「・・・以上がここ数日俺がGGOにログインしてた理由と、GGOで何が起こったかについてだ」
円卓に着席した後、上条と詩乃はお互いに話を補填しあいながらここ数日の出来事をダイジェスト版で説明した。しかし事柄が事柄だったので、それでも事の全容の説明にはかなりの時間を要した
「・・・なんか上条って…つくづく巻き込まれ体質よね」
「まぁ不幸の申し子だからな…と言いたいとこだけど、今回ばかりは一概にはそう言い切れないな。俺が自分から首突っ込んだワケだし、SAOから続いてた因縁ってのもあるからな」
「・・・まぁ、ラフィンコフィンのメンツがそうなるのも納得よね…急にゲームが終わって現実戻って蓋開けてみたら、自分達の誇りにしてた悪事が霞んでたんじゃ…そんな気も起こすわ」
美琴はそう言いながら二年前に自分が生きていた仮想世界を思い出し、神妙な面持ちで一度下へと顔をうつむかせたが、その後すぐに詩乃の方へと向き直った
「改めてごめんなさい朝田さん。私たちが自分でケリをつけられなかったばかりに危険な目に遭わせてしまって…」
「俺もだ、悪かった詩乃」
「え?い、いやいやそんな!」
心からの謝罪の意を込めて頭を下げる上条と美琴だったが、その先にいる詩乃はとんでもないと言いたげに両手を振った。そしてすっかり気まずくなってしまったムードを切り替える為に里香が両手を叩いた
「ま!なにはともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーとリアルで知り合えたのは嬉しいな!」
「ふふっ、そうね。改めて友達になってね朝田さん」
「えっ!?ぁ…うん…」
美琴の誘いに対し、詩乃は気まずそうに答えることしか出来なかった。かつて、自分を『友達』と呼び、自分が『友達』と呼んでいた人が、気づけば自分の周りからどれほど消えていっただろうか。その記憶を思い返すと、易々とその誘いに応えることは出来なかった
(この人たちも…私の過去になにがあったか知れば…きっと…)
「・・・それで詩乃、俺はもう一つ…お前に謝らなきゃならない」
「・・・え?謝る…って…」
「あのね朝田さん…詩乃さん。今日この店に来てもらったのには、ある理由があるの」
「り、理由?」
美琴が詩乃にそう告げると、続いて上条は詩乃に対して深々と頭を下げた。そして真剣な表情を浮かべ、申し訳なさそうに口を開いた
「俺、詩乃の昔の事件のこと、美琴と里香に話した。どうしても…二人の協力が必要だったんだ」
「・・・えっ!?」
「詩乃さん、実は私たち3人は三日前、学校を休んで、以前あなたが住んでいた街に行ってきたんです」
「!!!!!な、なんで…そんな…ことを…」
ガタンッ!
詩乃は美琴から告げられた信じられない言葉にショックを隠せなかった。そしてその場から逃げ出そうと、何度も首を振りながら席を立った時、その右手の裾を上条が掴み待ったをかけた
「待ってくれ!それは詩乃が…まだ会うべき人に会ってない!聞くべき言葉を聞いてないと思ったからだ!」
「あ、会うべき人?聞くべき…言葉…?」
「今から起こることは、詩乃を傷つけるかもしれない…それでも俺は!どうしてもそのままにしておくのは嫌だったんだ!」
「い、一体…何を…?」
「・・・里香、お願い」
「了解」
美琴に何かを頼まれた里香は席を立つと、そのままバーカウンターの奥のドアへと歩いていった。そして詩乃は離れかけた座席にもう一度腰掛けると、それとほぼ同時にドアの向こうから一人の女性と、一人の幼稚園児ほどの少女が顔を見せた
「・・・?」
一体誰だろう?と詩乃が考えている内に、一人の女性と少女は先ほどまで美琴と里香が座っていた円卓の椅子に座った。そして女性が詩乃に一礼すると、それに続くように少女も頭を下げた
「あ、あの…あなたは?」
「初めまして。朝田…詩乃さん、ですね?私は『大澤祥恵』と申します。この子は『瑞恵』。四歳です」
「・・・ぇ?」
自分が記憶している名前の中では、そんな名前は聞き覚えがなかった。それに、少女に関しては自分とはるかに歳が離れている。であるのに、詩乃の脳裏には、なにかが疼いて仕方がなかった。その原因を追究する前に、女性がその答えを告げた
「この子が生まれる前は、郵便局で働いておりました」
「!!!!!」
詩乃の中にある途切れた糸のような記憶が、その瞬間に全て繋がった。そう、今自分の目の前にいる女性は、あの郵便局の事件で強盗に銃口を向けられた女性であった
「・・・ごめんなさい、ごめんなさいね。詩乃さん」
「・・・は、はい?」
不意に祥恵がその瞳から涙を流した。何を謝られ、何に対して涙しているのかわからぬ詩乃に対し、祥恵は振り絞るような声で続けた
「本当に、ごめんなさい。私…もっと早くにお会いしなきゃいけなかったのに…事件のことを忘れたいがばかりに…夫の転勤をいいことに学園都市に出てきてしまって…あなたがずっと苦しんで暮らしてるなんて、少し想像すれば解ることなのに…謝罪も…お礼すらも言わずに…」
「そ、そんな…そんなことは…」
謝罪を続ける祥恵にかける言葉が見つからず詩乃が戸惑っていると、祥恵は涙を拭き取り、隣に座る瑞恵の頭を撫でた
「実は私、あの事件の時、お腹にこの子がいたんです。だから詩乃さん、あなたは私だけでなく…この子の命も救ってくれたの。本当に、本当に…ありがとう…」
「命を…救った…?」
詩乃は思わず自分の耳を疑った。自分はあの事件で命を『奪った』だけだと、そう思い込んでいたからだ。しかし目の前の祥恵は、その対極に位置する言葉を詩乃に向けたのだ
「詩乃、お前はずっと自分を責め続けてきた。自分を罰しようとしてきた。それが間違いだとは言わない」
「でも、それと同時に詩乃は、自分の行動が救った命があることを知ってほしかった。自分が救った命のことを考えて、自分自身を赦す権利がある。俺はそれを、詩乃に教えたかったんだ」
「自分が救った命…自分を…赦す権利…」
とんっ!とことこ…
「?」
詩乃が上条の言葉を頭の中で反芻していると、祥恵の横に座っていた瑞恵が椅子から飛び降りて詩乃の元へと近づいてきた。そして斜めがけの小さなバッグへと手を入れ、四つ折りになった小さな画用紙を広げ詩乃へと差し出した
「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」
「!!!!!」
画用紙にはある絵が描かれていた。一番上に不器用な字で『しのおねえさんへ』と宛先が書かれたそれは、瑞恵が自分の家族を描いた絵だった。その絵を見て、瑞恵のお礼を聞いた詩乃の瞳は既に涙で溢れていた
「えへへっ…」
「・・・ふふっ…」
そして瑞恵が震える詩乃の手を握った。そして屈託のない優しい笑顔を向けると、詩乃も涙を拭き取り、瑞恵に笑顔を向けた。そんな2人を包む空気も、彼女たちの手も、優しい温かさに包まれていた
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「と、言うわけでみんな。俺たちの呼びかけに応じて新しくALOを始めてくれたシノンだ。仲良くやっていこう!乾杯!」
「「「かんぱーーい!!!」」」
「よ、よろしくお願いします…」
そして数日後、ALOにある上条達のパーティーが拠点とするホームでは、新たにALOを始め上条達のパーティーに参加したシノンを歓迎する宴会が開かれていた
「ほらシノン、自己紹介」
「あ、そうね。初めまして。上やんやミコト、リズからの誘いもあってALOを始めたシノンです。種族はケットシーです。よろしくお願いします」
「よろしくねーシノのん!」
「し、シノのん…?」
簡単な自己紹介を終えたシノンをいきなりアスナが妙なあだ名で呼んだため、シノンはその特徴的な耳を揺らしながら小首を傾げた
「うん!シノンだからシノのん!可愛いでしょ?」
「う、うん…そうね…」
「さて…それじゃシノン、早速なんだけどぉ〜…」
ガシッ!!
「・・・へ?」
「んふふ〜♪」
「み、ミコト…?」
美琴が急にシノンの肩へと腕を回し、不気味な笑みをシノンへと向けた。それはまるで、上司が部下に下世話な尋問でも始めようとしているかのような構図だった
ガシッ!!
「いや〜あたしもさ〜、シノンとは仲良くやってけると思うんだけど、その前にやっぱり腹割って話しときたいって言うか〜?」
「り、リズ…?」
ガシッ!!
「いや〜あれは上やん君の特性が悪いとも思うんだけど、やっぱり具体的にどういう雰囲気であの洞窟の出来事につながったりしたのかな〜って気になったりしてさ〜?」
「り、リーファ…?」
ガシッ!!
「まぁ後は〜、大会の最後上やんさんに抱きついた理由ですとか?なにやら風の噂で上やんさんとアクロバイクで二人乗りなさったとか?あとシノンさんの本音ですとかその辺りを聞かせて下さると嬉しいな〜…と」
「し、シリカ…?」
何が何やら分からぬままあっというまにシノンの四肢をアスナ以外の女性陣が拘束した。そして4人全員が何やら底の知れぬ不気味な笑みを浮かべていた
「まぁ〜、夜も長いことだし?存分に語り明かそうよ〜。色々積もる話もありそうだし〜?」
「「「ふふふふふふふ……」」」
「い、嫌…嫌ぁっ!上やん助けて!なんかみんな怖い!なんでか分かんないけどみんなの笑顔が怖い!」
「じゃそういうわけだからアンタ、とりあえずアンタは後回しにしとくから最初にシノン借りていくわね?文句ないでしょ?」
「あ、あの美琴様…顔が異様に怖いんですが……え?上やんさんが後回しってのは…それはつまり後々上やんさんも同じ目に合うってk…」
「 文 句 な い わ よ ね ? 」
「・・・はひ」
「よし、みんな行くわよ」
「「「はーい」」」
ズルズルズルズルズルズル…
「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!上やん助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!私まだ死にたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」
ギイッ!バタンッ!!
<いやあああああぁぁぁぁぁ!!!
そしてそのまま女性陣はシノンを引きずりながら別の部屋へと連行して行った。そしてしばらくして閉じられたドアの向こうからシノンの断末魔が聞こえてきた
「・・・あー悪いみんな、俺ちょっと急に大学の課題があったの思い出したから先にログアウt…」
ガシッ!!
「おいおい俺たちがオメーをみすみす逃すと思ってんのか上の字よ?」
「ひいっ!?」
ガシッ!!
「いや〜俺も前々からちょろ〜っと話が聞きたいと思ってたんだよな〜。お前にはスグというものがありながらどうしてあそこまで女子をはべらせてるのかなぁ?そうだろ上やん?」
「そ、その理論はおかしいと思うんですがぁぁぁぁぁ!?!?」
ありきたりなセリフでその場から逃げようとした上条の肩にクラインとキリトが掴みかかりその逃げ場を塞いだ
「まぁまぁ上の字よ、洗いざらい吐いてもらおうか。どうやったらそこまでモテんのかとか洗いざらいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「ま、こっちも男同士仲良くやろうぜ上やん」
「いや課題があるのは本当のことでありまして!?ぎゃあああああああああああああああああああ!!!エギルゥゥゥゥゥ!!!アスナァァァァァ!!!助けてくれぇぇぇ!!!」
「自業自得だ。後で女性陣の説教もあんだからとりあえず男に絞られてこい」
「あ、あははははは……」
ズルズルズルズルズルズル……
「こ、こんなの…あんまりだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ギイッ!バタンッ!!
<不幸だああああああああ!!!!!
なにはともあれ、今日も今日とて上条が仮想世界で築いた絆は、どんな世界の垣根すら超えて、様々な人へと繋がっていく。その絆と繋がりこそが、紛れもない自分たちの『強さ』なのだと実感しながら、シノンと上条は夜通し尋問され続けたのであった
読者のみなさまどうもこんにちは、作者の小仏トンネルです。
以上でファントム・バレット編は完結となります。読者のみなさま、御一読並びに応援ありがとうございました。読者のみなさまのご協力があったからこその完結であったと作者は思っております
次回よりとある魔術の仮想世界[3]はキャリバー編へ突入いします。同スレ内にて新しく章を作って始めていきたいと思います。SAO再放送を見て一念発起した作者の急な思いつきのため、事前の告知などがなかったことをお詫びいたします。次回からのキャリバー編も全力でやっていきますので、ぜひよろしくお願い致します!