「やれやれやっと決着か…まぁ一先ずはお見事だ上条ちゃん。あっこの檻からフレイヤだった俺を出してなきゃ今頃ルート分岐ミスってALOは跡形もなくなってたかもな」
「いやそりゃそうなんだけどよ…今のお前にそう言われても素直に喜べねぇよ…」
「はっはっは!まぁそんな寂しいこと言うなよ。それとこれは俺の退屈しのぎに付き合ってくれたほんの餞別だ。使う時があったら使いな」
[雷槌 ミョルニル]
「・・・いや俺こんなモン寄越されてもハンマー系のスキル1ミリも上げてないんでせうが?」
「おいおい仮にも伝説級武器をこんなモン扱いかよ。まぁそう言うの分かってて渡したんだけどな」
「じゃあ最初っから渡すなよ!?」
「ま、そういうわけだ。俺はもうお呼ばれみたいだからとっとと行くぜ。こっから先も精々頑張れよ。言っとくがまだクエストは終わりじゃねーよ?」
「・・・は?それってどういう…」
「バイビー♪」
シュンッ!!
神の名を冠する者には似つかわしくないほど軽い別れと共に、トールの身体は眩しい光に包み込まれ、一瞬の明滅の後にその場を立ち去った
「・・・なんとも気さくな雷神だったな」
「運営側はもっとこう…威厳のある感じの神様を作ろうとしなかったんですかね?」
「フレイヤの時はあんなにビジュアル良かったのに…」
トールが去ったのを見届けたキリトが開口一番に言うと、それに続いてシリカとリズも呆れながらため息を吐いた。すると…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!!
「「「うわあああっ!?!?」」」
「こ、今度は一体なに!?なんの揺れ!?」
「動いてる…いや、浮いてる!?」
突如として地震のような激しい揺れが起こり、上条達はたまらず悲鳴と共に体勢を崩した。新たな事象の予兆にいち早く気づいた美琴が叫ぶと、その感覚を肌で感じたシノンが答えた
「お、お兄ちゃん!これ、クエストまだ終わってない!」
「な、なにぃ!?」
「トールの言ってたことは本当だったのかよ!?」
「た、確かに考えてみればそうだよ!ウルズさんから言われたクエストの目的はスリュムを倒すことじゃない!エクスキャリバーを台座から引き抜くことだもの!」
首にぶら下げたメダリオンがまだ光を残しているのを確認したリーファが言うと、完全にクエストクリアの気分に浸っていたキリトと上条が驚愕の声を上げたが、アスナが現実に引き戻すようにクエストの目的を叫んだ
「パパ!スリュムの玉座の後ろに新らしく下り階段が形成されています!」
「よし!ありがとうユイ!みんな行くぞ!」
ダダダダダダッ!!!
そしてユイの指示通りに一行は新たに形成された下り階段を一気に駆け下りると、広さはさほどではないが、壁がかなり薄く透けており、ヨツンヘイムを一望できる部屋へたどり着いた。そしてその部屋の中央に、黄金の光を放つ一本の剣が台座に突き立てられていた
「これが…聖剣エクスキャリバー…」
「・・・綺麗…」
その場にいる誰もが思わず息を呑んだ。その神々しさに言葉を失った。黄金の刀身は一切の汚れを許さず、その佇まいはまさに後世に語り継がれし伝説を象徴していた
「・・・さぁ、抜けよキリト」
「ああ、いよいよだ」
ガシッ!グッ!
「ッ!?」
キリトがエクスキャリバーの柄を掴み引き抜こうとしたが、エクスキャリバーは微動だにしなかった。そこでキリトは柄を両手で持ち、自身の筋力パラメータが許す限りの力を込めた
「ぬっ!ぐっ!ああっ!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「いけ!キリト!」
「頑張ってキリト君!」
「根性見せて!」
「あっ!ちょっと動いたよお兄ちゃん!」
「ファイトです!キリトさん!」
「くるるるぅ!」
「ほら!もう一声!」
「後ちょっとです!パパ!」
「ぬぅおおおおおおおお!!!!!」
バキバキバキバキッ!バリィンッ!!
雄叫びを上げながらキリトはついに氷の台座からエクスキャリバーを引き抜いた。するとその瞬間、猛烈な光が皆の視界を金色に塗りつぶした。そしてその直後に、丁度エクスキャリバーが刺さっていた凹みから小さな木の根が生えて来たかと思えば、みるみる内に成長し、部屋の天井へと伸びていった
ウニョウニョウニョ……ズゴゴゴゴゴ!!
「ちょ、ちょおおおっ!?こ、これ流石にマズイんじゃないの!?」
世界樹の根が生えてくるのとほぼ同時に、先ほどまで治っていた地鳴りが再び一行を襲った。しかし今度の地鳴りは前回とは比べ物にならないほど激しく揺れていたため、リーファは動揺を隠しきれなかった
「す、スリュムヘイム全体が崩壊しています!このままでは10秒後にこのスリュムヘイムごと垂直落下します!パパ!脱出を!」
「って言ってももう階段が世界樹の根に覆い被さってて…!」
「ちょっと世界樹ぅ!そりゃあんまりにも薄情ってもんじゃないの!」
「そうよアンタ仮にも私たち妖精を守る世界樹でしょうがーっ!!」
リズと美琴が世界樹に向かって右拳を上げながら懸命に抗議するが、いかに世界樹と言えど所詮は樹木。いくら呼びかけてもうんともすんとも言わず、その太い根を伸ばし続けていた
「ちょっと上やん!これアンタの不幸体質のせいなんじゃないの!?」
「いくらなんでもその疑いは酷すぎやいたしませんかシノンさん!?」
「と、とか言ってる内にもう…!これ以上は保たないよ!」
「み、みんな掴まれーっ!!」
「「「何にーーーっ!?!?」」」
バキバキバキッ!!ガシャアアアァァァァン!!
アスナの状況判断が耳に入ったキリトが皆へと呼びかけたが、一同の満場一致の返答を叫んだ直後に薄い透明な壁にヒビ割れが走り、数秒と保たずに壁が崩壊し落下が始まった
「「「ひぃやああああああ!?」」」
女性陣はもちろんのこと、男性陣2人も可愛い悲鳴をあげながら落下していく足場の氷塊にへばりついてた。一行を乗せた氷塊はその勢いが落ちるどころか、下で大口を広げるグレードボイドに向かって一直線に加速しながら落下していった
「・・・とりあえず落っこちるのを前提で聞くんだが、一体あの下ってなにがあるんでせう?」
「うーん、というかこのゲームのペインアブソーバーはどれくらいの衝撃を私達に味わわせてくれるのかしら?」
「知らないわよそんなの!とりあえずコレは死ぬわよ!?誰がどんだけ防御系バフかけても絶対死ぬわよ!?」
「シリカなんてもう既に息してないわよ!?」
「」
「きゅるぅ!?」
「り、リリ、リーファさん!?メダリオンの方はどうでしょうか!?まだ丘の巨人族の皆様はご存命でおられますか!?」
「えっ!?あっ!まだ一つだけ光が残ってる!間に合ったよお兄ちゃん!」
「そ、そっかそりゃ良かった!俺たちも無駄死にじゃないな!ああいいよいいよ!みんなが無事ならエクスキャリバーなんてどうでもいいさ俺は!大体俺にこんな金ピカ武器は似合わないね!あぁむしろ手放せて清々するまであるね!」
「言ってる場合ーーーっ!?!?」
「「「ぎゃああああああ!!!」」」
珍しくアスナが全力でキリトにツッコミを入れると、もう一度一際大きな悲鳴が上がった。地面はもうかなり近づき、グレードボイド到達までは残り60秒かといったところで、謎の唸り声が聞こえ、リーファがそれに気づいた
<くぉぉぉぉぉ…
「・・・?何か聞こえた?」
「おおっとついに幻聴かなリーファさん!?上やんさんも絶望の足音が聞こえてきたところでございますのことよ!?」
「ちょっと上やん君静かにして!」
<くおおおおおーん…!
「!!!こ、この声は…!」
<くおおおおおぉぉぉぉぉん!!!
「「「トンキー!!!」」」
次第に大きくなる謎の啼き声の方向へ視線を向けると、そこには上条達をスリュムヘイムへと送り届けたトンキーが彼らを迎えに飛んで来ていた
「た、助かった…みんな、トンキーに乗り移ろう」
「あはははは…運が味方したって言ったら逆にトンキーに失礼だなこれは」
トンキーが上条達の元へ到着すると、皆次々にトンキーの背中へと飛び移っていき、最後に上条とキリト、そしてユイが氷塊に残った
「さぁ!私達も行きましょうパパ!」
「・・・ああ、そうだな」
「・・・パパ?」
笑顔で声をかけたユイとは対照的に、キリトはエクスキャリバーを握りしめたまま眉間に皺を寄せ、しかめ面で黄金の聖剣を見つめていた。よく見てみると、聖剣を握るその手は小刻みに震えていて、聖剣とキリトの重量がのしかかった氷塊には既にヒビが入っており、そのままの状態でトンキーに飛び移るのが不可能であることは火を見るより明らかであった
「はははっ…今の俺には重すぎるか…まったくカーディナルってのは…!」
ブオッ…!!
ついに苦渋の決断を下したキリトはエクスキャリバーを投げ捨てようと大きく後ろに振りかぶった。そしてそのまま遠心力を利用してエクスキャリバーを放り投げようとしたその瞬間……
バシッ!!
「・・・え?」
「おいおい、何もそんくらいで投げ捨てるこたぁねーだろキリト」
後ろまで振りかぶった先でキリトの手が止まった。なぜかと思い後ろを振り返ると、そこには投げ捨てようとした聖剣の柄を右手で掴んだ上条がいた
「い、いやそうは言っても今の俺じゃこれ持ったまま向こうには飛び移れないんだ。仕方ないけどこうするしか方法は…」
「それは『今の』キリトなら、だろ。別にウルズはいつ、誰が持って来いなんて言わなかったじゃねえか」
「!!!!!」
「だからまぁ、今は俺が持って帰っておいてやるよ。キリトがコイツに相応しい力を身につけた時に、改めて俺のストレージからコイツを引っこ抜けばいいさ」
「・・・へっ、カッコつけやがって」
「最初に俺に頼ろうとせず投げ捨てようとしたキリトだって十分カッコつけてただろ」
「私に言わせればパパも上やんさんもお互い様です!」
ユイがそう言うと上条とキリトは互いに笑い合い、キリトがエクスキャリバーの柄から手を離し、パーティの中でも頭一つ抜けた筋力を持つ上条がエクスキャリバーを肩に担いだ。そして2人とユイは無事にトンキーへと乗り移り、ヨツンヘイムがグレードボイドの底へと沈んでいく様子を見届けた