「とっ!?トールゥ!?」
「よっ!久しぶりだな上条ちゃん!」
「いやさらっと俺のリアルネームさらされても困るんだが!?」
「どうせパーティー全員に身バレしてんだからいーだろー?」
フレイヤという化けの皮を剥ぎ取ったトールは、キリトから受け取った金槌を右手で遊ばせながらなんとも軽い口調で言った
「えっ!?ていうか、おまっ!?お前あの時オティヌスに消されたはずじゃ…!」
「まぁまぁ細かいこたぁ気にしなさんな。どうせウチの魔神さんには出来ねーことのが少ねーんだから。逆に余計な詮索を入れる方が野暮ってモンだぜ上条ちゃんよ」
まるで以前まで敵対していたとは思えないほど無邪気な笑顔をトールは上条へと向けた
「と、トール…?雷の神か?上やんは彼と知り合いなのか?」
「知り合い…ってより…いやまぁ宿敵というか…でもそれは過去の話で今は一周回って敵とは言えないというか…」
「ま、頼りになる助っ人とでも思っといてくれ。今はその認識で十分さ。それよりも…」
相変わらずひょうきんな口調を崩さないトールは、長い髪を揺らしながらその視線を目の前の巨人に差し向けた
「あーーー…まぁ物語的に俺はお前を倒さなきゃなんねーんだけどよぉ…なーんか経験値にならなそうっつーか盛り上がりに欠けるっつーか…その自覚アンタにある?スリュムのおっさん」
「黙ぁれい小汚い神め!よくも儂をたばかってくれたな!その手癖の悪さを叩き直してアースガルズに送り返してくれようぞ!」
「あーあーこれだから年寄りは説教臭くて面倒でさぁ…セリフも臭くてたまんねーよ…おっ、よく見たらみこっちゃんもいんじゃん!」
「え?わ、私?」
「何も事情を知らないと思うがとりあえず前に顔を借りたこと謝っとくぜ。それと微力ながらみこっちゃんの恋路も応援してるぜ♪」
「なっ///なっ!?///」
からかっているのか本気で言っているのか分からない態度でトールが言うと、みるみる内に美琴の顔が紅潮していき、頭から湯気が出そうなほど赤面していた
「さて、そんじゃまぁボチボチやらせてもらおうかねー。あ、みんなはソードスキルなりなんなりボコボコ殴っといてもらっていいぜー!回復役のお姉さんもなー!あのおっさんのタゲは全部俺が取るからー!」
「え、えーっと…上やん君、このトールさんは頼りにしていいの?」
「あ、あー…まぁリーファが知ってる北欧神話の雷神さんに比べたら大分軽薄に見えるかもしんないけどとりあえずは大丈夫のはず…」
「あ、それと上条ちゃんは俺の助手よろしく。離れないでくれよー?」
「さっきからお前仕切りすぎじゃない!?」
「よっしゃー!!みんな張り切ってくぞーっ!!」
「「「お、おーーーっ!!!」」」
「あーもう!どうとでもなりやがれチキショーーッ!!!」
トールの号令の直後、全員が四方八方に散開した。回復役のアスナもレイピアを手に取り、スリュムの目の前に残されたのはトールと上条のみとなった
「ところでトール、勝算はあんのか?いくら神様同士とはいえどっからどう見ても体格差的に不利だと上やんさんは思うんでせうが…」
「いやぁ俺もどうなんだろうなーとは思うんだよ。なにしろモノホンの『雷神の槌』なんて扱うのも初めてだし」
そう言いつつもトールは見た目よりも何倍も重い金槌を、まるで野球少年のバットように軽々と担ぎ、肩の上でミョルニルを二、三度バウンドさせた
「それよりも上条ちゃんの方こそ、あの時俺に見せてくれた『竜王の顎』は使わねーのか?アレ使えばそこのおっさんもイチコロだろ?」
「いやだってアレはあまりにもズルすぎるというか…強すぎて使ってるコッチもいたたまれなくなるというか…」
「でもそれでこの戦いに負けてALOがなくなったら元も子もないぜ?」
「お喋りもそこまでにせい小虫どもめが!!」
「うるっせぇな!こっちは大事な喧嘩の話してんだよこのハゲ!!!」
ドッゴオオオオオオオオ!!!!!
「ぎゃあああああああ!?!?」
ついに痺れを切らしたスリュムがトールと上条に殴りかかったが、トールは自分の体をひねり込み、自分の数倍の体躯を誇るスリュムの拳を一蹴し、スリュムを仰向けにぶっ飛ばした。トールの規格外の一撃はスリュムのHPをみるみる減らしていき、先の一撃のみで二本目のHPゲージを半分まで減らした
「・・・今何したのお前?」
「何って別にただ蹴っ飛ばしただけだぜ?」
「・・・ひょっとしなくてもこの前俺と戦った時よりも全然強い?」
「いんやぁ?『力帯』を加味してもステはあん時とさほど変わんねぇぜ?だから言ってんだろ上条ちゃん。上条ちゃんのアレならそもそもステータスなんて問答無用にひっくり返っちまうんだよ」
「ていうか大事な喧嘩の話ってお前まだ俺と殴り合いする気なの?」
「そりゃもちろん。じゃなきゃこうしてここにいる意味もないし。あーまぁとりあえずこの場はこの髭面をぶっ飛ばすために戻ってきたんだもんなぁ…とりあえずは使命を全うしますかねぇ…俺が上条ちゃんとマトモに喧嘩できるのなんざこのALOぐらいしかねぇワケで。そのALOがなくなったら困るしなぁ」
トールはボリボリと不満そうに自分の後ろ頭を掻くと、一歩足を前に踏み出して剥き出しの戦意を露わにした
「・・・にしてもまぁ、いつの間にこんなに小さくなっちまったんだろうなぁ、俺の敵ってやつは」
「ほざけ青二才が!!!!!」
ビュオオオオオオオオオ!!!!!
「先ほどのダイヤモンドダストがもう一度来ます!!!」
「オラアァァァッッ!!!」
ズドオオオオオォォォォォッッ!!!
ユイの忠告の直後、先に幻想殺しをも打ち破ってみせたスリュムのダイヤモンドダストが再び上条達に襲いかかろうとしたが、トールが雄々しい咆哮と共に地面に叩きつけた雷神の槌によって生じた激しい雷光と衝撃波が大地を揺るがしながらダイヤモンドダストをいとも容易く搔き消した
「ぬ、ぬぁにぃ!?」
「ひゅ〜、マリアンも中々いい仕事してるじゃねぇか。ま、上条ちゃんの気持ちも分からんでもねぇな。圧倒的すぎる力ってのはどうにも扱うのは気が引けるねぇ……っつーわけだ、こっから先は俺本来の領分でやらせてもらうぜ!」
ブオオオンッ!!!
心の底から闘争を楽しむような笑顔を見せたトールはミョルニルを乱雑に放り投げ、空になった右手の指先から五本の雷光ブレードを噴出させた
「おう上条ちゃん!ここは助手らしく一丁踏み台になってくれ!」
「もう勝手にしやがれクソッ!!」
「とうっ!!」
ダンッ!!!
トールの指示を飲み込んだ上条は、片膝をついて左手の盾を頭上に持ち上げると、助走をつけたトールがその盾を踏み台にして高く跳躍し、スリュムの眼前へと飛び出した
「ほぉらよぉっ!!!」
ガリガリガリガリッッ!!!
「ぎぃやあああああああ!?!?」
スリュムの眼前へと躍り出たトールは50メートルにも及ぶ五本の溶断ブレードを横薙ぎに振るった。溶断ブレードはスリュムの顔面にガリガリと痛々しい赤いライトエフェクトの傷痕を残し、スリュムの視界を奪った
「ここだっ!みんな一気にたたみかけるぞ!ソードスキルも遠慮なく使ってくれ!」
「「「でやあああああっっ!!」」」
キュイン!ズバンッ!ドゴォッ!ザシュッ!ズガァンッ!ズドオォッ!!
キリトの叫びに応えるように上条以外の全員の武具が激しい光を放ちながらスリュムの身体へと叩き込まれていった。スリュムのHPゲージはみるみる減少していき、最後の一本になったHPゲージの半分ほどを残して停止した
「はい!じゃあみこっちゃん最後デカイの一発よろしく!」
「えっ!?わ、私っ!?」
「ほれっ!」
そう言うとトールは狼狽える美琴に構うことなく部屋に無造作に転がっていた金の宝箱を美琴に向けて放り投げた
「!!!そう、なるほど…食らいなさい!これが私の全力だあああああああああああああっっっ!!!!!」
ドッゴオオオオオォォォッッッ!!!
「ぎぃやああああああああ!?!?」
金の宝箱を弾丸にした超電磁砲が美琴によって放たれた。まるで大砲のような爆音を轟かせながら渾身の超電磁砲はスリュムへと直撃し、ついにそのHPが底をついた
「・・・ぬっふっふ…今は勝ち誇るがよい小虫どもよ…だがな、アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ…彼奴らこそが真の…しん」
ガシャアアアアアン!!!!!
そこまで言いかけたところでスリュムの体はオブジェクト破砕音と共に粉々に砕け散った。それを見届けた上条たちは深く肩で呼吸をし、各々の武器を鞘へと納めた