第1話 絶剣
「御坂さんはもう聞きました!?今巷で最もホットな『絶剣』の噂!」
学園都市の街にも少し早めの冬休みが訪れ、すっかりクリスマスムードに包まれた12月のある日、放課後に集まったファミレスでそう話を切り出したのは何かと噂話や都市伝説には目がない佐天涙子であった。ソフトドリンクの注がれたグラスに負けないほど目を輝かせながら身を乗り出した彼女は、目の前の御坂美琴に新たな噂話を持ちかけた
「ゼッケン?体育で上に着るやつ?」
「ズコーーーッ!?」
「違いますよ御坂さん。カタカナじゃなくて漢字ですよ。絶対の『絶』に真剣の『剣』と書いて『絶剣』です。ALOプレイヤーの間で今すっごい噂になってるんですよ?」
美琴の天然ボケに思わずズッコケた佐天の代わりに、隣でいつもと変わらずスイーツを笑顔で頬張る初春が付け足して説明した
「絶剣かぁ…新実装のレア装備か何か?」
「いえ、人の名前なんです。絶対無敵の剣…空前絶後の剣…まぁそんな意味合いだと思います」
「はーっ、そんな胡散臭い名前を自分で付けるとは…所詮はその腕前も人としての程度もたかが知れますわね」
ことVRゲームの話になると、いつも興味なさげな態度を取る黒子がグラスに注がれた紅茶をティースプーンでかき回しながら皮肉を込めて言った
「のんのん!自分が付けたんじゃなくていわゆる『通り名』なんですよ白井さん!その人があんまりにも強すぎて誰が呼んだかついたあだ名が『絶剣』ということらしいです!」
「ぐっ、そう言われると先の発言の弁解の余地はありませんわね…」
「それもプレイヤーキラーじゃなくてデュエル専門!一対一の真剣勝負師!突如としてMMOトゥモローの掲示板に『対戦者求む!』の書き込みを入れたかと思えば初日に30を超えるプレイヤーを全て返り討ち!しかもその日HPを3割以上削った人は一人もいなかったって話です!」
「・・・ふ〜ん…」
そう熱弁する佐天とは対照的に、美琴も黒子と同様に興味がまるでないような態度であった
「・・・?珍しいですわねお姉様。VRゲームである上にこの手の話はいつもであれば飛びつくような大好物ではありませんの?」
「う〜ん、なんていうか…最近思うのよね。張り合いがない…っていうか…こう…血湧き肉踊る戦いがないっていうか…」
「一体どこのラスボスですの…」
「まぁつまるところ、超強力なMobくらいしか私と対等に渡り合える相手がいないってことよ。多分きっとその絶剣さんも、私の全力を見れば別ゲームの相手だと思うわよ、きっと」
「まぁ御坂さんの場合は『超電磁砲』のスキルがありますからね〜。そんじょそこいらの人じゃ戦いどころかチャンバラにすらならないでしょうし」
「まぁプレイヤーに限った話になれば『アイツ』の場合は話が別だと思うけどね。でもアイツとは今更『いざ!尋常に勝負!』って感じにはならないし、例え勝負したところでさっき私が言ったような、思わず自分も昂ぶる勝負にはならないと思うわ」
美琴は自分の脳裏にある一人の少年の面影を浮かべながらそう言った。その表情はどこか憂いに満ちていて、ふと吐いたため息には哀愁が漂っていた。強さ故の孤独。『超能力者』になってからそれを嫌というほど味わった。それは彼女にとって現実も仮想も変わらなかった
「・・・なら、別に使わなければいいではありませんの」
「・・・は?」
さも簡単なことであるかのように美琴の隣に座る黒子は言った。あまりにも返す言葉が単調すぎたため、美琴は思わず素っ頓狂な声をあげた
「実際がどうかは知りませんが、お姉様はかのSAOでは75層にたどり着くまではほとんどユニークスキル抜きのレイピアで戦っていたのですわよね?であれば無理に能力を使う必要もないのではありませんの?」
「い、いやまぁそりゃそうだけど…」
「わたくしから言わせてみれば、お姉様は少し仮想世界に現実を照らし合わせすぎではありませんの?確かに現実と同じ能力を有していて、SAO生還者であるなどの諸事情もあるとはいえ、今のお姉様の遊び方はいささか『VRゲーム』と言えるんですの?」
「・・・・・」
「大方、SAOで煮えきらない日々を過ごした影響や経験もあって全力でかからなければ仲間や相手に失礼。とでもお考えになっているのでしょうけれど、そもそも全力なんて尺度は様々ですのよ?」
「・・・あぁ、なるほど…つまり白井さんが言いたいのは、『本来の御坂さんの全力』ではなくて『剣士としての御坂さんの全力』で戦ってみたらどうか?ってことですよね?」
黒子の言ってることに納得した佐天は、言葉足らずだった黒子の言葉を補填して黒子に答え合わせを求めた
「まぁ概ねそのような感じですわ」
「私の…剣士としての…本気…」
「まぁそれは確かに言えているかもしれませんね。現実世界とは違う、仮想世界の御坂さんもいるんですから、それを追求するのも一つの楽しみだと思いますよ」
「まぁ、わたくしも今の初春のソレと同じような意見ですの」
「へぇ〜、白井さんも中々良いこと言うなー。この中じゃ一番ログイン率低いくせにー」
「そもそもあんなゲームなど淑女の嗜みではありませんの。目を瞑っていればやれ狩りだの、やれ銃撃だ決闘だなどと。仮想世界に紅茶や料理スキルなどがなければ今頃もうとっくに足を洗っているところですの」
「えー、それを言うんだったらこの前のクエで一番張り切ってモンスター狩ってたの白井さんじゃありません?」
「あ、あの時はそもそも初春が……」
ワイワイワイワイワイ………
(仮想と現実を照らし合わせすぎ…か…言われてみればそれもそうね。アイツが言うには『仮想世界ももう一つの現実』。私は多分、それを追い求め過ぎてたのかしら…)
(思えば私、SAOじゃ周りから浮くのが怖くて能力使ってなかったのよね。今じゃもうバンバン使ってるからすっかり忘れてたっていうか…今あんまり周りから浮いてる感じもしないし、私の考えすぎなのかしら?どちらかと言うと今は私が自分から気を遣い過ぎてるような感じも否めないし…)
他の三人が談笑に盛り上がる中、頬杖をついて窓から学園都市を行き交う人々の喧騒を眺めながら美琴はそんなことを考えていた
(・・・絶剣…ね…ひょっとしてその人もSAOに…って、そんなの私には関係ないか。そんな噂になるほど強い人がいたら絶対どこかで関わってたハズだもんね)