「ほら!とりあえずお茶でも出すからその辺に適当に座るじゃん!」
「は、はい…失礼します…」
あの後職員室から廊下まで引きずられていった上条はそのまま学校の応接室に連れていかれ、黄泉川に言われるがままにソファに腰掛けた
「ほいお茶。ちっと熱いから気をつけるじゃんよ」
「ありがとうございます」
そう言って黄泉川はソファの前にある机の上にお茶を置くと、そのまま上条の対面に置かれているソファに座った
「さて、モノは相談じゃんよ上条」
「本当に一体なんなんすか?こんなとこに急に押し込んで」
「一つ聞きたいことがあるじゃん」
「聞きたいこと?俺にですか?」
「ああ」
「・・・・・」
芯のある声で黄泉川がそう言うと、その表情が真剣なものにかわり、部屋の中の空気も妙なほどに静まり返った。上条もそれを感じ取ると、自分の表情をその場相応のものに変え、目の前の黄泉川が口を開くのを待った
「仮想世界で止まった心臓が、そのまま現実でも止まると思うか?」
「・・・・・え?」
「コイツを見て欲しいじゃん」
突然の質問に呆気にとられる上条を他所に黄泉川はどこかからか取り出した大きめのタブレット端末を操作し、その画面を上条に見せた
「・・・これは…災誤先生?」
上条は黄泉川に差し出された端末に目をやると、そこにはこの高校の生活指導担当の教師であり、生徒からはもっぱら「ゴリラ教師」の愛称で呼ばれていた災誤先生の顔と個人情報が写っていた
「実はこの災誤先生が、夏休み中に自宅のアパートで死体として発見されたじゃん」
「!!!!!」
「丁度夏休みが終わる一週間前のことじゃん。災誤先生の住んでる学園都市内のアパートを掃除していた大家さんが異臭に気づいた。これはということで電子ロックを解錠して部屋に入ったところ、部屋で死んでいた災誤先生を発見したじゃん。でもその時には死後からもう5日が経ってたじゃん」
「・・・・・」
「部屋は特段荒らされた様子はなく、遺体はベットに横たわっていた。そしてその頭部には…」
「・・・アミュスフィアですか」
「その通り。変死ということで司法解剖が行われ、死因は『急性心不全』だったじゃん」
「『心不全』ってのは、心臓が止まったってことでしょう?何で止まったんですか?」
「・・・それが分からないじゃんよ」
「・・・はい?」
「死亡して時間が経ち過ぎていたし、犯罪性が薄かったこともあってそこまで正確な解剖はしなかったじゃん。ただ、災誤先生は三日間何も食べずにログインしっぱなしだったらしいじゃん」
「意外だな…災誤先生ってそんな重度のゲーマーだったのか…でもその手の話ってそんな珍しくないでしょう?一体何があるんですかこのケースに?」
「その時インストールされていたゲームは『ガンゲイル・オンライン』。通称『GGO』ってゲームなんだけど…知ってるじゃん?」
「まぁそりゃもちろん。VRMMOで唯一『プロ』がいるゲームですから」
「災誤先生はGGOで先月に行われた最強決定イベントに参加していて、アバター名は『ゼクシード』と名乗っていたじゃん」
「じゃあ…死んだ時もGGOに?」
「いや、『MMOストリーム』って番組にゼクシードの再現アバターで出演してたらしいじゃん。そこに関してはログで時間が割れてるじゃん」
「・・・・・」
「そしてその番組出演の途中で、災誤先生のアバターであるゼクシードが原因不明の通信切断によって突然その姿を消したらしいじゃん」
「は、はぁ…別になんか通信機器の不具合とかが起こったんじゃないんですか?一応MMOストリームはアミュスフィアとネットを介しての放送なんすから」
「ところがじゃん。ここから先はまだ未確認情報なんだが、丁度先生が心不全の発作を起こしたであろう時刻にGGOで妙なことがあったってブログに書いているユーザーがいたじゃん」
「み、妙なこと?」
「GGO内のとある酒場で問題の時刻に、ある一人のプレイヤーがおかしな行動をとってたらしいじゃん」
「おかしな行動?具体的にはどんな風に?」
「なんでも、酒場のテレビに映ったゼクシードに向かって『裁きを受けろ』とか言って、銃を一発だけ撃ったらしいじゃん」
「・・・『裁き』ねぇ…」
「それを見ていたプレイヤーの一人が偶然ながら音声ログを録っていて、動画サイトにアップしたじゃん。ファイルにはご丁寧に日本標準時の時刻も記録されていて、テレビへの銃撃と災誤先生のアバターであるゼクシードが番組出演中に急に消滅したのがほぼ同時刻だったじゃんよ」
「・・・偶然ですよ。そんなのあり得っこない。大体銃を撃ったって言ってもそれはテレビに向かって撃っただけで向こう側の本人に届くはずが…」
「もう一件あるじゃんよ」
「なっ!?」
「今度は3日前。第12学区の某アパートでこれまた死体が発見された。新聞の勧誘員が中を覗くと、布団の上でアミュスフィアを被った人間が横たわっていて同じく亡くなってたじゃん」
「・・・・・」
「ま、詳しい事情は置いといて今回も死因は心不全。今回死んだ彼も災誤先生と同じくGGOでは有力プレイヤーだったらしいじゃん。キャラネームは『薄塩たらこ』。今度はテレビじゃなくゲーム内での出来事じゃんよ」
「彼はその時刻、ゲームの街で自分の所属する『スコードロン』…まぁ一般のゲーム用語で言う『ギルド』の集会に出てたところ、突然乱入してきたプレイヤーに銃撃されたじゃん」
「・・・その銃撃したヤツは災誤先生のアバターを銃撃したヤツと同じなんですか?」
「おそらく。やっぱり『裁き』とか『力』みたいな言葉の後に、災誤先生を撃った時と同じキャラネームを名乗ったじゃんよ」
「それで、ソイツの名前は?」
上条がそうたずねると、黄泉川は一呼吸置いて、神妙な面持ちのままでその名を告げた
「『死銃』」
「・・・デス・ガン…?」