「・・・うおおぉぉ…落ちたら死ねるなぁコレは…」
トンキーの背中から少しだけ上半身を乗り出しヨツンヘイム中央にぽっかりと空いた『グレードボイド』と名付けられた大穴を覗いた上条は、自分が初めてこの世界にログインした当初のことを思い出しながら振り絞るような声でそう呟いた
「でも上やん君高いところから落ちるの慣れてるでしょ?なんだったら実験してみれば?」
「別に慣れてねぇよ!ていうかスイルベーンで柱に激突したのは一応リーファのせいだからな!?」
「あ、高いところから落ちるならネコ科動物の方が向いてるんじゃないか?」
「・・・へぇ?キリトも鼻に火矢ぶっこまれたいクチ?だったら喜んでぶち込んであげるけど」
「めっ!?めめめ、滅相もございませんシノン様!」
キリトの提案に対して氷点下の寒さを誇るヨツンヘイムにも劣らぬほどの冷たい視線と口調でシノンが言うと、キリトは慌てて頭を下げた
「あははは!ウチのパーティーは本当に女尊男卑よね〜、クラインさんも含めて」
「・・・ミコトも十分なくらいその役目を果たしてると思うんだけどな…」
「ん〜?何か言ったかしらキリト君?」
バチバチバチッ!!
「ひぃぃぃぃぃ!?!?」
「キリトも恐れを知らねぇなぁ…美琴の普段の俺に対する仕打ちを見てねぇわけでもねぇのに…」
キリトのその声は囁くほどの大きさであったにも関わらず、美琴の耳にはその囁きがなぜか聞こえたらしくその額に紫電が迸った
「みんなー、そろそろ備えた方がいいよー」
「?備えるって?もうダンジョン着くのか?」
「ッ!?やっべ!!」
「「「???」」」
リーファの警告を聞くなり頭の中で何かを思い出したかのようにキリトがトンキーの背中の羽毛にしがみついた。彼とリーファを除く6人は何が起こるのかと互いに視線を合わせ首を傾げていた次の瞬間
「くおおおおおおーーん!」
「・・・へ?」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!!
「「「いいっ!?いいいいいいいいやあああああぁぁぁぁぁ!?!?」」」
「いやっほーーーう!!」
トンキーが雄叫びをあげた途端、全ての翼を畳みこむと、寒空の空気を裂きながら急降下し始めた。そのあまりもの風圧に虚を突かれた6人は縋るようにトンキーの背中の毛を掴んだ。上条の野太い悲鳴と女性陣の甲高い悲鳴が続けざまに上がったが、はしゃぐような声をあげていたのはリーファのみだったのは言うまでもない
「し、死ぬかと思った…今までで乗ったどんなジェットコースターよりもタチ悪りぃぞ今の…」
「き、キリトく〜ん、なんで教えてくれなかったの〜」
「ご、ごめんアスナ…俺もすっかり前回来た時のこと忘れてたから…」
「あ、シリカが息してない」
「」
「きゅるぅ〜」
急降下が終わった時には一行はヨツンヘイムの大穴ボイドの南の縁あたりに着いていた。メンバーはそれぞれやつれたような顔を浮かべ、どっと疲れてしまっていた
「・・・ん?お、お兄ちゃん!アレ見てっ!!」
「ん?どうしたスグ…ッ!?な、なんだアレ…」
途端、一行の遠く前方で鋭いライトエフェクトが立て続けに炸裂した。それは無数のプレイヤーが放った魔法とソードスキルの閃光であり、トンキーと同じ姿をした動物型邪神に襲いかかっていた。しかし、問題はそれだけには収まらず…
「な、なんで人型邪神はプレイヤーに攻撃しないでトンキーの仲間を襲ってんだ…?」
「グオオオオオオオオ!!」
そう、その側には動物型邪神とは別の四本の力強い腕とその手に巨大な剣を握った人型邪神がいるにも関わらず、その太い腕から振り下ろされる刃は一方的に動物型邪神へと向けられていた
「ま、まさか…誰かがあの人型邪神をテイムしたっていうの…?」
「そ、そんな!あり得るはずありません!邪神級モンスターのテイム成功率は最大スキル値に専用装備でフルブーストしても0%のはずです!」
にわかには信じられないと震えた声で呟いた美琴に対して、ビーストテイマーであるシリカが彼女の疑問を強い口調で否定した
「いや、アレはテイムしてるってよりも、なんつーか便乗してるって感じだろ。四つ腕の巨人が象クラゲを攻撃してるところに他のプレイヤーも乗っかって攻撃してるって感じが…」
「でも、そんなに都合よく『憎悪値』を仕向けられるものかしら?私はまだALOを始めて間もないからどういう仕様で動いてるのかよく分からないけれど」
「い、いやまぁそう言われると…」
人型邪神の行動パターンを眺めてそんな考察を立てた上条だったが、その考察を崩すようにシノンがまた新たな疑問を抱いた
「もしかして、さっき上でアスナが言ってたヨツンヘイムで新しく見つかったスローター系のクエってヤツじゃないのこれ…?人型邪神と協力して動物型邪神を殲滅する…みたいな…」
「「「!!!!!」」」
その惨状を見たリズベットの放った答えに残りの7人は揃って目を見開いた後に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた
「・・・こりゃとうとう穏やかな話じゃなくなってきたな。報酬がエクスキャリバーを提示してる時点で、それこそ同じくアスナが言ったようにヨツンヘイム全域がここと同じように殺伐としてるって考えてもおかしくない」
「で、でも待ってよお兄ちゃん!前にエクスキャリバーが奥にあるダンジョンに潜った時は人型邪神がうじゃうじゃいたんだよ!?」
「つまり、エクスキャリバーを入手するには、その道を妨げる人型邪神を避けては通れない…」
「でも、このクエストは人型邪神と闘うどころか共闘関係にある…」
「訳が分からn……でッ…!?!?」
各々が現状の考察に思考を巡らせるなか、ふと自分の頭上に広がる曇り空を見上げた上条が驚嘆の声をあげた
「え?なによアンt……デッ!?!?」
「「「デッカァ!?!?!?」」」
上条の見上げた視線の先には、水を象徴したような青いローブを着飾り、背中から足元まで揺れる金髪をした、優雅で三メートル以上はあろうかという長大な背丈の美女が佇んでいた
『私は、湖の女王ウルズ』