「ふぇ?上条ちゃんって詩乃ちゃんと面識があったのですか?」
「え?あーいや、なにも面識ってほどじゃ…名前も今これ見て初めて知った感じで…あ、とりあえずこれお返しします」
「あ、ありがとうなのです…でもじゃあどうして詩乃ちゃんのことを?」
「えーっと…昨日この子が路地裏で不良っぽい女子高生3人に絡まれてたから助けに入ったんですよ。3人の不良は追っ払ったんですけど、この子も気まずくなったのかすぐに走って行っちゃったんで詳しいことは分からず終いでしたけど…」
そう、上条が拾い上げた紙は、昨日の夕暮れに路地裏で助けた朝田詩乃という少女の個人名簿だった
「そ、そうでしたか…それなら一先ずお礼を言っておくのです上条ちゃん」
「え?あ、ああまぁそりゃいいんすけど…何かあったんですか?」
「・・・実は…その詩乃ちゃんも不良っぽい女子高生3人もこの高校の生徒さんで、先生が担任してるクラスの生徒さんなのですよ…」
「あ、なるほど。それで…」
「でも先生、それって上条の話からも鑑みるにその状況は…」
「・・・そうなんですよ吹寄ちゃん。実はウチのクラスではその3人を含めて詩乃ちゃんへの『いじめ』が疑われてるのです…」
「「!!!!!」」
小萌が告げた衝撃の一言に、上条と吹寄の2人は驚愕の表情を見せた
「実はこの詩乃ちゃんは高校二年に上がる今年の4月にこの高校に転入して来たのです」
「なるほど…転入してクラスの雰囲気に馴染めずにそのままいじめに発展した…と、そういうことですか?」
吹寄の問いかけに対し、小萌は静かに首を横に振った
「いえ、それもあるのでしょうけど…問題はおそらくそこだけではないのです。詩乃ちゃんはある事件をきっかけに幼い頃から『PTSD』を抱えていて…それも原因の一つなのではないかと思うのです…」
「ぴ、ぴーてぃーえすでぃー?」
「『Post Traumatic Stress Disorder』それぞれの頭文字を取って『PTSD』よ。日本語にすると『心的外傷後ストレス障害』といって、いわゆる一種の心の病気のことよ」
聞きなれない単語に首をかしげる上条に対し、吹寄がそう答えた
「へぇ、随分詳しいんだな吹寄」
「ま、まぁ貴様のお見舞いに通うになってからそういう医療のことも少し勉強してたからね」
「・・・アレ?というか上条ちゃん知らなったのですか?そもそも吹寄ちゃんは上条ちゃんが寝たきりになってから、いつか自分が治してあげたいと思ったから自分で医療を勉強し始めて今の大学でも医学部に……」
「わー!///わーわーわー!!///小萌先生ストップストップー!!///」
「もんがっ!?」
「???」
吹寄の話を聞いていた小萌が何やら話を挟もうとしたが、なにを恥ずかしがったのか吹寄は慌てて小萌の口を教え子らしからぬ勢いで強引に塞いだ
「な、なんでもないのよ上条!?私も色々と思うところがあったからにそういう勉強を始めたわけであって決して他になにか邪な思いがあったわけではなくてだな!そこのところはき違えることのないように!」
「お、おう…で?そのPTSDって病気になるとどんなことがあるんだ?」
「PTSDは自分の身の危険をはじめ、それこそ自分の命を脅かすような出来事によって発症する病気なの」
「ほ、ほう?」
「例えば火事が原因だったら、それ以後火を見るのが怖くなったり、地震が原因だったとしたらかなり小さい揺れでも動悸が乱れたり、目眩がしたりする。つまりこのPTSDという病気は、発症の原因も発症後にその人に及ぼす影響も人それぞれっていうことよ」
「なるほどなるほど…じゃあ、この朝田詩乃って子のPTSDの原因は何なんですか先生?」
「そ、それは…」
「小萌先生、生徒の個人情報をそこまで明かすのは流石の私でも看過出来ないじゃん?」
上条に問われ、気まずそうに吃る小萌だったが、小萌の向かい側の机に座る黄泉川が急にそう言って3人の会話に口を挟んだ
「で、ですよね…申し訳ないのです黄泉川先生…」
「いや、勝手に話を盗み聞きしてた私にも非はあるじゃんよ。でも流石にそれ以上はと思って口を挟ませてもらったじゃん」
「まぁそりゃそうですよね…じゃあ大方、さっきまでの会議はその子の事情に関する会議だったんですか?」
「あー…えっと…さっきの会議はそれとは全く関係ないのですよ」
「え?違うんですか?むしろそういうことの方が会議した方がいいんじゃ…」
「なにしろまだ『疑い』があるだけじゃん。学校と教師側にも色々と規約上の関係があって疑いだけじゃまだ何とも言えないし動けないじゃんよ」
「じゃあ…さっきの会議は一体何を?」
「えっと…た、ただの事務会議なのですよ!だから上条ちゃんと吹寄ちゃんが気にすることは何もないのです!」
「そ、そうでせうか…」
「そ!そうなのです!」
「・・・怪しい」
「ぎくっ!」
なぜか会議の内容を聞かれた小萌はその場を取り繕おうとする態度を取った。するとその様子を疑いにかかった吹寄はじとーっとした目で小萌を見つめた
「先生、何か嘘ついてませんか?これでも三年間小萌先生と一緒だったのである程度のことに察しはつきますよ?」
「な、ないのですないのです!先生が生徒のみなさんに対して嘘をつくなんてそーんなそんな!」
「なら、今気付かれないようにそっと教科書の下に隠したプリントはなんですか?」
「ぎくぎくっ!」
「はぁ〜…月詠先生隠すの下手すぎじゃん…」
吹寄の問答にどんどん追い詰められていく小萌を見て黄泉川はため息を吐きながら頭を抱えていた
「で、でも!これだけは譲らないのです!これはこの学校だけの問題ではないのですから!」
「ま、そういうことじゃん。吹寄も上条もその辺に……あっ…」
「・・・黄泉川先生?どうかしたのです?」
「ん〜〜〜…」
「な、なんすか黄泉川先生?急に俺の方なんか見て…」
話を続けていた黄泉川が急に何かに気づいたようにその表情を変えた。そして両腕を組んで唸るように悩むと、上条の顔をじーっと見つめ始めた
「・・・うん!そーじゃんそーじゃん!その手があったじゃん!」
ガタッ!スタスタスタ…
「よ、黄泉川先生…?」
「上条!」
ガシッ!
「ちょっと私に付き合うじゃんよ!」
「・・・へ?」
ズルズルズルズル……
何か妙案を思いついたように黄泉川が思い切り席を立つと小萌の席の方に回っていき、笑顔で上条の手を掴むとそのまま彼の身体を引きずりながら歩き始めた
「・・・とりあえず不幸な気がする。なにが起こるか分からないけどとりあえず不幸になる気がするーーー!!」