「しっかし、相変わらず脳筋ばっかのパーティーだよなぁウチは」
「い、一番脳筋の上やんにだけは言われたくないなぁ」
各々が武器を装備し、アイテム準備を終えたところで周りを見回した上条がふとそんなことを呟くと、すっかり彼と出会ってからツーカーの仲になったキリトが返す刀で反論した
「俺だって好きで脳筋なんかやってねぇよ。魔法が使えたら光の速さで『魔法使い』になってる自信がある」
「いやぁ、そういえば今思い出してみると、上やん君と出会って間もない時にルグルー回廊で本気で魔法唱えたのにうんともすんともエフェクトが出なかったの面白かったなぁ…」
「俺は何も面白くねぇよ…」
リーファが懐かしそうに以前に起こった自分の記憶を語っていたが、その話は場を和ませるどころかより一層上条の不満を抉っていった
「でも本当に不便よねアンタ。最近ALOでもついに実装された『ソードスキル』も使えないし」
「いや別に片手剣は装備出来るから使えねぇわけじゃねーんだけどさ…」
「でも上やんはほとんどスキル熟練度上がってないから与えられるダメージなんて雀の涙ほどじゃないか?」
「いやわざわざトドメさすかね…そんなに上やんさんのことが嫌いですかみなさま…」
「確かに上やんさんはお気の毒ですが、この新生ALOでも先月のアップデートでソードスキルが実装され戦闘にも色々な幅が出来てきましたね」
「ユイちゃんまでフォローしてくれないんでせうか…」
「アンタは別に知ってても素手を選ぶんだから関係ないでしょ」
「せめて少しは励ませよシノン!?」
すっかり解説が板についているユイの説明を聞いて上条はがっくりと肩を落としたが、シノンが追い打ちをかけるように言った
「さらに、このALOでの上級ソードスキルの仕様は物理属性の他に、『地』『水』『火』『風』『闇』『聖』の魔法属性を備えています」
「ほら、ユイちゃんの言う通り魔法属性があるソードスキルもあんだから、上やんにソードスキルなんて豚に真珠よ」
「ひ、ひっでぇ言い草だな…」
「せ、せめて猫に小判にしてあげようよリズ…」
「それ大して意味変わってませんよアスナさん…」
「んっ!んんっ!」
苦笑いしながらシリカが指摘し終わったところでキリトが2、3回咳払いすると全員が今回のクエストの仕切り役であるキリトの方へと向き直った
「さて、みんな。今日は急な呼び出しにも関わらず応じてくれてありがとう。このお礼は、いつか必ず精神的に。それじゃ、いっちょ頑張ろう!」
「「「おーーーー!!!」」」
キリトの掲げた拳に続いて7人全員が元気な掛け声と共に工房の天井に向かって拳を掲げた。そしてキリトがくるりと振り向いて工房の扉を開くと、世界の垣根を超えて編成された8人のパーティーは『地下世界ヨツンヘイム』に繋がる秘密のトンネルへと歩き始めた
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「・・・あ゛ーーーーー!!も゛ぉぉぉぉぉ!!一体何段あんのよコレェェェェェ!!!」
リズベット武具店を出た一行はリーファがトンキーから譲り受けたヨツンヘイム行き直通の秘密のトンネルを駆け下りていたのだが、そのあまりの長さに美琴がついに痺れを切らして怒声を上げた
「えーっと…アインクラッドの迷宮区タワー丸々一個分くらいはあったかなぁ〜…」
「じょ、冗談だろ…」
パーティーの先頭を走りながらリーファが答えると、攻略において毎度の如くアインクラッド迷宮区で迷子になっていた上条がため息まじりに呟いた
「あのなぁ、ノーマルなルートでヨツンヘイムに行こうと思ったら、まずアルンから東西南北にそれぞれ何キロも離れた階段ダンジョンの一つに移動して、モンスターと戦いながら奥に進んで最後に守護モンスターを倒してようやく到着出来るんだぞ。一介のパーティーなら最速でも二時間かかるところを、ここを降りればたったの五分だぞ!俺がリーファならここにいる全員分の通行料を取るまである!」
「おお、そりゃいい商売になりそうだな」
「あのねぇお兄ちゃんに上やん君。言っておくけど、ここを降りてもトンキーが来てくれないと、ヨツンヘイムの中央大空洞に落っこちて死ぬ以外ないよ」
「そ、それじゃあ詐欺もいいとこですね…」
「きゅる」
「まぁ、ここに調査協力費なんて名目で教師から40万も巻き上げたヤツがいるけd…」
「どわーーーーーっ!?!?やめろシノンそれだけはーーーっ!?!?」
ムギュッ!!
「!?〜☆$%$€♪@/&〒〆+!?」
「あ……」
シノンがGGO事件解決を経て上条が黄泉川から報酬を受け取ったことをバラそうとしたため、上条は咄嗟にシノンの口を塞ごうとしたところ、目の前でふりふりと揺れる尻尾を鷲掴みにし、その瞬間にシノンは声にすらなっていない叫びを上げた
「んにゃっ///!それダメ…///ダメェェェ…///」
「わ、悪い!シノn…いいっ!?」
「アンタはそうやっていつもいつもぉぉぉぉぉ…」
「かぁ〜みぃ〜やぁ〜ん〜くぅ〜ん?」
「そろそろアンタも節操持って行動した方がいいと思うんだけどぉ〜?」
慌ててシノンの尻尾から手を離して謝罪した上条だったが、いささかその時にはもう手遅れであり、彼の視線の先には美琴とリーファとリズベットの3人が鬼のような形相で仁王立ちしていた
「俺は知らないぞー上やん(棒)」
「私もー(棒)」
「パパとママが知らないなら私も知らないですー(棒)」
一方のキリト一家はこの状況をむしろどこか楽しむような意地の悪い笑顔で白々しく続けざまに上条を不利な立場へと追い込んでいった
「お、お前ら…!?た、頼むシリカ!お前なら分かってくれるよな!?」
「・・・す、すいません上やんさん…今回は流石の私も上やんさんが悪いと思います…」
「キュイ」
「そ、そんなぁーーーーー!?」
上条は藁にもすがる思いでシリカに救済を求めたが、最後の頼みの綱も虚しく彼女の頭の上に乗ったピナの頷きがトドメとなった
「さぁ〜、覚悟は出来てるんでしょうねぇ〜?」
「ち、違う!これは事故であってだな!決してわざとじゃn…!」
「問答無用!真っ黒焦げになりなさい!」
「鼻の穴に火矢ぶっ込むからね!」
「þeir slíta fimm grǿnn vindr!」
「不幸だーーー!!!」
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「うっわぁ…すっごい…」
「本当に一面の銀世界ね…」
大よそ予定通り5分ほどで上条一行はヨツンヘイムに続くトンネルを抜け終わり、分厚い雪と氷に大地が覆われた文字通りの白銀の世界が彼らを出迎えた
「さ、さぶい…だ、誰でもいいからこのボロボロの上やんさんの体を労ってくれる心の優しい人はおらんのか…」
「だからそれは自業自得だろ…」
そして当然の如く、そこは白銀の世界の見た目に恥じぬ極寒の地であり、仮想の空気は氷点下を下回り、上条は歯をカチカチと音を立てながら全身で震えていた
「アスナさん、『凍結耐性上昇支援魔法』お願いできる?」
「うん、もちろん。Oss sér rauðr vind, burt hálka stórhrið」
美琴の願いを二つ返事で聞き入れたアスナは、流暢な発音で呪文を詠唱し、ヨツンヘイムの寒気から身を守る凍結耐性上昇支援魔法を唱えた
「ふおおおお、あったか〜い。ありがとうアスナ〜」
「どういたしまして、リズ」
「まぁ例によって上やんさんは寒いままですけどね…」
各々が魔法によって暖をとる中、あらゆる異能の力を打ち消す『幻想殺し』を持つ上条だけは、アスナの唱えた魔法の恩恵を受けられず未だ止まぬ寒さに凍えていた
「上やん君はホッカイロでもお腹に貼っておけば?」
「俺は何歳だ!?つーかリーファはこのメンツの中で一番古参なんだからこのファンタジーの世界にホッカイロなんてねぇこと知ってんだろ!?」
「別に凍結耐性ポーションあるんだからそれ飲めばいいじゃない…」
「ううっ、上やんさんも支援魔法が欲しいよう…回復も何もかも自費は辛いよう…ゴクッ…あぁ〜VRとは言えコレは五臓六腑に染みるなぁ〜」
「どっちかって言うとおっさんですよねその反応……」
「し、シリカってたまに直にディスりにいくわよね…」
メソメソと泣き言を言いながらも、上条はベルトポーチから一本のポーションを取り出し、体内に流し込むと皆と同じく凍結耐性が上昇した
「でも、これから先はどうするの?確かヨツンヘイムってフィールド全体に飛行制限がかかってて私たちの翅じゃ1ミリも飛べなかったわよね?」
「そこでトンキーの登場なんだよ」
美琴がヨツンヘイムの仕様であるフィールド全体にかけられた飛行制限について尋ねると、キリトが少し口角をあげながら答えた
「よしっ!それじゃあ!」
フィーッ!!
リーファは皆の準備が完了したのを見計らうと、右手を唇に当て、高らかな音の指笛を鳴らした。するとその数秒後、風の音に混じって聞いたことのない動物の鳴き声のような音が聞こえてきた
<くぉぉぉぉぉー…ん
「・・・?なんだぁ?なんか変な声が聞こえてきたぞ?」
「それがトンキーの鳴き声だよ、上やん君」
「え?トンキーってリーファが言ってた乗り物のことだろ?乗り物の鳴き声ってどういうこった?」
「見れば分かるよ」
「???」
アスナにそう言われ、一先ず納得して上条はヨツンヘイムの寒空へと視線を戻すと、目を凝らした先に何やらこちらに向かってゾウとクラゲが合体したような、左右で合わせて8枚の羽を生やした白い邪神が宙を泳いできていた
「な、なんだアレ…キm…」
「キモくない!!」
「うおおっ!?なんだよリーファ脅かすなよ」
「あはは、まぁあたたかい目で見てやってくれ上やん。スグにとってはアレが可愛いらしいんだ」
「あ?ってことはアレが…トンキー?」
「くぉぉぉぉぉーん!」
上条がそう尋ねると、トンキーはまるで返事をするかのように一際大きな声で啼いた
「お、おおデケェなぁ…ひょっとして俺らこのまま食われるんじゃ…」
「平気だよ、トンキーはああ見えて草食だから」
「でも、こないだ地上から持ってきたお魚あげたら一口でペロッといったよ?」
「そ、その魚のサイズは聞かない方が身のためね…」
リーファの話を聞いた美琴が顔を引きつらせながらトンキーを一瞥すると半歩ほど後ずさりした
「さ、みんな背中に乗って乗って!」
「ま、マジで?本当にコレに乗んの?」
「どうせトンキーに乗らないとダンジョンまで行けないんでしょ。いいからいさぎよく腹括って飛び乗りなさいよアンタらしくもない」
「し、シノンは相変わらずいい度胸してるな…」
こうしてトンキーの主であるリーファが最初に彼の背中に飛び乗ると、それを参考に全員が彼の背中に飛び乗った。そしてトンキーは大きく啼き声をあげるとその巨大な八枚の翅を広げ、白銀の世界を悠々と泳ぎ始めた