とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

42 / 90
第4話 クエスト開始

 

『我らが眷属と絆を結びし妖精達よ、そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、『霜の巨人族』の攻撃から守ってほしい』」

 

 

突如として上条達の前に現れた巨大な美女は、少しエコーがかかったいかにも荘厳な声でそう告げた

 

 

「け、眷属…?あ、トンキーのことか?」

 

「じゃあ、霜の巨人族ってのはあの人型邪神のこと?」

 

「じゃあこの人が言いたいのは要するに、動物型邪神モンスターを人型邪神モンスターから守ってほしいってこと?今から私たちはまた別種のクエストに巻き込まれそうになってるってわけ?」

 

 

一行は突然のことに戸惑いながらも一旦はウルズの話を飲み込むと、ウルズは真珠のような輝かしい右手をヨツンヘイムに向けて続けざまに言った

 

 

『かつてこの『ヨツンヘイム』はそなたたちと同じように世界樹イグドラシルの恩寵を受け、美しい水と緑に覆われていました。我々『丘の巨人族』とその眷属たる獣たちが穏やかに暮らしていたのです』

 

 

そう淡々と語るウルズの右手の先には、まるでホログラムのように景色が映り始め、昔のヨツンヘイムと思わしき緑に覆われた豊かな大地が映し出されていた

 

 

「ま、マジかよ…こんな極寒の地下世界がかぁ?」

 

『ヨツンヘイムのさらなる下層には氷の国『ニブルヘイム』が存在します。彼の地を支配する霜の巨人族の王『スリュム』は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛治の神『ヴェルンド』が鍛えた『全ての鉄と木を断つ剣』を、世界の中心たる『ウルズの泉』に投げ入れました』

 

「全ての鉄と木を断つ剣!それがエクスキャリバーってことね!」

 

「まぁ多分ミコトのその想定で合ってるんだろうけど…でもどういうこと?正史だとエクスカリバーはアーサー王に命じられたベディヴィエールが湖に投げ入れたって話なのに…」

 

「きっと北欧神話の世界観に合わせて運営側がストーリーをちょこっと弄ってるんだよ」

 

 

ウルズの話を聞いてそんな疑問を抱いたシノンに、アスナがそう答えた

 

 

『湖に投げ入れられた剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵を失ってしまいました』

 

「なるほど…それでこんなクソ寒い殺風景な土地になっちまったわけだ」

 

 

するとウルズは、今度は虚空へ左手を差し向けた。その手の先には再び新しい光景が浮かび上がり、現在の雪原となったヨツンヘイムが映し出され、世界樹と切り離された湖はヨツンヘイム中央の大穴『ボイド』へと様変わりしており、その遥か上空に巨大な逆ピラミッド型の氷塊が浮かび上がっていた

 

 

『王スリュム配下の霜の巨人族は、ニブルヘイムからヨツンヘイムへと大挙して攻め込み、多くの砦や城を築いて我々丘の巨人族を捕らえ幽閉しました。王は、かつてウルズの泉だった大氷塊に居城『スリュムヘイム』を築き上げ、この地を支配したのです。私と二人の妹は凍りついたとある泉の底に逃げ延びましたが、最早かつての力は残っていません』

 

「つまり、俺がリーファと挑んだあのダンジョンは元々はウルズさん達がいた泉で、あのダンジョンがそのスリュムヘイムなわけか」

 

『しかし、霜の巨人族はそれだけには飽き足らず、この地にも今生き延びる我らが眷属の獣たちをも皆殺しにしようとしています。そうすれば私の力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムまで浮かび上がらせることが出来るからです』

 

「「「!!!!!」」」

 

「んぁ?なんだよみんなそんな顔して?あのデッカい氷の塊がまた上に浮かんだら困ることでもあんのか?」

 

 

ウルズの話を聞き、それが現実となった時を想像するなり、上条を除く全員は驚愕のあまり生唾を飲み込んだが、上条はその意味が掴めず呆けた顔でそう尋ねた

 

 

「いい、上やん君?このヨツンヘイムのちょうど真上には、アルンの街があるの」

 

「別にそれぐらい分かってますのことよ?」

 

「考えてもみてよ、元々はあの氷塊がグレードボイドを開けたんだよ?つまり、あの氷塊がここからさらに浮かび上がってその上にあるものを壊しながら進むとしたら…」

 

「!!!アルンの街がなくなっちまうってことか!?」

 

「その通り」

 

 

リーファの説明を聞いてようやっと話の全容を飲み込んだ上条もまた先の7人と同じように驚愕の反応を示した

 

 

『王スリュムの目的は、そなたらのアルヴヘイムもまた氷雪に閉ざし、世界樹イグドラシルの梢にまで攻め込み、そこに実るという『黄金の果実』を手に入れることなのです』

 

「ね、ねぇ?これ一介のクエストにしては話が出来すぎてない?他のクエストの事情まで巻き込んでその上にまた新しい王がどうのこうのって…挙句の果てにはこれクエに失敗したら事実上アルンが崩壊するってことでしょ?」

 

「いや、一旦考えるのは後にしようミコト。まだ話に続きがあるみたいだ」

 

 

このクエストの作り込みの深さに何かあるのではと勘ぐった美琴が皆にそう問いたが、ウルズの眉がさらに悲しげにひそめられたのを見たキリトが美琴に手の平をかざして待ったをかけた

 

 

『我が眷属を中々滅せないことに苛立ったスリュムと巨人族の将軍たちはとうとう痺れを切らし、ついにそなたたち妖精の力をも利用し始めました。エクスキャリバーを褒美に与えると誘いかけ、眷属を狩りつくさせようとしているのです』

 

「それが例の出回り始めたクエストで間違いなさそうですね」

 

「きゅる!」

 

『しかし、スリュムがかの剣を余人に与えるなどあり得ません。スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵は戻り、あの氷の居城は溶け落ちてしまうのですから』

 

「えっ!?じゃ、じゃあエクスキャリバーが報酬ってのは全部嘘ってこと!?そんなクエストありぃ!?」

 

 

リズベットが素っ頓狂な声をあげ、ウルズはそれにコクリと静かに頷くと、それに応えるべくもう一度その口を開いた

 

 

『おそらく、鍛治の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時、槌を一回打ち損じたために投げ捨てた見た目はエクスキャリバーと似通った『偽剣カリバーン』を妖精に与えるつもりでしょう。それも充分に強力な剣ですが、それはエクスキャリバーとは別の、真の力を持たない剣です』

 

「そ、それじゃ本当にインチキじゃねぇか!不幸とか運の問題じゃねぇぞソレ!」

 

『その狡さこそがスリュムのもっとも強力な武器なのです。しかし彼は、我が眷属を滅ぼすのに焦るあまり一つの過ちを犯しました。配下の巨人のほとんどを、巧言によって集めた妖精の戦士たちに強力させるため、スリュムヘイムから地上に降ろしたのです。今、あの城の護りはかつてないほど軽薄になっています』

 

「なるほど!それならなんとかいけるかもしれない!」

 

 

ウルズのその言葉を聞いたキリトは自らの手の平と拳を打ち合わせ、その口角を少しだけ緩ませた

 

 

『妖精達よ、どうかお願いします。彼のスリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを『要の台座』より引き抜いて下さい』

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。