「ありがとうございます、妖精のみなさま」
「えっと…大丈夫か?このダンジョン大分広いけど出口まで1人で行けるか?」
檻を破壊し、自分を救ってくれたことに金髪の美女は礼を言って上条に笑顔を向けた。そして上条は、膝をついて女性に視線を合わせてそう聞いた
「いえ、お気遣いは大変助かりますが…私はこの城から逃げるわけにはいかないのです。巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝を取り戻さなければならないのです」
「一族の宝?エクスキャリバーのこと?」
二人の会話ごしに話を聞いたリズベットがそう聞くと、美女はそっと目を閉じて静かに首を横に振った
「いえ、あの聖剣は元より私たち一族の物ではありません。しかし、私たち一族の宝もあの聖剣に勝らずとも劣らない至高の宝なのです。あの宝を取り返さずして戻ることは出来ません。どうか、私を皆様と一緒にスリュムの部屋まで連れて行っていただけませんか?」
「だ、そうだけど…みんなそれでいいか?」
「それでいいもなにも、元はアンタが決めた分岐ルートなんだから最後までアンタが責任持って決めなさいよ」
「ま、そりゃそうか」
「でも、なんだか少しキナ臭い展開だよね…」
「だなぁ…」
上条と美琴がそんな会話を交わす横で、アスナとキリトは耳打ちでそんな呟きを漏らしていたが、待ったをかける暇もなくパーティーリーダーである上条の元にNPCのパーティー加入を認めるかどうかを訪ねるウインドウが表示された
[NPCからの加入申請を承認します。よろしいですか?]
「[Yes]っと…」
上条が間髪なくYesボタンを押すと、パーティーのHPゲージの一番下に新たに加入したNPCのHPとMP、そして名前が表示された
「『Freyja』…フレイヤさん?」
パーティーに表示されたNPCの名前を読み上げるなり、リーファはその名前をもう一度復唱して首をかしげた
「どうかしたのリーファ?この人の名前になにか気になるところでも?」
「ああ、シノンさん。いえ気になるってほどじゃ…ただ…どこかで聞いたことがあるような…ないような…」
「それよりもスグ、残り時間は?」
「あっ!えっと…!?や、ヤバイよお兄ちゃん…もう九割近くが黒く染まってる…!」
「いよいよ時間がないな…みんな、ダンジョンの構造からして、この階段を降りたらラスボスの部屋だ。多分相手はそのスリュムに間違いない。今までのボスより更に強いだろうけど、後はもう小細工なしでぶつかってみるしかない」
「よしっ!それじゃみんな!ラストバトル、全開で飛ばしていこうぜ!」
「「「おおーーっ!!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして上条一行が一分半ほど階段を全速力で駆け下りた先にいかにも重厚な鋼の扉がその姿を見せた。その扉はパーティーの先頭の上条が手前5メートルほどに近づくと自動で動き出し、深淵に染まった大口を開くのと共に、大量の冷気を吐き出した
ズゴゴゴゴゴゴゴンッ!!!
「うぅおぉっ!?寒っ!?」
「どうやらここがボス部屋で間違いなさそうだな。アスナ、頼む」
「Þeír fylla skína hugr hogg margr illt」
恋人であるが故の阿吽の呼吸でキリトの意図を掴み取ると、アスナは防御力上昇支援魔法を詠唱し、パーティー全員の防御力を上昇させた
「まぁ、例によって上やんさんにはそんなもの効きませんがね…いやもう別にいんだけどさぁ…」
「Oss náða fjor regin, tynada vályndr jotunn」
すると今度はアスナの支援魔法に続くようにフレイヤがコンピュータ仕込みの滑らかな口調で呪文を詠唱した。光のヴェールがパーティーの皆を包み込むと、それぞれのHPゲージがみるみると増えていった
「これって…HP上昇支援魔法?」
「MAXHPが増える魔法なんて…初めてです!」
「まぁ例によって上やさんには!(ry 略すな!」
「なに一人でコントやってんのよ…」
「ううっ…やっぱり補助魔法が恋しいよう…全部自己負担は辛いよう…」
などと上条がメソメソと泣き言を言いながらも一行は扉の奥へとおそるおそる侵入していった。いっこうに晴れる気配を見せない闇の中を進む一行を最初に出迎えたのは、部屋を覆いつくさんばかりの金銀財宝の数々だった
「・・・総額何ユルドだろ…」
「これを現実に持って帰って換金できたらなぁ…ちなみにアイテムとして持って帰れんのかコレは…」
今回のパーティーの中で唯一商店を営むリズベットがそんなことを呟くと、上条もそれに便乗するように財宝へと手を伸ばした。するとその指先が財宝へと触れる寸前に部屋全体に重苦しい声が響き渡った
『小虫が飛んでおる』
「「「!?!?!?」」」
『ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、一つ捻り潰してくれようか』
「とっ!とんでもございません!上やんさんはただ少しだけ触ってみたいと思っただけでありまして持って帰ろうだなんてこれっぽちも…!」
ズシン!ズシン!ズシン!
「別に謝る必要なんてないのよバカ!私たちはどっちにしろコイツを倒さないとお話になら…ないん……だか………ら…………」
ズシン!ズシン!ズズゥンッ!
上条に怒鳴っていた美琴でさえも思わず上を見上げて言葉を失った。巨木のように太い足は、その一足で部屋全体を揺らし、その全長は見上げても何メートルに届くかなど皆目見当もつかないほどにバカでかい巨人だった
「ほほぉ?この儂、霜の巨人の王スリュムを倒そうなどとは…いささか面白い冗談を言う小娘がおるではないか」