とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第3話 美琴VS絶剣

 

キン!カンッ!キィンッ!

 

「ま、参った!降参!リザイン!」

 

ザワザワザワザワザワザワ……

 

「相変わらずすげーな」「おいおいもうこれで67人抜きだぜ…」「誰か止められるヤツはいねーのかよ…」

 

 

翌日、昨日の夜に談笑していたメンバーをそのままに美琴達は噂の絶剣がいるという小島を訪れていた。しかし既に先客が勝負を挑んでおり、そのデュエルを観戦していた観客もざわつき始めた

 

「・・・ねぇ、ちょっとリズ」

 

「ん?なによミコト」

 

「絶剣って女の子だったわけ!?」

 

 

そして例外なく美琴もその強さ…もとい、容姿に驚愕していた。見惚れるほど白い肌に、長く伸びた紫のストレートの髪、おまけに下半身の装備はロングスカート。どこからどう見ても可愛い女の子である。美琴としては昨日の話を伺った限りでは、当の絶剣が女の子だとは思いもしなかった

 

 

「あ、あれ〜?言ってなかったっけ…?」

 

「ええ!一言もね!…ひょっとしてキリトさんが負けた理由って…」

 

「ち、違うよ。女の子だからって手加減したわけじゃないよ。本当に真剣だったよ。少なくとも途中からは」

 

 

美琴の想像を先読みし、昨日キリトの試合を間近で観戦していたアスナがそう答えた

 

 

「へぇ、世の中広いもんねぇ…」

 

「えーっと、次に勝負する人いませんかー?」

 

 

自分の体力を回復させると、紫の少女はクルリと周りを見回しながら無邪気な声で次の対戦相手を探し始めた

 

 

「ほら、次お前行けよ」「やだよ、どうせ即死だよ」「お前今日挑むんだって言ってたろ?」「負けんの分かっててわざわざ挑むかよ」

 

 

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ………

 

「ほーら、行きなさいよミコト」

 

「いや、まさか女の子だと思わなかったからちょっと心の準備が…」

 

「なーに寝ぼけたこと言ってんのよ!同性なんだからなにも気にすることなくどーんと行って来なさいって!」

 

「うわっ!?ちょっ、リズ!?」

 

 

どん!と背中を押され、美琴は数歩つんのめりながら前へと出た。転びかけたところを立て直し顔を上げたところで、たまたま絶剣と目が合ってしまった

 

 

「あ、そこのウンディーネのお姉さん、やる?」

 

「えーっと…じゃあやりましょうか…」

 

「オッケー!そうこなくっちゃ!」

 

「ところでルールは?」

 

「全損決着モード!お姉さんは魔法もアイテムもなんでもバンバン使っていいよ!ボクは『コレ』だけだけどね」

 

 

ボクという一人称がよく似合う少女はそう言いながら自分の得物としている紫の片手直剣の柄を左手で小突いた後、美琴へとデュエル申請を送った

 

 

[Yuuki からデュエルが申請されました。承認しますか?]

 

(ユウキ?本当一人称から名前まで男の子みたいね…まぁ『男の子』っていうより『男の娘』って感じだけど…あれ?その場合逆だったかしら?まぁどうでもいっか、そういうのよく分かんないし)

 

 

そう心の中で呟きながら美琴はポップアップウィンドウの[YES]をタップし、そのまま『全損決着モード』へと指を動かした

 

 

[10…9…8…]

 

「うん!スタートだね!お姉さん空中戦と地上戦どっちがいい?」

 

「あら?選ばせてくれるの?」

 

「うん!ボク両方得意だし!」

 

「・・・じゃあ地上戦で」

 

「オッケー。ジャンプはあり、でも飛ぶのはなし、そんな感じでよろしく。もう一回言うけどお姉さんは本当に何してきてもいいからね」

 

 

そこまで余裕綽々で言われると、流石の美琴も戦闘意識にカチリとスイッチが入った

 

 

「・・・へぇ…『なんでも』ね…」

 

 

美琴は無意識のうちに口角を少し上げほくそ笑んでいた。「なんでも」が自分にとってなにを意味するのかは、彼女自身が最もよく分かっていたからだった。しかし、そう考えた直後に昨日ファミレスで自分を心から慕う後輩に言われた言葉を思い出した

 

 

(『今のお姉様の遊び方はいささか『VRゲーム』と言えるんですの?』)

 

「ッ!!」

 

(・・・そうだったわね黒子。ここにいるのは仮想世界の私….私が思い描くように戦えればそれでいいわよね…たとえそれで思いっきり負かされようと、自分の心が踊る戦いが出来たなら…!)

 

(少しは自分が好きになれるわ!)

 

シャキインッ!!

 

 

美琴はこれまでの自分に言い聞かせるように心の内側で己を鼓舞すると、腰に据えた鞘から光り輝くレイピアを引き抜き、その切っ先を絶剣の二つ名を冠する少女へと差し向けた

 

 

[3…2…1…DUEL Start!]

 

「ッ!!」

 

ダンッ!!

 

 

デュエル開始の合図の直後、美琴はダンッ!という音と共に思いっきり地面を蹴り飛ばした。7メートルほどあった距離を一瞬で埋めて絶剣へと肉薄すると、彼女のアーマー目がけて突きを繰り出した。ソードスキルを発動していないので早さはさほどでもないが、それでも常人に見切れるレベルの動きではなかった

 

 

カアンッ!!

 

(・・・ま、そりゃこんくらいは弾いてくるわよね)

 

 

しかしその初撃を絶剣は、美琴の予想通りあっさりと自分の片手剣で弾き返した。そして美琴は弾かれたレイピアを自分の胸元で搾り直し、同じく胴のアーマーに向けて、今度は二連続で突きを繰り出した

 

 

キンッ!キィンッ!

 

(上等ッ!だったらその守りが崩れるまで押し通す!!!)

 

キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!ヒュンッ!

 

 

美琴はそのまま負けじと連続で斬撃を見舞った。そして最後の一閃、絶剣はその一閃を弾くのではなく体を少し右に逸らして回避した。その動きのせいもあってか、絶剣の右手に握られた剣は腰あたりまで下がっていた

 

 

(もらった!!)

 

フォンッ!!!!!

 

(・・・は?)

 

ズバンッ!!!

 

「なっ!?チィッ!!」

 

 

完全に予想外の攻撃だった。絶剣が無防備になったところを切りかかったかと思えば、逆に攻撃にばかり気がいって冷静さを欠いていた自分に絶剣が切り返してきたのだ。絶剣の斬撃は美琴の脇腹を切り裂き、HPを少し削った。美琴は絶剣のさらなる追撃を避けるため、地面を後ろに蹴って絶剣から距離を取った

 

 

(なるほど…右手が下がったのは私の攻撃に気圧された訳じゃなくて、単純に攻撃の予備動作だったってことね。私の攻撃の緩急を予測して、しかもそれを的中させたと…参ったわね。思わず舌打ちしちゃったわ。常盤台の先生にバレたら生徒指導室直行ね)

 

「ふふっ!」

 

「・・・ふっ…」

 

(でも逆に言えばそれは、私が無意識のうちにそこまで熱くなってたってことよね。こんな感覚いつぶりかしら)

 

 

相変わらず持ち前の笑顔を崩さない絶剣を見て、美琴もまた苦し紛れに笑みを返したが、その心の内側は歓喜に打ち震えていた

 

 

「ひぇぇ〜…相変わらずとんでもなく早いわね…」

 

「でも、ミコトさんも負けてない。あの状況からそれ以上の追撃を許さなかった。並大抵の反応速度で出来ることじゃないよ」

 

「悪いみんな、遅くなった」

 

「おっ、美琴のヤツやってんな〜」

 

 

二人の試合を観ながらリズベットとアスナが話している横に、少し遅れてキリトと上条が観戦に到着した

 

 

「今どっちが勝ってるんだ?美琴の方………が勝ってたとしたらあんなひでえ顔してねぇか」

 

「はい、まだ一合しかしてないですけど、上やんさんの言う通り絶剣さんの方が一歩リードです。でも、その一合を見る限りはお二人に圧倒的な差はありませんでした」

 

「お、そうか。じゃあ見どころはこれからだな。ありがとなシリカ。間に合ってよかった」

 

「あっ!見てお兄ちゃん!上やん君!ミコトさんがまた動くわ!」

 

「ふぅーーーーー………ッ!!」

 

「!!!!!」

 

ダンッ!!ダンッ!!!

 

 

美琴は一度力を抜いて深く肩で呼吸をすると、もう一度地面を強く踏み抜いて絶剣へと迫った。しかし、今度はそれに合わせて絶剣の方も美琴に向かって飛び出してきた。二人の間合いは1秒としない内になくなり、絶剣は右斜め上から黒曜石の剣を振り下ろしたが、美琴はその一閃にレイピアを真正面からぶつけて押し返した

 

 

カッッッ!!!キィンッ!!!!!

 

「わっ!?」

 

「うぉっ!うるせっ!?」

 

 

両者の剣がぶつかり合った衝撃で凄まじい金属音が辺りに響き渡り、上条含めリズベット達は思わずその音に耳を塞いだ

 

 

「ーーーッ!」

 

キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!カァンッ!キンッ!キンッ!キィンッ!カキィンッ!

 

 

絶剣は己の剣が押し戻されたのに驚くのも束の間、即座に体勢を立て直し美琴に切り返した。しかし美琴も負けじとその剣を弾き、絶剣の身体全体の動きを見て次の一手を先読みし弾く、避ける、弾くを切り返していく内に気づけば両者の剣戟は目で追うのも困難な領域にまで達していた

 

 

「は、早っ!?昨日あたし達とデュエルした時とは比較にならないぐらい早いわよ!?」

 

「それだけ絶剣も本気を出さなきゃいけない相手だと認識したんだろ。でも肝心のミコトは防戦一方だ、このままじゃそのうち…」

 

「いや、あの調子ならアイツは多分大丈夫だ」

 

「「「???」」」

 

 

キリト達が固唾を飲んで見守る中、なぜか上条だけはその表情に笑みを浮かべながら目まぐるしく剣をぶつけ合う二人を眺めていた

 

 

キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!カァンッ!キンッ!キンッ!キィンッ!カキィンッ!

 

(・・・なるほどね、大体この子の要領は掴めてきたわ)

 

 

その刀身がぶつかり合う度に火花を散らし、熱を帯びていく自身の細剣とは対照的に美琴の精神は冷静さを取り戻していた。絶剣の動きを読みながら、段々とその動きに見切りをつけ始めていた

 

 

(この子の剣筋は良くも悪くもバカ正直すぎるのね。フェイントも搦め手も何もあったもんじゃない。でも、それならやり方はいくらでもある!)

 

 

バカ正直、と言えばそれは普段の美琴の言動にも当てはまるところはあるだろう。しかし、彼女の戦闘スタイルにそれは必ずしも当てはまらない。学園都市序列第3位『超電磁砲』の名を冠する彼女の長所はその応用の幅にある。砂鉄の剣、雷撃の槍など様々な攻撃方法を持つゆえに、彼女の戦闘における柔軟な思考こそが彼女の一つの長所なのだ

 

 

キィンッ!キィンッ!キィンッ!キィンッ!カァンッ!

 

(ここっ!!)

 

「ふっ!!」

 

ドゴォッ!!

 

「ッ!?うぐっ!?」

 

絶剣の動きに対応し始めた美琴は、自分の本能がここだと叫んだ瞬間、思い切って絶剣の懐へと一歩踏み込んだ。そして細剣を握る右手…ではなく、何も持っていない空虚な左手を握りしめると『拳術』スキルによるショートパンチを絶剣の腹部に見舞った。たまらず絶剣は後方にノックバックし、微量ではあるがスタン効果が発生した

 

 

「ミコトが初めて絶剣の連撃をブレイクした!?」

 

(そうさ、こういう多彩で一定の型に囚われないところが美琴の長所だ。学園都市でお前を見てた時もSAOで隣で戦ってた時から変わってない。お前の真骨頂はスキルだけじゃねぇってところを見せてやれ!!)

 

(いけるっ!!)

 

 

そう考えた瞬間、既に美琴のレイピアは眩く輝いていた。『カドラプル・ペイン』。SAO時代にも使い込んでいた四連撃のソードスキル。もうこの距離ならば防ぎようがないと美琴は確信していた。システムアシストに導かれるままに剣を伸ばした先で……

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!!!!」

 

 

その全てを防ぎきった絶剣に驚愕した

 

 

 

 

 

 

 

 

カンッ!キィンッ!キンッ!カァンッ!

 

(なっ!?ま、まさか防いだって言うの!?この至近距離でカドラプル・ペインの四連撃全部を!?)

 

 

派手なライトエフェクトが迸り、豪快なサウンドが美琴の耳に突き刺さったが、その効果に見合うことなく、絶剣のHPは微動だにしていなかった。絶剣はまるで分かっていたかのように、美琴が放った渾身のソードスキルを防ぎきった

 

 

(ーーーッ!やばい!硬直が!!)

 

 

そして、ソードスキル使用による一定時間の硬直が美琴の体を制止させた。これだけはいかな強さを持つプレイヤーといえども逆らうことはできない。そして、その隙を絶剣が見逃すはずもなく……

 

 

「やぁーーーーーっ!!!」

 

 

絶剣がこのデュエルで始めて気合いを入れて吼えた。そしてその声に応えるように握られた剣が青紫の鮮やかなライトエフェクトを放った

 

 

ザンッ!ズバンッ!ドスッ!スピンッ!シャキィンッ!!

 

 

息つく間もないほどの超高速の五連撃。その全てが美琴の身体に襲いかかった。身体に切り傷を刻まれたからこそ分かった。それは今まで自分が見たことのない剣技であり、これは絶剣が編み出したOSSであると。美琴がそう実感してなお、絶剣の片手剣は青紫のライトエフェクトを失わぬまま次のアクションへと移行した

 

 

(こ、これが絶剣の11連撃!?このまま全撃貰えば私のHPは絶対に残らない!かと言ってそれを防ぎきれる確証はない!!!)

 

 

絶剣のソードスキルが次の五連撃に移行する時には美琴のスキル硬直は既に解けていた。そして、次の一手が美琴の勝敗を分けることも理解できていた。1秒もない迷いの末、御坂美琴が選択したのは………

 

 

(だったら今ここで!勝負を決める!!)

 

 

美琴はノックバックした身体を無理やり起こし、僅かに出来た間合いを詰めるために力強く一歩を踏み込んだ。そしてその刹那、彼女のレイピアが稲妻のような蒼い輝きを放った

 

 


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