・・・・・ッ!?」

 

「ほら、泣けよ朝田!土下座して謝れよ!!」

 

「「キャーーーーーッ!!」」

 

・・・・・カチッ…

 

「・・・え?」

 

 

遠藤は間違いなくエアガンの引き金を引いた。しかし、弾が出ないどころか引き金自体がビクともせずプラスチックの軋む音がするだけだった。予想外の展開に遠藤はエアガンを一瞥して思わず素っ頓狂な声を上げた

 

 

カチッ!カチッ!カチッ!

 

「ん?なっ!ちょっ!?な、なんだよ…コレッ!…ッ!?」

 

「・・・はぁ〜…ちょっといい?」

 

ガシッ!

 

「痛っ!?」

 

バッ!クルクル…カシャンッ!

 

 

詩乃はまず最大限の腕力でエアガンを持つ遠藤の右手を握り、彼女の握力が弱まったところをGGO仕込みの所作であっという間にエアガンを奪い取り、トリガーガードに指をかけ少し空中で遊ばせてからその右手でグリップを握った

 

 

「んー、『1911ガバメント』か。お兄さん渋い趣味ね、私の好みじゃないけど」

 

「・・・へ?」

 

「ちなみにガバメントはサムセーフティの他にグリップセーフティもあるから、その二ヶ所のセーフティを解除しないとうんともすんとも言わないわ」

 

カチッ!カチッ!

 

「それにシングルアクションだから最初は自分でコッキングしないとダメ」

 

ガチャッ!!スッ…

 

「・・・ふぅ〜…」

 

 

詩乃は手慣れた手つきでエアガンの二つのセーフティを解除し、ハンマーを起こすと、誰が置いたかも知れぬバケツの上にある一本の空き缶へと照準を合わせた

 

 

「ッ!!」

 

プシュッ!!カァンッ!!!

 

 

詩乃がエアガンの引き金を引くと、強烈な空気の音ともにBB弾が飛び出した。BB弾はそのまま真っ直ぐに空き缶へと向かうと、見事命中し空き缶を凹ませた。そして詩乃はゆっくりと遠藤の方へと向き直った

 

 

「ッ!?や、やめっ…!」

 

「確かに、人には向けない方がいいわねコレ。結構威力強いし。はい」

 

ガチャッ…ポン…

 

「あ、あああああああ……」

 

「じゃあね」

 

(・・・これが私の…最初の一歩…)

 

 

恐れおののく遠藤にセーフティをかけ直してエアガンを手渡すと、遠藤はヘナヘナと地面にへたり込んだ。そして詩乃は鞄を持ち直し、勝ち誇ったように3人に別れを告げ、決意を新たにその場を後にした

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「???」

 

ザワザワザワザワザワザワ……

 

 

遠藤をあしらった詩乃は正門へと向かって歩いていた。しかし、進行方向の正門には、およそ遠目から見ても分かるほどの人だかりが出来ており、辺りは異様なほどザワついていた

 

 

「あっ、朝田さん。今帰り?」

 

「うん。ねぇ、何かあったの?」

 

「ほら、アレだよアレ」

 

「・・・ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

カシャコカシャコカシャコッ!!!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

「待てぇコラそこのツンツン頭ー!」「ぶっ殺したるわー!」「死に晒せー!」「待たんかボケー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

なんかいた。ここ第七学区を根城にするスキルアウトの集団を背にしながら、学園都市で普及している電動補助付き自転車、通称『アクロバイク』に跨り、そのペダルを全力でこいで爆走するツンツン頭の不幸な大学生、上条当麻その人。実は詩乃は今日、上条に用事があると言われ学校の正門で待ち合わせようとしていたのだが、こんな豪勢なお出迎えになるとは思いもせず言葉を失っていた

 

 

キキーーーーーッ!!!

 

「おおっ詩乃!良かった!待たせて悪かったな!」

 

「べ、別に待ってないけど…ところであの追ってきてるスキルアウt…」

 

「説明は後だ!とにかく早く後ろに乗って俺と一緒に逃げてくれ!!」

 

「ッ!?///」

 

「キャー!駆け落ちよー!」「いやーーん!だいたーーん!!」「朝田さんやっるー!」「ひゅーひゅー!いいぞいいぞー!」「持ってけドロボー!」

 

 

上条は校門の前でアクロバイクに急ブレーキをかけて止まるなり詩乃を見つけ、まるでドラマのワンシーンのようなセリフを口にした。それを聞いた途端詩乃の顔はみるみる赤くなっていき、校門の前に溜まっていた野次馬の声援が二人を囃し立てた

 

 

「ちょっ!ちょっと待ってみんな!こ、これはその!ち、違くて!///」

 

ガシッ!

 

「なにモタモタしてんだ!ほら!」

 

「ふぇ!?///ちょっ、ひゃあっ!?」

 

グイッ!ストンッ!!

 

 

上条は狼狽える詩乃の手を強引に握り、自分の元へと引き寄せると、詩乃をアクロバイクの後輪の上に設置された平たい荷台の上に座らせた

 

 

「よし!乗ったな?乗ったよね?乗りましたよね!?じゃあ行くぞ!振り落とされないようしっかり掴まっとけよ!!」

 

「ひゃあああああああ!?!?///」

 

カシャコカシャコカシャコ!!!

 

 

詩乃の承諾を得ぬまま再び上条はアクロバイクのペダルを漕ぎ始めた。詩乃は明日学校で事情を根掘り葉掘り聞かされるのを覚悟し、もうどうにでもなれと思いながら彼の腰周りに腕を回し、振り落とされまいとキツく抱きついた

 

 

「おいヤロー女の子と二人乗りしてやがんぞ!」「自転車の二人乗りは違反だぞー!」「舐めてんのかー!」「その子寄越せおんどりゃー!」「テメー愛の逃避行とか抜かしてんじゃねーぞコラー!」

 

ドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

「あーもうしつこすぎだろ!こっちは自転車であっちは走りだぞ!?走れメロスって案外やれば出来るもんなのか!?」

 

「ね、ねぇ!なんでスキルアウトに追われてるの!?」

 

「あー!?黄泉川先生から報酬も貰ったし通学用に自転車買おうと思ったんだけど、自転車屋のおっさんがこのアクロバイクがお買い得だし、これが最後だっつーからコレ買ったんだよ!したら同じようにコレが欲しかったスキルアウトが俺に八つ当たりしてきて気づいたらどんどん人数が増えてこの有様ですのことよ!?」

 

「不幸にも程があるわよ!?」

 

「はっはっは!もうそんなの上条さんは慣れっこですよ…さて、じゃあちょっとここいらでコイツの本気を見せてもらいましょうかね…」

 

「え?ほ、本気って…?」

 

「ああ。って言ってもコイツの電動補助を借りて全力で漕ぐだけさ…でも人力だけで50km/hは出るってさ」

 

「ご、50キロって…!ちょっ…!?」

 

「さて!目指すは15学区のエギルの店だ!飛ばすぞっ!!」

 

ビュオオオオオオオオオオオオ!!!

 

「いやああああああああ!?!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

キキーーーーーッ!!!…ガシャン!

 

「ふぃー、無事到着…」

 

 

その後、詩乃を荷台に乗せアクロバイクで爆走し、何とかスキルアウトを振り切った上条は、第15学区にある木造のカフェの前でアクロバイクにブレーキをかけ停車した

 

 

「全ッ然無事じゃない!前にも言ったでしょ!?女の子は下から吹きこむ風に敏感なの!今ので何人の不特定多数の人に私のスカートの中が晒されたと思ってるわけ!?体育用のスパッツ履いてなかったら今頃自殺してるわよ!?」

 

「そ、そういう問題なのかよ…まぁそりゃ美琴の短パンよかマシだけどよぉ…やっぱり上条さんには女心は理解出来そうにないな……」

 

「少しは理解しようと努力しなさいよ!そうじゃないと!…その…私が…上条のこと……///」

 

「え?なんか言ったか?」

 

「う、うるさい!なんでもない!///」

 

ガタンッ!!

 

「おおっ!?ととっ!」

 

 

詩乃は上条に向けて怒鳴りながらそう言うと、アクロバイクの荷台から強引に降りた。無理やり力の方向を変えられたために車体が激しく揺すられ上条は危うく転倒しそうになったが、アクロバイクの電子制御式サスペンションが衝撃を吸収し転倒を防いだ

 

 

「おおお…便利だなぁ…何やっても転倒しないって売り文句は伊達じゃないな。こりゃ不幸な上条さんにはもってこいの代物だ」

 

 

アクロバイクの利便性と安全性を改めて実感すると、上条はアクロバイクから降車し、目指していた一軒のカフェの前で立ち止まった

 

 

「で?このお店は何?」

 

「ん?ああ、俺の友人…友人?まぁよく言えばそんな感じのヤツがやってる店でさ、『ダイシーカフェ』って言うんだ。まぁ本人曰く夜は繁盛してるらしいが…しかしこの学生だらけの街でこんな酒場染みたカフェなんてやってて儲かんのかって感じだが…」

 

ガチャッ!!カランカラン!

 

「聞き捨てならないな、確かにウチはしがない店だが料理、スイーツの腕もピカイチなんだ。ランチと間食の期待に応えるのはもちろん、食後のコーヒーもその辺の半端なカフェなんかにゃ引けをとらねぇぞ」

 

「わっ!?」

 

 

急に店のドアが開き、ドアに取り付けられたベルがなったかと思うと、およそカフェの店員とは思えないほど大柄で屈強な肉体をした黒人が姿を現した。あまりにも強面の男性に詩乃は驚いてしまい、咄嗟に上条の背中に身を隠した

 

 

「お、なんだエギル。珍しくお出迎えか?」

 

「バカ言え、ウチはそういう店じゃねぇよ。店の前でお前の立ち話が聞こえたんで開けてやっただけだ。それにそう言う手前、お前だって未成年の分際でここで酒飲んでんだろうが。誰が黙認してやってると思ってんだ?」

 

「いやアレはクラインが無理やり俺に酒飲ませてるだけだからな!?」

 

「あ、あの…」

 

「おっ?君が上条の言ってた詩乃ちゃんか?待ってたぜ。さ、中に入ってくれ。ソフトドリンクとスイーツぐらいならご馳走するぜ。あ、上条は自腹でな」

 

「そこは俺も奢れよ!?普段少しは店の売り上げに貢献してんだろうが!」

 

「へっ、馬鹿にすんな。弱貧相のお前の支払いなんぞなくたってウチは痛くも痒くもねぇよ」

 

「そこまで言うなら逆に奢れよ!?」

 

「あっはっは!まぁソフトドリンクぐらいならサービスしてやってもいいかもな。ほら、そんなことより入った入った」

 

「ったく…」

 

カランカラン!!

 

 

エギルに言われるがままドアを押し込んで上条と詩乃はカフェ内へと入っていった。そんな二人を出迎えたのは業務挨拶ではなく、一人のお転婆少女の文句だった

 

 

「おっそーい!待ってる間にアップルパイ二切れも食べちゃったじゃない!太ったら上条のせいだからね!」

 

「そ、それどう責任取れと…いや違うんだよ、途中でスキルアウトのヤツらに追われてだな…」

 

「まーたアイツらと追いかけっこしてたわけ?物好きねーアンタも」

 

「いや別に好きではねぇよ!?」

 

 

バーカウンターのスツールに座りながら上条に悪態をつく女性が二人。篠崎里香と御坂美琴は上条よりも一足先に来店していたようで、二人の周りには食後の皿と空になったコップが置かれていた

 

 

「そんなことより、早く紹介しなさいよ」

 

「ん?ああ、そうだった。この子がバレット・オブ・バレッツの三代目チャンピオン、シノンこと朝田詩乃だ」

 

「や、やめてよ…」

 

「え?いやだって事実だろ?」

 

「そ、そりゃそうだけど……」

 

 

上条の思わぬ紹介の仕方に気恥ずかしさを覚えたのか、詩乃は小声でそう抗議したが、一先ず里香と美琴に会釈したので、上条は続けて里香に手を差し向けた

 

 

「んで、こちら3人とも俺のSAO時代の友人なんだけど…まずこちらが『ぼったくり鍛冶屋リズベット』こと『篠崎里香』」

 

「あ゛あ゛んっ!?」

 

「ひいっ!?な、なんでもないでございますのことよぉ!?」

 

「ったく…はい次!」

 

「え、ええっと…それでそちら里香様の隣にいらっしゃいますのが『常盤台の電撃姫』こと『御坂美琴』様でございます」

 

「よろしく、朝田さん」

 

 

自分に向けて笑顔で会釈する美琴を見るなり、詩乃は自分の目をパチクリと瞬きさせそして現状を飲み込むなり目をまん丸にして驚愕の声を漏らした

 

 

「・・・ふぇ?…ちょっ!?えっ!?ええっ!?御坂美琴って…あの学園都市序列第三位の!?常盤台の超電磁砲!?」

 

「え、ええ。まぁね…」

 

ガシッ!!!

 

「うわー!本物だー!お、お会いできて光栄です!私ずっとあなたの大ファンだったんです!」

 

「え?…え?そ、そりゃどうも…」

 

 

美琴がかの有名人である御坂美琴だと気づくなり、彼女の手を握り熱烈なまでの羨望の眼差しを彼女に向け、戸惑う彼女を余所に、まくし立てるように問いかけ始めた

 

 

「あの!よろしければお聞きしたいんですけど!あの超電磁砲ってどういう仕組みで撃ってるんですか!?今実際に撃ってもらうことって出来ますか!?」

 

「え、ええと…アレはゲーセンのメダルを電気を応用したローレンツ力で加速して音速の三倍で撃ち出すって代物で…まぁここで撃てないこともないけど…撃ったら撃ったでエギルさんの店が跡形もなくなってもいいなら…」

 

「おい冗談でもやめろよ!?」

 

「ね、ねぇ上条…詩乃ってもしかしてそういう子…?」

 

 

詩乃の美琴に対する熱意を見るなり、里香は上条の方へ近寄り、二人には聞こえぬように耳打ちで囁いた

 

 

「い、いや多分そういう訳じゃねぇんだけど…ま、まぁ仮にも銃ゲーやってた身だし…『超電磁砲』って能力と響きに憧れてたんじゃないか?」

 

「アレを銃と形容していいかは怪しいところだけどね…」

 

「あぁ…どっちかっていうと大砲だよな…てかそもそも本人の性格がアレだし…」

 

「コラそこ!聞こえてるっつーの!」

 

「あ、あはは…んで、最後にコレが『店のエギル』」

 

「誰が店だ!?俺の存在意義はそれだけか!?っつーか俺だってお前に本名教えただろうが!」

 

「えー、だってお前の名前なげーじゃねーかよ…『アンドリュー・ギルバート・ミルズ』。長いからエギルでいいぞ詩乃」

 

「え?が、外人さん…なんですか…?日本語お上手ですね…」

 

「お褒めに預かり光栄だぜ、お嬢さん」

 

「まぁこんな女たらし紛いなことを言ってるが一応既婚者だ」

 

「お前は本当に一言余計だ!というか天然女たらしのテメエに言われたかねぇ!」

 

「さっきのお返しだ。俺が女たらしじゃねーのは彼女が出来ないのがその証拠だっつの。ま、その辺りに適当にかけてくれ詩乃」

 

「あ、うん…」

 

 

上条にそう言われ、詩乃は四人がけの円卓テーブルに備えられた椅子に座り、上条と美琴と里香も同じ円卓の椅子に腰掛けた

 

 

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