「正直もうこれは只事じゃないわね」
ウルズから提示されたクエストをキリトが承認すると、トンキーはスリュムヘイムへと向かって上昇を始め、その背中に乗りながら美琴はそう言って話を切り出した
「そうだな…さっき美琴が言ってたように普通のクエストにしては話がどうにも大がかりすぎるというか…それに動物型邪神を殲滅したら今度は地上まで占領するって言ってたよな?」
「・・・言ってたな」
そこから話はもう一度この大がかりすぎるクエストに関する考察へと移り変わり、大雑把に話を思い返した上条の疑問にキリトが静かに答えた
「でも、運営側がなんのアップデートもイベント告知もなしにここまでするかな?他のMMOでも『街をボスが襲撃するイベント』はあるけど、最低でも一週間前には告知があるはず…」
顎に手を当てながらそう語ったアスナだったが、彼女の肩にいるユイが突然浮かび上がり、何やらバツの悪そうな顔で口を開いた
「あの、みなさん…これは100%の確度はない推測の話なんですが…」
「ん?なんだよユイちゃん、遠慮せずに言ってくれ。ユイちゃんの言うことで間違ってることなんてほとんどないんだからさ」
上条がユイに優しく諭すと、ユイは一度静かに頷いて自分の言う推測の話を始めた
「・・・この新生ALOには、『カーディナル・システム』が採用されているのは皆さんもご存知だと思います。しかし、新生ALOが旧ALOと異なる点はそのカーディナルが旧ALOで採用されていた機能縮小版ではなく、『ソードアート・オンライン』で使われていたフルスペック版の複製だという点です」
「え、えっと…それは俺たちの世界のSAOの?それとも上やん達のSAOとどっちなんだユイ?」
「これはおそらく上やんさん達のいる世界のSAOで使われていたカーディナル・システムだと思われますが、そもそも設計した本人が同一の茅場晶彦であるせいなのか、私たちの知る二つのSAOのシステムにそこまで大きな差はないんです」
「へぇ…でも、そのカーディナルがなんの問題になるの?」
「今回問題にすべきなのは、『クエスト自動生成機能』です。ネットワークを介して世界各地の伝説や伝承を収集し、それらの固有名詞やストーリー・パターンを利用、翻案してクエストを無限にジェネレートする機能がカーディナルには備わっているんです」
「へぇ、ってことは俺たちが散々アインクラッドでパシらされたあのクエは全部コンピュータが自動的に作ってたってことか…」
「なるほどねぇ、妙に多すぎると思ったのよ。75層時点で情報屋のクエスト・データベースに載ってるだけでも一万件は軽く超えてたわよ」
「それに話が時々妙ちくりんだったのよねぇ…30何層だったかしら、変なマスクをつけてノコギリを持ったオーガを倒すクエがあってさ、殺しても殺しても翌週にはまた掲示板に出てんのよ、全くなんの伝説を元にしたんだか…」
「あ、そのクエ俺たちのSAOにもあったよリズ」
「あれは十中八九ジェイソンですよねぇ…私もピナと一緒に頑張ったんですけど気味が悪かったです…」
「まぁつまるところ、今回のクエストもまたカーディナルが自動生成したクエストってことなのかユイ?」
「先ほどのNPCの挙動からして、その可能性が非常に高いですパパ。もしかしたら、運営側から何らかの操作によって、今まで停止していた自動クエスト・ジェネレータが起動したのかもしれません。だとすれば、ストーリーの展開のいかんでは、行き着くところまで行き着く可能性もあり得ます」
「行き着くところって…アルンの崩壊のその先…ってことだよね…」
ウルズの話で語られていたその全貌を想像し、囁くような声で聞いたリーファにユイは静かに頷き、何かを怖れるような顔で語り始めた
「・・・私がアーカイブしているデータによれば、当該クエスト及びALOそのものの原形となっている北欧神話には、いわゆる『最終戦争』も含まれているんです。ヨツンヘイムやニブルヘイムから霜の巨人族が侵攻してくるだけでなく、更にその下層にある『ムスプルヘイム』という灼熱の世界から『炎の巨人族』までもが現れ、世界樹を焼き尽くす…という…」
「・・・『神々の黄昏』」
昔話や神話などが好きで、現実世界の自室にその手の本を貯蔵しているリーファが北欧神話で語り継がれる最終戦争の名をぽつりと呟いた。そしてその直後に強い口調で続けざまに言った
「でも!そんな…!いくらなんでもゲームシステムが自分の管理してるマップを丸ごと崩壊させるようなマネ出来るはずが…!」
「それが出来るんです。オリジナルのカーディナル・システムには、ワールドマップを全て破壊し尽くす権限があるんです。なぜなら、大元のカーディナルが担っていた最後の役目は、『浮遊城アインクラッド』を崩壊させることだったんですから…」
「「・・・・・」」
ユイのその言葉を聞いて、75層を生き延びてその最後の光景を目の当たりにしたキリト、アスナの2人はその時を彷彿とさせたような暗い表情を浮かべていた
「・・・もし仮に、そのラグナロクが起こったとして、運営側の意図せざる結果ならデータの巻き戻しは可能なんじゃないの?」
SAOの話に関しては何が何やらと思い口を閉ざしていたシノンだったが、そう思い至ったままに口を開いた。当然の処置といえば当然の処置といえるシノンの意見だったが、あろうことかユイはその問いにすら首を振った
「運営サイドが、手動でバックアップデータを取り、物理的に分割されたメディアに保管していれば可能です。ですがカーディナルの自動バックアップ機能を利用していた場合は、設定次第では巻き戻せるのはプレイヤーデータだけでフィールドは含まれないかもしれないんです…」
「「「・・・・・」」」
(・・・まぁな〜…旧ALOを作った当のオティヌスでも完全に元には戻せないって言ってたからな…それで新しくこのALOが始まったわけだけど…今度は二つの世界のALOが一つになってんだからそれこそ綺麗に元通りなんて話にはならねぇだろうな…おいおい本当にこのゲーム大丈夫なのかよオティヌス…)
一行は自分たちが事態の重大さを思い知り2秒ほど沈黙し、上条はその間に内心でかつて激闘を繰り広げた魔神の顔を思い浮かべ溜め息を吐いた。すると、お目当ての氷の逆ピラミッドは目前へと迫っており、トンキーはその入り口でホバリングし、一行の出発を促した
「・・・こうなったらやるしかないよお兄ちゃん」
内に秘めた決意を露わにしたリーファの胸元には大きなメダリオンが輝いていた。湖の女王ウルズより託されたそのメダリオンにはめ込まれた石は、すでに六割以上が光を失っており、闇に沈んでいた。この石が全て闇に呑まれた時、ヨツンヘイムの動物型邪神は全て狩り尽くされたことを意味し、ウルズの力が失われ、スリュムヘイムがアルヴヘイムへと侵攻を始めてしまうのだ
「・・・そうだな、元々今日はエクスキャリバーを取りに来たんだ。クエストクリアしなきゃ始まらない!城の護りも手薄になってるんなら願ったりだ!ついでにこの世界も救っちまおうぜみんな!」
「「「おおーーーっ!!!」」」